美食(?)ハンターのちマフィア?   作:もけ

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四次試験は……ヒソカ、一人勝ちの予感?

 三次試験にトライしたのは38名、13組。

 

 遺跡の屋上にある内部への入り口は複数あるが、スタートするのは一組ずつ。

 

 しかも前の組が合格するかリタイヤするまで次の組は待ちぼうけのため、受験生は飛行船内で何時始まるかも分からないストレスにさらされ続ける事になった。

 

 アシルの組は最後から2番目。

 

 ちなみに、ラストはピエロと針男の念能力者ペア。

 

 これには意図的なものを感じる。

 

 遺跡を壊されないためか、念能力者用のトラップがあるのか……。

 

 次の組が呼ばれるペースはマチマチで、10分で呼ばれる事もあれば最長で3時間あいたケースもあり、そのためアシル達がスタートしたのは最初の組がスタートしてから優に10時間が経過していた。

 

 その長過ぎる待ち時間は食事と睡眠に当てられたが、当然それだけで使い切れるわけもなく、おしゃべり好きの忍者によって奇しくも男3人親睦を深める事となった。

 

 舌はよく回るが口が軽いわけではなく、他人の触れられたくない部分にヅカヅカと踏み込もうとしないだけの常識とデリカシーを持ち合わせたハンゾーが会話の主導権を握っていた事もあり、語られた内容は当たり障りないものが多かった。

 

 掻い摘んで例を挙げると、ハンゾーの忍者社会に対する愚痴だったり、二次試験で修羅場を演じたアシルの女性関係だったり、中性的な顔立ちをしているクラピカのナンパされ率(同性含む)だったりとそんな感じだ。

 

 詳しくは口を割らなかったが、クラピカのナンパされ率は繁華街のような場所では声をかけてきた相手を殴り倒したくなるほど酷いらしい。

 

 小さな集落で育ったせいもあるが、おかげで人混み嫌いが悪化したとか。

 

 ハンゾーは冗談で「俺みたいに頭を丸めればいい」と言い、アシルは「せめて髪を短くしてピアスを外せば少しはマシになるんじゃないか」と提案するが、そこは本人なりの美学と譲れない一線があると却下された。

 

 まぁ、つまりは自業自得である。

 

 さて肝心の試験だが――――――――――不意に作動したトラップから放たれた矢がクラピカを襲うが、いち早くそれに気付いたアシルが身を挺してクラピカを守る。しかし力加減をしている余裕がなかったため矢は避けられたが勢い余って押し倒す形になってしまった。追撃がないか周囲を警戒するアシルと、いきなりの事に思考が停止したクラピカ。数秒後、示し合わせたかの様なタイミングでお互いに相手の事に意識が戻った瞬間、吐息がかかる程の至近距離で視線がぶつかる。「あっ、わ、悪い」「い、いや、助かった。れ、礼を言う」跳ね起きたアシルに対して女の子座りで背を向け、足の間に手を挟み、もう片方の手で反対の腕を掴む事で結果として胸部を隠すポーズになっているクラピカだが、アシルの反応が気になるのかチラチラと視線を寄越し――――――――――なんていうBL版ToLOVEる的な展開は特になく、主にハンゾーの活躍により危なげなくクリアとなった。

 

 忍者の罠を見破る観察眼と危険察知能力は、アシルが念能力ではないかと勘ぐる程の冴えを見せた。

 

 凝(ぎょう)や円(えん)を使って警戒していたアシルとしては肩透かしを食らった感が否めないが、別に命の危険やスリルを味わいたいわけでは微塵もないので「やれやれだぜ」と溜め息をつくに留めておいた。

 

 自分の試験が終わった事で頭を切り替え、アニタは大丈夫だったろうかと考えながら遺跡から外に出ると、

 

「アシル、おかえり」

 

 件のアニタの出迎えを受け、自然と頬が緩む。

 

「ただいま、アニタ」

「怪我してない?」

「あぁ、大丈夫だ。アニタこそ大丈夫か」

「うん、危ない事も何度かあったけど、この通り」

 

 目の前で両手を広げクルッと一回りして見せるアニタ。

 

 確かに大きな怪我はしていないようだが、トラップを避け損なったせいで所々衣服が切れていたり血が滲んだ跡が見られる。

 

 しかし応急処置は待っている間にきちん済んでいるようで、それを確認したアシルは胸をなで下ろす。

 

「良かった」

「心配、した?」

「あぁ、心配した」

「そっか」

 

 満面の笑みを浮かべるアニタ。

 

 端から見たら完璧桃色空間である。

 

 さておき、最後発だった念能力者ペアも特に問題なく到着し、三次試験は終了となった。

 

 38名13組がトライし、合格できたのは20名7組。

 

 しかし重傷のため1名が棄権し、次の四次試験には19名が進む事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一次試験から山、山、山と続いたハンター試験だったが、四次試験でついに変化が訪れる。

 

「文明社会に戻って来れたのは嬉しいんだが」

「ここホテルだよね」

「まずは皆様、お部屋のカードキーをお受け取りください」

 

 困惑する一同をよそにハンター協会所属の黒服がカードキーを配っていく。

 

「それでは割り当てられたお部屋で身支度を整えていただきます。ご用意させていただいた衣類がお気に召さない場合は各階のエレベーター前に控えている黒服に申し付けるかフロントまで内線をお願いします」

「えっと、着替えなきゃ駄目ってこと?」

 

 釣竿を持った少年が首を傾げる。

 

「そうです。これから皆様の向かわれる第四次試験会場はドレスコードがありますので、そのためです。もちろん武器の類の持ち込みは出来ませんので、ホテルで預けるなり、会場の入口で預けるなりしていただきます」

「なんだとっ!? こんな危ねぇ奴のいる場所でテメーの得物を手放せって言うのかっ!!」

「くっくっく、酷い言われようだ」

 

 チンピラ風の男が勇敢にもピエロを指して最もな懸念を訴えるが、

 

「異論がある方は棄権と見なすとの試験官からの伝言をいただいております」

 

 黒服はそれをバッサリと切り捨てる。

 

「くっ」

「それと僭越ながらハンターは何時、何の関係で襲撃を受けるか分からない職業です。手元に武器がないからといって一々泣き言を言っていては到底務まらないでしょう」

「正論だな」

「ちっ、オーケー、分かった。降参だ。勝手にしやがれ」

 

 相棒であるクラピカの裏切りを一睨みしてから、観念したのか両手を上げて恭順をアピールする。

 

「それではあちらのラウンジに三時間後に集合という事でお願いします。お食事は協会持ちですが、ルームサービスまたはラウンジに限らせていただきますのでご了承ください。それではどうぞ」

「キルア、何号室」

「307。ゴンは」

「隣りの306」

「じゃあ、シャワー浴びて着替えたら合流しようぜ」

「うん」

 

 黒服の説明が終わると思い思いにエレベーターへと向かうが、やはりお子様が一番元気である。

 

「アシルは」

「202だ」

「私は」

「てい」

「いたっ!? な、なに」

 

 質問された時点で会話の流れが予想できていたアシルは、言いかけたアニタの頭にチョップを落とす。

 

「女の子が不用心に誰が聞いてるかも分からない場所で自分の部屋番号を言うもんじゃない」

「うぅぅ、ごもっともです」

「準備が終わったら電話してくれ。一緒に食事しよう」

「うん。分かった」

 

 さすがに19人が一度には乗れない上に、危険人物と密着して乗りたいとも思えないので、自然と4機に分かれて乗り込む。

 

 内訳は、危険人物2人、女性陣3人、後は残りの男性陣で7人ずつだ。

 

 受験生達には明かされていないが、協会側からの配慮で男性陣は2階と3階に分かれているが、女性陣は1階分間を空けた5階を割り振られている。

 

 アシルが部屋に入ると、一人客用にしてはやや広い10畳程の部屋に余裕を持って家具が配置されており、シングルのベッドの上には黒服が言っていた着替えが用意されていた。

 

「ドレスコード、ね」

 

 目の前には黒のフォーマルスーツ一式が揃っている。

 

「いったい何をやらされるのやら」

 

 その後自分の仕度はさっさと済ませ、女性の身仕度に時間がかかる事は経験済みなので座禅を組んで点(てん)をしながら時間を潰していると、部屋に入ってからもうすぐ2時間という頃になってようやくアニタから電話がきた。

 

 アニタの部屋でルームサービスを取ろうという話になり部屋へ向かうと、

 

「おぉ」

 

 髪をアップにし、ライトグリーンのドレスは胸の下に切り替えのある膝丈のワンピースドレス。

 

 開いた胸元には主張し過ぎないシンプルな石のネックレスを下げ、耳にはお揃いのイヤリングという上品に着飾ったアニタが立っていた。

 

 今までとのギャップでより一層可愛く見える姿にアシルは自然と感嘆の声が漏れる。

 

「どう、かな」

「正直見違えた。凄く可愛いよ。ドレスも良く似合ってる」

「そ、そう? えへへ、ありがと。アシルも格好良いよ」

「煽てても何も出ないぞ」

「そんな事ないよ。何か着慣れてる感じする」

「まぁ実家でお客に給仕する時はだいたいこんな格好だからな」

「へぇ、そうなんだ」

 

 お互いひとしきり褒め合った所でルームサービスを頼む。

 

 この後に何が待っているか分からない状態で羽目を外すわけにもいかず、アルコールは控え、食事もサンドイッチと軽めのものをチョイスした。

 

 そして時間になり、ラウンジに受験者達が集まる。

 

 年齢的に着せられてる感バッチリのお子様たち、スーツを着た事で金髪の長髪とピアスがチャラく見えてしまうクラピカ、服装がランクアップしたせいでどう見てもマフィアにしか見えなくなったチンピラ男、 同じく堅気には絶対見えないスキンヘッドのハンゾー、帽子を脱いだ事で身長のサバが読めず5歳は下に見えるピンクのドレスのポンズ、対照的に大人の色気で男性の視線を独り占めにするきわどいスリットの入った紫のロングドレスのスパー、コメントし辛い針男などなど。

 

 試験中の服装から皆それぞれギャップがあるが、その中で特に強烈なインパクトで他の追随を許さないのがピエロの化粧を落としたヒソカだ。

 

 皆最初は「誰だ。あのイケメン」と訝しむのだが、声を聞いて吃驚仰天。

 

 そして「何であんな変態が美形なんだ。宝の持ち腐れだ」と失礼だが的を射た感想を抱く。

 

 本人はそんな周りのリアクションが楽しいようで、珍しく穏やかなオーラをしながら上機嫌で笑っている。

 

 戦闘狂と殺人嗜好の印象が強いヒソカだが、奇術師としての一面、相手の意表を突き、驚かせ、思考を誘導し、油断を誘い、騙し、僅かに与えた希望の芽を一転して摘み取り絶望に突き落とすと言った相手の感情を自分の意のままにコントロールする行為に喜びを感じる人格破綻者でもある事を忘れてはいけない。

 

 そんな厄介極まりない危険人物はさておき、周りから見たら何の集団か分からない凸凹な一団の向かった先は――――――――――天国と地獄、栄光と破滅、光と影が紙一重で混ざり合う混沌と享楽の園『カジノ』だ。

 

「なになに遊んじゃっていいの、これ」

「キルア、ここは」

「カジノだよ、カ・ジ・ノ。ゴン、知らないのか」

「映画の中でなら見た事ある……かも?」

「なんだよそれ、頼りねぇなぁ」

「キルアは来た事あるの」

「仕事のついでにな」

「へぇ」

「だけど、そん時はちょっとしか遊べなかったから超楽しみだぜ」

「俺にも出来るやつあるかな」

「任せろ。俺がバッチリ教えてやるよ」

 

 ハシャぐお子様たちとそれにつられて浮き足立つ若干名の大人たちが勝手に行動してしまう前に、パンパンと手を叩いて注目を集めて前に出た黒服が説明を始める。

 

「これから皆様に10万Jをお渡しします。それを元手にギャンブルをしていただきますが、四次試験の合格枠はあらかじめ10名と決められています。よって試験終了時の所持金が多い方から順番に10名が合格となります。注意事項としましては、ここには一般のお客様もいますので迷惑のかかる行為が発覚した際は失格となりますのでご注意ください。終了時にお配りした10万Jは返却していただきますが、マイナス分は請求しませんのでご安心ください。プラス分はお持ち帰りいただけます。タイムリミットは日付の変わる0時までとなっておりますのでお気を付けください」

 

 試験官が出て来ないのは初めてだが、迷惑行為をチェックするために他の場所から監視でもしているのだろう。

 

「こんな試験もあるんだ」

「意外過ぎるな」

「今までの試験は体使ってばっかりだったから今度は頭使えってこと」

「運の要素はあっても、それだけってわけじゃなさそうだな」

「駆け引きとか心理戦とか」

「後は……イカサマとか」

「そんなの私できないよ」

「いや、イカサマを見抜く方で」

「そっちも厳しい」

「ところでアニタはこういう所の経験は」

「両手で足りるくらいだけど一応あるよ」

「そうか、俺も何度かあるからそっちの心配はなしでいいな」

 

 アニタは両親が存命の際に家族旅行で、アシルはシャルロットのお供で彼女の実家が経営するカジノに遊びに行った事がある。

 

「この試験のポイントって『いくら儲けるか』じゃなくて『上位10人の中に入る』って所じゃない」

「そうだな。他のメンバーが軒並みマイナスなら別に何もしなくても合格できるわけだ」

「逆にいくらプラスになっても他の人より少なかったら意味がない」

「あぁ、周りへの注意も必要って事か」

「うん。アシルは何からやる」

「スロットかな。目押しが可能か確かめてみる」

「私は……ルーレットかな」

「じゃあ、また後でな」

「うん、頑張ろうね」

 

 そうして受験生たちは三々五々欲望渦巻く煌びやかなフロアへと散らばって行った。

 




知識を試すクイズ大会と悩んだんですが、正装させたかったのでカジノにしてみました。
サブタイ通り、ヒソカの一人勝ちですねw
そしてあのキャラがどうなるか皆さん予想がついていると思いますが、内緒でお願いします。

クラピカの女性版のネタを思い付きで突っ込んでみましたが、そういう作品を読んだことがないので反応とかよく分かりませんね。

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