美食(?)ハンターのちマフィア?   作:もけ

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今回はアニタさん回です。
頑張って三人称っぽい文章にしてますが、一人称と混じっちゃってます。
文章書くのって難しい。


みなさんヤンデレってどう思います?僕は大好きです

「あれ、ここは……」

 

 翌朝、目を覚ましたアニタは最初自分がどこにいるか分からなかった。

 

「(そうだ。昨日はハンター試験の予選当日で)」

 

 意識が覚醒するに従って徐々に記憶が掘り起こされていく。

 

「アシル……は、もう起きちゃってるか」

 

 隣のベッドを見るともうアシルはいなかった。

 

 試験官の選択問題に答えた後、恥を忍んで引き返した二人は出稼ぎで村を離れていると言う人の家を貸してもらい、ないとは思うが念のため襲撃に備えてツインベッドの部屋で就寝したのだ。

 

「(男の子と一緒の部屋で寝るなんて初めてだったのに、疲れてて緊張してる余裕もなかったな)」

 

 ある噂を聞きつけて、あわよくばと参加する事にした初めてのハンター試験。

 

 知らされていなかった予選会場へ向かう飛行船内でのいきなりの戦闘。

 

 その戦闘で凶刃から守ってくれた年下の男の子、アシル。

 

 色々と余裕のなかったアニタは反発して食ってかかったが、一撃どころかかすりもせずに惨敗。

 

「(改めて思い返すと、命の恩人にアレはない。どんだけ余裕なかったのよ、私)」

 

 しかも今そんな事を言えるのは、アシルが初めて復讐に賛成してくれたからだと言うのだから調子のいい話だ。

 

「(復讐を成功させるために死んじゃいけないって言うのも目から鱗だったな)」

 

 それまでは差し違えてもいいから復讐を遂げようとしか考えられなかった。

 

 でも今は違う。

 

「(私がパパとママを愛していた様に、パパとママも私を愛してくれてた。もし私が復讐のために相手と差し違えたら、パパとママは自分達の命と一緒に私まで奪われた事になっちゃう。それはダメ)」

 

 アシルの言葉を自分なりに反芻して確かめる。

 

「(それに私が無駄死にしない様に、本当だったら絶対秘密なんだろう念についての情報もくれて……。勢いで師匠って呼んじゃったけど、落ちても受かっても私、アシルに教えて欲しいかも……なんて)」

 

 口元に自然と笑みがこぼれる。

 

 アニタは両親が殺されてからずっと張り詰めていた神経が、自分のやろうとしている事を肯定し、協力してくれる相手の存在で解きほぐされているのを自覚していた。

 

 ここまでの道中での会話でもそれは明らかで、アニタが誰かとあんな風にたわいないお喋りに興じたのは本当に久しぶりの事だった。

 

「(私、寂しかったんだろうな。多分、自覚したら一人じゃ立ち上がれなくなるから気付かない振りをしてたんだ)」

 

 復讐を望む気持ちは暗く激しい感情で、悲しくて、悔しくて、許せなくて、両親の無念を晴らしたくて、自分の幸せを壊した怒りをぶつけたくて、同じ目に合わせてやらないと気が済まなくて、色んな感情が入り混じって増幅して胸が張り裂けそうで、自分の世界がそれだけに染まって……。

 

 でも、そんな自分を認めて手を引いてくれる相手がいるだけで、世界は色を取り戻した。

 

 復讐を諦めたわけじゃない。

 

 両親の事を忘れたわけじゃない。

 

 ただ、アニタはアニタという存在がそれだけじゃない事を思い出した。

 

「アシル…………」

 

 この気持ちは依存かもしれないとアニタは思う。

 

 今までの自分は癇癪を起こした子供や迷子の子供と一緒で、助けてくれる相手を無自覚にでも求めていた。

 

 そこに自分よりも上位の能力を持った異性が現れ、助け、受け止め、導いてくれると言う。

 

 寄りかかりたくなるのは自然な事だ。

 

「(私、アシルを利用しようとしているのかな)」

 

 復讐に賛成してくれる人は稀だ。

 

 それにアシルといれば念を学べる。

 

 傷ついて弱った心を癒し、それでいて力を手に入れられる。

 

 まさに一石二鳥。

 

 自分を守るために相手を求める本能と、冷静で打算的な考え。

 

「(嫌な女だな、私)」

 

 別にアシルである必要はないのだ。

 

 同じ要素があれば、昨日までの自分だったら誰でも良かったのだろうと予想できる。

 

 そこまで自己分析を進めても、しかしアニタにはアシルを手放すと言う選択肢は出て来ない。

 

 どんな理由であれ、今アニタにアシルが必要だと言う結論は変わらない。

 

 この本能と打算と理性のせめぎ合いの結果、アニタの思考は斜め上に飛ぶ。

 

「でも、だったら――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アシルじゃなきゃ駄目になれば問題ない……よね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 両親が殺されてから、復讐と言う闇にとらわれていた。

 

 しかしアニタは本来前向きな性格をしていた。

 

 それが間違った方向に合わさり、アシルに寄りかかろうとする弱い自分に積極性と言う方向性を与えてしまい、『積極的に寄りかかる』まさしく依存の形に行き着いてしまった。

 

「フルネームはアシル・ブルール。 年は2つ下の15歳。 しっかりしてるからちょっと意外だったな。 ご両親がハンターで、実家はお料理屋さん。 継ぐって言ってたから多分長男ね。 料理は自信ないからアシルに任せて、私はウェイトレスかな~なんて。 後は強くて、優しくて、お節介で、ギャグセンスはちょっとブラックで、それと多分ちょっとエッチ。 レーネの胸、絶対見てた。 でも私のは……サ、サラシっ!! そう、サラシ撒いて潰してるからっ、服もオシャレじゃないしっ、これは試験を受ける上で仕方がない事なの、うん。 レーネにはさすがに負けるけど、可愛い格好したら私だってそれなりに……。 と、とりあえず今はまだこのくらいしか知らないけど、これから知っていけば――――――」

 

 ベッドの上で自分の世界に入っているその姿は、まだ念は使えないはずなのにどこか危険なオーラを漂わせている様だった。

 

 しかし、それをノックの音が遮る。

 

「きゃっ」

 

「アニタ、起きてるか? 良かったらドア開けてくれよ」

 

「ア、アシルっ!? ちょ、ちょっと待って」

 

 現実に引き戻されたアニタは慌てて部屋を見回すが目当ての物がないと分かるとすぐに鞄から手鏡を取り出し、待たせてもいけないと思い簡単に身だしなみを整える。

 

 最後に鏡の中で笑顔の練習をしてからドアを開ける。

 

「おはよう、アシル。寝坊してごめんね」

 

「っ、あ、あぁ、まだ遅いってわけじゃないから大丈夫だ。それよりこれ」

 

 練習の甲斐があり、アニタの笑顔はアシルを動揺させる事に成功した。

 

 そんなアシルから差し出されたのは、お湯を張った桶と白いタオル。

 

「顔洗ったり、体拭いたりするだろ? 下で待ってるからそれが済んだら朝ご飯にしよう」

 

 アシルは何でもない事の様に世話を焼いて、階下に行ってしまった。

 

 桶を受け取ってドアを閉めたアニタの表情は、さっきまでの作った笑顔ではなく、自然な笑みに変わっている。

 

「(紳士的で、女性に対する気遣いも出来るんだ)」

 

 女の子として、大切に扱われるのはやっぱり嬉しいと思うアニタ。

 

 温かいタオルで体を拭き、インナー、胸のサラシ、下着を清潔なものに変える。

 

 ワンピースとズボンも替えたい所だが、替えは一つしか持ってきていないので洗濯が出来る所までは我慢するしかないと諦めて、アシルの待つ階下に向かう。

 

「お待たせ、アシル。お湯とタオル、ありがとね」

 

「どういたしまして。ほら、もう出来るからテーブルついて」

 

 テーブルにはキノコのスープとサラダにベーコンエッグ、そしてアシルが焼きたての平焼きパンを持ってきた。

 

「凄い……こんなちゃんとしたものどうしたの?」

 

「キノコは採ってきた。その帰りに葉物と卵を村の人に分けてもらって、スープは自家製固形スープの素で、ベーコンは非常食用。パンはフライパンで焼くタイプのやつだからちょっとモソモソするぞ」

 

 事も無げに言うアシルにアニタは感心してしまう。

 

 女子として負けていられない気もするが、自分で料理しない裕福な暮らしと、一人になってからは食に無関心な生活しかしてこなかったせいで料理には全く自信がない。

 

 料理屋の息子に張り合うだけ無駄と言うものだ。

 

 逆のシチュエーションだが、教えてもらうのもいいかと少し妄想に入りながらテーブルに付く。

 

「アニタはお祈りとかする人?」

 

「ううん、アシルは?」

 

「簡単なのを一言だけ」

 

「どんなの?」

 

「『いただきます』て言うんだ」

 

「それって確か東方の」

 

「おっ、良く知ってたな」

 

「パパの取引相手の人の中に東方の人がいて聞いた事があるだけだけど」

 

「これは、命を食べる事への感謝の気持ちを込めて言う言葉なんだ」

 

「命を食べる……」

 

「そうだ。俺たちは他の生き物の命を食べて生きてる。だからそれに感謝し、その分しっかり生きなくちゃいけない」

 

「そう……だね」

 

「まぁ、そう深く考える事でもない。食事は楽しくするもんだ。さっ、冷めないうちに食べちまおう」

 

「う、うん」

 

「じゃあ、いただきます」

 

「いただきます」

 

 メニュー的に普通なのもあって特別凄い美味しいと言うわけではなく手堅い味だったが、アニタにとっては独りではない食事である事が最高の調味料になった。

 

 ここで言う『独り』は『一人』ではない。

 

 誰かと一緒にいたとしても、心持ち次第では『独り』になってしまう。

 

 アニタが食事が美味しいと、温かいと思えたのは久しぶりだった。

 

 自然と口元はほころび「美味しいね」と本音が漏れる。

 

 両親が殺されてから数年間凍っていたアニタの心はここに来て急速に溶かされ、その分を取り戻す様に必要以上に大きな波を起こす。

 

 前向きがポジティブに、ポジティブがエネルギッシュに、エネルギッシュが爆走に、爆走が暴走に、アニタの感情は地殻変動を起こすかの様に揺れ動く。

 

 その原因は、目の前の存在だ。

 

 よって当然の帰結として、その心と感情の動きは原因へと向かう。

 

 つまりアニタはアシルに惹かれ、求め、依存していく。

 

 『アシルじゃなきゃ駄目になれば問題ない』と結論が出てしまっている以上、理性もそれを止める事はない。

 

 ただ救いがあるとすれば、アニタには恋愛経験がなく、そういう話で盛り上がる年頃には必死になって自分を鍛えていたため知識にも乏しく、安易に肉体関係に走ると言う選択肢自体がない事だろう。

 

 もちろん、どうやって子供が出来るかは知らないわけではないし、男がそういう事に積極的で欲望が強い事も承知している。

 

 分かり易く言えば、アニタの恋愛観は少女チックなのだ。

 

 白馬の王子様とまでは言わないが、告白、デート、キス、その先の順番を違える発想はない。

 

 そして、多くの少女と同じように、出来れば告白は相手からして欲しいと思っている。

 

 それもシャルロットの存在を知らないが故なのだが、今はまだ言わぬが花だろう。

 

「さぁ、そろそろ行こうか」

 

「うん」

 

「試験官の昨日の言い方だと、我を通す実力が試される道らしいから気を引き締めて行こう」

 

「うん」

 

「アニタ?」

 

「うん?」

 

「『うん』しか言ってないぞ?」

 

「うん♪」

 

「まぁ、いいか」

 

 機嫌が良くて悪い事はないだろうとスルーするアシルに、熱のこもった視線を送るアニタであった。

 




アニタさんはちょっとだけヤンデレ化する予定です。
別に監禁したり刃傷沙汰とか重い感じにはしないつもりですが、依存心がベースになるので……。
出来たらギャグテイストで誤魔化したいと思ってます。

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