麻帆良在住、葛木メディアでございますっ!   作:冬霞@ハーメルン

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ちょっと短めで山も谷もないけれど、もう少し準備期間としてのお話が必要だろうなぁと。
早めに準備を終えて、原作に入ってしまいたいですね。
あと世界樹について、最初の話で「ギネスに登録されてない」って書いたけど、やっぱり登録されてることにしました。
麻帆良陰謀論の真逆を行く展開にしていきたいです。


Prologue〜11

 

 

 関東魔法協会とは、日本の西洋魔法使いたちが所属する組織である。

 端的に言えばその通りであったが、実のところ非常に複雑な組織だ。組織の成り立ちもそうだし、構成員もそうだし、その活動内容についても然り。

 文明開化の折に日本へと流入した西洋魔法は、新しいもの好きな日本人に瞬く間に広まった。当時、既に西洋魔法はカリキュラムが高度に整備されており、誰でも簡単に学ぶことが可能であるというのも、広まる大きい要因であった。

 そもそも各国政府は現在に至るまで非公式に魔法文明に関する組織を整備しており、日本に於いては陰陽寮がそれに当たる。しかし、時は西洋化の波の激しい明治時代である。政府の高官も当然、西洋魔法の研究と普及には大きな関心を寄せていた。よって陰陽術師や修験者、法力僧達は次第に日陰へ追いやられた。

 西洋魔法の隆盛期である。

 

 当然、古来より日本という国を支えてきた術者達は非常に面白くない。依然として彼らには仕事があった。日本は歴史柄、土地柄、魑魅魍魎を始めとする怨霊跋扈の国である。西洋魔法使い達が持て囃されていて、縁の下の力持ちを強要される。これでは貧乏くじだと彼らが憤り、キレてしまうのに然程時間はかからなかった。

 結果として関東魔法協会が本拠地とする麻帆良学園と、関西呪術協会が本拠地とする京都。この二つを中心に、日本の魔法文明は東西へ真っ二つに分かれてしまったのである。

 こうなってしまっては連携など望むべくもなく、政府と関東魔法協会が慌てても時既に遅し。関西呪術協会は自分たちの職務として日本各地の霊地の管理を始め、其処に西洋魔法使いが現れると猛烈に牙を剥く。政府に対しては協力的だが、西洋魔法使い死すべし慈悲はない、の姿勢をとってしまっていた。

 過去、魔法世界で未だ嘗て類を見ない大戦争が起こった時、その波及は旧世界と呼ばれる地球でも見過ごせないものだったのだが‥‥。そういう事情が曲解して魔法世界へと伝わり、何を勘違いしたのか勝手に関西呪術協会と小競り合いを繰り返す始末。双方に多くの犠牲が出たという事件もある。

 こうなると関係の修復は絶望的で、何とか仲違いを解消して円滑に裏の世界の運営をしたい政府と関東魔法協会は、厳罰を以って臨んだという。

 

 さて、成り立ちにそんな複雑な事情を抱える関東魔法協会であるが、表面上は非常に穏やかな状態を保っていた。原則的に健全性の強い組織であることも手伝い、公に魔法使いの学び舎として多くの生徒を受け入れ、麻帆良ではたくさんの魔法使いたちが日夜修行に励んでいる。

 その多くは学生で、あとは教師である。旧世界における魔法使いの本来の活動は、紛争の解決などに代表されるNPO活動だ。よって世界各地を飛び回っているのが基本で、それ以外の魔法使いたちは修行に励んでいるか事務仕事をしているか、といった具合であった。

 事務仕事には日本をはじめとする極東区域の魔法使いたちの管理などがあるが、もう一つ重要な仕事がある。関西呪術協会が管理する全国の霊地に一つだけ該当しない、麻帆良という霊地の管理がそれにあたる。

 

 世界樹。正式名称を『神木蟠桃』。ギネスブックにも記録される、世界最大最長樹齢を誇る巨木。毎年多くの観光客が訪れる麻帆良のシンボルは、当然ながら普通の樹木では断じてない。所謂、霊木。しかも有り余り漏れ出る魔力は土地に住まう人々に目に見えるほどの加護を与えるほどの類を見ないものだ。

 気と呼ばれる生命エネルギーに目覚める者の割合が非常に大きい。自覚しないにしても、オリンピックレベルの身体能力という形で発現する者は数えるのが億劫なぐらい。実際に麻帆良の卒業生達は多くが優秀なアスリートとして名高い。

 また世界樹の加護の下で暮らしているからか、非常に能天気な人間が多かった。魔法使い達が住む街であるから、どうしても不可思議な現象が多い麻帆良で、さしたる混乱もなく適当に「そんなものか」と済ませてしまえる人間が多いのは、これに起因する。じゃあ麻帆良の外だと詐欺にあったり事故に遭ったりと大変なんじゃあないかといえば、その動物的な勘の鋭さがそうはさせない。

 ただ住んでいるだけの人々ですら、そうなのだ。魔法使いを始めとする、霊的感覚が強く、溢れ出る魔力を活用する手段の知識がある者への恩恵は多大なものだ。

 魔法を学ぶ生徒達は他の場所で修行するよりも、麻帆良で修行する方が遥かに成長が早い。魑魅魍魎を退治する結界や、麻帆良学園に登録された者達への魔力の供給、アミュレットやタリズマンの作成など、様々な場所で世界樹の加護が重宝される。

 当然、外様の者達は面白い気分ではない。何とか政治的に、あるいは物理的に麻帆良の恩恵を得ようとあらゆる手段を尽くす。麻帆良が戦力過剰気味なのは決して無意味ではない。この手の連中の実力行使、そこまで頻度は高くはないが、確かに存在しているからなのだ。

 

 

「‥‥あのね、そんなに睨まれていると私も仕事がしづらいんだけれど?」

 

「睨んではいません。これは監視ですから、にこやかにというわけにはいかないだけです。今は何をやっているのですか?」

 

「霊脈との同期のための刻印を試作しているところよ。ちゃんと報告書は用意するのだから一々邪魔をしないでくれるかしら?」

 

「邪魔をしているわけではありません。これは必要なことです。作業が遅くなってしまうのは本意ではありません。どうぞ続けてください」

 

「‥‥貴女、贔屓目に言っても堅物と呼ばれたことはない?」

 

「ありません。こう見えても公私の区別はつけていますし、オンオフの切り替えもできているつもりです」

 

「そういう意味ではないのだけれど、まぁ、いいわ‥‥」

 

 

 世界樹広場の、人目につかない階段を降りた先。そこにはデートスポットとしても密かに人気な、六畳間ほどの小さな広場が存在する。

 それこそ人目につかず、カップルで行くなら一組ぐらいしか備え付けのベンチには座れないだろう。ここに入ってカップルと出くわしたら、その場に留まり続けられる猛者は早々いない。そんな小さくて秘密の香りがする広場だった。

 今、その広場に通じる階段には立ち入り禁止のコーンとポールが立てられている。魔法がかけられていて、無視して踏み入ることが出来ないようになっているのだ。

 広場には二人の人影。一人はデニムのジャケットと、帽子を被った妙齢の婦人。美しいスミレ色の髪が帽子からヴェールのように流れ、思わず振り返って追いかけてしまいたいほどの美人であることを確信させる。そしてもう一人は妙に丈の短いカソックを纏った東南系の顔立ちの美女である。

 

 

「こんな上司が相手ではミソラも大変ね。毎日萎縮してしまって、肩こりも酷そうだわ」

 

「中学生相手に肩こりの心配とは、貴女も優しいのですね。心配する必要はありませんよ、私の指導は適切です」

 

 

 わざとらしく重くため息をついてみせた神代の魔女、コルキスの王女メディア。今は葛木キャスターと名前を変えて、麻帆良女子中等部の寮母をしている。対して皮肉もサラリと受け流してみせたのはシスター・シャークティ。麻帆良教会で働くシスターであり、魔法使いだ。

 この広場は世界樹に最も近く、魔法使い達が世界樹の管理をするための場所である。今もキャスターは石畳を剥がし、露出した世界樹の根っこの一つに何やら古臭い道具を突き刺して水晶玉に浮かぶ揺らぎを観測している。彼女の持つ道具作成スキルで作り出した魔術具は、他のものでは何がなにやら分からない。

 シスター・シャークティから次々に質問が飛んでくる。決して邪魔になるほどのものではないが、かといって気分の良いようなものでもない。なにせ彼女は実に厳しい視線で、見るからに堅物といった風なのだ。キャスターとて決して不真面目な部類ではないが、この女史とは仲良くあんれそうな仲良くなれなさそうな、そんな微妙な感覚を覚える。

 

 

「‥‥信じてもらえなくても結構ですが、別に貴女を特別に警戒しているというわけではないのです。ただ世界樹の調査というのは非常に繊細な事柄でして、どうしても監視のようになってしまうのは、申し訳なく思っています」

 

「そう口に出して言ってくれると、こちらとしても歩み寄る気にはなるわね。まぁ、いいわ。私も宗一郎様も此処に骨を埋める気でいるわけですし、敵対するのはお互いにデメリットね」

 

「メリットとかデメリットとか、もうちょっと親しみのある言葉を使えないのですか貴女は」

 

「貴女にだけは言われたくないわ」

 

 

 ひとしきり水晶玉を眺めたキャスターは、徐に取り出した羊皮紙に羽ペンで何か書き込み始めた。

 科学技術と融合した西洋魔法に馴染んだシャークティにしてみれば、実にクラシカルで面白い。先ほどからの質問攻めには監視の意味合いのみならず、単純に好奇心も影響していたのだ。

 羊皮紙に書き記されているのは、非常に古い言葉であった。ラテン語などの素養もあるシャークティにもさっぱり読めない。キャスターには高速神言という神代の言語を用いた高速詠唱のスキルがあるが、今記している言葉は単純にあまりにも古すぎて他人では読めないだけである。

 

 

「それにしても、この世界樹という霊木はすごいわね。これだけの魔力を内包し、発散する霊木なんて生前も含めて見たことがないわ」

 

「生前、と言いましたか。エヴァンジェリンから聞いています、貴女が幽霊のようなものだと。学園長もそれらしいことを仰っていましたが」

 

「えぇそうよ。幽霊を使い魔にする魔術師は珍しい?」

 

「珍しいわけではないですね。幽霊自体は、確かに私も見たことはありませんが確かに居るそうです。ですが貴女ほどの力ある霊体が存在するなんて聞いたことがありません」

 

「あらあら、お褒め頂き光栄ね。でもどんな世界にも例外はあるものよ。まぁ、あまり有ることではないでしょうけれど」

 

 

 取り付く島もないキャスターの口調に、ふぅむとシャークティは眉間にシワを寄せた。詮索はしない方がいいのは分かっている。脛に傷持つ、とまでは言わないが、何となく後ろめたい過去がある人間というのも麻帆良には少なくない。

 あまりにも力ある幽霊の使い魔。ましてやエーテルの体を持ち、得体の知れない強力で旧い時代の魔法を使う。素性が知れないのを含めて、警戒心がないわけではない。警戒したくはない、という人の良い考えは揺らがないが。

 

 

「さて、今日のところはこれでおしまいね」

 

「この後はどうするのですか?」

 

「この調査結果をもとに、寮の地下スペースを借りて工房を作るわ。簡易なものでいいかと思ったけれど、この規模の霊木の調査をするならば往く往くは神殿クラスまで拡張しなければダメね。あまり大袈裟にはしたくなかったけれど、これのために一つの専門機関を設けて研究をしているというのは冗談ではなかったようだから」

 

「麻帆良の研究室ではダメなのですか?」

 

「あちらとも協力はするけれど、私は私の持つ神秘を他人に広める気はないの。見せたくない、と言ってもいいぐらいだわ。はっきり宣言させてもらいますけれど、今ここで貴女に見せているのも問題ない程度のものに過ぎないのだから」

 

「‥‥信用していない、ということですか。未だ短い付き合いに過ぎないから、あるいは貴女の信用を得られていない私たちが不甲斐ないのでしょうね」

 

「勘違いしないでちょうだい、そういうことではないわ。あの妖怪変化の学園長にも、貴女たちにも、私なりに感謝しているつもりよ」

 

 

 道具を全て時代錯誤の、本人とも全く似合っていない唐草模様の風呂敷に仕舞い、キャスターは立ち上がった。

 学園長の意向により、彼女は一部の魔法関係者にしか存在が公式に告げられていない。噂好きな麻帆良っ子の特徴は魔法先生たちにも共通していて、実のところ殆どの人間が凄腕の魔法使いとして彼女のことは知っている。が、公式に発表されることと非公式に知れ渡ることは大きく意味を違える。

 特に彼女の特性。すなわち幽体であり、異質な魔法を用い、佐倉愛衣という魔法生徒の使い魔であるという事実を知る者は両手の指で数えて足りるであろう。シャークティも口にしてはいたが、妖精や精霊ならともかく、幽霊を使い魔としている魔法使いは大概が後ろ暗い者ばかりだ。ましてや幽霊が学園長すら凌ぐであろう魔法の達人というのは終ぞ聞いたことがない。

 余計な混乱、詮索、敵意。考えられるデメリットは山ほどある。麻帆良の魔法使いの殆どが底抜けの御人好しであったとしても、人間の心というのは難しいものなのだ。

 先日の学園長との話し合いで彼女は世界樹の研究機関に籍を置いているが、彼らもキャスターを凄腕の魔法使いとしか認識していなかった。

 

 

「私の魔術が貴女たちのものとは毛色が違うのは分かっているでしょう? それは技術というより、概念的な違いだわ。貴女たちの持つ神秘がファンタジーだとすれば、私の魔術はオカルトよ」

 

「オカルト‥‥? 私たちも大釜で薬を煮詰めたり、呪文を唱えて杖を振ったりしますが」

 

「決められたものを煮込めば決められたものが出来たり、テキストがあって、それの通りに練習していれば期待した通りの結果が出るものをオカルトとは呼ばないわ。もっと根源的な違いなのよ、私と貴女たちとの間にあるのは」

 

 

 シャークティの眉間の皺が深まる。明らかに要領のいっていない様子にキャスターは少し考え込んだ。

 どのぐらいまで喋ってしまおうか。情報を秘匿するメリットというものがあるのと同様に、開示するメリットというのも当然ある。信頼も得られるし、協力も得られる。そういうものだと納得してくれれば余計な詮索も減るだろう。

 基本的に麻帆良に来てから上手くいきっぱなしでイケイケな感じのキャスター的には、なんかもう結構いろんなことペラペラと喋っていいんじゃないかなぁと思考を放棄したい誘惑が強い。もちろん簡単に誘惑には屈しないつもりだ。神代の魔女は油断しない。ちょっと緩くなってるところあるけど。

 

 

「人々は呪いを怖れ、畏れる。ただの木片に傷をつけただけのものが、自分を傷つけると嘗ては本当に恐怖していたものよ。でもそれが何の意味もないと皆が思った瞬間、その呪いは力を失う。大釜で煮込んでいたのは意味不明の毒薬ではなく、ただの雑草や爬虫類のごった煮だと知れば、誰も効果を信じなくなる。信仰や迷信が私たちに力を与え、科学の発展が私たちから力を奪うのよ」

 

「そんなことありえません、だってそれは実際に力を持っているじゃありませんか」

 

「今はね。でも、やがて必ず失うのよ、無情なまでにね。それが私たちの持つ力の弱さ。もちろん一人二人に知れたら、というわけではないわ。でも出来る限り知られてはいけない、私たちの力の根源を。例えば使い手が増えたりしたら、限りあるコップの水を分けていくように一人が使える神秘の濃度は下がるのだから」

 

「‥‥聞いたことがありませんよ、そんなの。私たちが魔法を広めないのは、あくまで混乱を生じさせないようにしているだけです」

 

「貴女たちの技術はそうなんでしょうけれど、私のそれは違うわ。だから本当は誰にも教えたくはないし、実際教える気はないの。愛衣にも高音にもね」

 

 

 そそくさと世界樹広場を離れ、駅へと向かう。シャークティは未だに怪訝そうな顔だった。

 本当のところ、キャスターは世界樹の謎を解き明かす必要はないと考えている。学園長からの依頼で、麻帆良に留まるための交換条件のようなものではあるが、それが可能かどうかは彼にだって分かるまい。

 現状維持。人は成長する生き物だが、人でない自分には成長の必要がない。現状を打開する必要がない。現状を変化させたくないとすら思う。宗一郎もそれでいいと言ってくれた。

 マスターである愛衣はいずれ学校を卒業して麻帆良を去るだろうが、そのときは遠く離れても依り代として機能するような術具を作成すればいい。気が向いたら付いて行ってもいいぐらいけれど、宗一郎様にはお仕事があるし長い間離れ離れにはなりたくないし‥‥。

 完全にスイーツ脳と化しているキャスターであるが、ギリシャ勢はわりとそういうところあるので仕方がない。どこぞの月の女神はもっと酷かった。

 

 

「繰り返し言うけれど、協力は吝かではないと態度と行動で示しているはずよ。親しき仲にも礼儀あり、というのがこの国の諺だったかしら? ましてや互いに胸襟を開けるほどの付き合いも未だないのだから、あまり深く踏み込んでこないでちょうだい」

 

「はぁ、なるほど。えぇ、十分に理解しました。迷える子羊の悩みは私たち聖職者であっても深く聞けない事情があるのが常です。貴女が協力してくれるように、私達も貴女に協力すると約束しましょう」

 

「それはよかったわ。では今日はここで失礼するわね。結果はまとめ次第、また連絡するから」

 

「はい。お疲れ様でしたミス・葛木」

 

「‥‥シスター・シャークティ。何か困ったことがあれば相談には乗るわ。また今度ね」

 

 

 見るからに機嫌のよくなったキャスターの様子に妙なものを覚えたシャークティであったが、そのまま去っていった。ここに学園長がいたなら呟いたであろう。「キャスター殿マジちょろい」と。

 その背中を見送ってから、キャスターはもう一度振り向いて世界樹を下から眺める。

 先ほどまでもあまり柔らかな表情とはいかなかったが、輪をかけて眉間の皺が深い。その眼は単純に世界樹の姿を眺めているだけではなく、その葉から、幹から、地中へと伸びる根から溢れ出す魔力の流れをも見通していた。

 

 

(やはりこの世界の魔術は私の常識から逸脱する。魔術の在り方だけではなく、それを支える基盤そのものがあまりにも異質。シャークティも学園長も世界樹を取り巻く利権について話してはいたけれど、そんなもの私にとってみればお遊びみたいなもの)

 

 

 キャスターがお遊びと評するのは、彼女の常識からすれば当然であった。

 麻帆良には世界樹の利権を求めて無法者がやってくることもある。魑魅魍魎の発生もある。妖怪悪鬼の類すら現れる。彼らにしてみればそれが最大限の脅威で、当たり前のこと。だがキャスター達からすればそれこそお遊戯、茶番のようなものだ。

 この溢れる魔力を独占することができれば、例えばキャスターならば事実上できないことはなくなるだろう。魔法の真似事だって造作もなくやってのける。冬木で住民達から吸い取った魔力の貯蔵庫(プール)によって作り上げた神殿など、足元にも及ばない陣地を構築できる。

 ならば形振りなど構わない。この地を地獄に変えてでも、世界樹を手にいれるはずだ。魔術師とは決して飢えの満たされない狼のようなもの。その飢えを確実に満たすことができるものを前に、お預けなどできるはずがない。

 それをしないで無法者などと、てんで話にならない。嗤わせてくれる。微笑ましいとすら言える。この世界樹の本当の価値に誰も気がついていない。いや、眼を背けている。

 

 

(いえ、あの喰わせ者の学園長が愚かであるはずがないわ。気が付かないのではなく‥‥必要がない?)

 

 

 自分以外の人間が全て自分より頭が悪い、と考えることこそ愚者の証明である。それは大概が、いわゆる“自分にとって都合のよいこと”しか考えられていない状態であるのだから。

 となると話は非常に複雑だ。この世界ではあらゆる魔術師が、世界樹によるリターンが払うリスクに合わないと考えている。そういうことでないだろうか。

 この世界の魔術についての調査が必要か。霊地の恩恵を自身の魔術に影響させる、リターンを得るのが難しい。そういうスタンスだというのなら、この霊地の恩恵を独り占めできるのではないか。まったく誰にも咎められることなく。

 キャスターの唇が酷薄に歪んだ。そして脳裏に浮かんだ邪な考えを棚上げしようと頭を振る。さっき自分は現状に満足していると確認したではないか。必要以上のリスクを背負い込んでまで、リターンは狙えない。

 聖杯戦争の渦中にあった自分ならば、おままごとだと断ずるかもしれない馴れ合いが、今は決して悪くないものだと思っている。この世界に来た当初は世界を、自分たち以外の全てを敵に回すことすら危惧していたが、今はそうではないのだから。

 

 

「‥‥まぁとりあえず協力はするわよ、学園長。貴方のおもてなし、私は結構満足しているの」

 

 

 敢えてわかりやすく魔力を乗せて言葉を発する。おそらく聞いている彼に向けて。

 それは偽らざる本心であったが、さて彼らがどう受け取るのか。

 まだ葛木がどういう待遇にあるのかも正確には掴めていないし、自分たちがこの先どうなるかも分からない以上は過度に心を許すつもりもない。

 だが言葉にした通り、協力的なスタンスを崩すことはない。

 裏切りの魔女たる自分の言葉に説得力がないとは思う。しかし彼らなら、きっと正しく誤解してくれるだろう。

 その裏にある様々な互いの思惑。それを加味しながら。さっきシャークティに告げた通り、互いに踏み込み過ぎず、正しくだ。

 

 

 

 

 

 




キャス子の宝具レベル5になったぞ、やった!
今回のイベント⭐︎3鯖の宝具レベルMAXにするためのものなんだよね? 無課金ガチ勢としてはわずかな⭐︎5鯖のサポートに全力で⭐︎3鯖運用していくスタイル。

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