ーサラ・ヒューイットー
魔獣の森で
柱の影から5人の人間がニョキッと出てきたので、驚いた周りの生徒達が飛び退きます。
「こんにちは、候補生学校の皆さん。セラス総長にお目見えしたいのですが、どちらにいらっしゃいますか?」
「ここにいるわよ」
声がした方を向くと頭に立派な角を生やした女性が立っていました。
「やっとお会いできました。こんにちは、総長。私の名前はサラ・ヒューイットと言います」
「初めまして、ヒューイットさん。大切な候補生達を守ってくれたことを感謝するわ」
「それについて余人を交えず、お話をさせていただきたいのですがよろしいですか?」
「彼女達の恩人がそう言うなら、私の部屋に案内しましょう。その当人達もいた方がいいのかしら?」
「そうですね、ユエ・ファランドールさんには、特に重要な話があるので来てもらったほうがいいです。コレット・ファランドールさんとエミリィ・セブンシープさん、ベアトリクス・モンローさんも同席されたいなら途中まではお話できますが、どうされます?」
総長の前にいたからか、私の背後で固まってた4人でしたが、同席するか尋ねると首を縦に振ります。
「ということなのでよろしくお願いします」
「わかりました。では私について来なさい」
という総長のあとに従い、学園長室へ入りました。
「まずは改めて、お礼を言わせてもらおうかしら。エミリィたちを助けてくれてありがとう」
「いえいえ、礼には及びません。私は夕映さんを捜していたんですから」
「それです!どうしてあなたが捜していたという夕映さんとやらと、こちらのユエさんが同一人物だと言えるのですか⁈」
魔獣の森でされた質問をここでもエミリィちゃんにされました。
これは少し事情を説明しないと納得しないでしょうね。
「まず、私には未来視という能力があって、夕映さんがここに飛ばされるのを知っていた、というのがありますが、これではセブンシープさんは納得されないでしょう」
エミリィちゃんが頷きかけたところで、さらに言います。
「なので次の物証がユエさんの持っている
「確かにカードには『綾瀬夕映』と書いてあるです」
「そのカードを彼女が使っていた、これ以上の証拠はないと思いますが。どうです、セブンシープさん?」
私の言葉にエミリィちゃんは黙り込んでしまいました。
「この件は機会があれば、また後日にでもお話しましょう。私は総長にお願いがあるんです」
「お願いとは何かしら?」
「この4人をオスティアの警備隊に出してほしいんですよ」
その言葉にセラス総長も訝しみます。
「それはどうしてかしら?」
「本来なら私が手出しせずとも、彼女たちだけで鷹竜に勝てたからです」
この言葉に夕映ちゃん以外の3人が驚きます。
「確かにその4人で鷹竜を倒していたなら、特例を認めたでしょう。ですがそれをどうやって証明するのかしら?」
「失礼します、少しお耳を…」
そう言ってセラス総長に近付き、周りに聞こえないよう小声で原作で夕映ちゃんが立てた作戦を説明します。
「ということなんですが、次に夕映さん。あなたは私が現れる前に鷹竜を『倒す』と言いましたね?あの時立てた作戦を皆さんに説明してください」
「はい。まずはコレットとベアトリクスに囮をお願いするです。森の中に見えた岩場まで迂回しつつ鷹竜を誘導してもらい、私と委員長はそちらに先回りします。委員長には森の上から『
「驚いたわ。ヒューイットさんが言った通りの作戦ね」
総長の言葉に今度は夕映ちゃんも一緒に驚きました。
まぁ、誰にも話してない作戦を当てられてたら、驚くのも当然でしょう。
「念話とかでカンニングなんてしてませんよ。さすがにそれを証明するのは難しいですが…。少なくとも、夕映ちゃんに作戦を説明する時間はありませんでしたが、これを実践すれば鷹竜に近付いた夕映さんが確実に傷付くのがわかっていたので、私が介入した次第です。何か質問はありますか?」
「…いいでしょう、特例で彼女たち4人の警備隊参加を認めましょう」
その言葉に喜色一杯の表情を浮かべる4人でしたが、
「ただし、エミリィとベアトリクスは危険な森に入ったので、ペナルティを課します。いいですね?」
と総長に言われてしまいました。
まぁ、これくらいは仕方ないでしょう。
それでもオスティアに行けるんだから、行けないよりはまだマシでしょう。
「総長の恩情に感謝します」
「話はこれでおしまいかしら?」
「とりあえず、コレット・ファランドールさんとセブンシープさん、モンローさんにお話できる内容は終わりです。ここから先は3人には聞かせられない話なので、退室願いたいのですが」
「私達に言えない話とは何ですか⁈」
エミリィちゃん、聞かせられないといったことを話すわけがないでしょう。
「セラス総長、よろしいですか?」
「ええ。エミリィ、ここは退室なさい」
「しかし…」
「夕映さんには話されるのですから、彼女から聞きなさい。ここから先はあなた達に聞かせてもいいのか、彼女の判断が求められる話ということですよ」
「…わかりました。失礼します」
そう言って3人は部屋を出ていきました。
「すみません、セラス総長」
「いいのです。聞かせられないと言われた話を、無理に聞こうとした彼女に非がありますから。それで彼女達を追い出してする話とは?」
「そうですね、どこから話をするべきか…。まず私も夕映さんもこの世界…
「旧世界ということは…」
「セラス総長の予想通りゲートを通ってきました。その時にあの事件に巻き込まれまして。もともと私達はある人物の情報を探しにこちらへ来たんです」
「その人物というのは?」
「ナギ・スプリングフィールドさんです」
「それは『
「そのナギさんですね。私達のグループのリーダーがそのご子息、ネギ・スプリングフィールド君なんですよ」
「なんですって⁈」
あれ?
セラス総長もネギ君の存在を知らなかったのかな?
まぁ、それは今は関係ありませんね。
「ナギさんと誰の息子かは言うことができません。ラカンさんと約束がありますから」
「あのジャック・ラカン氏のことも知っているのね?」
「そこそこ知っているという自負はありますが、今は置いておきます。因みに夕映さんの仮契約の相手はネギ君ですよ。名前が書いてあるはずですから」
おいてけぼりだった夕映ちゃんに話を振ると、慌ててカードの裏を確認しました。
「確かにヒューイットさんの言った通り、ネギ・スプリングフィールドの従者と書いてあるです」
「そのネギ君のグループ…対外的に『
「そういうことだったの…。確かにエミリィ達には聞かせられない話ね」
「さらに言えば、テロ容疑の手配書に載っている赤毛の少年がネギ君です」
「あなたはテロに巻き込まれたと言わなかったかしら?」
テロに巻き込まれたといったのに、手配書に写真が載ってるとなれば怪しむのは当然ですね。
夕映ちゃんもわけがわからないといった感じです。
「ですから、あのテロの真犯人は別にいるんですよ。その一味によって犯人に仕立てられたんです。私だってこんな容姿をしてますが、本来は…」
そう言って人化の術で人だった時の姿になります。
「こういう姿でしたし、夕映さんもその手配書に載ってますよ」
私の言葉に、セラス総長が手配書を確認します。
「本当ね。名前は載ってないけど、あなたと夕映さんの写真があるわ。それにこの少年にはナギさんの面影があるわ。でも、なぜあなた達はお尋ね者になったのかしら?」
さて、どうしたものでしょうか?
正直に話してもいいんですが、それで夕映ちゃんのオスティア行きがなくなるのも困りますし。
かと言って下手なごまかしは通じないでしょうし。
人化の術を解きながら考えますが、正直に言いましょう。
最悪、夕映ちゃんを攫ってしまえばいいですかね。
「ここから先を聞くと後戻りできませんがよろしいですか?」
「いいでしょう、ここまで聞いたのに後には引けません」
「その前に、ここから先は夕映さんもまだ知るわけにはいかないので、席を外してください」
「私もですか⁈」
「いずれ知ることではありますが、それは今ではありません。知識欲旺盛な夕映さんですから気になるでしょうが、オスティアまで待ってください」
じっと睨み合ってましたが、私が何も言わないと悟ったのでしょう。
夕映ちゃんは諦めてくれました。
「わかったです。まだ聞きたいことがあるですが、オスティアでわかるなら、それまで待つです」
「どうもすみません。それと今までの話も他言無用でお願いします」
「わかりました、では総長。失礼するです」
そう言って夕映ちゃんも部屋を退室しました。
「それで、ゲートポートのテロリストは誰だったのかしら?」
「わかりやすく言いますと、『
「っな⁈『完全なる世界』は10年前に『紅き翼』によって瓦解したはずよ!」
「確かにセラス総長のおっしゃる通り、『完全なる世界』はほぼ壊滅まで追い込まれました。その後も『紅き翼』メンバーのタカミチ・T・高畑先生が虱潰しをされてたみたいですが、残党がいてまた暗躍を始めたわけです。残党の作戦に巻き込まれて私達はバラバラにされた上、指名手配までされてしまったということなんですが…」
「その残党達は何を企んでいるのかしら?」
「20年前の再来です」
私の言葉に声を失うセラス総長。
実際に20年前の戦いを知っているから、絶句しているんでしょう。
「ただし、今回もギリギリのところで世界は救われます。そのキーパーソンがネギ君です。嘗て世界を救った英雄の息子が、また世界の危機を救うんです」
「その方法を聞いてもいいかしら?」
「これについてはセラス総長にもお話できません。セラス総長を疑うつもりはありませんが、どこから情報が漏れて私の視た未来から、この先が乖離していくかわかりませんから。ここまで話したのも、なるべく私の未来視に近い形になるよう、協力してほしいからなんです」
「そのためにあの4人をオスティアに派遣してほしいのね?」
「はい。彼女達、特にネギ君の従者の夕映さんはキーパーソンの1人ですからね」
と言いますか、私以外は誰も欠けるわけにはいきません。
「危険な所とわかっていながら、送り出さないといけないのは悔しいけど、それをしないとより危険になる可能性もあるのね?」
「教育者として辛い判断を求めているのはわかっているのですが、今の所これが最善な方法ですので」
しばらく目を閉じて、考え込んでいたセラス総長でしたが、やがて意を決したように
「いいでしょう、彼女達の派遣を許可します。ただし、全員を無事に帰すと約束してちょうだい」
「ありがとうございます。ことが私の視た通りに終われば、全員無事に帰ってくることができるので、約束します」
「他にも何かあるかしら?」
「いえ、これでおしまいです。私はすぐオスティアに向かうので、これで失礼します」
「わかりました。あなたの視た未来に繋がるよう祈っているわ」
「それでは、話を聞いていただきありがとうございました」
そう言って一礼し、私も部屋を退室しました。
これでアリアドネーでの用事も終わりですね。
宿についてもすでに引き払っているので、オスティアに向かうため影の転移魔法を展開し、ズブズブと潜っていきました。