憑依生徒サラま!   作:怠惰なぼっち

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最後の連続更新です。
次はいつも通りの更新速度に戻ります。
これからもよろしくお願いします。


第49話

ーサラ・ヒューイットー

 

アリアドネーから8,000kmの距離に存在する空中都市オスティア。

そこから西に40kmの地点にやってきました。

私がいる場所も眼下に雲海が広がってるんですが、空に浮かぶオスティアはその雲海より遥か上空にあります。

オスティアを形成している建物は小さくて見えませんが、その建物を乗せてる岩塊は随分大きいものだということが、逆にわかってしまいました。

あれと同じものが20年前にいくつも地上に落ちたことを考えると、その災害の凄まじさを改めて思い知らせれます。

まぁ、そういう感傷的なことは後にしましょう。

 

影の袋から杖を取り出し、オスティアまで飛びました。

オスティアに到着すると、終戦記念祭まではまだ数日あるにも関わらず、すでにお祭りムードが漂ってます。

それとナギさんのネームバリューはやっぱりすごいですね。

あっちこっちで「紅き翼(アラルブラ)」の映画が上映されていたり、ナギさんの名前を冠した饅頭が売られてたりしてます。

ネギ君も負けてはいません。

終戦記念祭で最大の拳闘大会「ナギ・スプリングフィールド杯」のポスターに、デカデカと拳闘士ナギ・スプリングフィールドとしてのネギ君が描かれています。

年齢詐称薬で15歳程になったコタロー君と2人やる気満々といった表情ですね。

1ヶ月近く会わないうちに随分たくましくなりました。

お姉さんは感激です。

まぁ、「闇の魔法(マギア・エレベア)」の侵食を乗り越えてないので、まだ限定的な強さではありますが…。

フェイトとタメを張るのとその後の協力関係を築くには、ネギ君が人外になってしまうのを見ているしかないのが悔しいところですが、人外化がないとそもそも生き残れないんですよね。

わかってはいてもやりきれないです。

あー、オスティアに来てから気持ちが暗くなってしまいます。

柄にもなくナーバスになっているんでしょうか?

気持ちを切り替えましょう。

 

私が表に出るのはフェイトがネギ君に接触した時。

アスナちゃんはあちらに行ってもらわないといけないので、そちらには手を出さない。

このちゃんの所はラカンさんがいるので問題なし。

あとは残ったちうっち、本屋ちゃん、ハルナちゃんの所に手出しをしましょう。

それまでの数日は…久しぶりにのんびりと、お祭り騒ぎを楽しみましょう。

その前に、まずは宿を借りないと。

 

オスティアに来てから数日経ちました。

いよいよ「オスティア終戦記念祭」の始まりです。

アリアドネー戦乙女騎士団が隊列を組んで並び、MM(メガロメセンブリア)の戦艦や鬼神兵、ヘラス帝国の戦艦と古龍(エインシェントドラゴン)龍樹(ヴリクショ・ナーガシャ)が、お祭の開催を告げる式典に華を添えてます。

そしてMM代表のリカードさん、ヘラス帝国代表のテオドラさんが握手を交わし、その後ろではセラス総長とオスティア総督のクルトさんがお祭を祝うように拍手していますね。

この後は、長々とお偉いさんのお話が続くみたいですが、聞いてるのも面倒なので街頭テレビから離れます。

私はあるものを探すため、杖を使って街の上を飛んでいると、…見つけました。

屋根の上を割れない風船みたいにボヨンボヨンと飛ぶ、猫みたいな見た目ファンシーなもの。

あれはハルナちゃんのアーティファクト「落書帝国(インペリウム・グラフィケース)」で作られたものでしょう、それに向かって加速します。

思った通り猫からちうっち、本屋ちゃん、ハルナちゃんが出てきました。

3人の近くまで来たので杖から降りて、杖は影の袋に収納します。

 

「お久しぶりです、お三方」

 

「誰だ、あんた?」

 

「どどど、どちら様でしょうか?」

 

「こんな知り合いいたっけかなぁ」

 

そんなに私ってわかりにくい姿になってしまったでしょうか?

顔の作りは変わってないはずなんですけど…。

 

「私ですよ、サラ・ヒューイットです。詳しいことは後で話します。調さんは私に任せてのどかさんはフェイトの所で作戦をやってください。ただし、絶対にコタロー君と一緒にですよ」

 

「ちょっと待て!あんたがサラだというのは置いといてだ!なんで作戦についても知っている⁈」

 

「それも後です。追っ手が来たので早く逃げてください」

 

私の視線の先には、調が追いついてきて屋根の上に立っていました。

 

「そうは参りません。私の任務は彼女達の足止め。私がフェイト様から聞いていた姿とは違いますが、貴女の危険性は十分承知しております。しかし、邪魔をされるなら貴女にも私の演奏を聴いて頂きます」

 

「などと言っていらっしゃいますが、無視して結構。彼女では私に勝てませんから」

 

私の言葉に乗せられたのか、調がアーティファクトのバイオリンを使おうとします。

 

「いいでしょう。そこまで言うならお聴きなさい!」

 

と言ってバイオリンを弾こうとするんですが、そんなことさせるわけがありません。

両手首に糸を巻き付け、磔の状態にします。

 

「っな⁈これは糸!」

 

「言ったでしょう?あなたでは勝てないと。とりあえずこんな感じで彼我の差は圧倒的なんで、千雨さん達はここを離れても大丈夫ですよ」

 

唖然とした様子でこっちを見ているちうっち達に、微笑みながら声をかけます。

 

「馬鹿!油断すんな‼︎」

 

ちうっちの言葉が聞こえたと思ったら、私の周りが木の根で囲まれて真っ暗になりました。

と言っても私に直接絡みつくわけでもなく、障壁を包み込むことしかできてませんが。

 

「私の近くに来ないでくださいね!断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)

 

近付かないように声を出して、断罪の剣を右手の5本の爪に装備し、木の根を細切りにして出てきました。

 

「千雨さん、これは油断ではなく余裕です。ですが、これ以上余計な心配をかけるのも悪いので…調さんには少し眠ってもらいましょう」

 

糸を首に巻き付け、頚動脈を締めて気絶させます。

呼吸はしているので問題ないでしょう。

 

「おいおい、まさか殺っちまったんじゃねーよな?」

 

ちうっちが恐る恐る尋ねてきました。

 

「私そこまで冷酷じゃないですよ。よく見てください、ちゃんと呼吸しているでしょう?気絶させただけですから大丈夫ですよ」

 

「よかったぜ、クラスメイトから殺人者が出なくてよ。それよりも今までどこn「大丈夫かー⁈姉ちゃん達!」…おせーぞコタ!」

 

「これでも急いで来たんや、怒らんでーな。そんでこっちの姉ちゃんは誰や?かなりできるっちゅうのはわかんねんけど」

 

コタロー君にも認識してもらえないなんて。

これはもう人化の術を使うべきでしょうかね。

 

「コタロー君も元気そうで何よりです。私ですよ」

 

そう言いながら人化します。

 

「サラ姉ちゃんやったんか⁈そう言えば顔はあんまり変わってへんかったかなぁ。でも角だけじゃなくて手足もドラゴンっぽくしたり、尻尾も長ーしたり、肌の色も変えるって変装にしてはやり過ぎちゃうか?」

 

「正体を隠すための変装だから当然でしょう?それはともかく、早くフェイトに読心術を使いに行ったほうがいいのではないですか?」

 

まぁ、変装ではなく、最早あの姿が素の姿なんですけどね。

 

「そうや!のどか姉ちゃん、行くで‼︎」

 

「う、うん!」

 

そう言って本屋ちゃんとコタロー君は、コタロー君の影の転移魔法(ゲート)でこの場を離れました。

 

「いやぁ、サラちゃん。ホント強かったねぇ!まさかあちらの攻撃を通さないなんて‼︎」

 

「確かに、あんたのおかげで助かったぜ」

 

ハルナちゃんとちうっちからお礼を言われましたが、あれくらいはなんてことありませんからね。

 

「いえいえ、調さんくらいでは相手になりませんから」

 

さて、問題は調をどうやってあちらに返すかですね。

この人がいなくても儀式が進むなら問題ないんですが、それがわかりませんからね。

かと言って、このまま置いておくのはちうっちも納得しないでしょうし。

 

「それはともかく、お二方も早めに逃げた方がいいですよ」

 

「サラはどうすんだ?」

 

「私は調さんをエサに他の『完全なる世界(コズモエンテレケイア)』のメンバーを誘き出します」

 

「それは危険だよ、サラちゃん!」

 

「大丈夫ですよ。この人を人質にしてれば、あちらも手出しできないでしょう。それに騒ぎを聞きつけた警備員がやってきますよ?私の変装は簡単にバレないですが、お二人もそうとは限らないでしょう?」

 

そう言いながら人化を解きます。

 

「サラ、そいつを人質にってこっちが悪者みたいだぞ…。だが、あんたの強さなら大丈夫だろう」

 

「確かに、早くここを離れたほうがいいかもね」

 

私は調を脇に抱えて、

 

「ではこれを渡しておきます。私の魔力を込めた糸でして、それを目印にして私も合流しますので」

 

と言って糸をちうっちに渡します。

 

「それじゃ、後でな」

 

「気をつけてね、サラちゃん」

 

と言う言葉を残して、2人も逃げました。

あとはフェイトフルメンバーに襲われて、調は逃してしまったと言えば、ごまかせるでしょう、…多分。

旧オスティアと麻帆良を繋げてもらわないと困りますから、調にはあちらに帰っていただきます。

とりあえず、私も影の転移魔法で適当に離れた場所に移動しました。

一応いきなり攻撃されないよう調を糸で縛ってから、足で小突いて起こします。

 

「起きてください」

 

「っう…、ここは…?はっ!サラ・ヒューイット‼︎」

 

「はい、あなた方のマスターが危険視しているサラ・ヒューイットです。と言っても残念ながら私をサラだとわかる人はいませんので、ここで暴れても無駄ですよ」

 

「私をどうしようと言うのです⁈」

 

私には敵わないとわかっていながらも、キッと睨みつけてきます。

 

「別にどうもしませんよ。私には私の目的があるので、あなたには逃げていただきます。ほら、この通り糸も解除しました。どうぞお逃げなさい」

 

「どういうつもりですか?」

 

「それをあなたに言うつもりはありません。あなたが知る必要もないことです。まぁ、いずれはそちらに向かいますので、『首を洗って待っとけ』とあなたのマスターに伝えてください。尤も、それはネギ君の仕事になるんですが…。では、ご機嫌よう」

 

そう言って影の転移魔法にズブズブと潜っていきます。

フェイトの相手は私ではなく、ネギ君でないとダメですからね。


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