ありがとうございます。
ということでいつも通り早めの更新をします。
ーサラ・ヒューイットー
どうしてこうなったのでしょうか?
私はたくさんのフラッシュを浴びせられてます。
一応鎧兜を纏ってはいるんですが、隙間からバシャバシャ目に入ってくる光が、眩しくてたまりません。
私の隣には高そうなスーツを着たおじさんが、私の手をしっかり握ってます。
私は爪で傷つけてしまわないように、神経を使ってます。
そして2人仲良くカメラに顔を向けていると。
私はブロントポリスの賞金首を捕まえただけのつもりだったんですが…。
昨日、この街の衛兵隊隊長である熊のギュンターさんに指示された通り、午前9時少し前に行政庁舎へとやってきました。
庁舎には、すでにギュンター隊長も来ていて、私に手招きをしています。
「おはようございます、隊長さん」
「おう、わざわざすまんな」
「いえ、庁舎に私を呼び出したということは、お偉いさんの話し合いは終わったんですか?」
「ああ。一昨日報告書を上げてから、すぐに上はバッカス武防具店がある主要都市に連絡をとってな。昨日のうちに各都市で一斉捜査が行われたんだが…、黒も黒。真っ黒だったわけだ」
溜息を吐きながら隊長さんは話します。
私は魔法世界に来たばかりなのでよく知らないんですが、バッカス武防具店はこちらではそこそこ名の知れた店だったみたいです。
それだけに衝撃も大きかったのでしょうね。
私にはそんなつもりはなかったんですが、隊長さんにも苦労をかけてしまったんでしょう。
ですが、業界の膿を出せたんですから、結果的には良かったのではないでしょうか。
「それは…、これから大変でしょうね」
「まぁな。この街だけで済んだなら問題なかったんだが、この問題は世界中に飛び火しちまってなぁ」
「頑張ってください」
「おいおい、まるで関係ないと思ってるかもしれんが、嬢ちゃんにも関わる話なんだぞ」
「え?私はヨミアエルの序でにイートン氏を捕まえましたが、それだけですよ。ここに呼ばれたのだって、ちょっと表彰されて終わりとかじゃないんですか?」
隊長さんは、全くこいつは…と言わんばかりの顔を私に向けます。
「あのな、世界中で悪事を働いていたバッカスを捕まえたのは誰だ?嬢ちゃんだろ?マスメディアなんかは当然、今回の殊勲者が誰か探すだろう。その時にこちらでは把握してません、ってわけにはいかないんだよ」
「つまりどうするんですか?」
「この後の表彰式にメディアが入る。その中で嬢ちゃんの紹介なんかもされるだろうな。世界デビューだぞ」
いやいやいや、それはめっちゃ困るんですけど!
「
洒落になりませんって。
世界デビューなんて回避したいんですが…、多分無理なんでしょう。
ならば顔の露出を避けるほうでいきましょう。
賞金稼ぎとして顔がバレるのは避けたいなんて言えば向こうも考慮してくれるでしょう。
「あまりうれしくはないんですが、今更断ることはできないんでしょう?せめて顔の露出は勘弁してほしいんですが…。今後の賞金稼ぎの仕事に支障が出るので」
「断るのは無理だろうな。だが顔を伏せることはできるだろう。自前の鎧兜があっただろう?あれ着ておけば大丈夫だよ」
「了解です。まさかこんなことになるなんて…」
「ハッハッハ。いつもいつもこっちが驚かされてばかりだったんだ。たまには嬢ちゃんにも驚いてもらわんとな。さて、そろそろ打ち合わせの時間だからついてきてくれ。もう鎧兜を着用してていいぞ」
そう言われたので「
「相変わらず便利だよなぁ、その能力。それ、俺でもできるようにならないのか?」
これの本質は「闇き夜の型」ではなく、攻撃魔法をその魂に融合させて莫大な攻撃力を得る、術式兵装にあるんですけどね。
少なくとも普通の人には、そんな狂気の技は使えません。
なので
「これは私の種族の固有スキルですから、 隊長さんにはできないですよ」
「そうか、それは仕方ねぇな。ああ、この部屋だ」
隊長さんがとある部屋の前に立ち止まり、ノックして部屋に入って行きました。
扉には「ブロントポリス行政庁長官」という文字が見えたんですが…、気のせいですよね?
「長官、こちらが今回イートン・バッカス逮捕の貢献者、ジェーン・ドゥ嬢です。ジェーン嬢、こちらはブロントポリスのNo.1、ツァニス・ペルサキス長官だ」
「おはよう、ジェーン嬢。私がこの行政庁のトップを務めさせてもらっているツァニスだ」
褐色の肌に長耳のおじさんが椅子から立ち上がりました。
ヘラス帝国のテオドラ皇女と同じ種族なんでしょうか?
この人がツァニスさんなんでしょうね、手を出してきたのでそれを握り、
「おはようございます。私が賞金稼ぎを生業としているジェーン・ドゥです。この度は表彰していただけるとか」
「その通り。君の功績は表彰するに値することだったからな。ところで、その兜を外してはもらえんかね?功労者の素顔を見せてほしいんだが」
「すみません、このあとメディアの前に出ると聞いて。今からすでに緊張と恥ずかしさで、顔をお見せできません」
真っ赤な嘘ですけど。
あまり私の顔を見られたくないのは事実なので、こういう苦しい嘘を吐かせてもらいました。
ギュンター隊長も不思議そうな顔で私を見ています。
「そうなのか。まぁ、こちらの都合で呼び出したのだ。無理にお願いするわけにはいかんな」
「申し訳ありません」
「なに、気にすることはない。私だけでなく各都市の行政長は君に感謝しているのだ。まさか自分たちの施政地で闇取引が、それも世界的企業のオーナーによって行われていたとは、誰も思わなかっただろうからな。それを白日の下に晒してくれたんだ。顔を出さないくらいは問題ないだろう」
「ありがとうございます」
「このあと会見室で私がメディアに対して説明を行い、その後君を紹介するので部屋に入ってもらい握手をして終わりだ。簡単だろう?」
「それでいいんですか?」
「ん?それでいいのかとは…、もっと何かしたいのかな?」
「いえ、何かしたいじゃないんですが。質疑応答の時間はあるものと覚悟していたので」
「詳細は報告書でも上がっているから、その範囲でこちらが質疑応答にも対応するつもりだ」
「そうですか。記者会見なんて人生で初めてなので緊張します」
「何を言うんだ?イートンの手下40人以上を君1人で氷漬けにしたんだろう?それに比べれば楽だろう」
いえ、非合法組織に対して無双していた方が遥かに楽です。
「長官、そろそろお時間です」
秘書と思われる人が声をかけてきました。
「そうか、では会見室に向かうとしようか。その前に、ギュンター隊長。例の物を彼女に」
「はい。嬢ちゃん、これは今回の件の謝礼金だ」
そう言って、隊長さんが小切手を渡してくれました。
金額を見ると、一、十、百、…200万ドラクマと書かれてました。
「これ何かの間違いじゃないですか?私には200万ドラクマと見えるんですが…」
「何も間違いじゃあない。そこに書いてある通りだ」
「後で渡す書状にも書いてあることだが、各都市の長と話し合った結果、それだけの金額を謝礼として渡すのが適当であると判断されたのだよ」
まぁ、くれるというならもらいましょう。
小切手を影の袋に収めながら、
「そういうことでしたら、ありがたくいただきます」
「おう、貰っとけ貰っとけ。それでは長官、私は詰所に戻りますので」
「ああ、ギュンター隊長。助かったよ」
「じゃあな、嬢ちゃん。会見頑張れよ」
「ありがとうございました、隊長さん」
ギュンター隊長が長官執務室から出ていき、私も長官と一緒に会見室前に行きました。
ツァニス長官が先に会見室に入って、イートン・バッカス逮捕までの一連の流れを説明していきます。
そして、
「彼女が今回の事件解決の功労者、ジェーン・ドゥ嬢です」
名前を呼ばれたので私も入室し、長官と握手をしました。
当初、入室した私が鎧兜だったからか、メディアの人たちも騒ついていましたが、
「失礼。彼女は賞金稼ぎを生業としているから、素顔の公開は遠慮させてもらう」
と、長官が説明した途端、カメラのフラッシュがバシャバシャ焚かれます。
ビデオも回っているのか、リポーターの説明する声が何やら聞こえています。
「これが先ほど説明した感謝状だ。この中に事件の一連のあらましとそれに対する謝意、目録が記載されている。今回はよくやってくれた。ありがとう」
長官の言葉に一礼で応え、会見室から退室しました。
これで行政庁舎での用事も終わりです。
会見室前に控えていた秘書さんに一言断ってから、庁舎を後にしました。
もちろん庁舎を出る前に「闇き夜の型」は解除します。
黒の鎧兜は目立ちますからね。
長官からもらった小切手を、昨日と同じように銀行で換金しました。
これで所持金が247.8万ドラクマとなります。
100万ドラクマは亜子ちゃん、大河内さん、夏美ちゃんを解放するのに使うにしても、まだ147.8万ドラクマあります。
何を買おうか夢が膨らみますね。
杖はほしいし、魔法発動体も気になりますし。
魔法球も見てみましょうか。
第1目標は達成できたので、次は人化の変装術を学びにアリアドネーに行きましょう。
その前にギュンターさんに挨拶していこうと思い、詰所を訪ねると、
「よう、有名人!」
いきなりご本人に声をかけられました。
「何ですか?有名人なんて」
「まだテレビ見てねぇのか?嬢ちゃんの鎧姿がバッチリ映ってるぜ」
隊長さんが指差してニヤニヤしてる画面を見ると、ツァニスさんと握手してる姿が映され、イートン氏の悪事について解説がされてました。
「鎧姿で街中は歩けないですね」
私は苦笑いするしかありません。
「まぁ、暴れすぎなけりゃ大丈夫だろ。人の噂も75日さ。今日はどうかしたか?」
「この街での用事が済んだので、隊長さんに挨拶しておこうかと思って」
「なんだ、嬢ちゃん。律儀じゃねーか。この街に来てまだ4日だろ、もう行っちまうのか?」
「はい。他の街へ賞金首を捜しに行くので」
私の言葉に今度は隊長さんが苦笑いを浮かべます。
「この街で217万ドラクマ稼いだくせに、まだ働くのかよ。生き急いでんのか?」
「別に生き急いでるわけじゃないですよ。お金はあり過ぎて困るものではないですからね」
「確かに、嬢ちゃんほどの腕の持ち主なら問題ないだろうな」
「それではお世話になりました」
「ああ、大丈夫だとは思うが一応気をつけろよ」
ギュンターさんの返事にお辞儀で応え詰所を後にしました。
次の目的地アリアドネーまで、いつも通り影の