美食(?)ハンターのちマフィア?   作:もけ

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いらっしゃいませ。
『魔法少女リリカルなのは』で一本連載中のもけです。
あちらは一人称、こちらは三人称と書き分けてみようと思っていますが、どうも一人称よりになってしまい四苦八苦しています。
見苦しくならないよう頑張りますので、よろしければお付き合いください。


釘宮ボイスではないですよ?

 食欲。

 

 それは人間の三大欲求の一つ。

 

 そしてあくなき探求の道でもある。

 

 人間を人間たらしめる要因の一つの指標でもある『文化』。

 

 食はその代表格だ。

 

 人は生活に余裕が出来るとまず食にこだわる様になる。

 

 味付けを変えるために調味料を、新しい味や食感を得るために調理法を、そして本来必要ではない酒や菓子の様な嗜好品を嗜む様になる。

 

 様々なものが開発され、精査され、淘汰され、洗練されていく。

 

 『文化の発展度合は食を見れば分かる』とさえ言われる程だ。

 

 しかし光ある所に必ず影がある様に、食にもアンダーグラウンドな面がある。

 

 虫やまだ動いているものを食べる者、命の危険のある毒を含んだ部位を食べる者、麻薬の様に中毒性のあるものを食べる者。

 

 いわゆる『ゲテモノ食い』というやつだ。

 

 食欲が欲である限り、その欲望に果てはない。

 

 もっと美味いものを、まだ食べたことのない食材を、まだ感じたことのない刺激を。

 

 そして禁止されているものほど、その欲望を満たしてくれる。

 

 度し難い人間の性だ。

 

 しかし方向性は間違っているとしてもその原動力たる欲望、願望、好奇心は文明の発展に欠かせないものである以上、全面的に否定すればいいと言うものでもないのだろう。

 

 杓子定規な法律ならまだしも、感覚的にはあくまでも程度の問題で、毒だって痺れるくらいなら問題なく、タバコや酒程度の中毒性なら許容範囲と見なせる。

 

 それに他の生物を殺して食べる以上、余すことなく食べるのは礼儀だ。

 

 また、普段食べない様なものの知識があれば遭難した時の様な危機的状況でも食糧を確保でき、生存確率を上げる事が出来るかもしれない。

 

 よって一概にゲテモノ食いを批判するのは間違っている。

 

 と、こんな風に常日頃から自己弁護の理論武装をしているのは、今年15歳になるアシル・ブルール。

 

 髪は灰色で清潔感のあるショートヘアをしており、トレードマークの少し遮光の入った眼鏡の奥の瞳は黒よりは若干色素が薄い。

 

 鼻も普通、口も普通、顎のラインも普通とそこそこ整ったと言うより没個性的な顔立ちだが、その表情が動く事はあまり多くない。

 

 身長も高くもなく低くもない170cmで、細身だがしっかりと鍛えられた無駄のない体をしている。

 

 好きなものは、美味いもの。

 

 嫌いなものは、不味い料理を出す奴(食材に罪はない)。

 

 趣味は、料理。

 

 特技は、料理。

 

 とりあえず、食欲に真っ直ぐな少年だ。

 

 それと言うのも少年の両親がちょっと変わった料理屋をしており、その影響のためだろう。

 

 では、どう変わっているか。

 

 あれだけ前フリがあれば察しが付いていると思うが、そう、ゲテモノ料理の店だ。

 

 父親が食材担当、母親が料理担当のリストランテ『ポワゾン』。

 

 財界の大物や資産家、マフィアのボスなどを顧客として抱えているため機密保持の一環で一見さんお断りの紹介制を取り、なおかつ食材が入手困難なため最低でも一月前までに予約が必要な完全予約制の超VIP専用レストラン。

 

 金持ちや権力を持っている人物ほど、こういう変わった料理を好む傾向が強い。

 

 そんな両親に物心付いた時から英才教育を施されてきたアシルは、反発する事もなく真っ直ぐに育ち『食こそ我が人生』と言って憚らない様になった。

 

 そして今日、アシルにとって人生の節目となる旅立ちの日。

 

「そろそろ行くよ」

 

「おぉ、行ってこい。一発合格の祝い料理、気合入れて用意しとくからな」

 

「金糸鶏のクール(心臓)よろしく」

 

「おまえの好物だもんな。任せとけ」

 

 頭一つ分高く、体つきも一回り大きい父親が曇りのない笑顔で親指を立てる。

 

 その「おまえなら大丈夫。俺は心配してないぞ」と言わんばかりの信頼感にやや緊張ぎみだった体に活力が巡る。

 

「大丈夫とは思うけど、油断だけはするんじゃないよ」

 

「うん。気を付けるよ、母さん」

 

 同じ目線の母親は厳しい表情で心配してくれる。

 

 言葉以上に伝わってくる自分の身を案じる愛情の深さに心がじんわりと温まる。

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

 親として愛し、食のハンターとして尊敬する両親の後を継ぐ。

 

 その目標のために、命の危険もあり合格率数百万分の一と言われる超難関のハンター試験にアシルは今日これから挑む。

 

 ハンターのライセンスには様々な特典があり、例えばハンター専用の情報サイトで一般では手に入らない情報が見れたり、各種交通機関・公共機関のほとんどを無料で利用できたり、一般人立ち入り禁止区域の8割以上に立ち入りを許されるようになる。

 

 そして肝心なのが、ハンターと言うだけである一定の信用を得ることができるのだ。

 

 アシルの実家の様な場合、これが重要なファクターになる。

 

 そんな付加価値の高いライセンスは、売れば7代は遊んで暮らせるとも言われ、借金の担保にすれば億単位の金が即金で融資される。

 

 そのため常に金目当ての犯罪者に狙われる事になり、新人プロハンターの5人に1人が何らかの理由で1年以内にカードを紛失しているという。

 

 ちなみに盗難・紛失があっても再発行は一切されず、一度合格した者は合格を取り消されることはないが、再受験はできない。

 

 しかし、その点に関してアシルは自分のうっかり以外はあまり心配していなかった。

 

 それはアシルが既に念能力者だからだ。

 

 『念』とは全ての生物が持っている生命エネルギーをオーラとして自在に扱う技術で、念能力者は念能力者でしか倒せないというのが通説になるほどの技術、言い換えれば超能力のようなものだ。

 

 本来ならハンター試験に合格してから裏ハンター試験として習うものらしいが、アシルは幼少期から両親に習っているので既に念歴10年にも及ぶ。

 

 というか、父親の食材調達に付いて行くためには必須の技能だったので必死に覚えた。

 

 数百m規模の崖をフリークライミングしたり、人間の何倍もある怪鳥の巣に忍び込んだり、普通の人間じゃ命がいくつあっても足りないのだ。

 

 まぁそんなわけで、ハンター試験の体力面には自信があるアシルだが、試験には運の要素や知識を競うものもあるだろうし、バトルの際に他に念能力者がいないとも限らない。

 

 父親の信頼は嬉しいが、母親の忠告に従って気を引き締めてかからなければいけない。

 

 そんな事を考えながら第287期ハンター試験会場であるタナン行きの飛行船乗り場に向かっていると、乗り場前に場違いな黒服の集団がたむろっていた。

 

 「もしや」と思い一応警戒しながら近付いて行くと、こちらに気付いた黒服の集団が割れ、その中心からウェーブのきいた綺麗な金髪を腰まで伸ばし青いワンピースドレスを着た見るからにご令嬢といった感じの少女がこちらに一歩踏み出しうやうやしく一礼して見せた。

 

「お待ちしておりましたわ。アシル様」

 

「これはシャルロット様、この様な場所にどうされました」

 

「えぇ、アシル様のお見送りをと思いまして」

 

「それは感謝の極み。シャルロット様の応援があると思えば、このアシル、怖いものなどありません」

 

「合格、期待してよろしいですね?」

 

「はい。必ずやシャルロット様に合格の報をお届けいたします」

 

 そのまま数秒見つめ合い、

 

「「ぷっ」」

 

 同時に吹き出した。

 

「なによ、その臭い台詞は」

 

「いやいや、シャルのお嬢様っぷりも大概なもんだぞ」

 

「あら、私は本当にお嬢様だもの」

 

「マフィアの、だけどな」

 

「なによ、風穴空けられたいの」

 

「いえいえ、贔屓にしていただいているお得意様に含むところはありません」

 

「私には?」

 

「余計にないさ。俺にはもったいない自慢の幼馴染だからな」

 

「ふふ、ありがと」

 

 目の前で黒服に守られている彼女はシャルロット・ドメーヌ、15歳。

 

 ここら一帯を束ねるマフィア、ドメーヌファミリーのボスの三女だ。

 

 上に兄が1人、姉が2人、下に弟が1人の5人兄弟姉妹。

 

 我儘で傍若無人な面もあるが、面倒見がよく、実は寂しがり屋の甘えん坊だったりもする。

 

 そんな事を言うと照れ隠しで発砲してきたりするお茶目さんだが、アシルはそんな所も可愛いと思っている。

 

 惚れた弱みとでも言えばいいか。

 

 アシルとシャルロットが初めて会ったのはちょうどアシルが念を習い始めた5歳の頃で、強面の親父さんに連れられてきた人形のように可愛い容姿にアシルは一目惚れ。

 

 しかし、直後に別室で相手をさせられた時の傍若無人ぷりにその初恋はすぐさま失恋に変わった。

 

 でも気心が知れていくうちに、その内面の弱さや優しさ、気丈に振る舞う姿にまた惚れ直した。

 

 料理屋の跡取り息子とマフィアのボスの娘が結婚できるかは分からないが、アシルはそのためにもハンターの肩書を欲している。

 

 もちろんそんな事は恥ずかしくて誰にも言ってはいないが。

 

 自分の気持ちは明確で、相手も自分の事を憎からず思っていてくれている事も分かっているアシルだが、告白はまだしていない。

 

 恋人や結婚となった場合、自分がシャルロットのアキレス健になってはいけない。

 

 マフィアは舐められたら終わりだと言われている。

 

 だから実力だけでなく、そもそも攻撃して来ようという気が起きないネームバリューが自分の様な部外者には必要だと考えているからだ。

 

 だから

 

「シャル」

 

「うん?」

 

「絶対に合格して戻ってくるから」

 

「何よ、改まって」

 

「死亡フラグ立てたいわけじゃないけど、合格したらシャルに伝えたい事があるんだ」

 

「今じゃダメなの?」

 

「あぁ、ハンターになってからだ」

 

「そう…………じゃあ、楽しみに待ってるわね」

 

「おぅ、悪いな」

 

「怪我、しないようにね」

 

「気を付ける」

 

「連絡してね」

 

「電波と電池がある限り」

 

「他の女に色目使ったら許さないんだから」

 

「善処します」

 

「そこはちゃんと言い切りなさいよ」

 

「ほら、うっかり目が行っちゃうのは男の本能だから」

 

「スケベ」

 

「ごめんなさい」

 

 途中から二人の距離はなくなっていた。

 

 離れている間忘れないようにお互いの温もりを体に覚えさせる。

 

 しかし時間は止まってはくれない。

 

 無情にもアシルの乗る飛行船の乗船を急かす放送が流れる。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「うん、頑張って」

 

「あぁ」

 

 名残惜しそうに離れ、背を向け歩き出すアシルに

 

「アシルっ!!」

 

 呼びかけるシャルロット。

 

 そして

 

「なん――――――――っ!?」

 

 振り返ったアシルは疑問の声を最後まで言えなかった。

 

 そのまま1秒、2秒、3秒……。

 

 驚き、何をされているか気付き、もっと求めるように腕を回そうとして、ドンッと突き放された。

 

 「どうして」と言う言葉は、頬を赤く染めながらも花の咲いたようなシャルロットの満面の笑顔に見蕩れる事で行き場を失う。

 

「これは予約よ。キャンセルしたら風穴なんだから」

 

「シャル…………ご予約承りました」

 

 唇と、それ以上に胸の奥に熱を感じながら、アシルは今度こそ飛行船に向かった。

 




シャルはシャルでもISではない。
風穴風穴言っててもアリアではない。
オリジナルヒロインですよ?
外見のイメージは……セシリアかな。

ハンター試験は一部オリジナル展開で行きますが、年度は一緒なので原作組は出てきます。

あと、一行ずつ空いているのは個人的にその方が読みやすいからなので、今作では仕様となります。

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