ルッケンスの三男坊   作:康頼

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第十八話

 食事を終えたリビングでは、シャーニッドが椅子に座って一人、自身の得物である双銃の点検を行っていた。

 ダイトメカニックであるハーレイのような専門知識や技術を持たないシャーニッドだが、流石に銃の簡単な点検くらいは武芸者なので行うことができる。

 使わないことに越したことはないが、ここは都市外。

 どのような危険がいつ起こるかわからない場所である。

 シャーニッド自身、もしも不測の事態が起こったとしても何かできるという希望的な考えは持ち合わせていないが、それでもこうして準備してしまうのは、武芸者の性というものかもしれない。

 ある意味珍しいシャーニッドの勤勉な姿に、扉を開いて現れたゴルネオが声をかける。

 

 「ほう、精が出ているな」

 「まあな、意外だろ? 結構マメなんだぜ」

 

 冗談混じりの口調のシャーニッドに、ゴルネオはテーブルを挟んだ対面席に座ると仏頂面を貼り付けたまま答える。

 

 「だろうな。 最近、夜に一人で鍛錬をしているようだしな」

 「……知ってたのか」

 

 柄にでもない行動を取っているとシャーニッド自身でも思っていたのだろうか。

 自分でもここ最近の鍛錬の熱の入れようは、まるでニーナのようだ、と思わず苦笑を零してしまうほどである。

 だが幼生体の襲来と老性体との遭遇と、ここ最近のツェルニの出来事を考えれば危機感を覚えない方が武芸者としておかしいだろう。

 それはシャーニッドだけではなく、目の前にいるゴルネオもそうである。 

 ただゴルネオの場合、危機感以外にも理由があるのだが、ここで語る必要はない。

 

 「別に悪いことではあるまい。 元々武芸には勤勉なほうだろう?」

 「……へぇ。 俺の事情も知ってるみたいだな」

 

 何か含むようなゴルネオの言葉に、シャーニッドはなるほどと頷くしかない。

 確かに古巣の第十小隊にいた時は、理想に燃えていたときもある。

 理想の燃えカスは十七小隊に入っても消えることはなかったが、それでもあの頃に比べると、やはり衰えていることをシャーニッド自身自覚をしていた。

 第十小隊に全く未練がないというわけではない。

 もし、あの時にこうすれば、などと考えたことも何度かある。

 だがそれでもシャーニッドは、あの時の選択だけは後悔していなかった。

 いや、後悔をするわけにはいかなかった。

 そんなシャーニッドの心中を知ってか、ゴルネオは眉間に皺を寄せると、声を渋らせたように呟く。

 

 「……ああ、弟が調べたようで、な……」

 

 その言葉にシャーニッドは、思わず顔を強張らせてしまう。

 セヴァドス・ルッケンス。

 ここ最近、シャーニッドがよく耳にするツェルニ期待のルーキーである。

 男の名前を覚える趣味のないシャーニッドが、新入生の男子で名前を覚えているのは同じ小隊メンバーのレイフォンと件の男しかいない。

 ツェルニ最強のアタッカーとまで言われるレイフォンと同等の武芸の腕を持ち、学年トップクラスの頭脳に、容姿端麗の優男。

 そんなハイスペック男に、シャーニッドは一時期、ツェルニ一の色男(自称)の座を奪われると危惧していたが、ここ最近では違う意味で危険視している。

 ―――セヴァドス・ルッケンスは戦闘狂である。

 最近セヴァドスに何度か模擬戦を申し込まれているシャーニッドだったが、アレと対峙する身の危険からどうにか避けれるように逃げているのだが、何れは捕まってしまうかもしれない。

 そんなのは絶対に御免だと、未熟なシャーニッドでもセヴァドスの異常さの片鱗くらいは理解できた。

 人の皮を被った化け物―――それがシャーニッドのセヴァドスへの見解である。

 

 「……なあ、ゴルネオさんよ。 アンタの弟どうにかならねぇか?」

 「無理だ」

 

 一縷の望みにかけてシャーニッドは、兄であるゴルネオに願いをこめて話しかけるが、返ってきた答えは無情なものであった。

 それはそうだろう。

 目の前のゴルネオもつい最近弟であるセヴァドスの手により病院送りにされている。

 寧ろ避けれる方法があるのならば、彼自身が知りたいはずである。

 

 「一度、戦ってやれば付き纏われなくなるんじゃないか?」

 「無理だな。 絶対に死ぬ自信があるぜ」

 

 力一杯恥ずかしげもなく言ったシャーニッドに対し、ゴルネオは憐れな者を見るような視線を向ける。

 決してシャーニッドを馬鹿にや軽蔑しているわけではない。

 まるで死にかけの子リスを見ているような慈悲の混ざった眼差しである。

 シャーニッドは、そんな生暖かい視線から逃れるように上を向くと、ぽつりと小さな疑問を呟く。

 

 「ほんとに一度で済むのか?」

 

 シャーニッドの言葉に、突然ゴルネオは立ち上がると、そのまま窓際へと歩き出す。

 そして窓枠に両手を乗せると、ゆっくりとした口調で話し出した。

 

 「……この任務が終わったら、久しぶりに訓練をするそうだ」

 

 誰と? なんて野暮なことを聞くつもりはシャーニッドにはない。

 ただ哀愁を帯びたゴルネオの背を、同情的な視線を送ることしかできなかった。

 

 だが、いつまでもこうして凹んでいるわけにもいかず、気を取り直したシャーニッドとゴルネオは、セヴァドスの話は棚上げして、現状の状況を確認すべく椅子に座り直して情報交換を開始する。

 

 「そちらもか」

 「ああ、汚染獣の食い残しなんてなかったぜ。 ただ、家や建物の中には血で彩られた部屋がいくつかあった」

 

 シャーニッドは、第十七小隊による探索の結果をゴルネオに報告する。

 そして、第五小隊の探索の結果もよく似たものだった。

 

 「やはり、そうか……何故死体がないのか」

 「そうだな、うちのエースもそこが気になっていた」

 

 セヴァドスとレイフォンという熟練の武芸者が不審に思ったのがこの点だ。

 だが、確かにおかしなことかもしれないが、それでも二人はこの事を気にしていた。

 

 「誰かが、都市の人間の遺体を持ち出したとかどうだ?」

 「それはホラーな話だな。 セヴァのやつが喜びそうだ」

 「ああ、なんか想像できるわ」

 

 しかし、その仮定はあまりに現実的ではない。

 この都市が汚染獣に襲撃されたことは間違いない。

 そんな混乱の中で、死んだ人を運ぶことができるだろうか?

 もしも、迫り来る汚染獣を撃退し、移動都市が破壊されたとして、人々は態々死んだ者を放浪バスに乗せるだろうか?

 シャーニッドなら絶対に乗せないだろうし、できたとしても土に埋めてやるくらいだろう。

 だが、それでも汚染獣に都市を破壊された後に、冷静にそんなことができるとは思えないだろうが。

 

 「これ以上考えても意味はないかもしれないな」

 「だな。 残酷な話だが、俺達にそこまで考える余裕はないぜ」

 

 他所の都市を考えている暇はツェルニの武芸者にはなかった。

 ツェルニのセルニウム鉱山の数はあと一つ。

 次の武芸大会の成績次第では、ツェルニをこの都市のようにしてしまうかもしれないのだ。

 再び、決意を新たに小さく頷いたシャーニッドに、ゴルネオは何かを探すように辺りを見渡す。

 

 「ところで、アントークの奴はどうした? 夕食後から見かけていないのだが?」

 

 ゴルネオの言葉に、シャーニッドは、ああ、と頷き返す。

 通常なら本来情報交換などは、隊長であるニーナが行うようなことだが、今回に限ってシャーニッドが代理で行っていた。

 ここ最近、ニーナの様子がおかしい。

 そのことがここ最近のシャーニッドの気がかりであった。

 普段は誰以上に都市のことを考え、誰以上に気勢を挙げていたニーナだが、最近何かと考え込む様子を見受けられた。

 ニーナ自身も色々あるのだろう、と普段頑張りすぎる隊長ために、シャニッドは今回の情報交換の役目を買って出たのだった。

 「ふう、互いに色々と苦労をするな」

 「まったくだ。 これも上級生の役目かね」

 

 ゴルネオの言葉は、少しだけ疲れていたシャーニッドに有り難いものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

 

 人々に見捨てられた都市の空の下で、ニーナ・アントークは一人、鉄鞭を振るう。

 風を裂き、地面を踏みしめ、空を撃つ――

 ただひたすらに――思い浮かぶ考えを消すかのように――自身から湧き出る感情に八つ当たりのように双鞭を振るう。

 ただ一人の円舞ダンスを観客無き夜空の下で踊り続ける。

 憐れなほどに悲しい円舞を――

 

 ニーナは、仙鶯都市シュナイバルの武芸の名門であるアントーク家に生まれ、武芸の英才教育を受けた才女である。

 武芸者たるものを幼い頃から叩きこまれたおかげで、シュナイバルを家出同然で出た後も、その思いに変わりはなかった。

 いや――ツェルニに来て、ニーナにまた一つ新たな想いが生まれた。

 

 幼く純粋な電子精霊――ツェルニに出会い、そして友となった彼女を、ニーナは心の底から守りたいと思った。

 その思いに応えるように鍛錬に励んだニーナは、一年生で小隊入りという偉業を成し遂げてみせた。

 努力が実を結んだのである。

 ゆえにニーナは思った、これでツェルニを守ることができる、と。

 

 しかし、現実は厳しく、残酷なモノであった。

 ニーナが一年生の年に起きた武芸大会でツェルニは大敗ともいえる成績を残し、セルニウム鉱山を残り一つとしてしまう。

 その結果、ツェルニは滅ぶ一歩手前まで追い詰められることとなる。

 

 その事実はニーナにとって耐えがたいモノであった。

 変わらなければならない――そう思ったニーナは、その時所属していた第十四小隊を脱退し、新たに新しい小隊を立ち上げることを決意する。

 より、ツェルニを守ろうとするために。

 

 だが、この世界の現状が、その些細な思いなニーナの思いすらは消し去ろうとした。

 

 絶対的な捕食者、汚染獣の来襲により、ツェルニに今までにない最悪の危機が訪れた。

 

 初めて経験する汚染獣との戦闘にニーナを始めとするツェルニの武芸者は、慣れない死地に苦戦し、そして一人、また一人と力尽きていく。

 誰もが敗北を悟ったその時、救世主が現れた。

 

 レイフォン・アルセイフ。

 

 グレンダンの元天剣授受者という経歴を持つ彼は、その絶対的な力と才能で、ニーナ達が苦戦した汚染獣達を次々に討ち果たし、ものの数分で一掃してしまった。

 

 その力にニーナは嫉妬し、そして羨望の目を向けた。

 この力があれば、ツェルニを守ることができるのに、と。

 

 だが実際に、ニーナが率いる第十七小隊に大きな矛を得たことは事実に違いはなかった。

 故にそのことを素直に彼女は喜んだ。

 

 しかしの甘い考えが、第二戦での敗北に繋がったのかもしれない。

 

 古巣でもある第十四小隊の隊長であるシンとの戦いに固執してしまい、向こうの策に絡みとられたという失態を犯してしまったのだ。

 その時、ニーナは痛いほどに自身の勘違いと力の無さを思い知った。

 

 最強の矛レイフォンを得たといえ、ニーナ本人が強くなったわけではない、と。

 そして、その力も十分に用いることができないほど、自分は指揮官として未熟であった、と。

 

 その日からニーナは一人鍛錬に明け暮れた。

 ただひたすらに強くなるために。

 レイフォン・アルセイフに追いつくために。

 

 しかし、その努力も実ることはなかった。

 剄脈疲労という武芸者として初歩的な事で、ニーナは倒れ、病院へと運ばれた。

 

 目が覚めた時、見えたのは病院の白い天井と小隊仲間のレイフォンであった。

 その光景に、ニーナは自身の努力が無駄で、死に物狂いの鍛錬は無意味の時間であったと、悟ってしまった。

 

 だからこそ、嬉しかったのかもしれない。

 レイフォンが、自分のことを仲間と思ってくれて、頼りにしてくれている、と言ってくれたことに。

 

 故に許せなかったのかもしれない。

 レイフォンの隣にいるのが自分や十七小隊の人間でなかったことに。

 

 ニーナ・アントークは嫉妬する。

 レイフォン・アルセイフの隣に立つセヴァドス・ルッケンスという存在に。

 

 

 

 

 

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

 

 シャーニッドと別れた後、ゴルネオはレイフォンを探しに屋敷を出た。

 街灯すらなく、初めて来た土地でレイフォン一人を探すのは困難に思えるが、事前に念威操者に頼んでいたため、レイフォンの居場所は既に掴んでいた。

 拠点となった屋敷から少し離れた場所に位置する壊れた塔のような建造物の頂上で、レイフォン・アルセイフは静かに立ち尽くしていた。

 

 念威操者を飛ばした時点で気づかれているだろう。

 いやそれ以前にゴルネオの実力で、レイフォンに気づかれないように近づくのは困難である。

 ゴルネオは構うことなくレイフォンに近づくと、レイフォンはすぐに後ろに振り返ると無言のまま立ち上がった。

 互いに目が合った瞬間、ゴルネオの中に負の感情が芽生えていくが、ソレを表情に出すことなく、無言のままレイフォンに近づいていく。

 

 そして、互いに数歩歩めば拳が届く距離まで近づくと―――ゴルネオが先に口を開いた。

 

 「寂しい光景だな」

 

 塔の先から見える光景は、あまりにさびしいものだった。

 廃都市となった今では光源は、ゴルネオ達が泊っている屋敷しか存在しなかった。

 もし、塔が壊れてなくて、都市が死んでいなければ、それは美しい光景が広がっていたに違いない。

 

 「そうですね」

 

 ゴルネオ同様に目の前に広がる光景に視線を向けていたレイフォンが当たり障りのない返事を返す。

 他愛もない話をする仲でもなく、する気もないので、ゴルネオは話を本題に入る。

 

 「アルセイフ……俺はお前に言っておきたいことがある」

 

 ゴルネオの言葉にレイフォンがこちらに振り返る。

 明らかに空気の変わったがゴルネオは、レイフォンに視線を向けるとそのまま強い意志を持って睨みつける。

 レイフォンの視線は、既に凍るような鋭さを秘めており、ゴルネオはその視線に押されそうになるが話の続きを口にした。

 

 「お前はガハルドさんの敵だ」

 

 ゴルネオが言った言葉。 それは間違いなく事実だった。

 ガハルドとレイフォンの間には様々なことがあり、色々な思惑もあったかもしれないが、それでもガハルドを斬ったのは目の前にいるレイフォンに違いはなかった。

 そして、そのことを本人も誤魔化す気はない。

 

 「そうですね。 で、話はそれだけですか」

 

 冷静に、そして冷徹な表情を浮かべたレイフォンの興味が無いという口調と態度に、ゴルネオは思わず眉を顰め拳を握りしめた。

 ゴルネオにとって兄のような大切な存在は、レイフォンにとって路傍の石ころ程度にしか興味がなかった。

 その事実は、ゴルネオにとって許し難きものだったが、ここで殴りかかるわけにはいかず、怒りをぶちまけるわけにもいかなかった。

 

 「言うことはそれだけか? 自身がやらかした過ちに詫びる気はないのか?」

 「詫びるつもりはないです」

 

 レイフォンの感情の喪失した表情は、兄であるサヴァリスの笑みとよく似ていた。

 

 「ガハルドさんが、お前を脅していたからか?」

 

 ゴルネオの告げた言葉に、レイフォンは沈黙を貫く。

 だが、それは間違いなく事実だったようで、微かにだがレイフォンの瞳が揺れ動いたことをゴルネオは見逃さなかった。

 セヴァドスの言葉をゴルネオは信じていないわけでなかったが、それでも信じたかったゆえの最後の確認と言ってよかった。

 

 「確かにガハルドさんの行ったことは武芸者として恥ずべきことだ。 だがな……それでも俺にとって恩人であることには変わりはない。 故に、俺はお前に怒りを覚える。 ガハルドさんの仇であるお前に、な」

 

 セヴァドスによって、ゴルネオは再びガハルドのことを思い返していた。

 物心ついた頃から道場で汗を流し、ルッケンスの武芸を極めんとする彼の姿は、今でもゴルネオの脳裏に焼き付いている。

 ゴルネオが、初めてルッケンスの技を習得した時、真っ先に誉めてくれたのがガハルドだった。

 二人の兄弟に苦悩した時、支えてくれたのもガハルドであり、叱ってくれたりしたのも彼であった。

 例え、彼が違法を犯したとしても、ゴルネオにとってガハルドは、やはり恩人に違いはなかった。

 だからこそ、レイフォンには怒りを感じている。

 その気持ちは、隠すつもりもないゴルネオ自身の本心であった。

 無論、この行為には何の意味もないことはゴルネオは知っていたが、それでも告げなければいけなかった。

 漸く辿りついた答えを示すために――

 

 「だが、俺は……ツェルニの第五小隊隊長として、お前には感謝している」

 

 ルッケンスの自分としてではなく、ツェルニの第五小隊隊長――ゴルネオとしての答えを。

 

 「アルセイフ。 おまえがもし、この学園に入学しなかったら、今頃ツェルニは存在していなかっただろう」

 

 レイフォンは、ツェルニの危機を救った。

 その事実は、レイフォンがガハルドの仇であることが変わらないように、ツェルニを守ったことも間違いのない事実である。

 たとえ、どのような罪状を抱えようと、レイフォン・アルセイフはツェルニに住む者達の命を救ったのだ。

 だからこそ、ゴルネオは言いたかった。

 レイフォンへの感謝の言葉を――

 

 「お前は、俺の第二の故郷を救ってくれた恩人だ」

 「僕は、別にそんなつもりはありません」

 

 頭を下げたゴルネオに対し、レイフォンは何でもないように言ったが、表情に明らかな動揺が浮かんでいた。

 その表情を確認したゴルネオは、噴き出すように笑い声を上げてしまう。

 セヴァドス曰く、レイフォンは正直すぎる、と。

 考えてみれば解かることだった。

 もしレイフォンが、狡猾な人間だったならば天剣の地位を剥奪されることもなかっただろう。

 情のない非道な人間だったならば、孤児院の人間を見捨てて、稼いだ金で贅を尽くすこともできただろう。

 

 目の前でこうして考えてみると、今まで悩んでいたことが馬鹿みたいに思えてくるのは不思議だと、ゴルネオは、少し肩透かしを喰らった気分で話を続ける。

 

 「お前がツェルニをどういうつもりで救ってくれたのかは知らない。 お前が今どんな葛藤を抱いて生きているかは、俺には永遠に解からないだろう。 だが、それでも俺は感謝している。 お前はツェルニを、この地に住む人々を助けてくれたのだから。 今だ、俺はお前を許すことは出来ない。 だが、それでもこう思っている。 俺達と共にツェルニのために戦ってほしい、と」

 「……わかりました。 僕もツェルニを潰す気はありませんから」

 

 レイフォンの返答は素っ気ないものだったが、ゴルネオにとってそれは満足のいくものであった。

 

 「そうか、ありがとう。 そしてこれからもよろしく頼む」

 

 手を差し出したゴルネオに、レイフォンは目を丸くさせると、そのまま固くなった表情を緩ませる。

 

 「ふ、ゴルネオさんって、真面目なんですね」

 「妙な感性の兄と弟に挟まれたんだ。 嫌でもこうなる」

 「確かにそうかもしれませんね」

 

 ゴルネオの手にレイフォンの手が重なった。

 こうして、ゴルネオの短くも長い葛藤の日々に決着がついたのである。

 

 そう、ゴルネオの葛藤には――

 

 

 


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