美食(?)ハンターのちマフィア?   作:もけ

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明日からコミケですね。
僕は行くなら三日目ですが、明日、明後日の人は天気悪いみたいなので体調崩さないようにお気を付けください。


源泉かけ流しの室内風呂付バンガロー。ご休憩2時間1万Jになります

 キャロの棒読みだった予言調の指示に従い、山を西側から回り込み、行き当たった川沿いに山道を離れ、分かれ道では左を選びながら進む。

 

「ねぇ、コレは?」

「筋ばってるだけでマズい」

「じゃあ、こっち」

「柔らかいから食べられなくはない」

「微妙?」

「微妙だ」

「このバジルっぽいのは?」

「まさしく『ぽい』やつで、強力な整腸作用があって下剤なんかに使われてるな」

「あ、この花は図鑑で食べられるって見た気がする」

「正解」

「やたっ♪」

「花はお浸し、根はアク抜きして炒め煮にしたりする」

「一緒に咲いてるこっちは?」

「そっちは麻薬とまでは言わないが、軽い幻覚作用がある」

「嘘っ!? この花ってよく花束に使われてるんだけど」

「意味的にアルコールを飲ませて口説くのと同じなんじゃないか?」

「……アリね」

「アリなのかよっ」

 

 狼の集団に襲われて以降、特に危険もなく(キャロに変な事をしていたらスナイパー母にヘッドショットを決められていただろうが)、遭った事と言えば後ろから走って追い越して行った男に舌打ちされたくらいで平和なため、川沿いに咲いている草花を見ては雑談をしながら歩いている二人。

 

 ちなみに、キャロから一次試験の締め切り時間までは歩いても余裕があると聞いているため無闇に走ったりはしていない。

 

 体力的な面だけでなく、罠や襲撃に対して歩いていた方が安全に対処できるからという理由もある。

 

「アシルだったら全部食べられる花で花束作れるんじゃない?」

「ツッコミはスルーですか」

「出来ないの?」

「まぁ、出来なくはないな。ハーブの中には花の部分を使うやつもあるし」

「それいいっ!! ハーブの花束。料理好きの子だったらストライクだよ」

「アニタには?」

「私? 私はやっぱり真っ赤な薔薇の花束が良いな~~」

「直前の会話が台無しだっ」

「それはそれ、これはこれ」

「何にしても薔薇の花束とはベタだな」

「そこはベターじゃなくてベストと言って」

「あぁ、確かにベストだからこそベターになるのだしな」

「さすがに王子様を待ってたりはしないけど、お姫様扱いされて喜ばない女の子はいないと思うな」

「その辺、男とは違うよな」

「そうなの? じゃあ男子的にはどんなのがベストでベター?」

「そうだな~~、デートの時に弁当作ってきてくれるのはベタだな。後は風邪で寝込んだ時に看病してお粥作ってくれたり、ちょっと早く起きて朝ご飯の支度してから起こしに来てくれたり」

「全部ご飯関係なのはアシルの好み?」

「うっ、そ、そんな事はない……はず」

「しかも最後のは明らかに私に対するあてつけだよね?」

「ご、誤解だっ。今朝のは俺がやりたいからやっただけで、それに俺は世話を焼かれるより焼くタイプだ」

「でも、そういう願望はあると」

「……はい」

「まぁ、確かに? 普段料理しない不器用な子が手に絆創膏つけてお弁当作って来るのはベタだよね。見た目悪かったり焦げてたり」

「そういうオプションはいらない。料理は美味しく作ってくれ」

「い、いきなりバッサリね。って、やっぱりアシルの好みなんじゃない」

「いや、美味い方がいいのは普通だろ」

「様式美はどうしたのよ」

「いや、料理の方が優先度高いから」

「さすがね」

「任せろ」

「でも、最初から上手くは作れないし、頑張ってる所がけな気でこうグッとくるんじゃないの?」

「今できる全力を見せるか、ちゃんと美味いものを食べさせたいと思うかは判断の分かれるとこじゃないか? ちなみに俺は後者だ」

「ハードル高そう」

「そんな事ないぞ。最低ラインは『失敗してなければいい』だ」

「そうなの?」

「アニタが言った通り、いきなり上手くは作れないからな。ただ他人に食べさせる以上、最低限自分でよく出来たと思えるものを出すのが誠意なんじゃないかと俺は思う」

「うっ、確かに」

「まぁ、食べられる物を捨てるなんて有り得ないから、焦げてるくらいなら食べるけどな」

「あ、それはそうだよね。もったいないし」

「そうそう、もったいないお化けが出るからな」

「もったいないお化け?」

「知らないか?」

「うん」

「食べ物を粗末にすると、夜な夜な枕元に「もったいない~もったいない~」て言いに来るお化けだ」

「それだけ?」

「いや、言われた分だけ男は将来ハゲやすく、女は体重が増えやすくなるそうだ」

「怖っ!?」

「怖いだろう? だから食べ物を粗末にしちゃ駄目なんだ」

「肝に銘じとく」

 

 そんな気の抜けた会話をしているうちに特に危険もなく一次試験会場のある街、コールセンに無事到着。

 

 コールセンは2000m級の山々を背後に控えた登山道の入り口となる街で、夏は登山、冬はウインタースポーツ、そして疲れを癒す温泉という風に観光を収入源としている。

 

 そのせいもあってホテルや旅館が数多く営まわれているが、二人はその中で1軒しかないという貸しバンガローの店を探す。

 

 言うまでもないが、キャロからの情報だ。

 

 その途中で明らかに登山者や観光客ではない出で立ち、つまりはハンター試験受験者と思われる輩が情報収集をしているのが目に入る。

 

「アシル」

「お、この大角山羊の串焼きイケるな。スパイシーな味付けがいい」

「ねぇ、アシル」

「スモークサーモンとチーズもちょっとクセは強いけどツマミとしてはなかなか」

「……」

「おっ、パンの焼き上がる匂い。あっちの店か。アニタ、ちょっと覗いて――――――」

「アシルっ!!」

「お、おう」

「なに普通に観光してんのよっ」

「い、いや、新しい街に来たらとりあえず現地の料理を食べないといけないという使命が」

「どんな使命よっ」

「料理人としての?」

「なんで疑問形? ただアシルが食いしん坊ってだけなんでしょっ」

「そうとも言う」

「そうとしか、言・わ・な・いっ!! まだ時間はあるけど、そういうのは目的地を見つけてからにしなさい」

「Yes,miss」

「そこはma'amじゃないの?」

「未婚女性や若い女性の場合はmissの方が一般的だ」

「へぇ~~」

「おっ、チーズの店だ」

「はいはい、後でね」

「イタタタタ、耳、耳引っ張らないで」

 

 アシルのせいでバッチリ観光客になっている二人だが、程無くして目的の店を発見する。

 

「いらっしゃい。二人だね? カップルなら温泉の源泉かけ流し室内風呂付きのAコースでいいかい?」

「はい、ぜひそれで」

「アニタ?」

「あ……冗談冗談。こほん、スペシャルコースをお願いします」

 

 キャロに教えられた合い言葉を告げるが、

 

「Aコースじゃなくていいのかい?」

「……」

「アニタ?」

「ねぇ、アシル。まだ時間に余裕あるよね?」

「まぁ、そうだな」

「試験に挑む前に休憩と食事が必要だと思わない?」

「同感だ」

 

 アニタが食事という所を強調すると、あっさりと陥落されるアシル。

 

「じゃあ、Aコースの部屋を休憩でお願いします」

「先払いで2時間10000ジェニー。延長は1時間4000ジェニーだよ」

「カードで」

「あいよ」

「あ、アニタ」

「ここは任せて。アシルは料理をお願い」

「あぁ、任された」

 

 バンガローは街の外れに点在していて、その中でもAコースのバンガローは周りから隔絶されるように林で上手い具合に隠されていた。

 

 理由は……まぁ、想像通りとだけ言っておこう。

 

 しかし、そういう事をする関係ではない二人はいたって健全。

 

 アニタは先に洗濯をしてから暖炉の前に干し、室内温泉に入る。

 

 その間にアシルは食材を調達して来て料理を作る。

 

 メニューはせっかくなのでチーズフォンデュ。

 

 地産地消で地元の食材オンリー。

 

 肉、魚、野菜と下処理が終わった所で、計ったように出てきたアニタと食事。

 

 試験前にどうかとも思ったが、捨てるのももったいないので余ったワインは前祝として乾杯。

 

 片付けはアニタに任せて今度はアシルが温泉に入り、後は試験の受付に30分ほど余裕が出るように時間を見ながら座禅を組み、瞑想をして過ごした。

 

 延長料金の支払いと、改めてスペシャルコースの受付を済ませると奥の部屋に通され、エレベーターで下に降りる。

 

 その先は50m程の洞窟になっており、真っ直ぐ進んで外に出て空を見上げるとそこは崖の下。

 

 ホテルや旅館が温泉を引くための源泉があちこちにある河原で、そこには数えるのが億劫になるくらいの人数がたむろしていた。

 

 それだけの人数がいれば相当な喧騒になっていそうなものだが、そのほとんどが独りなのか会話している者は少なく、一種異様な空気を発散している。

 

 その雰囲気に眉根を寄せていると、これから山登りに行くぞという装備をバッチリ決めている男が二人に近寄って来た。

 

「ここはハンター試験の一次試験会場だ。受付するかい?」

「お願いします」

 

 相変わらず交渉はアニタに任せ、アシルは目の前の男と周りの警戒にあたる。

 

「そう警戒するなよ。俺は受付兼一次試験の試験官だ。ほい、ナンバープレート」

「ありがとうございます」

 

 アニタは406番、アシルは407番。

 

「俺の試験では使わないが、このプレートは試験に使われる事もあるし、なくしたら再発行なしで失格だから気を付けろよ」

「は、はい」

 

 事務的にそれだけ言うと、試験官は腕時計で時間を確認してから離れて行った。

 

 アニタは再度辺りを見回し、その9割はムサイ男たちという群れにため息をこぼす。

 

「本試験までたどり着く確率は1万人に1人って聞いてたんだけど、400人か……随分と多いんだね」

「あぁ、ウザいな。とりあえず半分くらい減らしとくか」

「ちょ、ちょっとアシルっ!?」

「なんだ」

「『なんだ』じゃないよ。何でいきなり物騒な事言ってるのっ!?」

「ん、あぁ、すまない。四方八方から殺気ぶつけられててちょっとな」

「やぁ、君たちルーキーだよね? 良かったらベテランの俺が――――――」

「あぁん~?」

「わ、悪かった。なんでもない」

「ア、アシル」

 

 さえない中年男が声をかけてきたが、アシルの不機嫌な一声であえなく撃退。

 

 初めて見る好戦的なアシルに戸惑うアニタだが、しかしそんなアシルの苛立ちも唐突に鳴り響いた笛の音によって中断された。

 

 一瞬のざわめきの後、音の発生源に皆の視線が集まった所で、

 

「これより第287期ハンター試験、第一次試験を始める」

 

 岩の上に立った先ほどの試験官が本試験の開始を高らかに宣言した。

 




会話文ばっかりですみません。
地の文が三人称なせいか、そこに力入れると説明文ぽくて固いはテンポ悪いわでどうにも上手く書けませんでした。
三人称視点のさじ加減がムズいですorz

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