緋弾のアリア 残念な武偵   作:ぽむむ@9

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第2話です。
今回は原作ヒロインが登場します。

それでは、拙い文章ですがどうぞ。


第2話 であいはとうとつです

「くそっ…!どうしてっ…!こうなるんだよっ…!」

「うぅ、ごめんなさい…」

 

当然ながら、バスには乗り遅れてしまいました。

となれば残る手段は自転車通学。

…でも残念ながら、私の自転車は女子寮に置き去りでした。

 

そして話し合った結果…。

やたら嫌がる遠山君を全力で説得して。

ママチャリの後ろの荷台に、2人乗りさせてもらっています。

 

「坂道っ……!」

「ごめんなさいぃ…」

 

謝ることしか出来ない私を乗せ。

遠山君はキツそうに声を上げながらペダルを踏み続けます。

 

…坂道は私が降りたほうが早いのでは?

という考えがふと頭によぎります。

でも何だか律儀に頑張っていただいてるので言わないことにしました。

 

…いえ、別に少しでも楽したいわけではありませんよ?

 

「うぐっ…!重い…!」

「………ごめんなさい……」

 

心が折れる音が、自分の心臓から聞こえました。

『重い』は正直グサッと来ます。

しかし…乗せてもらっている手前、何も文句は言えません。

 

…ところで。

気にしないように努めていましたが。

2人乗りということは、私は遠山君に後ろから抱き着いている形になります。

…これはかなり恥ずかしいです。

とはいえ、しっかりと腕を回しておかないと落ちてしまいます。

 

…遠山君が提示した条件の一つに、『不必要な接触をしないこと』というのがありましたが。

これは致し方ない…ですよね?

こんな偶発を理由に部屋から放り出されたら敵いません。

 

「よしっ…!学校がっ…!見えたぞっ…!」

 

だいぶ遠山君の息が上がってきてはいますが。

彼の言う通り、学校が見えてきました。

あと5分弱くらいで校門をくぐることが出来そうです。

 

…学校。

今朝の準備の中で()()を制服の背中側に仕舞ったように。

この学校は…『普通じゃない』。

 

東京武偵高校。

将来『武偵』になる人のための教育機関で、その中でも高校生を育成しています。

『武偵』、とは。

…武装探偵、を略された言葉。

DA(Detective・Armed)とも称されるその職業は、云わば『法律によって逮捕権を持つ一個人』に近しいものです。

武装を許可され、個人的に犯罪行為を解決し治安を維持することが求められます。

世界的に過激化する犯罪者・犯罪組織に対応する形で新たに設立されたこの職業は…しかし、独特な立ち位置でもあります。

 

事件や犯罪が起きた時。

市民は普通、警察に連絡します。

逆に武偵が対応する事件や犯罪は…『警察に頼ることが出来ないもの』が中心になってきてしまうのです。

結果アングラな事件であったり対暴力団であったり、更には報復やボディガードといった私的なものであったり。

つまるところ、『武偵』は『暴力的な何でも屋』のような立ち位置にあります。

 

この武偵、という職業には。

更に細分化された専門性を学ぶという特徴もあります。

単純に戦う事に重きを置く者、犯罪者への尋問、戦闘中での治療のエキスパートなど。

各武偵はそういった専門性をこの『武偵校』で学ぶのです。

例えば、私は強襲科(アサルト)と呼ばれる戦闘を中心に学ぶ専門学科に所属しています。

…あまり、成績はよろしくありませんが…。

 

そして遠山君は…。

()によれば、彼も強襲科。

それも、確か学校入学時では最高成績の…。

 

「よしっ…!なんとかっ…!間に合いそうだっ…!」

 

アレコレ考えていると、遠山君の息切れした声。

…そんな彼に声をかけるとするなら。

 

「頑張ってください!」

「他人事、みたいにっ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その チャリには 爆弾 が 仕掛けて ありやがります」

 

あと少しで到着する、というそのタイミングで。

後ろから変な声が聞こえた気がします。

明らかに人ではない、人工合成音声。

 

「チャリを 降りやがったり 減速 させやがると 爆発 しやがります」

 

どうりで聞き馴染みがあるこの声は。

『初音ミク』…最先端の技術で作られた仮想歌唱ソフトウェア(ボーカロイド)です。

その機械的な声が、随分と恐ろしい言葉を発していたような…。

 

「と、遠山君!」

「聞こえてる!状況は!?」

 

あわあわ、と周りを見渡すと。

1台の妙な機械が後ろから追ってきています。

あれは…セグウェイ、でしょうか?

小型の移動用二輪機械です。

しかしそれに乗っているものは人ではなく。

銃が。

 

「後ろからせ、セグウェイが!銃…!」

「セグウェイ…?銃だって…!?」

 

遠山君も自転車を漕ぎながら後方を確認。

そして、ギョッとしながら叫びました。

 

「な、んだ…!?サブマシンガン…UZIか!?」

 

UZI(ウージー)

イスラエルで開発された短機関銃(サブマシンガン)の1つです。

そんな恐ろしいものが、セグウェイの上にちょこんと座っています。

その銃口は…遠山君!

 

「狙いは遠山君みたいですっ!」

「クソッ…!茅間!爆弾とやらを探してくれ!」

「は、はいっ!」

 

遠山君は叫びながらも、機械音声の指示通り自転車の速度を上げていきます。

片手で遠山君にしがみ付きながら、もう片方の手で自転車を探ると。

 

すぐに見つかります。

サドルの下に…ありました。

 

「ありました…!サドルの下に…感触的にC4!それもかなりの量です!」

「マジっ…!かよっ…!」

「雷管、導火線は見当たらないです…!遠隔で起爆するタイプっぽいです!」

「くっ…!はっ、はっ…!」

 

遠山君は2人乗りの分もあるのか、息も絶え絶えです。

C4…プラスチック爆弾。

粘土っぽい感触からそう判断しました。

それが自転車のサドルの裏にこれでもかというぐらい仕掛けられていました。

自転車どころか自動車を吹っ飛ばせそうな量です。

 

解除(バラシ)は!」

「か、片手じゃ無理です…!」

 

自転車の上という不安定な場所での解除は、正直両手でも厳しいです。

粘土でかなり固めで接着されている上、遠隔の爆弾を解除しようとするのはそもそも無謀ですし…。

ど、どうしたら…!

 

「くっ…!人のいない場所に向かうっ…!茅間はセグウェイを何とかしてくれ!」

「な、なんとか!?」

「頼んだ!」

「は、はい…!」

 

後方を振り返ると、こちらに睨みを利かせるように追従するセグウェイ。

そして…銃口。

何とか、する…!

パッと思い付くなら、こちらも銃で応戦することです。

更に具体的に言うなら…セグウェイ上のUZIを銃撃する。

 

…しかし。

私は強襲科ですが、銃の扱いは正直自信がありません。

静止撃ち(まとあて)ならそこそこ当たりますが、ここは不安定な二人乗りという状況。

片手撃ち、かつ対象が動いているという非常に難しい状況です。

 

しかし、あのセグウェイを何とかしないといけないのも事実。

私は意を決して、背面から銃を取り出しました。

 

…私の銃は、不思議なカスタムがしてあります。

H&K・MARK23が元の銃ですが、銃身(バレル)を極端に長くしてあります。

そのせいで銃身が遊底(スライド)の外側に飛び出てしまっているので、それを特注の大型サイレンサーで覆い隠している。

つまり、やたら長く、そしてデカく見えるハンドガンです。

 

銃身が長い影響で、スナイパーライフルのように銃弾は真っ直ぐ飛び。

かつ空気圧も高いため通常のハンドガンより威力が高い。

代わりに取り回しが悪く、狙いをつけること自体が非常に困難で、しかも反動が大きい上にサイレンサーも飾りに近いため銃声も大きい。

 

そんなこの銃は、当然フルオートで撃ったら壊れてしまいます。

ですのでセミオートでしか撃てないようにカスタムしてあるのです。

 

…長々と頭の中で整理しましたが。

私の銃の特性は、この状況と全く合いません。

こういう動的なものを撃つ際は、フルオートで弾幕を展開することで当てに行くのが基本なのです。

 

私は銃口を…セグウェイに向けます。

こうなったら一発で当てる他ありません。

外れたら…おそらく、セグウェイ側から反撃で撃たれるに違いありません。

当たり所が悪ければ、当然…。

 

…大丈夫。

この子は、きちんと狙えば…当たってくれる。

フロントサイト・リアサイトで照準を合わせて、心を落ち着けて…。

引き金を、慎重に引きました。

 

 

 

ガギュン!

 

 

 

セグウェイに鎮座するUZI目掛けて。

私が撃った銃弾は…。

 

ガギャンッッ!!

 

見事、UZIにヒットしました。

銃弾によってUZIは破壊され、セグウェイもその衝撃で倒れて。

自転車からドンドン遠ざかっていきました…。

なんとか…しましたよ、遠山君…!

 

「や、やったっ!」

「いいぞっ…!だがっ…!爆弾を、何とかしないとっ…!」

「そ、そうでした…」

 

もう一つの問題が残っていました。

あの機械が言うには、この爆弾は減速すると爆発してしまいます。

遠山君にも限界が見えますし、このままだと時間の問題です。

どうすれば、いいんでしょうか…!?

 

加速する自転車は、とうとう学校内に入り。

校庭に侵入していきます。

始業が近いからか、辺りに生徒の姿は見えません。

 

「…うん?何だあれ…?」

 

遠山君が空のほうを見上げて何かを見つめています。

つられて私も空を見上げて。

遠山君が見つけた何かを、探します。

 

あれは…人影?

真正面の校舎の屋上に、黒い影。

長いツインテールの…女の子…?

逆光で表情は見えませんが、武偵高の服を着ているので…武偵高の生徒でしょうか?

その影はこちらに向けて腕をブン、と大きく一回振ると。

ふわり…と、校舎から飛び降りました。

 

「えぇっ!?」

 

その子はパラグライダーを空中で展開し、こっちに向かって降下してきます…!

グングンと高度を落とし…このまま来ると衝突してしまいそうです。

 

「ばッ、馬鹿…!危険だっ!この自転車には爆弾が…ッ!!」

 

しかし遠山君の叫びを無視して、彼女はどんどん近づいてきます。

もう、あと数秒で衝突してしまいます…!

 

「アンタはとっととチャリから飛び降りなさい!」

 

甲高い、けれど可愛らしいアニメ声。

ツインテールの女の子は、怒ったように叫びます。

遠山君は今自転車を漕いでいるから降りられません。

もしかして…!!

 

「私ですか!?」

「そうよ!早く!こっちのバカはあたしが何とかするから!」

「えぇぇ!?」

 

飛び降りる…っ!?

体感、時速30Kmは超えていそうです。

この速度で走行する自転車から飛び降りたら、結構危険です…!

…しかし、あの女の子は遠山君は何とかしてくれる…らしいです。

わざわざここまで飛び降りてきたということは、無策とも思えません。

 

一瞬の判断。

怖いけど…!

 

「わぁぁぁぁっっっ!」

 

私は恐怖をねじ伏せ、思いっきり自転車から飛び降りました…!

大丈夫、受け身さえ取れれば上手く着地できるはず…!

そしてっ…!

華麗に着地…っっ!

 

ズザァァァァァッッ!!

 

…そう、現実は甘くはありません。

結局私は体全体で着地しました。

というか、地面に体を叩き付けるように転がり落ちただけです。

砂埃を盛大にあげて。

おそらく他の人から見れば、かなりダサい感じに自転車から落ちたようにしか見えないでしょう。

 

「うう、痛い…」

 

手足がジンジンと痺れています。

防弾制服は頑丈な造りなので、服は破れていませんが…。

摩擦の影響で、擦った様な痛みが全身を覆います。

それでも涙目ながら、なんとか立ち上がると…。

 

 

 

 

 

 

ドガアアアアアアアアンッッッッ!!

 

 

 

 

 

 

…目の前で、閃光と爆風。

自転車に仕掛けられていたC4が、とうとう爆発したのでしょう。

暴力的な熱波と圧が私を襲います。

私が落ちた地点から少し離れた地点で爆発したようですが、衝撃波は余裕で届く距離でした。

 

「ひゃぁぁぁぁぁっ!!」

 

爆風でゴロゴロと転がりながらも顔を伏せ、匍匐して余波に耐えます。

数秒で爆発は収まり…顔を上げると、10m程先に爆心地と思われる穴がポッカリと開いていました。

あのまま自転車に乗っていたら…と考えると、寒気がします。

 

「うぅぅ…そういえば、遠山君とあの子は…?」

 

そうです。

私はなんとか助かりましたが…。

遠山君とあの女の子は、爆発に巻き込まれていたら大変です!

服に付いた砂を手で払いながら、私はよろよろと立ち上がります。

 

「…………!?」

 

辺りを探りながら歩いていくと。

校庭の端の体育倉庫の前。

そこで異様な光景が広がっていました。

 

先ほどのUZIを背負ったセグウェイ。

それが…沢山集まっています。

銃口は全て体育倉庫へと向いています。

あの二人は、おそらく。

体育倉庫の中にいる可能性が高いです…。

 

「こ、こういうときはどうすれば…!」

 

私は…正直、強いとは言えない強襲武偵。

セグウェイはここから見る限り7台。

体育倉庫の周囲は草木(ブッシュ)がそこそこあります。

場合によっては、もっと敵影(セグウェイ)がいる可能性もなくはないです。

少なくとも今ここで出ていくなら、私は7台のサブマシンガンを相手にしなくてはいけないわけで…。

 

冷静に判断するなら、ここは。

もう少し様子を見ましょう。

そう、焦りは禁物です…。

 

草葉の陰に隠れながら、そろりそろりと体育倉庫に近づきます。

なんとかセグウェイにバレずに。

最も体育倉庫に近い茂みまで近づけました。

 

あとはタイミングを見計らって…。

み、見計らって…どうしましょう…?

一台を撃てば残りにバレて、狙われてしまいます。

手元の銃に目を落としますが、反動が大きくセミオートオンリーのこの子では分が悪い…。

でも、何とかしないと二人が危ない…!

そんな情けないことを考えていると。

 

突然、体育倉庫の中から。

…遠山君が出てきました。

大量のセグウェイなど見えてもいないかのように…。

本当に何もないかのように、のんびりと歩いて。

 

当然、UZIの銃口が遠山君を狙います。

そして。

 

ガガガガガガッッ!!!

 

全ての銃口が、一斉に…激しい銃声を上げます…!

 

「あ、あぶな…!!」

 

遠山君がハチの巣になってしまう未来を想像し、目を見開きます。

その瞬間。

遠山君が体を大きく反らし、UZIの射線から逃れ。

いつの間にか持っていた彼のベレッタが、火を噴きました。

 

バギャギャギャギャ……!!

 

銃声は、ちょうど7発。

そして音を立てながら、UZIが一斉に破壊され。

気が付けばセグウェイは全て停止してしまいました。

 

い、今…一体…!?

 

余りの一瞬の出来事に、驚きを隠せません。

撃たれたUZIは、不自然な壊れ方をしています。

銃身には一切傷はなく、内部から破壊されたように見える壊れ方です。

銃口からは煙が上がり…。

まるで、その銃口にピッタリと弾丸が撃たれたかのよう…。

 

…遠山君は。

今の一瞬で、飛び交う7つの射線を正確に避けて。

…UZIの銃口を撃ち抜いた、ということでしょうか…。

 

「すごい…」

 

遠山君は何でもなかったかのように銃をホルスターにしまうと、くるり、と背を向けます。

体育倉庫に向かって…あの女の子が待っている場所へ。

 

…一瞬で射線を見切って避ける、人間離れした反射神経と運動神経。

銃口を撃ち抜く、という狂ったような射撃技術。

そして、それを気にも留めない堂々とした佇まい。

 

私はその挙動に目を奪われてしまいました…。

 

「か、かっこいい…!!」

 

それは、いつか憧れた景色と同じように。

私の目に煌めいて見えました。

私の憧れた…『武偵』という存在。

その背中を、私は眩しく見るのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

…もう、安全そうです。

二人に合流して、互いの安否確認をしないと…。

そう判断して茂みから出ると。

 

 

 

 

 

ウィーン!!

 

 

 

 

 

私の目の前に、セグウェイの生き残りと思われる1台が飛び出してきました。

どこかに隠れていたのでしょうか、突然の登場に身動きすら取れません。

銃口は…私に向いています。

しっかりと頭に狙いをつけて…。

 

「あ…」

 

叫び声すら上がりませんでした。

防弾制服で守られていない頭部は、当然撃たれれば死にます。

ここで…死ぬ。

私はここで、死ぬ。

油断しました。

安全確認を怠った私の…ミス、です。

 

 

バリバリバリバリッ!!

 

 

銃弾の嵐が、迫りくる音が聞こえます。

 

 

 

 

 

……………っっ!

 

 

 

 

………?

頭に衝撃がきません。

痛みもなく、意識はそのままです。

耳を澄ましてみると。

セグウェイの稼動音、UZIの銃声は聞こえなくなっています。

そして全身を包む、謎の浮遊感…。

うっすらと目を開けると…。

 

目の前には、遠山君の顔がありました。

 

「盗み見かい?いけない子猫ちゃんだ」

「…………っ!!??」

 

今朝見せた不愛想な表情とは真逆の、優しい微笑み。

…脳みそをドロドロに熔かされるような、甘い声。

かぁ、と体の温度が上昇していくのがわかります。

今この瞬間、大切だったはずの今の現状が…溶けて、なくなっていく感覚…。

ツインテールも、爆発も、遅刻も、UZIも。

今の状況に、甘く溶け込んで。

 

「でも、君が可愛いから…許してあげよう。それに君のことが守れたから、もうお咎めもなしだ」

「う、ぁ、あぁぅ……!」

 

ふにゃふにゃ、と体の力が抜けていきます。

甘い声は世界と私を切り離して…。

いつもの遠山君とは、全くの別人のように感じてしまいます。

優しい笑顔、私を優しく抱き上げる両腕、愛おしむような視線。

いつものぶっきらぼうで女嫌いな遠山君とは思えません。

 

 

 

 

 

…いつもの、遠山君?

なら。

目の前の彼は?

 

違和感が疑問を呼び。

疑問が好奇心を呼ぶ。

 

「うん?どうしたんだい?そんなに俺のことを見つめて」

「…本当に、遠山君、ですよね?」

「ははっ。面白いことを言うね、詩穂は」

「……!遠山君……?」

 

とうとう名前で呼び始めました。

しかし、先程までの甘い感情は何故か消えていきます。

そこには、ただ冷静な私がいました。

 

ぎしり。

頭が音を立てるように、回転を始めます

 

明らかに…別人。

そうとしか思えないくらいの変化ぶり。

あの爆発で頭がおかしくなってしまったんでしょうか?

それとも…これは、彼の隠された本当の性格なのでしょうか?

解離性同一性障害(にじゅうじんかく)

双極性障害(そううつ)

それとも何らかのパーソナリティ障害(せいしんしっかん)

 

作られたようにすら感じる微笑みと真っ直ぐ見つめる瞳。

甘い声の出し方は、技術を伴った演技性の表現法。

女の心を揺さぶることは、意図的にできる技術体系です。

熟練のホストならまだしも、女嫌いなんて噂の男子高校生が出来るものでしょうか?

 

 

 

 

…あなたは、誰?

 

 

 

 

「…遠山君。あなたは。誰、ですか?」

「……詩穂。落ち着いて、一旦眠ろう。俺の事は、忘れるんだ」

 

遠山君が、酷く困った顔でそう囁くと。

撫でるようにように私の首を軽く掴みます。

彼の手が支える位置は…頸動脈。

人体の、急所。

武偵が最も取られてはいけない弱点の一つ。

 

ああ…知りたかった。

遠山君の、異常な変化の理由を。

 

純粋な好奇心が生まれた時。

その時が一番、思考することが出来るのに…。

 

「おやすみ、良い夢を」

 

私の意識は、ここで途切れてしまうのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ょっと……なさぃ…」

 

ゆさ、ゆさ。

…誰かが私を揺すっている気がします…。

私は……。

 

………。

………そうだ、私は。

 

「ちょっと、起きなさいよ」

「はっ!!へっ!?」

 

ガバッと起き上がると。

今度は遠山君ではなく…目の前に、女の子の顔がありました。

状況を確認するために周囲を見渡しても…彼の姿はありません。

突然起き上がった私を見て驚いたのか、女の子はキョトンとしています。

 

この女の子は…さっき私と遠山君を救ってくれた、ツインテールの子。

あの時は無我夢中で、その顔をよく見る事はありませんでしたが…。

 

ピンク・ブロンドに輝く長い髪を、可愛くツインテールにまとめ。

整った顔立ち、強気そうなツリ目。

額を見せるように前髪に付けた髪留め。

少し視線を下に向ければ、まあ多少はスレンダーですが…整った体躯。

…正直、美少女以外に表現のしようがありません。

そんな彼女が、座り込んだ私を心配するようにしゃがんでいます。

 

「…お、おはようございます…?」

「何がおはようよ、全く…。もう始業式はじまっちゃったわよ?」

「えぇ!?そ、そんなぁ…」

 

呆れるように校舎を指さす女の子。

丁度そのタイミングで。

 

キーンコーンカーンコーン…。

 

ケータイで時間を確認すると…どうやら、始業式開始のチャイムだったようです。

せっかく遅刻しないように、自転車に乗せてもらったのに…。

とはいえ、とんでもない事件に巻き込まれてしまったので仕方がないのですが。

目の前のピンクツインテさん(仮称)は、問いただすように真っ直ぐ私を見つめ。

 

「にしてもアンタ。あの強猥野郎と一緒に自転車に乗っていたけど。あいつは何者なの?」

 

少し怒ったように、そう言いました。

強猥野郎…?

彼が強猥…かどうか、はわかりませんが。

状況的に遠山君の事っぽいです。

 

「遠山君のことですか?」

「トオヤマ?ふーん…」

 

なにやら思案顔でトオヤマ、トオヤマと反芻しています。

…彼女こそ、一体何者なのでしょう?

私と遠山君を助けていただいたのは確かですが…。

遠山君をどうやってあの爆弾から救ったのかは、謎です。

 

「あの…」

「何よ」

「えっ、あの、えっと…お名前を伺ってもよろしいですか?」

 

兎にも角にも。

この爆弾事件を乗り切った彼女とは知り合っておくべきでした。

事件後報告とかありますし、何よりも。

…何故か、このピンクツインテさんに不思議な魅力を感じます。

可愛らしい外見の所為でしょうか。

 

「人に名前を聞くときは、自分から名乗りなさい。武偵に限らず、一般社会でも当然の事よ」

「あ、は、はい…ごめんなさい…」

 

名前を聞いただけで怒られてしまいました…。

どこかトゲのある…というか傍若無人的な言い方をする方です。

 

「私は…その。茅間詩穂と、いいます」

「ふーん…あたしは神崎(かんざき)・H・アリアよ」

「あ、はい、神崎さん。よろしくお願いします…」

 

…神崎さん。

神崎さんですか。

…残念ながら、知らない方です。

こんなに目立つ格好をしているのに…武偵校では見かけた事の無い方です。

 

「…………」

「…………」

 

そして会話がなくなります。

…確かに、このまま教室に向かっても。

彼女との会話を終えても。

おそらく…問題はないはずです。

 

彼女と私は、助けた人と助けられた人。

でもそれは武偵同士ではよくある話で、一言のお礼程度で終わることもあるようなことです。

後は個別に事件後報告を教務科(せんせい)に提出すれば、それでおしまい。

ほんの些細な、それだけの関係なのです。

 

…でも。

私は彼女に、どことなく大切な…。

ロマンチックに言えば。

運命を、感じました。

まるで一目惚れでもしたかのように。

彼女ともっと…話してみたい。

 

「か、神崎さん!私その…!」

「ちょっといい?」

「は、はい!」

 

私の勇気を出した声は、一瞬で遮られてしまいました。

…やっぱりこの人怖いです…!

コミュ障気味な私にはあまりに重たいです…!

感じた運命が霧散していく感じがします…。

 

「……アリア」

「へ?」

「アリア、でいいわよ。神崎、なんて長いでしょ?」

 

拗ねたように、少し顔を赤くしながら。

ちょっとそっぽを向きながら。

彼女は可愛らしく、そう言いました。

 

…ああ。

よかった。

私はきっとこの子と…。

 

「…アリアさん」

「………ン…ま、いいわ」

 

アリアさんは納得したように、頷くと。

す、と立ち上がりました。

私も遅れて立ち上がりながら、アリアさんと向かい合います。

 

立ちあがり向かい合って気付きましたが。

アリアさんは…小さい。

139cmの私と殆ど大差ない身長です。

そして可愛らしい童顔から察するに…。

 

この子は多分、武偵高校に併設された武偵中学の子でしょう。

多分私を身長で同年代だと思っているみたいです。

だからこう…さっきから強気なタメ口なんですね。

小さい子に同年代と思われるなんて…自分が悲しくなりました。

 

まぁ、そこら辺は気を取り直して。

 

「アリアさん。改めて先程は…ありがとうございました」

「…いいわよ、別に。あのくらいあたしじゃなくても、誰かがやってたわ」

「それでも…ありがとうございました、です」

「…そう」

 

ちょっとだけ、アリアさんが微笑みます。

…ずっと怒ったような彼女の。

初めての、笑顔を見ることができました。

それは、花が咲くように…とても可愛らしくて。

 

「…さ、行きましょ。そろそろ始業式も終わりだろうし」

「…はい」

 

歩き出すアリアさんの横に並ぶと。

ふと、アリアさんが口を開きました。

 

「これは、独り言だから、あんまり気にしないで欲しいんだけど」

「……?」

「あたしね、わかるの。あんたとは、長い付き合いになる気がするわ。カンだけどね」

 

…アリアさん。

この方は乱暴なのは言葉遣いなだけで、きっと。

心の底は優しい方なんだろうな…。

そんな事を、私も思いました。

カンですけれどね。

 

「じゃ、あたしは先に教務科に用事あるから」

「あ、えっと。はい」

「またね。…詩穂」

「…はい!」

 

アリアさんと、始業式真っ最中の誰もいない校舎内で別れます。

…またどこかで会えるといいな。

そう思いながら、まずは新しくなったクラス分けを見に行くために。

私は足を、アリアさんとは別方向に向けました。




読了、ありがとうございました!

人生初の感想をいただけて猛烈に感動しています!

こんな子供が書いたような残念小説(いろんな意味で)を読んでいただけただけで作者は満足です!

さて、作者は恋愛経験が無いので今回のかっこいいキンジがうまく書けなくて、詩穂とヒスキンジの掛け合いが若干適当に思えるかもしれません。
アリアと詩穂の掛け合いもへたくそかもしれません。

ごめんなさい、もっと練習してきます…。

感想・批評等をお待ちしております。
アドバイスや評価もいただけたら嬉しいです。
誤字脱字もご指摘いただけると嬉しいです!

…貪欲な作者で申し訳ないです…。



※追記
2018年2/6、大変勝手ながら大幅な加筆・修正を行いました。
ご容赦願います。

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