緋弾のアリア 残念な武偵   作:ぽむむ@9

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第10話です。



視点変更システムですが、いちいち「視点変更」と書いていくと長ったらしいので少しずつ短くしていこうと思います。

とりあえず今回の話では2文字ほど消去しました。

ご了承ください。




今回のお話は、詩穂の暴走(ちょっぴり)回です。

皆さんもゲームのしすぎには気をつけましょう。


第10話 てつやにはきをつけましょう

さて、アリアさんのドレイ宣言のあと。

 

何を血迷ったのか、3人でゲームをしていました。

ちなみに現在22時半です。

 

そんな中、モンスターをハントするアレをやっていました。

 

なんでもアリアさんが、新宿で買ってきたからやってみたいとの事です。

都合よく遠山君もPSPを持っていて、さらに都合よくソフトまで持っていました。

というわけで、アリアさんの攻略お手伝いプレイ&3人でわいわいプレイです。

 

え、私?

持っているに決まってるじゃないですか、ヤダなー。

アリアさんが買ってきたのは3rd、つまり3作目(厳密には違いますが)。

よって、ラスボスはアルバさんです。

 

今日の目標は、とりあえずアリアさんが操作に慣れる事ととっととハンターランクを上位に挑戦できるくらいまで上げることです。

 

さあ、レッツ・ハンティング!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3時間後…。

 

「…ねぇ、もうやめない…?」

「…ああ、もう寝たほうがいいんじゃないか…?」

「何言ってるんですか?まだ1時半じゃないですか。夜はまだまだこれからですよー!」

 

最初の武器を双剣(アリアさんらしいです)にしたアリアさんが、結構疲れた目でこちらに問いかけます。

遠山君も同じ意見のようですが…。

 

正直、何を言っているのかさっぱりです。

 

まだ3時間しかやってないですよ?

全然満足できません!

 

「ほら、とっとと下位ジエンなんざ倒して、上位やりましょう上位!」

「「…はーい…。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに3時間後…。

 

「…うぅ、もうほぼ徹夜じゃない…。」

「…茅間、さすがに少しでも寝たほうがいいんじゃないか…?」

「何言ってるんですか?そんなことよりせっかく上位まで進んだんですし、ハンターランク6にしましょう!」

 

遠山君の武器は太刀。

使いやすくていい武器です。

どんなヤツでも安定して狩れる、安定型の武器ですね。

 

ちなみに私はハンマーです。

そりゃ全部いけますけど、ハンマーが一番しっくり来ます。

 

「さあ、ファイトです!」

「「…はーい…。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらにさらに3時間後…。

 

…ちゅんちゅん…。

外で鳥が鳴いています。

 

「んー!9時間で上位ジエン討伐!やるじゃないですか、アリアさん!」

「…ええ、そうね…。がんばったわ、あたし…。」

「…なんで俺までこんな目に…。」

 

まあ大体私一人で狩ったようなもんですけど。

遠山君、何番にモンスターが行くかのパターンくらい覚えておいてください。

渓谷のレイアなんて終盤は8に行くに決まってるじゃないですか。

 

「さぁ、学校に行きましょう!」

「…勘弁してくれー!」「勘弁してー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、学校にて。

席についた瞬間寝てしまった二人を置いて、理子ちゃんと話していました。

 

「理子ちゃん、おはようございます。」

「おはよう、詩穂…。あの2人、どうしたの?」

「さぁ?徹夜でゲームを3人でしていただけですよ?」

「詩穂、一般人はそれ相当キツイよ…。」

 

…うーん、よくわかりません。

2人は寝言のように何かを呟いています。

 

「…くそ、紅玉出ろ、紅玉出ろ…。」

「…なんで詩穂には攻撃が当たらないの…。」

 

…まぁ、授業が始まれば起きるでしょう。

 

「で、理子ちゃん。」

「あれはほっとくんだ…。どうしたの?」

「いえ、少し気になることがあって…。場所を移してもいいですか?」

「…わかった。空き教室にでも行こうか?」

 

まだ朝のHRまで時間があります。

私と理子ちゃんは、教室を離れ適当な空き教室へと向かいました…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空き教室。

ここは使われていない教室で、大量の使えない銃や麻薬の密売人から押収した大量の麻薬等が置かれている、いわばゴミ捨て場のようなものです。

理子ちゃんと2人きりで話すとき、よく使います。

 

「…で、話ってなんなのさ?」

「…えっと…理子ちゃん、この前のバスジャックの事件、覚えていますか?」

 

理子ちゃんに、それとなく話題をふります。

私の目的、それは…。

 

「うん。結局何の証拠も見つけられなかったよねー。」

「はい。調べても何にも出てきませんでした。」

「…それがどうかしたの?」

 

理子ちゃんが、私にしか見せてくれない真剣な表情で私の問いに答えてくれます。

 

…そう、何も出てこなかったのです。

不自然なくらい、何も。

 

「…いいえ。それより、聞きましたよ。前理子ちゃんがおすすめしてくれた…。」

「ああ!あれ?あの、初音ちゃんのやつでしょ?」

「はい。とってもいい曲でしたー…。」

 

話題転換。

理子ちゃんは春休みの間、初音さんにハマったらしく妙に初音さんの曲を推してきたのです。

 

「それと、何か関係でもあるの?」

「…いいえ。関係なかったです。ごめんなさい、時間取っちゃって。」

「ううん!また今度、おすすめの曲を教えてあげるねー!」

 

そういうと、理子ちゃんは教室に走っていってしまいました…。

 

…理子ちゃんは、初音さんにハマっている。

そして、あの特徴的な声。

 

『その チャリには 爆弾 が 仕掛けて ありやがります。』

 

…最初の自転車爆発事件のときに感じた、違和感。

そうです。

春休み中ずっと初音さんの声を聞いていたから…!

 

…偶然、ですよね?

たまたま、理子ちゃんが春休みにハマったのが初音さんだったのと、『武偵殺し』が春休み明けに襲ってきたときに使った声が初音さんだった…。

それだけ、です…。

 

考えすぎですよね。

それだけな、はずです…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室にて。

4時間目までの一般科目を終え、私と遠山君とアリアさんの3人で、お昼ご飯を食べていました。

 

一般科目(ノルマーレ)

いくら武偵高といえども、ここは高等学校。

1時間目から4時間目までは普通の高校と同じように一般的な科目があります。

…まあ、お昼を食べ終わったらそれぞれの履修した専門科目の授業を受けに行くのですが…。

 

午前中の授業はほとんど寝ていたらしい遠山君とアリアさんは、それでも眠たげな顔でご飯を黙々と食べていました。

 

「…そういえば、あたし今日から少しイギリスに帰るのよ。」

「ええっ!?聞いてないですよ!?」

 

不意に、アリアさんが衝撃の事実を教えてくれました。

…な、何で今になって…?

 

「そりゃ、言ってないもの。…大丈夫よ。ほんとに少し…2週間ぐらいだから。」

「…そうですか。」

 

せっかく正式にパーティを組めたのに…。

いくらなんでも急過ぎやしませんか?

…このやり取りの間、遠山君はずっとご飯を食べていました。

…遠山君、相変わらずぶっきらぼうというかなんというか…。

 

…ピピピピピ。

 

誰かのケータイが鳴ります。

 

「…ああ、俺だ。…メール?」

 

どうやら遠山君のケータイだったようです。

ちょうどご飯を食べ終わった遠山君は、メールを確認すると苦虫を噛み潰したような顔になりました。

 

「…今日は帰りに寄るところが出来ちまった。お前らは先に帰ってくれ。」

「はぁ…。わかりました。」

 

と、私とアリアさんも食べ終わった辺りで。

 

…キーンコーンカーンコーン…。

 

チャイムが鳴りました。

…午後の授業が、始まります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視点、詩穂→キンジ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…午前の授業が終わった。

…らしい。

 

昨日の夜は茅間のせいで寝れなかったから、午前の授業はほぼ全部寝ていた。

…隣をたまに確認していたが、アリアもずっと寝ていた。

 

…茅間、今度からはもう少し自重してくれ…。

 

「…そういえば、あたし今日から少しイギリスに帰るのよ。」

「ええっ!?聞いてないですよ!?」

 

過ぎたことは仕方ないので、ちびちびと茅間の作ってくれた昼飯を食べる。

…弁当になってもこの普遍的クオリティは…恐ろしいな。

 

そんな中、アリアがなにやら突然なことを言っていた。

…が、そんなことは武偵にはよくあること。

長期のクエストになると、半年とか帰ってこないやつもザラだ。

茅間はえらく驚いているが。

 

「そりゃ、言ってないもの。…大丈夫よ。ほんとに少し…2週間ぐらいだから。」

「…そうですか。」

 

…あと少しでチャイムが鳴るな…。

早いうちに食い終わらないと。

 

…ピピピピピ。

 

ちょうど弁当を食い終わったころ、ケータイの着信音が鳴った。

…聞きなれた、俺のものだ。

 

「…ああ、俺だ。…メール?」

 

ケータイを開くと、送り主は…理子。

ちょっと嫌な予感を感じつつ、内容を見る。

 

『キーくん。授業が終わったら台場のクラブ・エステーラに来て。大事な話があるの。』

 

…普段の俺なら、スルー確定の内容だった。

しかし、理子はバスジャックの一件以来ずっとそのことを調べてくれている。

つまり、何か収穫があった、という可能性が大きい。

 

…仕方ない…か。

ぜひとも行きたくないが、今回ばかりは行かざるを得ないだろう。

 

「…今日は帰りに寄るところが出来ちまった。お前らは先に帰ってくれ。」

「はぁ…。わかりました。」

 

茅間がなんだかよくわかっていない様子で、しかし頷いた。

 

…キーンコーンカーンコーン…。

 

チャイムが、鳴った。

午後の授業が、始まる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視点、キンジ→詩穂

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリアさんは、いつ出発するんですか?」

「今から部屋に戻って、軽く準備を整えたらもう行くわ。」

「…本当に急ですね…。」

 

帰り道。

遠山君はお台場の方面にモノレールで行ってしまったため、アリアさんと2人で帰宅します。

 

…よくよく考えたら、家主が不在で居候2人が先に帰るという、おかしなことになっています…。

 

「で、でね、詩穂…実は、その、ちょっとしたミスで…その、チケットが2枚あるの。」

「…え?」

 

一瞬、何の話かわかりませんでした。

そしてすぐにイギリスに帰るための飛行機のチケットの話だとわかりました。

 

「…だ、だから…詩穂も一緒に…きっ来ても…いいのよ?」

 

顔を赤くしながら、ちらちらと様子を窺うようにこっちを見てそんなことを言うアリアさんに…。

 

「…くすっ。」

「あ!ちょっと、何がおかしいのよ!」

 

なんだか、愛おしさがわいてしまいました。

つまり、アリアさん語を翻訳すると…私のためのにチケットを取ったから、一緒に来て欲しい…って事でしょう。

 

本当に、素直じゃない人です。

 

「…わかりました。余っちゃってるのなら、私も連れて行ってもらえますか?」

「し、しょうがないわね!そこまで言うなら連れて行ってあげるわ!」

 

…というわけで。

私もイギリスに行くことになりました。

 

…遠山君に連絡しておかないとですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、部屋に戻るとアリアさん曰くあまり時間がないそうなので、すばやく荷物をまとめます。

 

私は仮にも武偵。

悲しきかな、いつ襲われてもいいように大事な荷物はしっかりまとめてあるのです。

 

向こうで着る服は…トランクに入れておきましょう。

4セットぐらいいれておけば、向こうで洗濯して使いまわせるでしょう。

 

…あとは、まあ携帯ゲーム機を3つほど持っていきましょうか。

遊び道具とパスポート、万が一のためにパスポートのコピーを肩掛けバックにいれて…。

 

「アリアさん、準備できましたよー!」

「…わかったわ。じゃあ、戸締りをしたら出発しましょうか。」

 

どうやらアリアさんも準備は完了したようです。

 

…戸締りオッケー。

私の部屋もしっかり施錠してあるのを確認して…。

 

「…さあ、空港に向かいましょ!」

「…はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

羽田空港。

平日ゆえに比較的混み合っていない第2ターミナルにて、トランクをガラガラとアリアさんと2人引きずります。

 

「…アリアさん、飛行機はどれですか?」

「ああ、言ってなかったわね。あれよ。あの…ANA600便・ボーイング737-350、ロンドン行きのアレ。」

 

アリアさんの指差す方向を見ると…確かに、電光掲示板にそう書いてありました。

…って、あの飛行機!

 

「アリアさん、わ、私たちが乗る飛行機って…あ、あの飛行機ですか?」

「……?そういってるじゃない。」

 

…なんと。

この機体は確か…。

ニュースでやっていた、通称『空飛ぶリゾート』と呼ばれる超豪華旅客機じゃないですか!

2階構造で、1階はバーに、2階は12個の個室になっています。

とてもチケット代が高く、20万はくだらないとか…。

 

「…もしかして、このチケット…。」

 

私がさっきまで平然と手に持っていたこのチケットは…!

約20万円の札束に等しい…!?

 

「うわあああ!?私、なんて物を!?」

「ど…どうしたのよ?」

 

私の明らかな挙動不審にアリアさんは戸惑います。

でもそんなことに構っている場合じゃありません!

 

私、こんなものをホイホイともらってしまいました…!

 

「アリアさん、私こんな高いものもらえません!厳しいです!」

「何言ってんのよ、このぐらいで…。」

 

このぐらい!?

そ、そうでした…。

アリアさんは『ホームズ』。

すなわち、ガチ貴族なのです。

 

アリアさんからしたら、この程度どうってこと無いのでしょう。

 

「…で、でも!やっぱりこんなのもらえないですよ!せめてお金をちゃんと払わせてください!」

「んもう!これは私のミスで一枚多く買っちゃっただけなんだから!いいから、行くわよ!」

 

そんなこんなで。

わーわーと騒ぐ私を、女の子とは思えない怪力でアリアさんはずるずると引きずって飛行機へと向かうのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機内にて。

 

「…ああ、こんなこと一生無いです…!」

 

ようやく落ち着いた私は、チケットのことはとりあえず置いておくことにしました。

…いつか、返しましょう…。

 

チケットのことが頭から消えると、今度はこんなに素敵な飛行機に乗れて嬉しくなってきました。

 

だって!

スウィートルーム!

それも最上級!

 

こんなに嬉しいことはありません!

 

テンションが上がり、部屋でクルクル回っていると…。

 

コン、コン。

部屋の扉がノックされました。

 

なんだか急に恥ずかしくなって、ちょっと顔を赤くしつつドアを開けると…。

 

「あたしよ。」

 

アリアさんでした。

 

「…どう?フライトまでもう少し時間があるし、私の部屋でトランプでもしない?」

「いいですね!行きます!」

「…もう少しテンションを下げなさいよ…。」

 

…恥ずかしいです…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フルハウスです。」

「…ま、また負けた…。」

 

アリアさんの部屋にて。

私はアリアさんとポーカーをしていました。

 

「もう一回!」

「何回でもいいですよー?」

 

…残念ながら、私は昔からトランプには自信があるのです。

どんなルールでも完全な運ゲーでなければ負けません。

 

ポーカーは、その性質上運ゲーに見えますが、どの札を捨て、どの札を引くか。

 

そのパターンさえしっかりと見極めれば、少なくとも持っている札より強い札にすることは可能です。

 

つまり、理論上相手より強い札を作ろうとすることは可能です。

 

「…フラッシュです。」

「うがーー!」

 

アリアさんがとうとう壊れてしまいました。

 

「…あ、あんた強いのね…。メヌといい勝負かも…。」

「メヌ?どなたですか?」

「あたしの妹よ。生意気だけど、かわいい妹。」

 

妹。

私は一人っ子だから、わからないなぁ…。

 

「つ、次はスピードで勝負よ!」

「いいですよー。」

 

そうしているうちに、フライト時間は迫っていくのでした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…機体が上空に出ます。

ベルトの着用サインが消え、もう一度アリアさんの部屋に行きましょうと立ち上がります。

…部屋に入ると、同じく座席から立ち上がりベッドの上で1人ポーカーをしていました。

 

「…あら、もう来たの?」

 

アリアさんは私に気付くと、トランプを片付けます。

…あれ?

 

「片付けちゃうんですか?」

「…うん、もうトランプはいいかな…。」

 

アリアさんはどこか疲れた表情でそういいました。

…やりすぎちゃいました…?

 

するともうやることは無いので、2人でトークすることにしました。

2人でベッドに腰掛け、ガールズトークに興じます。

 

「…キンジってさー、そもそも女心がわかってないのよ。」

「わかります…。いくら女嫌いでも、言って良いことと悪いことがあります。」

 

始業式の日の、2人乗りを思い出します。

…女の子に向かって『重い』はちょっと無いです。

 

「…でさー、あの時…。」

「あはは…それは無いですー…。」

 

しばらく2人で遠山君の陰口と叩いていると…。

 

…ガチャッ。

 

不意に、ドアが開きました。

そこに立っていたのは…あろうことか、遠山君でした。

 

「……キ、キンジ!?」

「……遠山君!?」

 

アリアさんと声がかぶるように驚きます。

…そもそも、彼がここにいるはずがありません。

彼は、日本にいたはずなのですから…。

 

「な…なぜ遠山君がここに?」

 

なんとか冷静さを取り戻し、遠山君に尋ねてみます。

遠山君はその質問の回答を用意しておいたのか、すぐに答えてくれました。

 

「武偵殺しの一件が、進展したからな。」

「ほんと!?」

 

この言葉にいち早く反応したのは、やはりというべきかアリアさんでした。

 

「どんな!どんなことがわかったの!?」

「お、落ち着けアリア…。」

 

誰が見ても興奮状態にあるアリアさんを、遠山君は宥めています。

 

「落ち着いてなんかいられないわ!」

「いや、だから話すから落ち着けって…。」

 

…アリアさんは落ち着きません。

それどころか、遠山君に掴み掛かる勢いです。

 

そして、とうとう遠山君にアリアさんが飛びかかろうとした刹那。

 

ガガーン!ガガーン!

 

雷の音が、鳴り響きました。

 

「ひゃうっ!?」

「きゃあっ!?」

 

叫び声があがります。

…前者はアリアさん。後者は…私です。

 

お恥ずかしながら、私はどうも雷が苦手で…。

ていうか近くなかったですか今の!?

 

つ、墜落しちゃったらどうしましょう…!

 

アリアさんと2人、抱き合ってガクガク震えていると…。

 

「…お前ら、怖いのか?」

「こ、怖くなんか」

「怖いです!雷やですー!」

 

ガガガーーーン!!

 

…このあたりで、私は恐怖で思考回路が止まってしまいました…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視点、詩穂→キンジ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとかギリギリ飛行機に乗り込めた俺は、小柄なアテンダントに案内してもらいアリアの座席…というか個室に向かった。

 

…しかしまぁ、なんで茅間まで…!

ここまでくる途中、ケータイに茅間から連絡が入っていた。

 

曰く、私もイギリスに行くことになりました、と。

 

他にも堅苦しく色々書かれていたが、要約するとそんな感じだ。

 

そういうわけで茅間も飛行機に乗り込んでいるわけだが…それに関しては運が良かったな。

相手は『武偵殺し』。

こちら側には少しでも戦力があったほうがいい。

 

…はたして、兄さんを倒してしまった『武偵殺し』相手に茅間や俺を戦力として数えてもいいのかどうか微妙だが…。

 

そうこうしているうちに、アリアの個室に到着した。

…アテンダントの説明によると、茅間の部屋は向かいの部屋らしい。

 

さて、とにかくアリアたちに接触しなければ。

 

ガチャッ。

 

俺は、ノックもせずに部屋に入った。

 

「……キ、キンジ!?」

「……遠山君!?」

 

2人は俺が急に入ってきたからか、とても驚いている。

そんな2人だが…ベッドに腰掛けて、2人並んでいる。

 

こうしてみるとどちらもミニチュアサイズな身長に加えてかわいらしい顔をしているから、まるで人形みたいだな。

 

「な…なぜ遠山君がここに?」

 

やはりというべきか、先に驚きから帰ってきたのは茅間だった。

俺の勝手な推測だが…茅間は本当はとても頭のキレるヤツなのではないか、とこのごろ思う。

 

俺は茅間の質問は想定済みであり、そのために用意した台詞を言った。

 

「武偵殺しの一件が、進展したからな。」

「ほんと!?」

 

次に俺の言葉に反応したのはアリアだった。

当たり前だ。

アリアは、何よりも『武偵殺し』を…かなえさんを助けるために、捕まえようとしていたからな。

 

「どんな!どんなことがわかったの!?」

「お、落ち着けアリア…。」

 

…だが、その食いつきは予想以上だった。

前回のバスジャックで何もわからなかったから、焦っているのか?

 

「落ち着いてなんかいられないわ!」

「いや、だから話すから落ち着けって…。」

 

…ダメだ。

がう!と仔ライオンのように吠え立てるアリアは…興奮している。

今にも飛び掛ってきそうな迫力を出している。

 

ガガーン!ガガーン!

 

そんな中、雷が鳴り響いた。

かなり近い。

飛行機は雷雲のすぐそばを通っているようだ。

 

「ひゃうっ!?」

「きゃあっ!?」

 

叫び声があがる。

…ふたつ。

 

片方はカメリアの瞳をまん丸に見開いて、見るからにビビッているアリアの声だ。

もう片方は…茅間の声。

 

こいつら…まさか。

 

「…お前ら、怖いのか?」

「こ、怖くなんか」

「怖いです!雷やですー!」

 

アリアが叫び声を隠すように弁解しようとするが…茅間がそれを遮る。

よほど怖いのか、アリアのことを抱きしめてガクガクと震えている。

 

ガガガーーーン!!

 

また近くで、大きめに雷が鳴った。

 

「みゃぁぁぁぁ!!」

 

茅間は一際大きな叫び声を上げると、ダブルベッドの布団に潜ってしまった。

お前は猫か。

 

しかしまあ、茅間は置いておいてアリアまでもが雷が苦手とは…。

これはなかなかいいネタをもらったぞ。

あとでバカにしてやろう。

 

「ちっちが!詩穂はビビッてるけど、あたしは別にっ!」

 

ガガガーーン!!

 

「~~~!!き、きんじぃ~~~!!」

 

とうとう堪えきれなくなったのか、俺の袖を掴んできた。

そんないつもとは違ってしおらしいアリアに戸惑いつつ、俺はテレビのスイッチを入れた。

 

「ほ、ほら。テレビでも見てりゃ落ち着くだろ?」

 

チャンネルを適当に回していると…。

どうやら、時代劇のチャンネルらしいものがあったのでそこで止める。

 

「この桜吹雪、見覚えがねぇとは言わせねえぜ…!」

 

おっと、これは俺のご先祖様の…名奉行・遠山の金さんを描いたチャンバラだな。

彼もヒステリアモードの血が通っていたのか…他人にもろ肌を見せることで興奮したらしい。

…こんな人が先祖か…。

 

ガガーン!

 

また、雷が鳴る。

アリアがきゅっ、と袖を握るのと同時に…。

 

「みゃぁああ!みゃぁあぁぁ!!」

 

布団から、茅間が飛び出してきた…!

そしてその勢いのまま…。

 

ぎゅっと、俺に後ろから抱き着いてきやがった…!

 

「と、とおやまくん…!たすけてぇ…!」

 

どこか話し方が幼稚になった茅間は、俺を掴んで離さない。

…当たる胸が無いのが救いか、俺はギリギリヒステリアモードになるのを踏みとどまる。

 

「ちょ、ちょっと詩穂!アンタなんてことを…!」

 

ガガーン!ガガーン!

 

アリアの叫び声に合わせるかのように、雷が鳴った。

 

「きゃあ!」

 

短い叫び声をあげて、アリアも…!

俺に、抱きついてきやがった…ぞ…!

 

前後から、柔らかい女の子特有の腕が、胴体が、俺に押し付けられる…!

 

「…お、前ら…っ!離れやがれ…!」

「みゃああ!みゃああ!」

 

もはや茅間に関しては、人語を話してくれない。

アリアもアリアで、ビビッて手が硬直してるかのように硬く俺に抱きついてくる。

 

ああ、くそ…!

もうだめだ…!

 

パン!パァン!

 

 

 

 

 

…銃声。

機内に先程の雷の音とは全く異なる、音が響き渡った。

沸騰しそうだった頭を冷やすには、充分な効果音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視点、キンジ→詩穂

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パン!パァン!

 

…銃声が、鳴り響きました。

雷のせいでふわふわした頭を、現実に引き戻すにはいい薬になりました。

 

…そしてすぐに。

 

「わああ!わた、私、何で抱きついて!?」

 

なぜか遠山君に抱きついていることに気がつきました。

 

「…茅間、お前な…。」

「す、すみません!こんな真似をしてしまって…!」

 

…残念ながら、記憶が無いので私が何をしでかしてしまったのかわかりません。

とりあえず謝っておきました。

 

「…お前…まあいい。許してやる。」

「あ、ありがとうございま…す?」

「アンタたち、アホな事してないでとっとと外を確認するわよ!」

 

アリアさんはすっかり武偵の顔になって、私達に指示を出します。

 

そうでした。

なぜか機内で聞こえた銃声…。

それを確認しなければなりません!

 

 

 

 

狭い通路に出ると、乗客の皆さんがわーわーと騒ぎ立てていました。

無理もありません。

一般人の皆さんは、銃声とは無関係な日々を送ってきたのですから。

 

そんな中、銃声のした機体の前方を確認すると…。

 

「!」

 

隣で遠山君が息を呑む音が聞こえました。

そこには、小柄でいかにも無害そうな顔のアテンダントさんが…。

 

機長さんと副操縦士さんを両手に引きずって、操縦席から出てきました。

 

「……動くな!」

 

最も早く動けたのは遠山君でした。

遠山君が拳銃を抜いてアテンダントさんを牽制しようとしますが…。

 

「Attention please.でやがります。」

 

英語で「お気をつけください」と笑顔で言った後、懐から何かをこちらへと放り投げました。

 

シュウウウウ……!!

 

この音…!

強襲科で何度も聞いた、恐怖の音…!

 

ガス缶!?

 

「…みんな部屋に戻れ!ドアを閉めろ!」

 

遠山君は乗客皆に叫びながら、私とアリアさんを押し込んで部屋に戻ります。

 

ドアを閉めた刹那。

ボンッ!

と大きめな音とともに、飛行機が揺れました…。

ばちん、と飛行機の照明が消え…。

今度こそ、大パニックになりました…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い非常灯が即座に点灯します。

 

「…キンジ!大丈夫!?」

 

アリアさんは最もガス缶の近くにいた遠山君の体を心配します。

 

「…大丈夫そうだ。それより、あのフザケた喋り方…やっぱり、出やがったか。あいつが『武偵殺し』だ。」

「…やっぱり?…アンタ、『武偵殺し』が出ることわかって…。」

 

遠山君は自身の無事をアリアさんに伝えると…なにやら、この飛行機に『武偵殺し』が出ることを予測していたようなことを言いました。

 

「遠山君、それは一体どういう…?」

「…落ち着いて聞いてくれ。特に…アリア。」

 

遠山君の推理は、こんな内容でした。

 

『武偵殺し』の起こした事件を時系列順に並べると。

 

バイクジャック。

カージャック。

シージャック。

自転車ジャック。

バスジャック。

 

遠山君が言うには、シージャックの事件で1人の武偵がやられた。

でも、アリアさんはシージャックなど知らなかったようです。

 

つまり、『武偵殺し』がいつも出していた電波を出していなかった。

これの意味するところは…遠隔操作を行っていなかった、ということ。

そのある武偵は、直接対決で仕留められた、と遠山君は言うのです。

 

そして新たに、ジャックするものが自転車に一旦小さくなる。

そして、バスジャックと大きくなる。

そして…現在の状況。

ハイジャック。

 

これはメッセージ。

そのある武偵を3件目で仕留めたように…。

アリアさんと、この3件目の事件で直接対決するつもりなのだ、と…。

 

遠山君の、いつもの遠山君とは思えないくらいの筋の通った推理。

失礼ですが、とても論理的でいつもの遠山君の考えたものとは思えません。

 

…ここでふと、体育倉庫前での遠山君を思い出します。

彼は…。

遠山君は、一体何を隠しているのでしょう…?

 

「…と、いうわけだ。」

 

遠山君が話し終えると共に、ベルトの着用サインが不規則に点滅し始めました。

 

ポポーンポポポン。ポポーン。ポポーンポポーンポーン…。

 

「和文モールス…。」

 

アリアさんが呟きます。

もちろん和文モールスの解読は日本の武偵の必須スキル。

私は、ピコピコと光るそれを解読しました。

 

オイデ オイデ イ・ウー ハ テンゴク ダヨ

オイデ オイデ ワタシ ハ イッカイ ノ バー 二 イルヨ

 

「…誘ってやがる。」

「上等よ。風穴開けてやるわ。」

 

私はいきり立つアリアさんを見ながらも、頭ではまったく別のことを考えていました。

 

…イ・ウー。

またその単語。

天国だよ…ということは、イ・ウーという場所なのでしょう。

それがどのような場所かまではわかりませんが、イ・ウー人間説は消えました。

…かなえさんとアリアさんの対話から推理すると、おそらく『武偵殺し』もそのイ・ウーに住んでいる…少なくとも、関係しているはずです。

 

それとも…イ・ウーという組織名なのでしょうか?

そうであったとすると、かなえさんを複数人で追い込んだのも組織のトップのような人物がそう命じたと考えれば納得がいきます。

 

…つまり、もし仮にイ・ウーが組織だとすると…。

 

犯罪組織に他なりません。

 

アリアさんは…。

たった1人で、犯罪組織を相手にしようとしていたということですか…!?

 

…まだ、確定ではありません。

 

もしかしたらイ・ウーという地名なのかもしれません。

人物名である可能性もゼロではありません。

 

…でも、たとえどんな相手でも…。

私は、アリアさんの力に、なってあげたいな…。

 

「…どうしたの、詩穂?行くわよ。」

「へ?あ、ハイ。」

 

考え事をしていたら、アリアさんに心配されてしまいました。

…いけない癖ですね。

 

「私は大丈夫です。いきま」

 

ガガーン!!

 

 

「きゃっ!」「みゃああ!」

 

突然の雷鳴に声を上げてびびる私たち2人を見て、遠山君はただただ不安そうな顔を見せるのでした…。




読了、ありがとうございました。



今回のお話はいつもより少々長めでした。
だって切る場所がなかったんだもん…。

今回のお話の中心は詩穂でした。
詩穂の暴走、詩穂の圧倒的洞察力、詩穂のびびりな一面…。
下手な文章のせいで伝わりにくいとは思われますが、詩穂のかわいさが伝わったのならこの上なく嬉しいです。


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