緋弾のアリア 残念な武偵   作:ぽむむ@9

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第12話です。



またもや更新が遅れてしまい、申し訳ないです。
最近更新速度が日に日に遅くなっている気がします。
何とかしないとですね…。


さて、個人的にとても嬉しいことです。
お気に入り数が100突破!
評価をくださった優しい方が10名!

こんな残念小説を読んでくださってありがとうございます!


ざ・ばーど・ぶろーく・ぷりずん
第12話 やんでれこうりんです


さて、ハイジャック事件も落ち着いてきたある日の夜のこと。

私たち3人は思い思いにリビングで過ごしていました。

 

私は夕食の洗い物。

アリアさんはPSPでガチャガチャとモンスターをハントするアレ。

キンジ君はケータイをいじっています。

 

なんだか平和で大きな事件らしい事件も無く、だらだらとした雰囲気。

でも私はこういう幸せな雰囲気、大好きです。

 

「ねぇキンジー。こいつ倒せないんだけど。手伝ってー。」

「なんだよ、ディアブロくらい自分で狩れよ…。」

「コイツ剣が届かないんだもの。つべこべ言わずに手伝いなさい。」

「全く…。詩穂、お前もやるか?」

「みゅっ!?あ、あとちょっとで終わるのでそしたらやります…。」

 

突然名前を呼ばれてびっくりしてしまいました…。

やっぱり、キンジ君に名前で呼ばれると恥ずかしいです…。

 

そして、最近になって気が付いたことがひとつ。

 

アリアさんの機嫌が、物凄くいいです。

だから、最近はキンジ君とアリアさんの口喧嘩勃発率が40%くらいにまで下がっている気がします。

 

…仲のいいことはとても素晴らしいことなのですが…。

 

「ふふっ。キンジが加われば余裕ね!」

「あんまり俺を当てにするなよ…。」

 

2人の仲がいいのが、ちょっと悔しかったり。

 

…べ、別にさびしくなんか無いですよ?

私もキンジ君と仲良くしたいなー、なんて考えてませんよ?

考えてないんですからねっ!

 

…はぁ…。

1人ツンデレほど淋しいものはこの世に存在しないと思うんですよ…。

 

ぴりりりりり…。

 

ここで、キンジ君がさっきまでいじっていたケータイが鳴りました。

…あれ?

なぜか、その音は鳴り止みません。

 

ぴりりりりり…。

 

連続で何度も受信しているのでしょうか?

 

「キンジ。うるさいんだけど。」

「ああ、そういやさっき電波を入れなおしたからな。」

 

ぴりりりりり…ぴりりりりり…。

 

ああ、なるほど。

確かに、電波を入れなおすと一気にメールとか受信しますものねぇ…。

 

ぴりりりりり…ぴりりりりりりり…。

 

…ちょっと、いくらなんでも受信しすぎじゃありません?

キンジ君も不審に思ったのか、ケータイを手に取ります。

 

そして、顔を一気に蒼白にしました。

 

「お、お前ら、に、にに逃げろッ!」

「な、何よ?なに急にガクガク震えてんのよ。キ、キモいわよキンジ…。」

 

そしてガタガタと震えながらなにやら逃げろ、と命令されました。

そのあまりの震え様にアリアさんも若干ビビッています。

 

そして、どこか遠くのほうから。

 

どどどどどどどどどど…!!

 

と地鳴りのような音が近づいてきました…。

なんでしょうか?

改造バイクでも近づいてきているのでしょうか?

 

「ぶ、ぶ、『武装巫女』が…うッ。マズイ…来た…。」

 

遠山君が何かをうわごとのように呟きます。

…はて?

『武装巫女』?

 

その間にも、どどどどど…という地鳴りのような音は近づいてきます…。

…って、あれ?

近づいてくる…!?

 

玄関のすぐ近くで音が止まったかと思うと…。

 

ジャキン!

 

と。

玄関のドアが真っ二つに斬られ、そこから人が入ってくるのが見えました。

 

その間わずか3秒ほど。

私もアリアさんも、驚いて言葉が出てきません。

 

「白雪!」

 

キンジ君が叫びます。

…白雪。

生徒会長、星伽白雪さん。

巫女装束を身に纏い、なぜか他にも色々とガッツリ装備した星伽さんが、鬼のような形相で仁王立ちしていました。

 

…え?

な、なんでこのタイミングで、この時間に、生徒会長さんが?

というかどうして刀を持って…!?

 

「やっぱり…いた!神崎・H・アリア!茅間詩穂!」

「ま、待て!落ち着け白雪!」

「キンちゃんは悪くない!キンちゃんは騙されたに決まってる!」

 

キンジ君が落ち着かせようと説得しますが、星伽さんは全くと言っていいほど耳を貸しません。

 

「この泥棒ネコども!き、き、キンちゃんを誑かして汚した罪!死んで償え!」

 

そういうと星伽さんは日本刀を大上段に構えます。

…って、ええ!?

攻撃態勢じゃないですか!

 

「な、なんなんですか!?キンジ君、この人生徒会長さんですよね!?というかなんで日本刀持って…!?」

「お、俺にもわからん!とにかく逃げ…!」

「覚悟ォォ!」

 

キンジ君との会話をぶった切って、星伽さんが…!

こちらに突進してきました…!

 

「わぁぁ!?来ましたー!?」

 

私は緊急回避でその場から離れると、星伽さんはアリアさんに標的を変え…。

 

「天誅ぅーーッ!」

 

アリアさんの頭目掛けて、刀を振り下ろしました。

アリアさんも混乱しつつ、応戦します。

 

「みゃッ!?」

 

アリアさんは振り下ろされた日本刀を…。

 

ばちっ!

 

っと両手で挟んで受け止めました。

…こ、これは、真剣白羽取り…!?

は、初めて生で見ました…。

 

「この、バカ女!」

 

アリアさんは臨戦モードに入ったのか、星伽さんに飛び掛りました。

 

「バリツね!?」

 

星伽さんは一瞬でアリアさんの流派を見抜き、飛び掛ってくるアリアさんを逆に投げ飛ばしました。

 

ガッシャーン!

 

と大きな音を立てて、アリアさんがソファに激突します。

…ちなみに今の一撃で、ソファはお亡くなりになりました。

キンジ君は自分のお部屋をこれ以上荒らされたくないためか、二人を制止しようとします。

 

「や、やめろ!2人ともやめるんだうおっ!?」

 

ガギュンガギュン!

 

キンジ君が何かを言い終わる前に、キンジ君の目の前を弾丸が通り抜けました。

…アリアさんの放った、二丁拳銃の弾です。

 

ギギンッ!

 

星伽さんは、いともたやすくその弾丸を刀ではじき返しました。

…え?

なんで今さらっと人間離れした業をやっちゃってるんですか星伽さん?

 

「キレた!も~~キレたっ!…風穴開けてやる!」

 

とうとうキレたアリアさんが、ソファから抜け出して星伽さんに襲い掛かります。

二丁拳銃を乱射しながら星伽さんに近づきますが…。

 

ギンッ!ギギンッ!

 

と星伽さんは全て刀ではじき返してしまいます。

アリアさんはこれ以上は無駄と判断したのか、今度は二刀流に切り替えました。

……双剣双銃。

アリアさんのそれは、手数の多さを意味します。

4つの武器から織り成す圧倒的な手数と突破力。

それがアリアさんの強さです。

 

しかし、アリアさんの2本の小太刀の一撃を。

平然と星伽さんは受け止めました。

 

ぎりぎりぎり…!

 

鍔迫り合い。

アリアさんは正真正銘のSランク武偵です。

そのアリアさんと…互角以上に、戦っています。

 

星伽さん。

なんて強さなのでしょう…。

 

「わ、私の入る幕じゃありませんね…。し、失礼しまーす…。」

「逃がさない!そっちの泥棒ネコ!」

 

ビビッて逃げようとする私を星伽さんは目ざとく捉え…。

 

じゃらじゃら!

 

「みゃうっ!」

 

私の足に、どこに隠し持っていたのか鎖鎌を巻きつけました。

もちろん足を縛られたらバランスが取れなくなり…。

 

どてっ!

 

と床に伏してしまいました…。

じたばたと抵抗するも、鎖鎌はかなり頑丈に巻かれているようで、解けません。

そのままズルズルと星伽さんに引っ張られて…。

 

せ、戦場のほうに向かっています…!?

 

「キンちゃんこの女を後ろから刺して!そうすれば全部見なかったことにするよ!」

「キンジ!あたしに援護しなさい!あんたあたしのパートナーでしょ!」

「キンジくーん!助けてくださいーっ!死にたくないですーっ!」

 

3人から、キンジ君に声が掛かります。

はたして、キンジ君の選択は…。

 

「…勝手にしろ。心ゆくまで戦えよ。」

 

見事に全員スルーでした。

 

…あ、私死にましたね。

 

「キンちゃーん!」

「キンジ!」

「キンジ君!ちょっと本格的に生命の危機がっ!うにゃーっ!」

 

私たちの叫びを背に、キンジ君はベランダのほうへ行ってしまいました…。

ああ、あそこには防弾のロッカーがありましたよね…。

 

そんなことを考えながら、私は戦場に巻き込まれていくのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

キンジ君がベランダから戻ってくるころには、戦いは一応終わっていました。

 

アリアさんは疲れきって床に座り込んでいます。

星伽さんも刀を杖のようにして床に刺し、何とか立ってはいます。

 

…私はというと。

満身創痍の状態で、床にぶっ倒れていました。

一応致命傷だけは何が何でも守りましたが…それ以外はズタボロです。

途中からアリアさんもこっちに誤射しますし。

 

さて、そんな私たちを見てキンジ君は一言。

 

「…で、決着はついたのか?」

「ええええええ!?」

 

心の底から叫び声が上がりました。

なんとか私も起き上がり、キンジ君に抗議します。

 

「きっキンジ君!今の!今の私を見て何か言うことはないのですか!?」

「え?ああ…頑張ったんじゃないか?」

「ガーン…。」

 

ひ、ひどいです…。

私を華麗に見捨てた挙句、謝罪はおろか心配の言葉もないなんて…。

 

「…キンちゃんさまっ!」

 

星伽さんはキンジ君に気付くと、ヨロヨロとキンジ君に向かって正座しました。

…キンちゃんさまって…。

語呂悪っ。

 

「どうか考え直してください!こんな毒婦が2人もなんて…!」

 

…ああ、なんだか星伽さんの性格がわかってきました…。

生徒会長ェ…。

 

「ひ、1人でさえ危ないのに…2人もいたら、キンちゃんさまの貞操がー!」

「て、ていそう…?」

 

アリアさんが首を傾げます。

キンジ君も微妙にわかってない様子です。

 

「な、て、貞操は…私はまだキンジ君の貞操は奪っていません!」

「…ま、だ…ですって…?」

 

しまった!

言葉を間違えました!

…いえ、いつかは狙わないと…。

じゃなくて!

 

「この娼婦どもめが…!」

「おい待て白雪!顔がやばいって!」

 

みるみるうちに星伽さんの顔が般若のように強張っていきます…。

こ、怖いです…。

 

「い、いいか白雪!俺は、断じてそんなことはない!アリアも詩穂もただ単に武偵としてパーティを組んでいるだけなんだ!」

「…そうなの?」

 

星伽さんがやけに従順にキンジ君の言葉に従います。

…やっぱり、星伽さんはキンジ君のことが好きなようですね。

好きどころか、もはや崇拝レベルでしょうか?

 

…というか、軽いヤンデレ?

 

「じゃ、じゃあ、この2人とはそういうことはしてないんだね?」

「そういうことってなんだよ?」

 

キンジ君の説得によりある程度落ち着いた星伽さんは、確認のように問いただします。

…残念ながら、まだキスもしてないんですよね…。

星伽さんの疑念はようやく晴れそうですね。

よかったよかった。

 

「き、キス、とか……。」

 

その言葉を聞いて、キンジ君とアリアさんの動きが固まります。

…え?

…ウソでしょう?

 

アリアさんの顔がかああっ、と赤くなります。

そして口をパクパクさせながらキンジ君を睨みました。

対してキンジ君も脂汗をだらだらと掻きつつ星伽さんを見ます。

 

「……し…た…の…ね…。」

 

星伽さんがかすれた声で呟きました。

マジですか。

ま、マジですか…。

うわ、なんだか気が付いたら先を越されていました…。

星伽さんは絶望した表情でキンジ君を見ました。

 

「…そ、そ、そういうことは、したけど!」

 

なぜかこのタイミングでアリアさんは立ち上がります。

…顔は真っ赤なままですが…。

 

「で、でも、だ、だ、大丈夫だったのよ!」

 

…?

大丈夫?

何がでしょうか?

 

「こ、ここ、こ…!」

 

…こ?

 

「子 供 は 出 来 て な か っ た か ら !」

 

………。

……え?

子供?

 

…え?

 

え?

 

子供…ってことは…

 

「…え、あの…い、いつのまに…ヤったんですか…?」

「なっ…ちが、違うんだ!誤解だ詩穂!おいアリア!何で子供なんだよ!?」

「こっ…この無責任男!あたしはアレから人知れず結構悩んだのよ!?」

 

…ああ…。

負けたぜ、アリアさん…。

私の知らないうちに、もうそんな所までいっていたんですね…。

所詮私は使えないモブキャラ…。

そのくせキンジ君にそういうことを望んでいたなんて…。

 

ははっ。

とんだピエロですよ、全く…。

 

2人はぎゃーぎゃーと言い争っていたのですが、私には良く聞こえませんでした。

星伽さんはいつの間にか消えていました。

そして。

 

正気を失って半死亡状態の私と。

言い争うアリアさんとキンジ君が、部屋に残るのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、このあと。

しっかりと事情を聞いてみたところ、どうやらアリアさんはキスしただけで子供が出来ちゃうと思っていたようです。

…この言葉を聞いて私は心底安心した事は内緒です。

 

そしてアリアさんは自分で子供の作り方を図書館で学び…。

自分がかなり恥ずかしいことを言っていたことに気が付いたようです。

 

それに対し星伽さんは…。

あからさまに、キンジ君を避けるようになりました。

でも私とアリアさんを排除する意思はご健在のようで…。

 

キンジ君がいないときだと常に気配がするわ、私の机の上に油性ペンで『泥棒ネコ!』とネコのイラストつきで落書きされるわ、私の部屋の前に大量の使い終わった単三電池が置いてあるわ…なんかもう精神的にきますね。

 

アリアさんにも聞いてみたところ、似たような事例が結構来ているようです。

ひどいときにはロッカーにピアノ線が張ってあったそうです。

これはえげつないですね。

殺す気満々です。

 

私には命に関わるようなえげつないトラップは来ないので、やはり危険度的にはアリアさんのほうが危険だと判断しているのでしょうか…?

 

そんなこんなでちょっと疲れのたまったお昼休み。

私はキンジ君とアリアさんと一緒に食堂でご飯を食べていました。

…お恥ずかしながら、疲れのせいか寝坊してしまいまして…。

今日はお弁当を作れませんでした。

 

キンジ君はハンバーグ定食。

アリアさんは持ち込んだももまん。

私はメロンパンを各々食べていました。

 

…ところで、ももまんって昼食になるのでしょうか…?

 

「遠山君。ここ、いいかな?」

 

キンジ君にイケメンさんが話しかけてきました。

…この人は確か…。

 

「不知火か。かまわん。」

 

キンジ君がぶっきらぼうに返事をします。

このイケメンさんは、不知火(しらぬい)(りょう)君。

強襲科のAランク武偵とかなり優秀な方です。

とりわけ彼の優秀なところは、その万能さ。

格闘・ナイフ・銃撃の全てにおいて優秀なのです。

秀でているものこそないものの、非常にバランスのいい強さ。

彼はキンジ君とは1年生のときによくパーティーを組んでいたようですね。

また、変わった人の多い武偵高において珍しい人格者でもあるようです。

まさにパーフェクト。

完璧ですね。

 

…と、頭の中で彼の情報について整理していると。

 

「聞いたぜキンジ。ちょっと事情聴取させろ。逃げたら轢いてやる。」

 

物騒なことを言いながら、車輌科の武藤君もやってきました。

キンジ君は1年生の時はこの3人でいることが多かったようですね。

…なんなんでしょう、この敗北感は…。

 

いいですもん!

私には理子ちゃんがいましたもん!

…はぁ…。

 

「なんだよ事情聴取って。」

「キンジお前、星伽さんとケンカしたんだって?」

 

…さすが武偵高。

情報の回るスピードが段違いですね。

というかどうやったらそんな情報漏れるんでしょうか…?

 

ちなみにアリアさんと私は若干空気状態です。

 

その後もしばらく星伽さんの話題が続きますが…。

たまにアリアさんが顔を真っ赤にしてキンジ君との関係を全力で否定するくらいで、特に何の進展(?)もありませんでした。

…直接星伽さんに言わないと、嫌がらせもどきはやめてもらえそうにありませんね…。

 

さて、そんな決心を心の中でしたあたりで話題がふと変わりました。

 

「そういえば不知火。お前、アドシアードどうする?代表とかに選ばれているんじゃないのか?」

 

…アドシアード。

年に一度行われる、武偵高の国際競技会です。

まぁ簡単に言うと、武偵風のオリンピックのようなものでしょうか?

 

「たぶん競技には出ないよ。補欠だからね。」

「じゃあイベント手伝い(ヘルプ)か。何にするんだ?何かやらなきゃいけないんだろ、手伝い。」

「まだ決めてなくてねぇ。どうしようか。」

 

ふぅ、と不知火君はため息を吐きます。

…うーん、この人は何をやってもかっこいいですね…。

逆にイケメンすぎて何も感じませんが。

ほら、テレビの中のタレントに感じるような…アレ?

 

「アリアと詩穂はどうするんだ?アドシアード。」

 

不意にこっちに振られました。

…アドシアード、ですか…。

私は特に決まってはいないですね。

私もイベント手伝いになりそうです。

 

「あたしも競技には出ないわよ。拳銃射撃競技(ガンシューティング)の代表に選ばれたけど、辞退した。」

「ええっ!?じ、辞退しちゃったんですか!?」

 

びっくりしました。

アドシアードで代表に選ばれるということは、すなわちメダルを取れる可能性があるということ。

メダルを持っていると、将来的にはとても…とてつもなく優遇されます。

たとえば、武偵関係の仕事であれば一流の武偵局でも簡単に内定が取れます。

こんなおいしいチャンスを…みすみす捨てるなんて。

 

しかし、アリアさんの次の一言で納得しました。

 

「いいのよ、別に。あたしにはそんなのことじゃなくて今やらなきゃいけないことがあるの。時間が…ないの。」

 

…今、やらなきゃいけないこと。

それは紛れも無くかなえさんの事に他なりませんでした。

 

アリアさんはこれから、イ・ウーと呼ばれる何かに立ち向かわなければなりません。

おそらくそれは想像を絶するほど過激で…辛く苦しい戦い。

アリアさんのその目は、そんな恐ろしい未来に絶対に屈しない覚悟を湛えていました…。

 

「だから、あたしは今回はチアでもやるわ。」

「チア…?ああ、アル=カタのことか。」

 

キンジ君はチアの意味が一瞬わからなかったようです。

そしてすぐに納得した表情を作りました。

 

…アル=カタ。

イタリア語で『武器』を表す『アルマ』と、日本語の『型』を組み合わせた武偵用語です。

ナイフや拳銃でまるで戦うかのようにダンスする、チアリーディング風のダンスパレードです。

…とてもかわいらしいのですが、如何せん踊るのは武偵。

拳銃でガギュンガギュンしながら踊るので、実際は結構いかついです。

 

ちなみに男子は後ろでバックミュージックをバンドで演奏します。

正直、男子側は地味です。

 

「キンジもやりなさいよ。どうせ決まってないんでしょう?」

「あ、ああ…。」

 

あ、キンジ君が強制的に参加させられてしまいました…。

ということは。

 

「詩穂もやるわよね?チア。」

 

…まぁ、そう来ますよね…。

正直、恥ずかしいから絶対にやりたくないのですが…。

しかし、すっごい期待した目でアリアさんにこっちを見られると…。

…うーむ…。

 

「ま、まだ考え中です…。」

 

こういって逃げるしか私にはできませんでした…。

 

「…ふーん。まぁいいわ。アドシアードなんかより、キンジ。あんたの調教のほうが先よ。」

 

…ん?

あれ、今変な単語が…?

 

「アリア…せめて人前では訓練と言ってくれ。」

「うるさい。ドレイなんだから調教。」

 

あ、聞き間違いじゃないんですね。

…たぶんアリアさんのことですから、その…性的な意味ではないでしょうけど…。

 

…調教、かぁ…。

なんでしょう、いけない妄想をしてしまいそうです…。

 

「ていうか調教って何をするつもりなんだ。具体的には。」

「そうねー…。うーん、あ、そうだ。まずは明日から毎日、朝練をしましょ。」

 

アリアさんは朝練を今思いついたようで、ちょっとご満悦です。

まあ、キンジ君、その…ガンバレー?

 

「あ、もちろんあんたもやるのよ、詩穂。あんたもあたしのドレイなんだから。」

「ええぇぇぇぇぇ…。」

 

…私の朝が、少し短くなりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、次の日の朝。

アリアさんに指定されたとおり朝の7時にキンジ君と待ち合わせ場所に立っていました。

…ここは、『看板裏』と呼ばれる場所。

体育館と巨大な看板に挟まれた細長い空き地です。

普段から人のいない場所ですが、朝ということで人の気配が微塵にもしません。

 

「あら。あんたたち、もういたのね」

 

アリアさんがやってきました。

その格好は…なぜかチアガールの衣装。

…なぜ?

 

「アリアさん…どうしてチア衣装?」

「ああ、あんたたちを調教してる間にあたしはチアの練習をするの。そうすれば時間がムダにならないでしょ?」

 

どーだ、といわんばかりにアリアさんは胸を張ります。

…いえ、もう突っ込みませんよ?

 

「で、俺らは何をすればいい?」

「そうね…。キンジは、あたしの中ではSランク武偵よ。」

「お前の中だけな。」

「余計な口は挟まない。強襲科Sランクっていうのは、『一人で特殊部隊一個中隊と同等の戦闘力を有する』って意味の評価なの。」

 

…そう。

Sランクとは、人外のような強さを持つ人間に与えられた称号。

その強さは、例えAランクの優秀な強襲武偵が束になって襲い掛かっても勝てないそうです。

…アリアさんもそうですが、キンジ君も一度はその称号を取っているわけで…。

 

私、特殊部隊一個中隊に囲まれてる…。

 

「あんたはそれだけのポテンシャルがあるの。でも、あんたはそれを使いこなせていない。あんたにはそれを引き出す『鍵』が必要なのよ。」

 

…そこまでは私の推測どおりですね。

アリアさんもキンジ君の持つ何かについてしっかり考察していたようです。

 

「で、ハイジャックの後、あたし調べたの。…二重人格、ってものをね。」

 

…私もその可能性については考えました。

でも、おそらくその可能性は低いです。

 

理由としては、まずキンジ君は記憶を引き継いでいたこと。

例外はありますが、基本的には多重人格は他の人格と記憶を共有できません。

 

そしてもう1つ。

キンジ君は明らかに、強くなっていました、

つまり、身体能力・思考力が共に高くなっていた…ということです。

これは二重人格では説明しにくいです。

 

私としては…そのような精神的な要因ではなく、身体的な要因であると考えています。

つまり、アリアさんの言う『鍵』によって、キンジ君の体内にある物質が大量に分泌される…体質、あるいは病気だとしたら?

しかし、この考え方には少し問題点があります。

 

…なぜ、性格が変わってしまうのか?

これについては、少し苦しいですが…ドーパミンやβエンドルフィンなどの脳内麻薬が脳内に分泌されることで、キンジ君がハイになってしまったと考えれば納得できなくも無いです。

 

…でも、それだと身体能力の上昇にはあまり関係がなくなってしまいますし…。

 

…いえ、待ってください?

もし、逆だとしたら…?

つまり、ある物質が体内において一定以上分泌されることがトリガーだとしたら…?

 

そして、そのある物質が筋肉細胞を増やしたり、脳内ニューロンを一時的に増やす体質だとしたら…?

 

そして、その副作用としてキンジ君の性格が変わるものだとしたら…?

 

「…ちょっと詩穂?聞いてるの?」

「ひゃいっ!?」

 

思考に耽っていると、アリアさんに怒られてしまいました。

やっちゃいました。

反省。

 

「ご、ごめんなさい…何の話でしたっけ?」

「全くもう…。バカキンジが強くなるには戦闘時のストレスで覚醒すると思うの。だから、今からあんたとコイツで戦闘訓練よ!」

「…ま、マジですか…。」

 

いつの間にやら話が大きく進んでいたようです。

というか戦闘訓練って…。

わ、私がですか…。

 

「今から詩穂とキンジで20分間模擬戦!武器は好きに使っていいわ!あたしはその辺でチアの練習をしてる。サボったら風穴。」

 

そういうとアリアさんは、さっさと端のほうへ行ってしまいました…。

 

「…仕方ない。やるか、詩穂。」

「うぅ、あまりやりたくないです…。」

 

でも風穴は嫌だし…。

仕方ありません。

…でも、キンジ君は過去Sランクを取った猛者。

…あれ?

私死亡フラグですか?

 

「…行くぞっ!」

「ちょ、ちょっとまっ…!?」

 

制止をかける前に、キンジ君はこちらに迫ってきていました。

うぅ、やるしかないみたいです…!

 

…体格は不利。

キンジ君の武器は…今のところ、何も持っていませんね。

キンジ君の基本武器は確かベレッタとバタフライ・ナイフ。

…中距離だとベレが、近距離だとナイフが…。

しかも体格差がある以上、接近戦だけは何が何でも勘弁です。

 

ここは、銃撃戦に持っていくべきでしょう。

 

「…いきます!」

 

ガキュン!ガキュン!

 

取り回しの悪い謎の銃で、キンジ君を狙い撃ちます。

まあ、この銃の欠点は取り回しの悪さと威力の低さですが…。

命中精度と早撃ちなら、かなり優秀です。

 

当然のようにキンジ君は避け、そのまま直進してきます。

…今です!

 

「えいやぁっ!」

「何っ!?」

 

私は背中に背負っていたもう1つの武器で、近づいてきたキンジ君を一閃しました。

キンジ君はバックステップで避けますが…私の武器を見て、接近戦をあきらめたようです。

…日本刀。

家に飾ってあった日本刀をそのまま持ってきたところ、どうやら使える代物だったようでしたのでそのまま流用しているものです。

 

日本刀なら、キンジ君は近づきにくいです。

そして私の銃は左手に持ったまま。

 

この戦法は、強襲科ではガン・エッジと呼ばれているものです。

一剣一銃。

この戦法は非常に難易度が高く、拳銃戦ではあまり使われていません。

かくいう私も全く使いこなせてはいませんが…。

中距離、近距離において隙の無い、非常に強固な構えでもあります。

 

私は使いこなせていないので、守りしか出来ませんが…。

それでも、実は突破されにくいです。

防御だけに集中すればなんとかできなくもないですからね。

 

「…一剣一銃(ガン・エッジ)か…。」

「はい。」

 

キンジ君は少し嫌な相手をしたような顔をします。

………。

 

でも私は守りに集中するため、キンジ君を攻めることができません。

 

「…攻めて、来ないのか?」

 

ギクッ!

 

「…き、キンジ君から攻めてくればいいじゃないですか?」

「……お前まさか…。」

「うっ!」

「…攻めが、できないのか?」

 

ば、ばれてしまいました…。

どうしましょうどうする!?

 

「べ、べべ別にできないわけじゃ、な、ナイデスヨ…?」

「いや、どうみても…。」

「…うぅ、できないです、ハイ…。」

 

ガキュン!

試しに左手で銃を撃ってみますが…。

弾丸は全く見当違いの方向へ。

 

ガガガン!

キンジ君も試しに撃ってみますが、距離があるので私は余裕で避けます。

………あ、これ。

 

「…せ、千日手ですね…。」

「そう、だな…。」

 

というわけで。

アリアさんに終了を告げ、このことを話してみると…。

 

「うーん、詩穂は…左手で銃を撃つ練習ね。キンジは…別のメニューにしましょうか。」

 

結局、その後。

私はただひたすらに左手で木に向かって射撃し続け。

キンジ君はアリアさんにただひたすらに小太刀の峰で殴られるという、不思議な朝練になってしまうのでした…。




読了、ありがとうございました。



今回から第二巻の内容に入っていきます。
白雪編ですね。
詩穂とどう絡ませようかちょっと悩み中だったり。

そして今回は視点変更は無しです。
思った以上に文字数が多くなってしまったので、これ以上増やすのもなんだと思って入れませんでした。
ご了承ください。


あと、戦闘シーンらしきものを最後のほうで少し書いたのですが…。
全然ダメですね。
下手くそにもほどがあります。
きちんと練習してきますね。


感想・評価・誤字脱字の指摘等をお待ちしております。
特に評価をくださると大変励みになります。

低い評価ならもっと頑張ろうと思いますし、高い評価なら単純に嬉しいです。
…評価って良くできたシステムだな、とこのごろ良く思います。

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