雪の駆逐艦-違う世界、同じ海-   作:ベトナム帽子

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艦これ二周年、おめでとう! ありがとう! 全ての艦娘と、300万の提督に、感謝の心を!


第12話「ハイビスカスの花」

 戦闘の終了と同時に朝を迎えた吹雪達と第82空挺師団は朝食を取っていた。

 ファラガットはレーションのスナックパンをかじる。

「不味い不味い不味い……不味い!。何よ、これ!」

 ケミカルな味。もそもそした食感。あまりの不味さにファラガットは臆面もなく、叫んでしまった。

「お嬢ちゃん、MREは初めてかい?」

 近くで、コーヒーを飲んでいた隊員がにやにやしながら尋ねた。ファラガットは頷く。

「保存料たっぷりだからね。実に薬っぽいだろう。これが現代アメリカ軍のレーションだよ」

 レーション。軍事行動中に兵士達に配給される食糧のことである。アメリカ軍はMRE(Meal, Ready-to-Eat)というレーションを採用、配給している。

 このMREは実に保存性、耐久性は実に良いのだが、美味しさというものが欠落してしまった代物である。

「栄養はちゃんとしてるから……まあ、戦闘は大丈夫だと思うよ」

「大丈夫じゃないわよ。食事の美味しさは士気に直結することよ。なんなのこの味は!」

「そう言われてもなぁ……。でもコーヒーだけは市販しているものと同じだから、美味しいよ」

 隊員の言うとおり、コーヒーは普通の味だった。しかし、他のものは不味い。

 クラッカーはピーナッツバターを付けて食べるのだが、クラッカーはぱさぱさだわ、ピーナッツバターは粘着材のように口の中にまとわりついて、水なしでは飲み込めない。肉はビーフだったが圧縮肉、いわゆる合成肉だ。これもケミカルな味がする。無煙加熱用ヒーターで暖められたのは幸いだった。

「どう思う?」

 ファラガットはなぜか顔を真っ赤にしながらパンをかじっている吹雪に味を尋ねた。

「白ご飯が欲しい」

 吹雪が食べているのはスナックパンなのだが、チリ味で、ハラペーニョとかトウガラシを薫製したものがはいっているパンだった。ハラペーニョを噛みつぶすとものすごく辛い。

「日本のレーションは美味しいのに……なんでアメリカのは……うう」

 不味い。そう、不味いのだが、残すわけにはいかない。お残しは許されない。

 吹雪は日本のレーションの味を思い出す。あれは缶詰の炊き込みご飯や赤飯、鯨の大和煮、たくあん。ああ、なんと懐かしく遠い味か。

 海軍は基本的に飯はうまい。兵員数が限られる海上では士気がものをいう。そこで大事になるのが、艦内の雰囲気や飯なのである。飯がうまかった艦は武勲や長生きした艦が多い。

 吹雪は目尻に涙を浮かべながら、MREを食べ続けた。

 

 朝食を食べ終わると遺体を運ぶ作業。吹雪達は艤装の弾薬や燃料の補給を済ませると、それを手伝った。

 飛行場には陸上型深海棲艦の死骸に混じって、第82空挺師団隊員の遺体が何体も転がっている。

 銃創による出血性ショックで死んでいる者は少ない。撃たれた者は後退して、すぐに衛生兵の治療を受けれたからだ。

 それではどんな遺体が多いか。それはミンチになった遺体だ。『でかいの』こと、複眼ワ級の触手によりつぶされた者が多かった。人の形を残さない、ただの肉片と粉々になった骨が地面にシミになって残っている。

 正直、遺体運びではない。肉片と骨を死体を入れる布袋に1人分ずつ入れていく作業だ。吹雪、白雪、深雪、初雪は合掌してから、肉片や骨を触る。

 何人かの新兵が朝食を吐き戻した。すまない、と新兵達は謝ったが、気にすることはないと吹雪達は慰めた。

 吹雪達は死体になれている。甲板で、艦内で、海でこれよりひどい惨状は見てきた。だからこんな遺「体」とも呼べないものを布袋に入れていくのも抵抗は少ない。しかし、辛い作業だった。

「左手の薬指がない。近くにない?」

 吹雪はぼうぼうに伸びた草をかき分けて捜すと、すぐにちぎれた薬指は見つかった。指輪がはまった薬指が。

「ああ……」

 吹雪は丁寧に拾い上げ、死体袋の中にそっと入れた。

 

 第1小隊小隊長の補佐軍曹は複眼ワ級の前に立っていた。

「ざまぁみろ、ってんだ」

 死に絶えた複眼ワ級は砲撃により、見るも無惨な死骸だ。頭を垂れ、陸に上がったことにより発生した複眼は片目がぐちゃぐちゃになっている。

 軍曹はナイフを抜いた。ナイフで死骸の肉を切り出す。食べるのではない。深海棲艦のサンプルを回収しているのだ。切り出した肉をビニール袋に入れる。

 米軍にとって、複眼ワ級の存在は予想外だった。米軍も本土戦にて深海棲艦と激戦を繰り広げているが、あくまで戦線維持に努めている。海からの補給を途絶えさせることができない以上、海岸地域まで奪還しても意味がないからだ。

 そのこともあり、深海棲艦の死骸などはあまり回収ができない。そのため、研究はあまり進んでおらず、芋虫めいた深海棲艦の母体自体が存在するとは思わなかったのだ。この機会に芋虫深海棲艦の母体である複眼ワ級のサンプルを手に入れれたことは僥倖だった。死んでいった隊員達も決して犬死にではない。

 

 昼過ぎ、地獄の食事を済ませた後、小隊長は吹雪に謝った。

「君達みたいな女の子に遺体運びを手伝わせてすまなかった」

「いえ、そんな……私達は艦娘です」

「それでもだ」

 小隊長は複眼ワ級の方を見た。目を細める。

「君達がいなければ、我々は壊滅していただろう。まだ87名の戦死ですんだ。感謝している」

「私達だって、軍に所属している身です。当然のことです」

「そんなこと言わないでくれ。守るべき存在に守られるのは自分が情けなく感じる」

 小隊長は座り込んだ。吹雪も座る。

 守るべき存在。やはり艦娘というのは普通の人間からすれば、ただ少女にしか見えないのだろう。その身に艤装を取り付け、砲や魚雷を扱ったとしても。

「もう遺体運びは手伝わなくていい。代わりにだな、」

 小隊長は少し気恥ずかしそうに、頬を掻いた。

「花を摘んできてくれないか?」

 

 統合軍司令部は騒がしくなっていた。大西洋を哨戒していたU-2Sドラゴンレディから深海棲艦動きあり、との報告を受けたからである。

 東海岸のノーフォークから空母クラス数隻を中核とする群体が西に向かっている。

 西インド諸島から巡洋艦を中核とした群体が北西に航行中。

「半日か。予想以上に早いな」

 ハドリー海軍大将は大西洋の地図を前に唸った。深海棲艦が動き出す予想日は2日後。実に4分の1の早さである。

「それでも、遅すぎるよりかはいい」

 バミューダ諸島を強襲した艦娘達や第82空挺師団への補給物資は全て夜間の空輸をする予定だったとはいえ、制海権も制空権もないのだ。何度も繰り返し空輸を行えば、夜間といえども撃墜される危険性は高まる。

 統合軍司令部はすぐに撤退命令を出し、C-130ハーキュリーズの発進を命じた。

 

 日は西に傾き、朱い光を放つ。

 全ての遺体、87つの袋が1箇所に集められた。すべての袋にはハイビスカスの花が手向けられている。ハイビスカスの花言葉は「常に新しい美」、「勇敢」。米軍一勇敢だと自負している第82空挺師団に相応しい花かもしれない。

「敬礼っ!」

 生き残った者達は戦死者の前に並び、敬礼。敬礼する者達の中には艦娘6人もいる。

 もし、私達がキャッスル港の深海棲艦を早く殲滅できていたら、戦死者はもっと少なかっただろう。吹雪はそんなifを考える。

 しかし、ifは許されない。もう過ぎてしまったことだ。死人は帰ってこない。戦場の不文律だ。

 西の水平線に太陽が沈む。バミューダ諸島は夕日で朱く染まっていた。

 

 夕日を背に1隻の深海棲艦がバミューダ諸島を見つめていた。

 潜水艦カ級だ。頭だけを海面に出している。

 哨戒から戻ってみれば、仲間達はみんなやられている。救援を求めたが、来るのは2日後だ。カ級は長く垂れた前髪の中、唇をかんだ。

 陸上攻撃をしたら、仲間達を沈めた艦娘共が自分を攻撃しに来るだろう。相手は手練れ。自分も沈められる。自分の武装は威力の小さい砲と魚雷だけ。陸上攻撃を敢行しても、たいした損害を与えられないだろう。ノーフォークと西インドから救援が来るまで、待つしかない。

 

 バミューダ諸島の夜は星が綺麗だった。初雪は夜空を見上げる。

 昨日は戦闘に集中していて、気づかなかったが、呉から見る空よりも星々が元気いっぱいに輝いている。

 初雪とファラガットは探照灯を構え、滑走路の東端に座っていた。なぜ、2人がそんなところにいるかというと、もうすぐ撤退用のC-130輸送機が来るからだ。

 バミューダ国際空港の発電機は壊れていて、着陸誘導灯などが点灯しない。闇夜の飛行場に飛行機が着陸をするなど自殺行為だ。だから艦娘が探照灯で滑走路を照らし、着陸の補助を行う。ちなみに他の艦娘は第82空挺師団の手伝いをしている。

 もうすぐこのバミューダ諸島ともお別れだ。

「初めての大西洋はどうだった?」

 ファラガットが初雪に聞いた。太平洋に比べ、大西洋は荒れ狂う難海ともいわれる。初雪は今まで太平洋とインド洋しか航行したことがない。大西洋に本格的に出たのは初めてだった。

「結構波が荒い……。台風の時よりもかなりマシだけど」

「常時、西太平洋の台風クラスの波だったら、誰もアメリカを発見できないわよ。近代の艦でも沈むレベルよ、あれ。あ、来たわよ」 

 ファラガットが夜空を指さす。夜空に移動する白い光が18つ。C-130輸送機3機だ。

 探照灯のレバーを引き起こし、シャッターを開ける。10万カンデラの光軸2本が滑走路を照らした。

「深海棲艦がいなくなれば、また観光地として復活できるでしょうね。バミューダ諸島は」

「うん……」

 戦死者に手向ける花を探すため、昼に海岸を歩いたのだが、バミューダの海はコバルトブルーの綺麗な海だった。初雪は太平洋の観光地になっている海はたくさん行ったことがあるが、この島の海は上位に入る。

「ハツユキ、この戦いが終わったら……どうする?」

「どういうこと?」

「あたし達は人の姿よ。深海棲艦を滅ぼしてた後、解体……なんてたぶん、されない。そのあと、何して生きる?」

「そんなこと……私はあまり考えたことない」

 私達、艦娘は人の体を得たといっても、艦という意識は根強い。そのまま、海上兵器としての生涯を選ぶ艦娘の方が強いのではないだろうか。初雪はファラガットの発言を意外と思った。

「あたしはちょっとね、キャビンアテンダントになりたいなぁって」

「キャビンアテンダント?」

「あんがい、空のお仕事って楽しいんじゃない? 色んな所行けるし。飛行機は簡単には落ちないみたいだし、空飛ぶのは今もちょっと怖いけど、面白そうだから」

 C-130が近づいてくる。ターボプロップエンジンの音が轟々と響く。ファラガットの声が聞こえづらくなる。

「まあ、かなり先の話だけどさ」

 声は轟音と爆音で完全にかき消された。ターボプロップエンジンの音とは異質な音に初雪は振り返る。

 着陸態勢に入っていたC-130は左翼から火が出ていた。

 海上で閃光。砲撃だ。C-130の胴体が貫かれる。左翼が折れる。

 C-130は錐揉みして、海に突っ込んだ。航空燃料に引火。滑走路前の海が炎に包まれる。

「前言撤回するわ」

 ファラガットは燃える海を見たまま、言った。

「あたし、キャビンアテンダントにはならない」

  

 当たった! 落ちた! やった!

 C-130を撃墜したカ級は大喜びしていた。潜水艦がそうそう飛行機を落とせるものではない。着陸寸前のを狙ったとはいえ、撃墜は撃墜だ。

 補給線を寸断するのは戦略戦として常識である。対空攻撃という潜水艦の本領から、かなり外れてはいるが。

 カ級は潜行する。夜は潜水艦の世界。艦娘がのこのこと出てくれば、撃沈してやる。輸送機が降りてくれば、タイミングでゲリラ的に浮上し、輸送機を撃墜するのだ。

 このまま、敵を干上がらせてしまえ! 

 

 もう深海棲艦の援軍が来たのか? 初雪は22号対水上電探と13号対空電探で敵影を探した。電探に感はない。しかし、閃光が走り、輸送機は落ちた。敵は確実にいる。だったら水面下。潜水艦だ。

 残念ながら、初雪は対潜装備を持っていない。爆雷すらない。空挺降下する上で邪魔なので、下ろしているのだ。主砲で対応するしかないが、水中弾はない。

「ファラガット、対潜装備は……ある?」

「パッシブソナーなら」  

 ファラガットは苦虫を噛み潰したような顔で答える。ファラガットも初雪同様、爆雷は空挺降下に邪魔なので下ろしてしまった。ソナーを装備しているのは脚部艤装に標準装備しているからだ。アメリカ製なのだから、九三式水中聴音機よりはかなりマシな性能のはずだ。 索敵はどうにかなる。しかし、攻撃ができない。爆雷もなく、水中弾もないのではラムアタックしかない。だが、都合良くラムアタックできる位置に敵が浮上するわけもない。

「引きこもりたい……」

 しかし、敵を撃沈しなければ引きこもることもできない。初雪はため息を吐いた。そして覚悟を決めた。

 魚雷発射管を外して、投棄。12.7㎝連装も投げ捨てる。長10㎝連装高角砲はファラガットに渡す。

「え、何する気!?」

 脚部艤装を外し、靴も脱ぐ。裸足で海面に立つ。熱帯の暖かい海水が心地よい。スカートを脱いで、背部艤装を外す。浮遊能力がなくなって、体が沈む。

「な、ななな、なな、何やってんの!」

 ファラガットの声に応えず、初雪はセーラー服を脱ぐ。今の初雪は下着のみで海面に頭抱けだしている。

「潜水艦を引っ張り出すの。ほら、高角砲返して」

 開いた口がふさがらないファガラットは言われるがままに初雪に長10㎝連装高角砲と魚雷を返した。初雪は長10㎝連装高角砲を

「泳ぐのは得意だから。ファラガットは敵潜水艦を探照灯で照らして」

「……………わかった」

 初雪にはファラガットが本当にわかっているのか、わからないが、敵潜水艦に探照灯を照射してくれることを信じて潜った。

  

 なんだ? カ級は目を疑った。

 海中に1本の光軸。それが何かを探すように動いている。カ級は海面から顔を出して光軸の正体を確認した。

 1隻の艦娘が探照灯で海面を照らしていた。確かに探照灯で潜水艦を探す方法は確かにある。しかし、それは航空機による潜水艦の探し方だ。艦がやる方法ではない。

 ははあ、なるほど。私を探しているのか。しかし、自分の居場所を教えているようなものだ。素人め。自分の行動が引き起こした不幸を呪うが良い!

 カ級はファラガットに向けて、魚雷を扇状に8発放った。

 

 ファラガットは魚雷発射音をソナーで捉え、回避行動を取りながら、探照灯をカ級に照射する。しかし、急速潜行。夜の闇は潜水艦の味方だ。探照灯で照らされようと1度見失えば、再度発見するのは困難である。

 しかし、初雪にはその1度で十分だった。カ級目指して泳ぐ。

 初雪は水中でカ級の長い髪の毛を左手でつかみ、引っ張る。そしてカ級の頭に長10㎝連装高角砲を突きつけた。

 沈め。

 引き金を引く。高角砲弾が障壁を貫通し、カ級の頭に飛び込む。艤装なしの威力であっても、潜水艦級の障壁なら十分貫通できる。

 カ級の頭の中で炸裂。カ級の脳みそを海中に撒き散らかす。

「ぐっ――――!」

 炸裂の衝撃波が初雪を襲う。水中での衝撃波は空気中に比べてかなりの威力を持つ。艤装がなく、障壁を展開できない今の初雪は衝撃波をもろに受けてしまう。腹を思いっきり殴られたかのような感覚。思わず、胃の内容物を吐き出す。そして肺の空気も一緒に吐き出してしまう。

 体の力が抜けたせいか、体は自然に海面に浮かび上がった。目一杯、新鮮な空気を吸いたいが、腹に走る激痛が呼吸の邪魔をする。

 生身で戦うとか、ありえない。やっぱり引きこもっていれば良かった。初雪は後悔した。

「大丈夫?」

 ファラガットが漂う初雪に聞いた。初雪は力なく首を振って否定する。

「もう敵はいないようね。ほら、立って……ってできないか」

 そう、初雪の艤装は全て海の底。今の初雪は人間の少女と変わらない。なので、ファラガットは初雪をお姫様だっこで抱える。

「勇気あるのね。そんな風には見えなかったけど」

 艤装なしではただの女の子と同じというのは、艦娘になってまだ数週間しかたっていないファラガットでも分かっている。艤装を捨てて戦うなんて、正気の沙汰ではない。

「お――――い!」

 押っ取り刀で駆けつけた吹雪、白雪、深雪、カッシング。遅すぎるのだが、対潜装備は誰も持っていない現状、どうしようもなかっただろう。

「なんで、初雪ちゃん……下着姿なの……?」

 ファラガットはことの成り行きを説明する。皆の顔が引きつった笑いに変わっていく。

「初雪ちゃん、そんなことやったの……。日頃引きこもる、引きこもるって言ってるのにいざっているときは謎の行動力を出すし……」

 吹雪は困ったようにため息を吐く。ファラガット自身は吹雪に固執していたので、初雪のことはあまり見ていなかった。何となくおとなしい艦娘という印象はあったのだが。

「ああ、そうだ。輸送機に知らせないと」

 C-130は攻撃を恐れて、島の上空をぐるぐる回っている。このままでは降りてきてくれないので、無線で脅威は排除した、と伝える。

「このままじゃ、ハツユキが風邪を引くから戻ってる。警戒任す」

「うん、任された」

 

 初雪は輸送機の機内で毛布に包まれ、静かに寝息を立てていた。

 初雪とファラガットが戻ると、初雪の姿に第82空挺師団の隊員達も驚きの顔を見せたが、事情を説明すると、ある者はジャケットを貸し、またある者はシェリダンの燃料を入れたドラム缶で焚き火を起こし、ある者はお湯を沸かして、コーヒーを入れた。

 焚き火に当たりながら、コーヒーを飲むと、初雪は眠ってしまった。かなり疲れていたのだろう。

 窓もテレビもない機内は退屈だったので、初雪以外の艦娘達は強襲作戦の振り返りをすることになった。改めておのおの戦果を言い合い、ファラガットが渋い顔をして、MREの不味さについて語り合い、吹雪がスナックパンの辛さについて叫び、ファラガットが突然服を脱ぎだした初雪への驚きを話、最後にこの作戦のMVPは誰だ、という話になった。

「強襲作戦のMVPはハツユキ。異論は?」

 ファラガットが言った。異論はなかった。

 

 余談ではあるが、後日、バミューダ諸島強襲作戦に参加した部隊にはシルバースター勲章が授与された。

 そして、強襲作戦から数年後のことになるのだが、初雪は生身での深海棲艦撃沈を「敵対する武装勢力との直接戦闘における任務の要求を越えた著しい勇敢さと生命の危険に際しての剛胆さ」として最高位勲章であるメダル・オブ・オナー、名誉勲章をハイビスカスの花と共に授与されるのだが、授与されることを初雪が初めて聞いたとき、彼女はこう言った。

「議会でみんなに見られながら、授与されるんでしょ。やだ、恥ずかしい、引きこもる」

 

 




 これで本当の本当に、第8話「空へ」から第11話「ハイビスカスの花」まで続く、バミューダ強襲作戦の話は終わり! 1話で終わる予定だったのに! なんと甘い見通しか! 
 そういうことで、バミューダ強襲作戦全体を総括するあとがきです。

 艦娘の空挺降下について。
 発想は「機動戦士ガンダム 第08小隊」OPと「機動警察パトレイバー劇場版」のヘルダイバーから。思いついたのが08小隊で、イメージを固めたのがヘルダイバーと言ったところです。

 陸上型深海棲艦について。
 これは9話のあとがきでも書いたように「海が魚なら、陸は虫だろ」という安易な発想です。
 奴らの性能に関しては海と同じように第二次大戦の戦車、武器レベルです。能力については地域差があります。
 戦車もどきは弱いものでルノーFT戦車、強いものでヤークトタイガーと言ったところです(ヤークトタイガーは戦車じゃない? 細かいことはいいんだよ!)。
 芋虫野郎は単発のボルトアクション小銃から自動小銃なみ、機関銃並みの連射力とかなりばらばら。対戦車能力は持たないものが多い。
 複眼ワ級は、普通のワ級が上陸、巨大化、虫化したものです。私としての印象は兵器工場と言ったところですかね。奴が芋虫野郎を生産します。奴の肉はたぶん淡泊な味わい。

 次に、M511シェリダンの戦闘。つまるところ、通常兵器有効説です。
 艦これ小説では通常兵器が深海棲艦に効かない設定の作品が多いですが、私としてはそれは面白くないのです。敵軍がどんなに強力な兵器を持っていて、自軍は最終的に壊滅するとしても、一瞬でやられるようじゃ、燃えない。
 この思いは、私が初めて読んだ小説であるH・G・ウェルズの「宇宙戦争」から来ています。トライポッドを撃破する砲兵隊(撃破した後、熱線で焼き払われた)、突撃するサンダーチャイルド(ラムアタックまでして三体撃破)。最高じゃないですか。
 というわけで、深海棲艦に通常兵器が効くようになったのです。でも深海棲艦兵器コピー能力により最新兵器は制限をかけることに。
 この設定のせいで、この作品の舞台がアメリカで、兵器が冷戦時代になっていたりします。配備されている兵器の種類、スペックがある程度分かる。圧倒するレベルではないが、苦戦するレベルの兵器。ということで舞台がアメリカ、兵器は冷戦時代ということに決まりました。
 これからは本土の反攻作戦が始まりますが、たくさんの陸上兵器と航空兵器が登場します。お楽しみに。

 さて、今回のMRE不味いという話。
 艦娘達に不味い不味い言わせましたが、最近のMREは結構マシになっているみたいです。それなりに美味しいのも多いとか。でも不味いという悪評は尾を引いて、今でもMREは不味いとよく言われます。

 初雪が服を脱ぎだした件について。
 私、何書いているんだろう? 書いている途中ずっと思っていました。いや、私としては面白いのだけども……たぶんこんな風に深海棲艦倒した描写したの、私が初めてなんじゃ? 発想がもうね、うん。あり得ない。不可能じゃないけど、ない。
 動力の艤装を装着していない場合でも砲は対戦車小銃くらいの威力があります。

 では次回予告!
 MREのまずさによって、吹雪達、日本からやってきた艦娘は日本のご飯が恋しくなった。しかし、アメリカで栽培されていた米は今年は病害で手に入らない。うなだれる4人。それを見かねたアメリカの艦娘達は徹夜であることをしたのだった。
 次回、「米とパンと味噌汁とスープと」。

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