ーサラ・ヒューイットー
幸い、教室には誰もいません。
「それで私の手助けが必要とはどういう事ヨ?」
「まず、『渡界機』はいくつ作りました?」
「サラさんの指示通り、私の分、エヴァにゃんの分、サラさんの分と予備に1個作たヨ」
麻帆良祭終了後、指示していた通りに超ちゃんは「渡界機」を作ってくれたみたいです。
「ではその予備の『渡界機』を信号発信だけの機能にしてもらうことはできますか?それも並行世界の先に信号を発信できるような強力なものです」
「なるほど、その信号を頼りに私は130年後の世界にやって来たわけカ。通りで私の『渡界機』ではなく予備機が作動したわけだ。信号の受信先は予備機に設定すればいいんだろう?」
「さすが超ちゃん。わかっていらっしゃる」
「だが作動させる魔力は何処から持ってくるのかナ?130年後にはサラさんもいなかったヨ?」
「時限式でアスナさんの魔力に反応する式神を、校舎の屋上にセットしておきます。アスナさんが目覚めたら式神も起動し、アスナさんをタイムカプセルが埋めてある木に導きます。木の方には発信機をセットしておき式神に反応すれば、超ちゃんが持つ予備機に信号を送ります。これならアスナさんの元に超ちゃんも辿り着けるでしょう?」
「なるほど、そういう仕組みなら問題ないネ」
「設置するのも昨日のうちにやっておけば問題ないですよね?」
「そうネ。儀式を行う前なら、130年後のアスナさんが目覚める時間軸にちゃんと作動すると思うヨ」
「その改造っていつまでにできますか?」
「卒業式までには余裕で終わるヨ。卒業式が終わればサラさんもここを去るのだろう?でなければ『渡界機』なんて私に作らせるはずないネ」
「降参です。私が言えることは何もありません」
両手を上げて降参のポーズをしたんですが、
「相変わらず胡散臭いネ、サラさん」
と一言返して、超ちゃんは教室を出て行ってしまいました。
どうして自分の嘘偽りない気持ちを言動に表したのに、胡散臭いとバッサリ斬られるのかがわかりません。
3日後、超ちゃんから発信機が出来たと連絡が入ったので、早速取り付けにかかりました。
まず学校の屋上にあがり、超ちゃんと一緒に4日前へ「カシオペア」で移動します。
次にアスナちゃんの魔力を感知したら起動する式神を設置しました。
ただし、これをそのまま設置したら明日の儀式で起動してしまうんで、100年後に起動準備するように魔法陣を弄って、私と同量の魔力を込めた式神を封印しました。
次はタイムカプセルを埋めた木に発信機を設置します。
これにも私の魔力に反応する前にアスナちゃんの魔力に反応するようにし、さらに100年後に起動準備するようにして、こちらも封印しました。
これで100年後でも130年後でもアスナちゃんが起きれば最初に式神が起動し、タイムカプセルの木に来たらアスナちゃんの魔力で封印を解き、発信機を式神の魔力で発動させればOKです。
超ちゃんからも特に問題はないだろうということで、私の最後の計画もこれで終わりました。
「超ちゃん、ありがとうございました。これで私がこの世界でやるべき計画はすべて終わりです」
「サラさんの計画がなければ、私もここに戻れなかたヨ。とりあえず4日後に戻らないカ?」
「それもそうですね」
超ちゃんに促されて「カシオペア」で4日後に戻ってきました。
そして寮まで帰ってきます。
「では、私はこれで失礼させてもらうヨ?ああ、以前渡してなかた『渡界機』とその説明書、それに『カシオペア』の説明書も渡しておくネ」
「これはどうもありがとうございます」
渡してくれた現物と書類を袋の中に収めます。
「そんな能力、いつの間に身につけたヨ?」
「これですか?影の袋って呼んでるんですが、夏休み前に作りました。見た目と容量の違うマジックアイテムの袋を影の
「本当にサラさんは…イヤ、なんでもないヨ。これ以上何か言うのも馬鹿らしくなてしまうからネ。サラさんはやはり規格外だたのだナ」
「規格外なんて言われても、そんなに嬉しくないですよ」
確かに人外にはなってしまいましたが…。
「今度こそ失礼させてもらうネ。ああ、彼女達はサラさんに用があるみたいヨ」
超ちゃんの視線の先には亜子ちゃん、大河内さん、まき絵ちゃん、祐奈ちゃんの運動部4人組がいました。
「サラさんは自分のことを話すのが苦手みたいだから、私がバラしておいたヨ。これで一矢報いることが出来たかナ?」
「一応自分のことについては話すつもりだったんですよ?」
「どうせ、『渡界機』でどこかに行く直前に話して、有耶無耶にしてから去るつもりだたのだろう?私が言えた義理ではないかもしれないが、ちゃんと話をするべきではないかナ?」
それを言われると痛いですね。
確かにそういう感じで別れるつもりだったんで。
「わかりました。超ちゃんの配慮に感謝します」
「いやいや、今までサラさんの釈迦の掌だたからナ。最後くらいは予想外のことをしてやりたかただけヨ」
そう言って超ちゃんは自分の部屋へと帰って行き、入れ替わるように4人がやってきました。
「超りんから聞いたんだけど、サラちゃんって別の世界から来た人なの?」
「違うでしょ、祐奈。サラちゃんの魂が別の世界から来た人なんだよ」
「まあ、そういうことですね。まき絵ちゃんの言う通り、私の魂は別の世界からやってきました。こういう自分について話すというのは苦手なんで、聞きたいことがあったら答えますよ」
「サラちゃんはこれからどうするん?」
いきなり言い難いことを聞かれましたね。
でも、何も言わずに消えてしまうよりはいいでしょう。
「私は超ちゃんが作ってくれた『渡界機』で、別の世界へ行ってみようと思ってます」
「その世界ってヒューイットさんが元いた世界に行くの?」
「私が元いた世界に戻るのは多分無理だと思います。この身体の持ち主だったサラが私に落ちてきたと言ってたので、その逆を行うにはどれくらいのエネルギーが必要かわかりませんから」
私の言葉に4人が黙ってしまいました。
「私が落ちてきたことを皆さんが気にすることないんですよ。交通事故にあったようなものですから」
「じ、じゃあ、なんで別の世界に行こうって思ったの?」
「そうですね、私がこの世界に来た当初の目標を達成できたから、でしょうか」
「目標ってなんだったの?」
「ネギ君の力になってあげたいということですね。本当は人から外れることも防ぎたかったんですが、それをやってしまえばフェイトとの対話や「
「満足してどうなったん?」
亜子ちゃんの疑問に少し考えて、答えます。
「何か心に穴が開いたような気分になってしまいました。それを埋めるために世界を旅しようと思ったんですよ」
「それってここにいても埋まらないものなの?」
「祐奈ちゃんの疑問は御尤もですが、それはわかりません。埋まるかもしれないし埋まらないかもしれない。なら、せっかくだから外に出てみようと思ったんですよ」
「ヒューイットさんは、もうここには戻ってこれないの?」
「絶対戻ってこれないということはないですよ。他の世界に行ってすぐ戻るということはしませんが、『渡界機』があればどこの世界にいても駆けつけます」
「そっか。でも、ちゃんと挨拶をしないで出て行こうとした罰は受けてもらうよ。ねぇ、みんな!」
え?みんな⁈
亜子ちゃんの言葉とともにアーティファクト「
なるほど、今までの会話は和美ちゃんとさよちゃんのコンビを通じて、3-Aのみんなに筒抜けだったわけですね。
やっぱり3-Aのクラスメイトには勝てそうにありません。
「なるほど、新オスティアと同じパターンですね。やっぱり3-Aの団結力は見事です。どんな罰でも受けましょう」
私はもう笑うしかありませんでした。
その夜は高級学食JOJO苑で私のお別れ会が開かれました。
私のお別れ会なんですが、食事代を出したのは私です。
それが、ちゃんと挨拶せずに麻帆良を去ろうとした私への罰なんだとか。
まあ、それくらいは問題ないんですけどね。
「えーっと、お別れ会を開いてくれてありがとうございます。1学年の2学期からこのクラスに来ましたが、楽しい時間を過ごすことができました。いつ戻ってくるかはわかりませんが、私の家はこの世界ですので、いずれは帰ってこれたらと思ってます。なのでプレゼントはいりませんから、委員長さん。その大きな物は持ってこなくて大丈夫です!そんな大きさの物を持って旅なんてできませんって‼︎」
「そうですか?確かに急いで作らせたのでクオリティは低いかもしれませんが…」
そう言って委員長さんが用意していたのは、人の身長くらいの大きさがある私の胸像です。
お気持ちは嬉しいんですが、私にはその気持ちも胸像も大きすぎます。
っていうか、クオリティの問題ではないんですよ。
「いえ、そのお気持ちだけ受け取っておきます。何かあれば、超ちゃんに言うと私に連絡を取ってくれると思います」
「サラさん、面倒ごとを私に投げたネ⁉︎」
「機械については私にはわかりませんので。そういうのは私より超ちゃんの方が得意でしょう?適材適所ですよ」
「サラさん、挨拶はよろしいですか?では、サラさんの旅立ちの安全と無事な帰還を祈願して、乾杯!」
「「「「「「「「乾杯‼︎」」」」」」」」
委員長さんの音頭でみんながコップを鳴らします。
みんなはどちらかというと、滅多に食べない高級学食のお肉に舌鼓を打っている感じですが、それが3-Aらしくていいですね。
こうやってお別れ会を開いてくれて、みんなの笑顔が見られて…私は本当に満足です。
その4日後、私も3-Aのみんなも無事学校を卒業することができました。
みんなは女子寮の裏で卒業記念の花見をしています。
私はそろそろ出発する予定です。
「サラさん本当に行ってしまうんですか?」
ネギ君が私に尋ねてきますが、もう答えは決まってます。
「はい。偶然とはいえ、ナギさんやアリカさんを救うことができて、私がネギ君にできることはもうありませんから。あの村の人達はこのちゃんが救えるはずですし」
「ネギに対してできることなんて、他にもあるんじゃないの?」
「これから必要なのは『火星緑化計画』を進める上で、ネギ君を支えられる人ですよ。それは私ではなく、アスナちゃんやちうっち、茶々丸さん、委員長さんくらいしかいません」
「おい!なんでそこに私の名前が入んだよ⁉︎」
「ネギ君がちうっちのHPを見ていることも、その言葉に多大な影響を受けてることも知ってますから」
「確かに、千雨さんの言葉は大変参考になります」
私の言葉に頷くネギ君。
「だそうですよ。そもそも私はイギリスで占い師をやってたかもしれない人間ですから、私がいなくても元々はみんな大丈夫だったんです。ここにいられただけで私にはすぎたことだったんですよ」
「サラちゃん、そんな言い方せんと。それに、また会えるんやろ?」
「そうですね。このクラスのみんなもずっと一緒にいられるというわけではないでしょう?いずれは自分のやりたいことのために、それぞれの道を歩いて行くはずです。私の場合はそれが、みんなより早く来たというだけの話です。ちゃんと同窓会の案内があれば戻ってきますよ」
「フン、ホントに戻ってこれるんだろうな?戻ると約束しておきながら、15年戻って来なかった男を私は知っているぞ」
エヴァちゃんが横から茶々を入れてきます。
「戻ってこれなかったら、超ちゃんの『渡界機』のせいだと思ってください。エヴァさん、お世話になりました」
「たまには顔を見せに来い。茶くらいはだしてやる」
そういえば、茶道部に顔を出したことはなかったですね。
「美味しいお茶を期待しています。では、そろそろ出発しますね。皆さん、お元気で。また会いましょう」
これ以上話し続けると寂しさが余計募りますから、強引に打ち切り「渡界機」のスイッチを押します。
途端に私の周囲が白い何かに覆われて、私の視界は真っ白になりました。
これにて「憑依生徒サラま!」はおしまいとなります。
応援してくれた皆さん、ありがとうございました。