緋弾のアリア 残念な武偵   作:ぽむむ@9

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第11話です。


前回から更に見やすくするため、視点変更システムの表示を更に簡易化させました。

…わかりづらくなっていたら申し訳ないです。

本当に文章力が欲しい…。


第11話 しんゆうをたよりましょう

慎重に1階のバーへと続く階段を降ります。

 

着くと同時に、目に入るものは…。

巨大なシャンデリア、そして誰もいないカウンター。

そして、そのカウンターに腰掛ける先程のアテンダントさん…。

 

「…な、なんで…。」

 

アリアさんが拳銃を構え、警戒しつつ呟きます。

彼女は、なぜか武偵高の制服を着ていました。

…フリフリのかわいらしいフリルのついた、改造済みの制服。

 

まるで、理子ちゃんのような改造制服。

 

「今回も、キレイに引っかかってくれやがりましたねぇ。」

 

そういうと、アテンダントさんは漫画等でよくあるような薄い特殊マスクをビリビリと剥ぎました。

…その、仮面の下の顔は。

 

「…理子ちゃん!?」

「Bon soir.」

 

理子ちゃんはフランス語で「こんばんは」と言うと、ニヤリ、と笑いました。

…そんな、バカな…。

色々とありえない…いえ、信じたくない今の状況に頭が混乱します。

 

確かに、理子ちゃんを心の奥底では少しだけ疑っていました。

でも…その可能性は低いから無視していた…いえ、無視しようとしました。

 

私の親友が、こんなことするはずが無い。

彼女は態度こそふざけてはいますが、本当は友達想いで優しい子です…!

 

少なくとも、私はそう思っています…!

 

「アタマとカラダで戦う才能ってさ、けっこー遺伝するんだよね。武偵高にも、お前たちみたいな遺伝系の天才がけっこういる。でも…お前の一族は特別だよ、オルメス。」

 

理子ちゃんは混乱する私たちを置いて、なにやら場にそぐわないおかしなことを言い始めました。

 

いつもの理子ちゃんでは出さない、冷たい視線をアリアさんに向けて。

 

オルメス…。

いえ、『holmes』…!!

ホームズのフランス読み…!?

フランス語ははじめに来る「h」は発音せず、それ以外を基本的にはローマ字読みします。

 

つまり理子ちゃんは、先程の「こんばんは」も含めフランス語を習っているもしくはフランスに住んでいたという可能性が…。

って、今はそんなことを推理している場合ではありません!

 

『オルメス』と呼ばれたアリアさんは、驚き硬直しています。

 

「あんた…一体…何者…!」

 

理子ちゃんはもう一度ニヤリと笑います。

 

「理子の本当の名前はね…。理子・峰・リュパン4世。」

 

…リュパン。

フランスの大怪盗、アルセーヌ・リュパン…!

 

まさか、理子ちゃんはアリアさんがホームズの子孫であるように…!

 

アルセーヌ・リュパンの4世…曾孫だというのですか…!?

 

「でも…家の人間はみんな理子を『理子』とは呼んでくれなかった。お母様がつけてくれた、このかっわいい名前。呼び方が、おかしいんだよ。」

「おかしい…?」

 

アリアさんが呟きます。

理子ちゃんは自分の世界に入ってしまったかのように、自分の話を始めます。

 

…おかしい、です。

明らかにおかしい。

理子ちゃんは明らかにいつもとは違う状態にあります。

その鋭い視線は、アリアさんを射抜いているようで…見ていません。

 

その瞳は虚空を…どこか遠くを見つめています。

 

「4世。4世。4世。4世さまぁー。どいつもこいつも、使用人どもまで…理子をそう呼んでたんだよ。ひっどいよねぇ。」

「そ、それがどうしたってのよ…4世の何が悪いってのよ…。」

 

アリアさんは、4世の何が悪い、と…なぜかハッキリと言い返します。

すると理子ちゃんはクワッと目を見開き、叫びました。

 

「悪いに決まってんだろ!!私は数字か!?私はただのDNAかよ!?私は理子だ!数字じゃない!どいつもこいつもよォ!」

 

理子ちゃんは突然、何の前触れも無くキレました。

しかし、やはりその瞳はアリアさんなど見ていません。

どこか遠い…遠い場所を、見ているようでした。

 

「曾お爺さまを超えなければ、私は一生私じゃない、『リュパンの曾孫』として扱われる。だからイ・ウーに入って、この力を得た…この力で、私はもぎ取るんだ……私をッ!」

 

ワケのわからない、理子ちゃんの叫び。

その目は…明らかに、狂っていました。

 

「待て、待ってくれ。お前は何を言っているんだ…!?オルメスって何だ、イ・ウーって何だ、『武偵殺し』は…本当に、お前の仕業だったのかよ!?」

 

遠山君が混乱しながらも…理子ちゃんに問いかけます。

理子ちゃんは心底どうでもよさそうに遠山君を見据えました。

 

「……『武偵殺し』?ああ、あんなのプロローグを兼ねたお遊びよ。本命はオルメス4世…アリア。お前だ。」

 

オルメス4世。

それはすなわち、アリアさんがホームズ4世…つまり、ホームズの曾孫であるということ。

 

理子ちゃんの独り言のような話は続きます。

 

「100年前、曾お爺さま同士の対決は引き分けだった。つまり、オルメス4世を斃せば、私は曾お爺さまを超えたことを証明できる。キンジ…お前もちゃんと、役割を果たせよ?」

 

今度はその狂った瞳を遠山君に向けました。

いつものように、キーくん、とは呼ばずに。

 

今の理子ちゃんはまるで他人のように思えました。

 

「オルメスの一族にはパートナーが必要なんだ。曾お爺さまと戦った初代オルメスには、優秀なパートナーがいた。だから条件を合わせるためにお前らをくっつけてやったんだよ。」

「俺と茅間とアリアを…お前が?」

「そっ♪」

 

オルメスのパートナー。

初代オルメス…すなわち、シャーロック・ホームズにはかつて優秀なパートナー…J・H・ワトソンがいました。

 

つまり、理子ちゃんは条件を合わせた。

シャーロック・ホームズとアルセーヌ・リュパンの対決を、ここでもう一度やろうというのでしょうか…!?

 

最後の「そっ♪」だけは一瞬理子ちゃんの調子に戻りました。

この様子から察するに…今までの明るいムードメーカーである彼女は、理子ちゃんの仮面に過ぎなかったのでしょう。

 

現在の少し怖い話し方をする理子ちゃんこそが、本来の彼女。

 

「キンジのチャリに爆弾を仕掛けて、わっかりやすぅーい電波を出してあげたの。」

「…あたしが『武偵殺し』の電波を追ってることに気付いてたのね…!」

「そりゃ気付くよぉー。あんなに堂々と通信科に出入りしてればねぇー。でも何を警戒したのか、くっつききらなかったから…バスジャックで協力させてあげたんだぁ。」

 

…アリアさんの目の前のことしか見ない性質が利用されていたわけですね…。

アリアさんは悔しそうに歯軋りしながら、理子ちゃんを睨みます。

 

「バスジャックもかよ…!?」

「キンジぃー。武偵はどんな理由があっても、人に腕時計を預けちゃダメだよ?狂った時計を見たら、バスに遅刻しちゃうぞー?」

 

…遠山君の腕時計の件も、何らかの細工を理子ちゃんは施していたようです。

遠山君が7時58分のバスに乗るように、あわよくば乗り遅れるように…!

 

全てが、理子ちゃんの手のひらで踊らされていた…というわけですか。

 

「何もかも…お前の計画通りだったってワケかよ…!」

「んー。そうでもないよ?バスジャックまで起こさないとくっつききらなかったのは意外だったし…何より、詩穂。お前だよ。」

「…私、ですか?」

 

その狂った瞳は、今度は私を見据えました。

 

「オルメスのパートナーは1人でいい。でもお前はいちいち絡んできやがって…。」

「り、理子ちゃん…。」

「お前はッ!家でおとなしくしてりゃ良かったのによ!出てくんじゃねぇよ!」

 

怒りのこもった目で怒鳴られます。

その目は心底、怒りと…悲しみに、包まれています。

その目に圧倒され、私はもう何も言えなくなってしまいました。

 

「…くふふっ。まあいい。もうどうでもいいさ。私がキンジのお兄さんをやったように、すぐにアリアも片付けてあげる。」

 

「……兄さんを、お前が…お前が…!?」

 

途端に、遠山君が今度は狼狽し始めました。

そして、どんどん…その目は、理子ちゃんと同じように怒りに満ちていきます。

 

「くふ。ほら、アリア。パートナーさんが怒ってるよぉー?一緒に戦ってあげなよー!」

 

理子ちゃんが、アリアさんをも挑発します。

遠山君の顔にどんどん余裕が無くなっていきます。

 

「キンジ。いいこと教えてあげる。あのね。あなたのお兄さんは…今、理子の恋人なの。」

「いいかげんにしろ!」

 

遠山君がついに大声を上げました。

…あんな理子ちゃんも見たことはありませんでしたが…こんな遠山君も、見たことはありませんでした。

アリアさんも面食らいながら遠山君を制します。

 

「キンジ!理子はあたしたちを挑発してるわ!落ち着きなさい!」

「これが落ち着いてられるかよ!」

 

ダメです。

遠山君はすでに半分我を失っている状態のようです。

遠山君がベレッタの引き金を…まさに引く!

 

……その瞬間。

 

飛行機が、ぐらりと大きく揺れました。

 

「!」

「おーらら♪」

 

そしてほぼ同時に。

ガギュン!と音が鳴り響きました。

 

今の一瞬で。

理子ちゃんは今その手に握るワルサーP99で、遠山君のベレッタを弾き飛ばした…ようです。

 

遠山君が一瞬の出来事で唖然とする中。

 

「ノン、ノン。ダメだよキンジ。()()お前じゃ、戦闘の役には立たない。それにそもそもオルメスの相棒は、戦う相棒じゃないの。パンピーの視点からヒントを与えてオルメスの能力を引き出す。そういう活躍をしなきゃ。」

 

…なんでしょう。

今の発言には、引っかかることが…。

 

その隙にアリアさんが飛び出しました。

理子ちゃんに向かってロケットのように突っ込んでいきます。

 

2人とも…銃を構えています。

武偵同士の戦いでは、銃は打撃武器です。

 

防弾服に銃弾を撃ち込むと、とんでもない衝撃としてダメージが入ります。

そして、武偵法9条…武偵はいかなる状況においても人を殺してはならない。

 

このふたつの特殊条件によって…近接での銃撃戦は、すなわち格闘に近いものとなります。

 

アリアさんは2丁拳銃、対して理子ちゃんはワルサー1丁のみ。

明らかにアリアさんが有利…!

 

「アリア。2丁拳銃が自分だけだと思っちゃダメだよ?」

 

しかし、理子ちゃんはスカートの中からもう1丁ワルサーを取り出しました。

 

アリアさんと理子ちゃんの、一瞬の戦いが始まりました。

 

アリアさんは理子ちゃんの腕をはじき、射撃を躱し、次々に位置を変えながら理子ちゃんを撃ちます。

理子ちゃんも同様に、アリアさんを狙います。

 

くるくると位置を変えて。

2人が回りながら戦う。

 

まるで、ダンスのようでした…。

 

その勝負は、一瞬で決着しました。

アリアさんが理子ちゃんの懐に潜り込み、理子ちゃんの腕を脇で抱え込むように拘束します。

 

「キンジ!詩穂!」

 

理子ちゃんはアリアさんの拘束を解けません。

…どうやら勝負あったようです。

 

遠山君がバタフライ・ナイフを構え、理子ちゃんを警戒しつつ近づいていきます。

私は…やはり、その場から一ミリも動けませんでした。

 

「双剣双銃…奇遇よね、アリア。」

 

不意に。

理子ちゃんが口を開きました。

 

「理子とアリアは色んなところが似てる。家系、キュートな姿、それと…2つ名。」

「?」

「私も同じ名前を持ってるのよ。『双剣双銃(カドラ)の理子』。でもね、アリア。」

 

…思わず、遠山君の足が止まりました。

…驚愕。

目の前の光景に、唖然とします。

 

「アリアの双剣双銃は本物じゃない。お前はまだ知らない。この力のことを…!」

 

…理子ちゃんの髪が。

 

……動いた。

 

まるで意思を持っているかのように。

ツーテールにまとめてあるその長い金髪のテールの片方が…理子ちゃんの背中に隠してあったであろうナイフを持ち…。

 

シャッ!

 

アリアさんを、斬りつけました…!

 

「!」

 

アリアさんは驚きつつもその一撃を躱したものの…。

 

ザシュッ!

 

「うあっ!」

 

もう片方のテールに同じように握られたナイフに、斬られてしまいました。

こめかみより少し上…側頭部から血を流し、アリアさんが大きく後にのけぞります。

 

「あは…あはは…曾お爺さま。108年の歳月は、こうも子孫に差を作っちゃうもんなんだね。勝負にならない。コイツ、パートナーどころか、自分の力すら使えてない!勝てる!勝てるよ!理子は今日、理子になれる!あは、あはは、あははははは!」

 

理子ちゃんはまた狂ったように叫びながら、アリアさんを髪で突き飛ばしました。

 

「アリア……アリア!」

 

遠山君が血を流し苦しそうに呻くアリアさんに近寄ります。

 

…私は。

この場から、動けない。

声も上げられない。

 

ただ…圧倒され、怖気づき、立っているだけでした…。

友達が、やられてしまったのに。

でもそれをやったのもまた私の友達で…。

 

頭が混乱します。

何も、何もかもが遠い世界の出来事に感じます。

 

…どうして。

どうして、理子ちゃんは笑っているのでしょう?

どうして、アリアさんは苦しそうにしているのでしょう?

どうして、遠山君はアリアさんを抱えて逃げてしまおうとしているのでしょう?

 

わからない。

わからない。

何も、わからなくなっていきます…。

 

 

……茅間!早く来い!殺されるぞ!

……あははは!この狭い狭い飛行機の中、どこへ行こうっていうのー?

 

 

声が、聞こえます。

でも処理できません。

私は、どうすればよいのでしょうか?

 

わからない。

わからない。

わかりません…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、数瞬にも、数時間にも感じられました。

ふと、我に返ります。

 

…違います。

私のするべきことは、疑問を持つことでも、突っ立っていることでもないはずです。

 

動け…!

動け……!!

 

「……り、こ、ちゃん…。」

「…何?」

 

やっと絞り出せた声は、ひどく弱弱しいものでした。

理子ちゃんは面倒くさそうにこっちをジロリと睨みます。

 

怖い。

でも…戦わなきゃ。

友達を…助けるために!

 

「…私は、もう逃げません。今まで立ってただけだったけど、もうおしまいです、理子ちゃん。」

「…だから?なんだっての?私を止めようっての?何の力も…無いくせに。」

 

理子ちゃんはその狂った瞳を向けつつ、ダルそうに答えます。

…それでも。

言葉は届くと信じて。

 

「…私の知っている理子ちゃんは、友達想いで、優しい人です。いつも周りの皆に元気を振りまいてくれる…凄い人です。」

「…はぁ?」

 

理子ちゃんは私の突拍子も無い発言に、声を上げます。

 

「だから…今あなたは、自分を押し殺して、1人で抱え込んで…戦っているんでしょう?」

「ッ!」

 

これは…賭け。

私は何もわからないけど、今さっきまで理子ちゃんが叫んでいた内容に合わせて…。

それっぽい抽象的な言葉で…カマをかける。

 

人間心理というのは不思議なもので、たとえあまり関係の無いことだとしても…自分の気にしていることがあると色々な内容を結び付けてしまうものです。

そして、怒りで単調になっている人間は…このトリックに引っかかりやすい。

 

私は理子ちゃんの叫んでいた言葉を、言葉を変えて理子ちゃんに言うだけ。

これだけで、カマをかける…。

とんでもなく危険な賭けです。

バレたら最後。

実質Eランクの私なんて一瞬で戦闘不能です。

 

「お前に…お前に、何がわかるッ!」

「わかりますよ、あなたのことは…。1年もそばにいたんですから。」

 

…まだ、大丈夫。

まだいけるはずです…。

 

「私は理子ちゃんの味方ですよ。いつまでも…理子ちゃんの、親友です。」

「…う、っく…!」

 

明らかな動揺。

そして、私はこの賭けに勝機を見出しました。

理子ちゃんの目が…一瞬、狂っていない、いつもの目に戻ったからです。

 

「…うう、でも…こんなことでは立ち止まっていられない…!私には、これしかないんだ…!」

「本当に?本当に、そうなんですか?」

 

私は助ける。

友達を…。

私の最高の親友を、助ける!

 

「他に方法があるかもしれません。最高の突破方法を思いついていないだけかもしれません。私が…一緒に、探してあげます。」

「うあ、あ…!黙れ、黙れ…!」

 

「私は、いつでもあなたの味方ですよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩穂→理子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はとうとう倒した。

オルメス4世を…倒した。

 

これで私は、曾お爺さまより優れていることが証明できたはず。

アリアには悪いけど…私の自由のために、死んでもらおう。

 

「……り、こ、ちゃん…。」

「…何?」

 

逃げる2人を追おうとすると…立ったまま呆然としていた詩穂が、声を上げた。

 

「…私は、もう逃げません。今まで立ってただけだったけど、もうおしまいです、理子ちゃん。」

「…だから?なんだっての?私を止めようっての?何の力も…無いくせに。」

 

なんだ?

私の邪魔をしようというのだろうか?

 

コイツは…コイツには、手を出したくないなぁ…。

私の独りよがりな戦争に、巻き込みたくない。

 

 

「…私の知っている理子ちゃんは、友達想いで、優しい人です。いつも周りの皆に元気を振りまいてくれる…凄い人です。」

「…はぁ?」

 

詩穂は、急になにやら言い出した。

あまりにも今の状況にそぐわない発言に、私は眉をひそめる。

 

「だから…今あなたは、自分を押し殺して、1人で抱え込んで…戦っているんでしょう?」

「ッ!」

 

急に。

詩穂は、核心を突いてきた。

 

…バカな、私の目的が…バレている!?

いや、そんははずはない!

 

…だが、今の発言は明らかに…!

 

混乱する。

私は叫んだ。

 

「お前に…お前に、何がわかるッ!」

「わかりますよ、あなたのことは…。1年もそばにいたんですから。」

 

こいつ…!

不意に、一瞬だがそれでも楽しかった日々を思い出した。

詩穂との…幸せな、日常を。

 

「私は理子ちゃんの味方ですよ。いつまでも…理子ちゃんの、親友です。」

「…う、っく…!」

 

親友。

詩穂は、私の味方…?

そうかもしれない。

そう、なのかな…?

 

「…うう、でも…こんなことでは立ち止まっていられない…!私には、これしかないんだ…!」

「本当に?本当に、そうなんですか?」

 

詩穂は問いかける。

私に、本当にその選択は正しかったのかと、問いかける。

 

「他に方法があるかもしれません。最高の突破方法を思いついていないだけかもしれません。私が…一緒に、探してあげます。」

「うあ、あ…!黙れ、黙れ…!」

 

詩穂は言う。

頼ってもいいのだと。

助けてあげる、と。

私はあなたの味方だよ、と。

 

アイツを…アイツの呪縛から逃れられる、方法が他にもあるのか?

わからない…でも、もう苦しいから何とかしたい。

助けて欲しい。

 

でも…。

 

「私は、いつでもあなたの味方ですよ。」

 

巻き込むわけには、いかないんだ…!

大切な友達だからこそ、私を案じてくれるからこそ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理子→詩穂

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うあああああああああああああああああ!!」

 

理子ちゃんは、正気を取り戻した目で。

それでも大きく、大きく…叫びました。

 

「り、理子、ちゃ…。」

「詩穂…。お前には頼れない。お前だけは巻き込みたくなかったんだ…。だから…。」

 

理子ちゃんはこちらに向かって、走りこんできます。

あっという間に距離を詰められ…。

 

「ごめんね。」

 

ガスッ!

 

腹部を強く殴られ…。

私は気絶してしまいました…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を、覚まします。

立ち上がると体がひどくふらつきました。

 

た、たしか…。

理子ちゃんの説得に失敗して、私は気絶させられて…。

 

そうです!

理子ちゃんは?

アリアさん、遠山君は一体?

 

しかし…体がひどくふらついて、思うように歩けません。

赤い非常灯が点灯する中、私はふらふらと歩いて階段方向へと向かうと…。

 

「…あ。」

「……あ。」

 

階段から降りてきた理子ちゃんと、バッタリ遭遇しました。

なぜか、彼女のツーテールは短くなっています…。

 

…じゃなくて!

 

「…ごめん、詩穂。」

「みゃぁぁあぁ!」

 

ボーっとしていた私は、理子ちゃんに手際よく手足を拘束されてしまうのでした…。

 

その後。

マヌケなことに、理子ちゃんに手足を縛られて体育座りをさせられた私は理子ちゃんとお話しすることにしました。

理子ちゃんはなにやらペタペタと壁に粘土状のものを貼っていました。

 

「…理子ちゃん、私は…。」

「うん。もういいの。私の決めた道だから。詩穂を…巻き込めないよ。」

 

ああ…。

本当に優しい人です…。

 

「詩穂はもう、半分巻き込まれちゃったかもしれない。だから…今だけ、私の本音を聞いて。」

「……はい。」

 

理子ちゃんは壁に何かを貼り終わると私の前に立ちました。

…私は手足を縛られて座っているので、なんだかマヌケな光景ですが。

 

「詩穂。私は…助けて欲しい。今、すさまじい強敵と戦ってるの。」

「…はい。」

「もしかしたら、詩穂の言うとおり別の突破方法があるかもしれない。でも…やっぱり、私にも余裕ないからさ。」

 

あはは、と理子ちゃんは…いつも私に向けてくれる笑顔で語りかけます。

 

「…詩穂。もしかしたらもう会えないかもしれないけど…私ともしもう一回会えたら、私を…助けて欲しいな。」

「…だったら、今すぐに…!」

「いいの。今回はもう失敗みたいだから、私は逃げなきゃいけないの。だから約束して欲しい。身勝手なのはわかってる。それでも、詩穂…。これからも、ずっと、親友でいてくれる?」

 

理子ちゃんの、寂しそうな表情。

私の答えは、決まっていました。

 

「もちろんです。当たり前です。絶対です。」

「…詩穂…!」

「でも、代わりに理子ちゃんも約束してください。また…絶対に、会いましょう。また、どこかで。」

 

理子ちゃんは嬉しそうに、はは、と短く笑います。

 

「ずるいなぁ、詩穂は…。そしたら私、絶対に詩穂に頼らなきゃいけないじゃない…。」

 

理子ちゃんは本当に嬉しそうに笑うと、先程の壁に向かいます。

 

「…キンジ、悪いね。待たせて。」

「いや、俺は今来たところだから何も聞いていないよ。」

「くふっ。キンジのそういうところ、本当にだーい好き…。」

 

ふと声のしたほうを見ると…遠山君が、階段付近に立っていました。

その口調はいつものぶっきらぼうなものではなく。

 

とても甘く、優しい声でした。

 

遠山君はゆっくりとこちらに近づいてきます。

 

「キンジ。それ以上は近づかないほうがいいよー?」

 

理子ちゃんは、にぃ、と笑うと壁をちらりと見ました。

もう、私に向けていた優しい笑顔はありません。

狂った演技をする…理子ちゃんの顔でした。

 

「ご存知の通り、『武偵殺し(ワタクシ)』は爆弾使いですから。」

 

彼女の一言で、ハッとしました。

壁に貼り付けられてあるこれは…爆弾、なのでしょう。

 

「…それに、こっちには詩穂もいるよ。爆発に巻き込まれたら…詩穂もどうなるか、わかるよね?」

「ちょっ、理子ちゃん!?」

 

アレ?

私、地味にピンチですか?

私を拘束する縄はこれでもかというぐらい固く結ばれており…はずれそうにありません。

 

理子ちゃんは私の抗議の声を軽くスルーして遠山君に話しかけます。

 

「ねぇキンジ。この世の天国…イ・ウーに来ない?1人くらいならタンデムできるし、連れて行ってあげられるから。あのね、イ・ウーには……お兄さんも、いるよ?」

 

理子ちゃんが目を鋭くしながら、遠山君に問いかけます。

…遠山君は、怒気をはらんだ声で…しかし優しく、言いました。

 

「これ以上…怒らせないでくれ。いいか理子。あと一言でも兄さんの事を言われたら、俺は衝動的に9条を破ってしまうかもしれないんだ。それはお互いに嫌な結末だろう?」

 

武偵法9条。

武偵はいついかなる場合でも人を殺してはいけない…。

遠山君は、暗に理子ちゃんに殺すと言ったのです。

 

「あ。それはマズいなー。キンジには武偵のままでいてもらわなきゃ。」

 

理子ちゃんはまた少し不可解なことを言いつつも…。

自分の体を抱くように腕を組み…。

 

「じゃ、アリアにも伝えといて……私たちはいつでも、2人を歓迎するよ?」

 

……ドウッッッ!!!

 

理子ちゃんは言い終わると同時に…。

背後の爆薬を、起爆しました。

 

壁に大きな穴が開きます。

そして、理子ちゃんはこの穴から…。

 

飛び降りてしまいました。

 

「理子ちゃ…きゃああ!?」

 

理子ちゃんの名前を叫ぼうとしましたが…中断させられてしまいました。

室内にあるものが、気圧の変化により外に引きずり出されていきます…。

グラスが、布、お酒のビン…。

 

そして、手足の縛られている私。

 

「わあああああ!?」

 

必死に抵抗しますが…無駄。

私は外に放り出されて…!?

 

「本当に詩穂は、いつも危ない目に遭うね。」

 

気がついたら、遠山君にお姫様抱っこをされていました。

どうやら遠山君が私を抱きかかえて助けてくれたようです。

…あの強烈な風圧の中、私を抱きかかえて階段付近まで逃げた…!?

 

ありえません。

人間では決して出来ない…少なくとも、高校生にそんな真似が出来るはずが…!?

 

「…詩穂、君は俺をたまに見てくれないね。さびしいよ。」

「へっ?」

 

遠山君が、甘い声で囁きます。

…よくよく考えたら、私またお姫様抱っこされて…!?

 

「ほら、見てごらん。もう大丈夫だよ。」

 

遠山君の指差す方向を見ると…穴が、塞がっていました。

シリコンシートのようなものでぴったりと塞がっています。

 

窓の外を見ると…理子ちゃんが、下着姿でこちらに手を振りながら降りていくのが見えました。

…あのフリフリな制服が、パラシュートのように変形しています。

 

そして、理子ちゃんとは入れ替わりに…キラリと2つ、光が見えました。

 

次の瞬間。

 

ドドオオオオオン!!

 

強烈な衝撃が、飛行機を襲いました。

 

「……!?」

「ひゃあっ!?」

 

な、何が起きたのでしょう?

しかしそんな私を置いて、飛行機の高度はどんどん落ちていくように感じられます。

 

「……ミサイルだ。」

「え?」

「ミサイルが、この飛行機に直撃した。」

 

…そんなバカな。

ありえない、です…。

 

「そ、そんなことが…。」

「俺にもよくわからない…でも、そんな場合じゃないみたいだ。」

 

…やはり。

この遠山君は、おかしい。

いつもとは違って、冷静で状況分析力が高い。

そして、こちらを…女の子を、誘惑してくるような言葉遣い。

 

「あなたは…一体、誰ですか?」

「詩穂…。俺は、俺だよ。」

「いいえ。あなたは、遠山君であって遠山君ではありません。」

 

知りたい。

遠山君の秘密を、その正体を。

 

情報を制するものは、戦いを制するのだから。

 

「詩穂。今はそんな話をしている場合じゃないよ。」

「いいえ。そんな場合です。答えてください。あなたは…誰?」

 

…わかる。

今の私は、少しおかしい。

それでも、知識欲は…止められない。

 

あなたのことが知りたい。

…遠山君…。

 

「…詩穂。落ち着いてごらん。大丈夫。俺は、俺だよ。」

「遠山君…でも、違います。」

 

甘ったるい、声で私を宥める遠山君。

私は、少しうっとりとしてしまいましたがでも知りたい。

知りたい。

 

「…詩穂、君は俺を見てくれないんだね?」

「…え?」

「俺のことを呼んでごらん?」

 

甘い、声…。

思わず従ってしまいたくなる、声。

あう、ダメです…。

そんなに私を見つめないでください…。

 

遠山君の顔が、近い…。

 

「遠山君…。」

「違うよ、詩穂。俺の名前を、呼んでごらん?」

 

顔が熱くなっていきます…。

もう私に、知りたいという欲望は消えていました。

 

遠山君の、名前を呼ぶ…。

め、めちゃくちゃ恥ずかしいです…。

 

「き、キン、ジ、くん…。」

「…良くできたね。ご褒美に、少しだけ夢を見せてあげよう。」

 

するとすでに近かった遠山君の顔が…!

どんどん近づいてきました…!

 

「あ、あう、あう…。」

「ふふ、かわいいね…詩穂は。」

 

ああ、私…。

かわいいって言われて…!?

 

「失礼するよ。」

 

チュッ。

 

私は額に一瞬の熱を感じて…。

 

意識をまたもや、手放してしまいました…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩穂→キンジ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミサイルの直撃を告げ、さあアリアのところに戻ろうとしたそのとき。

腕の中で、詩穂が問うた。

 

「あなたは…一体、誰ですか?」

「詩穂…。俺は、俺だよ。」

「いいえ。あなたは、遠山君であって遠山君ではありません。」

 

詩穂は問い詰めるように、俺を見つめた。

ヒステリアモードの俺に抱かれて、それでも冷静でいるなんて。

君は本当に凄いな。

 

「詩穂。今はそんな話をしている場合じゃないよ。」

「いいえ。そんな場合です。答えてください。あなたは…誰?」

 

しかし、その瞳は…。

俺を見ていない。

俺の体質を…ヒステリアモードのことを聞く。

 

詩穂は少し、混乱しているみたいだね。

いや、混乱というよりは、1つのことしか考えられない状態かな?

 

「…詩穂。落ち着いてごらん。大丈夫。俺は、俺だよ。」

「遠山君…でも、違います。」

 

クラッと来るように優しく言ったつもりだったが…。

詩穂は納得してくれないみたいだね。

 

仕方ない。

1つのことしか考えられないのなら、俺のことだけを考えてもらおう。

 

「…詩穂、君は俺を見てくれないんだね?」

「…え?」

「俺のことを呼んでごらん?」

 

顔を近づけ、耳の近くで囁く。

 

ようやく…。

その目が、俺を見てくれたね。

 

「遠山君…。」

「違うよ、詩穂。俺の名前を、呼んでごらん?」

 

詩穂の顔がぽぽぽぽ、と赤くなっていく。

かわいらしいポニーテールが腕の下で揺れる。

 

…少し反則気味だが、女の子は恥ずかしさを感じると正常な思考が出来なくなる。

恥ずかしがり屋な詩穂は、名前を呼ぶだけでも恥ずかしいんだろうな。

 

「き、キン、ジ、くん…。」

「…良くできたね。ご褒美に、少しだけ夢を見せてあげよう。」

 

詩穂には悪いが、少し寝ていてもらおう。

これ以上詩穂を、混乱させるわけにはいかないからね。

 

顔を、更に近づける。

 

「あ、あう、あう…。」

「ふふ、かわいいね…詩穂は。」

 

かわいい、と言われただけでまた顔の赤みが増す。

詩穂はそういうのに耐性が無いのかな?

それとも、初めて言われたのかな?

 

「失礼するよ。」

 

詩穂の額に、チュッ、とキスをした。

 

と同時に、ぷしゅうううう、と音を立てるように詩穂は気絶してしまった。

 

お疲れ様、詩穂。

アリアを助けるために君を置いていってしまったが…。

 

なかなか理子が来ないと思ったら、君が足止めしてくれていたんだろう?

じゃあ今度は俺ががんばらなきゃな。

 

俺は詩穂を部屋のベッドまで運び…。

 

操縦席へと、向かった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジ→詩穂

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのあと。

気を失っていた私は、気がついたら病院のベッドの上でした。

 

あとから遠山君やアリアさんに話を聞いたところ…。

 

遠山君が空き地島に無理矢理飛行機を不時着させて助かったり、テレビの取材や警察の事情聴取に私の代わりに答えてくれたりがあったらしいのですが…。

 

残念ながら私は眠っていたので、ほぼ他人事のように聞こえました。

 

しかし、やはりあの遠山君は凄いですね。

なんだかよくわかりませんでしたが、遠山君が飛行機を操縦して何とかした、というわけです。

 

 

 

しかしまぁ、病院では暇なわけで。

私は、私なりに気になることをまとめてみることにしました。

 

まず、イ・ウーについて。

もはや、人物ではないことは理子ちゃんの発言から確定しました。

そして、やはり理子ちゃんの発言。

 

『イ・ウーで得たこの力で』。

 

得た…とは、どういうことなのでしょう?

この力…とは、髪を動かすことが出来るあの不思議な力のことでしょうか?

あんな超常現象的な力を()()とは…。

…ダメです。情報不足です。

 

イ・ウー…。

ますますわけのわからない単語です…。

 

 

次に、遠山君に…いえ、あの遠山君についてです。

 

どう考えてもおかしい状態です…。

あ、あんな、かっこよくて、私をかわ、かわいいだなんて…!

 

…いえ、それは置いておきましょう。

 

またもや理子ちゃんの発言より。

 

『今のお前じゃ、戦闘の役には立たない』。

 

つまり、今のお前じゃない…あの状態での遠山君は、戦闘の役に立つ…。

 

いえ、むしろ戦闘に特化している…?

…とは、限りませんが。

しかし普段の遠山君よりも強いことは確かです。

 

そして、理子ちゃんはどうやら遠山君の秘密を…あの状態になるための遠山君の条件を、知っていたようですね。

 

ある条件を満たすと、どうしてか強くなり、かっこよくなる。

 

…今遠山君についてわかることは、このぐらいでしょうか…?

 

…うーむ、まとめてみましたが…。

大してまとまってないです。

 

そんなことも考え終わると、もうやることなど本当にありません。

私は担当のお医者さんが来るまで、ただボーっとしていたのでした…。

 

 

 

 

 

…私は、特に体に異常が無かったのですぐに退院できました。

部屋に戻ると、先に退院していた遠山君とアリアさんが部屋で話していました。

 

私が退院を告げると、2人は喜んでくれました。

…部屋が若干汚くなっていたのと、ゴミ箱にコンビニ弁当がたくさん捨てられていたのは目を瞑りましょう…。

 

さて、部屋に戻ってようやくひと段落して。

もう3日も置いてあったカレーが地味にいい感じだったので、3人での食事にしました。

 

あまり時間は経っていないはずなのに、久々に感じられた3人での食事でした。

 

「…はー。にしても、本当に今回は疲れたな。」

「そうね。あんたたちも良くがんばったとは思うわ、うん。」

 

遠山君とアリアさんが、いつものようにゆるーく会話しています。

私統計では、大体遠山君とアリアさんが会話すると60%くらいの確立で口喧嘩が起きてしまうのですが…。

 

今回は大丈夫なようです。

私もカレーを食べながら、2人の会話に参加します。

 

「そういえば、ママの公判が延びたわ。『武偵殺し』の件が冤罪だって証明されたから……最高裁は年単位で延期だって。」

「…そうですか。」

 

これでアリアさんが笑顔だったら、おめでとうございます、って言えたのですが…。

まだ解決はしていませんし、アリアさんも微妙な顔をしているので、その言葉は呑み込みました。

 

…ピピピピピ…。

 

ここで、誰かのケータイが鳴りました。

 

「…あたしだわ。」

 

アリアさんは面倒そうに立ち上がると、少し離れて電話を取りました。

 

そしてぎゃーぎゃーと、英語で会話し始めました。

 

「…そ、そういえば、遠山君…。」

「?…なんだ?」

 

私は飛行機での一件を思い出し顔を赤くさせつつ、遠山君に言いました。

 

「…そっその!こ、これからは…キンジ君、と呼んでも…いいでしょうか!?」

 

…ど、どうでしょう…!?

飛行機の一件で、私はどうも彼を意識してしまうようになりました。

 

「…?まあ、別にいいけど…。」

「うあ、あ、ありがとうございます!」

 

遠山君は…キンジ君は、了承してくれました。

…これは、進展。

 

私は、気がついてしまいました。

…私の、心に。

 

「だから…キンジ君も私のこと…詩穂、って呼んでください。」

「なっ!なんでだよ…。」

「…お願い、します…。」

 

お願いしてみました。

結構自分でもあざといとは思いましたが、上目遣いで、なるべく不安そうな声で。

 

「…わ、わかった。わかったから。…詩穂。」

「……わ、わぁ…。あ、ありがとうございます…。」

 

自分で申し出ておいて、言われるとめちゃくちゃ恥ずかしいです…。

…でも。

嬉しいな…。

 

「…あー、全くしつこいんだから。」

 

電話の終わったアリアさんが、テーブルに戻ってきました。

 

「…うん?あんたら、どうしてそっぽ向いてんのよ。」

「…い、いえ、別に…。」

 

恥ずかしくなって顔をお互いに背けてしまった私たちを見て、アリアさんは不審がります。

…し、しばらくはキンジ君に話しかけられるだけでこうなってしまいそうです…。

 

「あ、アリア。それよりも何の電話だったんだ?」

「え?ああ、うん…。」

 

キンジ君が気まずい空気を押しのけ、話題を変えました。

アリアさんも納得いかないような顔をしつつも、話題に乗ります。

 

「イギリスからよ。どうもあたしをロンドンに縛るつもりだったらしいわ。」

「縛る…?」

 

キンジ君が疑問を投げかけます。

 

「あたしはイギリスに少しだけ帰る予定だった…。でも、ロンドン武偵局はあたしをロンドンにずっといさせるつもりだったの。」

 

アリアさんはご立腹、といった風に話します。

 

「だから絶対帰ってやるもんか!って言ってきたの。それだけよ。」

「…そうか。」

 

キンジ君は、いつも通りぶっきらぼうに答えます。

…いつものキンジ君です。

…私は、きっと…。

 

「…そういえば、あんたたちはもう正式なパートナーになったんだから。伝えておくわね。」

「…何をだ?」「何をですか?」

 

アリアさんはカレーを食べ終わると、口を拭いてから衝撃の事実を告げました。

 

「あたしの本名は…神崎・ホームズ・アリア。あんたたちは、あたしのJ・H・ワトソンに…選ばれたのよ!」

「な…。」

 

突然のカミングアウトに、キンジ君は硬直します。

…でも、ごめんなさいアリアさん。

 

…私、もうそれ知ってるんですよ…。

 

ドヤァ、と効果音が付くぐらい胸を張るアリアさんと。

その事実に驚いて固まっているキンジ君。

 

……いや、どうしろと?

 

 

 

 

私は反応に困り、ただ黙々とカレーを食べ続けるのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今思えば。

理子ちゃんは、私にはじめからSOSを出してくれていたのかもしれません。

 

1人、自室の布団の上で寝転がりながら、考えます。

 

理子ちゃんは実に用意周到で、足跡を残さないように事件を起こしていました。

…それなのに、なぜわざわざ私にヒントを出すかのように、初音さんをおすすめしてくれたのでしょうか?

 

…彼女のすすめてくれた曲が、頭の中で再生されます。

 

――覚悟があるのなら パーフェクトに奪ってよ――

 

この曲は、泥棒を…恋泥棒をイメージした曲です。

 

――僕らは狼で 迷える子羊で――

 

…泥棒。リュパン4世。

あなたは…どうして、私に相談してくれなかったのですか…?

 

 

 

 

 

私はもうしばらくは会えないであろう親友を想いながら、眠りに着きました…。




読了、ありがとうございました。

今回は前回よりも更に長くなってしまいました。
読んでいて、
「あれ?この駄文いつまで読ませる気だ?」
となってしまったかもしれません。

申し訳ありませんでした。


今回はvs理子戦でした。
…しかし作者の力量不足と深夜テンションのおかげでまったくわけのわからない展開になってしまいました…。

自分でも絶賛後悔中です。何だこれ。


とにかく、これでようやく第1巻の内容は終了です。
…章分けとかもしたほうがいいんでしょうかね?


ちなみに最後に出てきた曲は勝手ながらボーカロイド曲です。
勝手に使用してしまったため怒られそうです…。



感想・評価・誤字脱字の指摘・皆様の心のこもった毒舌等をお待ちしております。

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