美食(?)ハンターのちマフィア?   作:もけ

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原作のゴン達は船でしたが、こちらは飛行船で移動です。

サブヒロインのアニタさん登場ですが、うん、まぁ残念な感じです。


犬派or猫派?私は断然猫派

 ハンター試験の会場があるタナン行きの飛行船内、客用の個室はなく、大ホールに全員が詰め込まれていた。

 

 学校の体育館6つ分程だろうか。

 

 そこにハンター試験受験者百名程が周りを警戒するようにして一触即発の空気を醸し出していた。

 

 そんな雰囲気の中、アシルは隅の方で座禅を組み、我関せずと言わんばかりに念の四大行の一つ『絶(ぜつ)』に入っていた。

 

 普通の人は生命エネルギーをオーラとして全身の精孔から無意識に垂れ流している状態にある。

 

 絶はその精孔を閉じ、自分の体から発散されるオーラを絶つ技術で、気配を消したり、体内でエネルギーを循環させる事により疲労回復を促す事が出来る。

 

 出発してから一時間、ホールに屈強そうな外見の男たちを従えた、見るからに船長という格好の人物が入ってきた。

 

「ふん、今年の受験者は期待はずれだな。これじゃあ本試験にたどり着くまでに死ぬのがオチ、引き返す方が親切というものか」

 

 いきなりの船長の罵倒と、こちらをあざ笑う男たち。

 

 こう着状態だった場の空気が一瞬にして騒然となるが、慣れているのか船長はそれを無視して言葉を続ける。

 

「まぁ、こちらも仕事だ。連れて行くだけは連れて行ってやる。ただし、到着してからの予選に進めるのは全員じゃない。優しい俺がミジンコみたいなおまえ達が無駄死にしないように、どんぐりの背比べではあるがふるいにかけてやる。有り難く思え」

 

 「全然有り難くねぇ」全員の心の声が聞こえた気がした。

 

「いいか、よく聞け。おまえ達にはこれからバトルロワイヤルをしてもらう。自分以外は全て敵だ。俺がこのホールを出たらバトル開始。次にまた入って来た時に立ってられた者だけが次に進める。仮にもハンターを目指すってんなら、最低限そのくらいの力は見せてみろ」

 

 確かに、どんなハンターを目指そうと自衛のための戦闘力は必須事項だ。

 

 そこら辺のアマチュアに負けるようではハンター試験に合格するなんて夢のまた夢だろう。

 

「じゃあ、せいぜい頑張る事だな。そうそう、後始末が面倒だから死なない様にしてくれよ」

 

 船長たちのまんま悪役という高笑いを最後に扉は閉ざされた。

 

 と同時に怒声と肉や木材、金属のぶつかり合う音がホールを埋め尽くした。

 

 百名にも及ぶ腕に自信のある者たちが密閉空間で一斉に戦い出したのだ。

 

 たまったものではない。

 

 絶の状態で気配を絶っているアシルは、気付かれないのをいい事に飛んで来る武器の残骸や怪我人にだけ注意しながら場のすう勢を見守っている。

 

「(船長は、次来た時に立ってられた者が次に進めるって言ってたけど、これって実は戦う必要ないんじゃないか?)」

 

 頭ではこんな事を考えているが、わざわざ口に出す事はしない。

 

 面倒くさいというのもあるし、そこまで親切でもない。

 

 ハンター試験は優勝を競うものではないが、ライバルは少ないに越したことはないのだから。

 

「(とりあえず念能力者はいないみたいだけど、何人かいい動きしてるな)」

 

 戦闘が開始してから20分程、立っている人数もまばらになり、見通しが良くなった。

 

 実力的には槍の中年男性と何らかの武術を修めてる拳闘家の青年が頭一つ飛びぬけてる感じだが、目を引くのはやはり紅一点、刃渡り20cm程の両刃の短剣を振り回している女の子だ。

 

 背はアシルより低い160cmくらいだが、歳は2つ3つ上だろうか。

 

 黒の皮のブーツに紫色の長ズボン、同色の半そでインナーに茶色のショートワンピを重ね、耳にはコイン型の白い結晶のピアス、チャームポイントはピョコピョコ動く肩にかからないくらいの短い黒髪のツインテイル。

 

 そこはかとなく某超有名RPGゲームに出てくる武闘家を連想させる恰好だ。

 

 顔の造形は、ややツリ目のせいか勝気な雰囲気がある。

 

 しかし目を引いた理由は、女の子というだけではない。

 

「(あの鬼気迫る雰囲気、あれは使命感…………いや、復讐か)」

 

 オーラには感情の色が出る。

 

 彼女から漏れ出ているオーラからは暗くて冷たい、しかし激しいものを感じる。

 

 権力者やマフィアと付き合いがある関係で、アシルにはそういう人を見る機会が少なからずあった。

 

 それにマフィアのボスの娘であるシャルロットと幼馴染のアシルにしてみれば『やられたらやり返す』の思考は当たり前の事で、そこに生産的かどうかは関係ないと思っている。

 

 まぁその場合は多分に見栄や体裁とかがあるのだろうが、アシル自身としても親やシャルロットが害されたと想定すればその衝動を抑えられないだろうと感じていた。

 

 まぁ復讐の終わらない連鎖を良しとするわけではないが、否定はしない。

 

 アシルはそういうスタンスをしている。

 

「(あの歳だと、親が殺されてとかかね)」

 

 そんな事を考えながら目で追っていると、彼女の後ろで倒れていた男がナイフを構え立ち上がろうとしていた。

 

 彼女はまだ気付いていない。

 

 下卑た笑みで口元を歪めた男がナイフを持った腕を振り上げ――――――

 

 彼女も気配に気付き振り返えろうとするが――――――

 

「ちっ」

 

 次の瞬間、一際大きな衝撃音と共に男はホールの壁に叩きつけられていた。

 

 場の空気が凍る。

 

 それもそうだろう。

 

 これくらいまで人数が減ってくれば、腕に覚えのある者ならば当然残りの人数くらい把握している。

 

 そこに突然今までいなかった者が現れたのだ。

 

 しかも人間を当身で吹き飛ばす程の実力付きで。

 

 当然、アシルの次の一挙手一投足に皆の警戒した目が集ま――――――――

 

「余計な事しないでっ!!」

 

「へ?」

 

 ドンと突き飛ばされるアシル。

 

 アシルにとってみれば打算も下心もなく、ただ目に留まっていた女の子が殺されそうだったのでとっさに動いただけだったが、まさか叱責されるとは夢にも思わなかったため認識が遅れる。

 

 ただ目の前で自分の事を親の仇の様に睨んでいる様に相手を怒らせてしまった事だけは何とか理解し、

 

「えっと、ごめんなさい?」

 

 謝罪を口にするが、語尾が疑問詞系なのは仕方がないだろう。

 

 しかし当然そんな形だけの謝罪で相手の怒りが治まるわけもなく、突き刺さるような視線は変わらない。

 

 アシルがどうしたものかと困っていると

 

「お礼は、一応言っておく。助けてくれてどうもありがとう。でも大きなお世話。私に構わないで」

 

 彼女は一方的に言いたい事だけ言って背を向けてしまった。

 

 その拒絶の態度に対してアシルは

 

「(なんかネコ科っぽい)」

 

 と、大変アレな、斜め上な事を考えていた。

 

 アシルには彼女の態度が精一杯虚勢を張って周りを威嚇している様にしか見えなかったのだ。

 

 ネコ科と言えばシャルロットもそうなのだが、シャルロットの場合はマイペースで気紛れな点や、毛を逆立てて「風穴、風穴」言ってる姿がそう思わせるのであって、彼女とはタイプが違う。

 

 しかし、そのネコ科っぽい振る舞いがアシルの琴線に触れる。

 

 が、同時に見送りの際のシャルロットとの事が思い出され、ブレーキがかかる。

 

「(下手にかかわると後でシャルに怒られるし、さっきみたいに噛み付かれるのも損だからな)」

 

 と胸中で結論を出し、殺されない程度に静観しておこうと決めた。

 

 無駄にかかわっても怒られるだろうが、それ以上に女の子を見殺しになんかしたら蜂の巣確定である事をアシルは過去の経験から悟っている。

 

「(いくら念でガードすれば平気だからって、照れ隠し以外で撃たれるのは勘弁だからな)」

 

 照れ隠しならいいのかと言うツッコミを入れる常識人は、残念ながらアシルの周りにはいない。

 

 むしろ流れ弾から迅速に退避し、そのまま止めるでもなく生暖かい目で見守っている者がほとんどだ。

 

 見方によっては襲撃に対する一種の避難訓練の様に見えるかもしれない。

 

「少なからず施設に被害は出ますが、それで実際に事が起こった際の生存確率が上がるのなら安い出費でございます」

 

 とは、屋敷の管理を任されている執事の言葉だったが、そう言った彼の瞳は遠く、何も映してはいない様だった。

 

 さておき、

 

「(もう自分の存在は周知されているし、遮蔽物もない所でもう一度『絶』をしても意味がない。彼女に対しては静観すると決めたけど、他までそうする理由もないし、先手を譲るなんてヌルい事はしない」

 

 アシルは意識のスイッチを切り替える。

 

「(じゃあ、殺りますか)」

 

 アシルはオーラを全身に止まらせる『纏(テン)』からオーラ量を一時的に上げる『練(レン)』を行い、そのまま練を維持する『堅(ケン)』、そして全身のオーラの量を部位ごとに振り分ける『流(リュウ)』で足に70%ほどオーラを集め、一番厄介であろう槍使いに向けて疾走する。

 

 称賛に値する反応の速さで突きを繰り出す槍使いの初動を体を回転させる事で躱し、その勢いのまま裏拳で相手の顎を刈り取る。

 

 槍使いが崩れ落ちる一瞬にその槍を奪い取り、振り向きざま、拳闘家に投げつける。

 

 殺さない様に加減した一投は、刃のない方の棒の先端を深々と相手の腹部に突き刺し前のめりに倒れさせる。

 

 アシルの猛攻は止まらない。

 

 手近にある武器を拾っては投げ、何とか防いだ者も接近を許し一撃のもとに沈められていく。

 

 ものの五分もしない内に戦闘は終了した。

 

 いや、戦闘とは名ばかりの一方的な蹂躙だった。

 

 それから三十分後――――――

 

 再度扉が開き、船長たちが入ってきた時には立っているのは二人の男女だけだった。

 

「ほう、残ったのは二人だけか。名前を言いな」

 

「アシル・ブルール」

 

「ア、アニタ……バニッシュ……」

 

 船長の前に立っているのは確かに二人だが、平然としている男に対して、女の方は息も絶え絶えと言った感じだ。

 

「大丈夫か、嬢ちゃん」

 

 普段ならそんな気遣いはしない船長だが、何とも居たたまれない気持ちになり、つい言葉をかけてしまった。

 

「大丈夫……です」

 

「(全然大丈夫じゃねぇーー)」

 

 意地を張る彼女に、その場全員の心のツッコミが入る。

 

「そ、そうか。じゃあ、坊主の方からハンター試験の志望動機を聞かせてもらおうか」

 

 隠す事でもないが、わざわざ大っぴらに言う事でもないと思うアシルだが、何となく「時間かけろよ」という無言の圧力を感じ、仕方なく話す事にする。

 

「家がちょっと特殊な料理屋をやってるんだけど、その稼業を継ぐためだな。世界中を回って一般人の進入禁止エリアにも足を運ぶ父さんは食材集めのハンターで、料理担当の母さんは集まった普通の店だと扱わない様な特殊な食材をハンターっていう肩書の信用度で提供してる。そんなわけで家業を継ぐためにはライセンスが必要なんだ」

 

 さすがにシャルロットの事までは言わないアシル。

 

「親がハンター……」

 

「あぁ、両親ともにな」

 

 その答えに、船長は手を顎にやり思案する素振りをしてから

 

「使えるのか?」

 

 ボソっと探る様に呟いた。

 

「知ってるのか?」

 

「あぁ、知ってるだけだが」

 

 固有名詞は出ていないが、念の事を言っているのは明白だった。

 

 念は秘匿される技術である。

 

 修行すれば才能に差はあれど誰でも習得することができるのが念だ。

 

 その念の発露は個人の素養により千差万別の形を取り、しかしどれもが超常の能力でもある。

 

 もしこれが一般に広まり使える者が増えれば、犯罪や戦争の過激化は火を見るより明らかだろう。

 

 ゆえに念について知ることが出来るのは、基本的にはハンター試験合格者のみとなっている。

 

 ちなみに現在ハンター協会に登録されているハンターは600人程しかいない。

 

 ライセンス所持者で暇してる者は稀だ。

 

 そしてハンター試験には全国各地から腕に覚えのある者が何万、何十万人と集まってくる。

 

 つまり本試験ならまだしも、予選や、さらにその前段階の現状の担当官なんかは協会と何らかの契約をした一般の協力者なのだ。

 

 念を使える者が受験しに来た際の危険から、その存在だけは聞かされている。

 

「見せた方が――――――」

 

「い、いや、その必要はないっ」

 

 オーラに少し殺気を込め始めたアシルを、船長は慌てて止める。

 

 念による攻撃に対して非能力者は無防備に過ぎる。

 

 それは極寒地帯に普段着で臨むようなものだと例えられる程だ。

 

「じゃあ、次は嬢ちゃんだ」

 

 とりあえず呼吸だけは落ち着いた彼女に船長は話を向ける。

 

「私の両親はある暗殺一家の者に殺されました。私はブラックリストハンターになってその敵を討ちたい」

 

 船長の質問に何とか感情を抑えようとしているが、彼女の声と表情からは隠しきれない憎悪が溢れていた。

 

 時として感情の爆発は力にもなるが、同時に視野を狭める欠点にもなる。

 

 プロの暗殺者相手にこれでは返り討ちだろうとアシルは分析する。

 

 理想は『心は熱く、頭は冷たく』だ。

 

 船長はアニタの答えにやや眉根を寄せるが特に何か言うわけではなかった。

 

 現在のシステムでは、例え人殺しだろうと試験に通りさえすればハンターになれる。

 

 つまりこの質問に興味以上の意味はなかったのだろう。

 

「よし、この船の合格者はお前たち二人だ。到着までまだ時間がある。上の階のラウンジで英気を養っていてくれ」

 

 その言葉を聞いてもすぐには動けない彼女を置き去りにする形で、アシルは「到着したらまずは食事だな」と気の抜けた事を考えながらラウンジに向かうのだった。

 

 タナンの郷土料理は「ほよほよ鶏の南瓜鍋」だったか……。

 




30分間の空白、密室で男女が二人きり、後には息遣いが荒く疲労が窺える女の姿が……。

アシルったら何てことをっ!!

なんて事はないですけどねww

次話で説明予定です。

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