美食(?)ハンターのちマフィア?   作:もけ

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随分と久しぶりの更新となってしまってごめんなさい。
最近はすっかり読み専になってしまっていて……今更ですが銀河英雄伝説が熱いです。
あと最近思った事は、ゼロ魔の作者さんがお亡くなりになったのはショックでした。
あと2巻で終わるって言ってたのに……。
俺妹が次巻で終わってしまう事も悲しいです。
良いニュース(?)だと、ニャル子さん2期のOPは良かったですね。
さておき、早くハンター試験を終わらせられるようにまた書いて行こうと思います。


美食ハンターといえば、あの人でしょう

 ココの滝、目算で標高約1000m。

 

 1kmは平地で歩けば10分から15分の距離だが、登るとなると相当な高さだ。

 

 単純に、1m上の岩を掴み体を持ち上げるという運動が1000回必要になる。

 

 見る、掴む、確かめる、上がるという1連の動作に5秒かかるとすると頂上まで登り切るのにかかる時間は5000秒、1時間23分20秒だ。

 

 しかし実際には疲労のためペースダウンもするだろうし、途中途中でルートを考えたりするロスもあって、余裕を持って2時間は見たい所だろう。

 

 つまり一発勝負なら10時には登り始めないといけないし、保険で2回目の時間を取るなら8時からとなる。

 

 アシルとアニタは相談した結果、朝食と食休みを兼ねた休憩を取って8時から登る事に決めた。

 

 周りも似たり寄ったりで、夜通しの強行軍の疲労を抱えたままこの絶壁を登ろうという無謀な輩はいない様だ。

 

「じゃあ、まずは朝食の準備だな」

 

 アニタは焚き火をするための木っ端を集めに森へ入り、アシルは適当な長さの枝の先を尖らせ銛代わりにして、パンツ一丁で滝壺へと潜る。

 

 手付かずの自然。

 

 さすがは秘境と言うべきか、朝日が透過する透明度の高い水の中は生き物で溢れていた。

 

 アシルは群で泳いでいる30cmくらいの魚に狙いを付け、絶の状態で後ろからそっと忍び寄り、一突き。

 

 仲間の死に驚き散り散りに逃げる魚だが、アシルの突きの方がわずかに早く、2匹目を突く。

 

 水から上がり、その場で魚の腹を割いて内臓を出し、頭を落として三枚に下ろす。

 

 周りには少ないとは言え女性もいるのでシゲミで着替え、アニタを待ちながらパンの種を作る。

 

 魚は身が崩れない様に注意しながら手で軽く叩くように下味を付け、小麦粉をまぶして真ん中にゴマ菜を挟み、スープ用にキノコを切っておく。

 

 ちなみにゴマ菜とキノコはアニタを背負って歩いている時に見つけ、摘んでおいたものだ。

 

「お待たせ」

「いや、いいタイミングだ」

 

 アニタの集めてきた木っ端から火を起こし、フライパンを二つ用意して手持ちのオリーブオイルでパンと魚を焼き、鍋でキノコを入れた湯を沸かす。

 

「フライパンにお鍋までよく持ってきたね」

「あぁ、食事を疎かにはしたくないからな」

「かさばるし、重いし、大変じゃない?」

「否定はしないが優先順位の問題だな」

「なるほど」

 

 湯が湧いたので昨日も使った自家製コンソメスープの元を入れる。

 

 最後に焼いたパンに魚を挟んで完成だ。

 

 簡単だが、軽食には丁度良い。

 

「良い匂い」

「じゃあ、食べるか」

「うん」

「「いただきます」」

 

 黒胡椒とケッパーでパンチを利かせた味付の魚とオイルがパンに良く合う。

 

 それでもパサつきを感じた時はコンソメスープで口を潤す。

 

「アシルのご飯って、ホント美味しい」

「口に合って何よりだ」

「アシルの弟子になったら、毎食美味しいご飯が食べられるなんて役得だね」

「いや、手伝えよ」

「ふふん、自慢じゃないけど、ろくに料理した経験がないわ」

「本当に自慢じゃないな」

「包丁よりコンバットナイフの扱いの方が得意」

「さすが、と言うべきか」

「だから料理はアシルに全面的にお任せします」

「まぁ、それでも構わないが、良かったら料理も教えるが?」

「ホントっ!!」

「お、おぅ、女の子なんだから料理の基本ぐらい出来た方がいいだろ」

「そこでこの前話した願望の話に繋がると」

「いやいやいや、あれはあくまでも一般論であって俺個人の願望というわけでは」

「じゃあ、もしアシルが寝込んだ時に私がお粥を作って食べさせてあげても嬉しくはないと」

「…………お、おぅ」

「そっか~~残念だな~~。もし喜んでくれるなら『あ~~ん』して食べさせてあげるのに」

「あ~~ん?」

「あ~~ん」

「くっ」

「ん?」

「…………う、嬉しいです」

「よろしい」

 

 願望に素直なアシルであった。

 

 食休みついでに仮眠を取った二人は、全体が見渡せるように少し離れた位置から滝を見上げる。

 

 水煙は凄いが、天気が良い事もあり下からでも頂上まで見通せるのが有り難い。

 

 岩肌には既に何人もの受験者が取り付いており、先人を真似ているのかルートは5通り程に限られている様だった。

 

 しかし、やはり容易ではないのか、壁の下には途中で落下した受験者の血飛沫の後が見て取れる。

 

 怪我人や死体は試験官がいつの間にかに建てたテントに収容されているようで、壮大な景色に似合わないうめき声が漏れ聞こえてくる。

 

 その状況に改めて気を引き締め、自分達はどのルートを選ぶのかと数分前に切り出したアニタだったが「ちょっと考えさせてくれ」と言って沈黙してしまったアシルに一瞬不満を持つも何か考えがあっての事だろうと気を直して素直に従い、傍らで大人しく四肢の柔軟をして待ちながら何気なしにアシルの視線を伺ってみると、ピエロの様な場違いな格好をした受験者を目で追っているようだった。

 

 軽快なテンポで苦もなく登っていくピエロ。

 

 確かにより安全なルートを選ぶためには動きの良い受験者を探すのも手だろうと納得しそうになった所で「くっついてるのか?」「変化系?」などの呟きが聞こえた気がして振り返るといつになく難しい顔をしたアシル。

 

「アシル。あのピエロみたいな人がどうかした?」

「ん? あぁ、あの男も念能力者なんだが……」

「能力を使って登ってる?」

「多分」

「そんな事もできるんだ」

「念能力は千差万別。人によって違う。あれと全く同じ事をやれと言われても俺には無理だ」

「その言い方だと似たような事ならできるって聞こえるけど」

「ん~~、できない事もない」

「おぉ」

「だが、やらない。それじゃあ俺だけしか登れないからな」

「あ、確かに。でも、じゃあ普通に登るの?」

「普通と言えば普通だが、登り易くする努力はしよう」

 

 そう言って他の受験者から離れた所に移動。

 

 そこで落ちても安全な高さで登り方の練習をしながら力のかけ易い腕の位置などを確認。

 

 加えてアシルが今回どの様に念を使うかも説明された。

 

 最後にアシルの持っていたロープでお互いの腰に縛り、1000mにも及ぶ絶壁に向かう。

 

「じゃあ、行くぞ」

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてニ時間後。

 

「アニタ、手伸ばせ」

「あ、ありがと」

 

 先に頂上に着いたアシルがアニタを引き上げる。

 

「つっかれた~~」

「おつかれ」

 

 縁(へり)から離れた所で、もう限界と寝転がるアニタ。

 

 アシルもニ時間の念行使に疲労を感じていたので隣りに腰を下ろす。

 

 アシルは今回自分の発ではなく、変化系と強化系のオーラの使い方でオーラに包丁の様な鋭利さと強度を持たせ、手で掴み易い様に、足をかけ易い様に岩に穴をあけながら登ったのだった。

 

 料理には普段ちゃんと包丁を使うアシルだが、捕獲した獲物の血抜きや解体する際に使っている技術だったので慣れたものである。

 

 厚さ長さを自由に変えられ、刃こぼれもせず、洗う必要もないという便利さ。

 

 一見これさえあれば包丁もいらなそうに見えるが、包丁は料理人の魂なのでその意見は論外である。

 

「さてと」

 

 30分ほど座っていたアシルはいつの間にか寝息をたてていたアニタを起こさない様にそっとその場を離れお茶の準備を始める。

 

 試験終了までまだ一時間程あり、頭上には青空、眼下には手付かずの自然が広がっている。

 

 一次試験終了後、最悪すぐに二次試験が始まる可能性もある事を考えると、今は滝の落ちる音や鳥の鳴き声をBGMに英気を養うのが最善だろう。

 

 非常食用に買っておいたチョコレートと蜂蜜生姜茶を二人分用意して、水気を絞ったタオルをアニタの頬に当てた。

 

 一次試験、タイムリミットである正午までに滝を登る事ができたのは128人。

 

 走り始めた当初400人いた事を考えると、最初の試験だけでおよそ70%もの受験者が脱落した勘定になる。

 

 滝に到着した時点ではもっといたのだが、最後の滝登りが駄目押しになった。

 

 ライセンスを取得できる最終的な合格者が一桁が普通のハンター試験においてこの結果がどの程度のものなのかアシル達には判断がつかなかったが、二人でのんびりお茶を飲みながらまったりしている際に聞こえてきた周囲の雑談からは今回の体力勝負の試験は例年より過酷だったという評価らしい。

 

 恐るべし秘境ハンター。

 

 侮るなかれ秘境ハンター。

 

 さて話は代わり、最悪すぐにでも次の試験が始まるのではと危惧していたアシルだったが、飛来した飛行船から予想もしていなかった人物が降り立った事に意表を突かれ一瞬頭が真っ白になる。

 

「私はメンチ。二次試験の試験官よ」

 

 ピンクの髪を後ろで五つに縛り上げた奇抜な髪型、男の性を刺激する巨乳を支えるブラジャーが透けて見える半袖ヘソ出しなメッシュのTシャツ、デニムのホットパンツにブーツで惜しげもなく露出された太もも、腰にはガンベルトの様な太めのベルトが回されており、背後に隠れて見えないが彼女愛用の包丁が2本吊されている。

 

 彼女は21歳にして一つ星ハンターの称号を持つ新進気鋭の美食ハンター。

 

 と言っても、年齢に対してハンター歴は既に9年。

 

 念歴は15年にも及ぶベテランである。

 

 アシルの様に両親が料理人やハンターといったわけではないが、幼少期にそういった人物と知り合い多大な影響を受けたとかなんとか……。

 

 ちなみに、なぜアシルがそんな彼女の事情を知っているかと言うと、彼女が一時期アシルの実家のポワゾンに住み込みで修行に来ていて面識があるためである。

 

 と言うか、お互いに世界を飛び回っているため直接会う機会はそう多くないが、その代わり頻繁にメールのやり取りをするぐらいのそこそこ良好な関係を現在も続けている。

 

 もちろん事前に今年ハンター試験に挑む事もアシルは連絡しておいたし、一次試験に挑む直前に休んでいたバンガローからもメールをしていたが、彼女からは応援のメッセージしか返ってきてはいない。

 

 ドッキリなのか? それともイレギュラーがあって急遽押し付けられた? とアシルが訝しんでいると、ふと件の彼女と視線がぶつかった。

 

 途端、

 

「アっシルーー♪ ひっさしぶりーー♪」

 

 公衆の面前で抱きつかれた。

 

 と言うか、肉食獣が獲物にトドメをさすが如く首に飛びつかれた。

 

 そのあまりの勢いに、アシルはとっさに全身に堅をしてしまったほどだ。

 

 その場違いな状況に周りは唖然としているが、彼女の強固なメンタリティはそんな事はお構いなしだ。

 

「あーー半年振りかしらこの感触。お姉ちゃん寂しかったよーー」

「ちょ、メンチ姉、場所をわきまえろ。試験中だぞっ」

「そんなの関係ないわ。いえ、むしろ試験官をするためにも今は欠乏してしまったアシル分を補充する事が先決よ」

「いつも言ってるが、ないぞ、そんな成分っ」

「あるわっ!! 欠乏すると動悸息切れ目眩発熱その他諸々の禁断症状が出る生きるために必須な栄養素の一つよ」

「栄養素って言うか、それじゃ麻薬みたいだぞっ」

「麻薬なんてチンケなものと比べないで欲しいわ。もっと甘美で、至上なものよ」

「意味分からんっ」

 

 戦闘ならまだしも単純な力勝負では適わないと分かっているので、不満は口にするが彼女が満足するまでされるがままになる事に諦めの境地に達しているアシル。

 

 が、周りはそんな事は分からない。

 

 端から見たらいきなりイチャつきだしたバカップルだろう。

 

 もちろんそれを看過できない人物もいる。

 

「アシル? これはどういう事かな? いくらお姉さんでも試験中、しかも公衆の面前で不謹慎じゃない?」

 

 まだ念は使えないはずなのに、そこに妙な迫力がある笑顔を貼り付けたアニタだ。

 

「なによ、アンタ。アシルの知り合い?」

 

 アシルの首に抱き付いたままで睨みを利かすメンチ。

 

「えぇ、アニタ・バニッシュです、お姉さん。アシルとはタナンに向かう飛行船から一緒に行動させてもらっています」

「ふ~ん、まっ、どうでもいいわ」

「ど、どうでもいい……」

「だって知り合ってまだ三日でしょ? そんなの有象無象と変わらないじゃない」

「そんな事ありませんっ!! アシルは誰も応援してくれなかった私の目的に協力してくれるって言ってくれて、試験会場までだって試験中だって守ってくれて、そう、この試験が終わった後だって目的を果たせる様に鍛えてくれるって……だから……だから……」

「ちょっとアシル」

「えっと、何かなメンチ姉」

「あんたこのストーカー女どうするつもりよ」

「ス、ストーカー!?」

「メンチ姉、それはあんまりじゃ」

「だってそうでしょ? 会ってまだ三日だって言うのにこの執着の仕方。正直ドン引きよ」

 

 言葉に詰まり沈黙する二人。

 

「アシルの事だからどうせ善意で優しくしてるんだろうけど、こういう女は厄介よ? アタシだから穏便に会話してるけど、これがシャルロットだったら速攻で風穴決定ね」

「プライバシーだから詳しくは説明しないけど、でもそれは見捨てても結果が変わらないと思われる状況で……」

「何となく分かるからそれはいいわ。はぁ~~シャルロットも面倒くさい女ね。アシル、やっぱりお姉ちゃんにしときなさいよ。私が調理担当で、アシルが食材調達。師匠達と一緒で相性バッチリじゃない」

 

 そう言って胸をわざと押しつけ密着度を上げるメンチ。

 

 だがそれに対してアシルはあまり動じない。

 

 これがスキンシップ過多な弟分に対するブラコンの冗談だと分かっているからだ。

 

 しかし、重ねて言うが周りはそんな事は分からない。

 

「いい加減にしやがれっ!!」

 

 と、案の定三人を囲んでいた人垣から怒声が飛ぶ。

 

 受験番号255番、レスラーのトードだ。

 

「誰よ、アンタ。私とアシルの愛の一時を邪魔しないでくれる?」

「ふざけんなっ!! テメーらの都合なんざ知るかっ!! 試験官ならさっさと仕事しろよっ!!」

 

 もっともな意見に不貞不貞しいメンチとショックから立ち直れないアニタを除く全員が頷く。

 

「うっさいわね。ここでは私がルールよ。文句あるなら帰りなさい」

「なっ!?」

「アシルが受験するって言うからわざわざ予定キャンセルして試験官に立候補したのに邪魔するんじゃないわよ」

 

 公私混同も甚だしい理不尽過ぎる言い分だが、得てして世の中はそういうものである。

 

 まぁ、それに反発してしまうのもまた世の常なのだが……。

 

「ふざけんな、このクソアマっ!! メンチだかコロッケだか知らねぇが、テメーなんざ試験官として認められるかっ!! こうなったらテメーをふん縛ってハンター協会に直訴してやる」

 

 




メンチさんがブラコンにっ!?
あ、結婚してもいいとは思ってますけど、恋愛とはまた違った感じで、所詮メンチさんの1番は食事だという事です。
美食ハンターの鏡ですね。
ちなみにメンチさんは強化系だと思ってるんですけど、違ってたら指摘してください。

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