GALAXY ANGEL ~Fortune Lovers~   作:神余 雛

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†.03 新しいあの子

「ノアさまと呼びなさい。ノアさまと! まったく、これだから下っ端連中は」

 

 初対面でこれか。格納庫から連れてきて、いきなりこれとは。以前に会ったノアとはずいぶん印象が違うな。それに左手が触手じゃないし。エンジェル隊に所属していることになっているみたいだけど、制服も着ていないし、これが本来のノアってことなのかな。

 ブリッジにいる面々……レスターにアルモやココ、エンジェル隊のみんなも凍りついてるし、ここはオレが話しかけるしかないかな。

 

「それで、詳しい自己紹介はしてもらえないのかな?」

「……そうね、あんたたちにも、私のことを知る権利があるわよね」

 

 そう言って話始める。傍若無人な態度は変わらないけど、多少は歩み寄ってくれる姿勢を感じられた。立場上警戒を緩めるわけにはいかないし、まだ見極めるには至ってないけど、少しは気を許してもいいのかもしれないな。

 

「私の名はノア。一応エンジェル隊所属ってことになっているわ。紋章機は私のお手製、ノーザンライツイヴ。スペックは後で詳しく話すとして、今は名前だけの紹介ね。あ、後、黒き月の管理者をやってい()わ」

 

 沈黙。

 

「は?」

 

 誰かが呟いた。オレじゃないと思いたい。先日、ルフト先生から秘匿事項として伝えられた情報を全てばらしちゃった。これに対する驚きはオレとレスターだけだと思うが、びっくりだ。

 みんなは自分で紋章機を作ったことにたいする驚きなんだろうと思う。それのおかげで、最後の黒き月の管理者云々ってのは、みんなに聞こえていないだろう。っていうか、そうであって欲しい。

 

「じゃあ、タクト。あんたの部屋に案内してちょうだい」

「え? どうして?」

 

 さっきから驚きの連続でオレとノアしか話をしていないが、大丈夫なのだろうか。

 それよりも、オレのことを呼び捨てにしたのは、まぁいいとしても、なんでオレの部屋、というか司令官室に案内をしなければならないのか。一応データでオレが司令官ということは知っているだろうし、そこからオレの私室が司令官室であることは考え付くだろう。仮にも、オレたちとの合流ポイントを計算して考えられる人物であるなら、だ。

 

「そんなの決まってるじゃない。私はタクトの部屋で寝泊まりするからよ」

「それはっ!?」

 

 意外なことに、その言葉に反応したのはミントだったが、そんなことを気にしている暇はない。なぜオレの部屋に寝泊まりする必要があるのか。

 

「詳しくはそこで説明するから、ほら、早く移動するわよ」

「……はぁ、分かったよ。じゃあみんな、とりあえず司令官室に来てくれ。レスターはアルモとココといっしょにブリッジで待機。よろしくね」

「あぁ……」

 

 なんとか言葉を返したレスター。歩きだしたノアを追いかけるオレ。ふたりとも色んな意味で疲れてるのが目に見えているだろうな。ははっ、オレの肩、煤けているんじゃないか。これから、どうなるんだろうか。

 ……はぁ、どうにでもなれ。

 

「タクトは大丈夫なのか……」

 

 レスターの声はオレには届かなかった。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「ふぅん。タクト、あんた、いいイスに座ってるじゃない」

 

 司令官室に着いたオレたち。部屋に入るやいなや、執務用のイスに腰掛けたノア。ミントとヴァニラ、ちとせは入口でポカンとしたままだった。彼女たちを促して、ソファに座らせる。

 

「まぁね。それより、詳しい説明、してくれるかな」

「分かったわよ。それじゃ、まずは私が作った紋章機からかしら」

 

 そこから語られるノアの紋章機のこと。

 ノーザンライツイヴ。形式番号GA-00X。

 もともとノアの紋章機はH.A.L.O.システムだけ他のエンジェルたちと同じ物を使っているらしい。だが、そのH.A.L.O.システムも試作型だった。だから形式番号が00Xで“experiment”を冠しているらしい。その試作型H.A.L.O.システムを黒き月が破壊される瞬間に持ち出していた。というのも、もともと人間の力で黒き月を破られるとは思っていなかったらしく、防壁を破壊された時に、インターフェースを起動して、自分と入れ替えたとかなんとか。そして、黒き月が破壊されそうになると、あらかじめ探しておいたH.A.L.O.システムを持ち出して、黒き月を脱出したんだとか。

 どうしてH.A.L.O.システムを持ち出したのかに関しては、曰く“黒き月を破壊するほどの力を秘めた、人間のテンションとやらが気になった”んだそうだ。黒き月を破壊したのはエンジェル隊ではないものの、黒き月が作りだした無人艦を破壊したのはエンジェル隊だ。そう考えれば、納得はいかないが理解はできる。

 武装に関しては既存の紋章機のデータを参考に白き月の工業用プラントで製作したらしい。材料さえあれば作れるとか、そんなことはないんだが、黒き月の管理者であるノアならできるのかもしれないな。

 本来はレーダーや情報管理、データ観測などに秀でた紋章機を作るはずだったらしいが、その延長で電子戦に強化された紋章機が出来上がったらしい。そこらへんは後で詳しくクレータ班長も含めて話を聴きたいところだ。

 

「それで、他に聴きたいことはあるのかしら?」

「では私から。どうしてタクトさんの部屋に寝泊まりする必要があるのでしょうか?」

 

 その問いに対して、ノアは質問したミントを見つめ、ミントが視線を反らさないことが分かると話しだした。

 

「あんたはミント・ブラマンシュね。あんたはテレパスを持っているみたいだけど、私が考えていることがわからないのかしら?」

「――っ! いえ、私の他にも疑問に思ってらっしゃる方がいると思いまして……」

 

 そう、と呟いて、ノアはミントから視線を外す。

 ミントの様子が一瞬おかしかった気がするが、なにがあったのだろうか。いや、今はそれよりもノアのことだ。もしオレの部屋に居座るとするなら、これからのエンジェル隊の指揮に影響が出る、という建て前と、オレ自身がいろいろと保たないという本音があって否定したいところだ。これは死活問題にもなり得る。本当に頭が切れるなら、そのことを考え付かないわけがない。何か、大きな理由があるんだろう。

 

「そうね、じゃあ()()()に分かるように説明してあげるわ。まずひとつめ。それは、人間の力の源。心を調査するためよ。タクトにはエンジェル隊の指揮官として、さまざまな情報が集まってくるわ。それに思考は常に冷静。普段ふざけているように見えるのも、その裏ではいつも思考を巡らせていることは分かっているの。そんなタクトの傍にいれば、何か分かると思ったのよ。シヴァも信頼しているみたいだしね」

 

 オレがいつになく高評価なのは、まぁおいておいて。シヴァさまに信頼されているっていうのが、第三者から言われると嬉しいものだな。だが、シヴァさまを呼び捨てにしていることは許されているのだろうか。ノアの言を信じるにしても、ルフト先生からの情報をみるに、ノアが黒き月の管理者――おそらく月の聖母みたいな立場なんだろうが――であることは間違いないだろう。もしそうであるならば、シャトヤーンさまと同じ立場であったということだ。それなら呼び捨てが許されているのもまぁ理解はできる。シャトヤーンさまはちゃんとシヴァ“女皇陛下”と呼んでいるが。

 それはそれとして、それでもまだオレの部屋で寝泊まりする理由には弱い。まだひとつめだし、これからどんどん重要な理由というか情報が明かされるのかもしれないし。まだ分からないが、これだけが理由ならば、追い返すには問題ない。

 

「次にふたつめの理由なんだけれど。これはタクトがエンジェル隊の上に立つ者としての力量を認めて、タクトを知りたいと思ったからよ。光栄に思いなさい、タクト・マイヤーズ。私が認めた人間はあなたが二人目よ。ま、タクトが天使達のテンションを常に高く維持し、それを戦闘でぶつける。紋章機のH.A.L.O.システムに上手く活かし、そして黒き月を破壊することができた。これに私は魅了されたわ。タクトのことが知りたい。そう思ったのよ。それでタクトのことを知るなら、より傍にいればいいということで、タクトの部屋に邪魔することになったわけ。まぁあんたらに分かり易く言うと、私がタクトを研究したい。ということになるわ。これで分かったでしょう? もちろんシヴァの許可ももらってるから、今更何を否定しようとも、覆ることはないのだけれど」

「なっ!」

 

 ミント絶句。ちなみにオレも絶句。

 その言い方だと、なんかオレに気があるみたいじゃないか。いや、そんなことがないのは分かってるさ。あれだろ、実験動物を見るかのような感じなんだろ。分かるさ。

 でも、最初のころの傲慢な態度はどこかに霧散したみたいに、付き合いやすくなっている。もしオレの部屋に泊ることを容認したら、もっと付き合いやすくなるのだろうか。そうなるのであれば、エンジェルたちとも仲良く慣れるのであれば、オレはソファで寝るのもやぶさかではない。ノアが協力してくれるのならば、エンジェル隊のテンションも高く維持することも、少しは容易になるかもしれない。ギスギスした関係でいるよりはよっぽど楽だ。

 しかし、今ので沈黙が落ちてしまったな。これは少々居心地が悪い。

 

「ヴァニラ。ちょっとお茶を淹れてくれないかな。オレはコーヒー。ミントは紅茶かな。ちとせは緑茶? がいいだろう。ノアは何にする?」

「そうね、私も紅茶をもらおうかしら」

「だ、そうだ。ヴァニラも好きなの淹れていいよ」

「はい、わかりました」

 

 ヴァニラが立ちあがる。ちとせは息苦しい空気が多少は和らいだことにホッと息をついていた。ミントはノアを見つめたまま微動だにしていない。納得がいかない、って顔ではないみたいだけど、さっきからどうしたんだろうか。

 

「ミント。さっきから何か気になっていることでもあるのかい? 何やらノアのことをずっと見つめているけど……」

「い、いえ、なんでもありませんわ」

「そうかい? ミントがそういうならいいけど。なにかあったら相談してくれよ。解決できないかもしれないけどさ、力にはなりたいと思う」

「その時はご相談させていただきますわね。ご心配をおかけして申し訳ございません」

 

 そうこうしているうちにヴァニラが戻ってきた。目の前にコーヒーを置かれる。ふと薫ってきたコーヒーの香りが染みわたる。一口飲むと、程よい酸味が舌を刺激してくれた。やっぱりヴァニラが淹れてくれるコーヒーは美味しいな。

 ミントも紅茶を飲んで落ち付いたのだろうか。先程まで感じていた違和感は消えていた。やっぱり勘違いだったのだろうか。

 ずっとミントのことを見つめていたのが気になったのか、ミントは閉じていた目を片方だけ開け、こちらを見返してくる。すると、ふっと微笑み、また紅茶に口を付けた。

 今の笑みはなんだったのか分からないが、心からの笑みを向けてくれたのは分かった。これは本当にオレの勘違いだったのかもしれない。

 

「それで、私がタクトの部屋に泊ることの説明は終わったわけだけど、この話はもういいかしら?」

 

 目線はオレに向いていたが、ミントに対して言っていることは分かった。ミントはそれに対して、えぇ、とだけ答えた。

 

「そう。それじゃあタクト。私のことを案内してくれないかしら? この艦内を見て回りたいわ」

「了解。じゃあみんな。今日はこれで解散。ミントとヴァニラ、ちとせは各自自由に過ごしてくれ。もう何回かクロノ・ドライヴをすれば軌道ステーションに着くはずだ。それまでは自由にしてくれていいよ。軌道ステーションでは艦から降りて買い物とかもできるから、必要ならブリッジで手続きをしておいてね。ノアはオレがブリッジから許可をもらうのを待ってから行こうか」

 

 カップは置いておいていいよ、後でオレが片付けるから。とヴァニラに声をかけて、みんなが司令官室を出るのを見送る。

 ヴァニラとちとせは自分で片づけるつもりだったのか、頭を下げてから出て行った。ミントだけは何か言いたげにこちらを見ていたが、やがてドアの向こうに姿を消した。

 

「タクト、あんたは三人に好かれているみたいね。特にミント・ブラマンシュ。彼女の好意は大きいみたいね」

「そうかな? 確かにみんなオレのことを嫌っているとは思わないけど。でも彼女たちに指示を出す者として、仲間として、そう思ってくれているのは嬉しい限りだよ。ミントの好意云々に関してはよくわからないけどね」

 

 そういって笑う。まぁ実際に思っていることだし。彼女たちのテンションを高く保つためには少なくとも嫌われていたらできないことだしね。それにかわいい子きれいな子に好かれるというのは嬉しいものだ。正直に言えば、もうちょっと仲良くなりたいところなんだけどね。

 ミントに関しては、テレパスで今まで苦労してきたみたいだし、そういった面に配慮するのは当然だ。そういったことから、普通の軍の人間よりは理解があるつもりだし、そういった意味で付き合いやすいんだろう、と思ってる。

 

「そうね。まぁ気がついていないならそれでいいんだけれど。それはいいけど、いつになったら、ブリッジから許可をもらえるのかしら?」

「あぁ、もうちょっとでレスターから変身がくると思うよ……っと、来たみたいだ。それじゃ、案内しますよ、お姫様」

「それでよろしい。早く行くわよ」

 

 何に気がついていない、というのだろうか。ノアもあまり気にした風ではないし、ミントたちも何かを言っていたわけではないから、あんまり重要なことではないのかもしれないが。

 さて、とりあえずはノアの艦内を案内することに専念しますか。最初に言っていたノアさま宣言もこうしてお姫様扱いしておけばいいだろう。今でこそ冗談だと分かるし。多分、場を和ませようとして失敗したんだろう。そこらへんはシヴァさまの知恵かな。

 ま、まずは案内だ。さて、どこから案内しようか。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「さて、ここで最後。銀河展望公園だよ」

「きれいなところね。艦内にクジラルームだとか公園だとかがあるのは、エンジェル隊のテンションを高く保つために必要な施設といったところかしら?」

「ははっ、まぁそれだけじゃないけどね。でも仕事で疲れたときに、ここやクジラルームといったところに行くと、リフレッシュできるのは間違いないだろうし。適度な休憩は作業効率を上昇させるんだ。ないよりはあった方がいいだろう?」

「余裕があるならね」

 

 そういって笑い合う。ノアともだいぶ打ち解けることができた気がする。このままエンジェル隊のみんなとも仲良くしてくれるとありがたいんだけどね。

 

「全艦に通達。只今、本艦はテオ星系、軌道ステーションクリネアに入港いたしました。四半刻後に昇降ハッチを解放します。それまでは所定の位置で待機してください。繰り返します――」

 

 アルモのアナウンスが響き渡った。

 

「おっと、結構な時間が経っていたみたいだね。それじゃオレはこれで。ブリッジに戻らなくちゃならないからね。ノアもここから自由にしてくれていいよ。艦から降りるなら許可をもらってね。時間内に戻ってきてくれれば、どこに行っても大丈夫だから」

「わかったわ。案内、感謝するわよ、タクト」

 

 ノアのその言葉を聴いて、背を向ける。ノアの笑っている顔も見れたし、今日のところはこれでいいだろう。明日からもうまくいってくれるといいんだけどね。

 しかし。

 背を向け、歩きだしていたオレには、ノアが何かを呟いていることに気がつかなかった。

 

「どこまでできるのか、楽しみにしているわ。タクト……」




 お久ぶりでございます。
 観珪です。

 最近、身内に不幸がございまして、少々雑な作りになってしまっているかもしれません。納得がいかない内容ならば、コメントしていただければできるだけ修正いたします。
 また、自分でも修正するかもしれません。
 まことに勝手ながら、ご了承くださいませ。

 内容も、説明回ということで読むのも大変でしたでしょうし、ぶっとびすぎ、ご都合主義と言われても仕方がないできであります。深くまで考えることが足りなかったと少々、反省しております。
 次回からはもうちょっとマシな話になるように努力します!

 では、また次回。会えましたら。

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