緋弾のアリア 残念な武偵   作:ぽむむ@9

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第14話です。


今回も視点変更はなしです。
そして潜入回です。



個人的には教務科とイ・ウーのメンバーって同じくらい強いと思うんですよ。


第14話 きょうふのきょうしです

さて、ドタバタとした叶さんとアリアさんの決闘が終わった後。

私達は強襲科練である黒い体育館を出て、放課後の校内を歩いていました。

 

「…やっぱりあたしはまだまだね。あんなダルそうな顔してるヤツにやられるなんて。」

「あ、あはは…アリアさん、ダルそうな顔と強さは関係ないですよ…。」

「明日からはあたしも朝練ね。キンジをぽこぽこするわ。」

 

アリアさんはさらっとキンジ君をいじめる宣言しました。

え、えげつないです…。

かわいく言ってますけど、それは八つ当たりって言うんですよ?

キンジ君はその言葉を聞いて頭を抱えます。

 

「…頭痛がしてきた。」

「アスピリンでも飲めば?」

 

アリアさん、キンジ君の頭痛は多分病気からじゃないです…。

 

「俺は風邪とか頭痛には大和化薬の『特濃葛根湯』しか飲まねーんだよ。」

「とくのう?なにそれ。」

「あ、それ知ってます。市販の薬の中で一番効果の強い漢方薬ですよね。」

 

特濃葛根湯。

確か、大量の漢方薬という漢方薬を凝縮した薬らしいですが…。

なんとも胡散臭いです。

 

「俺はアレしか効かないんだ。薬があまり効かないからな。」

「…キンジ君、そんなに薬効かないんですか?」

「ああ…。でもちょうど今切らしてんだよな…あれはアメ横にしか売ってねーし。上野と御徒町の中間ぐらいにある店だから行くのも結構面倒なんだよなぁ…。」

 

…なるほど、です。

これはキンジ君が病気になってしまったときに私使えますよアピールする武器になりそうですね…。

なんて我ながら現金なことを考えていると。

 

「キンジ、詩穂。これ見て。」

「…何だ。」

「なんですか?」

 

アリアさんが教務科の前で立ち止まりました。

アリアさんの指差す掲示板を見上げると…。

 

「生徒呼出 2年B組 超能力捜査研究科 星伽白雪」

 

…呼び出し?

確か星伽さんは基本的に完璧な人で、呼び出しなんか食らわないハズですが…。

 

「アリア。お前、この間白雪に襲われたのをチクったのか?」

「…あたしは貴族よ?プライベートのことを教師に告げ口するような、卑怯な真似はしないわ。いくら売られたケンカでもね。バカにしないで。」

 

キンジ君はとりあえずアリアさんが告げ口した可能性を考えましたが…アリアさんの思った以上に意識の高いアリアさんに感心していました。

 

それにしても、教務科からの呼び出しですか…。

…き、恐怖しか感じませんね…。

 

「…気になるわね。この件を調査して、あいつの弱みを握るわよ!」

 

アリアさんが華麗に先程の発言を覆しました。

…それはアリアさん的には卑怯に含まれないんでしょうか…?

 

「…でも、私も星伽さんの嫌がらせは止めて欲しいので…今回はアリアさんに賛成です。」

「そうよね。アレは勘弁して欲しいわ。」

「…は?嫌がらせ?何のことだ?」

 

…どうやらキンジ君は気付いていなかったようです。

よほど星伽さんの技術力が高いのか、それともキンジ君が鈍感なのか…。

 

2人でキンジ君に嫌がらせの数々を話すと…。

さすがにキンジ君も事の大きさをわかってくれたようです。

 

「というわけで、この掲示板に指定された時刻に…教務科に潜入するわよ!」

 

…は?

 

謎の発言にキンジ君も私も固まります。

アリアさんは高らかに、恐ろしい宣言をしました。

私はこの時、確実な死を覚悟したのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教務科。

武偵高のいわゆる教師の方々がいるのですが…実は、武偵高3大危険地域に指定されている場所です。

 

武偵高3大危険地域。

一般人はおろか、武偵高生徒でもあまり行きたくない3つの場所のことです。

 

1つは強襲科(アサルト)

当たり前です。

「死ね」が公用語の時点で察してください。

強襲科では稀に訓練で死亡してしまう生徒もいます。

更に強襲科生徒は喧嘩っ早く単純な徒手格闘であれば強い…。

強襲科が危険であると同時に、強襲科生徒も危険だったりします。

 

もう1つは地下倉庫(ジャンクション)

柔らかそうな言い方ですが、本当はただの火薬庫です。

下手したら摩擦1つで武偵高が吹っ飛びます。

もちろんそんな恐ろしい場所では銃も使えません。

 

そして…教務科(マスターズ)

なぜ危険なのかというと…教師がおっかないからです。

まぁ確かに日頃から銃を撃っている生徒を教える人なんてヤバい人に決まっています。

 

聞いた話によると、先生方の前職は。

マフィア・傭兵・特殊部隊・殺し屋などなど…。

 

是非とも関わりたくない職業ばかりです。

というか殺し屋って…。

 

つまり、私たちはそんな恐怖の館に忍び込もうとしているわけで…。

簡単に言うと飛び上がり自殺です。

 

「あ、アリアさん…やっぱりやめません?」

「何言ってんのよ。ほらとっとと上がりなさい。」

「うぅ…。」

 

私たちは教務科近くの廊下からエアダクトに侵入し、教務科の上まで行く…らしいです。

私は渋々アリアさんとキンジ君に手を引いてもらい、天井裏に侵入しました。

 

薄暗く狭いダクトの中を3人並んで匍匐前進で進んでいきます。

順番としてはアリアさん、キンジ君、私…です。

しかしどうも私はこういった運動が苦手で…。

 

「ま、待ってください!」

「遅いわよ詩穂!早く来なさい!」

 

バレないように無声音でアリアさんに待ってとお願いしますが…アリアさんはどんどん行ってしまいます。

こんな暗いところに取り残されるのも勘弁なので頑張って2人を追っていると…。

 

…ごすっ!

 

「いにゃっ!?」

 

急に止まったキンジ君の足にぶつかってしまいました。

私の鼻にキンジ君の足裏がぶつかった感じです。

…痛いです…。

 

「き、キンジ君…急に止まらないでくださ…。」

「しっ!着いたわよ、詩穂。」

 

…どうやら到着したようでした。

キンジ君とアリアさんが2人肩を並べるように通気口を覗いています。

 

ここからは先生にバレると殺されかねないので私も黙ります。

2人に倣って通気口を覗いてみると…。

 

いました。

星伽さんです。

そしてその正面に足を組んで座っているのは…星伽さんのクラスの担任の先生です。

 

(つづり)梅子(うめこ)先生。

尋問科の先生で、いつもタバコのようなものを吸っています。

…多分タバコではないです。

麻薬的な何かだと思います。

彼女はいつもダルそうな顔をしていて、常に目がイッちゃっています。

…多分あのタバコ的な何かのせいです。

 

そんな教師っぽくない綴先生ですが、彼女の尋問は世界トップクラスだそうです。

…なんでも、彼女に尋問されると綴先生のことを女王様だのご主人様だの崇めるようになってしまうそうです。

…い、一体何をしたらそんな状況に…。

 

「…星伽ぃー。お前最近、急ぅーに成績下がってるよなー…。」

 

心底どうでもよさそうな目で綴先生は星伽さんを睨みました。

…いえ、いつもあんな目をしてますけど…。

 

「あふぁ…まぁ、勉強はどぉーでもいぃーんだけどさぁ。」

 

やっぱりどうでもよかったみたいです。

…あれ?

この人本当に教師?

 

「なーに…えーっと…あれ…あ、変化。変化は気になるんだよね。」

 

…もしかして『変化』という単語が出てこなかったのでしょうか…?

何だこの人。

 

「ねぇー、単刀直入に聞くけどどさぁ…。星伽、ひょっとして…アイツにコンタクトされた?」

「『魔剣(デュランダル)』、ですか。」

 

…『魔剣』。

ここ最近になって噂されている犯罪者です。

どうも超能力を使う武偵…超偵のみを誘拐する犯罪者らしいです。

 

らしい、というのも。

そもそも超能力自体眉唾物ですし、何よりも。

その姿を確認したものは、いません。

 

つまり都市伝説レベルの犯罪者なのです。

そんなものいるわけが無い、と。

 

しかし私は見逃しませんでした。

『魔剣』という単語を聞いた時、明らかにアリアさんが反応したのを。

アリアさんが反応したということは…。

 

まだ確証はありませんが、家に帰ったら調べてみる必要がありそうです。

 

「それはありません、そもそも『魔剣』なんて存在しない犯罪者で…。」

「星伽、もうすぐアドシアードだから外部の人間がわんさか校内に入ってくる。その期間だけでも、有能な武偵を…ボディガードに付けな。これは命令だぞー。」

「で、でも…。」

「これは命令だぞー。大事なことだから先生は2度言いました。3度目は怖いぞー?」

 

…な、なんて恐ろしい脅迫文句でしょう…。

仏の顔も3度まで、といいますが…綴先生は仏っていう感じではありませんね。

どっちかというと修羅とか鬼を想像します。

 

「は…はい。わかりました…。」

 

星伽さんもとうとう頷きました。

…まぁ、仕方のないことです。

教務科の先生にあそこまで言われたら首肯せざるを得ません。

 

…がっしゃん!

 

と、アリアさんが通気口をぶっ壊しました。

…え?

なぜ?

 

私とキンジ君が目を丸くする中、アリアさんは飛び降りてしまいます。

スタッと着地して、アリアさんはまたまたものすごいことを言いました。

 

「そのボディガード、あたしがやるわ!」

 

驚きの展開に星伽さんも綴先生も目を見開きます。

…そしてキンジ君が驚きのあまり、通気口に身を乗り出します。

 

「う…うぉっ!?」

「き、キンジ君危ないですっ!?」

 

案の定キンジ君は落ちてしまい…。

アリアさんの上に落下してしまいました。

 

…わ、私はここでしばらく見守っていましょう…。

 

どさっ!

とキンジ君はアリアさんの上に落っこちてしまいます。

アリアさんは一瞬潰されかけるもキンジ君を跳ね飛ばしました。

…毎回思うのですが、アリアさんのそのパワーは一体どこから…?

 

「き、きき、キンジ!変なとこにそのバカ面をみきゃうっ!?」

 

アリアさんが何か言う前に、綴先生はアリアさんの制服の襟を掴みます。

そして、キンジ君も掴んで…。

 

ダン!ダン!

 

と壁に投げつけてしまいました。

…な、なんて腕力…!

 

「んー?…何これぇ?」

 

綴先生は2人の顔を覗き込むと、どうやら思い出したらしく。

 

「…なんだぁ、こないだのハイジャックの2人じゃん。」

 

綴先生は納得したように笑いながら首をぽきぽき鳴らします。

…こ、怖…。

 

「これは神崎・H(ホームズ)・アリア。ガバメント2丁に小太刀2刀流。2つ名は『双剣双銃』。欧州で活躍したSランク武偵。でも…あんたの手柄は書類上では全部ロンドン武偵局の手柄になっちゃったみたいだね。協調性が無いからだ。マヌケェ。」

 

綴先生は思い出すようにアリアさんの情報をペラペラと話しました。

…よく、覚えているものです。

もしかしたら全ての生徒の情報を覚えているのかもしれません。

…『変化』は覚えてませんでしたが…。

 

そして、驚く点が1つ。

綴先生は、アリアさんを本名で呼びました。

…つまり、綴先生は…そしておそらく教師の先生は全員。

 

アリアさんの秘密を知っている。

貴族であり、ホームズの子孫であることを知っている。

 

これは…さすが教務科と言わざるを得ません。

 

「んで、欠点は、およ…。」

「わぁーーー!?」

 

そして綴先生の続く言葉を、アリアさんは大音量で打ち消しました。

…およ?

 

「っそそ、それは弱点じゃないわ!浮き輪があれば大丈夫だもん!」

 

見事に自爆してくれました。

…アリアさん、カナヅチなんですか…。

 

私も泳げませんけど。

 

綴先生は、あわあわするアリアさんの次にキンジ君のほうを睨みました。

 

「こっちは遠山キンジ君。性格は非社交的。他人から距離を置く傾向あり。…しかし、強襲科では遠山に一目置いている人が多く、潜在的にある種のカリスマ性を持っていると思われる。」

 

今度はキンジ君の情報を語りだしました。

…本当に全ての生徒の情報を覚えている、のかもしれません。

 

というかカリスマ性って。

そりゃ皆はSランクだったら元だとしても一目置くと思いますが…。

 

「解決事件は…ネコ探しにハイジャック。ねぇ、やることの大きさが極端すぎない?」

「俺に聞かないでください。」

「武装は…違法改造のベレッタ・M92F。」

 

違法改造、と言ったあたりで綴先生の目が鋭くなりました。

…キンジ君、違法改造って…。

 

「3点バーストに加えてフルオートも可能な通称『キンジモデル』ってやつだよなぁ?」

「あー、それはハイジャックのとき壊されました。今は合法のヤツです。」

「へへぇー?装備科に改造の予約入れてるだろ?」

 

綴先生はそういいながらキンジ君の腕にタバコ(?)を押し付けました。

当然キンジ君は熱かったようで、声を上げます。

 

…ところで、キンジモデルって言う名前誰が考えたのでしょうか…?

 

それにしても、何でも知っている綴先生にも驚きです。

 

「…おい、そこに隠れてるやつもそろそろ出て来い。出てこないと…怖いぞー?」

 

ぎくっ!

綴先生がこっちのほうを睨みながら私に声をかけました。

ば、バレてる…。

 

私は怖いのは嫌なので恐る恐る通気口から出ました。

 

「…えーっと…ああ、茅間詩穂。強襲科のDランク武偵で、性格は穏やかで消極的…。アンタ、何で武偵になろうと思ったの?」

「そ、それは色々ありまして…。」

「ふーん…。それ以外だと…1年のときの一般教科・専攻科目の定期ペーパーテストの合計点は…毎回学年1位、ねぇ…。」

 

ほ、本当によく知っていますね…。

自慢ではありませんが、実力は確実にEランクである私がなぜDランクであるかの理由がこれです。

 

「お前、一般高校に転校したら?」

「そ、それは言わないでください…。」

 

自分でも武偵には向いていないとは思いますよ、ハイ…。

 

「武装はなんだかよくわからん形の銃と、日本刀…。そして無駄に頑丈な防弾性のウィンドブレーカーとマフラー…。蘭豹が超欲しがってたよ?」

「あ、あはは…。」

 

私からどんだけ物を奪えば気が済むんでしょうか?

私の元いた部屋だけじゃ満足できないのでしょうか…。

 

「…でぇー?ボディガードをやるって?」

「そうよ。白雪のボディガード、無償であたしが引き受けるわ。」

「お、おいアリア…。」

 

キンジ君が疑問の目をアリアさんに向けます。

同じく私もです。

…なぜ?

 

「…星伽。なんか知らないけど、Sランクが無償でやってくれるてよ?」

 

綴先生に視線を向けられた星伽さんは…。

 

「い…嫌です!アリアと詩穂がいつも一緒だなんて…けがらわしい!」

 

デスヨネー。

星伽さん的にはアリアさんと私はキンジ君を取り合う敵。

そんな人に護衛されたくないはずです。

 

というか今さらっと私も護衛することが確定しましたね。

…正直勘弁願いたいのですが、皆さん疑問には思わなかったようです。

私、ボディガード確定です…。

 

「…あたしにボディガードさせないと、コイツを撃つわよ!」

 

じゃきっ。

…となぜかここでアリアさんはキンジ君の頭に銀色に光るガバメントを当てました。

発言がモロ犯罪者です。

 

「って、何やってるんですかアリアさん!?」

「いいから見てなさい、詩穂。」

 

アリアさんは邪悪な笑みを浮かべつつ顎で星伽さんを見るように私に促しました。

その通りに星伽さんを見てみると…。

 

「き…キンちゃん!」

 

はわわ、という感じでわたわたしていました。

…なんでしょうかこの茶番…。

 

「ふぅーん…へぇー。そういう関係かぁー…。で?どうすんの星伽?」

 

綴先生が面白そうにニヤニヤしています。

…何が面白いのでしょうか?

 

「…じょ、条件があります!キンちゃんも私の護衛をして!24時間体制で!」

 

星伽さんは思い切ったように叫びました。

 

「私も、私も、キンちゃんと一緒に暮らすぅー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな騒動があった次の日。

早速星伽さんが引っ越して来ることになりました。

 

キンジ君は星伽さんのお迎え、アリアさんは部屋になにやら細工。

そして私は空いている小部屋のお掃除をしていました。

…なんというか、キンジ君女嫌いなのにどんどん部屋に女の子が集まってきていますね…。

 

掃除が終了したので、自室に戻ろうとしたあたりで…。

リビングになにやらいそいそと何かを設置するアリアさんを見つけました。

…どうやら赤外線センサー天井にを取り付けているようです。

 

「…アリアさん?何をしているんですか?」

「要塞化。」

 

…よ、要塞化…?

 

「な、何でそんなことを…?」

「何でって、依頼主に敵が近づくのをわかりやすくするためよ。護衛の基本よ?」

 

いえ、そうではなくて私が言いたいのは家主であるキンジ君の許可なしにそんなことをしていいのかということなのですが…。

そんなことをアリアさんに言っても意味はなさそうですね。

キンジ君、毎回毎回お疲れ様です。

 

「…そういえば、まだ直していませんでしたね、お部屋…。」

 

私はふと部屋を見回しました。

前回のアリアさんvs星伽さん戦争の傷跡が、未だに部屋に残っていたりします。

一応ソファは買いなおして弾痕を一部修正したりしましたが…まだまだ直さなければいけないです。

 

「ああー…ま、まぁ、そういう日もあるわよね?」

 

アリアさんはちょっと気まずいのか、目を逸らしながら言いました。

そっぽを向いてヒューヒューと口を尖らせていますが…吹けてないですよ、アリアさん。

 

そうこうしているうちに。

 

がちゃっ…。

 

「お、じゃま、しまーす…。」

 

星伽さんがやってきました。

と同時にキンジ君も帰ってきます。

 

「…あ、あの、私、自分の部屋に戻っていますね。」

 

私は部屋に戻ることにしました。

だってこれ以上戦いに巻き込まれたくはないですし、星伽さんにこれ以上殺されそうな視線で見られたくはありません。

 

まさに死線ってヤツですね!

 

「ふふっ…そこの2つの粗大ゴミも処分しなきゃね?」

 

後から響いた星伽さんの恐ろしい発言を背に、私は素早く自室に戻るのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は怖かったのもありますが、自室に戻ったことには理由がありました。

…『魔剣』の調査。

 

アリアさんが『魔剣』という単語を聞いたときの反応…アレは明らかにアリアさん関係…もといかなえさんの冤罪に関係あると思ったからです。

 

…憶測でしかありませんが…。

 

私はパソコンを起動すると、叶さんと明音さんに見つかったときの二の舞にならないように周囲をちゃんと警戒して…理子ちゃん特製ソフトを起動しました。

 

…そして、やはりというべきか。

一切の情報が上がりませんでした。

失踪した超偵の情報ですら一部消されています。

 

…この不自然さ。

明らかに『武偵殺し』や叶さんと明音さんを調べたときの様子と同じです。

つまり、『魔剣』は高確率で…イ・ウーに関係していると判断してもいいでしょう。

 

…今まではここまで調べておしまいでしたが…。

今の私には、詳しく知る手段がもうひとつあります。

 

私は意を決して、叶さんを呼び出しました…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…悪いな、詩穂。待たせたか?」

「いえ。急に呼び出したりしてしまって申し訳ありません。」

「ううんー。気にしないでー。わたしたちもー、特に予定は無かったからー。」

 

私は叶さんと明音さんの2人を学校の校舎裏に呼び出しました。

もちろんイ・ウーの情報を教えていただくためです。

 

「えっと、早速で悪いのですが…。」

 

と言いかけたところで、叶さんが不自然にマバタキをしているのが目に映りました。

 

マバタキ信号(ウインキング)

武偵同士が他人に聞かれたらマズイ事を話す際に、よく使うモールス信号のようなものです。

文字通り、左右の目をパチパチして信号を送ります。

 

叶さんのそれを読み取ってみると…。

 

…トウチョウ サレテイル バショヲ ウツス…。

 

…盗聴されている、場所を移す…。

叶さんは誰かに盗聴されていることに気が付いたようです。

…ぜ、全然気が付きませんでした…。

とにかく指示通り場所を移しましょうか。

 

「…私少しお腹が空いちゃいました。どこかに食べに行きませんか?」

「全く…仕方ないな、詩穂は。アカネは?」

「うんー。わたしはー、問題ないよー。」

 

明音さんが間延びした声で賛同してくれました。

…さて、どこに場所を移したものでしょうか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ということで、やってきたのは叶さんたちのお部屋でした。

この2人は当然の如く相部屋で、2人部屋のようでした。

…本当にこの2人は仲良しなのですね…。

 

「ここなら大丈夫だ。盗聴器なんかあったらアカネがぶっ壊してるからな。」

「ぶっ壊すよー。」

 

た、頼もしいですね…。

2人の部屋はどこかファンシーでかわいらしい印象を受けました。

多分明音さんが全部やったんだろうな、と考えていると当の明音さんが紅茶を出してくれました。

 

「どうぞー。砂糖はいるー?」

「えっと、お願いします。」

 

明音さんはゆったりとまたキッチンのほうに戻っていきました。

叶さんも気が付いたら紅茶を飲んでいて、カップをテーブルに置くとこちらを見ました。

 

「で、どんなご用件だ?」

「…えっと、私が気になっていることをたくさん聞いてもいいですか?」

「かまわん。オレに答えられる範囲なら答える。」

 

叶さんははっきりと頼もしい言葉をくれました。

…私はすっかり2人に対する警戒心は消えていました。

 

「はいー、お砂糖だよー。」

「ありがとうございます。」

 

私は明音さんから角砂糖を頂くと、2つほど紅茶に落としました。

明音さんはそれを見ると、自分の部屋であろう部屋に戻っていってしまいました。

 

…叶さんと、2人きりで部屋に残されます。

私はとにかく気になることを頭の中でまとめ、聞いてみることにしました。

 

「…まず、イ・ウーとはそもそも…なんなのですか?」

「…それは、答えづらい質問だな…。そうだなぁ、学校みたいなもんだな。」

「…学校?」

 

学校、という表現には少し疑問を抱きました。

私はてっきり犯罪組織か何かだと思っていました。

 

「うーん…学校とも少し違うんだが、お互いの技術を教えあって高めあう場所なんだ。」

「…教えあい、高めあう…。」

 

確かにそれは学校っぽいですね。

 

「…大まかな目標はそんな感じだが、集まっている奴らは個人個人が大きな目標を持っている。その目標を…どんな手段を使ってでも達成しようとする場所。それが、イ・ウーだ。」

 

…それは。

それはつまり、どんな手段を使ってでも自分の理想を追いかけようとする人たちの集まり。

 

理子ちゃんにも、そんな大きな目標があったのでしょうか?

それはアリアさんを倒すこと…では、無いような気がします。

 

「だから、根本的には欲望に忠実なヤツが多い。そんなんだからあまりまとまってはいない。」

「まとまってはいないというか…それは、組織になりうるのですか?」

「オレもそう思ったから、潰すのは楽な仕事だと思った。でも…違ったんだ。」

 

…違った?

 

「イ・ウーには、そんなやつらをたった一人でまとめ上げるリーダーがいるんだ。」

「…リーダー。」

「そう。教授(プロフェシオン)と呼ばれる人物…だそうだ。オレたちはまだ接触はおろか顔すら見ていないがな。」

 

…『教授』。

話を聞く限りでは、イ・ウーは無法者たちの無法地帯なのでしょうか。

でも、そんな危ない人たちを一人でまとめ上げている…。

 

理子ちゃんは、あのアリアさんですら勝てなかった強敵です。

そんな理子ちゃんのような強さの人が何人もいると思われるイ・ウーをたった一人で…。

 

寒気がしました。

そんな人が、強くないはずがありません。

アリアさんはそんな恐ろしいものと戦わなくてはならない…!

 

「…こんなもんかな。スマンな、まだ調べ切れていないんだ。」

「ありがとう、ございます…。」

 

話を聞いただけでげんなりしました。

そんな相手、叶さんや明音さんと力を合わせても勝てるのでしょうか…?

 

「他には何かあるか?」

 

…そうでした。

げんなりしている場合ではありません。

もっともっと、知らないと。

 

「えっと、イ・ウーにはどのくらい人がいるんですか?」

「え?人?うーん、そうだなぁ…人間はオレが見た限りでは10人もいなかったぞ。」

 

…あれ?

思っていた数字とは桁が違いました。

 

「え、そ、そんなに少ないんですか?」

「ああ、少なくともオレたちはそんなに見かけなかった。」

 

…ちょっと希望が見えました。

そのくらいならなんとかなる…かもしれません。

 

「噂によると人間じゃないのもいるらしいがな。」

「…へ?」

「どうも、化け物もいるらしい。」

 

…化け物。

それは叶さんの言い方的に比喩表現ではなさそうです。

本当の意味での、化け物。

 

「そ…そんなことが、ありうるんですか…?」

「さぁな。そいつは年がら年中変な館に引きこもって、イ・ウーにはほとんど顔を出さないそうだ。まぁ、あくまで噂だ。気にするな。」

 

…化け物。

信じられませんが、理子ちゃんの髪の毛がウネウネ動いたことも考えると…ありえそうで怖いです。

是非ただの噂に過ぎないことを願うばかりです。

 

「…他には?」

「え、えっと…『魔剣』、っていうのはいましたか?」

「…『魔剣』?うーん、イ・ウーにいたっけなぁ、そんなヤツ…。悪い、そんな名前のやつは見かけなかった。そんな名前の剣を持ってるやつはいたけどな。」

「…剣?ですか?」

 

…どういうことでしょう?

確かに『デュランダル』という名前の聖剣はゲーム等でもよく出てきますが…それは空想上の聖剣です。

 

…それとも、本当に存在するのでしょうか?

だとしたら、その剣を持っている人は凄い人なのでしょう…。

 

「ま、こんなとこだな。他にはあるか?」

「…いえ、とりあえずもう遅いので帰らせていただきます。ありがとうございました、叶さん。」

 

外を見るともう日が傾いていました。

部屋に戻って、夕食の準備をしなければです。

 

「ああ。また気になることがあったらいつでも呼んでくれ。」

 

こうして私は、進展しているようであんまり進展していない状況に首を傾げつつ部屋に戻るのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻ると、びっくりしました。

部屋の弾痕や汚れが綺麗さっぱりなくなっていたのです。

 

「…これ、全部星伽さんがやったのですか?」

「そうだよ?」

 

星伽さんが冷たい声で答えてくれました。

…星伽さんは完璧だと聞いていましたが、まさかここまでとは…。

 

そしてテーブルを見ると、見事な満漢全席が広がっていました。

…キンジ君の席の前でのみ。

アリアさんはむしゃむしゃと丼の白米を食べています。

 

「はい、詩穂もこれ。」

 

私も席に着くと、私の目の前にもドン、とアリアさんと同じような白米オンリーの丼が置かれました。

…あ、あんまりです…。

 

「き、キンジ君…。」

「スマン詩穂、我慢してくれ…。」

 

助けを求めてみましたがダメでした。

アリアさんはもはやヤケになって食べています。

 

「…お米、おいしいです…。」

 

仕方なしに私も白米をただ食べるしかありませんでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が作るはずだった食事が星伽さんによって(キンジ君のみ)ちゃんと用意されていたので、私はそれこそやることなくテレビを眺めていました。

 

…途中でキンジ君とアリアさんのチャンネル戦争が起きましたが。

私は見たい番組はちゃんと録画してあるので、2人の戦争を眺めていると…。

 

星伽さんが後からやってきました。

 

「…詩穂。ちょっと来て。」

「は、はい…?な、なんでしょうか…?」

 

なんと私に用事でした。

な、なんでしょう、締められるのでしょうか…?

 

私は星伽さんに連れられて、星伽さんの部屋に入りました。

 

「…え、えと、な、なんでしょうか…?」

「…詩穂。私はあなたのことが嫌い。でも、伝えなくちゃいけないことがあるの。」

 

…?

どうやら締められるわけではなさそうです。

とても真剣な表情で、星伽さんは言いました。

 

「あなたの刀…見せて。」

「へ?ああ、ハイ…。」

 

なぜか刀を見せて欲しいと言われました。

私は言うとおりに刀を渡すと…星伽さんは真剣な表情で刀を調べ始めました。

 

…あまりにも真剣に刀を見ているので、私は少し暇になってしまいました。

ということで部屋を見回してみると…やはりというべきか、小奇麗な部屋になっています。

でも、どこかさびしい感じがしました。

アリアさんのようにぬいぐるみがあるわけでもなく…。

というか、星伽さんの部屋には遊び道具らしきものが見当たりませんでした。

 

「…ありがとう。これは返すよ。」

「…え?あっはい。」

 

部屋をじろじろと見ている間に、刀鑑定が終わったようです。

 

「まだ、詳しくは言えないけど。あなたはもしかすると…。」

「…?私は、なんなんですか?」

「…やっぱりまだ早い。なんでもない。」

 

…はて?

どこか意味深な発言をすると、星伽さんは真面目な表情を崩して…元の私を嫌悪する顔に戻りました。

 

…まだ、早い?

一体どういうことなのでしょうか…?

 

「それよりも!詩穂、あなたキンちゃんに今までご飯を作っていたんだってねぇ…?」

「は、はい、そうですけど…。」

「キンちゃんに!これから!ご飯を!作るのは!私!」

 

鬼のような形相で、星伽さんは私を睨みます。

…こ、こわ…。

 

「あ、あの、星伽さん、落ち着いてくださ…。」

「…白雪でいいよ。あなたは仮にも…対等に、ライバルなんだから。」

 

星伽さんは鬼のような形相のまま後ろを向くと、私にそう言ってくれました。

 

「…わかりました、白雪さん。ライバルです。」

「…ふんっ!早く出てって。」

 

白雪さんは自分でも言ってて少し恥ずかしかったのか、向こうを向きながら私に出て行くように促します。

私は言われたとおりに部屋を出て行き…行こうとする前に、白雪さんに宣戦布告をしました。

 

「…掃除は私がやりますよ?」

「…どうぞご勝手に。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…後日。

あまりにも白雪さんの料理がおいしかったので、白雪さんに弟子入りしたのは言うまでもありませんでした。




読了、ありがとうございました。


今回は微妙に伏線回です。
白雪にそれっぽい伏線を張っていただきました。

…回収はだいぶ先の予定だったりします。

そして今回のキンジの空気感は異常です。
ガンバレ主人公。


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特に評価のほうを(ry

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