ギャンブル。
それは運のみに頼って勝ち続けられるほど単純なものではない。
相手の所作から情報を汲み上げる観察力。
集めた情報から相手の思考を読み解く洞察力。
言葉巧みに相手を惑わす演技力。
駆け引きにおいて揺るがない精神力。
引き際を間違えず己を律する決断力。
それらの能力を駆使し、自分の運気と場の流れを読み切って初めて勝機を掴む事が出来るのがギャンブルである。
そんな過酷な四次試験の結果は以下の通り。
全額スって文句なしで脱落したのはキルア、ハンゾー、イモリ、ウモリの4人。
「クッソーーッ!! あいつ絶対イカサマしてたろっ」
「俺様とした事が何であそこで手を引かなかった……」
「兄ちゃんに盗られた」
「諦めろ、イモリ」
軍資金の半分を割り込んだのはポックルとチェリー。
「ハハ、俺ってやっぱりツイてないのかな」
「武術以外も鍛えねぇと駄目って事か」
惜しくも±0に届かなかったアモリとゲレタ。
「3人分集めても届かなかった……」
「チッ」
そして唯一の失格者ソミー。
「お客様、当店ではペットの同伴はご遠慮しております」
「ウキー」
「あ、こら、おまえは入れないんだって」
以上9名が四次試験の脱落者となった。
そして合格したのは次の10名。
±0でギリギリ合格したポドロ。
「妻にギャンブルは止められているのでな」
計算されたかの様にわずかにプラスをキープしたクラピカとポンズ。
「うむ、何とかなったな」
「アニタに負けたのが悔しい」
+5万を越えて余裕を持って合格したアニタとゴン。
「色々教えてくれたお父さんのお陰かな」
「キルア……だからあそこで止めとけばって言ったのに」
軍資金を倍以上にしたのはアシル、ギタラクル、スパー、レオリオ。
「……自腹切っちゃ駄目なんてルール聞いてないからな」
「カチャカチャ」
「フッ、散々野郎共から巻き上げてきたアタシの腕を舐めんじゃないよ」
「俺、こっちでも食っていけるかもな」
そしてぶっちぎりでトップに立ったのは奇術師ヒソカ。
「彼(キルア)とも遊んでみたかったけど、あのムキになった顔。くっくっく、そこそこ楽しめたかな」
負け惜しみにも聞こえるキルアの嘆きだったが、他の参加者に限らずアシルや試験官が密かに会場に紛れ込ませていた念能力者の監視員ですら気付けない早技で実際にヒソカはイカサマをしていた。
しかし『バレなければイカサマではない』がルールのこの世界、見破れなければ意味がないのだ。
そうは言ってもイカサマの種が念能力なので、キルアには逆立ちしても不可能なわけだが……。
さておき、見るからに胡散臭いヒソカが何かズルをやっていたとしても誰も違和感はないだろうが、アニタは頻繁に情報交換をしていた相棒の結果に違和感を覚えていた。
「ねぇ、アシル」
「ん、どうした」
「アシルって、いつの間にそんなに勝ってたの」
「あぁ、最後にちょっとな」
「ちょっと、何したの」
「……ATMで金をオロした」
「「「「「はぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」」
アニタだけでなく、周りで二人の会話が聞こえていた他の参加者からも一気に怒声が上がる。
「そんなのアリかよっ!!」
「やい、黒服。いくらなんでも反則じゃねぇのかよっ!!」
その中でも特に食ってかかるキルアとハンゾーだったが、
「問題ありません。禁止事項とさせていただいたのは他のお客様への迷惑行為だけであって、一言も『配布された10万J以外を使ってはいけない』とは明言していませんので」
詰め寄られた黒服はにべもなく切り捨てる。
「ま、そういう事だ。一応確認取ってからオロしたしな」
「それならそうと教えてくれても」
「いや、アニタ余裕で勝ってたじゃん」
「そうだけど」
何となく納得がいかず頬を膨らすアニタだったが、食事を奢るというデートの約束を取り付けた事で矛を収めた。
こういう事は引き際が肝心である。
相手を怒らせたりウザがられたりしては本末転倒も甚だしい。
相手に不満を持たせず、かつ自分のメリットを最大限に引き出すのが男女間の駆け引きというものだ。
後ろで未だに黒服にわめき散らしているのは、ただ自分のストレスを八つ当たりで発散させているだけなので交渉とは言わない。
双方それを理解しているので試験の結果は変わる事はなかった。
翌日、朝食を食べ終えた受験生たちはハンター協会の所有するビルの一室へと移動。
第287期ハンター試験もいよいよ大詰めとなり、これから最終試験が行われる。
ここまで勝ち残ってきたのは、44番ヒソカ、80番スパー、191番ポドロ、246番ポンズ、301番ギタラクル、403番レオリオ、404番クラピカ、405番ゴン、406番アニタ、407番アシルの計10名。
のはずなのだが、1人明らかに人相の違う人物が紛れ込んでいたため皆の注目が集まる。
「301番、ギタラクルはどうした」
「僕がそうだよ」
「顔が全然違うだろうが」
「変装してたんだよ」
「映画の特殊メイクじゃあるまいし、そんな変装があってたまるか」
「そういう能力だから」
「……能力か」
「うん」
「別室で確かめさせてもらう」
といった一幕もあり、モヒカン顔面針男ことギタラクル改め、ストレートの黒髪ロングで猫目の男がエントリーとなった。
「ギタラクルも偽名か」
「うん、本名はイルミ・ゾルディック」
「ゾルディックだとっ!?」
「良かったら名刺いる」
「い、いや、遠慮しておこう」
そんな試験官とイルミの会話を耳にした瞬間、「ゾルディック」と呟いたアニタの雰囲気が一変し、ナイフに手が伸びる――――――――――が、
「ダメだ。アニタ」
アニタが飛び出すより早くアシルの手がその手を掴む。
「だってアイツっ」
「今は抑えるんだ」
「でもっ」
「無駄死にしてご両親をこれ以上悲しませるな」
卑怯な言い方だとアシルも自覚しているが、これ以上の言葉はない。
「っ……分かった。でもいつか必ず」
「あぁ、分かってる」
何とかアシルが押し止めるが、話はそれだけでは終わらなかった。
灰髪のお子様と行動を共にしていた3人が「キルアをどこにやった」「キルは家に帰した」「ふざけるな、キルアは」とゾルディックの男ともめ始めたのだ。
その流れで、
「あの子供もゾルディックだったの」
「そうみたいだな」
「そうと分かってれば」
「アニタ」
「分かってる。いくら相手が子供でも今の私じゃ返り討ちだよね」
「あぁ、でもアニタはこれからだ」
「これから……」
「そうだ。強くなるんだろ」
「……うん」
敵(かたき)であるゾルディック家と言えば顔写真だけでも相当な懸賞金がかかっている相手。
その内の二人の顔を知る事が出来ただけでも収穫と言える。
アニタが決意を新たにしている裏で、もう一つの騒動の方はと言うと、突っかかって来る黒髪のお子様が鬱陶しくなったゾルディックが攻撃的なオーラを纏った所、直感なのか飛び退いたお子様との開いたスペースに意外にもヒソカが割って入り場を納めた。
どうやら件のお子様は戦闘狂(バトルジャンキー)であるヒソカのお気に入りで、成長させてから美味しく食べるつもりらしい。
傍観者一同「ご愁傷様」という目をお子様へ向ける。
本人はそんな周りからの視線には気付いていない様だったが……。
そんな中、アシルは二人のやり取りからヒソカとゾルディックの繋がりに注目していた。
三次試験でペアになっていたが、もっと前から面識があったような雰囲気がうかがえる。
戦闘狂のヒソカなら世界的にも名高いゾルディックに手を出していても不思議はない。
しかし敵対している様子もない事から戦ったが手打ちになり、不可侵条約でも結んだか……と推測する。
つまりヒソカの実力は世界でもトップクラス。
禍々しいオーラと言い、冗談でも手合わせしたい相手ではない。
さておき、遅ればせながら場が納まった事で試験官から試験内容の説明がなされる。
「最終試験は戦闘力を見させてもらうが、サシでやり合うとか、そう単純なものじゃない。まず全員にアンケートを取る。内容は『落としたい奴の名前を書け』だ。その結果、投票数が一番多かった奴が失格……とはいかない。投票した奴全員対投票された奴で戦ってもらう。全員一致の嫌われ者がいた場合は9対1で戦うって事だな。もちろん負けた方が失格だ。ここまではいいか」
試験官が見回すが特に質問は出ない。
「これだけだと弱そうな奴を書けばいいってだけの話になるが、もちろんそうじゃない。いいか、試合数、合格者数は決まっていない。つまり、もし合格者数が1人だとすると、強い奴を残しておくと最悪1対1で戦う羽目になるって事だ。逆に試合数が1回だとすると、戦わないで合格できる奴もいるかもしれない。その辺の駆け引きを踏まえて投票するように」
「質問がある」
「なんだ」
「仮に投票数が同じ者がいた場合はどうなる」
「その場合は2試合行われる。運が悪いと連続で戦う奴が出てくるかもしれないな」
「了解した」
「はい。事前に相談する時間はもらえるの」
「あぁ、投票前に10分ほど時間を取ろう」
「殺人とギブアップは許されるのか」
「どちらも可だ。死にたくなかったらすぐにギブアップする事を勧める」
質問はそれで終わり、投票用紙が配われ、シンキングタイムとなった。
「アシル、どうする」
「そうだな」
周りの様子をうかがうと、自分とアニタ、クラピカとお子様とチンピラ、ポンズとスパー、他は個人でいるようだった。
これでは試験官が言った様な9対1の状態は無理だろう。
もし呼びかけられてもアシルに応じるつもりはなかったので特に問題はないのだが……。
「まず前提条件として、俺もアニタもどうしても今回合格しなきゃいけないわけじゃない事を確認しておく」
「私はそうだけど、アシルはいいの」
「あぁ、これでもまだ15だからな。早いに越した事ないが18までに取れればいいと思ってる」
「そうなんだ」
「次に方針だ。ゾルディックとピエロとは戦わない。もし戦う事になったら即ギブアップ」
「分かった」
アニタは苦虫を噛み潰した様な表情になりながらも了承する。
「残りの6人だが、厄介なのはポンズだ」
「そうだね。こんな密閉された空間で彼女の蜂から逃げ切れる自身はないかも」
三次試験においてアニタも周囲を索敵するポンズの蜂を見ている。
「後は単純な接近戦だ。纏(てん)をしていれば苦戦はしても負けはしないと思う」
「了解。じゃ、誰にする」
「俺はポンズだな」
「へ? なんで」
「誰も選ばなそうだから」
「あぁ、そういう意味ね」
試合をしないで合格できるならそれに越した事はないと言うアシル。
「アニタはどうする」
「じゃあ私はスパーにする」
「その心は」
「何か残ってるメンバーって、本気で女を殴れないタイプみたいじゃない」
「確かに」
試合数が少なく早期終結される事を願い、試合をしないで済む選択を選んだ2人。
果たして他のメンバーはどういう選択をするのか……。
キルアは当然の様に落ちましたw
原作でもスッてましたからね。
その後ですが、四次試験から帰って来たホテルにおいて、素顔を晒したイルミに原作通り脅され実家に帰りました。
まぁ最終試験に進もうが落ちようが主人公たちの流れは変わらないという事で。
ハンゾーは忍者のくせにギャンブルに熱くなって失敗しそうなイメージだったので。
ポックルはまんまですw