緋弾のアリア 残念な武偵   作:ぽむむ@9

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第13話です。


評価数が合計16…!
嬉しい限りです!
ありがとうございます!



今回は本編にはあまり関係が無いです。
ご了承ください。


第13話 はいごにはきをつけましょう

そんな朝練のあった日の、朝の教室。

朝練のせいでいつもより少々遅めにクラスに辿り着いた私たちに、ざわついたクラスメイトたちの声が聞こえてきました。

 

いえ、ざわついているのはいつも通りなのですが…。

 

「おーう、おはようキンジ。チビ2人も。」

「風穴。」

「さいてーです。」

 

いきなり無礼な挨拶をしてきたのは、大柄の武藤君。

それにしても、かなり失礼です。

 

…いつか、大きくなりますよ…。

多分…。

 

「す、すまんかったから銃をしまってくれ神崎さんよぉ…。」

 

アリアさんは武藤君に流れるようにガバメントを向けていました。

し、自然すぎて目に留まらなかった…。

そういう些細なことでもアリアさんにSランクの凄さを感じてしまいます。

 

「ふん。次言ったらあんた死刑ね。」

「お、おう、気をつける…。それよりも、今日転入生が来るらしいぜ!」

 

武藤君は銃を降ろしてもらうと人が変わったように話し始めました。

なんでも、今日は転入生がうちのクラスに2人も来るそうなのです。

 

しかも両方女子。

 

だからさっきから男子の皆さんが比較的騒いでいるわけですね…。

 

ガラガラガラ…。

 

「はーい、皆さん静かにしてください。HRを始めますよー。」

 

高天原先生がのんびりとした声と共に教室に入ってきました。

いつもなら高天原先生が入ってきてもしばらく騒ぎ続ける生徒たちも、転入生が気になるのかすぐに席に戻りました。

 

「はーい。それじゃあ、もう知っている人も多いと思うけど、このクラスに新しい仲間が2人加わります。…入ってきてくださーい。」

 

先生が廊下のほうに声をかけると、2人の女の子が入ってきました。

 

…1人は黒髪に限りなく近い濃い藍色の長い髪の女の子。

気だるげな目でみんなを眺めています。

…長身というか、すらっとしていて正直うらやましいです。

 

もう1人は、明るいピンク色の髪の活発そうな女の子。

ピンク色といえばアリアさんですが、アリアさんがピンクブロンドなら彼女はライトピンク…といったところでしょうか?

肩にかかるくらいのショートカットで、ニコニコしながらクラス全体を見ています。

 

「はーい。自己紹介をお願いします。」

 

高天原先生が自己紹介を促すと、2人は顔を見合わせ…長身長髪の女の子のほうが一歩前へ出ました。

 

「あー…橋田(はしだ)(かな)だ。強襲科だ。よろしく。」

 

面倒くさそうにそういいました。

見た目どおり声は少し低めで響くような声です。

しかし顔立ちは整っており、パッと見とても美人さんです。

彼女は自己紹介(?)を終えるともう1人に終わったことを促しました。

 

すると、次はピンクの髪の子が自己紹介を始めました。

 

「えーっとー…。布田(ふだ)明音(あかね)ですー。同じくー、強襲科ですー。よろしくー、おねがいしますー。」

 

…な、なんでしょうか…。

見た目とは裏腹に、というか…。

なんだか力が抜ける話し方というか…。

とても間延びした高めの声で、彼女も自己紹介を終えました。

 

「はーい。2人とも、よろしくお願いしますねー。じゃあ2人は後の空いている席に座ってください。本日のHRはおしまいです。皆さん、仲良くしてくださいね。」

 

そういうと高天原先生は行ってしまいました。

おそらく質問タイムを作ったのでしょう。

 

そしてやはりというべきか、質問攻めタイムが始まりました。

 

「ねーねー、2人はどこの高校から来たの?」

「あー、悪いそれは秘密なんだ。」

 

橋田さん…だったでしょうか、彼女は少しウザったそうに答えます。

もちろん布田さんのほうにも質問がいきます。

 

「布田さんはランクいくつなんだ?」

「うーんー、Sランクー、かなー?」

 

その瞬間、クラスがざわつきました。

当たり前です。

Sランクなんてそうそういるものではないですし、私も現にかなり驚いています。

 

「ま、マジか…橋田さんのランクは?」

「Sだ。」

 

橋田さんも軽く答えます。

う、うわー…。

転入生が両方強襲科Sランクですか…。

 

もう言葉も出ません。

 

皆が軽く引いて、一旦質問が止まると…。

 

「へー、あんたら両方Sランクなのね?」

 

アリアさんが、2人に話しかけました。

…どこか、好戦的な目で。

私やキンジ君が例外なのであって、本来強襲武偵は好戦的です。

アリアさんもその例に漏れず自分と同じくらいの強さの武偵を見て血が沸いてしまったようですね。

 

…うーん、厄介事の予感です…。

 

「まぁ、そういうことだな。」

「だねー。」

「ふーん…。あんたら、あたしと勝負しなさい!」

「ちょ、アリアさん!?」

 

アリアさんはなぜか急に勝負を吹っかけました。

…いや、流れもなしに本当に不意に。

おそらくですが最近とても平和だったので…アリアさんなりの憂さ晴らしというかストレス発散なのでしょう。

 

案の定2人は「うわ、何だコイツ。」みたいな顔でアリアさんを見ています。

 

「決闘よ決闘!あたしの思い付きよ!」

「…おいおい…どうするアカネ?」

「えー?うーんー…カナちゃん次第かなー?」

「…あれ?お2人は知り合いなんですか?」

 

2人が自然に会話しているのを見て、ふと疑問を感じました。

 

「ああ。アカネとオレは幼馴染だ。」

「うんー。カナちゃんとは仲がいいんだよー。」

 

なんと。

道理で仲が良いわけです。

…というか、橋田さん今…。

自分のこと、『オレ』と言いましたよね?

 

…そ、そんな人本当にいるんだ…。

ちょっとびっくりです。

 

「…悪いがそういうのは好きじゃないんだ。別に当たってくれ。」

「カナちゃんが言うならー、わたしもー。」

 

2人は当たり前のように断りました。

まあ、当然ですよね。

確かに武偵高では決闘は非推薦(つまりやってもOK)ですし、2人は転入してきたばかり。

さすがにアリアさんも少し冷静になったらしく。

 

「…あっそ。じゃあまた今度ね。」

 

少し不満そうにそう言って、自分の席に戻っていきました。

それを見て皆も落ち着いたのか皆各々の席に戻っていきます。

 

…私も、少しお話してみようかな…?

…ああ、でも恥ずかしいです…!

ど、どうしましょう…?

 

目の前でわたわたする私を見かねたのか、2人は声を掛けてくれました。

 

「…改めて、オレは橋田叶だ。気軽に叶とでも呼んでくれ。」

「わたしはー、布田明音だよー。明音でいいよー。」

「え、えっと…私は茅間詩穂と申します。その…。」

「わかった。詩穂だな。そう呼んでもいいか?」

「え、あの、は、はい!よろしくお願いします!叶さん、明音さん!」

 

…ということで。

ラッキーなことに早速知り合うことができました。

 

自分のことをオレと呼び、クールでさっぱりした感じの性格の叶さん。

ぽわーっとした喋り方で、おっとりしたイメージのある明音さん。

そんな2人との出会いでした。

 

…あれ?

 

ところでさっきからキンジ君がこっちに来ませんね。

元々積極的な方ではないのですが…ちょっと違和感を感じます。

 

と思った矢先。

叶さんと明音さんは徐に立ち上がると、キンジ君のほうに歩いていきました…。

…あれ?

 

どうして、キンジ君の席?

 

「…お前が遠山キンジだな?」

「…そうだ。だからなんだ?」

 

叶さんはなぜか値踏みするような目でキンジ君を見ます。

キンジ君は明らかに疑うような目で2人を睨みました。

 

…そりゃそうです。

初対面の相手に名前を知られていたら当然疑います。

 

「…別に。お前とは仲良くできそうな気がしただけさ。な、アカネ?」

「うんー、そうだねー。ちょっとネクラな感じだけどー。」

「…うるさい。用が済んだならもういいだろ。」

 

叶さんは一転、軽い感じでそういいました。

明音さんものんびりと発言。

そしてキンジ君はぶっきらぼうに返しました。

 

2人も満足したのか、席に戻っていきました…。

 

…気に、なりますね。

今の行動は明らかにおかしい…。

早速で悪いですが、お2人のことを調べる必要が出てきました…。

 

キーン…コーン…カーン…コーン…。

 

思い立ったときにちょうどチャイムが鳴りました。

…お昼休みに、空き教室で調べてみましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お昼休みにて。

アリアさんとキンジ君は教室でお弁当を食べるそうなので、私は1人空き教室にいました。

…そういえば、前はここで理子ちゃんとよくお話していましたっけ…。

…理子ちゃん…。

 

…いけないです。

今日は目的があってきたのでした。

ノートパソコンを開いて、専用のソフトを立ち上げ…。

 

 

 

 

そして、調べ始めてから5分で異変に気付きました。

 

彼女たちは同じ一般高からの転入。

転入の際の試験にて両者Sランクを獲得している。

 

…家族構成、不明。

現在の住所、不定。

出身地、不明。

転入の動機、不明。

過去の活躍・生活、不明。

 

不明、不明、不明。

 

情報の改竄がされていることはすぐにわかりました。

…おかしい。

2人は、明らかにおかしい。

 

一般高からの転入なのにSランクなんておかしいですし、そもそも一般高からの転入なら隠す必要もありません。

 

…背筋が凍りました。

こんなことって…!

リアル貴族のアリアさんですら、情報は改竄しきれていなかった。

そもそもこのソフトはネット上の情報の残滓を拾う理子ちゃん特製ソフト。

 

改竄なんて不可能に近いのです。

そう理子ちゃんのソフトに見抜けないはずなんて…!?

 

あ、あれ…?

 

…あ、あるじゃないですか…。

理子ちゃんのソフトに見抜けないことがひとつだけ…!

 

理子ちゃん自身の情報を守るためのプロテクト…。

理子ちゃんの所属する…イ・ウーのことだけは、見抜けるはずがありません…!?

 

「ま、まさかあの2人は…!?」

「よぉ、詩穂。こんなとこで何してんだ?」

「…え?」

 

声のしたほうを見ると、そこには明らかに先程とは雰囲気の異なる叶さんと明音さんがドア付近に立っていました。

 

「…はは、もうばれちまったか…。お前を尾けておいて正解だったな。」

「理子ちゃんのー、親友さんだからねー。警戒しないとー。」

 

う、うそ…!?

尾けられてた…!?

 

「頭は回るみてーだが…武偵としてはまだまだだな。」

「ふふー。詩穂ちゃんー、警戒を怠っちゃダメだよー。…そんな大事なことを調べるんだからー。」

「…あ、あ…。」

 

頭の中が混乱します。

どうしようどうしよう!?

 

ま、まずいです緊急事態です!

に、逃げないと…でもどうやって?

あの2人は確実に強いし、2対1の時点で逃げ切れるはずが…!?

 

「…ははは、そうビクつくなって。悪いようにはしない。ちょーっとだけ…一緒に来てくれよ。」

 

もちろん私は抵抗などできずに、2人に連れて行かれるほかありませんでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここなら大丈夫そうだなー…っと。」

 

連れてこられた先は、体育倉庫でした。

…な、なんなんでしょう、ボコられるのでしょうか…?

これからの恐怖にガクガクしていると…。

 

「おいおい、だからビビるなって…。大丈夫だ、お前に危害なんか加えねーよ。」

「な、な…!」

 

私には危害を加えない…?

ということは私を人質にアリアさんが…危ない!

 

「わ、私はどうなっていもいいのでアリアさんだけは見逃してください!お願いします!どうかアリアさんだけは…!」

「…だーかーら、オレたちはそういうんじゃなくてだな…。」

「ごめんなさいごめんなさい、やっぱり命だけは…!」

「…まったく、人間ができてるのかできてないのか…。いいか?オレたちは確かにイ・ウーの構成メンバーであり、武偵高にスパイとしてきている。」

「ひうっ!」

 

や、やっぱりです!

これはやはり…私は殺られてしまうのでしょうか!?

 

「…でも、イ・ウーを潰そうとも思っている。」

「…は?」

 

叶さんは少し不可解なことを言いました。

…イ・ウーの構成メンバーにも関わらず、イ・ウーを潰そうとしている?

 

「…あー、言い方が悪かったな。オレは、つまり…イ・ウーの敵なんだ。」

「へ…?あの、それって…。」

「武偵用語で言う、潜入捜査(スリップ)だ。」

 

潜入捜査。

相手の組織側に味方のフリをして介入する、いわばスパイです。

 

…もし、この言葉が本当だとすると…。

この2人は、私たちの…アリアさんの、味方であるということです。

 

「し、信じられません…。どうしてそんなことを、第一信じてもらえると思っているんですか?」

「あー、それについてはー、大丈夫だよー。」

 

ついさっきまで黙っていた明音さんが口を開きます。

…それにしても、本当にゆっくりした話し方ですね…。

と場違いなことも若干考えてしまったり。

 

「わたしたちはー、こういうものなのですー。」

 

明音さんはポケットから何かを取り出し、私に見せました。

…これは、なんでしょうか?

 

明音さんの顔写真、個人情報、そして…どこかのマークと判子。

…あ、あれ?このマークって…。

 

「こ、これは…東京武偵局?」

「…そういうこった。オレらは東京武偵局の公式スパイなんだよ。」

 

そこに印されたマークは、公式の東京武偵局のマークに違いありませんでした。

そして彼女が見せてくれたのは東京武偵局が発行している手帳。

…つまり、この2人は…。

 

「じゃ、じゃあお2人は本当に…!」

「…そういうこった。信じてもらえたか?」

 

さすがにここまで証拠を見せられると、頷かざるを得ません。

私は彼女たちに向ける敵意を解きました。

…と同時に思いっきり安心しました。

 

「そ、そういうことでしたら、良かったです…。」

「全く、警戒心が強いのやら強くないのやら…。」

 

先程の容易に尾けられていたことを叶さんは言っているのでしょう。

うぅ、恥ずかしいです…。

 

「…だが、神崎・H・アリアに、というか誰にもこのことは内緒だ。」

「え?な、なんでですか?折角味方なのに…。」

「当たり前だろう。オレたちはあくまでイ・ウーのスパイとして学校に潜り込んでいるんだ。本来ならお前にも話すことなんかない。」

 

…よくよく考えれば当たり前です。

彼女たちの行っていることは二重スパイ。

東京武偵局の命令でイ・ウーで諜報活動しているのと同時に、イ・ウーの命令でここ武偵高に来ているのです。

…アリアさんには申し訳ないですが、彼女たちの仕事を邪魔するわけには行きませんね。

 

武偵憲章第4条。

『武偵は自立せよ。要請なき手出しは無用の事』。

 

武偵の基本となる武偵憲章10ヶ条のうちの1つです。

私は余計なことをするべきでは…ないのかもしれません。

 

「まあ、ただ、その…お前はそういうやつには見えないが、周りにオレたちの事をバラされると困るんだ。だから…交換条件を出す。」

「交換条件…ですか?」

 

なんなんでしょう…。

自分で正体をバラしておいてバラされると困るって…。

この人たち、もしや残念な方々なのでしょうか…?

 

「その前に…自分から正体を明かさなければ良かったのでは?」

「あー、確かにな。その選択肢もあった。でも、もしそのまま放っておいたら…お前、神崎・H・アリアにオレたちが怪しいということを伝えるかもしれないだろ?そうでなくとも、他人にこのことを伝える可能性は無くは無い。その可能性から判断してこうしたんだよ。ちなみに考えたのは全部アカネだ。」

「うんー。わたしー、がんばったよー。」

 

…な、なんて判断力と状況分析能力…。

私はそんなこと全然思い至りませんでした…。

明音さんってのんびりしている雰囲気でしたから…正直意外です。

 

「…それで、交換条件だが。イ・ウーについての質問に、オレたちの答えうる限りなら答える…って事でどうだ?」

「…そ、それは…。」

 

正直かなり魅力的な提案です。

私は戦闘面ではほとんど役に立ちません。

ですからこういった情報の面ではアリアさんの役に立ってあげたいです。

 

「…わ、わかりました。私は一切あなたたちのことを口外しません。その代わり、教えてください。私が…アリアさんが今立ち向かっている敵のことを。」

「よし。交渉成立だな。口約束だが…オレはお前を信じるぜ。」

「わたしもー、詩穂ちゃんなら大丈夫だと思うよー。」

 

2人との交渉は、こうして成立しました。

…本当は未だに少し疑っている自分がいます。

本当に2人は信用に足りうるのでしょうか?

本当に2人はイ・ウーのスパイなのでしょうか?

でも…私にはこれくらいしか出来ません。

 

キーン…コーン…カーン…コーン…。

 

予鈴が鳴りました。

これから生徒たちはそれぞれの専門分野に分かれて訓練をしなければなりません。

 

「…っと、悪いな詩穂。話はまた今度でいいか?」

「はい。お2人は強襲科なのですよね?」

「ああ。そうだな。」

「じゃあ、一緒に向かいましょう。」

 

…今は、これしか。

今はこの2人を信じて、進むしかないのです…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強襲科練に着くと、生徒たちが2人に集まってきました。

 

「Sランクってマジ!?」

「武器は何使ってるの?」

「俺と模擬戦やってくれ!」

 

うわぁぁぁ!

と皆が2人を囲むので…。

 

「みゃっ!?」

 

比較的小柄な私はすぐに輪の外にはじき出されてしまいました。

びっくりして呆然とその光景を眺めます。

 

「あら、詩穂。あんた何やってたのよ。」

「あ、キンジ君、アリアさん。お久しぶりです。」

「…まだ1時間くらいしか経ってねぇよ…。」

 

輪から少し離れた位置で、アリアさんとキンジ君が立っていました。

先程色々ありすぎたせいか、2人を見るのが懐かしく感じます。

 

「えっと、叶さんと明音さんとお話していました。」

「昼休み中ずっと?…まぁいいわ。やっぱりあたし、あの2人と決闘する。」

「…おいおい、マジか…。」

 

キンジ君が呆れたように言いました。

アリアさん、まだ諦めてなかったんですか…。

 

「ちょっとアンタら!どきなさい!」

 

アリアさんが2人を取り囲む輪に向かって叫びました。

アリアさんが怖いのか輪になっていた人たちはすぐにその場を離れ、自分の訓練に戻っていきました…。

 

「…なんだ?さっきのお前か。…神崎だっけか?オレたちに何の用だ?」

 

叶さんが面倒そうな顔をアリアさんに向けます。

アリアさんはそんなことを意に介する様子も無く2人に言い放ちました。

 

「やっぱり決闘よ!あんたたちが本当にSランクなのか確かめてあげるわ!」

「…アカネ、どうする?こいつ言っても聞かなそうだが…。」

「うーんー、カナちゃんにお任せするよー。」

 

明音さんが間延びした声で返答します。

…明音さん、基本的には叶さんに丸投げなんですね…。

 

「…わかった。仕方ない、受けるよ。」

「うん、決まりね!じゃあ今から闘技場(コロッセオ)で勝負よ!」

 

…闘技場。

強襲科練にはいくつか体育館がありますが、それは名前だけ。

実質戦闘訓練場です。

闘技場とは第一体育館のことですが…。

 

「…は?ころっせお?わざわざイタリアでやるのか?」

 

転校生である叶さんと明音さんには通じるはずもありません。

しかしアリアさんは2人を置いてさっさと行ってしまいました。

 

「えっと…第一体育館のことです。案内しますね。」

「…ああ、助かるよ。ありがとな詩穂。」

 

叶さんはそういってニコッと笑いました。

…お、女同士なのにクラッと来てしまいました…。

叶さんの笑顔はそれほどまでに…綺麗でした。

 

私はカナさんに顔が赤いのがバレないように顔を伏せ、2人を案内するのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩穂→アリア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたしは一足先に闘技場に着くと、戦闘準備をしていた。

…あたしは、ついこの間の理子との戦いで思い知ったのだ。

自分は…弱い。

理子1人ですらキンジと協力してようやく追い詰めた。

そこまでしても逮捕は出来なかったのだ。

自分の情けなさに…弱さに、悲観した。

 

でも悲観している暇なんてない。

それならあたしはもっと強くならなければならない。

 

だからここ最近平和でどこかのんびりとした生活に…嫌悪を感じていた。

しかし自分より弱い相手と戦ってもあまり訓練にはならない。

 

…違う。

他の皆が弱すぎて戦いにすらならなかった。

スーパーキンジなら訓練になるけど、キンジはどうしてかあの状態になろうとしない。

なりたがらない。

白雪は…あんまりやりたくはないわ。

 

そんなあたしに、チャンスが来た。

…自称Sランクの転入生2人。

 

やるしかないと思った。

あたしは…もっと強くなりたい!

 

「…来たわね。」

 

詩穂が2人を連れて、闘技場に入ってきた。

…そういえば2人は転校生だったわね。

じゃあ闘技場といってわかるわけなかったわ。

 

…まぁいっか。

 

「…お前の相手はオレだ。文句はないな?」

「ええ。どっちでもいいわ。あたしはどっちでも容赦しない!」

 

叶は明音に見ていてくれと言うと、そのままあたしの前に立った。

…距離は15mくらい。

相手の武器は…不明。

お互いに障害物はないから…まずは様子見をしたほうがよさそうね。

相手は自称とはいえSランク。

場合によってはダメージ覚悟であたしの得意な格闘戦に持ち込んだほうが優位に立てる…。

 

「…じゃあ、詩穂。開始の合図をお願い。」

「へっ?あ、ああはいわかりました…。それでは、今から叶さんとアリアさんの模擬戦を行います。決着方法はどちらかが降参するか明らかに勝敗が決定した時点で決着とします。いいですか?」

 

詩穂はいつも蘭豹がやっているように模擬戦の仕切りをやってくれた。

…さぁ、模擬戦…。

開始よ!

 

「では…始めッ!」

 

ガガガンッ!

詩穂の掛け声と共に、あたしはホルスターからガバメントを取り出して叶を撃った。

弾は3発。

狙いは…腹に2発、ブラフで足元に1発。

 

さぁ、どう対応するのかしら…?

 

「はんっ!気が早いな!」

 

叶は一瞬で射撃線を見切ったのか冷静に体を捻って避けつつ…。

背中から何やら鉄パイプのようなものを取り出した。

 

「オレを相手に喧嘩を売ったこと…後悔するなよ?」

 

叶はその鉄パイプを大きくその場でブンッ!と振った。

すると…な、何かしら?

 

ジャキン!

と音が鳴り、鉄パイプの先から何かが飛び出した。

その飛び出した何かはジャキンジャキン!と伸び続け…。

鉄パイプ本体を含めて、2mはあるかというぐらい伸びた。

そしてその先端は…鋭く尖っていて、ちょうど畳んだ傘のような形状になっているわ。

 

…あれは、西洋ランス?

ちょうどモンスターをハントするあのゲームのランスの形にそっくりね。

 

「さぁ、神崎…。もう待ったはなしだぜ?」

「…上等!」

 

とにかく、よくわからないけどあの武器の範囲的に考えて接近戦に持ち込めばよさそうね…。

近距離では刀や剣よりも小回りの利くナイフが有利なように。

あの武器も接近戦には向いていないはずだわ。

 

ガガン!ガガガン!

 

あたしは銃を乱射しながら、一気に叶に迫った。

 

「…単純だが、いい判断だな。」

 

ギン!ギギギン!

叶はなんなくこちらの弾丸を手にしたランスではじく。

白雪といい、最近は銃弾をはじくのが流行ってるのかしら?

 

あと5m、というところまで接近したあたりで…。

あたしは武器を小太刀に代えた。

 

「…へぇ。」

 

叶は感心したように呟くと、彼女もまたこちらに迫ってきた…!

よし、なんだかよくわからないけど好都合よ!

このまま接近戦で終わらしてやる…!

 

叶はランスを横薙ぎに振るう。

でもあたしはしゃがんで避ける。

 

…もらった!

 

「あー、近づきすぎるのは勘弁な。」

 

叶はそういうとその手に持つランスを…。

グサッ、と地面に突き刺した…?

 

そしてそのまま、棒高跳びの要領で高く…跳んだ。

あたしの真上を越え、、そのまま3mほど高く。

 

「なっ!?」

「ボーっとすんなよ!」

 

一気に背後と空中を取られた。

そして叶は自由落下に合わせてランスを振り下ろした。

 

「…!!」

 

どがっ!

その振り下ろしたランスは、強い衝撃と共にあたしの右肩を捉えた。

同時にその痛みと衝撃であたしは膝をついてしまう。

 

でも、まだだ…!

あたしは反撃に転じようと顔を上げて…目の前にある切っ先に驚いた。

鋭く光るランスの先端は、あたしの顔まであと数ミリといったところで止まっている。

 

「…あ…あ…。」

「よかったな、神崎。オレがあとちょっとでも強く()()を突き出してたら…お前の頭、無かったぜ?」

 

…決着。

明らかに、敗北…した。

あたしはたった今、こいつに殺されてもおかしくなかった。

 

「詩穂。これはオレの勝ちでいいよな?」

「え、えっと…叶さんの、勝ちです…。」

 

詩穂の消えそうな声で、模擬戦は終了した。

…あたしはしばらく、悔しさと敗北感で立ち上がれなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア→詩穂

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…模擬戦の終了を告げると、叶さんと明音さんは体育館を出て行ってしまいました。

アリアさんはその場で右肩を押さえながら…呆然とへたり込んでいました。

 

「…アリア。その…。」

「…何よ、キンジ。あたしを笑いに来たの?」

「………。」

 

キンジ君はアリアさんを励まそうと近寄りますが、しかし何も言えませんでした。

…私は、驚いていました。

 

アリアさんが、決定的に負けてしまったこと。

叶さんは銃すら取り出さずにアリアさんを倒してしまいました。

 

…アリアさんは、悔しいはずです。

自分から勝負を仕掛けて、傷1つ付けられずに終わってしまった。

 

「…アリアさん…。とりあえず、今日はもう帰りましょう?」

「…詩穂。あたしのこと…情けないと思う?弱いって…思う?」

 

不意にアリアさんはそんな突飛なことを聞いてきました。

私は…どう答えればいいのでしょうか?

…わかりません。

でも、思っていることを口に出したほうがいいはずです。

 

「思いませんよ。負けてしまっても、アリアさんが弱くなったわけじゃないです。」

「…でも、あたしは…。」

「いいじゃないですか、次は勝てば。私なんて勝てる日の方が少ないです。」

 

自分で言ってて悲しくなってきました。

…なんででしょうね…。

 

「アリアさんは、どうして決闘を挑んだのですか?」

「あ、あたしは…もっと、強くなりたかったから。あの2人と戦って…それで、もっと強く…。」

「なら負けてもよかったんです。自分より上がいるということは、もっと上にいけるって事なんですよ?」

「…詩穂…。」

 

アリアさんはようやく、顔を上げてくれました。

…きっと、アリアさんは薄々気付いていたのでしょう。

このままだときっといけない。

理子ちゃんを取り逃がし、星伽さんと引き分けて。

 

このままイ・ウーに挑んでも、勝てない。

そう彼女のカンが…感じ取っていたのでしょうか?

きっと、アリアさんは自分でも何がなんだかわかっていないのでしょう。

それでも…動かずにはいられなかった。

 

「そう、よね…落ち込むなんてあたしらしくないわ。最近ちょっとあたしおかしかったわね。」

「アリアさん…!」

「でも負けちゃったのは事実ね…。明日から、あたしも朝練やろうかしら?」

 

…そ、それは…。

なんだかヤな予感がしますが、折角アリアさんが立ち直ってくれたので今は置いておきましょう…。

 

「そうと決まったらここにいる義理は無いわ。行きましょうか。」

 

そういうと、アリアさんはスタスタと体育館を出て行ってしまいました…。

立ち直りが早いのは助かりますが…。

なんというか…。

 

アリアさん、チョロいですね。

 

「…ところでキンジ君?今日はあまり喋っていませんでしたけど…どうかしましたか?」

「あ?ああ、いや…関係ないだろ。」

 

た、確かに関係ないですけど…。

こういうぶっきらぼうというか冷たい感じ、キンジ君はもう少し治したほうがいいと思います。

 

「朝は元気そうでしたが…どうしたんですか?」

「…別に、な。ただ、『カナ』…って言う名前に慣れないだけだ。」

 

…はて?

叶、という名前に慣れない…?

 

どういうことでしょうか?

 

「キンジー!詩穂ー!早く来なさいー!」

 

アリアさんが呼んでいます。

残念ながらキンジ君の謎の発言は…有耶無耶になってしまうのでした。




読了、ありがとうございました!

今回から新キャラを登場させてみました。
両方オリジナルのキャラクターですが…サブキャラポジションなので、あまり本編には影響してきません。

ただ私が個人的に新しいキャラクターを出したかっただけです。
少し混乱してしまうかも知れませんが、ご勘弁ください。

そして原作にもカナがいることに途中で気付いてしまい、かなり後悔しています。
混同しないように頑張って書いていくつもりですが…本当に申し訳ないです。


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