何と言う不覚。
という訳で、前回のバトルを見たメイジンとレディカワグチの反応と、お詫び(?)としてガンバスターを使う、タカマ・ノリコの過去編だけを更新したいと思います。
本文にて過去編、メイジンは後書きに載せます。
中学生の頃の憧れだった。
自分より一つ年上の先輩、アンドウ・レイ、ジンクス使いのガンプラファイター。模型店で偶然会い、その縁でガンプラバトルをし、敗北したその時に私は確かな憧れを彼に抱いた。
もう一度バトルしたい。強くそう思った私は、先輩のいる高校へ進学を決意し、柄にもなく真面目に勉強して見事『暮機阪高校』を合格した。
だが、彼の所属している『ガンプラ部』へ訪れると、私の想像しているものとは別の光景が広がっていた。
たった一人でガンプラを作っている先輩の姿。他には誰もいない。私の姿に気付くと、先輩は少し驚いたような表情を浮かべてから、『久しぶりだね』と挨拶してくれた。
私はそんな彼の姿に、少しだけ寂しさを感じた。
部活動は思ったよりも単純で、楽しいものだった。
ガンプラを作って改修してバトル。ただそれに繰り返し、一応はそれなりのバトルシステムがあるおかげで、私と先輩でバトルすることもできたし、私としても先輩とのバトルで色々得られるものもあった。
だけど、入部から三週間が過ぎたあたりだろうか。先輩とのバトルが30を超えた頃に、私はどうしても気になっていた質問を先輩に投げかけてしまった。
「ガンダムで戦えばもっと楽に勝てるんじゃないんですか?」
当時、高校入学したての時の私がガンプラ部で一人で活動している先輩、アンドウ・レイの姿を見て思わず口に出してしまった言葉である。その言葉を言い放った後にとてつもなく後悔した。言うなれば私の言った言葉は、ジンクスという量産機を愛用する先輩を侮辱した言葉だったからだ。
でも、後悔はしても自分は間違ったことは言ってはいない。
余程の玄人ならまだしも、ガンプラバトルはどうしてもガンダムというカテゴリーが強く、そして人気がある。第一、ジムやザクといったいわゆる『やられ役』で大会やトーナメントを優勝した例は今まで見た事が無い。
それにどれだけこだわりを持とうとも、所詮は個人個人での価値観に過ぎない。大会の観客や子供達は地味なMSよりも、ストライクフリーダムやνガンダムといった、華があるガンダムの方を評価する。
「先輩は……何でガンダムを使わないんですか?」
「俺はコイツが好きだから」
作りかけのGNーXⅢから目を話さずにそう返す先輩にもどかしい気持ちになる。
先輩の事は、高校に上がる前から知っている。地元では有名だ、ガンプラバトルで負けなしのジンクスばかり使うファイター。
挑んだ私のサザビーは、彼のGN-Xによるランスの一撃で戦闘不能に陥ってしまった。
事実、先輩は強い。挑んだ私が一番それを分かっている。
でもそういう評判を疎ましく思う人はいる。そいつらは決まって言うのだ。
『量産機は所詮は量産機、主役の引き立て役でしかない』
そんな理由で先輩が馬鹿にされたのがどうしようもなく許せない。量産機がなんなんだ、Vガンダムだって量産機だ、インパルスだってパーツを使い捨てるという点で言うなら、ある意味量産機よりも酷いかもしれない。
だからこそ、失礼だからと分かっているからこそ、先輩には分かって欲しかった。
「俺は好きなガンプラで勝ちたい。ノリコ、君は……自分の好きなガンプラで戦っていないのか?」
先輩の言葉に私は何故か言葉を返す事が出来なかった。
思えば何時からだろうか、設定の性能だけでガンプラを選ぶようになったのは。
思えば何時からだろうか、自分の好きなガンプラで戦わなくなったのか。
結局は先輩の言葉に何も返すことができないまま部活が終わり、家に帰ってきてしまった。
「好きなガンプラ……」
自室の中の棚に目を向ける。
そこには一際、目立つように置かれている機体『ザクⅡ改』があった。
登場作品、【機動戦士ガンダム ポケットの中の戦争】で、バーナード・ワイズマンが搭乗したザク。別名最終生産型ザクⅡ、ザクⅡFZ型。
ストーリーはなんとも胸の締め付けられる感慨深いものだったが、色々ひっくるめて良い作品だった。
それにバーニィが載ったザクⅡ改の戦う姿は、何処か泥臭さを感じられるも、それがカッコいいと思えた。何より最終生産型という響きが何処かワンオフ的な何かを感じとれるから、小学生の頃の私はこの機体ばかりを使ってバトルしてた。
周りの反応は……今日の先輩に対しての私のようだった。大抵の子供はカッコいいMSを使っていた。まあ、そうだろう。当時はSEEDといった、リアルタイムで人気のあるアナザーガンダムが人気を博していたのだから。
それにお世辞にも私はガンプラバトルで強い方とは言えなかった。戦いが終わった後に残るのは喜び勇む相手と、フィールドの真ん中で虚しく転がっているザクⅡ改を見つめる私の姿。
勝てない事もなかったわけではないが、それほど多いという事もない。ただ……負けるという事は、思っていたよりもずっと悔しくて、ずっともどかしいものだった。
何回も何回もバトルしていく毎に、負けたくないと思うよりも、自分の作った好きで好きでたまらないガンプラが負ける姿は見たくないという気持ちに変わったのだ。同時に、自分のせいで負ける姿を作ってしまっているとも感じてしまった。
「………好きなガンプラを使っても負けたら意味、ないじゃないですか………かっこいい姿、見たいじゃないですか……」
あのいつしかの大会、三代目メイジン・カワグチも、ポケットの中の戦争に出たケンプファー、ケンプファーアメイジングを使ってはいたが、大会後半ではエクシアを使っていた。
自分勝手な解釈なのは重々理解しているが、やはりこう思ってしまう。
ああ、やっぱりガンダムの方が強いのか、と。
メイジンを追い詰めた、ジムを扱うレナート兄弟のようなタクティクスは私にはできない。
でも、それでも自分の好きなガンプラの負ける姿を見たくないと思った私は……。
今のようにザクを観賞用のガンプラとして扱うようになった。
飾っておけば、何時も凛々しくもカッコいい姿を部屋で見る事が出来る。
飾っておけば、負ける姿を見る事もない。
飾っておけば、何時までも輝かしい姿を見せていられる。。
飾っておけば……。
「……なに考えているんだか……」
自分の考えている事に、嘆息しながらザクⅡ改を棚に戻す。そろそろ寝ようかな、と思いながらベッドのある方向に振り返ろうとする。すると……。
「いっ!?」
ゴッという音と共に、振り返るために踏み出した脚の小指が、棚の出っ張りに勢いよく当たる。思わず出してしまった変な声が鼓膜を震わすと同時に、形容できない痛みが足の小指から昇って来る。
「いった~」
若干、涙目で足の小指を抑える。
しかし、先輩に偉そうなことを言ってしまった報いなのか、今度は俯いた私の頭に何か硬い尖った物が勢いよく落下する。
「~~~ッ!?形容できない位痛い!?~~~~!もう何!?何が落ちてきたの!?」
頭を抑えながら、落ちてきた物体を拾い上げると、それはザクを飾っていた棚の上の段にしまっておいた一つのブルーレイボックスだった。
「『トップをねらえ』……かぁ……危ないなぁ……自分でしまっておいてなんだけど……」
いつしか父親に誕生日プレゼントがてらに送って貰ったもの。私としては【ガンダム】のヤツって頼んだけど、父が間違って買ってしまったのだ。
でも、見てみるとこれが面白い。人と人との戦いであるガンダムとは違い、宇宙怪獣との戦いだが、なにより驚いたのは主人公を取り巻く人間関係と、『ガンバスター』というロボット。
顔がザクに似てるなぁと思いながら、なんとなく片手間に見ていたけど、どんどん引き込まれ最後の最後にはもう夢中になっていた。
「オカエリナサト、か……」
あの主人公は、自分みたいには諦めなかったな。
自嘲するように笑い、棚にディスクを戻し今度こそベッドに入り眠りにつく。
さっきまで沈んでいた気分は幾分か安らいでいた……。
翌日、学校が終わり、部活動が始まった。
部活と言っても、ガンプラバトルをするか、プラモを作っているかのどちらかなのだが、昨日の事があったからか、どこか気まずい雰囲気のまま部活が始まった。
「………」
「………」
き、気まずい。いつも通りに黙々とガンプラを整備している先輩の姿に、いつもより威圧感を感じる。昨日の事を謝った方がいいのは分かっているのに、怖気づいて言葉が出ない。
「ノリコ」
「はいっ!?」
「調子が悪いなら無理しない方が……」
「いいえ!大丈夫です!!」
「あ、ああ。それならいいんだ……」
自分を気にしつつも作業に戻る先輩に、さらに気まずいものを感じつつも、とりあえずは私も部活動をしようと思い、自分のガンプラを取り出す。
黒く塗装されたサザビー、ファンネルは使うのが苦手なので全て取り除き、スラスターを増設した高機動型サザビー。名前は【サザビー・ハイマニューバ】。何処のジン・ハイマニューバだとかは言われそうだが、ネーミングセンスはないのは自覚しているので気にしない。
ザクほどではないが、愛着のある機体だ。
「失礼します!」
サザビーに手を付けようとした瞬間、部室のドアが勢いよく開け放たれる。入って来たのは赤いアフロが特徴的な男子生徒。私と同じ一年生だろうか?
「いらっしゃい、見学した時以来だな。もしかして入部希望かい?」
「はい、ちゃんと入部届けも持ってきました」
先輩は、この男子の事を知っているようだ。私がこの部に入ったのは学校が始まってから一週間くらい過ぎた頃だ。見学ということは、この男子は私より早くこの部に訪れていたという事なのか。
「……ああ、そういえばノリコには言ってなかったな。彼はユズキ・コスモ、一度ここに見学に来た、お前と同じ一年生だ。ユズキ、彼女の名はタカマ・ノリコ」
「よろしくお願いします」
「よろしくね」
悪い人ではなさそうだ。
入部希望所を持ってきている所を見ると、これで部員は三人になった。これで全国大会に出られる。恐らく先輩は大会出場の届を出すだろう。
私も出たい、もし出るとするならばガンプラの強化が必要になる。
「じゃあ、オレは顧問の先生に君の入部届を出してくるから、ノリコは彼にこの部について教えてあげてくれ」
「あ、分かりました」
「頼んだ」
こちらに手を振りながら、部室から出ていく先輩。
いまさらだが、先輩は昨日の事、それほど気にしてないようだ。でも、あの言葉をない事には出来ないし、後でちゃんと謝っておこう。
……それより先に、彼にこの部について教えてあげなくちゃね。
「じゃあ、まずどこから説明しようかな……えーと……」
「コスモでいいです」
「じゃあ、私もノリコでいいよ。後、同じ一年生なんだし敬語も必要ないよ。じゃあ、コスモ君、まずこの部についてどれだけ知っているの?」
「多分……大体は先輩から教えてもらいま……教えて貰った」
「この部に置いてあるバトルシステムの事も?」
「教えて貰った」
「部の活動日も?」
「それも」
「………」
どうしよう、教える事がもうない。
結構単純な部活だから、教えることもあんまりないんだよね……。
「じゃあ、ガンプラバトルでもしてみる?」
「いいな。俺、あんまり同年代の人とバトルしたことないし」
「よしっ、じゃあやろうか。ガンプラは……勿論持っているよね?」
「もちろん」
仲良くするならまずはガンプラバトルだね!……と初対面の相手に思うようになってしまうようでは、私も相当なガンプラバトル脳だね。
何時か『ガンプラバトルで拘束する!』って言いそうで、自分が怖い。
バトルシステム、ガンプラバトルを行う機器の前に向かい合うように立ち、自分のガンプラ、そしてガンプラのデータ、そしてガンプラの製作データ、ファイターID、戦績が記憶された記憶媒体、BASEをスロットに収納し、準備を整える。
ちなみにダメージレベルはC、バトルに負けてもガンプラには影響はほとんどない。
「歓迎バトル!!タカマ・ノリコ!サザビー・ハイマニューバ!!行くよ!!」
「ユズキ・コスモ!イデオン・ジム、発進!!」
イデオン・ジム……?ジム系等のガンプラを用いるのか?
――サザビー・HMがステージへと火花を散らせ飛び出す。ランダムで決められたステージは、【平原】。見渡しの良いステージだ。
スラスターを噴かせながら、地を滑るように移動しながら、索敵をする。
周囲に隠れるような場所はないから、すぐに見つかるはず。……案の定レーダーに反応、反応は前方から。
「あれか!」
目を凝らしながらコスモ君の機体を見る。見えたのは赤色のジム。
モニターを部分的に拡大させ、明確な姿を確認。全体的に赤の比率が多い、恐らくキットはHGUCのジム。だが顔が微妙に違う、凸ではなく□だ。
「武装を持っていないッ!?」
イデオン・ジムは丸腰だった、バックパックにはビームサーベルすら装備されていない。普通ならビームライフルやらビームスプレーガンやらを持たせたりするはずなのに。
まさかGガンタイプ?いや、それだったらわざわざジムでする必要性はないし……。
ランドセルからスラスターを噴かせ、地上を這うように飛んだイデオン・ジムは、こちらを見据えると、一気にスピードを上げ接近してくる。
「ジムが徒手空拳なんてぇ!!」
腰にマウントしたビームライフルをジム目掛けて放つも、ジムは軽やかな起動で、横にロールしビームを躱してしまった。
巧い、操作技術は高い。でも……!
「丸腰じゃ私のサザビーには!!」
ビームトマホークからビーム刃を発生させ、目前にまで近づいてきたジムに対してビームを放つと同時に接近戦を仕掛ける。
『イデオォ―――ン!!』
「なんだっていうの!!」
ビームを回避したイデオン・ジムが拳を突き出してきた。何かしら武器を使ってくるとは思ってはいたが、まさか普通に殴って来るとは思わなかった。
でも近接がお望みなら受けて立つ!拳を左手の盾で受け流しながら、トマホークを振るう。
「何でジムで接近戦なんて……!!」
『ジムだからこそだ!!』
頭部に振られたトマホークを持つ腕を殴りつけ、軌道を逸らされる。凄まじい運動性と反射神経、なおさら疑問に思う。何故ジムだ。
これだけの格闘を行えるのならば、もっと良い機体があるはずなのに……。そんな事を考えていると、イデオン・ジムの放った拳が再度、私の左手のシールドを殴りつける。
はっ、と我に返り応戦していると、私の口は自然に相手に開いた。
「もっと格闘向けのガンプラがあっただろうに!!」
『俺の求める【イデ】はジムの極致にこそある!それを曲げてまで、成し遂げたい目標ならッ今日の俺はここにはいない!!』
そう相手の声が聞こえると同時に、私が振るったトマホークがイデオン・ジムの腕を切り落とす。
『たかが左腕!いくらでもくれてやる!!でも!!』
「怯まない!?私のトマホークが!!」
断たれた左腕に見向きもせずにジムは、振り切った右手に蹴りを食らわせトマホークを弾き飛ばす。近接武器がなくなった、でもまだビームライフルがある。
咄嗟にライフルを前方へ撃ち出そうとすると、すぐ目の前には残った右腕を掲げたイデオン・ジムの姿。
『これが俺の第一歩!』
「素手は効かないとッ!!」
掲げた腕ではどうすることもできない。精々振り下ろすだけだろう。ここまでの戦闘から、恐らく彼のガンプラはほとんど武装は積まれてはいない。
腕を上げたその隙を―――。
『否ッ!』
瞬間、サザビーの視界を通じて私の視界に一筋の白い光が出現した。いやこれは違う、これは白いビームサーベルがイデオン・ジムの手の付け根あたりから伸びている。
『これはイデオンソードだ!!』
「な……!?」
イデオンソード、そう名付けられたやや長めのビームサーベルは、私のサザビーを上から下へと切り裂いた。一瞬の静寂と共に、私の機体にスパークが走り、爆発。
ゲーム終了のアナウンスと共に、私の負けでバトルは幕を下ろした。
「負けちゃった、か」
私のサザビーが負けてしまった。敗因はなんだろうか、不意打ち?それとも油断?
いいや違う、私は無意識のうちにジムを侮っていたんだ。武器がないからって、量産機だからって、無意識のうちに主役級のMSには敵わないんだって。
「ありがとう、いい勝負だった」
「ううん、こちらこそ。良いガンプラだね」
「ああ、俺が目指している最強のジムの第一歩となる機体。それがイデオン・ジムだ」
「イデオン?」
そういえば昔、そういうアニメがあったと、父さんから聞いたことがあったような気が。……まあ、違うよね。でも、コスモ君との戦闘は、何か得られるものがあったような気がする。
「そういえば、ノリコさんは何でジムで接近戦なんか?って聞いたよな」
「あ、ごめん。色々珍しかったから……」
「いいや、そうじゃない。その答えを言おうかなって」
答え……?
「ジムとイデオンが好きだから。イデオンはちょっと残酷………いや、ちょっとじゃないかな?……悲しい話だけど、俺は好きなんだ。カッコいいし、強い……でもその不安定で圧倒的な力に登場人物が振り回される、そんなイデオンに俺は心を奪われた。最終的に『イデの発動』により知的生物が全て滅び、その後に転生を思わせる描写がある発動篇の終わりと、ファーストガンダムでアムロ・レイが自分を迎える仲間達を見て、自分の帰る場所に感動し涙を流す終わり……。全ての『生』がなくなってしまったイデオンと、仲間と、そして自分の『生』に感動し涙するアムロの、両作品の『生きる』って所に対する対照的な描写に、すごく考えさせられた」
イデオン、というものについて語る彼は何処か感慨深げな表情だった。彼が自身の手に持っているイデオン・ジムを私にも見せるように掲げる。
「……ジムもさ、ポケットの中の戦争ってあるだろ?ジムスナイパーⅡ、あんな活躍見てるとさ、やって見たくなるだろ?どんな奴でも倒す最強のジム、子供みたいだろ?」
「……そっか、コスモ君はジムが好きなんだね」
「ああ!大好きさ!なんだってもカッコいいからな!」
「…………コスモ君!ちょっと先に帰るって先輩に伝えてくれないかな!!私ちょっとやらないといけないことができた!!」
「え?あ、ああ!」
そうか、こんなに簡単な事だったのか。私はずっと小学生の頃で止まっていたんだ。他人の価値観に自分を否定されて、それで自分を肯定できずに結局は、自分で自分を否定して、ザクを狭い部屋に閉じ込めてしまった。
鞄に荷物をしまって部室から飛び出す。
「うおっ!?」
「先輩!?す、すいません!?」
ちょうど職員室から帰って来たのか、先輩と鉢合わせしてしまった。面と向かって先輩と顔を合わせた私は、考える前に言葉を吐きだしていた。
「すいません!私!あんな失礼なこと言って!!」
「……………ああ、昨日のあれね。………うん、悩みは解決したか?」
………ああ、やっぱりこの人は鋭い人だ。
きっと私の悩みなんて筒抜けだったのだろう。だから、ジムを使っている彼と私を戦わせた。ジムが好きな彼と昔の私は、本当の意味で同じだったから。
「はい、解決しました!」
「そうか、よかった」
「あの、先輩!!」
「ん?」
だから今から言う言葉は決意表明のようなものだ。
「ガンプラバトル選手権、優勝しましょう」
「……本気か?」
「本気です」
「そうか、ははは……そうか、分かった、お前の気持ちはしっかりと受け取った。コスモはどうだ?」
「まだ、一日も活動していない俺を部員と呼んでくれるのなら、勿論、俺もノリコさんと同じ気持ちです。出ましょう!ガンプラバトル選手権!」
「なら今年は忙しくなりそうだ」
「!!っじゃあ!!」
「ああ、俺達、暮機坂高校ガンプラ部は、全日本ガンプラバトル選手権に参加する」
私とコスモを見て、先輩は笑みを浮かべる。本当に楽しみで仕方がないと言わんばかりの笑顔だ。先輩は、心の底からガンプラが、ガンプラバトルが好きなんだ。
そんな先輩だからこそ、私は貴方を頼れる。
「あの、それでなんですが、選手権に向けてちょっと作りたいガンプラがあるんです。手伝って貰えませんか?」
答えは決まっているとばかりに、先輩は答えた。
あの後すぐに家に帰った私はすぐさま自室に駆け込み、飾り付けてあったザクⅡ改を手に取り、昨日脳天に落ちてきたブルーレイを再生した。
「……そうだ、好きな事をするんだ。私が先輩とザクを全国へ連れて行く、そして―――」
画面に映し出される黒色のモノアイが特徴的な巨人。
宇宙怪獣と闘う、スーパーロボット。
私が考え得る最強のロボット、それが―――
「ガンバスター」
画面に掲げたザクⅡ改の装甲は反射して光る。
もうせまい所に飾ったりはしない、私も一人のファイターとして、ザクが好きなビルダーとして、ガンプラバトル選手権、まずは県予選を勝ち抜いてやる!!
「絶対に負けない最強のザクを作ってみせる!!!絶対に……っ!絶対に!!やぁってやるんだから!!」
高校一年の春、私の止まっていたガンプラファイターとしての時間が、また動き出す。
~二人のカワグチ~
静寂が支配する会場。言葉もないとばかりに一様に驚愕の表情を浮かべている観客達。その中で、観客席よりも高い場所に位置する、会場全体を見渡せる部屋には二人の男女がジッと会場内にいるチーム『イデガンジン』のメンバーを見つめていた。
「やはり仕上げて来たか……ッ、チームイデガンジンッ!」
「大会初出場のチーム『イデガンジン』、まさしくダークホースね」
茨城県代表、『暮機阪高校』の彼らのいるブロックは、トライファイターズやガンプラ学園とは別のブロック。順調に勝ち進めば各ブロックでの代表として決勝トーナメントに出る事になるだろう。
しかし、彼女にとって、あのガンバスターを使っている少女はどう見えるのか。
「あの子のガンプラ……」
「『トップをねらえ』に登場するスーパーロボット。君としてはあのガンプラは邪道かい?」
「フフ、答えはノーよ。素晴らしい発想と評価させて貰うわ。合宿時の時は、気付けなかった自分が恨めしい」
「悲観することはない、ガンプラとはまさしく変幻自在。ファイターの数だけ、ガンプラの数がある」
「あら?貴方は予想していたのではなくて?」
「私はそこまで万能ではないよ。だが、ファイターとしての勘、というものなら感じていた……彼、アンドウ・レイ君の中で燃え上がっているファイターとしての闘志……ッ!そして!!今日の彼らのガンプラバトルを見て私はこう思った!!ガンプラは……ッ!!ガンプラの可能性は……ッ!!」
握り拳を掲げたメイジン・カワグチは、会場に居る全ての人々に見せつけるように、声を上げ叫んだ。
「無限大だぁ!!」
~終~
大会での主人公達の居るブロックは、トライファイターズやガンプラ学園、天王寺学園とは別のブロックとなりました。分かりやすく言うなら、グラナダ学園のあるブロックですね。この先の展開的に変えるかもしれませんが、今の所は茨城県代表としたいと思います。
今回はアンドウのチームメイトであるノリコがガンバスターを作ろうとする展開までを書きました。コスモのジムは、ただ手首にビームサーベルを仕込み、顔を凸から□に変えた赤いジムです。
この作品ではガンバスターとイデオン、そしてほんの少しのジンクスが活躍するものなのですが、思いのほか多作品のロボットを出してほしいとの要望のほか、BFT本編で『トライオン3』というロマン機体が出てきたことに加えて、ガンプラは自由だぁなので、とりあえずは出す方向で行きたいと思います。
今の所出そうと考えている候補についてのヒントを挙げるなら……。
ジ・O+冥王=冥・0
ハイモック……異能生ぞゲフンゲフン。
これぐらいですね。
後は無理やりガンタンクに足つけてガタイ良くしてウォーカーギャリアというのも考えたのですが、あまりやると茨城県の県予選が魔境になってしまうので自重しました。
後、主人公は今の所はジンクスのままです。一度中の人的にオーガニック的なガンプラにしようかな、とは思いましたが、そこはやはり周りが暴走しまくるので、主人公はジンクスで頑張ります。
これで後書きは終わりです。
過去編ならば本編が進んでいなくとも書けるには書けるのですが、かなり不定期になってしまいます。
それでもよければ……。