NARUTO-甲賀忍法帖-   作:ニラ

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02話

 

 全く――と、若干に呆れたような台詞を零す小四郎に降ろされたシシンは、そのまま小四郎に担がれながら屋敷へと戻ることとなった。

 豹馬は『目の見えない私に合わせていては、到着が遅れる』との事で、後から屋敷へと向かうらしい。

 

「甲賀シシン。申し付けにより、只今参りました」

「入れ」

 

 屋敷に戻ったシシンは、そのまま弾正の待つ応接室へと脚を向けた。

 そして麩の前で正座しながら声を掛けると、中から弾正の許しが降りて入室をする。

 

「失礼します」

 

 ユックリとした動作で開かれる(ふすま)

 シシンは一礼してから中に入ると、其処には弾正以外にも2人の来客が居る。日向ヒアシと、その娘のヒナタである。

 シシンはヒアシとヒナタに目配せをすると、軽く会釈するように頭を下げる。そして部屋の中へと入ると、静々と弾正の隣へと移動していった。

 

 丁度、ヒナタと対面に成る形で正座をする。

 

「初めて御目に掛かる、甲賀シシン殿、私は日向ヒアシという」

「はじめまして。甲賀シシンです」

 

 何事が始まるのか? それを全く理解していないシシンであるが、しかし年長のヒアシから挨拶をされて返さない訳にも行かず、自身の名前を告げて返事をした。

 

「本日は私の一人娘であるヒナタを、弾正様と君に顔合わせしようと思い、こうしてやって来たのだ」

「ヒナタ?」

 

 ヒアシの言葉に、シシンは軽く首を傾げると、その視線をヒアシの横に、オドオドとした態度で所在無さげにしているヒナタへと向けた。

 

「あ、その……初め…まして」

「うむ。俺は甲賀シシンという。よろしく頼むぞ、ヒナタ」

「う……うん」

 

 蚊の泣くような小さな声で挨拶をしてきたヒナタに、シシンはニパッと笑みを浮かべて挨拶をした。しかし、ヒナタは逆にそんなシシンにビックリしたような反応で、更に緊張の色を強くする。

 

「フム……。ヒアシよ、お前の娘は些か内気すぎるな?」

「面目ありません。数年ほど前の事件から、少々物怖じするように成ってしまいまして」

「あぁ。雲隠れの件で、か」

「はい」

 

 ヒアシと弾正が、シシンとヒナタを見ながらその様な会話を続けている。シシンには当然、二人が何のことを言っているのかは理解出来ないが、それでもヒナタのことを言っているのだ――と云うことだけは理解が出来た。

 

 シシンがチラッと視線をヒナタへと向けると、ヒナタは若干困ったような表情を浮かべている。

 

「まぁ、今は平和に成ったとはいえ、この先もそうであるとは限らぬ。余り悠長にしている訳にも行かぬぞ?」

「……心得ております」

 

 ジロッと睨むような視線をヒアシへと向けた弾正に、軽く頭を下げて返答をするヒアシ。

 弾正はそんなヒアシに視線を向けたまま、何かを考えるようにして自身の顎鬚を撫で付けていた。

 

 すると

 

「――弾正様、よろしいでしょうか」

 

 と、障子の外から声が掛かる。声の質からすると、それは女性のものである。

 弾正もそうだが、部屋に居た他の面子は揃って声のした方角へと眼をやった。

 

「なに用じゃ? 今は来客中じゃぞ」

「申し訳ありません。……ですが」

「――ふぅ。よい、入れ」

 

 一瞬、声色を変化させて障子の外に居るだろう相手を諌める弾正だが、相手の困ったような返事に溜息を一つ返すと入室を許した。

 

 ユックリと開かれた障子戸から入ってきたのは、紅い着物を身につけた女性である。

 

朱絹(あけぎぬ)?」

 

 入ってきた女性の名前だろう。シシンは思わずその名前を呼ぶと、不思議そうに首を傾げる。

 女性――朱絹は、そんなシシンに僅かに視線を向けたが、直ぐに弾正へと目をやり音もなくススッと近づいていった。

 

「弾正様、お耳を」

 

 耳元へと顔を近づける朱絹に、弾正は幾分眉根を寄せて顔を顰めた。

 

「……ヒアシよ。すまぬが別の客人じゃ。『うちは』の者が来たらしい」

「『うちは』の?」

 

 片目を細めて弾正が言うと、ヒアシは同じように表情を顰めてみせた。

 うちは一族――というのは、木ノ葉隠れの里内において、ヒアシやヒナタの日向一族と同様に強い血の力(血継限界)を宿す一族のことである。

 優秀な忍びを多数輩出しているうちは一族であるが、それ故に此処数年は里の権力中枢から遠ざけられてしまっている。

 

「――そう表情を崩すな、ヒアシよ。……朱絹、訪ねてきたうちはとはフガクのことか?」

「はい。木の葉警務隊のフガク様です」

「ん? 一人だけか?」

「いえ。『御子息と御息女』も一緒に」

「……どうやらヒアシよ。お前と同じようなことを考えている奴が、この里には他にも居たようだぞ?」

 

 口元を片側だけ吊り上げ、シニカルな笑みを浮かべた弾正に、ヒアシは困ったような苦笑を浮かべた。

 

「さて……と」

 

 弾正は癖なのだろう、自身の顎鬚へと手をやると「ふむ……」と唸るような声を出しながら黙考をする。しばしそうすると、チラッとヒアシを見やり、考えを口にした。

 

「ヒアシよ、問題がなければ御主にも同席してもらいたい。恐らくは、里の上層部への嘆願も含まれての話し合いになるじゃろうからな」

「……わかりました」

 

 ヒアシは一瞬だけ悩むような素振りを見せたが、しかし即座に弾正の願いを受け入れた。此処数年の間に生まれつつ有る、木ノ葉隠れの里と、そしてうちは一族との確執を考慮してのことである。

 

「朱絹……フガクの奴を呼んで参れ。それと一緒に来たという子供等もな」

「はい。畏まりました」

 

 弾正の言葉に頷いた朱絹は、そそくさと退室していった。

 この場に残るのは最初の侭、日向の二人と甲賀の二人である。

 暫くじっとして待つ時間が続くが、シシンは正座の状態が辛いのかモゾモゾと動く。

 

「シシン。客の前じゃぞ」

「っ! ……はい」

 

 ジロッと睨むような視線を向けてシシンを窘める弾正に、シシンは緊張した面持ちでピンっと背筋を伸ばす。

 

「弾正様、宜しいではありませんか。跡取り殿は、我が家のヒナタと変わらぬ齢です。そう厳しくされなくとも――」

「ヒアシよ、御主……自分の家に客が来たとしても、同じことを言えるか?」

 

 ギロッと睨みつけて弾正が言うと、ヒアシはチラッと視線をヒナタへと向けた。半眼になりながら、弾正の言ったことを想像してみると、「むぅ……」と小さく唸る。

 ヒアシはシシンに、申し訳無さそうな表情を向けた。

 

「……スマン。シシン君」

「い、いえ。自分の考えが足りなかっただけですので」

 

 どうやらヒアシは、弾正の言葉にアッサリと納得をしたようである。

 しかし、逆にシシンからすれば客であり、そのうえ大人でも有るヒアシにこんな表情をされては返って恐縮してしまう。

 

「失礼します。うちはフガク様をお連れしました」

 

 シシンがどうしたものか? と考えていると、上手い具合に朱絹がもう一組の客を連れてきたようである。

 シシンは少なからずホっとして、障子の向こう側に映る人影に注意を向けた。

 

「失礼します」

「来たか、フガクよ」

 

 スゥッと開かれた障子の向こうからは、黒い羽織にコレまた黒い着物を身に纏った人物が一人。

 そしてその男性に付き従う形で、二人の子供が立っていた。

 

 入ってきた男性――うちはフガクは、先にこの場所に居た日向ヒアシに若干驚いた表情を浮かべたが、ソレも直ぐに正して入室をしてくる。

 淀みのない歩き方でヒアシ達の横へと座ると、一緒に居た子ども達もフガクの横に並んで座った。

 

「お久しぶりです、甲賀弾正様。お元気そうで何よりです」

「うむ。お前も随分と元気そうだな、フガク」

「いや、まだまだ倒れる訳には行きませぬので」

「あぁ……それもそうじゃろうがな」

 

 フガクの言葉に頷いて返した弾正だったが、その言葉にはどれ程の意味が込められているのであろうか? フガクは若干、バツの悪そうな表情を浮かべる。

 

「して、今日はどのような要件じゃ? そちらの子供等に関係することか?」

「はい。どうやら、日向の方も同じ考えを持っておられたようですが。甲賀一族頭領であられる弾正様の孫、甲賀シシンと同年に産まれた子供たちを顔合わせしようと思いまして」

「ふむ」

 

 弾正は頷きながら、似たような事が続く日じゃな――と内心で思っていた。そしてチラッとその視線をフガクと一緒にやってきた子供達へと向ける。

 

「名はなんと言うのだ?」

「……うちはサスケです」

「私は、うちはホタルです」

「サスケにホタル……か。フガクよ、先が楽しみそうな子供等ではないか? 確か、お前の長男であるイタチは、7歳で学校(アカデミー)を卒業した天才と聞いている。良い跡継ぎに恵まれておるな」

「は。有難うございます」

 

 弾正に言われた言葉が嬉しかったのか、フガクは恐縮したようにしながらも表情は幾分緩んで視える。

 逆にヒアシは、そんなフガクに眉間へと皺を寄せていた。

 

「シシン」

「はい。……二人共、俺が甲賀シシンだ。よろしく頼む」

「あ、あぁ」

「よろしく」

 

 子供同士、同じ年令と言っても、、こんな場所で互いに仲良くする――というのは難しいらしい。

 フガクは勿論として、弾正とヒアシもがそんな子供達の様子を微笑ましそうに見ていた。

 

「む、イカンな。ついつい頬が緩んでしまう」

 

 弾正は緩んでいた表情を正すと、眉間を解すようにグイグイと指先で揉む。そして視線鋭く、仏頂面のような顔を作った。すると、そんな弾正にフガクは口を開く。

 

「かつての『鬼弾正』も、人の子、人の親ということですかな?」

「ふん、吐かせ。それを言うのなら御主も、ソレにヒアシも同じであろうが?」

「ハハハ。ソレはまぁ、確かに」

「否定は出来ませぬな」

 

 弾正、フガク、ヒアシの3人は互いに笑みを浮かべて笑う。しかし、その場に同席している子供達にしてみれば、基本的には置いてけ堀である。もっとも弾正にしてみれば、上手い具合に場が和んだ……と、言ったところであろう。

 

「シシンよ、暫くその子等と一緒に庭で遊んでおれ。儂は日向と、うちはの者に話があるのでな」

「え? 良いのですか、御爺(おじじ)様?」

「よい」

 

 一瞬、ビックリしたような返事をしたシシンだったが、頷いて返す弾正の言葉に笑みが漏れる。

 途端にバッと立ち上がるシシンは、ヒナタ、サスケ、ホタルの3人に声を掛けた。

 

「よし! ならばこうしては居れん! 外へ行こう!」

 

 声を出して強く言うシシンだったが、他の3人はそんなシシンを呆然と視ることしか出来ない。シシンは一向に動き出そうとしない3人に痺れを切らし、

 

「何をして居るのだ! ほら、立つのだ!」

 

 と言うと、3人の腕を引っ張りあげて無理矢理に立たせる。半ばされるがままに立ち上がった3人は、それぞれが自分の父親へと視線を向ける。ヒアシとフガクはただ頷くようにして返すと、ヒナタ、サスケ、ホタル等は途端に笑みを浮かべる。

 

「では御爺(おじじ)様、我等は外に居りますので!」

「池に落ちぬようにな」

「はい!」

 

 子供らしい笑みを浮かべたシシン同様、他の子供達も大人達の堅苦しい雰囲気から逃れたかったのだろう、少しばかりホっとしたような顔で部屋から出て行った。弾正もヒアシもフガクも、そんな子供達に視線を向けて、口元を僅かに綻ばせているのであった。

 

 

 

 

 


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