緋弾のアリア 残念な武偵   作:ぽむむ@9

17 / 28
第16話です。


まずは一言。

また更新が遅れてしまい、申し訳ありませんでした!

もうなんなんでしょうね。
何が週1更新だよって話ですよね。
作者は約束を守るという基本的なことが出来ないんでしょうかね。


本当に申し訳ありませんでした!


そしてそんななか評価数が20件!
嬉しい限りです!
ありがとうございます!


第16話 たいへんなしごとです

さて、アドシアードが近づいてきた、ある日のこと。

 

「…マジですか…。」

「マジですよ、茅間さん。」

 

私は担任の高天原先生に呼ばれ、放課後の教務科に来ていました。

 

…呼び出しの理由は。

私のアドシアードのイベントの手伝い内容が決まっていなかったからです。

…ここ連日の『魔剣』の件で全く気にしていませんでした…。

 

そして、呼び出した高天原先生の一言。

 

「茅間さんには『客捌き』をやってもらうわね。」

 

…最悪です。

『客捌き』とは。

マスコミやアドシアードを見に来た人の誘導をやる仕事です。

…言葉にするとそんな大変でも無い気がしますが。

 

正確に誘導するためにどこでどの競技が行われているかを把握したり。

色々とうるさいマスコミの人たちの対応に追われたり。

しかもそれを長い時間やるから休む暇が無く体力まで要求されたり。

 

などなど、やりたくないことこの上ない仕事だったりします。

しかも自分で言うのもなんですが私はコミュ障気味。

…こんな仕事、やってられるとは思えません。

 

「た、高天原先生…。ほ、他の仕事は…。」

「うーん…もう残ってないのよねぇ。」

「や、やりたくないです…。」

「まぁ、ここまで放っておいた茅間さんの過失もあるし…やってもらえると嬉しいの。」

 

とまぁ、高天原先生は優しく言ってくれていますが。

…彼女の雰囲気が、少しだけ妙な迫力を持ち始めています。

これは…覇気?

それとも…さ、殺気!?

 

「茅間さん?お願いできるかしら?」

「ひゃ、ひゃい!やらせていただきます!」

 

凄く怖い光の宿った瞳で睨まれてしまったので、こう言わざるを得ませんでした。

…や、やっぱり高天原先生も武偵高の先生でした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、こんな恐ろしい出来事があった数日後の放課後。

私は渋々アドシアードの競技場所の配置を覚え、声が出るように強襲科練の近くで発声練習をしていました。

 

今日の強襲科体育館からは、いつもの激しい発砲音や蘭豹先生の怒号は聞こえません。

というのも、今日はアドシアード閉会式のチアの練習に体育館が使われているからです。

 

「I'd like to thank the person...」

 

不知火君のイケメンボイスとギターやドラムの音ががこっちまで聞こえてきます。

…私は、これより大きな声くらい出せないと『客捌き』なんかできないですよね…。

 

「…はぁ…。」

 

軽く絶望です…。

 

…しばらくすると、音が止みました。

どうやら今日の練習が終わったようです。

…私はもう少し、発声練習をしていこうかな…?

私は「あめんぼあかいな あいうえお」と発声練習を再開しました。

 

 

 

 

 

…また、しばらくすると。

 

バタン!

 

と思いっきりドアを開け閉めしたような音が聞こえました。

びっくりして音のした方向を見てみると。

 

力強く閉められすぎて少し歪んでしまった強襲科練の扉と。

…涙と共に走る、アリアさんの後姿が見えました。

 

「っ!アリアさん!」

 

そんなアリアさんを放っておけるはずも無く。

私は凄まじいスピードで走るアリアさんを追いかけるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ぜぇ…ぜぇ…。」

 

一瞬で見失ってしまいました。

アリアさん足速すぎです…。

…さすがに見失ってしまった人を探すのは骨が折れます。

今回は…アリアさんの帰宅を部屋で待っていたほうがよさそうですね。

 

そういえば、アリアさんは強襲科練から出てきましたっけ?

強襲科練に行けば、アリアさんが泣いていた理由がわかるかもしません。

私はくるりと踵を返すと、強襲科練へと向かいました。

 

 

 

 

 

「…あ、キンジ君。」

 

強襲科練に辿り着くと、ちょうどキンジ君が出てきたところでした。

…その顔は心なしか、沈んで見えます。

私が声をかけると、下を向いていた顔が私のほうを向きました。

 

「…詩穂か。悪いが、今は気分が悪いんだ。先に帰ってる。」

「え?あ、はい…?」

 

キンジ君はそれだけ言うと、寮のほうに歩いていってしまいました。

 

…うーん、気になりますね…。

でも、キンジ君の言うとおりなら今はキンジ君に話しかけることはしたくありません。

 

…さて、大体理由の察しは着きましたが…。

一応、強襲科練を見ていきましょう。

 

 

 

 

屋上にて。

 

「…これは…。」

 

私はあるものを発見してしまいました。

 

水がダバーっと貯水タンクから流れ出ていて…。

その穴は文字を形成していました。

 

『バ カ キ ン ジ』

 

と。

 

…これは、もうほぼ確定ですね。

大方、キンジ君がアリアさんとケンカに…それも、今までよりもちょっと強めにケンカしてしまったのでしょう。

なんというか、キンジ君もアリアさんも…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻り夜になっても、アリアさんは帰ってきませんでした。

…心配です。

 

キンジ君に事情を聞いてみたところ、簡潔にケンカをしたとだけ答えてくれました。

白雪さんは逆に喜びました。

 

「一人減った…!」

「白雪?何か言ったか?」

「ううん?なんでもないよ、キンちゃん。」

 

白雪さんはボソッと言ったつもりでしょうが、私にはガッツリ聞こえていました。

…マジで黒いですよね、この人…。

 

「まぁ、俺と詩穂でボディガードを引き継ぐ。約束だからな。」

「約束…。うん、キンちゃん!」

 

白雪さんは約束という言葉に顔を赤らめながら、キンジ君に頷き返しました。

…ちょっと疎外感やばいです。

あの2人の周りに結界が張ってあるかのごとく、私は会話に参加できません。

 

私はそろそろお風呂にでも入ってきたほうがいいんでしょうか?

 

「…お前、不安じゃないのか?俺と詩穂がボディガードで。無いとは思うが、万が一『魔剣』が襲ってきたら…。」

「不安なんて、ないよ。私にはキンちゃんがいるもの。」

 

白雪さんは。

そこだけやけにハッキリと主張しました。

 

「だって、キンちゃんは強い人だもん。キンちゃんはちゃんと私を守ってくれる。そう、信じてる。」

「…白雪。」

 

…白雪さんは。

本当に心の底から、キンジ君を信頼しているようでした。

100%。

その瞳には、1ミリの不安もありません。

 

私はとうとういたたまれなくなり、そそくさとお風呂に向かうのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…お風呂にて。

 

シャワーを浴びて、体を洗い終わった後。

湯船にゆっくりと浸かりながら、体をリラックスさせます。

 

湯船に浸かる、という行為は実は武偵でも推薦されています。

というのも、体の血行がよくなって動きがよくなりますし、体の負担を浮力が和らげてくれるので疲れもしっかり取れます。

汗が出るので、代謝を補佐する働きもあります。

 

何より、あったかくて気持ちいいです…。

 

………。

さて、少し考え事をしましょう。

 

今お風呂から出たところで、また白雪さんとキンジ君の世界に入り込めず疎外感を感じるだけでしょうし。

 

…そういえば、アリアさん曰く。

『魔剣』はイ・ウー内でも指折りの策士だそうです。

叶さんは…そのことを知らなかった。

 

可能性として考えられるのは3つです。

 

1つ目は、叶さんと明音さんが本当に何もわかっていないという可能性。

どうやらイ・ウーに潜入したのは最近のことのようですし、何も知らないという可能性はあるにはあります。

…あの2人、特に明音さんの状況分析能力を鑑みるに可能性としては低いですが…。

 

2つ目は…あまり考えたくはありませんが、叶さんと明音さんが既にイ・ウー側に付いてしまっているという可能性です。

正直それが一番困るパターンです。

あのアリアさんを1人で制した叶さんと、おそらく同程度の実力を持つと思われる明音さん…。

この2人が敵に回ってしまったら、勝てる気がしません。

 

そして…3つ目。

彼女たちのスパイ行為が、イ・ウー側にバレているという可能性。

誰かしら…おそらく、『教授』なる人物でしょうが…その人が叶さんと明音さんのスパイ行為に気付いて、故意に情報が流れないようにしている。

…その場合も、困ったことになります。

というのも、叶さんと明音さんのスパイ行為に気が付いていながらも、2人を泳がせている。

このことが意味をすることは…あの2人などいつでも潰せる、ということ。

 

つまり相手は叶さんや明音さんよりも遥かに強い。

 

ということになってしまいます。

…そうだとしたら、脅威どころの話ではありません。

 

化け物。

 

そう表現するにふさわしい相手がイ・ウーにはいると、叶さんは言っていました。

 

 

…もう、お風呂から出ましょう。

このまま考えていても、嫌な想像しか浮かびません。

 

私は湯船から出ると同時に、恐ろしい想像をやめました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お風呂から上がってソファでゆっくりしていると…。

テーブルの上に、何かの紙が置いてあることに気が付きました。

 

キンジ君も白雪さんも、もう自室に戻ってしまったようです。

テーブルの上にあったものを手にとってみると、それはウォルトランドの花火大会のお知らせを印刷したものでした。

 

えっと…『5月5日、東京ウォルトランド・花火大会、一足お先に浴衣でスター・イリュージョンを見に行こう』

 

…ウォルトランドの、花火大会…ですか…。

正直行きたくはありませんね。

何せウォルトランド。

人ごみというか人の波で、立っていることすら危うそうです。

 

「まぁ、私にこんなリア充万歳イベントは似合いませんよね。」

 

私はそう呟くと、紙をテーブルに置いてソファに座りなおしました。

…でも、花火大会、かぁ…。

私も、キンジ君と一緒に…。

浴衣を着て、一緒に並んで立って…。

手なんかも繋いじゃったり…!

 

…わぁぁぁ!?

わた、私は一体なんてことを想像して…!?

 

そうです!

今はそんなことを想像するよりも大切なことがあるはずです。

 

…アリアさん…。

まだ、帰ってこないのでしょうか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は自室に戻ると、ケータイにメールが入っていることに気が付きました。

差出人は…アリアさん!?

 

急いで内容を確認すると、内容は大体こんな感じでした。

 

『あたしはバカキンジに腹が立ったからボディガードを抜けさせてもらうわ。謝ってくるまで絶対に許さないんだから!それと、今は一応レキの部屋を借りて住んでる。何か用があったらレキの部屋まで来て。』

 

…この文章は。

この前アリアさんの言っていた、『作戦』の決行を意味していました。

アリアさんは、ボディガードを外れる。

『魔剣』を油断させるために。

 

…何はともあれ、アリアさんが無事で何よりです。

あとはアリアさんに言われたとおり、アリアさんを信じて動くだけです。

 

 

もうすぐゴールデンウィークが、始まります…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁゴールデンウィークに入ったからといって特に変わったことはありませんが。

強いて言うなら私のゲーム時間が伸びただけです。

 

朝起きたら、リビングの掃除や銃の整備。

それが終わったら白雪さんのボディガード…ついでにゲーム。

 

そんな風にだらだらと毎日を過ごして。

 

 

 

 

 

 

気が付くと、5月5日になっていました。

今日は確か…ウォルトランドの、花火大会のはずです。

 

今現在7時30分。

キンジ君の姿は見当たらず、浴衣を着た白雪さんがリビングで正座していました。

…浴衣?正座?

 

よく見ると、彼女の足元には充電器に挿したケータイが置いてありました。

…ケータイ?

 

…怪しいです。

いえ、怪しいというかなんと言うか…明らかにおかしいのですが、如何せん白雪さんの気迫のようなもののせいで近寄るに近寄れません。

仕方なしに自室のドアの影からそっと見守ります。

 

と、そのとき。

 

ピピピピ…ガッ!

 

ケータイの着信音が鳴ったと思った次の瞬間、白雪さんがケータイを手に取りました。

どうやらメールのようです。

 

そして内容を確認すると、ものすごい速度でガガガガッと返信を打ち始めました。

そしてケータイを元の場所に置き、また正座に戻りました。

 

…これなんて修行?

 

とまあこんなことがもう1、2度繰り返されたあたりで。

 

…ガチャリ。

 

と、ドアの音がしました。

キンジ君が帰ってきたみたいです。

しかし、白雪さんはケータイに集中しすぎているためかその音には気が付きません。

 

「悪い、遅くなった。」

「ひゃあっ!き、キンちゃん。びっくりした…。」

 

キンジ君が後から声をかけると、白雪さんは正座のまま20cmくらい飛び上がりました。

…どうやってんですか、それ…。

 

白雪さんとキンジ君はリビングで少し言葉を交わすと、玄関から出て行ってしまいました。

…あれ?

私、ハブられてます?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さすがの私もこうも露骨にハブられてしまっては腹が立ちます。

というわけで。

 

ただいま現在、2人を尾行中です。

…我ながら度胸が無いと思います。

直接聞けばいいものを…。

 

いっそ私の尾行に気が付いてくれれば楽なのですが、2人は全く気が付く様子はありません。

…キンジ君、それでもボディガードですか…。

 

2人を後からこそこそと追う中、ふと夜空を見上げると…。

 

…ドーン…ドーン…。

 

と花火の音が聞こえました。

…きっとこの2人はウォルトランドの花火を見に行くのでしょう。

 

私を置いて、2人きりで。

それは寂しくもあり、悔しくもあり…。

そして、羨ましくもありました。

 

急に、心がキュッと締め付けられました。

悲しく、なりました。

 

キンジ君…。

あなたの隣に、私は立つことはできないのでしょう。

アリアさん、白雪さん。

こんなにも魅力的な2人に私は勝てる自信がありません。

…でも。

私は…私は。

 

そんなことを考えているうちに、2人はモノレールの駅に到着してしまいました。

…さすがに同じモノレールに乗ってしまうとバレてしまいます。

それに…私なんかが2人の時間を邪魔してしまう道理はありません。

 

私はここまで付いてきたにもかかわらず、そのまま逃げるように部屋に戻ってしまうのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…。」

 

自室に戻った私は、手持ち無沙汰故にオンラインゲームを始めました。

…いつもそう。

嫌なことや現実から逃げたいとき…。

私はいつもゲームに逃げてしまいます。

 

…これは。

現実を受け入れるために時間を置いているだけだ、と。

負けないために力を蓄えているだけだ、と。

頭の中で意味の無い言い訳をします。

 

どうして、こんなに傷付いているのでしょうか?

私はただ、キンジ君を心の中でだけ想うだけで満足だったはずなのに。

私なんかが彼の隣に立つことはできないと知っていたはずです。

ただのチームメイトでいい。

ただの、友達でよかったのに…。

 

私は頭の中で言い訳と自己分析を繰り返しながら、ゲームに没頭していくのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

どのくらい、経ったのでしょう。

 

ガチャリと玄関のドアが開かれました。

咄嗟のことに驚き身構えます。

 

…聞こえてきたのは、少しだけ重たい足音が1つ。

…1つ?

 

私は気になってドアを開き、リビングへと向かいました。

 

…リビングには、キンジ君が少し呆然とした顔で立っていました。

なぜかというかやはりというか、白雪さんの姿は見えません。

 

「…詩穂?」

 

キンジ君は呆然とした表情のまま私に話しかけました。

私は先程の葛藤のせいで少し痞えながらも返答します。

 

「き、キンジ君…。おかえり、なさい。」

「…ああ。」

 

私は事情を聞かないといけないような気がして、キンジ君に向き直りました。

…今は、私の恋心に蓋をして。

 

「…キンジ君、白雪さんはどうしたのですか?」

「白雪は…忘れ物がどうこう言って女子寮に帰ったよ。」

「帰ったよって…キンジ君はボディガードじゃないんですか?」

 

自分の発言にかなり棘が含まれていることに自分で驚きました。

…いつもの私じゃ、無いみたいです。

 

「…なんなんだよ、詩穂まで。俺が何をしたって言うんだ?」

「そ、そんな…私は、ただ…。」

「…もういい。俺は寝る。」

 

キンジ君の少し苛立った声に萎縮し、それ以上問い詰めることはできませんでした。

キンジ君はそのまま自分の部屋へといってしまいます。

…私は、そんなつもりじゃ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩穂→キンジ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葛西臨海公園の人口なぎさから帰ってきた俺は、部屋に戻ると少しボーっとしていた。

 

…アリアは、俺に怒って出て行ってしまった。

白雪とは気まずい雰囲気のまま別れてしまった。

 

…俺は、一体どうすればよかったのだろうか。

 

アリアとケンカするのはいつものことだった。

でも、いつもだったら俺に一方的に銃を撃ってきて終わるはずなのに…。

俺は言葉を間違えたのか、アリアは出て行ったきりだ。

 

白雪を連れ出そうとしただけだった。

外の世界を知ってもらうために、かごの鳥を外に出そうとしただけだった。

…どうして、ああなってしまったのだろうか。

俺が何をやったって言うんだ。

 

「き、キンジ君…。おかえり、なさい。」

「ああ…。」

 

リビングに突っ立っていると、詩穂が部屋から出てきた。

…こいつにも、色々と説明してやらなくちゃな。

コイツも一応白雪のボディガードなわけだし。

 

俺が口を開こうとすると、詩穂の方から話題を振ってきた。

 

「…キンジ君、白雪さんはどうしたのですか?」

「白雪は…忘れ物がどうこう言って女子寮に帰ったよ。」

「帰ったよって…キンジ君はボディガードじゃないんですか?」

 

詩穂の言葉に、驚きを感じた。

いつもの優しく気遣うような言い方ではなく…棘のある、似合わない言い方。

よく見るとその幼い顔は、いつもの優しげな微笑はなりを潜め、ひどく疲れた顔をしていた。

 

…そして、数瞬遅れて、怒りが沸いてきた。

どうしてこうも、気持ちのよくないことが次々に起こるんだ。

目の前の詩穂に、そして…何より自分に腹が立った。

 

「…なんなんだよ、詩穂まで。俺が何をしたって言うんだ?」

「そ、そんな…私は、ただ…。」

 

詩穂は俺の苛立った声に驚いたのか、怯えたような声を出した。

そして、それ以上の追求を止めた。

…こうもビビられると罪悪感が沸く。

 

…もう、何も考えたくない。

明日頭の中を整理して、もう一度考えよう。

 

「…もういい。俺は寝る。」

 

すっかり勢いを失い、俯いてしまった詩穂を置いて…。

俺は自室の扉を、閉めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジ→詩穂

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝。

今日でゴールデンウィークは終了し、アドシアードが始まります。

…起きてすぐに、昨日のことを思い出してしまいました。

 

キンジ君に、謝らないといけませんね。

あのときの私は少しおかしかったです。

彼だってきっと、疲れているのに…。

 

昨日のうちは結局、白雪さんは帰ってきませんでした。

だから今日の朝ごはんは、私が作らないとです。

 

私は色々と決心して、リビングに向かうのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

リビングには。

朝早いのに珍しくキンジ君がいました。

お互いに顔を合わせると、お互いに気まずさから目を逸らしてしまいます。

 

…ダメ、です。

謝らないと。

 

「…キンジく…。」

「…詩穂…。」

 

…お互いに、声がかぶってしまいました。

またもや気まずい沈黙が流れます。

 

…ど、どうしましょう…。

私がこの部屋に来たときの朝の、何倍も気まずいです…。

 

…でも。

勇気を出さなきゃ。

このまま気まずい状態ですごすなんて、勘弁です。

 

私は勇気を振り絞って、口を開きました。

 

「…キンジ君。昨日は、その…。ごっ、ごめんなさい!」

「…詩穂…。」

 

私は頭を下げながら、謝ります。

 

「昨日は、その、私…おかしかったです。あんなに強く言うつもりは無くて、ただ、その、知りたかっただけで…。」

「…わかってるよ。そんなことぐらい。」

 

キンジ君はそっぽを向きながら、でもしっかりと私の言葉に答えてくれます。

 

「…なんだ、俺も…悪かった。気が立っていたんだ。」

「…キンジ君。」

 

お互いに視線を合わせると、微笑みあいました。

…良かった、仲直り、できたみたいです…。

 

 

 

 

 

 

「…結局、白雪さんはどこに行ってしまったんですか?」

「忘れ物がどうこう言って、女子寮に帰っちまった。今日はそのまま女子寮で寝るって昨日メールが来た。」

 

朝食を食べながら、キンジ君に昨日聞けなったことを聞きます。

…今度は、優しいゆっくりとした雰囲気の中で。

 

「…では、ボディガードはどうしましょうか?」

「うーん…まぁ、一応アドシアード終了まで続ける約束だし、俺は続ける。詩穂はどうするんだ?」

「キンジ君が続けるのなら、私も続けますよ。」

 

アリアさんも動いてくれているはずですしね、と心の中で付け足します。

…アリアさんの言葉。

「アドシアードに、アイツは来るわ。」

 

…今日からアドアシード。

アリアさん…。

信じていますよ?

 

私はそのままキンジ君に質問を続けます。

 

「…昨日の夜、何かあったんですか?」

「それ、は…。」

 

キンジ君は少し顔を赤くして、俯いてしまいました。

…あれ?

今、彼を赤くさせるような発言をしましたっけ?

 

「…ただ、白雪と花火をしてきた。それだけだ。」

「…してきた?見てきた、ではなくてですか?」

「ああ。それだけ、だ。」

 

キンジ君は少し長めに溜めた後、それだけを言いました。

…はっ!

も、もしかしたら…!

 

 

~~詩穂の妄想タイム~~

 

 

花火が上がる空、2人は見つめあった…。

 

「キンちゃん、私…!」

「白雪…!もう、我慢できない…!」

 

人の姿が見えない場所で、お互いはお互いの体を求め合う。

熱っぽい瞳が交差する。

キンジはとうとう白雪を押し倒し…。

 

「キンちゃん、キンちゃん…!」

「白雪…っ!」

 

こうして夜は更けていく…。

 

 

~~終了~~

 

 

な、なんて事があったとするなら…!

 

勢い余って襲ってしまったキンジ君が昨日イラついていたことも納得できますし、今彼が顔を赤くしていることも納得できます…!

 

しかも白雪さんが恥ずかしがって寮に帰ってしまったとするなら、これにも納得できてしまいます…っ!

 

「な、なな…き、キンジ君…!」

「…?どうした?」

 

あくまでとぼけるつもりのようです…!

こ、これは…アウトです!

超アウトです!

 

「とぼけないでください…!昨日の夜…ヤッちゃったんでしょう!?」

「…は?やった?何をだ?」

「だ、だから白雪さんとセ…って何言わせるんですか!」

 

赤くなった顔も気にせずにガタッとイスから立ち上がります。

 

「未成年なんですよ!?高校生なんですよ!?アウトですアウトです!へんたいです、きょうわいです、さいてーですーっ!」

「お、落ち着け詩穂!何がなんだかわからんが、多分違う!」

 

…その後。

私は完全に間違っていたことを冷静になってから理解するのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アドシアード本番。

私は忙しく『客捌き』をしていました。

 

「アドシアード狙撃競技(スナイピング)の競技会場は西のドアですー!」

 

マスコミの人やお客さんが怒涛の勢いで押し寄せてくるのを、文字通り『捌き』ます。

 

「と、トイレですか?トイレならあそこのホールのところです!」

 

しかしまあ、人が来るわ来るわです。

シフトとしては16時までなので頑張れますが…。

 

現在は14時。

あと2時間です…!

 

「記者の方や撮影の方は講堂のゲートを通ってください!」

 

………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ、疲れました…。」

 

アリアさんに言ってはならないと言われている言葉も、今ばかりはこぼれてしまいました。

私はようやく長い『客捌き』を終えて、校内のベンチに座っていました。

 

…そういえば、白雪さんのボディガードはどうなったんでしたっけ?

…とりあえず白雪さんの仕事を邪魔しないように、今日のアドシアードが終わった後に白雪さんからメールをもらうようにキンジ君が言ったんでしたっけ?

 

…じゃあ、大丈夫…でしょうか?

 

…嫌な胸騒ぎがします。

今、白雪さんは誰のガードも受けていない…ということです。

そして、アドシアードに来るはずの『魔剣』…!

 

私は嫌な予想が当たらないことを祈りつつ、走り出しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

案の定、委員会室には白雪さんの姿は見えませんでした。

委員会の人たちは「白雪さんが急にいなくなって困っている。」とオロオロしています。

 

…嫌な予想は、大概当たるものです。

 

私は委員会室を出ると、闇雲に校内を走り回りました。

 

 

 

 

 

ピピピピピ。

 

…16時半ごろ。

不意に、ケータイが鳴りました。

 

…武偵高からの周知メール。

嫌な汗が背中に流れるのを感じつつ、震える指で内容を開きます。

 

内容はただこう書かれていました。

 

『星伽白雪が失踪した模様。ケースD7』

 

背筋が凍りました。

…最悪の事態のようです。

 

ケースD7。

ケースDとは、アドシアード期間中の事件の発生を意味します。

そして、D7…。

これは、事件かどうかは不明瞭であり、極秘裏に解決すること。また対象の安全のためにみだりに騒ぎ立ててはならない…という意味です。

 

…これは、失踪ではない。

アリアさんのカンを信じるなら、これは『魔剣』による白雪さんの誘拐…!

 

でも、どうやって?

学生とはいえ、たくさんの武偵がいる中そう簡単に誘拐などできるものでしょうか?

 

…今は、そんなことはどうでもいいです…!

 

白雪さんを、探さないと…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし当てが無いことには変わりありません。

とりあえずキンジ君と合流することにしました。

キンジ君の今日の持ち場は確か…講堂の前のゲートのはず。

 

…ピピピピピ。

 

急いで向かっていると、またもやケータイがなりました。

こ、今度はなんでしょうか…!?

 

ケータイを取ってみると、電話のようです。

掛けてきた主は…叶さん。

 

「…もしもし、叶さんですか!?」

「ああ。…D7、だそうだな。」

「は、はい。」

「これだけ言わせてもらう。…地下倉庫だ。」

「…地下、倉庫…?」

「ああ。あとはもう手出しは出来ない。…じゃあな。」

「え、あっあの!」

 

私がどうこう言う前に、叶さんはさっさと電話を切ってしまいました。

…地下倉庫。

 

武偵高3大危険区域の1つ…!

叶さんの電話はおそらく…白雪さんのいる場所でしょうか?

でも、どうしてそんなことが…。

 

…今はそんな場合じゃありません。

とにかく危ない、です!

 

私はキンジ君との合流も忘れ、地下倉庫へと向かいました…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下倉庫は地下深くまで続いている多層式の倉庫です。

地下2階よりも下は水面よりも下の位置にあります。

 

私はとりあえずエレベーターを使って、最も深いところまで行くことにしました。

そして深いところから順に探していきます。

 

エレベーターは…動いているみたいです。

緊急用のパスワードを打ち込み、すぐさま下の階へ。

 

…ウィーン……。

 

地下3階…4階…。

どんどん降下していきます。

 

5階…6階…。

 

…ガターン!

 

「…えっ?」

 

急に、エレベーターの駆動音が止まりました。

…エレベーター内部のランプは…7階を点灯したまま動きません。

 

「…そ、そんなっ!こんなときに…!」

 

混乱の最中、更に厄介な事態になりました。

 

バチ…バチバチ…。

 

エレベーター内部の電気が、消えました。

すぐさま赤い非常用の電源が入りますが…。

これはおそらく、電源が落ちてしまったことを意味します。

 

これでは、脱出はほぼ不可能に近いです。

…白雪さんが、危ないのに…!

 

…いえ。

絶望している暇はありません。

こんなところはとっとと脱出して、彼女を助けないと…!

 

周りを見渡すと…上に、通気のための鉄格子があることを発見しました。

…あれを、何とかして開ければ…!

 

…でも、どうやって?

鉄格子を開けるなんて、道具でもないと無理です。

…そ、そんな…。

折角なんとかなると思ったの…に。

 

…開けられるとしたら、ただ1つ。

私は背中に忍ばせてある日本刀を取り出しました。

 

…この刀なら、ぶった切れるかもしれません…。

 

…イチかバチか…。

失敗したらおそらくこの刀は強烈な刃こぼれで使えなくなってしまう可能性があります。

 

 

それぐらい…全力で!

 

「私は…白雪さんを助けるんです!」

 

私は!

 

「友達の、ライバルのピンチを!」

 

全力で…!

 

「たすけるんだぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そのとき――

 

――この刀が赤く、緋色に――

 

――光ったことを――

 

――私は、きっと忘れない――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付くと、その鉄格子は見事に四角く切り取られ。

小柄な人が1人くらいなら通れる大きさになっていました。

 

「…よし、これなら…!」

 

私は懸垂の要領で上に上がると、非常用の鉄のはしごを使って進むのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…地下7階。

地下倉庫の最下層です。

…ここから、虱潰しに探していくしかありませんね…。

 

と、少し気合いを入れて足音を消しつつ歩くと…。

…かすかに、人の声が聞こえました。

 

…あたり、ですね。

7階の中でも特に火薬の多い大倉庫と呼ばれる場所に…。

誰かが、いるようです。

 

少しずつ近づいていくと、言い争うような声が聞こえてきました。

 

片方は、白雪さん。

いつものような慎ましやかな雰囲気は無く、怯えた声です。

 

そしてもう片方は…女の人の声。

なぜかくぐもって聞こえるその声は、一瞬ながらとても綺麗な声だと感じました。

まさか、この声の主こそが…『魔剣』…!?

 

静かに近寄ると…話が聞こえてきました。

 

「…、お前の力を持っていってやろう。…イ・ウーに。」

「…私は、そんなところにはいかない。」

 

…イ・ウー。

『魔剣』。

 

…どうやら確定のようです。

『魔剣』はどうやら、白雪さんを連れて行こうとしているのでしょうか…?

 

「…ふん。遠山キンジよりも先に、臆病者が来るとはな…。」

 

心臓が止まるかと思うくらい、びっくりしました。

…その声は、確実に白雪さんから私のいる方向に向いていました。

 

…そんな、気配はしっかり消していたはずなのに…!

 

「まぁ、お前如きが来たところで何も問題は無いが…。姿を現したらどうだ?」

 

どうしよう、どうしよう…!?

ま、まだです。

まだ焦ってはいけません。

 

考えろ…どうすれば白雪さんを助けることが出来るでしょうか?

 

…突撃?

私よりおそらく強いと思われる『魔剣』に?

 

…不意打ち?

彼女はこちらの存在に一瞬で気付くほどの実力者なのに?

 

…逃走?

エレベーターの電源が落ちている今、どうやって?

 

…『魔剣』は策士。

策士を名乗るほどなら、きっとどんな状況でも想定し、あらゆることに対処しようとするはずです。

…じゃあ、予想外の事が起きれば?

 

私は角を飛び出し、そして…白雪さんのほうとは全く別方向の、棚のほうに走り出しました。

 

…私の予想では。

おそらく、『魔剣』は白雪さんにすら姿を見せていないと考えました。

なぜなら、白雪さんの声が割りと明瞭に聞こえてくることに対し、『魔剣』の声はくぐもって聞こえたから。

 

…すなわち、『魔剣』はおそらく棚を1つほどまたいだ向こう側にいる、と考えたのです。

 

「…ほう。」

 

予想通り、その声は私が向かった先の棚の向こうから聞こえてきました。

…その正体を、暴いてやる…!

 

これこそが私の狙った『魔剣』への挑戦状…!

 

「詩穂!来ちゃダメ!武偵は超偵に勝てない!」

 

白雪さんの、切羽詰った声が聞こえると同時に。

パキッと、地面から音が鳴りました。

 

「…え?」

 

私が気が付いたときはもう遅く。

私は何かに足を取られて、派手に転んでしまいました。

 

「…お前もつくづく運が無いな。私がいくつか適当に仕掛けておいた罠におめおめ引っかかるとは…。」

 

棚のほうから聞こえる『魔剣』の声を無視して足のほうに目を向けると…。

靴が、足ごと凍って床に張り付いていました。

 

「…な、なんですか…これ…。」

 

い、一体何があったというのでしょうか?

化学反応?

それとも過冷却?

 

意味がわからずに、ただ呆然と氷に縫い付けられてしまった足を見ます。

 

「…まぁ、いい。お前にもエサになってもらうぞ…。」

 

私は急に背後から聞こえた声に驚き…。

そして、後ろを振り向く前に黒い何かで目隠しされてしまうのでした…。

 

 

 

あれ?

私、ピンチですか?




読了、ありがとうございました。


今回はvs魔剣の最初のほうまででした。
戦闘描写が恐ろしく苦手なので、vs魔剣をどうやって書こうものか…。

そして今回はやたらと場面の切り替わりが多かったです。
言い換えるとスペースばかりで読みにくい、ということです。

…もっと上手くまとめられるように頑張ります…。


感想・評価・誤字脱字の指摘・作者または詩穂への罵倒などを心よりお待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。