緋弾のアリア 残念な武偵   作:ぽむむ@9

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第20話です。


…もう、察しは付いていると思います。
私の更新速度が、話数を重ねるたびに遅くなっていることを…。
ご迷惑をおかけしますが、これからも見放さないでもらえると嬉しいです…。


今回の話は、割と色々な話が折り重なっています。
グルグルと場面が変わるので、読みにくかったら申し訳ないです…。


第20話 おおかみとれきさんです

『紅鳴館』への潜入作戦が決まった、翌日…。

 

理子ちゃんから、『大泥棒大作戦』の詳細がメールで届きました。

普通なら私に直接言うはずですが、メールで届いたということは同じようにキンジ君とアリアさんにもメールで作戦内容が届いていることでしょう。

 

で、詳細ですが。

どうやら理子ちゃんは事前に色々と『仕込み』を終わらせていたそうです。

 

まず、『紅鳴館』のハウスキーパーが3人ほど元々館で働いていたそうですが…。

その3人とも急に館を暫く空けてしまうことになったので臨時のハウスキーパーを『紅鳴館』が募集していたという事実が発覚。

これを好機と見た理子ちゃんは早速派遣会社を装って接触していました。

そして見事3人分の採用通知を持って帰還。

 

…という流れで、かなり自然に『紅鳴館』に潜入できる準備が整っていました。

 

そして、メールにはこれらの顛末のほかにもう1つ、書かれていることがありました。

それは…。

 

個々に課された潜入訓練の内容、でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

潜入訓練と称して、私は今…理子ちゃんと一緒に救護科(アンビュラス)棟の一階第七保健室にいます。

 

「理子ちゃん…これのどこが潜入訓練なんですか?」

「え?えーっと、まぁ待ってればわかるよ。」

 

と、楽しげに笑う理子ちゃん。

どうやら理由も教えてはくれないようです。

 

…そして、しばらく経つと。

 

ガチャ、とドアの開く音。

そして…。

 

「だよねー。」

「ですよねー。」

「あそこで手榴弾投げるのはないわー。」

「それと便座カバー。」

 

どやどや、と武偵高女子の皆さんが保健室に入ってきました。

…え?

どういうことですか?

 

「…え、理子ちゃん?」

「うん、まぁ話を聞いてればわかると思うよ。」

 

理子ちゃんは混乱する私にまだ説明をくれません。

すると、入ってきた女子の皆さんの中に、何人か知り合いを発見しました。

 

「…アリアさん、レキさん。」

「あら、詩穂じゃない。」

「…………。」

 

アリアさんは私に気付いて、私のそばに来てくれます。

対してレキさんは、まぁ予想通りではありますが…こちらを一瞥しただけで特に反応は返ってきませんでした。

 

…そういえば、レキさんとはバスジャックの事件以来まともに話していませんね。

いえ、あの時もまともに会話なんてしていませんでしたが…。

 

「詩穂も再検査なの?」

「へ?再検査って…。」

「そーなんだよ!理子と一緒に来たんだよね!」

 

アリアさんの聞き覚えのない発言に言葉を返そうとしたところで、理子ちゃんに遮られてしまいました。

…はて?

 

「いえ、私は何でここに…もがっ!」

「そーいうことだからっ!服でも脱いで待ってたら?」

「服?なんでよ。」

「検査するんだから服脱いでとーぜんだって、アリアんや!」

「…まぁ、確かにそうかも…?」

 

私が何かを喋ろうとする前に、理子ちゃんに口を塞がれてしまいます。

そしてそのままアリアさんを適当にあしらった理子ちゃんは、私を連れて部屋の隅に行きます。

 

「……ぷはっ!もー、何するんですか?」

「いやいや…察しが悪いなぁ、詩穂。」

「……?」

 

いえ、察しが悪いと言われましても…。

今の状況がさっぱりわかりません。

 

理子ちゃんは人差し指を左右に振りながら、少しおどけたように話します。

 

「ちっちっち…。このぐらい察してもらわないと。」

「ええー…。」

「…この前、中間テストの時ついでに身体測定もやったよね?」

 

理子ちゃんはヤレヤレ、と言った様子でようやくこの状況を話し始めました。

ヤレヤレはこっちですよ…。

 

「そのときに何人か再検査に引っかかったんだ。」

「理子ちゃんも、アリアさんもですか?」

「うん。」

「…で、これのどこが潜入訓練なんですか?」

「え?」

「…え?」

 

…あれ?

私は確かに、理子ちゃんに潜入訓練として呼ばれたわけで…。

理子ちゃんは数瞬キョトン、としたあとふと我に返ったように慌てて言葉を続けました。

 

「あ、ああ!うん、そ、そうだよ、潜入訓練!詩穂が呼ばれてもいないのに再検査に来ている事がバレないように…。」

「理子ちゃん。」

「ハイ。」

「…これ、潜入とかどうこうじゃなくて、私と一緒に居たいだけですよね?」

「…ハイ。」

 

というわけで。

私は結局、意味なく再検査会場であるこの保健室に来てしまったようです…。

 

「詩穂ー?理子ー?あんたたち、そんな奥で何してんのよ。」

「あ、アリアさん。なんでもないですよ?」

 

アリアさんが呼びにきたので、とりあえず理子ちゃんに意味なく呼ばれた件は置いておきましょう。

 

…ああ、そういえば今日はオンゲーのアプデの日でした…。

あとで理子ちゃんに文句を言っておきましょう。

 

「…って、アリアさん、なんで脱いでるんですか…。」

 

呼びに来たアリアさんは何故か下着姿でした。

トランプ柄のどこか子供っぽい下着がアリアさんらしくて可愛いです。

 

「身体検査の再検査なんだから当たり前でしょ?」

 

どや、と言う感じでアリアさんが胸を張ります。

…アリアさん、理子ちゃんに言われたことをまるで自分が発案したかの如く…。

 

…というか、身体検査は普通体育着で受けるものでは…?

しかし、そこはあまり頭のよろしくない武偵高生徒の皆さん。

アリアさんが脱いだのをきっかけに回りの娘たちも次々と脱ぎ始めました。

 

「理子ちゃん、体育着は…?」

「え?ないよ?」

 

気が付くと理子ちゃんも下着姿になっていました。

そして見渡すと…私を除く保険室内の全員が既に脱いでいます。

 

…あれ?

もしかして、私のほうが間違ってる…?

 

「あれ?詩穂、脱がないのー?」

 

理子ちゃんがニヤニヤしながら近づいてきました。

この人絶対わかって言ってますよね…!

 

「ねぇねぇ、しぃほー♪」

「ふ、服を掴まないでくださいっ!伸びちゃいますー!」

 

と、理子ちゃんとミニコントをしていると。

 

「…あら、陽菜。あんたも再検査なの?」

 

アリアさんが知り合いを見つけたらしく、声をかけています。

アリアさんに呼ばれた女の子は少し周りを見渡したあと、アリアさんに気が付いたらしくこちらにやってきました。

 

「……神崎殿。あかり殿の一件以来で御座るな。」

「あの時はウチの戦妹(イモウト)が世話になったわね…。」

 

…そして、なにやら内輪話的な会話が始まってしまいました。

この方は、確か…。

 

風魔(ふうま)陽菜(ひな)さん。

諜報科(レザド)の1年生さんで、ランクは確か…Bランク。

よくは知りませんが、なにやら高名な忍者一族の末裔らしいです。

喋り方もどことなく忍者っぽくて…不思議な方です。

実力は相当高いらしいのですが、どうしても詰めが甘かったりしてBランクだ…とキンジ君は言っていました。

 

そして、キンジ君の戦妹(アミカ)でもあります。

だから無駄に情報を集めてしまっているわけですが…。

 

戦徒(アミカ)制度、とは。

別名戦姉妹(アミカ)戦兄弟(アミコ)とも呼ばれる武偵高ならではの制度の1つです。

先輩、後輩のペアで申請するツーマンセルの制度で、主に先輩が後輩を教えることで双方の能力上昇を目的としています。

先輩は、後輩をこき使える。

後輩は、先輩から技術や能力を学べる。

なんともおいしい制度故に結構この制度を利用している生徒さんは多いそうです。

ちなみに契約期間は1年間。

 

基本的に後輩から先輩に申請するものなのですが…。

残念ながら、私には戦妹(イモウト)戦弟(オトウト)もいません。

…つまり、まぁ、そういうことです。

 

「え、えっと…アリアさん、その方は?」

「ああ、1年の風魔陽菜よ。陽菜、こっちはあたしの、とっ友達の…茅間詩穂。」

 

一応初対面なので、知らないフリをして話しかけてみることにしました。

実際、話すのは初めてですしね。

 

アリアさんは律儀に紹介をしてくれますが…『友達』のところで少し顔を赤くしてしまう辺り、可愛い方です。

 

「えと…はじめまして、風魔さん。茅間詩穂と申します。」

「お初に御目にかかる、某は風魔陽菜と申す。以後、お見知りおきを。」

 

お互いとりあえず自己紹介して、頭を下げ合います。

よかった、最近まともに知り合いが増えてきて…!

 

「その…茅間殿。師匠のお部屋におわす、と聞き及んだので御座るが…。」

「あ、えっと…その、色々ありましてですね…。ハイ、住んでいます…。」

 

風魔さんが少し聞きにくそうにちょっと答えづらい質問をしてきました。

何故か後輩にも少しうろたえてしまう私、情けないです…。

 

「…ふむ、失礼致した。しかし…某が遠山師匠のことを『師匠』とお呼びしていることを、なぜ知っておられる?」

「………あ。」

 

風魔さんは打って変わって、少し訝しげに眉を顰めます。

……やっちゃいました。

鋭いですね、さすが諜報科…。

 

「え、あのですね…。…ごめんなさい、隠していたわけじゃないんですが…。キンジくんから、少し…。」

「そうで御座ったか。重ねてのご無礼をお詫び申す。」

 

正直に話すと、風魔さんは納得してくれたようです。

う、うーん…。

やっぱり諜報科の生徒さんはやりづらいです…。

元々強襲科は諜報科と相性が悪いのですが…。

私もどうやらその例に漏れないようです。

 

「…しかし、あの師匠が同居を許可するとは…某も頼み込めば…ブツブツ…。」

 

それきり、風魔さんは独り言を呟きつつ元いた場所に戻っていってしまいました。

そんな彼女も下着姿。

しかも褌付けてますし…。

…なんですか、この破廉恥というかカオスな風景…。

 

と、ここで。

なにやら理子ちゃんが体重計に肘をつき、ポーズを取っていることに気が付きました。

…なぜ?

 

「理子ちゃん、何でポーズをとってるんですか?」

「へっ!?あ、ああ、折角下着姿になったんだからさ?」

 

なぜに疑問系?

そんな理子ちゃんのケータイが不意に鳴りました。

理子ちゃんはその内容を見ると…すぐさま返事を書き、元の位置に戻します。

 

「そ、そんなことより!アリアー、スリーサイズ測らせてー!」

「なんでよ!」

 

理子ちゃんはごまかすようにアリアさんを弄りに行ってしまいました。

 

…さて。

どうしたものでしょう、脱ぐべきか脱がざるべきか…。

 

うーん…………。

 

結論。

恥ずかしいので、もうしばらく様子を見ることにしましょう、うん。

 

…とすると、やる事がありませんね…。

しばらくボーっと騒いでいる女子の皆さんを見ていると…。

 

「……あれ?」

 

違和感に、気が付きました。

ここにいる女子の皆さんには、共通点があります。

…全員、ランクが高い。

少なくとも風魔さんを除いて全員がAランク以上です。

 

そして、私の知る限り…ほとんどの人が、いい()を持っている事が予想できます。

アリアさん、理子ちゃん…。

風魔さんや、装備科で有名な平賀さん。

レキさん…はちょっとわからないですけど。

 

…一体、どういうことなのでしょうか…?

私は思考に感覚を奪われ、しばらく考え込むのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩穂→キンジ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は今、ロッカーの中に潜入している。

何故かって?

俺も知らん。

 

理子から来たメールには、『紅鳴館』に潜入する詳細と…『潜入訓練』なるものの内容が書いてあった。

 

そしてその内容どおり救護科の第七保健室、指定のロッカーの中に入ってみると…。

 

「よぉ、キンジ。お前もノゾキか?」

 

先客の武藤(バカ)がいた。

こんなバカと一緒にいるのはゴメンだとロッカーを出ようとすると…。

 

ガチャ。

 

「理子ちゃん…これのどこが潜入訓練なんですか?」

「え?えーっと、まぁ待ってればわかるよ。」

 

…聞き覚えのある声が聞こえてきた。

詩穂と理子だ。

咄嗟に開こうとしていたロッカーの扉を閉め、武藤の顔を再び見ることになる。

 

…これで、引くに引けなくなった。

 

「キンジもノゾキに来たんだろ?女子の再検査。」

「断じて違う、とだけ言っておこう。」

 

などと武藤と無声音でバカ話に興じていると…。

 

「だよねー。」

「ですよねー。」

「あそこで手榴弾投げるのはないわー。」

「それと便座カバー。」

 

更に女子が増えた。

逃げ出すことは絶望的、か…。

 

そんな俺の表情を見て察したのか、武藤はドヤ顔で語る。

 

「安心しろキンジ。外のノゾキ防止用の茂みに俺の自慢の迷彩塗装バイクが置いてある。 バレたら2ケツで逃げんべ。」

 

コイツ、どうしようもないことで武偵のスキルを発揮するな…。

 

「…アリアさん、レキさん。」

「あら、詩穂じゃない。」

「…………。」

 

外からまた聞き覚えのある声が聞こえた。

ロッカーの隙間から外を覗いてみると…レキと、アリアの姿が。

…しかも、よくよく見てみたら風魔や平賀さんの姿まで見える。

こいつらと言い、どうしてこう知り合いが集まってくるんだ…?

 

「詩穂も再検査なの?」

「へ?再検査って…。」

「そーなんだよ!理子と一緒に来たんだよね!」

 

詩穂達が話している。

…よくよく考えたら詩穂と理子はほとんど一緒にいるな。

あいつら、同時に再検査に呼ばれたのか?

 

「いえ、私は何でここに…もがっ!」

「そーいうことだからっ!服でも脱いで待ってたら?」

「服?なんでよ。」

「検査するんだから服脱いでとーぜんだって、アリアんや!」

「…まぁ、確かにそうかも…?」

 

おい、理子!

何てこと言ってやがるんだアイツは!

 

隣で武藤が「うはっ!峰さんナイス!」とかほざいてやがる。

こっちは迷惑だ、病気(ヒス)のことを考えてくれ!

 

アリアはアリアでマジで服を脱ぎ始めた。

急いでロッカーの隙間から顔を外し、目を瞑って深呼吸を開始する。

…よし、早期に対応できたおかげで血流は大丈夫だな…。

 

「おい、いいのか?神崎さんが脱いでるぜ?」

 

余計なことを言うな!

このバカ、あとで蘭豹にでも突き出してやろうか…。

とりあえず、武藤には視線で拒否を示しておく。

 

そんなことをしているうちに、詩穂と理子の声が遠ざかっていく。

どうやら離れていったらしい。

 

…まぁ、覗かなければ大丈夫か。

というわけで、しばらく瞑想に浸っていると…。

 

ブルブルッ!

 

マナーモードにしていたケータイがポケットで震えた。

内容を確認してみると…なにやら絵文字ばっかりのすごい読みにくいメールが送られてきた。

送り主は…理子。

何とか内容を読んでいくと…どうやら俺に覗いているかの確認をしたいらしい。

 

そこで…2通目が来た。

 

『理子の下着の色を当ててごらーん?制限時間は10秒!答えられなかった場合は、アリアにこのことをチクりまーす。』

 

ふざけんな!

アイツは…どうやら、俺のことをヒステリアモードにしたいらしい。

 

だがとやかく言っていられないのも事実。

天下の鬼武偵・アリアにノゾキがばれたら…武藤ともども命が吹っ飛ぶ。

 

「ど、どけっ!」

 

仕方なくバカを押しのけ、理子を探す。

見渡してみると、下着姿の女子がうじゃうじゃいやがる。

なんだこいつら、アリア1人が脱いだだけで全員乗ってんじゃねぇよ!

 

平賀さんに目が留まる。

…クマさんがプリントしてあった。

これで性的に興奮するやつは病院を紹介する。

 

レキに目が留まる。

…木綿の真っ白な下着だ。

本人に色気が一ミリもないためセーフ。

 

風魔に目が留まる。

褌だった。

アホかアイツは。

 

そして…とうとう理子を発見した。

こっちに目を向けて、わかりやすくポーズまでとっている。

色は…ハニーゴールド、としか表現できないような金色。

 

早速打ち込み、送信する。

 

「理子ちゃん、何でポーズをとってるんですか?」

「へっ!?あ、ああ、折角下着姿になったんだからさ?」

 

当の理子は、詩穂に怪しまれてアタフタしていた。

ざまぁ。

 

そして、返信が来た。

 

『おk』

 

…全く、とんだ災難だった…。

 

と、そこで詩穂にも目が留まる。

…制服を、着ている…。

 

さすがに詩穂、だった。

あいつは恥ずかしがりで、かつ冷静に状況を判断できるからな。

 

「そ、そんなことより!アリアー、スリーサイズ測らせてー!」

「なんでよ!」

 

…そして、詩穂のせいで油断していた。

視界に、下着姿のアリアがいて…。

 

そして気がつけば、ヒステリアモードになっていた。

本当に自然に、簡単に。

 

ど…どういうことだ?

こんな、簡単に…?

 

「…悪かったな、武藤…。」

 

俺にスキマを取られふてくされていた武藤に謝りつつ、背面の壁に背を預ける。

…まぁ、別になっても困るのは近くに女子がいる場合だけだ。

ここには武藤しかいない。

落ち着いて、ここで静かにしていよう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジ→詩穂

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ。

不意に、保健室の扉が開きました。

 

「…ぬ、脱がなくていいんですよー!?再検査は採血だけなんですから!服を着てください!」

 

救護科(アンビュラス)の非常勤講師、小夜鳴先生でした。

どうやら今回の再検査の担当の先生が、彼だったようですね。

 

…というか脱がなくてよかった…。

 

「…りぃーこぉー?脱がなくってよかったじゃない…!」

「あはは?ミスっちゃった♪」

 

恥ずかしかったのか、アリアさんは顔を赤くしながら理子ちゃんに掴みかかっていました。

その理子ちゃんはてへぺろ、と言った風にのほほんとしています。

 

「…おりゃっ!」

「ぐえっ!」

 

あ、アリアさんのスープレックスが決まったぁーっ!

理子ちゃんは一応受身は取ったようですが、衝撃で目を回しています。

それ以外の女子の皆さんは服を取りに行ってしまいました。

 

…いえ。

1人だけ、動かない女子が。

 

――レキさん。

 

「……………。」

 

その視線は窓の外…その一点のみに固定されています。

 

…………。

 

レキさんの周りだけ、時が止まってしまったかのように。

静寂が、彼女の周りを包んでいるような錯覚さえ覚えます。

 

…………。

 

…しかし。

よく見てみると、本当に綺麗な方です…。

まるで吸い込まれてしまいそうな琥珀色の瞳には、何の感情も燈っていないように思えてしまいます。

でも、その悲しい瞳すら、美しさを際立たせているような…。

 

…と、見とれてしまっていた次の瞬間。

 

―ダッ!

 

レキさんが、1つの大きなロッカーに向かって走り出しました。

そして…。

 

ばんっ!

 

ロッカーを思い切り開け放ちました。

 

「うおっ!?」

「なっ…!」

 

そして中にあった何かをグイッと引っ張ります。

…あれ?

今、2つぐらい男の人の声が聞こえたような…?

 

しかし。

そんなことはどうでもよくなるような、驚くべき事態が起こりました。

 

 

 

 

――がっしゃぁぁぁぁん!!

 

 

 

 

窓ガラスが大きく音をたてながら割れ、灰色の物体がロッカーをふっとばしました。

 

…一瞬の出来事。

その瞬間を、いつもより緊迫した頭が理解します。

 

…レキさんがロッカーから引っ張り出したのは、ロッカーの中に何故かいたキンジ君と武藤君。

この際何故いたのかは置いておきましょう。

 

窓ガラスを割り、ロッカーを吹っ飛ばしたのは…灰色の物体。

灰色の物体はそのまま窓ガラスの近くに素早く移動し、ようやくその素早い動きを停止します。

 

「…ウソ…だろ…?」

 

武藤君が呟きます。

その声を聞き、武藤君の状況を確認します。

 

…彼は、吹っ飛ばされたロッカーに片足を下敷きにされていました。

しかし彼は武偵。

即座に状況を判断し、己の拳銃…コルト・パイソンを灰色の物体に向けています。

 

武藤君が銃を向ける、その先。

 

「グルルルル…。」

 

…唸る、低い鳴き声。

灰色の物体の正体は…オオカミ、でした。

 

圧倒されてしまうような強烈な威圧感。

巨大で厳つい体躯。

 

それは…強襲科の教科書に載っていた猛獣、コーカサスハクギンオオカミに違いありませんでした。

 

「…お前ら、早く逃げろッ!」

 

武藤君は思い出したように女子の皆さんに声をかけると…。

 

ドォン!

 

コルト・パイソンの大砲のような音を響かせながら、オオカミの足元に威嚇射撃を放ちます。

 

…通常、動物は大きな音や光に怯みます。

しかし、それが何だといわんばかりにオオカミは怯みません。

それどころか…まだ防弾制服を着ていない、女子の皆さんのほうに突っ込んで行きます。

 

「武藤!銃を使うな!女子が防弾制服を着ていない!跳弾するぞ!」

 

キンジ君は…武藤君に警告しつつ、オオカミに掴みかかりました。

…どうやら、ヒステリアモードを発現しているみたいです。

 

「…っく!」

 

しかし、女子の皆さんから軌道をずらせたものの…。

キンジ君はその巨体から繰り出される体当たりに吹き飛ばされてしまいます。

 

そして、オオカミは今度は…。

標的を、窓際に立ちオロオロしている小夜鳴先生に変更しました。

 

「…!ダ、ダメですっ!」

 

非常勤である小夜鳴先生は戦闘能力を持ちません。

唯一、防弾制服を着ていて安全性の高い私は…。

 

オオカミの体に飛びつくようにして、その進行を止めようと試みました。

 

「…グルオオンッ!」

 

勇気を振り絞った結果、小夜鳴先生に危害が加わるような進行方向は避けられたようです。

 

…しかし。

 

「え?ちょ、ちょっとっ!?」

 

私を背に乗せたまま、オオカミは窓の外へ走り出します。

…そしてそのまま、驚異的に加速しながら市街地のほうへ…!

 

「追いなさい、キンジ!」

 

アリアさんの叫ぶような声は、ドンドン後ろに遠ざかっていくのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃああああああ!?」

 

もはや車のような速度で走るオオカミの背に、必死にしがみつきます。

ここで振り落とされたら…それこそ、命に関わります!

 

…しばらくして、オオカミは工事現場のような場所に入っていきました。

そして、そのまま今度は…。

 

たん、たたんっ。

 

驚くような身軽さで、工事に使われていたであろう足場を跳躍し、登っていきます。

 

「…うあっ!あうっ!」

 

当然、背中に引っ付いている私はガクンガクンと強く上下に揺さぶられるわけで。

 

「…あっ。」

 

そして、その衝撃に耐え切れず…。

私の腕は、あっさりとオオカミの体を離してしまいます。

 

…当然、空中に投げ出されるわけで。

 

「…………!」

 

恐怖のあまり、口を含む身体の動きが停止してしまいます。

 

…一瞬の浮遊感。

 

 

そして…体が、落下します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ドサッ!

 

…誰かに身体を、受け止められました。

優しく、しかししっかりと。

 

お姫様抱っこで。

 

もはや恐怖は消し飛び、安心感に覆われます。

温かい…腕の、感触。

 

「全く…いつもいつも、詩穂は見ていて危なっかしいよ。」

 

まだヒステリアモードの続いていたらしいキンジ君の、甘い声が響きます。

少しだけ苦笑いを含んだ微笑を浮かべるキンジ君の顔を見て、今の状況が気になりました。

 

…今現在の、私の状況を確認すると。

キンジ君にお姫様抱っこで抱えられています。

 

そのキンジ君は…バイクに、跨っています。

…なぜ?

状況を確認してみたのはいいものの、全くと言っていいほど何もわかりませんでした。

 

しかし、そんな些細な疑問を掻き消すように。

 

「…私は一発の銃弾。」

 

すぐ横で、レキさんの歌うような声が聞こえました。

 

「銃弾は人の心を持たない。」

 

視線でその声を追うと…。

レキさんは下着姿のまま、バイクの座席の後ろ部分に立っていました。

恐るべき、バランス感覚です…。

 

「故に、何も考えない。」

 

レキさんの持つ狙撃銃…ドラグノフの銃口の先には。

先程私が掴まっていた、コーカサスハクギンオオカミの姿が。

 

「ただ、目的に向かって飛ぶだけ…。」

 

 

 

 

 

――タァン!

 

 

 

 

鋭い、銃声が響きます。

その銃弾を受けたはずのオオカミは…。

 

しかし、止まることなく足場を登りきって、最上階…作り途中の、屋上に行ってしまいました。

 

「…レキが、外した…?」

 

キンジ君が驚いたように呟きます。

対するレキさんはいつもの無表情でバイクから降りました。

 

「…外していませんよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちもオオカミを追って屋上に登ると。

 

「グ…ルルゥ…。」

 

白銀に光る体毛のオオカミが、威嚇するように立っていました。

…しかし、数瞬後。

 

ドサッ…。

 

突然、力無く横に倒れこんでしまいました。

 

「…ええ?ど、どうして…?」

 

混乱し、何がなんだかわからなくなります。

…横を見ると、キンジ君もよくわかっていない様子で首を捻っています。

私達の混乱をよそに、レキさんは倒れ伏したオオカミに歩み寄ります。

 

「…脊椎と胸椎の中間、その上部を銃弾で瞬間的に圧迫しました。」

 

レキさんは、語りかけます。

他でもない、私たちを襲ったはずのオオカミに。

 

…ていうか、今やたらとすごいことを言っていませんでしたか?

 

「今、あなたは脊髄の機能が一時的に麻痺しているので、首から下は動けません。ですが…5分もすれば、元のように動けるようになるでしょう。」

 

諭すようでもなく、脅すようでもなく。

レキさんはただ淡々と、オオカミに語りかけます。

 

「逃げたければ逃げなさい。ただし次は…私の矢が、あなたを射抜く。」

 

…オオカミは、まるでその言葉を理解しているかのように…。

クゥン…。

弱々しく鳴きます。

 

「…主を変えなさい。今から、私に。」

 

オオカミは、いつの間にか麻痺が解け…。

弱々しく、レキさんに頭を垂れ、追従の意を示しました。

 

…驚くべきことに、レキさんは。

たった数分で猛獣を…それも、おそらく他人によって訓練されたオオカミを手懐けて見せました。

 

「…一件落着、だな。」

 

段々私にもわかるようになってきました。

…いま、キンジ君はヒステリアモードではない。

 

「どうするんだ?そのオオカミ。」

「飼います。」

 

こともなさげにレキさんは答えます。

…しかし、問題点がたくさんあるような…?

 

「あ、あの、レキさん…。女子寮ってペット禁止では…?」

「では武偵犬とします。」

 

…武偵犬。

探偵科や鑑識科の武偵が捜査によく用いる、警察犬のようなものですが…。

 

「…それは、オオカミだろう?」

 

キンジ君が呆れたように突っ込みます。

しかしレキさんはどこ吹く風。

 

「お手。」

「ガゥ。」

 

オオカミと戯れていました。

…まぁ、レキさんがそれでいいならいいのかな…?

 

「…まぁ、その、なんだ…。」

 

キンジ君が非常に言いづらそうに視線をレキさんから逸らしました。

 

…あ、なるほど。

 

「…とりあえず、服を着てくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…場所は移り、始めにいた保健室にて…。

レキさんが服を取りに行くということで、その付き添いに来ていました。

 

「…レキさん。」

「はい。」

 

オオカミ事件のあと。

私は…1人、女子寮にとっとと戻ろうとするレキさんを制止します。

 

「…少し、お話をしてもいいですか?」

「構いません。」

 

…うぅ、やっぱり少しレキさんは苦手です…。

ただでさえ私はコミュ障なのに…。

 

「こほん…。えっと、初めてレキさんに会ったとき…レキさん、私のことを知っていましたよね?」

「はい。」

 

…割と、すんなり認めてくれました。

しかし、その後に言葉を続ける気はないようです。

 

「…私を、どうして…。いえ、私の何を知っているんですか…?」

「…………。」

 

思い切って、聞いてみました。

しかし…返答は、ありません。

 

「…あの、レキさん…?」

「今は。」

 

急に、電源が入ったようにレキさんが話し始めます。

 

「今は、知るべき時ではない。今は、語るべき時ではありません。そう…風が、言っています。」

「…はぁ…。」

 

…な、なんでしょう…?

電波な方なのかな…?

 

しかし、電波というにはあまりにも本質的で…。

 

レキさんの底知れない何かを感じ、背筋に悪寒が走りました。

 

「……では。」

 

レキさんはそれきり、何も語ることなく保健室を出て行ってしまうのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…男子寮に辿り着き、部屋に戻りました。

白雪さんがまだ帰ってきていないので、夕飯の支度をして…。

掃除、洗濯、お風呂などの家事を一通りさっとこなします。

 

そして、アリアさんもキンジ君も寝静まった深夜…。

 

私は、いつもの悪い癖を実行していました。

 

「…レキ、さん。」

 

彼女についての情報を調べようと、理子ちゃん特製ソフトを起動します。

…しかし、レキ、と検索しても…。

 

ガレキオバケだのレキシマスター大百科だのがヒットするだけで、全くと言っていいほど絞り込めません。

 

頑張って探して、検索ワードとかも絞り込んで探してみましたが…。

 

苗字も不明、出身校も不明、出身地も年齢も何もかも…。

 

不明、不明、不明…。

 

「…うそ、でしょう…?」

 

この事が意味するのは、今までのことからしてただ1つ。

 

――レキさんは、イ・ウーに所属している…!?――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…翌日。

今日は休日であり、梅雨も手伝ってか…雨が少し強い日、です。

私は叶さんと明音さんの部屋に赴いていました。

 

…聞きたい事が、山ほどあります。

 

コン、コン。

…ガチャ。

 

「…ああ、詩穂か。そろそろ来るんじゃないかって思ってたぞ。」

「今…時間は、大丈夫ですか?」

「問題ない。入ってくれ。」

 

叶さんに促され、部屋の中へ…。

 

相変わらずファンシーで可愛らしい部屋は、しかし何故か落ち着きます。

明音さんがお盆に紅茶を乗せて運んできてくれました。

 

「はいー、詩穂ちゃんー。」

「ありがとうございます。」

「いいのいいのー。お客さんなんてー、詩穂ちゃんしか来ないからねー。」

 

紅茶をテーブルの上に置くと、明音さんは…。

叶さんの隣に、腰掛けました。

前回とは違って、今回は彼女も話をしてくれるみたいです。

 

「それで…オレたちに聞きたいことは何だ?」

「…えっと…。」

 

頭の中で、整理します。

聞きたいことは…。

……よし。

 

「まず…『魔剣』の時のことです。あの時は助けていただいて、ありがとうございました。」

「いや。大したことはしてない。」

 

私が『魔剣』を追う時、叶さんが教えてくれたのでした。

…白雪さんが、地下倉庫(ジャンクション)にいることを。

 

「些細なことで申し訳ないんですが…どうして、わかったんですか?」

「…ああ、アレはアカネが教えてくれたんだ。」

「明音さんが…?」

「うんー。わたしがカナちゃんにー、教えましたー。」

 

明音さんはいつもどおりニコニコしながら間延びした声で答えます。

 

「それは…どうやって?」

「見たからかなー。白雪ちゃんがー、地下倉庫に入っていくのをー。」

 

明音さんは表情1つ崩さず、平然と答えました。

…それって、つまり…。

 

「…たまたま、ってことですか?」

「まぁー、そんなとこかなー。」

 

…うーん、何と言うか…。

偶然が偶然を呼んで、私は白雪さんの元に辿り着いていたようです…。

 

「ま、100%たまたまでもないがな。」

 

叶さんが補足するように言います。

 

「言ったろ?オレたちはイ・ウーの命令で、この学校に『スパイ』しに来てるんだ。」

「あ…。」

 

すっかり忘れていました。

彼女たちは『二重スパイ』。

すっかり味方だと思っていましたが…表面上では、武偵高の敵に当たるわけです。

 

「そういうわけだから、この学校にはオレたち独自の情報網や監視システムをたくさん置いてある。」

「い、いつのまに…。」

 

しかも、その辺の学校や企業にそういったものを仕掛けるのとはワケが違います。

ここは、武偵高。

タマゴとはいえ武偵が何百人ともいる、いわば武偵の巣窟です。

そんな場所である武偵高に、誰にもバレずに監視システムを大量に配置してある、と彼女は言うのです。

…それが、一体どれほど恐ろしいことか…。

 

改めてこの2人の脅威を感じました。

敵に回さないで、本当によかった…。

 

「その監視システムとかを使って星伽白雪が地下倉庫に向かうのを確認した…ってわけだ。」

 

な、なるほど…。

だからケースD7なのに彼女たちは知っていたのですね…。

……しかし。

 

「…そ、そんなこと私なんかに話しても良いんですか…?」

「詩穂ちゃんに言いふらすメリットが無いからねー。」

 

明音さんが、やはり調子の変わらない間延びした声で答えてくれます。

 

「そもそも言いふらしたらわたし達を敵に回すことになるしー、言いふらしたりしたらわたし達の武偵高での居場所がなくなっちゃうからー…詩穂ちゃんとしてはー、わたし達を味方につけていたいでしょー?」

 

…確かに、そうです。

私が言いふらしたりしたら、最悪アリアさんの足を引っ張るどころの話ではなくなる可能性があります。

 

明音さんは…そんなことを計算に入れてまで、私に話してくれたのでしょう。

明音さんを、じっと見つめてみます。

 

「………んー?」

 

しかし、彼女は首を少し傾げるだけで…。

その表情は全く崩れません。

ある意味、レキさんよりも感情が読めません…。

 

「…それだけか?」

「え?あっ、ごめんなさい。」

 

少し呆れたように叶さんが私の話を促します。

…そうでした。

今は、この2人は味方。

そして、情報を得る事が先決です。

 

「…聞きたい事が、まだたくさんあるんです。」

「いくらでも構わん。そういう約束だからな。」

 

私は少しだけ深呼吸をします。

これから、大事なことを聞くための…勇気が、欲しいから。

 

すぅー…はぁー…。

 

…よし。

 

「…イ・ウーに、『レキ』と言う人物はいらっしゃいますか?…もしくは、緑色の髪でヘッドホンをしている方を見かけたことはありますか?」

「…安心しろ、詩穂。」

 

叶さんは諭すように言います。

まるで、私が言わんとしている事を全て見透かしているかのように…。

 

「アイツは味方だ。少なくとも、神崎・H・アリアやお前と敵対するような人物じゃない。」

「……そう、なんですか?」

「ああ。あまり詳しくは話せないが、レキはイ・ウーと敵対関係に当たる組織…いや、集団か?まぁ、そういったところに所属してるんだ。何も懸念することは無い。」

 

…その言葉を聞いて。

 

「…はふぅ…。」

 

肩の力が抜けました。

よかった…。

レキさんと、いずれ敵対するような可能性が…とりあえず消えた事が、何よりも嬉しいです。

 

半分は、レキさんほどの狙撃手と敵対したら、少なくとも私には勝ち目がないという側面においての安堵感。

そして半分は…レキさんという人物と、これからも仲良くしていけるかもしれないという子供っぽい理想。

 

私は、その2つにしばし酔いしれていました…。

 

「……そろそろ、いいか?」

「あ、はい…。すみません。」

 

…そうです。

まだ、聞きたい事があります。

…次は。

 

「えっと…。ブラド、『無限罪のブラド』ってご存知ですか?」

「……ああ。」

 

叶さんは短く答えて、紅茶を口に含みました。

…少し時間を置いた後、彼女の重ためな口が開きました

 

「…このことは、極秘だ。オレ達の立場はおろか…国内でも最重要機密だ。…何があっても、言うなよ?」

「は、はい!」

 

――殺気。

微量ですが、しかし鋭すぎる殺気が一瞬だけ、叶さんから流れました。

もちろんビビッて即答してしまいます。

 

「……『無限罪のブラド』。オレ達東京武偵局が…いや、世界各国の警察組織や武偵局が追っている…特別指定犯罪者だ。」

「……はい。」

「しかしその正体は謎、だ。一部は『怪物』とか言う噂もあるが、真偽は定かじゃない。そもそも実在すらも最近は疑われている。」

「それは…どうして、ですか?」

 

叶さんは少し躊躇うような様子を見せた後…しかし、話してくれます。

 

「…ブラドの噂が流れ出してから、もう120年は経っているからだ。」

「………なっ!」

 

そんな、バカな…!

それは、つまり…。

 

「…そういうこった。もう既に『死亡している』という見解らしい。」

「そんな…でも!」

 

アリアさんは言っていたはずです。

ブラドは、イ・ウーのナンバー2であると。

これはすなわち…まだ、実在している、ということ。

 

「ああ。オレ達も初めて聞いた時は思った。『そんなやつ、もう死んでいるに決まっている』って。でもな…どうも、『いる』らしいんだよな…。」

「イ・ウーに潜入した時ー、確かに誰かが話しているのを聞いたんだよー。ブラドってやつのー…陰口?」

 

明音さんが言葉を引き継ぎます。

 

「『あいつマジ腹立つのじゃー』みたいなー?こんな陰口ー…実在していないと、叩けないと思うんだよねー…。」

 

明音さんはニコニコしたままそういって…紅茶を飲みました。

話はここまでだ、と言うかのように。

 

「…ま、つまりだ。オレ達は残念ながらまだブラドについての詳細を掴んでいない。その話題についてはこんなもんだ。」

「あ…ありがとう、ございます…。」

 

衝撃的ですが、まだなんとか平気です。

120年も生きていると考えると…。

想像したくはありませんが、『怪物』であることも視野に入れる必要があるみたいです…。

超能力(ステルス)が存在しているわけですから、怪物もいてもおかしくありません…。

そう、考えることにしましょう。

 

「…他に、なんかあるか?」

 

他には…ああ、そうだ。

 

「イ・ウー内に『遠山金一』という人物はいらっしゃいましたか?」

「『遠山金一』?そいつは確か…半年くらい前に死亡した武偵だな。」

 

流石に知っていました。

あの事件は、とても大きい事件でしたから…。

 

「…悪いがいなかったな。…ああでも、遠山って聞いて思い出した。なんか長い三つ編みの女がやけにオレに構ってきたな。」

「三つ編みの…女、ですか。」

「ああ。で、オレが武偵高にスパイに行く事が決まった時、そいつはこう言ったんだ。『遠山キンジという子を見かけたら、よろしくね』ってな。」

 

…だから、自己紹介のときに彼女たちはキンジ君のことを知っていたわけですか。

 

…しかし、雲行きが怪しくなってきました。

理子ちゃん曰く、イ・ウーには『遠山金一』が実在する。

しかし、その存在を彼女たちが知らないということは…。

 

彼女たちは、あまりに情報を掴んでいない…。

そんな気がします。

 

…部屋に戻って、考えを整理する必要があるみたいですね…。

 

「…ありがとうございました。今日は、もう聞きたいことは無いです。」

「あ、詩穂ちゃん帰っちゃうのー?」

「はい、お邪魔しまし…。」

「詩穂。ちょっと待て。」

 

帰ろうとした私を叶さんは引き止めます。

…とても、真剣な表情で。

 

「なんですか、叶さん?」

「…多分、オレの推測だけどな。」

 

叶さんは少し申し訳なさそうに語りだします。

 

「…あまりに、オレ達に情報がこなさすぎる。こっちにはアカネがいるのに、だ。」

 

…それは。

私が、さっき思っていたこと。

 

「これが何を表すか…。多分、オレ達がスパイであること自体がバレていると思われる。」

「………!!」

「つまり、元々オレ達は…手の平の上でで遊ばれてた、ってワケだ。」

 

かなり、マズイ話を聞いてしまったような気がします。

…叶さんが直接言わなくても、伝わってきます。

 

敵は明らかに、明音さんと叶さんを手玉に取れるほどの実力がある、と。

 

「…オレ達は近々、事態を変えようと大きく動くと思う。だから、これを持っていて欲しい。」

 

叶さんはポケットから、小さな機械のようなものを取り出しました。

小指の先くらいの大きさしかない、本当に小さな機械…。

 

「アカネ特製の小型発信機兼盗聴器だ。何か厄介ごとに巻き込まれたら…起動してくれ。」

 

その機械を受け取っていいのか、決めあぐねている私を見て…。

叶さんはそっと、私の手にその機械を握らせました。

 

「…かなり独特な電波を使って送信するし、耐久性能もかなり高いから安心して使って欲しい。音も光も出さないから、存在も絶対ばれないから…。」

 

叶さんは、懇願するように私の手を握り締めます。

その手は…なんだかとても、熱い。

 

「…頼む…、」

「…わ、わかり、ました…。」

 

そう答えざるを得なかった私は、その機械を手に…。

そそくさと退室するのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩穂→叶

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…情に訴えるなんてー、カナちゃんもひどいことするねー。」

「そうでもしないと、受け取りそうにも無かったからな。」

 

詩穂は用心深いが、情に脆いのと信用しやすいのが弱点だな。

…まぁ、それがアイツの長所でもあるんだろうけど。

 

「…いいのー?あのことー、話さなくってー。」

「ああ。詩穂の事は信用しているが、詩穂の実力は信用してないからな。アイツは…情報を守りきる『力』がない。」

 

アカネはつまらなそうに、ふーんー、とだけ答えた。

…まぁでも、いいさ。

 

「どうせすぐにわかるさ。」

「だよねー…。」

 

アカネは…本当に、最高のパートナーだ。

オレのやろうとしていることに…いつも、付き合ってくれるから。

オレのことを無条件に信頼してくれるアカネだからこそ…無条件に、信頼しているんだ。

 

「オレ達は、東京武偵局を抜ける、なんて…言ったら混乱するからな。」

「詩穂ちゃんはー…優しいからねー。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

叶→詩穂

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…叶さんたちから話しを聞いた、数日後。

授業がすべて終了し、さぁ帰りましょう…というところで。

 

ポツ…ポツ…。

 

小雨が降り出してきました。

 

「…やだなぁ…。」

 

急いで帰宅しようと、足を速めますが。

 

ザァァァァァ…。

 

段々本降りになってきました。

仕方なく、近くにあった選択科目棟に避難します。

…すると。

 

「…ツイてないな、全く。」

「…全くです。」

 

先客と言うべきか、同じく雨に降られたキンジ君がいました。

…どうやら彼も、帰ろうとしたら雨に降られてしまったようです。

 

「……雨、止みませんねぇ…。」

「……ああ……。」

 

ざぁざぁ…。

段々大粒になってきました。

…これは、しばらく止みそうにありません。

 

2人してボーっと立っていると…どこからともなく、ピアノの音が聞こえてきました。

…そういえば、選択科目棟の一階は音楽室でしたっけ。

 

綺麗な旋律が、後ろから響きます。

…上手い。

ビックリするぐらい上手いです。

私はピアノなんて弾けないのでよくわかりませんが…相当上手いですね。

 

「嫌な予感がする…。」

「…え?どうしてですか、キンジ君。」

 

唐突にキンジ君が口を開きます。

 

「これの曲名、知ってるか?」

 

私はふるふる、と否定の意をこめて首を左右に振ります。

キンジ君はハァ、と溜息を1つ付いた後、めんどくさそうに言いました。

 

「『火刑台上のジャンヌ・ダルク』だ…。」

 

ああ…。

確かに、めんどくさそうです…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、何でこんなとこにいるんだよ。」

「フン。想像くらいはつくだろう。お前たちが理子と既に会っているのならば、な。」

 

音楽室にいたのは…。

案の定と言うか、ジャンヌさんでした。

武偵高の制服を着ている辺り、おそらく…理子ちゃんと同じように。

 

「司法取引、かよ…。」

「そういうことだ。」

 

ジャンヌさんはピアノのイスから腰を上げると、そのまま私達の前まで歩いてきました。

 

「今はパリから留学してきた情報科2年のジャンヌだ。」

 

…だ、そうです。

というか同い年だったんですか…。

ちょっとびっくりです。

 

「だからそんな似合わない制服着てんのか。」

 

キンジ君がちょっと悔しそうに言いました。

…いえ、メチャクチャ似合っているんですけどね。

多分負け惜しみとか、そういう類のものでしょう。

 

「…私とて、こんな服を着るのは恥ずかしいのだ…。」

 

とか言いながら割りとばっちり着こなしているジャンヌさん。

たぶんあれ、満更でもないですね。

 

「…イ・ウーに制服は無かったのかよ?」

 

キンジ君は、急にイ・ウーの話を切り出しました。

その話題は…グレーゾーンです。

 

「キンジ君、それは…。」

「知りたいのだろう?イ・ウーのことを。」

 

ジャンヌさんは私の制止を掻き消すようにキンジ君を見据えます。

キンジ君はその視線を真っ直ぐ見つめ返すと…呆れたように、答えます。

 

「アリアも理子も教えてくれないんでな。」

「…ふん。茅間、お前なら知っているだろう?」

「へっ!?」

 

思わず、ビクッと反応してしまいます。

ま、まさか私が叶さんや明音さんに協力してもらっている事がバレているんじゃ…?

 

「動揺を隠すのが下手だな、茅間。お前なら理子から聞いていてもおかしくはあるまい?」

「あ…ああ、はい、えっと…。」

 

…よ、よかった。

確かに私なら理子ちゃんから聞いていてもおかしくはありませんよね。

叶さん達との事がバレたら、それこそ私の首が吹っ飛びかねません。

 

「…え、えっと、でも私も理子ちゃんから聞いたことは少しだけ、です…。」

「だろうな。イ・ウーのことは知っているだけで身に危険が及ぶ国家機密。理子もそう簡単には教えないだろうな。」

 

自分の予想が当たったと思っているのか、ジャンヌさんはちょっとドヤ顔で語ります。

しかし…その内容は、アリアさんが前言っていたこととなんら変わりはありません。

 

「だが、私としてはむしろ事細かに教えてお前たちを消し去ってやりたいくらいだ。だが…そんなことをすると、私が狙われるのでな。」

「誰にだよ。」

 

キンジ君が少し機嫌悪そうに口を挟みます。

当たり前です。

目の前で消し去ってやりたいとかいわれたら心象に悪いです。

 

「イ・ウーにだ。」

 

…つまり。

彼女は、情報を漏らすと身内から狙われる、と。

 

「イ・ウーのことを話すこと自体は別に縛られてはいない。だが…問題は、イ・ウーが私闘を禁じていないことだ。話す内容によっては私はやられてしまうからな。」

「お前ほどの戦闘力があれば、そんなのやり過ごせるだろ。」

 

キンジ君は少し皮肉めいた様子で言います。

…でも、確かに、彼女が負けることは考えにくいです。

アリアさん、ヒステリアモードのキンジ君、白雪さんをたった一人で相手に取ったのですから。

ちなみに私は戦力外なので除外です。

 

「ムリだ。」

 

しかし、ジャンヌさんは真面目な顔で即答してしまいます。

 

「私は、イ・ウーの中では最も戦闘力の低い方なのでな。」

 

…今、なんと?

そんな、バカな…!

こんなにも強いジャンヌさんが…一番弱いほう?

 

見れば、キンジ君も驚いたように目を見開いています。

 

「…しかも、最近入ったばかりの新入りにも勝てそうに無いのだ。私もまだまだ研鑽が必要だな…。」

 

呟くようなその言葉は、聞かなかったことにしましょう。

その新入りって、叶さんと明音さん…?

 

…いえ、聞かなかったことにしましょう、ハイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一通りジャンヌさんから聞いた情報は、全て事前に叶さん達からもらった情報と一致していました。

 

外の雨音は、次第に弱まっているようにも、強まっているようにも感じました。

 

「…そういえば理子は、どうしてあんなに強くなろうとしていたんだ?」

 

一旦話しに区切りが付いたあたりでキンジ君が話題を少し変えました。

それは…理子ちゃんの、事。

 

「自由のため、だ。」

「自由、だと?」

 

私はこの話題に口を挟もうとして…しかし、話に入れません。

 

「…悪いが、茅間。席を外してくれ。」

「…え?」

 

ジャンヌさんは私を追い払うように言いました。

 

「な、なんで…。」

「この話は、お前は聞いてはならない。特に理子と親しい…お前はな。」

 

ジャンヌさんの目は、真剣で。

私なんかが口出しできる雰囲気では、到底ありませんでした。

 

「…わかり、ました…。」

 

私は、何も言えないまま。

でもどこか、ホッとしていました。

理子ちゃんのことは、理子ちゃんに直接聞きたい。

そう…思っていたからです。

 

降りしきる、雨の中。

私は傘も持たず、帰路に着くのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に着くと、暗い気持ちのままとりあえずびしょびしょの制服を脱いで…。

お風呂に、入りました。

 

そしてお風呂から出て、夕飯の支度をしながら。

心を何とか静めます。

 

…そう、です。

理子ちゃんと親しい私だからこそ。

いつか、理子ちゃんの口から聞かなくてはならない…。

 

だから、今日は、これでよかった。

だから、このことは、置いておこう。

前に…別のことでもいいから、前に進みましょう。

 

「…よしっ!」

 

私はコトコトと音を立てる鍋のふたを外し、料理を作ることに集中することにしました…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自室にて。

ご飯も食べ終わり、落ち着いて部屋でゆっくり出来るようになりました。

 

「…出てくれるでしょうか…?」

 

私は今から、ある人物に電話をかけようとしていました。

 

プルルルルル…。

ガチャ。

 

『はい、星伽です。』

「あ、白雪さん。」

 

そう。

青森の実家に帰っているはずの、白雪さんでした。

 

『詩穂!どうかしたの、こんな夜に。』

「いえ、実はですね、その…。」

 

…ちょっと用件が若干アレなのが、いたたまれないです…。

 

「~~~~、~~~…って、持っていますか?」

『へ?アレなら私の部屋の引き出しの中にあると思うけど…。でも、そんなの何に使うの?…まさか、キンちゃんに…。』

「い、いえ!断じて違います!私情でちょっと…。」

『…ふーん。まぁ、詩穂なら大丈夫だよね。アレなら、引き出しの3段目の……。』

 

よかった。

なんとか、もらえるみたいです。

…白雪さんが家に帰ってくる前に、本格的な言い訳を考えておかないとですね…。

 

「……ハイ。わかりました。ありがとうございます、こんな夜に…。」

『ううん、全然!久しぶりに詩穂の声が聞けて嬉しかったよ。じゃあ、またね。』

「はい、またー…。」

 

…よし。

これで準備は整いました…!

いざ、計画実行です!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩。

 

コン、コン。

 

「…入っていいぞ。」

「し、失礼します…。」

 

私はキンジ君の部屋に来ていました。

というのも、彼のことについて話し合う必要があると思ったからです。

ちなみにアリアさんはまたもや既に就寝中。

早寝してくれるいい子で本当に助かります。

 

「…で。何の用だ?」

 

相変わらずのぶっきらぼうさにも、私は少し共感してしまいます。

キンジ君のそういう女性に対する心理が…わかっているような気がして。

 

「キンジ君の…その、病気のことについて、です…。」

 

話題が話題だけに声が少し小さくなってしまいます。

キンジ君も少し赤くなりつつ、しかし話はしてくれるようです。

 

「それで、私、色々考えたんです。ヒステリアモードについて…。」

「ああ。」

「で、その、私の勝手な考察なんですが…。聞いてくれますか?」

 

キンジ君は頷くと、イスに座りなおしました。

きし、とイスが少し音を立てます。

 

「…まず、ヒステリアモードは『女を傷つけないようにする』性質を持つ。ですよね?」

「その通りだ。どうもよくわからんが、それが最重要らしい。」

「はい。ここからが少し推測なのですが…。」

 

…深呼吸、しんこきゅう。

これから話すことは、健全なことなハズです…。

 

「その、つまり、ヒステリアモードになったあとでも…すぐには、えっと、その…え、えっちいことはしない、と思うんです。」

「……っ!そ、そう、だな…。そういうことをしたら、相手を傷つけかねないからな…っ!」

 

キンジ君は顔を真っ赤にしながらも話を続けてくれます。

…たぶん、私も顔も同じくらい真っ赤です。

 

「え、えと、ですね!ここから導き出した、推論なのですがっ!」

「あ、ああ!なんだ、それは。」

 

恥ずかしさを紛らわせるように少し声でごまかしつつ。

話を、続けます。

 

「……こほん。つまり、せ、性的興奮はあくまでトリガーであって…ヒステリアモードは、性的興奮を増長させるようなものではないと思うんです。」

「…それが、どうかしたのか?」

「つまり、性的興奮がによるβエンドルフィンの分泌が一定以上の基準を達した場合、ヒステリアモードが発現する、と考えられるわけです。」

「………。」

 

「また、おそらく発現強度や継続時間もその時のβエンドルフィンの分泌量によって比例的に変化するものである、と考えました。βエンドルフィン自体はおそらく性的興奮以外でも発生すると思うのですが…今までキンジ君が性的興奮以外から発現しなかったことを踏まえると、おそらく性的興奮のみをトリガーとして利用できるように何らかのホルモンや神経物質・神経回路が働いていると思われます。というわけで、私はいかにこの病気を利用するのかを考え…ある結論に達しました。それは、性的興奮の成長率…つまり、先程のグラフの例で言うと性的興奮の『変化の割合』を変化させ、傾きを大きくさせればよい、と考えたのです。まぁアリアさんでかかりやすかったりするのはおそらく性的興奮自体が恋愛的な物質であったり性的興奮の種類…つまり、『性癖』?といえばいいのでしょうか、そういったものでも傾きや強度は変化すると思いますが。また、少し話の論点はズレてしまいますが、発現後は基本的にヒステリアモードは自然回復以外では回復しない、と言う兆候を見る限りおそらくヒステリアモードになるための最低基準値を突破すると意図的にはその最低基準値を下回る事ができない。つまりは最低基準値を下回らない程度には性的興奮を保つ力がある、とも考えられます。この最低基準値自体もおそらく発現時の最大値や発現強度・継続時間も大きく関わっていると…。」

 

「詩穂簡単に結論だけ頼む。」

 

…ついつい熱くなってしまったようです。

割と頑張って考えてきたので、もうちょっと語りたいのですが…。

まぁ、いいでしょう。

 

「えっと…つまり、キンジ君のヒステリアモードをサポートできるようなものを、ちょっと作ってみたんです。」

 

私はあらかじめポケットに入れてあった、『例のブツ』を取り出します。

 

「…これです。」

「なんだこれは…。錠剤、か?」

「はい。」

 

それは、小さなケースに入った錠剤のようなものでした。

しかし、もちろん市販のものではありませんし、そもそも絶対安心かと言われると…微妙な代物ではありますが。

 

「…一体、なんなんだこれ。」

「えっと…そ、そのですね…。」

 

が、がんばれ私!

せめてコレの材料だけでも言わないと…!

 

「う、薄めた媚薬を、固めたものです…。」

 

白雪さんからもらったものは…。

あろうことか、液体状の媚薬でした。

 

…なんで持っているんですか、白雪さん…。

 

「……びやく?なんだ、それは。」

「へ?」

 

…ああ、そうでした。

キンジ君はそういった情報を避けてこれまで生きてきたんでしたっけ。

よく薄い本に使われる奴です、って言ってもわからないんでしょうね…。

 

「えっと…せ、性的興奮を煽る薬…です。」

「なっ…!」

 

キンジ君はこれで一体どういうことに使われる薬かなんとなく察してくれたのか、少し後ずさります。

 

「大丈夫ですって!すっごい薄めてありますから!キンジ君の…その、えっと…キンジ君の下のほうには影響はほとんど出ないはずですっ!」

「おいバカ、こんなこと夜中に叫ぶなっ!」

 

…そ、そうでした…。

なんて恥ずかしいことを…!

もうヤです。

なんかまた泣きたくなってきました…。

 

「…こ、こほん!そういうわけなので、簡単に言えば…これを飲むと、ヒステリアモードになりやすくなるんですよ。」

「…あ、ああ。わかったそういうものだと思うことにする…。」

 

2人して赤くなって。

なにやってるんでしょうか、私たちは…。

 

「…たぶん、今までよりもはるかにヒステリアモードになりやすくなると思います。おそらく、ですが…妄想だけでもなれる位に。」

「それは…なんというか、嫌だな…。」

 

でもそうするしかないじゃないですか…。

実際に戦場で誰かといちいちキスしてる余裕なんて無いでしょうし。

 

「…とりあえず、10錠くらい作ってみました。使うかどうかはキンジ君にお任せします。」

「…わかった。もらうだけもらっておく…。」

 

キンジ君はあんまり受け取りたくなさそうに薬を受け取ると、ハンガーにかかっている防弾制服の内ポケットにしまっていました。

よかった、受け取ってもらえないものだと思っていました…。

 

「…でも、色々考えてくれたことは、その…ありがとな。」

「……!!は、はい!」

 

…全く、これだからキンジ君は。

最後の最後に褒めてくれるから、いろんな女の子を落としちゃうんですよ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、夜も更けていくのでした…。

潜入作戦はもうすぐ近くに迫っていました。




読了、ありがとうございました!


今回の話もかなり長引いてしまいました…。
と言うか今回の話のせいで平均文字数が10000文字を突破してしまいました。
初期の目標文字数5000文字は一体…。


風魔の口調がすごく難しいですね…。
あんなに古臭い話し方でしたっけ…?
というか、アリア→風魔の呼び方って『陽菜』で合ってましたっけ…?
原作を読み直してもアリアと風魔が絡むシーン自体が少なくて…。
どなたか、詳しい方、教えてくださると嬉しいです!

そして武藤→アリアの呼び方も『神崎さん』じゃなくて普通に『アリア』だったような気がしますが…これに関しては固定させていただきます。
武藤には是非全ての女子を苗字で呼んでもらいましょう。


そして今回は後半はガッツリ説明回でしたね。
地の文ばかりになってしまい、読みにくさが更に増長されていましたね。
本当に文才が無いです…。




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ハーメルンのメッセージ機能も便利ですよね…。

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