…え、エタってないです…!
まだ死んでいません…!
長らくお待たせしてしまって、申し訳ありませんでした。
…というか待ってくれている優しい方はいらっしゃるのでしょうか?
だとしたらとても嬉しいです。
今回はあのヒロインが帰ってきます。
そして割と全力で百合回です。
百合が苦手な方はお気を付けください。
追記
タグにガールズラブを追加いたしました。
流石に怪しくなってきましたので。
第18話 かんどうのさいかいです
アドシアードも終了し、いつもの慌しい日々が戻ってきました。
白雪さんがこの部屋にやってきてからはキンジ君の帰りが遅く、たまに起きるアリアさんvs白雪さん戦争を私が何とかしなくてはならないのがちょっとアレですが。
まぁ、そんなことはもはや日常茶飯事。
私としても特に変わり映えのしないこの日々が続いてくれたらなぁ…という夢を描く平和な日々でした。
…その平和は、割とすぐに壊されてしまうのですが。
ある日、私はいつものように自室でゲームをしていました。
…今日はアリアさんも白雪さんも…そしてキンジ君も遅くなるそうです。
一斉に誰もいなくなるのはよくある話なので、私は1人寂しくご飯を食べてお風呂に入ってゲームをしていました。
すると…。
ぴりりりり…。
携帯電話が鳴りました。
「……?どなたでしょうか…?」
ちょっと大きめでサイズの合わないヘッドホンを頭から外し、携帯を手にとってみると…。
非通知。
…非通知ですか…。
ちょっと怖いのでパソコンの逆探知機能を作動させて電波を追えるようににしてから恐る恐る電話に出ました。
「…は、はい、もしもし…。」
『あ、詩穂?今どこにいる?』
…その特徴的なアニメ声を聞いて、心底安心しました。
電話の主は、どうやらアリアさんのようです。
「えーと、部屋にいますが…どうかしましたか?」
『それが、ちょっと面倒なことになったの…女子寮の屋上まで来てくれる?』
「それは全然構いませんが、アリアさん、携帯はどうしたんですか?」
『充電切れた。』
なるほど。
確かに逆探知の位置も女子寮を指していますし、納得です。
…私を呼び出すなんて、一体どうしたのでしょうか?
私なんかよりも、なんだかんだ言って呼べば来てくれるキンジ君とかもっと他にも頼りがいのある人はいるはずです。
…まぁ、アリアさんの行動が突拍子の無いのはいつものことです。
「わかりました。10分くらいでいけると思います。」
『おっけー。待ってるわ。』
…さて、ちょいと面倒ですが折角着たパジャマを脱いで…。
…服は、一応防弾制服を着ていきましょう。
ドンパチがあったらヤですし。
武器は…屋上らしいので、刀のほうが便利そうですね。
銃は置いていきましょう。
…というわけでものの5分もせずに準備は完了し…。
「…いってきます。」
誰もいない真っ暗な部屋をあとに、私は女子寮に向かうのでした…。
…屋上に着くと、そこにはアリアさんの姿がありました。
屋上のフェンスに腰掛け、月明かりを背に受ける姿は…やはり美しいと言わざるをありません。
「…アリアさん。どうしたんですか?」
「…詩穂。」
アリアさんはカシャン、と音を立ててフェンスから降りると。
私のすぐ目の前まで、歩み寄ってきました。
その表情は、なぜか、とても…泣きそうな、表情で。
「…アリア、さん?」
「…よかった、来てくれて…。
……『私』?
アリアさんは確か、自分のことを『あたし』と呼んでいたはずですが…?
「え、あの…?」
「…もう。まだわからないかな…?ほら…。」
アリアさんは、その長いピンクのツインテールの片方を手に取ると…。
グッと、横に強く引っ張りました。
…すると。
「…え?」
ベリベリベリッ!
と顔が剥がれていきました。
…え、ええ!?
こわっ!?
…しかし、その驚きは。
次に来る大きな驚きと…感動を前に、塗りつぶされました。
その剥がれたアリアさんの顔の下にあった、本当の顔は…。
「………理子、ちゃん………。」
「……うん。」
私の、心からの、親友でした。
「あ…ぁ、理子ちゃん…!!」
「…うん…うん…!!」
私は気が付いたら、目の前が歪んで見えなくなっていて。
でも、きっと理子ちゃんも私と同じくらい前が見えないはずです。
「うあ、あ…りこちゃ…ん…!!」
「…ただいま、詩穂…!」
私たちは、その場で抱き合い。
しばらくの間、夜風に吹かれながら…。
ずっとずっと、抱き合っていました…。
「…ふぅ…。」
ようやく落ち着いて、抱き合った腕をお互いに離します。
…でも、両手はお互いに繋いだまま…赤く腫れた目のまま、向き合いました。
「…理子ちゃん、また会えて、嬉しいです。」
「うん。私も、この時を、何度も待ち望んでいたよ…。」
まだ感動の波が引かないけれど、そろそろ本題に移らなければなりません。
「…この際理子ちゃんが今までどうしていたのとか、『武偵殺し』の件とか全部置いておきます。」
「…ありがと。詩穂の優しいところ、大好きだよ。」
「あ、あうう、恥ずかしいですから…。じゃなくて。」
…どうもまだ感動の波が収まりきらないようです。
前一緒にいたときよりも何倍も何倍も…理子ちゃんが、近くにいて。
それが、とても嬉しくて…。
理子ちゃんも、余すことの無い好意をいつも以上にストレートにぶつけてくれます。
「へへ、詩穂~…。」
理子ちゃんは夢見心地の如く、その表情を無防備に綻ばせています。
理子ちゃんは、私のことを特別な存在だと言ってくれました。
おそらく、この表情を見ることができるのは私だけなのでしょう。
…そう考えると、私もとても気分が高揚してしまって…。
「理子ちゃん、とってもかわいい
「…詩穂になら、見られてもいい…。恥ずかしいけど、折角詩穂に会えたんだもん…。」
理子ちゃんは指摘されて顔を赤らめますが、しかし頬は緩んだままでした。
…なんですか、このかわいい生物は…。
え、百合ルート入ればいいんですか?
マジで理子ちゃんルートに入りそうなんですが…。
「…じゃなくて、ですね。このままだと夜が明けてしまいますよ。話を進めましょう。」
「私は、詩穂となら朝まで一緒に居たいな…。」
「うっ、理子ちゃん…!」
今日の理子ちゃんはデレがヤバいです…!
デレ期です!
私にデレてどうするんでしょう…?
…とにかく、本当に話が進まなそうなので少し強引にでも動かさないとマズそうです。
このままだとただの百合百合した同人誌みたいになってしまいます…!
「理子ちゃん、聞いていいですか?どうして…わざわざアリアさんのフリをしてまで私を呼んだんですか?」
「え…え?そ、それはその…。」
理子ちゃんは途端に気まずそうに目を逸らしました。
…それから、一呼吸置いて答えてくれます。
「…詩穂に、もし嫌われてたら…その、来てくれないかと思って…。」
理子ちゃんは言葉足らずにモジモジしながら言いました。
…理子ちゃんは。
私が、理子ちゃんのことを嫌っていたら…ということを考えていたみたいです。
…うわ、どうしましょう…!
理子ちゃんがかわいい…!!
うあ、ま、マズイです…!
このままだと百合同人誌に…!
「…もう。そんなことあるわけ無いじゃないですか。私は…一生、理子ちゃんのこと、大好きですよ。」
うわぁ…。
頭の中が混乱しすぎて、逆に凄いことを言ってしまっている気がします…。
そのセリフを聞いた瞬間、理子ちゃんの表情が喜びと感動に染まるのが見えました。
「…詩穂っ!!」
「きゃっ!?」
ほら、案の定感動した理子ちゃんが抱きついてきてしまいました。
…でも、今までの理子ちゃんの疑問の1つが確信に変わりました。
理子ちゃんは、極端に人に嫌われることを恐れている。
…否。
私に嫌われることを恐れている…?
…確証は無いですが、このことはおそらく合っているでしょう。
多少、自惚れな気もしなくはないですが。
「ちょ…り、理子ちゃん!話が進まないので、離してくださいっ!」
「むぅ…。しょうがない、詩穂がそういうなら…。」
理子ちゃんは渋々、といった感じで体を離してくれました。
…手は未だに繋いだままですが。
「…さて。詩穂。私は、詩穂に言わなきゃいけないことがあるの。」
理子ちゃんは緩んでいた頬を引き締め、真剣な表情になりました。
理子ちゃんの真剣な顔を見て、私も表情を固くします。
「…詩穂。私を、たすけて。」
…それは。
飛行機の中で約束した言葉でした。
…実は再会が嬉しすぎてきれいさっぱり忘れていたことは内緒です。
「…もちろんです。」
私は簡潔に、短く答えました。
…友人を、親友を助けることは当たり前のこと。
困っていたら、手を差し伸べてあげることが当たり前。
…こんな綺麗事は創作の中でしかありえない考え方かもしれません。
それでも…。
せめて、私だけでも、誰かの力になれたら…それは、とても素敵なことだと思います。
理子ちゃんは心底嬉しそうな笑顔になって、握り続けていた手をギュッと握り直します。
「…ありがと、詩穂。今までのことも、これからも。」
「そんな、大げさですよ。私は理子ちゃんの為なら何だってします。」
理子ちゃんはその言葉を聞くと、今度は悪戯をする子供のような笑顔になって言いました。
「じゃあさ、詩穂…。一緒に、ドロボーしようよ!」
その笑顔は、最高に楽しそうで…でも、どこか不安そうな色も混ざっていました。
そんなことがあった次の日の晩。
私は理子ちゃんに呼ばれてまた女子寮の屋上に来ていました。
「…やっほ、詩穂。昨日ぶり。」
「こんばんは、理子ちゃん。」
お互いに挨拶を交わすと、理子ちゃんは早速話を切り出しました。
…どうやら理子ちゃんも昨日よりは落ち着いているらしく、いつもどおりの調子です。
「さてと…私が手伝って欲しいことなんだけど、それは…。」
「…ドロボー、ですか?」
理子ちゃんが昨日悪戯っぽく言った台詞が脳内に再生されます。
『一緒に、ドロボーしようよ!』
それがどのような意味なのかはまだわかりませんが…。
武偵法違反だけはしたくないものです…。
武偵には、武器の使用や武力行使での調査・逮捕が認められている代わりに、一般の方々にはない独特のペナルティがつくことが間々あります。
それらをまとめたものが…いわゆる『武偵法』です。
その中の1つ…武偵三倍刑。
これは文字通り…武偵は何らかの犯罪を犯すと一般の三倍くらいの刑罰が下ります。
こういった強い法的束縛によって『武偵』という武力が間違った方向に行かないようにしているのです。
しかし、理子ちゃんの発言から考えるに…。
少なくとも住居不法侵入と窃盗罪くらいは覚悟しておいたほうがよさそうですね…。
「うん。ドロボーだよ。私のお母さまの形見の…十字架。」
「…形見…。」
「…うん。」
「わかりました。それを、盗めばいいんですね?」
とりあえず、色々聞きたいことはありますが…。
今は、やめておきましょう。
いちいち詮索しようとするのは私の悪い癖ですね。
「…詩穂、聞かないの?」
「はい。理子ちゃんが話してもいいと思ったら…聞かせてください。」
「…ありがと。優しいね…。」
理子ちゃんはまた、感動したように私を見つめました。
…このままじゃまた昨日みたいな中身の無い会話になりかねませんね。
軌道修正です。
「そんなことありませんよ。それで、詳しいことを話してくれますか?」
「…ん。ええっと、まずは…詩穂だけの協力じゃ足らない。あと2人くらい…そうだね、息の合った2人組みが欲しいかな。」
理子ちゃんも気を取り直してくれたように話を進めていきます。
「…ちょっと待ってください。それってもしかして…。」
「うん。アリアとキンジもこの作戦に加わって欲しい。」
…これは、想像以上に
「というわけで!今から、あの二人を誘いに行きまーす!」
「…え、今からですか!?」
理子ちゃんは急にテンションを上げて両手を天に突き上げました。
…しかし。
そう考えても、あの2人がそう簡単に首を縦に振るとは思えません。
「…でも、難しいですよ。特にアリアさんのほうは、そんな簡単に…。」
「だいじょーぶだいじょーぶ!脅す材料はちゃんとあるからね。」
理子ちゃんは不敵にニヤッと笑うと、作戦を私に告げました。
私は、あの後屋上で理子ちゃんからとんでもない作戦を聞きました。
もちろん私もああ言ってしまった手前、渋々協力します。
作戦内容はいたってシンプル。
―
キンジ君をとりあえずオトす、とのことです。
…2人がかりで。
これ、私要りますか?
「…さて、キーくんをここに呼んだから…あと10分くらいでここに来るよー♪」
「…ていうか、なんですかこの格好…。」
ここは第2女子寮の1011号室。
理子ちゃんが普段生活している部屋です。
部屋は何故か薄暗く、甘い匂いもします。
理子ちゃんは私を呼び出したときのようにアリアさんに化けています。
私はというと…。
「…どうして、ゴスロリなんですか…?」
「そりゃあチビッ子が着たらかわいいからだよ!」
「いえ、確かにこの服、かわいいですけど…。」
ゴシック&ロリータ…通称ゴスロリ服を着ていました。
黒い生地をベースにフリルをたくさんあしらった…まぁ基本的なゴスロリです。
…でも、問題点が1つ。
「いや、私、茶髪ですから…。似合わないですよ。絶対。」
ゴスロリ服には、金髪や銀髪なんかの派手な色の髪が似合います。
私みたいな地味な茶髪は、全くと言っていいほど似合いません。
「そんなことないって!かわいいぞ、詩穂~!」
アリアさんに化けた理子ちゃんに超笑顔で抱き疲れてしまいます。
そうされると、なんだかアリアさんに抱きつかれているみたいで…新鮮ですね。
そうこうしているうちに…。
がちゃり…。
玄関のドアが開く音がしました。
どうやらキンジ君が来てしまったようです。
「うわ、キンジ君来ちゃいましたよ…!」
「大丈夫だって、私について来てくれれば余裕だよ!」
理子ちゃんと無声音で会話しているうちに…。
とうとう、キンジ君がガチャリとリビングのドアを開けてしまいました…!
ど、どうしましょう、私…!
「…もー。遅い。でも、今日は許してあげる。」
「アリア…詩穂…。」
「こ、こんばんはです、キンジ君…。」
理子ちゃんはキンジ君が入ってくるなり、アリアさんの声に巧みに変えました。
私も腹を括り、その場の空気に適当に合わせることにしました。
もうどーにでもなーれ♪
「というか…ここ、アリアの部屋だったのか。そして…その、なんだ、詩穂、その格好は…。それに、この部屋…。」
キンジ君は不審そうな目で部屋を見渡します。
それもそのはず。
ピンクのキャンドルで照らされた部屋は、薄暗くとても蠱惑的なムードが漂っています。
そして、私の格好もゴスロリでいつもと違います。
何より…足元には、たくさんのコスプレ用の衣装が散らばっています。
もちろん理子ちゃんが用意したものです。
理子ちゃんはキンジ君の質問をスルーして、アリアさんの姿のままキンジ君に近寄っていきます。
「キンジ、どれがいい?」
「どれって…なにがだっ!」
「んもー。いくらこういうことを避けてきたからって、アンタ鈍すぎよ?」
理子ちゃんはそのままどんどんキンジ君に近づいていって…。
…って、近すぎじゃないですか?
…ああ、そうでした。
今回の目的は『色仕掛け』でしたね。
…仕方ないとはいえ、ちょっぴりジェラシーです。
悔しいですが私には理子ちゃんのような度胸も魅力も色気もありません。
「えいっ。」
あれこれ考えているうちに、とうとう理子ちゃんはドサッとキンジ君をベッドに押し倒してしまいました。
「詩穂ー。アンタも来なさい。」
「なっなんでお前らっ…!」
「3Pよ3P。よかったじゃない、両手に花よ?」
…理子ちゃん、ちょっと口調に素が混じり始めていますね…。
ていうか私もですか!?
ま、マジですか!?
私があわあわしていると、アリアさんのフリをした理子ちゃんが催促してきます。
「ほーらー、早くー。」
「うぅ…で、では、失礼します…!」
『色仕掛け』、ということは…。
あわよくばキンジ君と…そ、その、えっちい事が出来るというわけで…!
私はそろそろとベッドの傍に立ちました。
「…ほら、キンジ…。」
理子ちゃんが誘惑するように、キンジ君に覆いかぶさります。
胸を顔に当てるように。
…見てるこっちが恥ずかしいです…。
しかし。
不思議なことに、この瞬間空気が変わった感覚が走りました。
「――理子…!」
「あったりー!さっすがぁー!」
キンジ君の声が、低く、鋭く響きます。
甘く蕩けさせてしまうような…普段よりもはるかに魅力的な声。
キンジ君は、突然、カッコいいモードに入りました。
理子ちゃんは声だけ理子ちゃんの声に戻りながら、キンジ君の上で騒ぎ立て続けます。
…まるで、こうなる事がわかっていたかのように…。
「やったー、やったー!キーくんが
――ヒスった?
ハイジネタはおそらく関係ないですが、ヒスった、と言う単語…。
このキンジ君の状態は、『ヒスった』という状態なのでしょうか…?
理子ちゃんはツインテールの片方を引っ張り、ベリベリと変装を解いていきます。
「りっこりっこりんでーす!くふふっ、たっだいまー!」
キンジ君は驚きのあまり絶句しています。
…そして、その表情はみるみる険しいものに変化していきます。
そりゃそうです。
理子ちゃんは神崎かなえさんを『武偵殺し』に仕立て上げ、ハイジャックでも戦い、その他諸々の罪を抱えた…犯罪者なのです。
「キーくん、理子を助けて?」
甘く、理子ちゃんが囁きます。
その言葉を聞いたキンジ君の顔が…今度は、強張りました。
…一体、どういうことでしょう?
状況がめまぐるしく変わり、頭の整理が追いつきません。
それでも理子ちゃんは変わらずにふざけた調子で言葉を続けます。
「ていうかそもそもねぇ。せっかく理子がダブルスクールしてたのに、アリアとキーくんのせいでイ・ウー退学になっちゃったんだぞ?ぷんぷんがおー!」
理子ちゃんは両手の指で角を作って、可愛らしく鳴きました。
…退学。
少し前、叶さんにイ・ウーのことを尋ねに行ったとき…彼女はこう言っていました。
『学校みたいなもの』と。
「理子、キーくんにお願いがあるの。だからお母様が教えてくれた…男の子に言うことを聞かせる方法、初めて使っちゃう。」
なおも硬直するキンジ君に理子ちゃんが甘く…囁き続けます。
理子ちゃんはキンジ君のネクタイをしゅるしゅると外すと、床にポイッと投げ捨てました。
「ほら、キーくんは私だけじゃ満足できないでしょ?だから…詩穂も、協力してくれるってさ。」
ちょ、理子ちゃん!
何てこと言ってるんですか!?
…と、口を動かしますが、私は私で驚きのあまり声が出ません。
「ねぇ、だから…私たちと、えっちいこと…しよ?」
理子ちゃんはその可愛らしい見た目とは裏腹の豊満な胸を、自然な動きでキンジ君の胸板に擦り付けます。
私はそれを…間近で見ていることしか出来ません。
「ねぇ、好き…。キーくん、大好き…!理子ね、あのハイジャックのときから、キーくんの事が頭から離れないの。キーくん、ギュッてして?」
これは…なんでしょうか?
かなり雑ですが、古典催眠法のようなことを理子ちゃんはやっていますね…?
甘い声で、名前を囁く。
『好き』を連続して言う。
甘ったるい匂いを焚いて、部屋を薄暗くしたのは…。
男の人を、『その気』にさせるため…!
本当に、どこまでも計算高い人ですね…。
「…冗談はよしてくれ、理子。」
しかし、それでもキンジ君は冷静です。
明らかな敵意を持った目で理子ちゃんを睨みます。
…胸からは目を逸らしていますが。
「キミは…俺の兄さんを、奪っただろう?」
「くふふっ…。まだ殺したと思ってるの?」
…キンジ君の、お兄さん。
ハイジャックのとき、確かに理子ちゃんはその単語でキンジ君を挑発していましたが…。
「どういうことだ…?」
「そのままの意味だよぉー。そんなことどうでもいいから…ね?」
「…証拠は、あるのか?」
「んもう。しょうがないな…。H、S、S。」
…2人の会話に、全くついていけません。
『HSS』?
一体何の…いえ、何を表しているのでしょうか?
何を表して…いえ、何を略した言い方なのでしょうか…?
「さて、ここでキーくんに選択肢でぇーす!」
理子ちゃんは私の服の襟を掴むと…。
胸元のリボンを解き、私の服を脱がせかかってきました…!
「え、ちょ、理子ちゃん!?」
「詩穂と私を…今ここで、
理子ちゃんは私の服を脱がせつつ…。
器用に私も広いベッドに押し倒しました。
…あれ?
私もついでに襲われてません?
「キーくん、どう…?今、ここで楽しいことしてくれたら…理子、キーくんの彼女になっちゃう。理子はとってもオイシイ女の子なんだよ?いつでも、どこでも、好きなときに好きな場所で…理子に、好きなことしていいの。」
理子ちゃんはキンジ君の耳元で囁きかけます。
甘く、誘惑する…夢魔のように。
「そうすれば、HSS…キーくんは、『ヒステリアモード』って呼んでるんだっけ?それにも、いつでもなれるんだよ?」
「…ヒステリア、モード…?」
…その単語は、明らかに。
カッコいいキンジ君の状態を表す、答えでした。
理子ちゃんが、彼女になったら…いつでも、『なる』事が出来る?
…それは、つまり…?
私は理子ちゃんに襲われているにもかかわらず、その場で頭を動かし始めました。
…今、キンジ君はその状態…『ヒステリアモード』です。
いつ、どの瞬間、彼はその状態になったでしょうか?
…それは。
理子ちゃんがキンジ君に覆いかぶさった瞬間。
今まで、キンジ君はどのような状況下でなっていたでしょうか?
私が過去見たのは…三回。
アリアさんと初めて遭遇したその直後。
ハイジャックの時、気が付いたら。
『魔剣』ことジャンヌさんと戦っていたとき。
これらに共通していることは…。
アリアさんが近くにいたこと?
否。
違います。
近くに、女の子がいた…?
…つまり。
発動のトリガーは、女の子関係。
…おそらく、接触。
…いいえ。
接触だけであれば、どこでも簡単に発生してしまいます。
…答えは、女の子との…いいえ。
魅力的な女の子との、強い接触…?
「…キンジ君。『ヒステリアモード』って…?」
「……理子。どうしてくれるんだい?詩穂に、バレてしまった。」
「くふふっ。いずれバレてたと思うよー?この娘、鋭いから。」
2人は私の疑問を無視して会話を続けます。
…キンジ君は、少し恨みがましく理子ちゃんを睨みつけ…。
理子ちゃんは、相変わらずその状況を楽しむようにキンジ君を見下します。
…不意に、理子ちゃんが呟きました。
「…もうちょっと登場が遅くてもよかったんだけどなー?」
がっしゃぁぁぁぁぁん!!
「あたしのドレイを盗むなぁっ!!」
まるで映画みたいに、アリアさんが颯爽と窓をかち割って部屋に入ってきました。
「え、あ、アリアさん!?」
「理子ッ!ここで会ったが百年目よ!」
理子ちゃんはサッとベッドから飛び降りると、衣装の散らかった床に低めの体勢で着地します。
アリアさんは私とキンジ君が未だに寝っ転がっているベッドの上に降り立つと、すぐさま2丁のガバメントを抜いて威嚇体制をとりました。
「アリアー?もうちょっと見ててもよかったんだよ?」
「なっ…!あ、あたしは何も、み見てなんかいないわ!」
アリアさんが顔を真っ赤にしながら理子ちゃんの言葉にあからさまに動揺します。
…み、見られていたんですか…。
私も後で色々言われそうですね…。
「くふふっ♪惜しかったなあ…。もうちょっとで、キーくんも詩穂もまとめていただけるところだったのに…。ぷんぷんがおー、だぞ?」
理子ちゃんはアリアさんを軽くいなしつつ、床に落ちていたコスプレの山から…。
大きめの懐中時計を拾いました。
「まぁ、いいや。詩穂、こっちにおいでー?」
「へっ?」
理子ちゃんは私に向けて手を差し出すと…。
反対の手で、ポイッと懐中時計をアリアさんの目の前に投げました。
――次の瞬間。
カッッ!
まばゆい…何も見えないほどの閃光が、部屋を覆いつくしました。
…これは。
私は突然の閃光に視界を奪われました。
閃光手榴弾、とは。
よくある目くらましの兵器で、チタンやマグネシウムなんかの反応時に大きな光を出す物質を詰めたものです。
普通は大きな音が鳴るものなのですが…その音が聞こえなかったと言うことは、上手く理子ちゃんが改良したものなのでしょうか?
――人間は強い光を急に浴びせられると。
まず、視界がしばらく奪われてしまいます。
これは単純に、『残像』という現象に過ぎませんが…。
強い光を突然見たために、脳がその強い光の状態を保持してしまう人間の性質です。
そして、人間は…いえ、動物は。
視界や聴覚などを突発的に奪われると、本能的に怯んでしまうものです。
もちろんアリアさんのような世界びっくり人間も例外ではないと思われます。
…私も視界を奪われているので、わかりませんが。
「ほら、詩穂。」
理子ちゃんの声が耳元で聞こえました。
…と同時に、ベッドに横になっていたはずの私の体が、宙に浮きました。
「……!?」
視界はありませんが…感覚的に理解します。
…お姫様抱っこで、誰かに運ばれている…?
…数秒経って、視界が戻りました。
辺りを見渡すと…夜空と、理子ちゃんの楽しそうな笑顔が見えました。
「…理子ちゃん?」
「どうかした、詩穂?」
理子ちゃんは私の呼びかけに、優しく答えてくれます。
…改めて辺りを見渡すと…どうやら、いつの間にか屋上にいるようです。
理子ちゃんに、抱きかかえられて。
「…わっわわ!理子ちゃん、降ろしてください!」
「えー?どうしよっかなぁ…?」
「いえいえ、本当に!」
「しょうがないなぁ、もう…。」
理子ちゃんは渋々、といった様子で私を地面に降ろしてくれました。
…状況が、さっぱりわかりません。
アリアさんが部屋に来て、閃光手榴弾を見事喰らった辺りまでは覚えているのですが…?
「理子ちゃん、あの、なんで…屋上に?」
「ん?ああ、私が運んできたんだよ。それで。」
理子ちゃんはフェンスに引っ付いている、動力付きワイヤーを指差しました。
…なるほど。
理子ちゃんは、あの場にいた全員の目がくらんでいるうちに…。
窓から用意してあったワイヤーに掴まって屋上まで上がってきた、ということみたいです。
私をお姫様抱っこして。
…いえ、確かに寝ている私を運ぶにはそれしかないと思うのですが…。
「……って!私、
「ああー…まあ、いいんじゃない?」
よくないです。
さっきのベッドの上での理子ちゃんのせいで若干服が肌蹴てますし。
と、現状を把握した辺りで…。
がっしゃぁぁぁん!
と屋上の非常階段につながるドアが勢いよく開けられました。
「理子ッ!」
同時に、アリアさんとキンジ君が、屋上に入ってきます。
「…ああ。今日はいい夜。硝煙の匂いも、月明かりも、何もかもが心地いいの。何より…私の隣には、世界にただ1人だけの親友がいる。こんなに良い夜はない…。」
理子ちゃんは唄うように、夜空を見上げました。
「峰・理子・リュパン4世!今度こそ逮捕してやるわ!ママの冤罪、その身をもって償いなさい!」
アリアさんは親の敵を見るように理子ちゃんを睨みつけます。
…実際、アリアさんはかなえさんの無罪を証明するために『イ・ウー』と敵対しているのです。
理子ちゃんはその一員でもあります。
…場の空気が緊迫していくのを感じました。
次の理子ちゃんの返答で、始まる…!
「うーん…いいよ。」
「……は?」
…理子ちゃんの返答は。
その場にいた誰もが予想していなかった言葉でした。
アリアさんが気の抜けたような返事を返します。
「せっかく気分がいいのに、こんなところでお前と張り合うのはあんまり楽しくないしねー。それに、今理子は万全じゃないし…。」
理子ちゃんはすんなり戦闘態勢を解きました。
アリアさんもキンジ君もすっかり毒気を抜かれたのか、2人からも闘志が消えます。
「…で?さっき言ったことは本当なんでしょうね?」
「もっちろんだよー!アリアのママの冤罪のことを、証言すればいいんでしょ?」
理子ちゃんは本当にすんなりと承諾します。
アリアさんはその言葉を聞いて心底嬉しそうな顔になりました。
これに対し…例の『ヒステリアモード』のキンジ君は、未だ疑問の残る顔で問い詰めます。
「…やけに素直だね、理子…。」
「これも取引の条件だしねー。」
「…取引、ですか?」
ここで理子ちゃんはまだ聞いていない単語を出してきました。
…取引?
はて…一体どんな取引なのでしょうか?
キンジ君は一瞬考える素振りを見せた後、すぐに理子ちゃんの言葉の真意を言い当てます。
「…司法取引、ってことか。」
「あったりー!さっすがキーくん!」
…この状態のキンジ君は、本当にとんでもなく頭がいいようですね…。
わずかな情報から的確で正しい情報をすぐに引っ張ってきてしまいます…。
司法取引、とは。
簡単に説明すると、犯罪者が共犯者を告発したり捜査に協力したりすることによって、その罪を軽減・帳消しに出来る制度です。
海外の一部の国でのみの制度でしたが、犯罪が横行するようになった近年、とうとう日本でも採用された制度です。
もちろん冤罪等の可能性もある少し悪い制度なのですが、ここ最近は特に犯罪者・犯罪組織が増えてきているため、やむをえない…といったところでしょうか。
「…理子ちゃん、だからこうやって堂々と武偵高に帰ってきたんですか…。」
「そういうことだよ、詩穂。私は『武偵として』詩穂に再会できたの…!」
そう言うと理子ちゃんはまたキラキラした目でこちらに寄り添ってきました。
そして私が何か言う前にギュッと抱きしめてしまいます。
…本当に理子ちゃんの好感度が上昇しまくっていますね…。
しかも今回に関しては私特に何もしてないですし。
勝手に上昇しましたよ今。
「…理子ちゃん、続き続き。」
「っは!私とした事がついうっかり八兵衛。」
水戸黄門は関係ないのですけれども。
理子ちゃんは私を抱きしめていた両腕を離すと、アリアさんたちの方に向き直りました。
ちなみにキンジ君もアリアさんもちょっと呆気に取られていました。
「…で、2人にはそれぞれやるべきことをやってあげるからさ…。ちょっと、理子に協力して欲しいんだー?」
「…協力、だって?」
キンジ君がまたも疑いの眼差しを向けます。
アリアさんは…証言してもらえる事が嬉しいようで、ちょっと頬が緩みっぱなしです。
「2人とも、理子と一緒に…!」
理子ちゃんはくるっとその場でターンすると、悪戯っぽい笑みを浮かべて例のセリフを言い放ちました。
「ドロボーやろうよ!」
「ねぇ、理子ちゃん…。」
「どうしたの?詩穂。」
あのあと。
私は何故か、理子ちゃんの部屋で理子ちゃんと一緒に添い寝をしていました。
どうして…なんていうのは野暮です。
久しぶりに会えた親友と、一晩中語らいあう。
それはとても自然なことです。
「どうして、2人は引き受けてくれたんですか?」
そう。
アリアさんやキンジ君は、とても正義感の強い方々です。
このような、『ドロボー』に…どうして、納得してくれたのでしょうか?
「ああー、それか…。えっと、2人には条件を提示したんだよ。」
「…条件?」
アリアさんのほうは…おそらくかなえさんの証言でしょう。
しかし…キンジ君は?
理子ちゃんにそのように聞いてみました。
理子ちゃんは少し面白そうに、キンジ君にあてた条件を聞かせてくれました。
「キーくんはね、お兄さんのことを…崇拝、といっても良いくらいに尊敬しているの。で、そのお兄さんは本当は生きているんだけど…。聞いたことない?アンベリール号のシージャック事件。」
「…アンベリール号…。」
私は過去に見てきたニュースの中から、その記憶を引っ張り出します。
「去年の12月頃に起きた…あの事件ですか?」
「うん。」
「えっと確か…私の記憶が正しければ、その事件は奇跡的に犠牲者が一名で済んで…!?」
そこまで思い出して、私は驚愕します。
そのとき犠牲になってしまった、1人の武偵の名前。
『遠山金一』…!!
「そんな、まさか…!」
私の中で、さまざまな情報が飛び交います。
…ハイジャックのとき、キンジ君は推理の中でこう言っていたはずです。
「シージャックの事件で、ある武偵が『武偵殺し』にやられた」
…それは、つまり…!
理子ちゃんが、キンジ君のお兄さんを…!
…しかし、理子ちゃんは『遠山金一』が死んでいない、と言いました。
これは、一体…?
「…理子ちゃん、その、お兄さんって…。」
「うん。察しはついてると思うけど…『遠山金一』その人だよ。」
やはり…。
しかし、それでは生きているって…。
ここで。
私の中にとある仮説が出てきました。
『遠山金一は、死亡に見せかけてイ・ウーに入った』
…理子ちゃんやジャンヌさんが発言していたように、イ・ウーの人たちは何かとイ・ウーに来るように勧誘します。
…つまり。
「そのお兄さんは…イ・ウーに、いるんですね?」
「…さっすが詩穂。もうわかってる、って顔だね。」
理子ちゃんは苦笑いをしながら私のことを見据えました。
ベッドの上、同じ布団の中。
すぐ目の前には、理子ちゃんの顔。
「キーくんはさっきも言ったように、お兄さんを凄く尊敬していたんだ。だから…ちょっとお兄さんの情報をエサに、ね。」
…そういうことだったのですか…。
理子ちゃんは本当に計算高い人です。
逃げ道を無くして、でも自分の逃げ道はいつでもちゃんと用意している。
そういう子なのです。
「…そういえば、キンジ君の『ヒステリアモード』って…。」
「あー、それはキーくんに直接聞いて。ちょっと生々しくて話したくない…。」
理子ちゃんは少し顔を赤くしながらそう答えてくれました。
…いつか、キンジ君に直接聞くしかないみたいですね。
「…と、ところでさ、詩穂…。」
「え?はい。」
理子ちゃんは突然、こちらに少し近づきました。
もう、お互いの顔の距離は10cmもありません。
…そこで、気が付きました。
理子ちゃんの顔が、紅潮していることに…!
「はぁ、はぁ…。さっき生殺し食らっちゃって、体が火照って仕方ないの…!詩穂、お願い…!」
「…え、ちょ、理子ちゃん…!?」
理子ちゃんはスルスルと私の体に手を這わせながら、更に更に近づきます。
「大丈夫、詩穂のことも…気持ちよくしてあげるから、ね…?」
「い、いえ、あのですね、理子ちゃん。この小説はR18ではないのでそういうことだけは出来なくてですね…!」
理子ちゃんの顔は、もう息のかかるくらいの近さまで来ていました。
…いつ見ても可愛らしい顔が、いつも以上に可愛く見えてしまいます。
その切なげな表情を見て、心が揺らぎかけます。
落ち着け、私…!
この小説は百合小説じゃない、えっちな小説でもない…!
ここで流れに身を任せたら負けです…!
「ねぇ、詩穂。さっきはキーくんに言ったけど、アレはウソなの…。」
「う、うう、ウソといいますと…?」
「私が本当に大好きなのは…詩穂だけなんだよ。詩穂さえいればいいの…!こんな気持ちは女の子に抱いちゃいけないのに…詩穂と一緒にいるだけで、止まらないよぉ…!」
ぐ、ぐはっ!?
か、可愛すぎる…!
ていうか地味に告白されてますし!
理子ちゃんは百合だったのですか、そうなのですか…。
でも、理子ちゃん相手ならいいかなって…!
い、いえいえ、しかし私にはキンジ君が…!
あぁ、でも、理子ちゃんも大事で、可愛くて、大好きで…!
理子ちゃんの2本の腕が、私の体を優しく抱き寄せます。
「ねぇ、詩穂…!お願い…!詩穂が好きな人はわかってるし、こんなことは許されないのも知ってる…!でも、今夜だけは…!」
理子ちゃんが懇願します。
切なげに、瞳を揺らして。
その目には、不安と期待と情欲が見えました。
…私は…!
「…ダメですよ、理子ちゃん。」
「詩穂…。」
理子ちゃんは捨てられてしまった子犬のような目で私を見つめました。
う、ううむ、精神的にキツイですが…。
理子ちゃん、ごめんなさい…。
今、その期待に応えてしまってはいけないんです。
「私は理子ちゃんも大好きですし、キンジ君も…その、好きです。アリアさんも好きなんです。でも、だからこそ…こんな曖昧な気持ちで、理子ちゃんの気持ちに応えちゃダメなんです。」
「…うん。」
「ごめんなさい、理子ちゃん。いつか、私の心に決心がつくまで…。ズルイ言い方をしてしまいます。許してください。私を…待っていてください。」
私には…まだよくわかりません。
キンジ君のことは、好きです。
でもそれは本当に恋情なのでしょうか?
…そう言われると、簡単には頷けません。
いつか、私が大人になるまで。
理子ちゃんに、情けなくお願いするんです。
待っていてください、と…。
「…ずるいよ、詩穂…。そんなこと言われたら…待っちゃうよ。いつまでも、いつまでも…詩穂のことを、待たなくちゃいけないの?」
「…ごめんなさい、理子ちゃん…。」
「…ううん。大丈夫。詩穂が私のことを考えて言ってくれてるのが、よくわかったから…。」
理子ちゃんは少し呆れたように首を振ると、微笑を浮かべました。
「待ってる。詩穂のこと、大好きだから。」
「…はい。ありがとうございます…理子ちゃん。」
理子ちゃんは、優しい子です。
こんな私のことを、好きと言ってもらえた。
今はその事が、嬉しいです。
「…でもキーくんに取られる前に快楽で堕とせばいいよね?」
「………は?」
ふと気が付くと、理子ちゃんの赤く染まった顔が見えました。
「…詩穂、ごめん。」
「…みゃぁぁぁぁ!!」
なんとか一晩中抗戦し、貞操その他諸々を守ることに成功しました…。
読了、ありがとうございました。
…書き終わってから気付きましたが、なんなんですかこの百合は…。
さすがに方向性を見失ってきましたね。
次回からはもっとまともな小説を書いていきます…。
そしてようやく詩穂が色々と気付きましたね。
あんだけヒントがあったのに、何を見ていたんだろうこの残念娘は…。
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