『レコンギスタ作戦発動 破竹の勢い
本日8:00を持って合衆国軍による深海棲艦への反攻作戦「レコンキスタ」が開始された。現在も合衆国軍は進撃中であり、次々と敵の防衛戦を突破し、ノーフォークへと迫っている。
「我々の予測より速い進撃速度だ。作戦期間が30%短縮できるかもしれない」。作戦司令官のミラン・グレプル大将はこう語り、作戦の侵攻に手応えを感じている様子だった。
合衆国軍は南北の2つから進撃し、北はすでにワシントンD.Cを通過、後続部隊がワシントンD.Cの制圧を行っている。南はノースカロライナ州シャーロットにて陸上深海棲艦と大攻防を繰り広げている。
海では艦娘部隊TF100が深海棲艦と交戦し、28体の内10体の撃破。TF100側に損害なしの快勝であった。』
5月1日発刊のある夕刊記事より抜粋
吹雪達、TF101は真っ暗で発砲炎以外は何も見えない雨の夜を静かに航行していた。イ級に似せたガワは付けていない。あれはノーフォーク湾内への突入用偽装装備であり、ただの夜戦には邪魔になるだけだ。
「光、消えた」
吹雪が呟く。ホークビル達の浮上砲撃戦が止んだのだ。吹雪は新たに搭載されたSG水上捜索レーダーで敵艦隊との距離を確認する。距離は10㎞を切っていた。
吹雪は雨で濡れた顔を手で拭う。しかし、強くなり始めた雨は容赦なく拭ったばかりの顔を濡らした。
「天気予報どうだったっけ?」
後ろに続くカッシングに尋ねるが、見ていない、と答えた。天気予報がどうであれ、この雨がどうなるかなんて変わらない。
『5分後に照明弾を発射。一気に仕掛ける! 各艦戦闘用意!』
旗艦のアラスカが命じる。アラスカ自身はいち早く艤装を展開。12インチ(30.5)㎝三連装砲を敵艦隊の方角へと向ける。それに重巡ペンサコーラ、インディアナポリスもそれに倣う。
雨がひときわ強くなり、海も時化てきたころ、3隻が照明弾9発を発射した。
照明弾は空中で弾け、深海棲艦の影を浮かばせた。
『全艦砲撃はじめ!』
「撃ちまくれ!」
「皆殺しだぁあああああああ!」
おのおの過激なことを口走りながら、砲撃を行う。吹雪も照明弾を織り交ぜながら、深海棲艦に砲撃する。
深海棲艦の反応は鈍かった。最初は空中でゆらゆらと落ちていく照明弾を見上げていて、砲撃の水柱が立ってから初めて回避運動を始めた。そのせいでたった数分で重巡2隻、軽巡1隻、空母1隻が轟沈した。
何を思ったのか、深海棲艦達はTF101に突撃してきた。疲労の極限。気でも狂ったのかもしれない。
魚雷を積んでいる艦娘は一斉に魚雷を放つ。何隻にかは命中して脱落するが、なおも突っ込んでくる。距離が縮んでいたこともあり、陣形の影も形もない乱戦になる。
吹雪は先頭にいたペンサコーラ、後ろに続いていたカッシング、エドサルを見失っていた。探したいと思うところだが、探す暇はなかった。リ級が突撃してくる。
吹雪は左手で5インチ単装砲をリ級に連射しながら、こちらからも突撃。右手で「瑞草」を抜く。「瑞草」に極限の鋭さをイメージしながら、刀身に障壁を纏わす。
「遅いっ!」
リ級は駆逐艦級を半分に割ったような腕によって5インチ弾を防いでいたため、反撃が遅れる。吹雪は35ノットの勢いを保ったまま、「瑞草」を全力で振った。
リ級の左腕が宙を舞う。吹雪はリ級とすれ違うと急旋回、背後を取る。そして左肩から先がなくなったことに気を取られるリ級の背中に「瑞草」を鐔まで突き入れた。柄をぐっと回し、右に薙ぐ。深海棲艦の蒼い血しぶきが雨の闇夜に噴き出る。
リ級の悲鳴。吹雪はとどめとしてリ級の頭に5インチ砲を放った。脳漿を海に撒き散らし、リ級の体は海に沈む。
「次っ!」
急接近してくる軽巡ホ級を確認。槍衾のように突き出る砲身から吹雪に向け、いくつもの砲弾が放たれる。吹雪は直撃コースの弾のみを「瑞草」で弾く。
ホ級に突進し、回し蹴りでホ級を横転させる。倒れまいとホ級の手が吹雪の左腕をつかむが、「瑞草」でつかむ腕を切り落とす。吹雪はホ級を踏みつけ、ホ級の頭らしき所に5インチ砲弾をお見舞いする。
蒼い鮮血が海と雨に溶け、ホ級は動かなくなる。吹雪は照明弾を撃ち上げ、次の敵を探す。
ファラガットがヲ級に食べられそうになっていた。頭の帽子側面から伸びる触手で5インチ砲を持つファラガットの両腕を拘束し、帽子の巨大な口を開けている。強力な砲を持たないヲ級最大の近接攻撃。その口の牙でファガラットの首を食いちぎろうとしているのだ。
ファラガットは両肩のエリコン20㎜機銃を撃ったり、蹴りを繰り出したりしているが、駆逐艦と空母。ヲ級はびくともしない。
吹雪はヲ級の帽子に砲撃し、ファラガットから気をそらす。そして左側から伸びる触手を「瑞草」で断ち切った。切られた触手はのたうち回る。
ファラガットは解放された右腕を、持っている5インチ砲をヲ級の開いた帽子の口に突っ込んだ。そのまま引き金を引き、発砲。帽子内で砲弾は炸裂し、肉をかき混ぜる。今度は解放された左腕に持つ5インチ砲をヲ級の顔面に突きつけ、発砲。意外に端麗なヲ級の顔面に風穴を開ける。
「死にさらせ!」
ヲ級の体を蹴飛ばし、残っていた2本の魚雷を打ち出す。もう痙攣するだけだったヲ級の体は粉々のばらばらになった。
「ありがと――あれ?」
感謝の言葉をファラガットは述べようとしたが、吹雪はすでに別の敵に向かっていた。
アラスカとペンサコーラは4隻の戦艦と対峙していた。
ル級が巨大な腕でペンサコーラに殴りかかる。ペンサコーラは腕を交差させて防ぐが、腕に装着していた8インチ3連装砲砲身が曲がってしまう。
ペンサコーラは足払いをしてル級を転ばし、無事な8インチ連装砲を放つが、障壁を展開されて弾かれる。
こういう時に魚雷があれば! ペンサコーラはそう思ったが、ペンサコーラは先ほど深海棲艦が突っ込んできたときに魚雷を全て使い切っていた。
「ペンサコーラは下がれ!」
アラスカは叫ぶ。アラスカは豊富な対空火器を駆使して障壁を展開していない隙を狙いつつ、2隻のル級、1隻のタ級と交戦していた。ペンサコーラはアラスカにしたがって後退する。
アラスカは12インチ(30.5㎝)三連装砲を左右のル級に向けて放つ。しかし、ル級の厚い障壁を完全に貫通しきることはできない。アラスカが再装填する間、足の速いタ級が突撃してくる。副武装の5インチ連装両用砲、ボフォース40㎜4連装機銃、エリコン20㎜機銃を撃ちまくるが、障壁に弾かれる。
ええい! アラスカはタ級に向かって全速力33ノットで前進した。そして、
「これ程度で苦戦するなら!」
アラスカはタ級の頭にアッパーカット。タ級は仰け反りながらも腰回りの砲塔をアラスカに向ける。
「秩父型には!」
アラスカは腿側面の5インチ砲をタ級の砲身に向けて撃つ。砲弾が命中した衝撃で上を向いたタ級の砲は砲弾を明後日の方向に飛ばす。
「勝てない!」
側面から迫っていたル級。さっきペンサコーラに転ばされた奴だ。アラスカは容赦なく、12インチ3連装砲を放ち、ル級の足を消し飛ばす。そして海面に突っ伏す寸前にアラスカはリ級の頭をつかみ、タ級に放り投げた。
タ級はすでに体制を立て直し、他、2隻のル級と共にアラスカに砲撃する寸前だった。その射線上にル級が投げ込まれたのである。ル級とタ級の砲から飛び出た砲弾はル級の胴体に命中、ル級は爆発四散。
「さよなら!」
そしてアラスカは12インチ3連装砲2基6門を煙越しに放った。タ級は障壁を展開する暇もない。至近距離で放たれた6発の12インチSHS弾はタ級を的確に射貫き、大きな6つの穴を胴体に開けた。
タ級の上半身と下半身は少しの肉と皮で繋がっているのみ。タ級の体は重力にしたがい、2つにちぎれ、海に落ちて、沈んだ。
残った2隻のル級は怒り狂い、全砲門をアラスカに向けた。発射される砲弾。アラスカは避けられない。
はじき返せるか? アラスカは賭けに出た。アラスカは障壁に加え、装甲最厚の三連装砲全面を盾にする。
ル級の砲弾が障壁にめり込み、貫通した。いや、まだだ。まだ325㎜の装甲がある。しかし、アラスカの希望を打ち砕かれる。砲弾は最後の当てであった砲塔全面装甲すら貫通。砲塔内で爆発。砲塔内の弾薬に引火して三連装砲は完全に壊れてしまった。アラスカは後ろ向きに倒れる。
何とか砲弾を防ぐことができた。しかし、アラスカが賭に負けたか勝ったかでいえば、間違いなく負けだ。アラスカに残っている12インチ三連装砲は1基のみ。これでル級の片割れを沈めたとしても、もう片方がアラスカを沈めるだろう。自慢の速力を活かして避けることもできない。なんたってアラスカは仰向けに倒れているのだ。砲弾を障壁で防ぐことは不可能。アラスカは戦艦ではなく、大型巡洋艦。ル級の砲撃を防ぐほどの障壁は展開できない。
孤立した艦はなんと脆いものか。せめて相打ちに! ル級に照準を合わす。アラスカは思わず目を見開いた。
ル級の砲口はアラスカではなく、全く別の方向に向いていた。1隻ではない。2隻共だ。
そして声が聞こえてくる。
「アラスカを沈めさせるなぁあああああああ!」
中破したペンサコーラを陣頭に他の全ての艦娘が後ろに続いていた。他の深海棲艦はどうした!? アラスカは混乱したが、簡単なことだった。全滅したのである。強力な深海棲艦である戦艦ル級、タ級全てをアラスカが押さえていたので、他の艦娘はスムーズに戦えたのである。
「各艦撃てぇええええ!」
8インチ砲、5インチ砲、4インチ砲、3インチ砲、12.7㎝砲、長10㎝砲。大小様々な砲弾がル級に向かって飛ぶ。しかし、ル級が展開する障壁はそれらを全てはじき返す。
「やっぱり!」
艦娘達の一撃必殺兵器である魚雷はすでに使い切っている。ル級に対抗する手段はほぼない。ル級の反撃。砲口を先頭のペンサコーラに向ける。
「ここは私が!」
ペンサコーラの前にインディアナポリスが飛び出す。インディアナポリスは障壁を全力で展開した。
放たれた砲弾は寸分の狂いもなく、障壁を破り、インディアナポリスに命中。インディアナポリスは大破する。
「全長は下手な戦艦並みの大きさはあるんだ。これくらい……! フブキいけ!」
「行きます!」
ペンサコーラの後ろにいたオマハ、マーブルヘッド、トレントン3人がかりで吹雪の足裏に手を当て、押し上げるようにして吹雪をル級の方に投げ飛ばした。
空を飛ぶ吹雪。手には「瑞草」。それを両手で大きく振りかぶっている。ル級に有効打を与えれるのは吹雪だけなのだ。
ル級は砲口を吹雪に向けて、砲弾を放つが、急な照準変更である。狙いは定まっていない。当然外れた。
落下の運動エネルギー。吹雪の力一杯の振り切り。「瑞草」が纏う障壁の鋭さ。
「てぇぇええええええええいや――――――――――――――――――!」
全てを合わせて吹雪は上から下、障壁すら切り裂いて、ル級を唐竹斬りした。真っ二つに割れるル級。
もう一体のル級が着地した瞬間の吹雪に左腕の砲で撃とうとする。しかし、それはできなかった。ル級の左腕が12インチSHS砲弾で吹き飛ばされたからだ。
「忘れてもらっちゃ、困るよ」
服も艤装もボロボロになったアラスカが不敵に笑う。唯一残った12インチ三連装砲の砲口からは発砲炎が薄く上る。ル級は歯噛みした。右手の砲を吹雪に向けるが遅い。
吹雪は「瑞草」の切っ先に障壁を集中。障壁を貫き、ル級の喉に刺突を繰り出した。喉を突き刺した感触はまるで水餅に差す爪楊枝のように柔らかかった。吹雪は「瑞草」を引き抜く。
ル級は喉から噴水のように、口から吐き出すように血を出した。何か言いたげにル級は口を動かしたが、吹雪は容赦なく、首をはね飛ばした。首は放物線を描いて、少し離れた海に落ちた。体の方は立った姿勢を維持しながら、ゆっくり沈んでいった。
それを確認すると、吹雪は「瑞草」を振って、血を払い、鞘に収めた。そして、ふぅ、と一息つくとへたり込んでしまった。
「疲れた…………」
倒れ込んでしまいたい。そう思った。海は静かで、いつの間にか雨も止み、波も穏やかだった。月も出ている。今日は半月だ。
「ほら立って。潜水艦にやられるよ」
大破して服も艤装もボロボロになったアラスカが吹雪に手を差し出した。吹雪は立ち上がろうとするが、うまくいかない。
「緊張が解けて、力が入らないみたいです……。はは」
「あんたは歴戦の艦娘なんでしょう? それでどうするの? 帰投するまでが作戦よ」
「そう……ですね」
最終的にアラスカだけではなく、ファラガットと初雪に支えられて吹雪は立つことができた。
「周囲に敵影は……レーダー壊れてるからわかんないや」
アラスカはSGレーダーは砲塔2つが破壊されたときに破片が当たって壊れていた。性能の良いSGレーダーを積んでいるのはアラスカ、インディアナポリス、吹雪だけで、その3人ともレーダーは戦闘によって壊れていた。
「はい、ありません。たぶん」
最終的に白雪が搭載していた22号対水上電探で確認し、司令部に敵艦隊撃滅の報告を行った。
日の出と共にTF101を迎えに来たのは2機のヘリコプターCH-54タルへだった。
空中クレーンとも呼ばれるCH-54 タルヘの細い胴体部分からは鋼鉄製のベンチが数個、ワイヤーで吊され、そのベンチに艦娘達は座る。これは艦娘のヘリを使った緊急展開と緊急帰投として考えられたものだ。
「朝日が綺麗」
「そうね」
吹雪とファラガットは同じベンチに座っていた。吹雪とファラガット、両方とも服は所々破れていて、深海棲艦の血のしみができている。
「あんな技どこで習ったの?」
「技ってこれのこと?」
ファラガットの問いに吹雪は腰に差している「瑞草」を指さして尋ねる。ファラガットはうなずく。
「天龍さんと龍田さんに習ったの。あ、天龍さんと龍田さんって分かる?」
「ああ、あのオンボロ軽巡」
「オンボロって……おかしくは、ないか」
天龍型は1917年建造の古い船だ。金剛型も同じくらいではあるが、天龍型は金剛と違って、大規模改装も何もしていない。よくあれで太平洋戦争の第一線を戦っていたものだ。
「それはそうとして、私が剣を習ったのは天龍さんと龍田さん。2人は実戦における刀剣の実用性についてずっと検証してて、そんなに艦娘も多くなかった頃に暇つぶしとして習わせられたの。今になってあれが活きるとは思わなかったな」
刀に障壁を纏わして敵を斬る、というのも天龍と龍田が開発したものだ。発明した時はかなり褒め称えられたのだが、実際の所、刀を実戦でまともに使っている艦娘は今でもあの2人くらいのものだ。使い時がかなり微妙なので刀などの近接武器は使わない艦娘の方が多い。それ以前に刀は正式装備ではない。
「じゃあ、その刀もテンリュウとタツタからもらったの?」
「違うよ。この「瑞草」は日向さんからアメリカに行くお祝いとしてもらったの」
吹雪は「瑞草」の柄を左手で握る。ファラガットは最初、ヒュウガがどの艦だったか思い出せなかったようだが、ヒュウガ……ヒュウガ……と呟いている内に思い出したようで、
「ああ、あの空母か戦艦か中途半端な奴」
間違ってはいないね。吹雪は心の中で呟いた。
「日向さんと伊勢さんも結構刀の練習はしていたな」
あの2人に剣を習うことはなかった。代わりに瑞雲の話なら結構聞いた。主に日向さんから。
「あたしもそういうの使いたいな」
「へえ。ショーもそんなこと言ってたよ。アメリカならトマホークかサーベルか、そんな辺り?」
「そう……だね。メデューサ辺りに頼んでみるかな」
そう言って、ファラガットはセントローレンス湾がある方角を見た。ヘリコプターというのは艦と違って速いもので、すでにセントローレンス湾が水平線の手前に見えていた。
3話ぶりの吹雪です。頑張ります。活躍します。
今回の補足解説。刀に纏わす障壁について。
艦娘や深海棲艦が発生させる障壁は意識の仕方によって形を変えます。防御にも使えますし、訓練すれば攻撃にだって転用できます。直接的に言うなら、見えないけれどものすごく硬い物体を発生させる、というところでしょうか。
刀を使っているのはあくまで、イメージ(意識の仕方)がしやすいからです。イメージさえできれば鉄パイプでも同じことができます。
最後に出たCH-54タルへですが、皆さんも一度調べてみてください。面白いヘリコプターです。
裏話的な話をすると、CH-54タルへは「強襲! バミューダ諸島」の最後で登場させる予定でした。C-130を離陸させるために敵深海棲艦と交戦していたら置いて行かれて、吹雪達は自分たちで帰るのですが、途中でタルへが迎えに来るという話でした。しかし、この案はバミューダ時にはキャラクターが暴走(作者の暴走?)して、終わらしてしまったので没に。そして今回で復活というわけです。
感想などお待ちしています。