緋弾のアリア 残念な武偵   作:ぽむむ@9

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第1話です。
主人公がうまく書けているか不安です。


がーる・みーつ・ぴんくがーる
第1話 わたしはぶていです


ぴりりりりり…。

少し大きめな、目覚ましの音。

けれども部屋の外までは届かないくらいの、そんな音が鳴り響きます。

 

「うぅん…」

 

しばらく音を聞いていると…なんだか音に慣れて、また眠くなってしまいそう。

 

…でも、起きなきゃ…。

私は学生の身。

二度寝してしまえば遅刻確定です。

そんな未来はイヤなので、仕方なく。

私は夢の世界から現実に引き戻されます。

 

「…ふぁぁ……」

 

あくびを1つ。

未だ鳴り響く目覚ましを止めます。

ぐぅー、と背を伸ばすと、少しづつ意識がハッキリしてきました。

春の陽気は暖かく、寝起き特有の身体の重さはすぐに霧散していきます。

 

…今日は始業式。

つまり、昨日までの春休みは終わりです。

がんばれ、と自分を鼓舞して。

もう一度緩めに伸びをすると、もそり、とベッドから這い出て。

ゆったりと準備を始めます。

 

…今日から2年生。

不安半分、期待半分。

朝から少しアンニュイな気分。

学校に行くのが少しだけ気怠く感じます。

 

…ああ、そうだ。

後であの人にも声をかけておこう。

不本意ながらもルームメイトなわけですし。

 

学校に行くために、身だしなみを整えていきます。

鏡の前に立って、自分の姿を改めて確認。

 

身長139cmの小さな体躯。

絶壁に近い胸回り、すとんと落ちていきそうなくらい平坦な腰回り。

黒に近いくらいの焦げ茶色で、腰ほどまで届く長めの髪。

眠そうに垂れ眼を半開きにしている…寝間着の女の子。

こんな高校生とは思えない少女が、私。

 

相変わらず小学生から成長のカケラもない自分に嘆息しつつ。

今日から新学期、当然登校日なので制服に着替えていきます。

 

制服なんて簡単な造りで。

シャツに腕を通し。

赤いスカートを腰に巻き。

ネクタイを締めればそれだけです。

そして、制服の上から『背面ホルスター』を取り付け。

『拳銃』をしっかりと固定して装着します。

もう一つの『武装』は…今日は始業式なので置いていきましょう。

 

長い髪を櫛で梳かして、寝癖を整えて。

邪魔にならないように、軽くポニーテールに結って。

部屋の外に出て、顔を軽く洗います。

これで私の朝の準備は完了です。

 

私はそのまま、ルームメイトの部屋の前まで向かいます。

 

コン、コン。

少し軽めにドアをノック。

 

…返事がありません。

まだ寝ているようです。

 

…あの人は、無理に起こすと怒っちゃうタイプなのかな。

それとも、放っておいたら寝過ごしてしまう方なのでしょうか?

一緒に住み始めて日は浅く、未だルームメイトの性格が掴み切れていません。

…まぁ、まだ時間はありますし。

もう少し後に声を掛けなおしましょう。

そう決めた私は、朝ごはんの準備を始めました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じゅぅじゅぅ。

プライパンの上で卵を熱していきます。

ある程度固まれば塩胡椒を振り、味を調えて。

朝の定番、目玉焼きの完成です。

お皿にベーコンと一緒に盛り付けて。

昨日作り置いたサラダを冷蔵庫から出して。

白いご飯を並べれば、それっぽい手抜き朝ごはんの出来上がりです。

2人分、テーブルに並べます。

 

「…おはよう」

 

並べ終わったあたりで、リビングに響くぶっきらぼうな声。

ルームメイトさんが起きてきたみたいです。

慣れていない私は、軽く驚いて固まってしまいます。

 

……少しの空白、約3秒。

へ、返事をしなくては。

 

「…わ、えっと、お、おはようございます…」

 

吃りながら出した声は、情けない小声。

それを聞いた()もまた、口を閉ざしてしまいます。

 

「…………」

「…………」

 

またも沈黙、今度は10秒。

まるでお通夜みたいな重い空気。

段々耐えられなくなってきました。

 

「…茅間(かやま)

「は、はひっ!?」

 

無気力そうな、しかし不満そうな表情。

そんな彼が、なんだかドンヨリした声で声を発したもんだから。

私もおっかなびっくり、声が裏返ってしまいました。

 

「どうして、こうなっちまったんだろうな…」

 

彼は嘆きます。

 

「…それは……」

「………」

 

私だって、嘆きたくなってしまうその問い。

私もドンヨリ、返しました。

 

「…できれば私も遠慮したかったですよ。遠山君…」

 

私、茅間(かやま)詩穂(しほ)は少しだけ不運みたいで。

なんで女である私が男である彼と屋根を共にしているか。

普通に考えれば倫理的に超アウト。

それでも私の貞操が無事なのはある意味幸運なのでしょう。

彼が、()()()だから。

 

そんな不運な大事件。

起こったのは、3日ほど前。

春休みも終盤になった頃。

語れば長くなるので割愛しますが、とても簡単に振り返るなら。

 

私は女子寮の自室を、なんと学校の()()に理不尽に追い出され。

どこに住めばいいか尋ねれば、なんと男子寮の1人部屋を紹介され。

その部屋に住む彼…遠山(とおやま)君を全力で説得し。

彼の出す条件を全て承諾し。

泣く泣く居候することに。

 

…我ながら、とんでもない理不尽に遭ったものです。

事故と言い換えてもいいかもしれません。

しかし…この学校の教師には逆らえません。

普通の学校とは、少し違う理由で逆らえないのです。

 

 

 

 

 

 

 

目の前の彼が席に着くのを見てから、私も遅れて席に着きます。

 

「…いただきます」

「……い、いただきます」

 

不運な私と、理不尽に巻き込まれてしまった彼。

2人、ドンヨリとした空気の中。

朝食をゆったりを頂きます。

 

目の前で、私と同じ学校の制服を着て目玉焼きを頬張る彼は。

遠山(とおやま)金次(きんじ)君。

ぶっきらぼうな物言い、少し…根暗というか、ダウナーな雰囲気。

寝不足みたいな切れ目の目元、それでも整っている印象を受ける相好。

私の居候を渋々承諾してくれた彼は。

噂によると…どうやらとても『女嫌い』だそう。

…しかし、彼の噂はそれ以外もよく聞きますが…。

 

私がこの部屋に居候するにあたり、遠山君は条件を出しました。

彼の出した条件とは。

不必要に話かけないこと。

遠山君の部屋に許可なく絶対に入らないこと。

そして、必要以上に触れないこと。

この3つでした。

…女嫌い、というのが強く伝わってくる条件です。

 

最初は全力で同居を断っていた彼でしたが。

教師の理不尽という事情を話す内に酷く同情してくれて。

条件付で、とうとう同居の許可を出してくれました。

そして男子寮の寮長さんにも事情を説明し、私の転居は確定。

幸い荷物は少なかったので引越しは楽でしたが…。

 

そんな理不尽な3日前のことを思い出しつつ、朝食は静かに進みます…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ピン、ポーン…。

 

食事も終わり、後は登校するだけの小時間。

お皿洗わなきゃな…なんて思いながら、しかしお皿を片付けるのを面倒くさがって。

テーブルに座り少しまったりしていると。

どこか遠慮したような、慎ましい雰囲気のドアチャイムが鳴りました。

 

「?……どなたでしょうか?」

 

何故か目を見開いている遠山君を横目に、立ち上がろうとすると。

 

「待てっ!」

「は、はいっ!」

 

強めに制止する遠山君の声。

余りに迫真の声に驚き、硬直してしまいます。

立ち上がる途中のポーズで止まったままでいると。

遠山君の静かに緊張した声が耳に届きます。

 

「…茅間は自分の部屋で待っててくれ…」

「はい…?」

「いいから…っ!」

 

これから戦争でも始まるのか、というくらいの鋭い声。

私は言われるがままに、静かに、しかしスピーディに部屋に戻ります。

部屋のドアを閉じる際、遠山君が警戒するような()()()で玄関に向かう所が見えました。

 

…一体、急にどうしたのでしょうか?

私がここに住むことは寮長さんにも伝えてあるので、私が隠れる意味は薄い気がします。

何より彼の放つ緊張感というか何というか。

『ヤバい!』といった風な彼の表情。

そんなヤバい来客が朝から来るとは思えませんが…。

しかしながら、そんなヤバい事も起きる可能性があるのも『この学校』の特徴なのでしょう。

 

何にせよ、気になりますね。

遠山君には少し申し訳ないですが、少しだけ盗み聞きさせてもらいましょう。

 

私はいそいそと、壁に耳を当てました。

この男子寮は、女子寮に比べやたらと壁が薄い造りです。

悲しい男女差別に心を痛めながら、耳を澄ませます。

 

「あー、わかったわかった…!」

「お…おじゃまします」

 

会話が聞こえてきました。

遠山君の諦めたような声と。

…女の人でしょうか?

透き通った、なんだか柔らかい印象を受ける声。

なんとなく聞いたことがあるような声です。

 

…え、女性!?

『女嫌い』の彼の家に、朝から女性…??

私の混乱を置いて、会話は続いて行きます。

 

「で、何をしに…」

「ねぇキンちゃん?」

 

その女性の声が遠山君のセリフをぶった切ります。

割と、強めの口調で。

どこか温度を感じない声で。

 

…キンちゃん?

あぁ、遠山()次だからキンちゃんですかね…?

仲の良い関係の方なのでしょうか。

それなら異性の部屋に朝から来ることも頷けます。

 

「どうして朝食のお皿が2人分あるの?」

「うっ…。そ、それは、だな…友達が…さっきまで来てて…」

「お友達…?キンちゃんに…?ふーん…」

 

女の人の少し低い声に、遠山君は何故か誤魔化し始めます。

…な、なんとなく展開が読めてきました…。

 

「キンちゃんは、あんまり料理は得意じゃなかったよね?」

「いや、これは…と、友達が作ってだな」

「部屋もいつもより、なんだか片付いてるね」

 

女の人の声が、更に低く、低く…地を這うように低くなっていきます。

ぞくり。

せ、背筋に悪寒が…。

生命の危機を感じます…!?

 

「玄関に、見慣れない靴があったよ?その『お友達』、まだこの部屋の中にいるんじゃないかな…?」

「お、落ち着け…」

 

 

 

 

 

 

 

「……………ねぇ、どういうこと?」

 

 

 

 

 

 

 

 

や、ヤンデレさんでした…!

まさかこんな始業式の朝に、とんでもないことに巻き込まれている予感です。

余りの恐怖に、ダラダラと冷や汗が止まりません。

 

ここにきて、遠山君の女嫌いの理由をなんとなく推察します。

もしかして遠山君、このヤンデレさんから人を遠ざけるために女嫌いを演じて…!?

そしてノコノコとこの部屋に住んでしまった私…。

このままだと、見ず知らずのヤンデレな女に()られてしまいます…!

 

「白雪っ!遅刻したらまずいから先に行っててくれ!俺はメールをチェックしてから行く!さぁ行くんだ!」

「え?え?キンちゃん?」

 

ドタドタドタ…。

遠山君が無理矢理に話題転換。

続いて焦ったような女の人の声。

2人の声が遠ざかっていき…。

 

バタン!と玄関のドアの閉まる音が聞こえました。

…どうやら危機は、一旦去ったようです…。

あの時、ドアチャイムに出てしまっていたら。

この部屋に隠れていなかったら。

遠山君が機転を利かして彼女を追い返してくれなかったら。

…1歩間違えたらこの世にはいなかったかも…。

 

 

 

 

 

白雪。

(おそらく)私の(タマ)を獲ろうとした人物。

彼女は確かに、白雪と呼ばれていました。

白雪…。

記憶間違いでなければ、おそらく。

生徒会長、星伽(ほとぎ)白雪(しらゆき)さんではないでしょうか。

聞いたことのある声なのも納得です。

遠山君…想像以上にとんでもない爆弾を持っていましたね…。

私も今後、この部屋の生活にも危機感を抱いた方がいいのかもしれません。

…いや、元の女子寮に戻れるのが一番なんですけれど。

 

コン、コン。

ドアがノックされます。

開くと、酷く疲れた表情の遠山君。

 

「茅間、待たせたな。客は帰った」

「……はい、わかり、ました…」

 

何はともあれ。

…怖かったです。

 

 

 

 

 

 

メールをチェックする遠山君を横目に。

私は…朝の星伽白雪さん事件の元凶の一つであるお皿を洗いながら。

 

うーん、遠山君に星伽さんの事を聞くべきなのでしょうか…。

でも正直巻き込まれたくないですし…。

うーん……。

 

なんて、そんな事を考えていました。

しかし結局私のコミュ障な部分が邪魔して、何も口を開けなかったまま時は過ぎ。

 

ふと時計を見ると8時ちょうど。

 

…ところで、大した話ではありませんが。

私たちが学校へ向かうには、バス通学が最も手軽で簡単です。

男子寮付近から出ているバスの中で、始業に間に合う最終ラインは7時58分発のバスです。

 

もう一度時計を見ます。

8時1分。

 

…あれ?

もしかして。

 

「と、遠山君!遅刻ですーっ!!」




以上です。
読了感謝です。

感想・批判等をお待ちしております。







※追記
誠に勝手ながら、大幅な加筆・修正を行いました。
ご容赦願います。

2018年 5/10

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