雪の駆逐艦-違う世界、同じ海-   作:ベトナム帽子

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 いい加減タイトルが冗長なので変えます。


第20話「大追撃」その1

 ウルヴァリンとセーブル。居残り組はセントローレンス湾の湾口で空を見上げていた。

「帰ってきたよ」

 ウルヴァリンがセーブルに囁く。東の空に2機のヘリコプター。TF101を連れ帰ってきたCH-54タルへだ。ウルヴァリンは手を大きく振る。

 タルへがつり下げているベンチからもセーブル達を確認したのか、1人の艦娘が手を振ってくる。

「危ないな。落ちるぞ」

「元気そうでいいじゃない。誰も沈まなかったって話だし」

 報告では敵艦隊を全滅させ、大破や中破といった損害が出た艦娘はいたものの沈没した艦娘はいないということだった。敵艦隊のすべてを沈められなくても良い。全員活きて帰ってきたことはウルヴァリンとセーブル両名にとっても嬉しいことだった。

「私達も陸に上がって、言ってあげましょう。お帰りって」

「ああ」

 

 ニュージャージー州トレントンの北、セントローレンス湾の南にあるシンクレアーズ島。その小さな島に艦娘の前線基地が設けられていた。

 艦娘達が座るベンチを吊すCH-54タルへ2機はTF101の艦娘達を労るようにゆっくりヘリポートに着陸した。TF101の艦娘達はベンチから降りる。そして、出迎えていたディロンや艦娘艤装整備員達、TF100の損害が軽かった艦娘、居残り組の艦娘がTF101を囲んだ。

「ようやった! ようやった!」

「おかえり!」

「良く無事に帰ってきた!」

 口々に賞賛の声を浴びせる。TF101旗艦であるアラスカはディロンの前に出て、敬礼する。

「第101任務部隊。アラスカ以下、18名。敵艦隊を全滅させ、全員無事に帰還しました」

 ディロンはアラスカの姿をまじまじと見る。服は所々破れ、12インチ三連装砲の内2基がアームだけを残して消えている。空色の髪も乱れ、唇も青みがかっている。しかし、目は輝いていた。

「よくやった。詳しい報告は後でいい。とりあえず早く艤装を下ろして休め」

「はい。第101任務部隊、休息に入ります」

 アラスカは敬礼の手を下ろす。艤装整備員がTF101の艦娘の背中を押して、整備棟に急ぐ。

 

 艤装整備員達は大忙しだ。TF100の艤装修理が終わったと思ったらTF101の艤装修理である。しかし、艤装整備員はそれが仕事。夜通し作業だが、いつでも出撃できるよう迅速に、しかし丁寧に修復作業を進める。

「損傷が大きい艤装は修復槽! アラスカの!? ありゃ全部だ全部! 損傷が軽いやつは部品交換で対応! インディアナポリスの艤装も修復槽!」

 東海が叫ぶ。天井クレーンでアラスカの体から艤装が取り外され、高速修理材をバケツ30つ分入れた浴槽に浸ける。温度変化に弱い人工高速修理材をこのように使用するのは不適切ではあるが、作業時間を短縮するにはこれが一番早い。

「12インチ三連装砲が2、魚雷発射管が4、12.7㎝砲1、5インチ砲3、6インチ砲1、8インチ砲6――――」

 戦闘で消失した艤装も多い。全てチェックして不足分を倉庫から引っ張り出してくる。弾薬は込めていない状態なので整備員達は弾込めしなければならない。

「酸素魚雷は在庫なし……か。おい! 533㎜の魚雷発射管さらに6つ追加な! あと5インチ砲の交換砲身13本!」

「後になって言わないでください!」

「艦娘は艤装外したらさっさとシャワーいけ! 邪魔だ!」

「プリングルのカタパルトは!? 根元からなくなってますよ!」

「あれ使うことほとんどないって言ってたから別にかまわん! 鉄板で塞いどけ!」 

 朝日に照らされる整備棟。中の騒がしさは日が暮れても消えることはなかった。

 

 夜が明け、ノーフォーク上空で湾内と泊地水鬼を偵察していたU-2ドラゴンレディ、コールサイン「エイギル6」は変なことをAWACSに報告した。

「湾内に駆逐艦を6体確認した。昨日で湾内の深海棲艦は撃破するか、湾外に脱出したのではないのか?」

『エイギル6、再度繰り返せ』

「ノーフォーク湾内に駆逐艦級の深海棲艦を6体確認した」

 AWACSとエイギル6との間の通信回線はしばし沈黙していた。3分ほど経ってAWACSが応答する。

『昨日の空爆と戦闘により、湾内の深海棲艦は潜水艦級を除いて全滅している。エイギル6、潜水艦級ではなく、確かに駆逐艦級か?』

 エイギル6は何度も確認を取らせるAWACSに少々いらだちながらも、カメラ画面に映し出されている深海棲艦の特徴も含めて報告する。

『了解した、エイギル6。引き続き偵察任務を続けられたし』

「了解」

 エイギル6は機体に搭載しているカメラを6体の深海棲艦に向ける。黒い肌。魚のような外見。緑に光る目。紛れもなく駆逐艦級の深海棲艦だった。

 

 テネシー州アーノルド空軍基地でオメガ11は予備機のYF-16に乗って出撃しようとしていた。

 オメガ11の乗機であった別のYF-16は昨日、敵の対空砲火に運悪く当たってしまい、墜落したのだ。そしてパイロットのオメガ11のみが帰ってきて、1機しかない予備機を使って出撃しようとしているのだ。

「昨日撃墜されて、よく今日も飛べますね。体大丈夫ですか?」

 整備員が尋ねる。すでにコックピットに収まっているオメガ11はガッツポーズして答える。

「なーに、俺の取り柄は体の頑丈さよ。もう一度落ちたって大丈夫だ」

「YF-16の予備機はもうありませんからね! 落として帰ってきたら、F-4かF-105ですからね。分かっていますか?」

 レコンキスタ作戦に投入されているYF-16は増加試作機であって、制式採用にもなっていない機体だ。ゆえに数も少ない。空軍でオメガ隊にしか渡されていない航空機だった。

「分かってる、分かってる。なーに、大丈夫だ」

 絶対分かってないだろ。整備員はそう思った。オメガ11はタキシングして、他のオメガ隊メンバーと空に飛び立つ。

 

 MBT-70で編成されたある戦車中隊は戦線後方で部隊の休息を行っていた。レコンキスタ作戦1日目の夜間進撃を行った部隊は今の時間、睡眠や戦車の整備を行っている。

「しかし、MBT-70ってのは良い戦車だな」

 中隊長がMBT-70砲塔の被弾痕を触って呟いた。オリーブドラブの塗装が剥がれ、鉄の銀色の地肌が出ているだけ。被弾時の衝撃からして100㎜クラスの砲弾の直撃を食らったようだが、250㎜もの装甲はこれだけで済んでいる。M60やM48であれば貫通したかもしれない。

「最新戦車は伊達じゃないということか」

 最新兵器というと超強力なイメージはあるが、兵士達にとってあまり好むものではない。最新兵器=実績がない、ということでもあるからだ。

 MBT-70は元々ドイツとアメリカの共同開発だった戦車で開発の進み具合はグダグダだったのだが、深海棲艦の跳梁によって共同開発はできなくなり、アメリカ単独で開発したところ、スムーズに開発は進んだ。両国の要求の擦り合わせがなくなった分、早く進んだのである。その分、完成度も高くなったということだ。これがなければ完成は2020年になったとも言われている。

「計画段階じゃ、ライフル砲じゃなくて、ガンランチャー、積む予定だったみたいですけどね」

「空挺のシェリダンと同じ奴か?」

「いえ、シェリダンの発展型で別物らしいですけど。それと油圧サスペンションもドイツが提案していた簡単なものになったらしいです」

 MBT-70の開発はクライスラー社が行い、開発時間を短縮するため、新機構の排除・オミットなどを行ったのだ。しかし、エンジン周りの故障が頻発し、可変圧縮比エンジンではない液冷ディーゼルエンジンに変更したりと完成は深海棲艦上陸後と少々遅れはしたものの完成した。

 しかし、陸上に上がった深海棲艦の能力は非常に低く、既存兵器でも十分に対抗できるということがわかり、米陸軍はコストのかかる新兵器よりも量産効果で廉価になったM60パットンをそろえる方針をとった。MBT-70はクライスラー社に量産体制を取らしていた上でである。

「まあ、そんなゴタゴタした話はどうでもよろしい。こいつが使えればいいんだ。実際使えるんだから良い話だよ」

「使えると言っても潰走する敵の追撃ですけどね」

 まあな。そう、中隊長は答える。

 

 オメガ隊の役割は潰走する敵を援護する部隊の撃破だった。

 米軍の止まることのない進撃に深海棲艦は組織としてすでに体を成しておらず、逃げるばかりだった。それでも潰走する部隊を別の深海棲艦が援護したりするのは深海棲艦が機械ではなく、生物故の行動だろうか。

『でも俺達には関係ない。ただ叩き潰すだけよ。オメガ11、今度は落ちるなよ』

「そう何度も落ちやしませんよ」

『メーカーにとって被撃墜サンプルが取れるのは嬉しいことかもしれないけどな。よし、オメガ隊、攻撃開始!』

 オメガ隊はYF-16の機首を敵陣地に向ける。

 今回、YF-16が翼下に搭載しているのはガンポッドGPU-5。中にはGAU-13という4連装ガトリングガンははA-10に搭載されているGAU-8アヴェンジャーの派生型である。YF-16はそれを左右1つずつ吊っていた。

 30㎜焼夷徹甲弾がGPU-5の先端にちょこっと開いた穴から1秒に50発という早さで大量に放たれる。

 初速990m/sの30㎜弾は深海棲艦を射貫き、戦車型は無数の大穴を開け、芋虫型は衝撃波で跡形もなくなる。

 そして敵陣地の意識が空に向いた瞬間、地上部隊が攻め込む。敵はまともにアメリカ軍の戦力を削ることもできずに沈黙する。もはや蹂躙。そんな言葉が相応しい。

 オメガ隊は潰走する敵の追撃に映った。

「なんだか気持ち悪いな。うげぇ」

 オメガ11は潰走する深海棲艦を見て、思わず吐き気がした。想像してみよう。荒廃した田畑の緑が芋虫型で灰色に染まるくらい大量の芋虫型が這っているのである。気持ち悪いことこの上ない。

「ナパームで焼きたい」

 YF-16の翼下にあるのはGPU-5。ナパーム弾ではない。オメガ11はため息を吐いて、掃射する。深海棲艦の血で地面に蒼い線が引かれる。

 

「風呂上がりのアイス、最高!」 

 風呂上がりの吹雪達はアイスクリームを食べていた。もちろん、ファラガット達アメリカ艦娘もである。

 アメリカ人というのは大のアイスクリーム好きで、その逸話もたくさんある。アイスクリーム製造器が配備されて、嬉しくてはしゃぎまくり、足を骨折した兵士がいただとか、駆逐艦が空母のパイロットを救助したら空母からアイスクリームがご褒美として送られただとか、自艦にアイスクリーム製造器を導入させようとドック入りのたびに熱弁を振るって、ついにそれを成功させただとか、1500ガロン(5670リットル)ものアイスクリームを造り、保存できる特務船「アイスクリーム・バージ」を建造するとか、いろいろある。アイスクリームはアメリカ文化の1つなのだ。もっともアイスクリーム自体の起源はまったく別の所ではあるが。

「日本じゃ、アイスないの?」

「いや、あることはあるけど、そんなに食べないかな」

 エドサルに吹雪は答える。日本海軍の給糧艦は間宮と伊良湖くらいのものだし、アイスクリームを作ることができるのも電気冷蔵庫を備えている間宮と伊良湖くらいのものだ。日本海軍艦艇での甘味で機械的に作る物といったら基本的にラムネしかない。

「あー、でも街にはアイスクリーム屋さんとかあるよ」

 アイスクリームを作れる艦は少なくても鎮守府の外の街では普通にアイスクリーム屋さんはある。外出する際には食べたりもするが、回数は少ない。

「アメリカのアイスは甘いね。間宮さんのはさっぱりした味だったけど」

「そう? これが普通だと思うけど」

 アメリカ人は味の濃い物が好き、というのは実際のことなのだが、このアイス自体は早い疲労回復を狙っただけなのかもしれない。ただ、

「アラスカ、あんた取りすぎじゃないの」

 食べる量は多いと思う。ファラガットに怒られているアラスカはバケツ満杯のアイスクリームを頬張っている。お腹を壊しそうだ。

「大丈夫よ。アイスクリームはまだまだ余ってるわ」

「え、本当?」

 本当、とアラスカは答えて、ファラガットはアイスクリーム製造器の方に走っていった。

 周りをよく見てみればアメリカの艦娘は皿一杯なのに、白雪や深雪、初雪は普通の量だ。日本人は小食なのか、アメリカ人が大食らいなのか、どっちだ? と吹雪は疑問に思った。

 

 オメガ11はHUDに表示されるガンピパーを戦車型に合わせ、発射。30㎜弾が吸い込まれるように着弾して爆発する。

 今のがこの区画最後の戦車型。いくつもの煙が立ち上り、陸軍が進軍していく。オメガリーダーはガンポッドに残っている残弾は少ないと伝えた上で、AWACSに指示を請いだ。

『エリアJ8に砲台型が多数展開している模様。オメガ隊は威力偵察せよ』

『了解』

 オメガ隊は指示された区域に急行する。

 砲台型。名前の通り榴弾砲や対戦車砲などの砲兵隊のような役割をする陸上深海棲艦である。見た目も長くて太い砲身を持っていることから一目瞭然。足を地面に突き刺して砲撃の反動を受け止めるところもまさに大砲だ。

 この砲台型、米陸軍にとっては泊地水鬼を除いた陸上深海棲艦の中で一番の脅威だった。機動力はからっきしなのに対し、大小はあるものの火力だけは一級。中にはM110A2 203mm自走榴弾砲並みの榴弾を撃ってくる個体があれば、M60A1の254㎜の正面装甲を貫通する徹甲弾を撃ってくる個体もある。その上、基本的に森や高地に群で布陣していることが多い。電子妨害によって深海棲艦同士の連携が取れていないため、間接射撃を行っている砲台型はほぼいないが、直接照準できる距離に砲台型がいた場合、米陸軍にとって脅威である。実際、集中砲火を浴びて全滅してしまった戦車隊や機械科歩兵もいる。

 エリアJ8の砲台型は珍しく長距離射撃をしていた。森の中に隠れ、砲弾をまるでつるべ打ちのように米軍に送っている。発砲炎で森の中でも位置が一目瞭然だ。

『オメガ隊、攻撃!』

 機首を砲台型が隠れる森に向ける。30㎜弾の残量からしてこれが最後だ。オメガ11はガンポッド内に残った30㎜弾を全て森に撃ち込む。

「おおっ」

 森の上空を横切ったすぐ後、機体が揺れた。オメガ11は思わず声を上げてしまう。首を回して、森の方を確認すると、弾薬に着弾して誘爆でもしたのか、キノコ雲が上がっていた。機体が揺れたのは爆発の際の衝撃波だ。爆発の炎で森の木々が燃え始める。

 あれならみんな燃えて、後続部隊は必要ないな。オメガ11がそう思ったとき、森の中から何か出てきた。

 




 はい、今回の補足解説。
 YF-16は実際にはGPU-5を積めません。F-16A/B block10では積めますが、2門も積めません。胴体下に1門だけです。今回、YF-16が翼下に2門も積めたのはジェネラル・ダイナミクス社がYF-16で色々実戦試験をやりたいからです。YF-17も結構色んな装備を積めます。

 最近、暑くなってきましたが、皆さん暑いからって布団も何も掛けずに寝ると夏風邪引きますので注意してください。夏風邪はなかなか治りません。トマトと肉をたんまりと食って9時間睡眠しても3日は喉が痛かったりします。注意してください。

 次回からはオメガ11と陸上部隊の愉快な仲間達のお話です。

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