美食(?)ハンターのちマフィア?   作:もけ

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新年あけましておめでとうございます。
大晦日にコミケに行き、企業ブースでヒソカの抱き枕が売ってるのを見て「誰得だよ」とツッコミを入れた作者です。
年明け三が日は、TV(相棒とか、とんねるずとか、格付けとか(朝日ばっかじゃね?))見たり、積み録画(『おにあい』とか『ヨルムンガンド』とか)見たり、DVD(今更『黒執事Ⅱ』)見たり、福袋買いに行ったりと執筆が進まないこと進まないこと。
そんな作者ですが、本年もどうぞご贔屓に、よろしくお願いします。


目にしたことない?本屋やDVDコーナーの一角にある秘境ガイドとか秘境探検とか

「これより第287期ハンター試験、第一次試験を始める」

 

 大岩の上に立つ、上背もありガッシリとした体型の試験官に受験者の注目が集まる。

 

「俺はこの一次試験の試験官を任されたヨナだ。普段は秘境ハンターをしている。これからお前たちをいぃ~~所に案内してやるからしっかり付いて来るように」

 

 その発言を受けて試験内容に思い当たる所がある受験者から諦めの様な溜め息や絶叫が発せられた。

 

 そしてそれはアニタの隣りでも。

 

「マジか~~」

「アシル?」

「覚悟しとけよ、アニタ。頭っからかなりハードな試験になるぞ」

「どういうこと?」

 

 アニタの当然の疑問にアシルは秘境ハンターがどういう仕事を生業にしているのかから説明する。

 

 秘境ハンターとは、普通の人間が絶対に足を踏み入れない過酷な環境に好んで分け入っていく輩で、主に地図の作成に貢献したり、独自の絶景ポイントの開拓などを行っている。

 

 その際に新しく発見した滝やルートに名前を付けられたり、有名な人物になると絶景ポイントをまとめた写真集やDVDが発売されたりしている。

 

 そんな秘境ハンターの言う『良い所』というのは、つまりは過酷な行程の果てにたどり着く特別な場所を指す。

 

 その実情を知っている者にしてみれば、試験官の発言に嘆きたくなるのも仕方のない事と言えよう。

 

「そういうこと」

「あぁ、命の危険もそうだが、多分かなりの体力勝負になるからペース配分には気を付けろよ」

「うん、分かった」

 

 そんなアシルの予想通り、一次試験の内容は体力テスト、その一言に尽きた。

 

 歩いているだけで必要以上に体力を削り、足腰に疲労を蓄積させていく足場の安定しない砂利や岩がゴロゴロしている道とも呼べない道を月明かりの中でひたすら歩かされ、精神的にも終わりの見えないストレスにさらされ続ける。

 

「アニタ、大丈夫か」

「こ、このペースは、もう、無理、かも」

 

 試験は夕方の5時に出発してから3時間に1回30分の休憩を取るペースで進み、現在は2回目の休憩時間。

 

 もう日付をまたごうと言うのにまだ目的地にはたどり着かない。

 

 最初の脱落者が出た辺りは冷やかすような声も聞こえたが、それも10名を越えた今となっては冷やかす側にもそんな余裕はなくなっている。

 

 アシルはハントで鍛えた体力と絶の状態を維持する事でまだまだ余裕があるが、アニタはそろそろ限界のようだ。

 

「これ飲んで」

「あ、ありがと」

 

 バックから水筒を取り出したアシルが手をかざしてからアニタにコップを渡すと、疲れて思考回路が落ちているのか、はたまた信頼の表れか、アニタは何の疑いもせずにコップに口を付ける。

 

 遠くから絡み付く様な嫌な視線を感じるアシルだが、厄介事はゴメンなので無視を決め込む。

 

「…………マズくはないんだけど、何て言うか、独特な味」

「滋養のある蜂蜜やら薬草やらの成分をミックスした特製茶だ」

 

 成分と言う所がミソなのだが、あえて説明はしない。 

 

「じゃあ靴脱いで横になってくれ」

「え?」

「足、マッサージしててやるから、アニタは体力回復のために少しでも寝てな」

「そ、そんな、悪いよ」

「いいから。ごねる様なら強制的に意識飛ばすぞ」

「…………足、洗ってくる」

 

 アシルの優しさは嬉しいが、恋する乙女として譲れないものがあるアニタだった。

 

 戻ったアニタがバックを枕にした所で、ズボンの裾を捲って露わになったふくらはぎと足の裏のマッサージに入る。

 

 持ち運びが楽チンな折りたためるシリコン製のボールに水を入れ、

 

「『無限の調味料(インフィニティ・シーゾニング)』」

 

 その成分をマッサージに適した薬効のあるものに変える。

 

「ひゃっ」

「おっ、すまん。まだ冷たかったか?」

 

 手を揉んで温める。

 

「だ、大丈夫だけど、それは?」

「口に入れられるものだけで作ったデトックス効果のあるマッサージオイルだ。エステでも使われてるやつだから安心していい」

 

 アシルが母親の行きつけの店に同行させられた際に、勉強の一環として教えてもらったものだ。

 

「あっ、んっ、き、気持ち、いいぃ」

「それは良かった。そのまま寝ていいぞ」

「あん、う、うん」

 

 かなり疲労がたまっていたのか、5分もしないうちに眠りにつくアニタ。

 

 痛みで目が覚めない様に、アシルは撫でる様な力加減でマッサージを続ける。

 

 ちなみに、大多数が男の集団においてこんな事をしていれば普通ならやっかみを受けるのが当然だが、皆自分の事で精いっぱいでそれ所ではない様子。

 

 辺りは見るからに死屍累々と言わんばかりの状況で、座っている者より横になっている者の方が多い。

 

 しかし中には

 

「なぁ、暇だし釣りしようぜ。釣り」

「いいけど、こんな時間じゃ魚も寝てると思うよ」

「岩でも投げ入れるか」

「追い込み漁じゃないんだから」

 

 と、元気が有り余っているお子さまや

 

「ちくしょーー、いつまで歩かせるつもりだ」

「大声を出すな。体力を無駄にするぞ」

「うるせぇ、俺は全裸になってでもぜってぇゴールしてみせるからな」

「その心意気は認めるが、ここには女性もいるんだ。本当に脱いだりするなよ」

 

 と、喚き散らす上半身裸のチンピラを諌める性別不明の美形のコンビなどもいたりする。

 

 そんな休憩時間も残り後5分となった所で、水で絞ったタオルでアシルがオイルを拭きとっていると

 

「ん、アシル」

 

 その冷たい感触にアニタが目を覚まそうとするが、アシルの手がアニタの眼をそっと隠す。

 

「まだ起きなくていい。俺が付いてるからもう少しそのままで」

「…………うん」

 

 再度、意識を手放すアニタ。

 

「さてと」

 

 それを確認してからアシルは適当な板とロープを組み合わせることでアニタの体を背負う形で無理のない様に固定し、軽く動いて落ちないか安全を確かめる。

 

 さすがに絶の状態、本来の肉体の力だけでヒト一人を背負ってこの行程を3時間も歩くのは無理があるので、適度に練の出力を調節した堅を全身に纏う。

 

 アシルの単純な堅の継続時間は、10年の修行の賜物で最大で約12時間。

 

 実際の戦闘では疲労やダメージ、念の使い方の影響で目減りするため半分程度を目安にしているが、今回の様な使い方ならその限りではない。

 

 堅自体全力ではないため20%くらいの消費で済むだろうと目算を立てていると、ふいに人混みが割れ、こちらを挑発する様な嫌らしいオーラを発散させているピエロの様な格好をした長身の男がアシルに近付いてきた。

 

「彼女、どうかしたのかい」

「ちっ、いや、疲れてるみたいだから次の休憩まで寝かしとこうと思ってね」

「へぇ~~、優しいんだね」

「出来る範囲で手助けするって約束しちまったからな」

「でも、あまり他人にばかり構っていると戦いになった時に困るんじゃないかい」

「言っとくが、俺は美食ハンター志望だ。戦闘は専門じゃない。やるなら他を当たってくれ」

「そう謙遜するなよ。この中じゃ現時点では君が一番美味しそうじゃないか」

「その台詞は俺じゃなくて、俺の料理に対して言ってくれ。料理人を何だと思ってやがる」

「くっくっくっ、じゃあ機会があったら何か作ってもらおうかな」

「残念だったな。うちの店は一見様お断りの紹介制で、さらには完全予約制だ」

「それは残念。せめて店の名前を教えてくれるかい」

「…………リストランテ『ポワゾン』」

「へぇ~~、君、あの『ポワゾン』の人間なのか」

「ちょっ、知ってんのかよ」

「うん、一度行ってみたいと思ってたんだ。変わった料理が食べられるって一部で有名だよね」

「くっ、あぁ、隙間産業って言うか、普通じゃなかなか食べられない物を出させてもらってるよ」

「そうか。じゃあ、試験が終わったらぜひ予約を入れさせてもらうよ」

「マジかっ」

「くっくっくっ、楽しみにしてるよ」

 

 そう言い残して立ち去る素振りを見せたピエロ男だが途中で振り返り

 

「そういえば自己紹介がまだだったね。僕はヒソカ」

「ブルールだ」

「彼女にアシルって呼ばれてなかったかい」

「初対面で男に気安くファーストネーム呼ばれる趣味はねぇよ」

 

 何が面白いのか笑いながら今度こそ遠ざかって行く背中に今日一番の疲労を感じたアシルだった。

 

 そんな最低のテンションで歩き始めた3度目の行進だが、受験者の中で断トツの危険人物であるヒソカに目を付けられた副産物なのか、周りから若干距離を空けられたおかげでアニタを背負ってなお歩きやすく、アシルは何事もなく無事に3度目の休憩に入る事ができた。

 

 その間、嫌がらせの妨害もなく野次も聞こえなかったが、代わりに「マジかよ」「どんな体力してんだ」「化物め」などの驚愕の声をいただいていた。

 

 休憩時間になり今度こそちゃんと目を覚ましたアニタだが、月明かりしかないせいで当初風景の違いに全く気付かず、時計を見るまで自分が3時間も寝ていた事に気付けなかった。

 

 気付いた直後、驚いた勢いで少し文句を言われたアシルだが、その後にちゃんとお礼を言われ、逆に重くなかったか、疲れてないか、無理してないかと気遣われてしまい「これじゃあ立場が逆だな」と苦笑を浮かべる事になったが、とりあえず『緊急性がない限り、同意なしにそういう事はしない』と約束する事でその場は治まった。

 

 試験開始から10時間半、4度目の行進が始まる。

 

 3時間の睡眠と前後の休憩時間を合わせて4時間の休息を取ったアニタの足取りは試験開始当初と比べても遜色ないくらいに軽くなっていて、アシルは安堵の息を漏らす。

 

 また3時間も歩かされるとウンザリする者、残りの体力に危機感を抱く者、意識が混濁してもう駄目だと絶望する者、なぜか元気いっぱいのお子様たち、体力の無駄だろうに悪態と絶叫を繰り返すパンツ一丁で裸ネクタイのチンピラ、その隣で同じく上半身裸になり性別が確定した事で周りをガッカリさせた美形君、大きすぎる針を何本も顔に刺した異様な面相でカタカタ言ってる念能力者(絶の状態から判断)、周りに変な視線を送りながら舌なめずりをしているピエロ、名刺を配っては誰彼かまわずおしゃべり爆弾を投下する迷惑な自称忍者、アニタ以外の女性陣の尻を追う事で現実逃避をしようとする者多数、それに気付きながらも文句を言う元気のないデカ帽子の少女とライフルの女性などなど、様々な様相を呈する一行だが、スタートからピッタリ12時間、

 

「見ろ、お前ら。これが俺の目標とする人が発見した『ココの滝』だ」

 

 三桁の脱落者を出しながらようやくたどり着いたのは、1000mはあろうかという絶壁から流れ落ちる大瀑布だった。

 

 その壮大なスケールは、これまでの地獄の様な道のりからの解放感と相まって一同に言葉をなくすほどの感動を与える。

 

 そんな受験者たちの表情から秘境ハンターとしての醍醐味が正しく伝わった事に満足気な試験官。

 

 そのまま30分ほどまったりとした時間が流れた所で、ふいに歓声が上がる。

 

 日の出だ。

 

 月明かりだけでも素晴らしかった景観を、朝日が照らし出す。

 

 どこか神秘的な雰囲気を醸し出していた景色は、その輪郭をはっきりとさらけ出し、巻き上げられる水しぶきに光が反射し、いくつもの虹を作り出す。

 

 妖精が飛び回っていてもおかしくない幻想的な景色が目の前に広がる。 

 

 歓声が治まった所で、試験官が場を仕切りなおす。

 

「これが秘境ハンターの追い求めるものだ。どうだ、最高だろう?」

 

 それに対して頷く者がチラホラ見受けられるが、続く言葉はそれまでの感動を打ち砕く死刑宣告にも似た無慈悲なものだった。

 

「じゃあ、最後の締めに滝登りと行こうか」

「「「「「 は? 」」」」」

 

 すぐには現実を受け入れられないが故の疑問符。

 

 そして

 

「「「「「 はぁぁぁぁぁぁっ!? 」」」」」

 

 大絶叫。

 

 しかし、試験官はどこ吹く風で説明を続ける。

 

「一次試験のゴールはあの滝の上だ。まぁ俺も鬼ってわけじゃないから、タイムリミットは正午までとしといてやる。各自、食事と仮眠を取ってから挑むといい。一応言っておくが、崖を登る以外のルートは禁止だからな」

 

 現在、朝の6時。

 

 清々しい空気と最高の景観とは裏腹に、男たちの野太い怨嗟の声がこだました。

 




ちょこちょこ原作キャラを登場させてみました。

ヨナ、ココと『ヨルムンガンド』のキャラクターから名前をいただいてますが、全くの別人です。
と言いつつ、受験者にナイフ使いのバルメと、銃使いのカレンを出したかったのですが、とりあえずそっちは保留で。

次回、滝登りはサラッと流して二次試験に移る予定です。

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