八幡「765プロ?」   作:N@NO

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たまには、こんな休日があるのも悪くない。

 

場所が変わり、新宿駅。

千葉駅も工事が終わりだいぶ栄えた感じが出ているが、それとはまた一つ違った感じを見せている。

 

高校から事務所に向かう時や営業の引率で行くときにも新宿駅を使うことがなかったため、実は初新宿駅だったりする。

迷路やダンジョンとして名高い新宿駅のその構造は、地方から出てきた人たちを困らせるだけでなく、純粋な首都圏民すらも迷わせるという。

つまり、どういうことかと言うと、

 

「…完全に迷子だな」

 

東京に来ることすら、今までほぼなく千葉県のみで完結していた俺に、この最難関ダンジョンの一つである新宿駅は早かったらしい。

 

音無さんに頼まれたものを買いに行こうとしたところで、事務所に集まっていたアイドル達にも必要なものを買ってきていいですよ。という音無さんの一声で、どうせなら一緒に、とアイドル達と新宿まで来たのだが、この通り一人はぐれてしまっていた。

 

取り合えず、天海にラインを送っておいたのだが、向こうがいつ通知に気づくかわからんからな。

 

「仕方ない、返事が来るまで、頼まれていたものでも買いに行くか」

 

事前情報と、駅の各地点に設置されている夥しい量の情報を何とかかき分け、新南口を抜ける。改札を出ると、どこかで見たような景色が広がる。

 

なんというか、東京も千葉も栄えているところは大体似たような景色しているんだよな。

SOGAとか高岬屋とか、あとは…ドンキ?

 

新宿にはもっと別の独自の店があるんだ、と由比ヶ浜あたりにいろいろと言われそうだが、正直男子高校生のファッションなどに興味のないものからしてみれば、それは背景と同じで目につかない。

 

洋服屋や美容院よりも、男子高校生は各地域特有のラーメン屋に心を躍らせるのだ。

 

実は今向かっている場所も、男なら少し心がときめく店。

改札を抜け、少し歩いたところのデパートの8階。

緑地に、人差し指で何かを指さす特有のデザイン。

 

そう。東急ハンドだ。

ステーショナリーコーナーひとつとっても、このワクワク感。

別に必要ないのだが、無駄にギミックやマルチツールが組み込まれているものを見ると、なぜか欲しくなってしまう。

 

折角来たわけだし、頼まれていたものとは別で、俺も何か買おうかしら。

新発売、とでかでかとPOPの掲げられた商品に手を伸ばそうとした瞬間、ポケットの中のスマホが震えた。

画面に表示された通知は、天海。

どうやら、こっちのことを探してくれていたらしい。

こういうところが団体行動ができないやつ、と言われる所以なのかもしれない。

申し訳なさ半分、にこっちは音無さんに頼まれていた用事を済ませてくから、そっちは自分たちに必要なものを見て回っているよう返信を送る。

ちなみに残りの半分は不明。大体バッファリンと一緒。

 

これで、心おきなく買い物の続きができる。

 

スマホをしまうと、先ほど目に留まっていた多機能ボールペンに手を伸ばした。

 

♦ ♦ ♦

 

~天海春香side~

 

「プロデューサーさん、音無さんに頼まれてたもの一人で買ってるって」

 

新宿駅構内でプロデューサーさんを探しながら、駅ナカのお店をウィンドウショッピングしていると先ほど送ったメッセージに対する返信がすぐに来た。

どうやら、こちらが駅を探しているときには既に改札を抜けた後だったらしい。

 

「えー、なんだよ、せっかくこっちが探していたのに」

 

野球帽を被った真が少し不満げに唇を尖らせた。

 

「まぁ、私たちもすぐにラインに気づけなかったから、仕方ないよ」

 

そう言うと真がそれもそうか、と納得した様子を見せる。

実は、最初にプロデューサーさんとはぐれたことに気づいたのは真だった。

もしかしたら、真もプロデューサーさんのことを?

 

「って、“も”ってどういうことだろ」

 

たはは、と意味もなく声を出してよく分からない気持ちを濁す。

 

「どうしたの、春香」

「ううん、何でもないよ、千早ちゃん」

「でもなんか、はぐれても気にせず一人で買い物を続けちゃうなんて、プロデューサーさんらしいといえばらしいよね」

 

そう言うのは雪歩。

淡い色のペレー帽にマスクを着けているが、どことなく雪歩の優しい雰囲気が出ており、少し離れたとこからでも私たちからすればすぐに雪歩だとわかる。

 

「もしかして、私たち変装してるから、プロデューサーさん見失っちゃったとかあるのかな」

 

ふと、浮かんだ考え。

まさか、とは思うけれど、プロデューサーさんだから、と言われると納得してしまうような微妙なラインの発想。

 

「うーん、春香も微妙なところをつくなぁ。YesともNoとも言えないんだよな」

「真ちゃん、さすがにそれはないんじゃないかなぁ。だって、千早さんは変装していなんだし」

 

雪歩の目線の先にいる千早ちゃんは、確かに特に何もしていない。

カーディガンを羽織り、細めのジーンズ。

シンプルなコーデだが、千早ちゃんはスタイルが良いためスタイリッシュに見えるのだから、流石はアイドルだな、と思う。

 

「ともかく、プロデューサーが言うように、私たちは私たちで目的を済ませましょうか」

「そうだね」

 

折角の新宿だし、あまり難しいことを考えていてもつまらないよね。

よーし、今日はいいアイテム見つけるぞー!

 

× × ×

 

場所が移って雑貨屋さん。

やっぱり、こういうところに来ると少し心がワクワクする。

なんというのだろう。小さいころ、髪留め一つを選ぶのにじっくりいろいろと見比べているときに近い何かがやっぱり心のどこかに残っているのかもしれない。

 

「あ、見てよこれ。こういうのってまだあるんだなぁ」

 

そういう真の指さす先には、かわいらしいクマがプリントされた自己紹介カードがおかれていた。

 

「確かに懐かしいね、私もみんなに配ってたなぁ」

「春香ちゃんは配るほうだったんだ。私は、いつも渡されて書くほうだったなぁ」

「僕も書いてって頼まれるほうが多かったかな。というか、すごい量書いてた記憶があるよ」

「それは、真ちゃんがかっこいいからだよ」

「えー、そんなことないって」

 

何だか、こういう話をするのは久しぶりな気がする。

最近はライブのことがあって、それどころじゃなかったからかな。

こんな時間もたまにはいいよね。

 

「千早ちゃんは?配ってた?それとも貰ってた?」

「私は…」

 

先ほどまでうつむいていた千早ちゃんは一瞬顔を上げるが、言葉とともに再び目線が落ちていく。

どうしたんだろ、千早ちゃん。

 

「私は…、そういうことには、あまり興味がなかったから」

「そっか」

「そう言えば春香ちゃん、何か変装用によさそうなものはあった?」

 

あまり触れてほしくなさそうにしているのを察した雪歩が話題を変えるようボールを投げてくれる。

 

「そうだなぁ。ちょっといいなって思っていたのは、眼鏡かな。ほら、どう?」

 

そういって近くの回るスタンドにかけられた大量の眼鏡の中から、よさげな黒縁眼鏡を手に取りかけてみる。

 

「お、いいんじゃない?」

「そかな?」

 

ちょっと得意げに眼鏡をクイッと上げる。

 

「うーん、でも、まだ春香ちゃんてわかるよね。やっぱりそのリボンが」

「え」

「それ外したら?一気に誰だかわからなくなるよ」

「ヒドイッ!?」

 

流石にそれは言いすぎじゃないだろうか?

確かにトレードマークは頭のリボンだけれども。

 

「ごめん、ごめん。冗談だよ、春香」

「もう、真ったら」

「それじゃあ、帽子はどうかしら?リボンも死角になって見えづらいだろうし」

「それはナイスアイデアだね、千早ちゃん!ヒドイこという雪歩と真とは大違いだよ」

 

悪かったって、と謝る二人がお詫びに、と少し歩いたところにあるお店で帽子を選んでくれた。

「どう?」

「うん、似合ってるわ」

「かわいい、春香ちゃん」

 

みんなの反応は上々だ。

鏡にうつる淡い色のキャスケット。

うん、確かに似合っている。

 

「えへへ、じゃあ、これにしよ」

 

ついでに黒縁眼鏡も買っておこうかな。

 

♦ ♦ ♦

 

~比企谷八幡side~

 

少し時間をかけすぎてしまっただろうか。

時計を見ると、先ほど天海に返信した時刻から大体一時間ほど経過していた。

思っていたよりも、音無さんに頼まれていた品が多く、5階6階へと行き来をしながら買い物をしなくてはならなかった。

 

だが、一通りそろったし、自分の気になったものも物色できたので良しとしよう。

まさかDr.Gripの新作シャープペンシルが出ているとは。

使うのが今から楽しみだ。

 

あいつらもそろそろ買い物が終わったころだろうか。

先ほど同様に天海にラインを送ると、すぐに既読の通知がつく。

どうやら、今は洋服を見ているらしい。

送られてきたURLをタップすると彼女らの現在地と思われる場所が地図アプリで表示される。

ここからだと5分ほどの距離だった。

 

待たせるのも悪いし、少し急ぎますかね。

 

× × ×

 

送られてきた店の前につくと、それっぽい三人組が更衣室付近にいた。

ガーリーな服がメインのこの店は、男性客が一人で来るのは珍しいのか少し店員に不審な目で見られる。

まぁ、不審な目でみられるのは今に始まったことではない。

小町との買い物で培った彼女らの知り合いというオーラを出しながら意を決して店に入る。

いらっしゃいませ、という牽制が背中をついたが、同時に萩原がこちらに気づいてくれたので、店員の警戒が解かれる。

 

「わるい、助かった」

「いえ、男の人だけだとここは居心地が悪いですよね」

 

そういえばここには三人しかいない。

如月はどこに行ったのだろうか。

そう萩原に尋ねようとしたとき、更衣室のカーテンが開かれた。

 

「ぷ、プロデューサー!?」

 

カーテンの先にはツインテールにリボンフリフリのガーリッシュな洋服に身を包まれた如月が立っていた。

 

「ち、違うんですっ」

 

いいなー、と羨ましそうな菊地とやり切った顔をしている天海とこの反応をしている如月を見るからには、そういうことなのだろう。

ふむ、まぁ、一応女子の洋服を見たのだし、プロデューサーとして一言言わないとな。

精一杯のほほえみを浮かべながら、

うう、と恥ずかしそうにこちらを上目遣いで見つめる如月にむけて、

 

「今度、こういう感じの衣装を着られる仕事探してくる」

「プロデューサーッ!」

 

さっきの語調とは異なった言葉が店いっぱいに響いた。

なんかその顔、腹が立ちますね、という菊地の言葉なんて聞こえなかった。

 

 




お疲れ様です。
昨日2年ぶり近くに更新したのにもう更新ですよ。
びっくりですね。(おまいう)

次はいつになるか不明ですが、できる限り早く更新できるよう頑張ります。

感想、意見、アドバイス等励みになりますので、是非ともよろしくお願いいたします。

それでは。

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