憑依生徒サラま!   作:怠惰なぼっち

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第64話

ーサラ・ヒューイットー

 

3学期が始まりました。

と言っても、変わったことは特にありません。

麻帆良女子中はエスカレーター式なので、受験とは関係ない人がほとんどです。

3-Aの皆も、フェイトの厳しい授業に耐えながら、普段と変わらない生活を送っています。

私も普段と変わらないはずなんですが、担任代理であるフェイトに放課後、職員室に呼ばれてしまいました。

はて?何かまずいことをしましたかね?

理由がわからない呼び出しに不安を覚えつつ、職員室に入ります。

 

「失礼します。フェイト先生はいらっしゃいますか?」

 

「ここにいる。来たまえ、サラ・ヒューイット」

 

なんかフェイトに先生を付けて呼ぶなんて変な感覚です。

胃の辺りがモゾモゾすると言うか、怖気がすると言うか。

いつも呼び捨てでしたからね。

 

「どういう呼び出しでしょうか、フェイト先生?」

 

「君に『先生』と呼ばれるのはなんと言うか…気持ち悪い…は適切ではないな。なんと言うべきだろう…胃の辺りがゾワゾワするんだが。普通に話したまえ」

 

まさかフェイトも私と同じような感覚を持っていたとは思いませんでした。

完全なる世界(コズモエンテレケイア)にいた頃からその予兆みたいなのはありましたが、ここまで変わるものなんですね。

 

「フェイトも随分人間臭くなりましたね」

 

「そういう君は人間離れしてしまったではないか」

 

「誰もそんな上手いこと言えとは言ってませんよ。それで何の呼び出しですか?」

 

「以前行った最後の進路希望調査の話だ。君は進学しないつもりかい?」

 

ああ、その話ですか。

確かに進学するつもりはありません。

そもそも、私は麻帆良から離れようと考えてますからね。

 

「確かに進学するつもりはありませんね」

 

「では君は卒業後どうするつもりなのかな?」

 

「そうですね、世界を見て回りたいと思っています。具体的にどこに行こうとは考えてませんが、いろいろ見聞を広めたいですね」

 

「ふーん、だから第一志望から第三志望まで旅って書いたのかい?」

 

「そういうことになりますね」

 

具体的にどう書いたらいいのかわからなかったのでそう書いたんですが、よくよく考えたら真面目に書けと言われても仕方ないですよね。

 

「確かにこの進路希望調査は、エスカレーター方式で進学する我が校には必ずしも必要とは言えない。だが、敢えて受験し別の高校へ進学する子がいるのもまた事実。そういう子の為の進路希望調査で何をふざけているのかと思ったのだが、君なりの理由があると言うのなら、僕からは何も言うことはない。成績優秀な君が進学しないことは他の先生方が残念がるかもしれないが、君の人生だ。好きなようにしたらいいだろう」

 

いやいや、フェイトのキャラ変わりすぎでしょ⁈

あ、でもフェイトガールズの猫族の子はアリアドネーに行くこともできたわけだし、戦争孤児を支援したりしてたんだから、そういう素質を持ってたんでしょうか?

厳しいけど、教育者としては優秀な部類に入るのかもしれません。

 

「フェイトからそんな言葉が聞けるとは思いませんでした。教育者として一人前のオーラを感じます」

 

「別に…僕はいつも通り業務をこなしているだけだよ。まあ、あのクラスの行動力には驚かせられて、いつも以上の業務をさせられることも多いが…」

 

確かにフェイトは教育者としては一流な感じなんですが、それでも3-Aのバイタリティーには敵いません。

特に、委員長さんと那波さんが「火星緑化計画(プロジェクト・ブルー・マーズ)」で学校に来れないことが、3-Aフリーダム化に拍車をかけてます。

 

「あそこまで潜在能力が高いのは、3-Aだけですから。安心してください」

 

「3-Aの生徒みたいな連中がゴロゴロいるなんて考えたくないね。まぁ、いい。僕の話は終わりだよ。退室したまえ」

 

「そうですか。ありがとうございました」

 

フェイトはそのまま机に向かい合い、コーヒーを飲みながら事務作業を始めてしまったので、一言告げて職員室を出ました。

原作でもフェイトはコーヒー好きを公言してましたが、本当にコーヒーが好きなんですね。

コーヒーを淹れるための機器が机の上に、さも当たり前かのように置いてありました。

 

 

中学校卒業まで、1ヶ月をきりました。

私はというと、相変わらずエヴァちゃんの別荘で回復アイテム作りに勤しんでいます。

別荘でないと麻帆良の学園結界に引っかかって、魔力が小さいままですから。

そして、アイテムを作っているうちに、1,000㎥の影の袋は一杯になってしまったので、25×25×25㎥の袋を新しく作りました。

でもまだ作り続けてます。

これからの計画を考えれば、魔力がいくら必要なのかわかりませんから。

今は魔力を込めるための魔法陣を布に刺繍したものを5枚並べて、その上に核となる水晶玉を置いて、5個いっぺんにアイテムを作っています。

 

「またいそいそとアイテム作りか、サラ・ヒューイット」

 

声がした方を振り返ると、この別荘の主であるエヴァちゃんが腰に手を当て、呆れ顔で私を見ていました。

 

「あ、お邪魔してます。エヴァさん」

 

「貴様は夏休み明けからずっとそれだな。よくもまぁ、飽きずに続けられるものだ」

 

「これを続けるのもあと少しですよ。3週間後のアスナさんが100年の眠りにつく時には終わります」

 

「それも貴様は知っていたのか?」

 

クラスではアスナちゃんとネギ君、エヴァちゃん、このちゃん、せっちゃん以外は、まだ誰も知るはずのないことですからね。

エヴァちゃんの呆れ顔がより深いものになりました。

 

「知っていましたよ」

 

「この遣り取りも久しぶりだな。だが神楽坂明日菜が眠りにつくのと、貴様がそのアイテムを作るのにどんな関係があるんだ?」

 

「私がこれを使うのはアスナさんが眠りについた後ですね。さすがに魔法世界(ムンドゥス・マギクス)を守る儀式に茶々はいれませんよ」

 

「貴様のことだ、また何か企んでいるんだろう?」

 

「確かに企んではいますが、私だけではどうにもならないことはありますよ?なので今回は協力者もいます。確実にその人が来れるかはわかりませんが」

 

「協力者がいないと計画は成り立たないのか?貴様にしては今回は、随分協力者任せな計画じゃないか」

 

それもそうなんですが、(チャオ)ちゃんがいないと成り立たない計画ですから、仕方がありません。

原作通りであれば、アスナちゃんと一緒に超ちゃんも来るはずなんですが、この世界は微妙に原作と違いますからね。

私もできる手段は講じるつもりです。

一応理論的には問題ない筈ですが、それも超ちゃんに検証してもらわなければなりませんし。

 

「まぁ、計画通りにいけばエヴァさんを驚かせられると思いますよ」

 

「そうか。なら楽しみにしておくとしよう」

 

そう言ってエヴァちゃんは私が借りてる書斎から出て行きました。

 

 

そして3週間はあっという間に過ぎました。

私は中学校の屋上でエヴァちゃんの側にいて、アスナちゃんがこのちゃん、せっちゃんと抱き合ってるのを見ています。

魔法世界の崩壊を防ぐ礎としてアスナちゃんを眠らせる儀式のために、魔法世界からはテオドラ皇女とラカンさん、クルト総督が麻帆良に来ました。

見送る側として、このちゃんとせっちゃん、ネギ君、委員長さん、エヴァちゃん、茶々丸さん、学園長、高畑先生、アルビレオさん、詠春さん。

そして原作にはいなかったナギさんとアリカさんもこの場にいます。

 

「すまない、アスナ…。俺が『造物主(ライフメイカー)』なんかに乗っ取られてなければ他に手があったかもしれないのに…」

 

「妾もそなたになんと言えばよいのか…。20年前だけでなく、今回もそなたを犠牲にせねばならぬとは…」

 

ナギさんもアリカさんもとても辛そうな表情を浮かべています。

アリカさんの言う通り、これは20年前の焼き直しみたいなものですからね。

 

「気にしないでくださいよ、ナギさん、アリカさん。これは私でないとできないことなんですから」

 

「もう…よいかな?アスナ」

 

テオドラ皇女の言葉にアスナちゃんは魔法陣の中央に立ち、

「ネギ!待ってるから!『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』になったアンタが訪ねてくるのを‼︎あんたとみんなならきっと大丈夫よ!バイバイ、またね!」

 

そう言って、アスナちゃんと魔法世界から来た3人は、魔法陣の遥か上空に浮かぶ逆さまな墓守り人の宮殿へと、吸い込まれるように飛んで行きました。

原作通り、若しくは私の計画が上手くいけば間もなく帰ってくるはずなんですが…。

 

「えーっと、ここって…。出発してすぐじゃ…」

 

声がした方向を振り返ると、アスナちゃん、超ちゃん、100年後のエヴァちゃんがそこにいました。

ということは私の計画は失敗だったんでしょうか?

 

「たっ…、ただいまー」

 

ネギ君、このちゃん、せっちゃん、委員長さんが泣いている中、戻ってきたのが恥ずかしかったのか、気まずかったのか。

ボソリと呟くアスナちゃんに対して、もう会えないと思ってた人に再会できた嬉しさからか、4人とも飛びかかるように抱きつきました。

こちらのエヴァちゃんもさすがの事態に驚きを隠せません。

 

「お久しぶりです、超ちゃん」

 

「サラさんの言てた通り、戻て来たヨ。約束通りサラさんの秘密を話してもらおうカ」

 

思わぬ展開に言葉が出ない周りを残して、

 

「その前に、先に頼んでおいた『カシオペア』を貰ってもいいですか?もう一つの方は私の秘密を話してから、譲り受けるということでどうでしょう。逃げるつもりはありませんから、その証拠としてナギさんを連れて行くんで」

 

「え?俺⁈いや、意味わかんねーんだけど⁉︎エヴァも2人になっちまうし…」

 

「何故そこでサウザンドマスターが出てくるヨ?というかこの時間軸では、サウザンドマスターが生きていたのカ?」

 

超ちゃんは驚いたようにナギさんを見て、ナギさんはまるで自分が死んでるかのような発言をする超ちゃんに対して、何を言ってるんだという顔を向けます。

 

「なんで見ず知らずの嬢ちゃんから死んだ人扱いされないといけねーんだ?」

 

「この時間軸では私が関わったせいか、ナギさんは復活しました。ナギさん、この娘は100年後の世界から来たんです。とにかく、説明は『帰ってきてから』するので『カシオペア』をください」

 

「わかたネ。ちゃんと納得いく話を聞かせてもらうヨ?」

 

そう言って、超ちゃんから「カシオペア」を受け取ります。

 

「さて、ナギさん。ちょっと『造物主』が封印されていた場所まで行きましょうか?ちょっとキツいかもしれませんが我慢してください」

 

そう言って回復アイテムを袋から出して、能力でその魔力を吸収しながら、影の転移魔法(ゲート)を展開し、ナギさん共々影の中に沈んでいきました。


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