NARUTO-甲賀忍法帖-   作:ニラ

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今までの話を分割投降


04話

 

 

「綺麗な場所よね、此処」

「……う、うん」

 

 ユックリとした歩調で歩きながら、周囲を物珍しそうに見て回る二人組。

 うちはホタルと、日向ヒナタである。

 もっとも、物珍しそうに視線を忙しなく動かしているのはホタルの方が主で、ヒナタはそんなホタルに言われて目を向けるといった調子である。

 

「――ねぇ、ヒナタ。日向一族の土地にはさ、此処みたいな山とかって在るの?」

「ご、ごめんなさい。私、そういうの良く解らないから」

「そっか……残念。もし在るなら、今度見せて貰おうと思ってたのに」

「あ、後で、お父さんに聞いてみる、ね」

「本当? 有り難う、ヒナタ」

 

 ニパッと笑うホタルに対して、ヒナタはぎこちない笑みを返す。シシンとサスケが駆け出して行ってから、二人も後を追うように歩き出したのであるが、どうやら二人に間には、ちょっとした距離感というか、壁のような物が有るようであった。

 

 ホタルはその性格上、グイグイと相手の懐に入り込もうとするのであるが、ヒナタは他人との接触に怯えているように見える。

 

(なんでかなぁ……何だか、距離を感じちゃう。私、ヒナタに嫌われるようなことしちゃったかな?)

 

 ホタルはヒナタの様子を伺いながら、内心ではそう考えていた。歩き始めてから、ホタルはヒナタに対してアレコレと話を振っている。振っているのだが、しかしヒナタの方からホタルに会話を投げてくるということはなかった。

 

 どうしたものか?

 

 そう悩むホタルであるが、如何せんたかだか4~5歳程度の頭脳では限界がある。どうにかしたいと思っても、それをどうすれば良いのかが解らないのだ。

 

 歩きながら、そんな風にホタルが悩んでいると、不意に

 

「ねぇ、ホタルちゃん」

「う、うん? なぁに、ヒナタ?」

 

 と、なんとヒナタの方から呼びかけられる。

 ホタルは突然のことに驚くも、ヒナタからの発言に喜んでいる。

 

「ホタルちゃんはさ、外に出るのが、怖いって思ったこと無いの?」

「外が怖い?」

 

 ヒナタのその言葉は、ホタルに対する問いかけだった。俯くように、遠慮をするようにされた質問に、ホタルは腕組をして悩み始めた。

 

「うーん。どうかな? 私、怖い思いってあんまりしたこと無いから」

「……そう、なんだ」

「ヒナタ、怖い思いしたの?」

「…………」

「そっか」

 

 無言のヒナタに、ホタルは肯定と受け取った。

 そして空を仰ぐ様に首を動かして、眉間に皺を寄せると考え込み始める。そして自分の思いついた疑問と言葉を、そのままヒナタに聞くことにした。

 

「ねぇ、ヒナタ? その時、ヒナタを助けてくれたのって、誰?」

「え?」

「ヒナタは、その人のことが嫌い? 怖い?」

 

 ドキッとして、目を見開くヒナタ。ホタルの問にヒナタは自身の父親の顔が思い浮かぶ。1年前、雲の国から来た忍び頭に拉致されかけたヒナタは、異変に気が付いた父である日向ヒアシによって救出されている。拉致されかけた事自体に恐怖を感じはするヒナタであるが、救出に来た父が怖いか? と言われれば、ソレは違うのだろう。

 

 ヒナタは十分に考えると、ホタルに向かって首を左右へと振った。ホタルはそれに、満足したように笑みを浮かべる。

 

「だったら、大丈夫だよ。きっとその人が、あとヒナタの友達が、何かあったら助けてくれるから」

「友達?」

「うん。私は、ヒナタが困ってたら助けてあげるよ」

「ホタルちゃんが? でも」

「……あ、もしかして、私が友達とかじゃ不満……だった?」

 

 自分の経験した時の記憶を思い出し、今現在子供でしか無いホタルが巻き込まれた場合を想像してしまったヒナタ。

 そのため、若干否定的な言葉を口にしてしまったのだが、逆にホタルが落ち込む原因になってしまう。

 

 ヒナタは目に見えて意気消沈してしまったホタルに、慌てて声を上げる。

 

「そ、そんなこと無いよ! 私、ホタルちゃんと友達に成りたい! ――あ」

「えへへへ、そっか。何だか嬉しいね、そういうふうに言って貰えるのって」

 

 自分の声の大きさに、逆に驚いてしまうヒナタ。恥ずかしそうに頬を赤らめて、俯いてしまう。ホタルは逆に、そんなヒナタの行動が嬉しくて口元を綻ばせた。

 

「ヒナタ、コッチ向いて」

「う、うん」

 

 手招きするようにヒナタを呼んだホタルは、近づいてくるヒナタの両手を正面から掴むと、真っ直ぐに見つめる。そして一呼吸を置くと、真面目な口調で口を開くのであった。

 

「私の名前は『うちはホタル』です。宜しくお願いします」

「わ、私は『日向ヒナタ』です。こちらこそ、宜しくお願いします」

 

 ホタルから始まった自己紹介に、ヒナタはつられて返事をする。お互いがそれぞれ言い終わった後に、ペコッと頭を下げていた。

 

 暫く二人はそうしていると

 

「フフフ」

「クス」

 

 と、何方ともなく笑い声が漏れ始める。ヒナタはこの時、初めて日向以外の場所で、『友達』呼べる存在に出会えたことに、心底嬉しく思っていた。

 

 ホタルはホタルで、目の前の少女と友達になれたという事実に、只々喜んでいる。

 

 そこからは二人共いい雰囲気で、ホタルが言葉を投げればヒナタもそれにはハッキリと返し、ヒナタの方からもホタルに言葉を投げかけるように成る。そうして、山の中腹辺り、少しばかり拓けた場所に出たところで、

 

「あ、見て見て、ヒナタ! あそこに居る鳥! アレって何て言うんだろ!」

「……ホタルちゃん、あんなに遠い所に居る鳥がよく見えるね?」

 

 前方、遥か上空を旋回するように飛んでいる、数羽の鷹。『何らかの獲物』や血の匂いに誘われたのか、その鳥達は上空を緩やかに回っているのだ。

 

 空を見つめるホタルに、ヒナタは目を細めながら同じ方向を見つめてみる。鳥が飛んでいることまでは解ったのだが、どうにもその鳥の種別を見るまでには至らないらしい。

 

 ヒナタは

 

(帰ったら、父さんに『白眼』の使い方を良く聞かないと……)

 

 なんて、思うのであった。

 

 

 ※

 

 

 卍谷の中間地点、切り立った崖のようになっている場所。要はシシンとサスケがゴールに定めた場所だ。其処には現在、肩で息をしている二人がいる。

 

「フフン。俺の勝ち、であるな」

「巫山戯ろ! あんな行き成りのスタートしといて勝ちも何もあるか!」

「……後ろから投石しておいて、良く言う奴だな?」

「ウグッ!?」

 

 結局のところ、あの競争の結果はシシンの勝利と成ったらしい。まぁ、石を拾いながら走るサスケと、ただ走るだけのシシンでは速度の差が出ても当然だろう。そのうえ、今のサスケは所謂ノーコンである。

 

 前を走るシシンからすれば、何の心配もなく走っていけたという訳だ。

 

「チッ……解った。今回は俺の負けでいい」

「うむ。まぁ、今回は地理的な要素も有ったからな。俺が勝つのは、ある意味では当然というものだ。だから――今回は引き分けにしておこう」

「引き分け?」

「安心せよ。次回があれば、今度は問答無用で負けを認めさせてやるわ」

「ウルセー! 次は俺が絶対に勝つ!」

 

 シシンはサスケの返事に頷くと、崖の方へと向かって歩き出す。サスケはシシンが何のつもりなのか解らなかったが、後に続くように歩いて行った。

 

「見よ、サスケ。此処は卍谷の一帯が見渡せる、特別な場所だ」

「う、うぉ……!」

 

 シシンに言われ、視線を向けたサスケは其処から広がっている景色に声を漏らす。広がっているのは、自然としか言えないような山である。

 視界全体を覆うように広がる緑一色の景色、吹き抜ける風は心地よく、山全体が生命の息吹で満ち満ちている。

 

「凄いな、この景色は」

「此処は俺の一番好きな場所だ。初めてこの場所に来た時は、随分と感動したものだぞ」

「…………」

 

 シシンの言葉を聞いているのかいないのか、サスケはただジッと目の前を見つめ続けている。

 

「サスケ、お前には兄が居るのだったか?」

「あ? あぁ。……イタチ兄さんっていうんだけど。自慢の兄さんだぜ」

「そうか。優しいか?」

「当たり前だろ」

「そうか、それは何より」

「何言ってるんだ、お前?」

 

 腕組をして、『ウンウン』と頷いているシシンは、歳相応にはどうして見えない部分がある。それはサスケも感じたことであるらしく、訝し気に眉間に皺を寄せていた。

 

 ふと、シシンはそんなサスケに説明するように口を開く。

 

「俺には、今も昔も兄弟が居らぬ。兄弟が居るお前が、少しばかり羨ましい」

「そういうものか?」

「そういう物じゃ。有る者には解らぬことかも知れぬがな」

 

少しだけ、ほんの少しだけ寂しそうに表情を浮かべたシシン。もっとも、やはりサスケにはその時のシシンの心情は解らないのであった。

 

 ふと、不思議なモノを見るように眺めてくるサスケに、シシンは少しだけ苦笑を浮かべる。

 

「サスケ、お前の家族の話、聞かせてくれるか?」

「……あぁ、別にいいけど」

 

 話を変えるように、突然に家族のことを聞いてきたシシン。サスケは少しだけ腑に落ちないといった顔をしていたのだが、家族の話……取り分けて兄である『うちはイタチ』に関しての話題になると、そんな事など忘れたかのように饒舌になって話し込んでいく。

 イタチが如何に格好良いか、忍術が凄く、大人が出来ないことを軽々とやってのけ、うちは一族の中でも特に一目置かれている存在である――と。

 それと序に、木の葉警務隊を束ねる父親のことと、優しい母親のことが少々。

 

 ヒートアップするように話していくサスケの言葉に、シシンは最初はニコニコと、しかし次第に表情を顰めていく。

 

「――でさ!」

「……なぁ、サスケよ?」

「うん?」

「いや、俺から話を訪ねておいて何なのだが、何故先程からイタチの話ばかり? ……ホタルに関しては何かないのか?」

「はぁ? ホタル?」

 

 何いってんだ? とでも言いたそうなサスケの返答に、シシンは思わず「む」と唸ってしまう。しかし、サスケの方は「フンッ」と鼻を鳴らすと、そっぽ向くように視線を逸らした。

 

「アイツに関しては、言うことなんて何も無いって」

「何故? ホタルとて、お前の家族ではないか」

「だってアイツ、直ぐに俺のこと子供扱いするんだぜ?」

「子供扱い? ……ホタルも子供なのにか?」

 

 その場面をシシンは想像してみる。

 すると、随分と簡単にその様子が頭に思い浮かぶ。

 そのため思わず、『成る程』とシシンは考えてしまった。

 

「(まぁ……ホタルの気持ちも解らんでもないが)」

「何か言ったか?」

「いや、何も」

 

 耳聡くシシンの呟きを聞いていたサスケは、ギロリっと睨んでくる。だからという訳でもないのだが、シシンは首を左右に振った。

 

「――オーイ!」

 

 ――と、シシン達が来た方向から、声が上がる。

 釣られてみてみれば、ホタルとヒナタが並んで歩いてきていた。

 

「やっと追いついた! 早すぎるって、二人共!」

「お前が遅すぎるんだよ」

「何よ。コッチは女の子二人なのよ? か弱い女の子を放っておくなんて、そんなんじゃイタチ兄さんに追いつくなんて一生無理だわ!」

「イタチ兄さんは関係ないだろ!」

「そうやって、直ぐにカリカリするところも――」

「ホ、ホタルちゃん。取り敢えず私達は何とも無かったんだし……」

 

 ムカっと、漫画的に青筋を浮かべるホタルとサスケ。ヒナタは少しだけ慌てるような素振りを見せるが、しかし、どうしたことだろうか?

 ちょっと前に弾正屋敷で見た時と比べると、幾分だけ馴染んでいるようにも見える。

 シシンは、自分の居ない間に何が有ったのだろうか? と考えたが、恐らくはこの元気な『うちはホタル』が何かをしたのだろう――と、妙に納得をしてしまうのであった。

 

「まぁ、確かに。見知らぬ場所に女二人というのは、些か配慮が足りなかったな。――許してくれ、二人共」

 

 軽く頭を下げるように謝罪をしてくるシシンに、ホタルとヒナタは驚いたように眼を見開いた。しかしホタルの方は回復が早い。

 一瞬だけキョトンとしたものの、直ぐに腕組をして頷いてみせる。

 

「うむ、赦す。面を上げぃ――なんちゃって!」

「……偉そうに言うなよ、ホタル」

「なによ、喧嘩売ってるの? だいたい私、アンタのことは許してないけど」

「誰も許してくれなんて言ってねぇだろうが!」

 

 プツーんと、声を荒げるサスケ。

 どうやら二人は、些か仲が悪い(?)ようである。

 

「……全く大声を出して、子供なんだから」

「何だと!」

「――あ、そう言えばさ。此処に来る途中で何だか野鳥が騒いでるところが有ったんだけど?」

「無視すんな!」

 

 ふと、サスケを手で抑えながら、思い出したようにホタルがシシンに言ってきた。

 

「なに? 野鳥が?」

「うん。多分、鷹か鷲だと思うんだけど」

「鷹か鷲が騒いで……」

 

 考えるように呟くシシン。しかし直ぐに「……あぁ、アレか?」と、何やら納得をしてみせる。

 

「ソレは、恐らくはアレだな、天膳の奴に違いない」

「天膳?」

「それって、行方不明になってるっていう?」

「うむ……。道中で見たというのなら、そろそろ――」

 

 シシンが其処まで言って耳を済ませるように手を当てていると

 

『――天膳殿が、()()死んでおるぞぉ!』

 

 山の中腹から、そんな声が聞こえてきた。

 当然、距離が在るため聞き難い声であったのだが、何か別の内容を聞き間違えたということは無さそうである。

 

「……えっ!」

「さ、さっきの、あの場所で、し、死んで……」

「……ッ!?……」

 

 シシン以外の面々は、三者三様の反応をする。しかし

 

「やれやれ、天膳の奴も仕方がないのぉ」

 

 と、シシンは本当に何てことはないというように、にこやかなままである。

 

「な、なんでそんなに落ち着いてるの……!!」

 

 慌てた様子のないシシンに、ホタルも若干引き気味に表情を引き攣らせた。どうやら他の二人も同様のようで、眉間に皺を作ってシシンを見るのであった。

 

 

 

 


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