緋弾のアリア 残念な武偵   作:ぽむむ@9

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第24話です。





………いえ、まぁ。
更新しないどころか音沙汰すらない、もはやエタっていたといっても過言ではないでしょう。
とにかく、申し訳ありませんでした!

…毎回謝っておりますが、毎回きちんと反省しております。
……が、いかんせん実生活が厳しいのもあります。
こんなどうしようもない小説ですが、見放さないでもらえると嬉しいです!

(ところで、この小説を覚えてくださっている方はどのくらいいるのでしょうか…?)


第24話 こいとはなびとともだちと

アリアさんの治療が終わった後。

私たちは部屋に戻ろうと、帰路についていました。

 

「…や、やっぱり少し気まずいものがあるわね…。」

「いえ、これは流石に自業自得と言いますか…。」

 

アリアさんは保健室でキンジ君を追い払ってしまったことに後ろめたさを感じているのか、歩く足取りは少し重ためです。

すっかり遅くなってしまったと思いましたが…景色はまだ夕暮れ。

こんな些細なことにも、夏の近づきを感じます。

 

「…にしても、『かな』って名前のやつに2回も負けるなんてね…。あたし『かな』運がないのかしら?」

「叶さんもカナさんも規格外みたいに強いですし、仕方ないですよ。それに…アリアさん自身が弱くなったわけじゃないでしょう?」

「そうだけど…。」

 

アリアさんは少し口ごもった後、恥ずかしそうに言いました。

 

「…やっぱり、負けは負け。悔しいことには変わりないし、あたしの実力不足も変わりないわ。」

「アリアさん…。」

 

…やっぱり。

この人は…アリアさんは、強い方です。

負けを認めて、自分の弱さを認める。

こんなことが出来る人が、弱いはずありません。

 

「…あたし、強くなりたい。誰にも負けないくらい強くなって、ママを…。」

「…はい。」

 

アリアさんの、夕日で伸びた長い影が。

寂しそうに、ゆらゆら揺れていました…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、部屋の前に着き、いざカギを開け…ようとして。

 

「ま、待って。心の準備が…。」

 

アリアさんに止められてしまいました。

…こういうところばっかりは、本当に乙女な方です。

 

「…大丈夫です。謝れば、キンジ君もわかってくれますよ。」

「そ、そうね…そうね。」

 

アリアさんはすぅー、はぁー…と深呼吸をすると。

 

「…よし、行くわよ…!」

 

まるで敵アジトに強襲(アタック)をかけるかのような顔つきで、カギを開けました…。

 

ガチャ…。

 

「ただいま…。」

 

アリアさんは恥ずかしそうに、少し拗ねたように…中に入っていきます。

私のそれに続いて中に入っていき…。

 

玄関に、見慣れない靴を見つけました。

その靴は…私やキンジ君、アリアさんのものではない。

 

「キンジ、あのね…さっきは、その…ごめん。あたし、なんか気が立っちゃってて…。」

 

だだだだっ、と急いで玄関に駆けてくるキンジ君の足音。

見慣れない靴は…理子ちゃんのものでも、白雪さんのものでもありません。

 

「来るな、アリア!」

 

顔面を蒼白にしたキンジ君が、玄関まで来ました。

彼は体を盾にするようにして…私達を玄関先に押し出そうとします。

 

「な、なによ?なんなのよ?」

「今夜は別のところに泊まれ!武偵校からも出ろ!」

 

キンジ君が部屋から押し出してきた、その一瞬…。

室内が、見えました。

そこには、ソファに座り穏やかに微笑む…。

 

カナさんが、いました。

 

そして、どうやらその姿は…。

 

「……!!?」

 

私の隣にいるアリアさんにも、見えてしまったみたいです。

…とうとうキンジ君に押し出されて、私たちは部屋の外へ。

キンジ君が後ろ手にパタン、とドアを閉めました。

 

「……キンジ。カナが、いたわ…。」

 

アリアさんは俯きながら、ボソリ、と呟きました。

俯くその姿は、悲壮感とも憤怒とも取れないような異様な雰囲気を醸し出しています。

 

「アリア、これは…。」

「ううん、いいの…。あたしにはわからないけど…いいの。」

 

アリアさんはとても落ち着いた眼で、顔を上げました。

…てっきりアリアさんは怒るなりなんなりすると思っていた私もキンジ君も、唖然として言葉を失います。

 

「…あたし、キンジの言うとおり、今日は別のところに行く。詳しいことは…聞かないから。」

 

アリアさんはそれだけ言うと、身を翻してその場を去っていきます。

私もキンジ君も、ただその光景をポカンと見つめていました…。

 

「……あ、き、キンジ君。」

 

アリアさんの後ろ姿が見えなくなってからたっぷり30秒後。

私はハッと正気に戻り、未だボーっとしているキンジ君に呼びかけました。

キンジ君もハッ、と気が付きこちらをゆっくりと見下ろします。

 

「…詩穂も、今日は一旦別の場所に…。」

「いいえ。私は…カナさんと、約束していますので。」

 

…空き地島での、カナさんの言葉。

『次に会うときは、ゆっくりお話ししましょう。』

 

…この言葉、忘れたとは言わせません。

私は制止するキンジ君を押しのけ、部屋に一歩、踏み出しました。

 

…アリアさんが、心配ですが。

今は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩穂→アリア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ…。

 

意を決してドアを開け、玄関からちょっとだけ顔をのぞかせて部屋の中を見る。

詩穂も後ろから、心配そうに部屋を覗き込んだ。

 

「キンジ、あのね…さっきは、その…ごめん。あたし、なんか気が立っちゃってて…。」

 

とりあえず部屋の中のキンジに謝る。

少し恥ずかしいけど…悪いのは、あたしだから。

…でも、きっとキンジなら許してくれるよね…?

 

…しかし、あたしの予想とは裏腹に…。

いや、予想外に。

キンジは随分焦った顔で玄関までドタドタと走ってきた。

 

「来るな、アリア!」

 

キンジは焦った表情のまま、部屋の外に押し出そうとグイグイあたしと詩穂を押してくる。

当然、あたしも詩穂も突然のことに混乱してしまう。

 

「な、なによ?なんなのよ?」

「今夜は別のところに泊まれ!武偵校からも出ろ!」

 

キンジが必死にあたしたちを追い返そうとする中…。

あたしには、見えてしまった。

 

ソファに揺れる…長い、三つ編み。

 

「……!!?」

 

その人物か何者か分かった瞬間、キンジが部屋のドアを閉めた。

…数秒の、沈黙。

 

キンジに…問い詰めないと…!

あたしは強い怒りに一瞬駆られて…。

 

「……キンジ。カナが、いたわ…。」

「アリア、これは…。」

 

そして、その怒りを抑えた。

無理矢理堪えた、と言い換えてもいいかもしれない。

 

「ううん、いいの…。あたしにはわからないけど…いいの。」

 

あたしは声を震わせながらも…詩穂の言葉を思い出していた。

 

『仲間を…キンジ君を、大切にしなきゃいけないです。』

 

…その通りだ。

あたしは、感情に任せてキンジにばっかり迷惑をかけている。

…だから。

今日は、これからは。

 

「…あたし、キンジの言うとおり、今日は別のところに行く。詳しいことは…聞かないから。」

 

キンジのこと、信じるよ。

 

「…………っっ!」

 

あたしは涙が出そうになるのを見せないように、2人に背を向けて早足でその場を去った。

後ろで詩穂とキンジがどんな顔をしているのか、それすら気にならなかった。

 

…そして、早足はどんどん速くなっていき…。

最後には、全力で走っていた。

 

「…う、うぅう…!!」

 

走りながら、泣きながら。

あたしは頭の中のグチャグチャな思考を、振り払っていた。

 

本当は、カナはキンジの仲間なんじゃないか?

キンジがあたしの事を疎ましく思って、パーティから抜けるためにカナをけしかけたんじゃないか?

キンジは…あたしの事が嫌いなんじゃないか?

 

でも、そうだとしたらあたしのせいだ…!

あたしが今まで、キンジにひどいことばっかりしたから…!

 

…詩穂、あたし信じるよ。

キンジも詩穂も信じるよ。

だから…あたしの事も信じて。

 

…怖い。

怖いよ、ママ…!

怖いよ、キンジ…!

怖いよ、詩穂……!

 

あたしだって、こんなつもりじゃなかったのに…!

全部悪いのはカナのせいだ!

キンジのせいだ!

…変なことを言った、詩穂の…っ!

 

違う、違うの!

悪いのはあたしなのに…!

こんなに苦しいのは、あたしの…!

 

「うぁぁぁあああああああ!!!!」

 

あたしは、デタラメな思考と共に。

泣きながら、走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア→詩穂

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…カナ、さん。」

「久しぶりね、詩穂ちゃん。」

「…さっきぶり、です…。」

 

リビングに入ると、私は早速カナさんの座るソファの前に立ちました。

ふわり、と笑うその笑顔はやはり綺麗で…しかし、どこか。

眠そうにも見えました。

 

「…そうね。本当にキンジは…そして、アリアは。いい友達を持ったのね…。」

「カナさん…。話を、聞かせてください。」

 

私とカナさんの会話に口を挟めないのか挟む気がないのか、キンジ君は黙って私たちを見つめています。

カナさんはニコッと笑うと、歌うように言葉を紡ぎます。

 

「アリア…ホームズの子は気難しい子が多いと聞いていたけれど…これなら大丈夫そう。まだ、『第2の可能性』がある限り、私は…。」

 

カナさんはゆっくりと、諭すように…。

安心できる言葉をくれます。

 

「アリアを、殺さない。」

「……!!」

 

私は驚き、安堵し…疑心を抱きます。

 

「…それは、本当なんですか?」

「もちろん。それに…キンジはもうわかっていると思うけど。」

 

カナさんはキンジ君に視線を向けます。

キンジ君は…やはり、黙ってその視線を受けました。

 

「私はこれから『寝る』わ。」

「…起きたら、アリアを殺すのか。」

 

黙っていたキンジ君が唐突に口を開きました。

その瞳からは…感情が、見えません。

 

「殺さないわ。」

「…本当に、信じていいのか?」

「こんな大事なことで、私が嘘をつくと思う?」

 

クスクス、とカナさんは笑うと…そのままソファから立ち上がって、玄関に向かいます。

 

「…待って!待って、ください…!」

 

私が呼び止めても、カナさんは音もなく…靴を履き、もうすでに玄関に立っています。

――行って、しまう…!

 

「まだ、あなたと話したいことが…!」

「詩穂ちゃん。」

 

カナさんはゆっくりと振り向くと、私とキンジ君を見守るように言います。

その表情は、慈愛に溢れていて…。

けれども、諦観しているようにも、疲弊しているようにも見えて。

 

「アリアは…危険な子。今も、いつかも。だから導いてあげる人が…仲間が、必要なの。それがあなたたちであることを…願って、いるわ。」

 

―――バタン。

玄関のドアが閉まり。

私とキンジ君が、静かに取り残されます。

 

沈む日の光で、部屋が照らされます。

…夕暮れが、赤く、紅く…。

緋色に、光って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩。

アリアさんはおろか…何故か、理子ちゃんや白雪さんですら戻ってこない夜。

 

私とキンジ君は2人で、食卓を囲います。

 

「…………。」

「…………。」

 

当然、カナさんが帰ってしまってから会話らしい会話はありません。

お互い黙々と…私の作った簡単な夕飯を食べます。

 

…このままじゃ、ダメな気がして。

でも、話しかけづらくて…。

 

ちらっとキンジ君を盗み見ますが…キンジ君は俯いてお茶碗の白米を食べるばかり。

 

「…………。」

「…………。」

 

無言の時間は続き…。

 

「…ごちそうさま。」

 

キンジ君はとうとう食べ終わり、立ち上がります。

そのまま少し重たそうな足取りで自室へと向かっていきました。

 

私も急いで残りのご飯を食べ終え、食器をとりあえずシンクまで運び。

急いでキンジ君を追いかけます。

 

…このままじゃ、いけない。

とにかく話をしないと、いけない。

なぜか少し気まずいけれど…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……コン、コン。

 

「…ああ。」

 

短い、返事。

どうやら入れてくれるみたいです。

 

ガチャ…。

 

私は恐る恐るドアを開け、部屋の中に入ります。

キンジ君は…私に背を向けるように、机に向かって座っていました。

 

「…キンジ君。話を、しましょう。」

「…………。」

 

キンジ君は無言のまま、キィ…と回転椅子を回して私に向き直りました。

その表情は…恐ろしいほど、静かな表情。

 

…よし。

勇気をもって…キンジ君と、いろんな話をしなくちゃ。

まずは…。

 

「…カナさんって、男なんですか?」

「っ!そ、そこかよ!」

 

キンジ君はガクッと体をよろけさせながら、鋭く突っ込みました。

…あれ?

突っ込みを入れられるようなことを言いましたっけ…?

 

「え、いえだって…何か変なこと言いました?」

「普通そこからじゃないだろ…。」

 

…何やら間違っていたみたいです。

でも…雰囲気は何処か弛緩しました。

結果オーライです。

 

「でも、お兄さん…なんですよね?」

「…………………ああ。」

 

長めの間をおいて、キンジ君は目を逸らしながらそう答えました。

……あの恰好で、男…。

 

「…え、えっとまぁ、趣味は人それぞれですし…。い、いいんじゃないですか?」

「違う!違うんだ、兄さんはそんな人じゃないんだ!」

 

キンジ君はそのあと必死に、お兄さんが変態ではないこと、ヒステリアモードになるために必要な女装であり決して変態ではないことを力説してくれました。

…でも、正直女装して性的興奮する時点で…いえ、これ以上はやめておきましょう。

 

「…まぁ、女装のことは置いておきましょう。」

「いや、だから兄さんは…!」

「話が進みませんって…。」

 

こんなことでいつまでも押し問答する必要はありません。

今は…大事な他のことを、確認するべきです。

 

「…カナさんは、アリアさんを…殺さないんですか?」

「…さぁな…。だが、1週間近くは平気なはずだ。」

 

キンジ君は平気、と断言します。

…そういえばさっき、カナさんは…。

 

『私はこれから「寝る」わ。』

 

と言っていました。

これと、関係があるのでしょうか…?

 

「兄さんはカナになることで、驚くほど長時間ヒステリアモードを継続できるんだ。」

「…はい。」

「代わりに、兄さんは活動を続けたあとは…必ず長期間の睡眠をとる。」

 

キンジ君曰く、キンジ君がヒステリアモードでいられる時間は長くて1時間程度だそうです。

しかし、カナさんは…私が初めて出会った時が昨日なので、少なくとも2日間はヒステリアモードでいられるみたいです。

おそらく…もっと長い時間続けることも可能とみていいでしょう。

 

「ヒステリアモードが脳に大きく負担をかけるからだと思う…。俺もヒステリアモードの後は少し眠たくなるしな。」

「…なるほど。カナさんは…普段はどのくらい眠るんですか?」

「10日前後だ…長いときは2週間起きてこなかった時もあった。」

「不意に起きてきたりはしないんですか?」

「…正直、わからない。」

 

…一応、アリアさんが襲われる心配は少ないみたいです。

ゼロではありませんが…。

 

「…でも。」

「?」

「カナは、アリアを殺さないと言った。…だから、殺さないと思う。」

「…………。」

 

キンジ君は苦しそうに、顔を下に向けます。

 

「カナは…優しい人なんだ。本当は戦うよりも人を治す、癒す方が好きな…そんな人なんだ。」

「…………。」

「報酬の金を使って、何処かの国の子供たちのために病院を建てたことすらあった。そんな、カナが…!」

 

キンジ君は。

信じたくない現実を受け入れたくない子供のように…。

彼の拳が、悲しそうに震えます。

 

「アリアを…こ、ころ…す、だなんて…!」

「…キンジ君。」

 

…私は。

キンジ君の言っていることが本当かどうかは判断できません。

客観的に見ればカナさんは、一度アリアさんを襲った『敵』です。

 

…けれども。

私はなんとなくカナさんは敵ではないような気がしますし…。

なにより、キンジ君が。

彼がここまで信頼していたはずの人物が、そんな悪い人には見えなくて。

 

「…キンジ君。きっと、大丈夫ですよ。」

「……え…?」

 

キンジ君は驚いたように顔を上げます。

でもその表情は、どこか…安堵していたような気がして。

 

私はまた、根拠のない励ましをします。

 

「きっと、カナさんには何か、仕方ない事があったんです。カナさんだって…アリアさんを本当は殺したいだなんて思っているはずありません。」

「…詩穂…。」

 

ああ、本当に。

私はなんて、偽善者なんでしょう。

こんな励ましや優しさなんて…残酷で空虚なものでしかありません。

 

「キンジ君、だから今は…信じましょう。カナさんの言葉を。」

「…詩穂…ああ、すまない…。」

 

でも、私は。

少しでも…誰かが悲しい顔をしているところなんて見たくないから。

この偽善を、続ける。

 

キンジ君は少しだけ微笑んで見せると、椅子から立ち上がりました。

 

「…いつも、詩穂に励まされてばかりだな。」

「そ、そんな私は…。」

 

それは違います、と言いたくて。

でも…そんなことは言えません。

 

「ありがとな、詩穂。…先に風呂に行ってくる。」

「あ、キンジ君…。」

 

私は、何かを言いかけ。

 

「…はい、どういたしまして、です…。」

 

キンジ君を見送ることしか出来なくて。

キンジ君が出ていき、バタン、と閉まるドアを前に。

罪悪感を抱えながらしばらく佇んていました…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜。

私は一人、お風呂上がりの体を冷やすために。

リビングでソファに座り、ボーっとしていました。

 

…キンジ君は、あの後すぐにお風呂に入って寝てしまいました。

私は…おそらく、色々考えて今日は眠れないんでしょうね…。

 

などと、考えているのかいないのかよくわからない思考をして。

もうすぐ日付も変わろうか、というときに…。

 

――ガチャッ。

 

「!!??」

 

唐突に…玄関からカギを回す音が聞こえました。

あまりに予想外というか意識の外からの攻撃に、文字通り体が飛び上がります。

 

…そして。

 

「うへー…ただいまぁ…。」

 

次いで聞こえてきたのは…疲れたというかやつれた声の理子ちゃんの声。

…どうやら、理子ちゃんが帰ってきたみたいです。

 

「ただいまー、詩穂~…。」

 

理子ちゃんはリビングに私の姿を認めると、よろよろと私の座るソファの方にやってきました。

先程の驚きのせいでまだバクバク言っている心臓を取り繕いつつ、理子ちゃんの方に振り向きます。

 

「お、お帰りなさい、理子ちゃん…って、どうしたんですか!?」

「あ、あはは…ちょっと、蘭豹がね…。」

 

帰ってきた理子ちゃんは…何故か、満身創痍と言っていいほどボロボロでした。

 

…そういえば。

今日の闘技場(コロッセオ)の事件の時に、理子ちゃんは…。

蘭豹先生のご機嫌を損ねて、教務科(マスターズ)に呼び出されていたんでしたっけ?

…道理でなかなか帰ってこないと思いました…。

 

それにしても、こんな夜中までお説教(物理)とは…。

蘭豹先生、やっぱり怖いです。

 

「とりあえず、消毒しましょう!理子ちゃんは座っててください。」

「ありがと…。」

 

今しがた私が座っていたソファに理子ちゃんを座らせると私は急いで自室に救急箱を取りに行きました。

 

 

 

 

 

 

そして、急いでリビングに戻ってくると。

 

「えへへぇ…。」

 

理子ちゃんが、ソファに顔を擦りつけながらニヤニヤと笑っていました。

心底、幸せそうに。

 

…………は?

 

「…あ、あの、理子ちゃん…?」

「っぴゃぁ!!」

 

私が声をかけると、理子ちゃんは素っ頓狂な声を上げて飛び上がりました。

そしてそのまま、自己弁護を捲し立てます。

 

「ち、違うの!聞いて、詩穂!今のは詩穂のお風呂上がりの残り香を嗅いでたとか、それで今夜の妄想に使おうかな、とかそういうのだから!」

「それダメなやつじゃないですか!!?」

 

自己弁護ですらありませんでした。

もはや自分の性癖を隠すことすらしませんでした。

 

「り、理子ちゃん…私は今本気で貞操の危機を感じているのですが…。」

「うわぁぁん!ドン引きしないでよー!」

 

……数分後。

 

「…これからはもうやりません…。」

「……ホントですか?」

「あい…。」

 

理子ちゃんを少しお説教して、ようやく本命の消毒に入れました。

消毒液を染み込ませた綿で、傷のところを消毒していきます。

 

「……いつつ。」

「あ、ごめんなさい!大丈夫ですか?」

「あはは、へーきへーき。続けて。」

 

理子ちゃんは傷が深いところは時折痛そうに顔を歪めますが、それでも笑い続きを促します。

…私は、丁寧に消毒しながら…。

 

…数十分かけて、ようやく治療が終わりました。

 

「…これで、おしまいです。理子ちゃん。」

「ん、ありがと!詩穂。」

 

理子ちゃんはすっ、と立ち上がると。

 

「…お風呂入ってくるー。」

 

ててて、と裸足でお風呂に行ってしまいました。

私は少し溜息をつくと、その背に向けて言います。

 

「お風呂出たら包帯巻き直してくださいねー。」

「はーい!」

 

…そのまま、救急箱を片手に。

私は部屋に戻りました…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…もう、寝なきゃ…ですね。」

 

深夜2時。

普段の私ならもう少し起きている時間なのに…誰に向けてなのか、そう呟いてしまいました。

 

私はふぅ、と溜息を吐くと…パソコンの電源を落として、布団に向かいます。

 

部屋を暗くして、布団をかぶって。

目を閉じても…眠くないので、眠れません。

 

「…どうして、でしょう。」

 

胸が、ざわつきます。

心が、警鐘を鳴らします。

 

カナさんと、叶さんと、明音さん。

本当に生きていた兄と再会したキンジ君。

帰ってこないアリアさん。

同じく帰ってこない、白雪さん。

いつも通りの理子ちゃん。

 

ゆったりと…しかし、確実に。

何か、嫌なものが迫っている気がします。

そう、私たちの騒がしくも平和な毎日を壊してしまう…何かが。

 

「…イ・ウー。」

 

叶さん達は、スパイがバレてしまったからやめたそうです。

カナさんは…イ・ウーに本当に今は所属しているのでしょうか?

理子ちゃんは、退学になったそうです。

ジャンヌさんも同じような境遇になっているのでしょうか?

 

そもそもなぜ、イ・ウーは神崎かなえさんに冤罪を被せているのでしょうか?

教授(プロフェシオン)とはいったい何者なのでしょう?

 

考えても考えても、何もわかりません。

わかることは…得体が知れないということだけ。

 

「…アリアさんを、殺す。」

 

そう、カナさんは言っていました。

 

アリアさん(こいつ)をイジメてもらっちゃ、困る…?」

 

そう、叶さんは言っていました。

 

…これじゃあ、まるで。

この事件の数々が、イ・ウーではなくて。

 

 

 

 

 

『アリアさんを中心に事件が起きている』

 

 

 

 

 

「…そんな、バカな…。」

 

…浅はかな、考えです。

空想とほんの少しの状況証拠だけで。

こんな発想に至るなんて馬鹿げています。

 

…でも。

アリアさんは悪くないにしろ…何者かがアリアさんを中心に何かをしていることは、十分に考えられます。

 

―――神崎・ホームズ・アリア―――

 

この時私は、甘かったのかもしれません。

彼女の背負う、壮大な運命を…共に背負うための覚悟を。

しっかりと持つべきだったのかもしれません…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリアさんは、翌日の早朝に帰ってきました。

…なぜか、白雪さんと共に。

 

「…お、お帰りなさい、アリアさん…。」

「うん…ただいま…。」

 

未だ少し元気がないアリアさんでしたが、でも帰ってきてくれてよかったです。

アリアさんの隣では、白雪さんが苦笑しながら立っています。

 

「昨日、夕方くらいに突然電話で呼び出されてびっくりしちゃったよ。そのまま何故かわざわざお台場まで行って泊まってきたんだ。」

 

…どうやら。

アリアさんは真面目にキンジ君の言うことを聞いて、武偵校の外まで行って一晩を過ごしていたらしいです。

…寂しかったのか、白雪さんも巻き込んでいたようですが。

 

「…ねぇ、キンジは?」

「まだ、寝ていますよ。」

 

アリアさんは恐る恐る、といった風にキンジ君の様子を聞きます。

…しかし、残念ながらキンジ君は普段はこの時間は寝ています。

今朝もまだ、寝ていたはずです。

 

「…とりあえず、上がってください。いつまでも玄関先にいるわけにはいかないでしょう?」

 

…とりあえず私は、2人に部屋に上がってもらいました。

キンジ君と理子ちゃんは、まだ起きていませんでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…いつもより、静かな食卓。

 

「………。」

「………。」

 

キンジ君とアリアさんは、お互いに再会しても…目を逸らして、何も言いません。

 

「…………。」

 

白雪さんも、空気を読んでか黙ってご飯を口に運びます。

 

「それでさー、詩穂。」

「…はい。」

 

いつも通りなのは、理子ちゃんだけ。

…それが天然なのか、わかってやっているのかはわかりませんが。

 

「…ねぇ、キンジ。」

 

アリアさんが、口を開きました。

重々しく…でも、元気のない声。

 

「なんだよ。」

「…あたし、もう、大丈夫だから。」

「…そうか。」

 

……私は。

何も、言えませんでした。

 

何も…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1日が過ぎ、数日が過ぎ。

気が付けば1週間が過ぎて。

キンジ君もアリアさんも、少しぎこちないながらもいつも通りに接していて。

 

そして…7月7日。

武偵校は今日から夏休みに入りました。

 

そして、私は。

 

「…どうして、こんなところにいるんでしょうか…?」

 

時間は夜7時ちょうど。

場所は上野駅の華やかな駅前。

周りを歩く人たちは、浴衣姿の人たちばかり。

私はひっそり隠れながら…。

 

アリアさんとキンジ君のデートを、尾行していました。

 

…事の発端は、しばらく前のアリアさんのケータイに届いたキンジ君からのメール。

7月7日の七夕祭りに、2人で行くという旨の。

 

「…遅いわよ、キンジ!」

 

アリアさんの照れたような声が聞こえます。

その姿は…かわいらしい、浴衣姿。

 

「…時間通りだろ。」

 

そんなアリアさんの浴衣姿から目を逸らしながら、キンジ君もまたぶっきらぼうに答えます。

そんな彼は…いつも通り、防弾制服。

 

そして尾行する私も、防弾制服。

 

2人は2、3言会話を交わすと…連れだって、歩き始めました。

そんな2人を、私は静かについて行きます。

 

…少しの寂しさと、少しの虚しさを胸に。

 

 

 

 

 

 

2人は、がっつりお祭りを楽しんでいました。

アリアさんが食べ物を欲しがり、キンジ君は呆れながらもそれを買ってあげる。

金魚すくいもヨーヨー釣りも、アリアさんは子供のようにはしゃぎながら楽しんでいます。

キンジ君も…なんだかんだ言って、楽しんでいるみたいです。

 

…そして、それを後ろからコソコソと追う私。

 

…なんなんでしょう、これ…。

私、なんでこんなことしてるんでしたっけ…?

ああ、そうだ。

アリアさんとキンジ君が心配で、最初は3人で行こうと提案しようとしたんです。

でも…ぶっちゃけ言い出すタイミングがなくて、ずるずるとこんな感じに…。

 

人ごみの中、2人を追っていきます。

秋葉原や新宿の人ごみに慣れている私は、スムーズに尾行できていました。

多分…アリアさんやキンジ君にもバレていないと、信じたいです。

 

 

 

…うわ、2人で短冊にお願いとか書いてますよ…。

……あーあー、手なんか繋いじゃって…。

…ずるいなぁ…。

…私も、キンジ君と…。

 

 

 

キンジ君とアリアさんは、しばらく遊ぶと。

2人して人に酔ったのか、神社のほうに歩いていきます。

 

…そっちにはあまり人がいないので、尾行しづらいのですが…。

でも仕方なく、私も木陰に隠れつつ後ろをついて行きます。

 

…ひと気のない、神社の本殿の裏まで来てしまいました。

2人は縁側のようになっている板に腰を下ろします。

…私はそれを、死角からバレないように見守ります。

 

「…ねぇ、キンジ。」

「…なんだよ。」

 

どどーん…。

空の遠くで、花火が上がります。

 

「カナの事…ごめんね?」

「なんで謝るんだ。」

 

どどん…どん…。

花火は休みなく…しかし、静かに。

空を、キンジ君を、アリアさんを、照らします。

 

「あたし、知らないうちにキンジに迷惑かけちゃってたんだ…。だから、あんたが嫌なら、もう…。」

「…何言ってんだよ。」

 

アリアさんは、悲しそうに目を伏せました。

キンジ君はそれを、ぶっきらぼうに否定します。

 

「武偵憲章8条。『任務は、その裏の裏まで完遂すべし』…だ。だから俺は、イ・ウーの一件が片付くまでお前とパーティを組む。そう、言っただろ?」

「…キンジ…!」

「2条にも『依頼人との契約は絶対守れ』ってあるしな。」

 

ぱぁぁ、とアリアさんが花火のように笑顔を咲かせました。

キンジ君は照れたようにそっぽを向きながら、でも優しく微笑んでいました。

 

…このとき私は。

アリアさんの輝くような笑顔を見て、気付いてしまいました。

 

アリアさんを本当に心から笑顔にできるのは、キンジ君なのだと。

キンジ君を心から信じることが出来るのは、アリアさんなのだと。

2人の間には、固い絆があるのだろうと。

 

 

 

私は…きっと、いらないのだと。

 

 

 

「…アリア、カナのことは、気にしないでくれ。何があったのかはわからないが…今、あいつはお前のことを狙っているらしいんだ。」

 

なんですか、それ。

まるでアリアさんを、口説いてるみたいじゃないですか。

 

「…ええ、わかってる。あたしもカンだけど…なんとなく、あんたの言っていることはわかるわ。カナは…。」

 

何ですか、その言いかた。

まるでキンジ君と、心が繋がってるみたいじゃないですか。

 

「…う、ぅ…!」

 

ぽろぽろ。

涙が何故か、出てきました。

 

どどーん…!

キンジ君とアリアさんを彩るように、花火が上がりました。

 

「……っ!」

 

私は。

その場を静かに離れると。

 

お祭りの喧騒に身を任せるように、人ごみに紛れて…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩穂→アリア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジと、仲直りできた。

その日の夜。

もう23時を回っていた。

 

「…詩穂、帰ってこないなぁ…。」

 

理子がぼやくように呟く。

 

「いつもならとっくに帰ってきてるのに…どうしたんだろうね?」

 

白雪が心配そうに嘆いた。

 

「…理子、連絡は?」

「全然。電話も繋がらないから、多分電源切ってるよ…。」

 

キンジが理子に尋ねてみても、返答はいい結果ではなかった。

 

…急に。

どうしたんだろう。

詩穂は、昨日も今日も…いつも通りだった。

いつも通り、あたしたちを元気付けてくれた。

 

あたしとキンジのことを心配してくれてたのはわかっていた。

だから…仲直りできたことを、詩穂に早く伝えたいのに。

詩穂のおかげで…あたしはキンジを信じれるようになったよ、って。

 

「…詩穂…。」

 

理子がまた、寂しそうに呟く。

目に見えて、元気がない。

当たり前だ。

理子にとって詩穂は…太陽も同然なんだから。

 

「…ねぇ、アリア。」

 

理子が亡霊のような目で、あたしを見る。

 

「詩穂の事…何か、知ってる?」

「…心当たりがないわ。」

「詩穂のこと…傷つけた?」

「してないってば。」

 

理子はそこで、グワッ!と立ち上がり。

ズンズン、あたしに近づいてきて。

 

「お前がっ!詩穂になにかしたんだろっ!!」

 

ガッ!

とあたしの首元をつかみ、締め上げた。

 

「…っく、何も…知らないって言ってるでしょ!」

 

理子の手を払いのけようとして…手が、止まった。

理子が、今まで見たこともないぐらい、泣いていたから。

 

「お前が…っ!詩穂に、なにか…言ったんだろ…っ!」

 

理子は泣きながら、あたしの首元を更に締め上げようとして…。

力なく、その腕を下した。

そしてそのまま崩れ落ち、もっともっと泣いてしまう。

 

「うぅ…詩穂ぉ…!帰ってきてよぉ…!」

 

…情緒不安定、と言って差し支えないぐらい。

理子は混乱し、不安を抱えている。

…詩穂が、いないだけで。

 

「…あたし、探してくる。キンジと白雪は理子をお願い。」

「…あっ、待て、アリア!」

 

あたしは、もう見てられなかった。

詩穂を探さなきゃ…!

 

キンジの制止を振り切り、あたしは玄関を開け放って。

外に飛び出していった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間、2時間…。

残酷なほどに時がどんどん過ぎていく。

 

詩穂が行きそうな場所なんて…見当もつかない。

これほどまでに、あたしは…詩穂のことを、知らない。

詩穂が急に帰ってこなくなった理由も、詩穂が考えていたことも。

あたしは何一つ、わかっていないかった。

 

でも…それでも。

あたしのカンが、叫んでいる。

詩穂は今もどこかで…1人、泣いていると。

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜2時半。

武偵校、ゲーセン、近所のファミレス。

学園島の隅から隅まで、果ては空き地島まで。

そこかしこ探しても、全然見つからず。

 

そして…何故か、

探し疲れたあたしは、上野駅の。

もう終わってしまった、お祭りの場所まで来ていた。

さっきまであった賑やかな屋台も、たくさんいた人も…もう、ない。

寂しい道を、1人で歩く。

 

…さっきまでは、キンジと一緒に楽しく歩いていた。

今は…何の意味もなく、彷徨っている。

 

「……あ…。」

 

気が付けば、キンジと花火を見た…。

神社のところまで来ていた。

 

…確か、この裏の処で花火を眺めたんだっけ…。

 

あたしは、フラフラとそちらに向かい…。

 

「………っ!」

「……え?」

 

そして。

 

涙を流す、詩穂と目が合った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩穂が泣き止むまで待った。

あたしは…待つことしかできなかった。

どうして泣いているのかすらわからないのに…励まし方がわかるわけない。

それこそ詩穂なら、うまく励ませるんだろうけど。

 

「…どうしてここがわかったんですか?」

「…わかんない。テキトーに歩いたら詩穂がいたの。」

 

キンジと並んで花火を見たように。

今は、詩穂と並んで座っている。

…明るい花火は、ないけれど。

 

「…さ、帰りましょ?理子が心配して狂っちゃうわ。」

「……ごめんなさい。」

 

あたしの言葉を否定するように。

詩穂が謝る。

 

「私はもう…帰りません。」

 

俯きながら、詩穂が言う。

 

「…私なんて、いなくてもいいじゃないですか。アリアさんもキンジ君も強いし、理子ちゃんも白雪さんも協力してくれます。イ・ウーの件で、私はいりません。」

「…そんなこと。」

 

ない、とは。

言い切れない自分が悔しい。

だって…客観的に見れば、それは揺るがない事実だから。

 

詩穂は…弱い。

イ・ウーどころか一般武偵よりも更に弱い。

 

「それに…私は、キンジ君みたいに…本当の意味で、誰かを笑顔になんてできません。アリアさんみたいに、強い覚悟もありません。」

「…詩穂…。」

「ほら…私は、いらないでしょう?私なんて足手まといなんです。だから…。」

 

詩穂は、また。

涙を一筋、流した。

 

…ああ。

詩穂はずっと、悩んでいたのかもしれない。

自分の実力不足に、そして自分の価値に。

そしてあたしもキンジも白雪も…理子でさえも。

その悩みに気付けなかった。

 

詩穂に励ましてもらうばっかりで、あたしたちは…詩穂の気持ちなんて気にもかけていなかったんだ。

 

詩穂はとうとう耐え切れずに…結論を出しちゃったんだ。

『自分には価値がない』、と。

 

「…っく、だから…っ!私、なんて…!」

 

詩穂は嗚咽を漏らしながら、寂しそうに…泣いている。

涙なんて枯れることはないくらい、今までの分…泣いている。

あたしは…。

 

「…詩穂っ!」

「…………あ……。」

 

あたしは。

詩穂に抱き着いて。

 

「…うぅっ…!ごめん、ごめんなさい、詩穂…っ!」

「あ、ありあ…さん…?」

 

結局どうしていいかわからず、私も泣いてしまった。

あたしは…泣き虫で、子供で、考えなしだ。

 

「詩穂…っ!ごめん、ごめん…!」

「どっどうして…ひっく、アリアさんが、謝るんですかぁ…っ!」

「ごめん…!ごめんね…っ!」

 

2人して、泣いた。

泣けば解決する話じゃないけど…。

今は、泣いた。

泣きながら、謝りながら。

 

「私になんて…っ!謝らないでください…!」

「ごめん…!あたし…!」

 

言葉にするとすれば。

簡単なこと。

本当のことを、言うだけ。

 

「あたしには…詩穂が、必要なの…っぐす。」

「…え…?」

「あたしはっ、いままで、何度も何度も助けてもらった…っ!何回も詩穂に励ましてもらった…!だから…うぅ…!」

 

涙なんて、止まらない。

しゃくりあげながら、でも詩穂に言わなきゃ。

素直な、あたしの気持ち。

 

「いなくならないで、詩穂…!」

 

…寂しい。

詩穂がいないと、駄目だ。

少なくとも理子は、一生あの不安定なままだろう。

あたしもキンジも白雪も…多分、いつも通りじゃいられない。

そのくらい大事な人に、いなくなられたら…平気なわけ、ないじゃない…!

 

「…私は…。」

 

詩穂は驚いたように顔を上げ、あたしと抱き合ったまま。

涙も引っ込んでしまったのか、ただ意外な事実を知ってしまったかのように呆然と聞き返した。

 

「私は…必要なんですか?」

「…うん…っ!」

「私なんかが…いても、いいんですか…?」

「いなきゃ…駄目に、決まってるでしょ…っ!」

 

詩穂。

あたしたちの、大切な…。

 

「あたしの、親友なんだから…っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア→詩穂

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は。

寂しかったんです。

アリアさんとキンジ君が、仲良さそうに話しているのを見て。

寂しくて、泣きそうで。

結局、逃げてしまいました。

拗ねてしまった、とも言い換えられます。

 

自分に自信がなくて。

自分に実力もなくて。

日ごろから、自分の偽善に疑問を持っていて。

そんな私は、いらない子。

 

でも。

今隣を歩くアリアさんは、私が必要だと言ってくれました。

拗ねた私のことを…見つけて、くれました。

だから…。

 

「…アリアさん。」

「…なに?」

「…ありがとう、ございます。」

「…ン…。」

 

…上野駅から、電車とモノレールを乗り継いで。

私たちのいるべき場所へ、帰ります。

 

…まだ、疑問が消えたわけではありません。

私は本当に必要なのか?

私は本当に力になれるのか?

 

…まだ、自分に自信がついたわけでもありません。

けれども…。

 

「…ただいま、です…。」

 

玄関を開けて、中に足を踏み入れると。

 

「詩穂ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「…詩穂、おかえり!」

「…おかえり。」

 

泣きながら迎え入れてくれる人。

優しく迎え入れてくれる人。

ぶっきらぼうに迎え入れてくれる人。

…そして。

 

「…おかえり、詩穂。」

 

私の隣で微笑んでくれる、優しくも勇敢で。

私の親友が、私に暖かいものをくれました…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…その日は、皆何も聞かないでくれました。

けれども…深夜まで私を待っていてくれた皆には…申し訳なさと感謝でいっぱいです。

 

そして次の日の朝…。

 

「おはようございます。」

「詩穂、おはよーう!!!」

「きゃ、理子ちゃん!?」

 

起きてリビングに向かうと、理子ちゃんの激しい朝の挨拶に巻き込まれました。

簡単に言うと熱い抱擁です。

夏だからマジで暑いです。

 

「あ、暑いですって…!」

「昨日寂しかったんだよ…!詩穂パワーを補充しなきゃ…!」

 

…そっか。

理子ちゃんも、私のことを心配していたんですね…。

理子ちゃんだけでなく…きっと、白雪さんもキンジ君も。

 

…本当に、申し訳ないです。

 

「…理子ちゃん、ごめんなさい…心配かけて。」

「ううん…私こそ、ごめん…!」

「どうして謝るんですか、もう…。」

「なんとなく…でも、戻ってきてくれてありがと、詩穂…!」

 

…まぁ、今朝くらいなら、と。

理子ちゃんの抱擁を、私も抱き返しました。

 

…そうやってしばらく抱き合っていると…。

 

「…あのー…朝からレズられても困るんだけど…。」

「ふわぁっ!?」

 

いつも間にか背後に立っていた白雪さんが、凄く微妙な顔で立ち往生していた。

 

「り、理子ちゃん、いったん離れて離れて…!」

「やー!あと2時間はこうする!」

「ながっ!」

「あはは…。」

 

朝っぱらからなんだかよくわからないものを見せられた白雪さんは、苦笑するだけです。

 

…そうだ。

白雪さんにも謝らなきゃ…。

 

「あの…白雪さん。」

「…うん。なに?」

「昨日は…ごめんなさい。」

 

白雪さんは数舜、何を言われたかわからないように目をぱちくりすると…。

ふわ、と優しい笑顔になって。

 

「ううん。大丈夫。もう、急にいなくなっちゃだめだよ?」

 

それだけ言うと、朝ご飯の支度にキッチンへと向かいました。

…つくづく。

優しいな、と。

…ありがとうございます、白雪さん。

 

「…おはよう。」

「キンジ君…おはよう、ございます。」

 

キンジ君も起きてきました。

…ここまで来たら、キンジ君に謝るのも礼儀というものです。

 

「あの…キンジ君。」

「なんだよ。」

「昨日は…ごめんなさい。」

 

理子ちゃんに抱き着かれたままなので頭を下げることはできませんが…。

 

「…あー、えーっとだな…。」

 

キンジ君はいきなり謝られて面食らっているのか、少し頭を掻くと。

 

「…いや、いい。気にしてないぞ。」

「……はい。ありがとうございます。」

 

ぶっきらぼうに…微笑みながら。

キンジ君はそれだけ言うと、彼もまた食卓へ。

 

「…理子ちゃん。」

「…うん?」

「私…恵まれてるんですね。」

「さぁ…ね?私は詩穂がいてくれればいいんだけど♪」

 

私は…必要とされていなくても。

この場所に、いたい。

そう思うのは…私の勝手なエゴなのでしょうか?

 

けれども…私は。

今あるこの仲間たちに…心から、感謝するのでした。

 

「…おはよ。」

 

…っと。

最後の1人、アリアさんも起きてきました。

アリアさんはいつもより5割増しで眠そうに眼をこすっています。

…昨日、探してくれたから。

 

ありがとうございます、アリアさん。

 

「…なにそんな生暖かい目で見てるのよ。」

「いえ、昨日は本当に…ありがとうございます。」

「なっ…べ、別に、あたしは理子があのままだと役に立たなそうだから、探しに行っただけ!他意はないわ!」

 

皆の前だとツンデレになってしまうみたいで、テンプレなセリフを吐き捨ててリビングに向かうアリアさん。

…これ以上言うのはくどいですから、心の中で言っておきましょう。

 

ありがとうございます、みなさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…夏休みって、暇だねぇー…。」

 

理子ちゃんがまったりと寝転がりながら、ポチポチとゲームをしています。

キンジ君は眠たそうにケータイをいじり、アリアさんはガバメントの整備を少し気だるげにやっています。

白雪さんは一般教科の課題を黙々とこなしていました。

 

…色々あった夏祭りの日から、3日経ちました。

今はもう、そんなこともあったな、くらいのことで皆さんは接してくれます。

…理子ちゃんは、少し抱き着いてくる頻度が上がったような気もしますが。

 

さて、さっき理子ちゃんが行ったとおり少しばかり暇です。

というのも、武偵校の夏休みは緊急任務(クエスト・ブースト)の存在からか教師の怠慢からなのか、普通の高校よりも長いです。

更に一般教科もやる気がないものばかりなので課題もほとんどない…という雑っぷり。

 

「…暑いわ…。」

 

銃の整備が終わったらしいアリアさんは、ポフッとソファに倒れこむとそのまま動かなくなってしまいます。

 

…かくいう私も、やることがなくて暇です。

夏休みの課題でも白雪さんと一緒にやろうかな…。

 

……ピンポーン…。

 

だらだらした空気が流れている中、不意にドアのチャイムが鳴りました。

 

「…あれ?理子、今日何も頼んでないんだけどなぁ…?」

 

理子ちゃんがゲームを中断し、玄関の方に向かっていきました。

普段から密林だのなんだのとネットショッピングをしている理子ちゃんは、よく配達を頼みます。

よって今回も理子ちゃんの買い物かと思いましたが…どうやら違うみたいです。

 

「…あい、お疲れ様ですー。……うーん、なんだろ?」

 

宅配のお兄さんに愛想よく挨拶した理子ちゃんは…何やら少し大きめのダンボールを運んできました。

流石にリビングにいる皆も、そちらに注目を寄せます。

 

「送り主は…TCA?」

「ああ…今度行くカジノの運営会社だな。」

 

送り主を理子っちゃんが読み上げると、キンジ君はピンときたのか答えを言ってくれました。

なるほど…先日単位不足のキンジ君と理子ちゃんのために受けた、緊急任務のカジノです。

どうやら5人でもよかった…というか何人でもよかったらしく、交渉した結果簡単に人数の許可がもらえました。

そこからの届け物となると…怒らく。

 

「開けちゃうよー。」

 

とか考えているうちに、理子ちゃんが普段から携帯しているナイフで包装を剥がしていきます。

中から出てきたのは…。

 

「…なにこれ、服?」

 

アリアさんの疑問の声。

そう、それは。

…服。

というか、衣装。

正確には…。

 

「…うーん、これは…バニーだね!」

 

理子ちゃんがサムズアップでビシッ!と私にキラキラとした視線を投げてきました。

…いえ、ですから、どうしろと?

 

「よし、試着試着!被服が支給されたときはとっとと試着が基本だよ!」

 

理子ちゃんが興奮した様子で衣装を皆に渡していきます。

渡されたアリアさんと白雪さんは、ひどく狼狽した様子で…。

 

「これ…着るの?」

「これは…ちょっと。恥ずかしいな…。」

 

特にアリアさんは『紅鳴館』の時のメイド服と似たような反応をしています。

 

「ヘイヘイガールズ!依頼人(クライアント)が指定してるんだからさっさと着ちゃえ!」

「アンタ自分が楽しんでるだけじゃない!」

「はい、詩穂!詩穂の分!」

 

理子ちゃんはワーワー騒ぐアリアさんをスルーしつつ、やっぱりキラキラした目でこっちに衣装を渡してきました。

 

「はい各自、自分の部屋で着替えターイム!」

 

明らかにテンションの上がった理子ちゃんが、グイグイと私たちを押してきます。

みんなしぶしぶ自室に戻ると、各々着替えに移りました。

 

さて、私も着替えるとしましょうか。

バニー服は恥ずかしいですが…でも、可愛いので着てみたかったっちゃ着てみたかったです。

胸が足らない可能性大なので、そこは少し悲しいですが…。

 

…あれ?

 

私もてっきりバニー衣装だと思っていましたが…。

これは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…部屋を出ると、皆はすでに着替え終わっていました。

 

「背中がすーすーするわ。機動性はあっていいと思うけど!」

 

まず、アリアさん。

予想通りバニーガール衣装でした。

直球の感想は、可愛いです。

ぴょこん、としたウサミミがアリアさんのかわいらしいイメージとピッタリで、何より恥ずかしそうに耳を抑えているのが最高に可愛いです。

残念ながら胸がないので、色気は感じませんが…。

 

「な…なによ。じろじろ見ないで、詩穂。」

「あ…ごめんなさい!」

 

怒られてしまいました。

仕方なしにアリアさんから視線を外すと…。

同じような姿の白雪さんが。

 

「あは…やっぱりちょっと恥ずかしいね。」

 

もじもじしながら手を胸の前で擦り合わせている白雪さんは…アリアさんとは違った意味で可愛いです。

アリアさんが小動物的な可愛さだとしたら、白雪さんの場合は女性的な可愛さでした。

羨ましいくらい出るところが出たプロポーションはとても煽情的ですが、本人がとてもピュアな人だからかきちんと少女的な可愛さも保っています。

ていうか…改めて見ても本当に大きいですね…その胸…。

 

腹が立ってきたのでまた視線を変えると。

 

「どう、詩穂?あはーん?」

 

やたらテンションの高いバニーさんと目が合いました。

わざとらしくエロいポーズを取っているエロいウサギこと理子ちゃんも。

…やっぱり可愛いですね。

プロポーションがいい人はバニーが似合うことは白雪さんで証明されましたが…やはり理子ちゃんのようなロリ巨乳でも当てはまるようです。

そして金髪との相性もいいからでしょうか、フランス人とのハーフである理子ちゃんの金髪のせいで余計バニー服が可愛く見えます。

 

「……なぁ、部屋に戻っていいか?」

 

最後にキンジ君。

ヒステリアモードの関係でとっととこの場所から抜けたいみたいです。

そんな彼は…妙に似合うスーツ姿。

フォーマルスーツに身を包んでサングラスまでしっかりかけている彼は…いかにも成金的な雰囲気です。

多分若社長とかそういう役どころでしょう。

 

「ところで詩穂は…なんでバニーじゃないの?」

「うっ…それは…。」

 

…ずっと自分の恰好について考えないようにしていたのですが…。

私に支給された服は…ピシッとしたスーツに少し低めのハイヒール、そして伊達メガネ。

役どころは、曰く『社長の秘書』。

キンジ君とセットで、ということなのでしょう。

 

「詩穂可愛いよ詩穂!伊達メがチャーミング!」

「うぅ…や、やめてください理子ちゃん…。」

 

理子ちゃんがパシャパシャと写真と撮ってきます。

…恥ずかしいです…。

 

「…俺はもう行くぞ。」

 

キンジ君は嫌気がさしたのか、そそくさと自室に戻っていきます。

 

「あたしも、もういいわ。機動性は問題なさそうだし!」

 

続いてアリアさんは恥ずかしかったのか終始機動性を気にしつつ、部屋に戻っていきました。

白雪さんも恥ずかしそうに戻り、理子ちゃんも写真を撮り終えたのか満足そうに戻っていきました。

 

「…はぁ…。」

 

私も、着替えましょう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…しばらくして、皆私服に戻り。

まただらだらとリビングで過ごしていると。

 

「…少し、出てくる。」

 

キンジ君が不意に立ち上がり、出て行ってしまいました。

 

「私も行こっか?」

「いや、いい。」

 

白雪さんもついて行こうとしたものの、キンジ君はぶっきらぼうにこれを断っていってしまいました。

…少し、気になりますね。

 

「…私も出かけてきます。」

 

そう軽く一声かけると、私もまた出ていくのでした。

…キンジ君を追って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…キンジ君。」

「詩穂か。」

 

早足で歩くキンジ君に小走りで追いつき、隣を一緒に歩きます。

どうやら…目的は散歩では、ないようです。

目的地は、なんとなくですが第2女子寮でしょうか。

でも、どうしてそんなところに…?

 

「…少し、見えたんだ。」

「何がですか?」

「……スコープの、反射光が。」

「………!!」

 

スコープの、反射光。

これの意味するところは…すなわち。

 

「…誰かに、監視されているってことですか?」

「そこまではわからん。だが…釘を刺しておこうか、と。」

 

確かに、監視されていながら生活するのも居心地が悪いです。

それに監視されているということは…監視する、動機というものが多かれ少なかれあるものです。

…考えたくはないですが、カナさん絡みの可能性も考慮しなくてはいけません。

 

「…いつから、ですか?」

「それもわからん。さっき気付いたからな。」

「さっき…?」

「ああ。その……軽く、ヒスってたんだ。」

 

……ああ、なるほど。

白雪さんや理子ちゃんのバニーで興奮しちゃったわけですか…。

アリアさんで…ではないと信じたいです。

 

そんなこんな、少し物騒な話をしているうちに。

…第2女子寮の最上階へ。

 

「…確か、この部屋だったんだが…。」

「うーん…表札がありませんね。」

 

辿り着いた部屋は、表札もなく…人の気配すらしません。

場所的に1人部屋なんですが…?

 

ピンポーン…。

 

ドアチャイムをとりあえず押してみました。

…すると、数秒後に。

 

ガチャ…。

 

玄関が開き。

 

「……………。」

 

無言のレキさんがいつもの感情のない目で、立っていました。

…レキさんが…?

 

「…少し、話いいか?」

「………………。」

 

キンジ君の問いに何も答えず、部屋の中に戻っていくレキさん。

…えっと。

 

「は…入っていいってことでしょうか…?」

「ああ…多分。」

 

相変わらず、何を考えているのかさっぱりわからない人です。

というかコミュニケーションを取ること自体難しいです…。

 

 

 

 

室内を見て、最初に感じたものは…空虚さ、でした。

テーブルはおろか箪笥もベッドすらもありません。

 

…な、なんでしょうか。

夏なのに寒気すら覚えます。

まるで…人の住んでいるようには見えません。

 

「…おい、レキ。」

「はい。」

 

キンジ君も居ても立ってもいられなくなったのか、さっさと用件を切り出します。

 

「さっき…俺の部屋を見てただろ。」

「はい。」

 

いともあっさり認めるレキさん。

「…どうしてだかは知らないが、もうやめろ。いいな?」

「はい。」

 

…これもまた、あっさり承諾するレキさん。

うーん…まるでロボットと会話しているみたいです。

ロボット・レキとかいうあだ名が広まっていましたが、あながち間違いではないのかもしれません。

 

レキさんは愛用の狙撃銃であるドラグノフを抱えると。

 

「…ハイマキ。おいで。」

 

レキさんが隣の部屋に向かって声をかけます。

すると、隣の部屋から。

ゆったりと、大柄のオオカミが出てきました。

 

……この子は確か。

 

「…あの、工事現場の時の…。」

「はい。」

 

小夜鳴先生…ブラドの『飼い犬』であるコーカサスハクギンオオカミ。

ついこの前武偵校に侵入してきたものをレキさんが手懐けていたんでしたっけ。

 

「……話は、それだけですか。」

「あ…ああ。それだけだ。」

 

レキさんは抑揚のない声でそう言いながら、壁際に体育座りでもたれ掛かります。

キンジ君もこれ以上言うことはないと判断したのか、そそくさと出ていく準備を始めてしまいました。

…やはり、こんな無気質な部屋にいたくないからでしょうか。

それとも…レキさんとはいえ、女の子の部屋だから?

 

とかなんとか考えているうちにキンジ君が行ってしまいます。

 

「…で、ででではまた!」

「――私からも1つ、いいですか。」

「…は、はい、なんでしょう?」

「カジノの警備をするそうですね。」

 

レキさんはこちらを向きもしないまま、淡々と言います。

…ここに来てから緊張しっぱなしです。

傍で気持ちよさそうに寝そべる銀狼が、唯一の癒しでした。

 

「私も、やります。」

「………え?」

「風を、感じるのです。――熱く、乾いた、邪な風を。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのあとは、何事もなく帰りました。

カジノの警備まで、2週間。

どことなく嫌な雰囲気を感じながらも…。

しかし何も起こらず、警備当日を迎えるのでした……。




読了ありがとうございました!!



今回の話は…いかんせんよくわからないテンションで書ききったものなので、急展開やらなんやらが多かった気がします…。
今後は気を付けて書いて行かないとですね…。
申し訳ありません。




ご感想・ご意見・評価・誤字脱字等の指摘を心よりお待ちしております。
批判や罵詈雑言等も是非送ってくださると嬉しいです!

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