ーサラ・ヒューイットー
15万ドラクマの賞金首ヨミアエルと非合法武器商人イートン・バッカスを捕まえて、これまた非合法的に奴隷にさせられたジェシカ・ブレナンさんを連れて、ブロントポリスの詰所までやってきました。
午前中にも南の街道の盗賊団を捕まえて詰所にやって来たのに、夕刻になって奴隷の首輪を付けた女性を連れてやって来た私に、熊のギュンター隊長も呆れ顔です。
「おいおい、ジェーンさんよ。今度は何があったんだい?」
「どうも、数時間振りですね。隊長さん。とりあえず順に説明するので、まずはこれを見てください」
そう言って、影の袋からヨミアエルの氷柱を取り出しました。
ジェシカさんは氷柱が出てきたことに、隊長さんは氷柱の中身に驚いたみたいです。
「スゴいですね、ジェーンさん!」
「こいつは15万ドラクマの賞金首じゃねぇか…。今朝も小物とはいえ盗賊を捕まえたばかりだというのに、嬢ちゃん働きすぎだぜ」
「昨日酒場で聞き込みをやったら、盗賊とヨミアエルの噂を聞くことができたんですよ。ヨミアエルの方は噂の真偽を確認できなかったんで、午前中は確実にいる盗賊を捕まえに行き、午後はヨミアエルの目撃情報が出た街の東側に行ってきました。その近辺の酒場で聞き込みを行おうとしたんですが…」
「そこでヨミアエルを見つけたのか?」
隊長さんが尋ねてきますが、私は首を横に振り
「いいえ、そこにはある大物の手下たちがいたんです。ヨミアエル自身はその大物の護衛で街に来ていたんですが、私はその手下に連れ出され、近くの廃工場でその人たちと戦ってきました。手下がヨミアエルと関係がありそうなことを言っていたので、それを尋ねようとしたらヨミアエル本人が現れたので、捕まえた次第です」
「なぁ、嬢ちゃん。ヨミアエルを護衛にしたっていう大物とは誰なんだ?」
「この人です」
そう言って私はもう一つの、イートンの氷柱を袋から取り出しました。
「こいつは…、バッカス武防具店の経営者、イートン・バッカスじゃねぇか⁈ヨミアエルはこいつの護衛をしてたっていうのか?」
「はい。イートン氏は、表では武具、防具を扱う店を経営してる方だそうですが、裏では違法なマジックアイテムや呪われた武具や防具を扱う非合法商人だったみたいですよ。これが証拠の裏帳簿です」
私はイートンの金庫を開けて奪った帳簿を、隊長さんに渡しました。
ギュンター隊長は帳簿をパラパラめくりながら、
「確かにここに書かれている商品は、違法なものばかりだ。まさかこれ以上何かあるとは言わねぇよな?これ以上は俺だけで処理できる案件じゃねーぞ?」
「そうですね…。まずはこちらのお姉さんですが、違法な奴隷商によってイートン氏に売られてしまったそうです。捜索願が出されているはずなので、確認をお願いします」
「わかった。おい!こちらの…、失礼。お名前を伺ってもいいかな?」
「ジェシカ・ブレナンです」
「ブレナンさんの事情聴取を行え!」
隊長さんの指示で、若い女性の衛兵さんがジェシカさんを別室へ連れて行きました。
私はジェシカさんに手を振って見送ります。
ジェシカさんも手を振って部屋を出て行きました。
「他にもあるか?」
「さっき言ったイートン氏の手下たちは、街の東側の廃工場とバッカス武防具店の2階で氷漬けにしてあるので、連行してください。それとバッカス武防具店の3階に大きい金庫があるんですが、それは呪いを漏らさないための術が施されてると思うので、専門家に開けてもらったほうがいいと思います」
「なるほど。嬢ちゃんの言うように指示を出そう」
「手下が言ってたことなんですが、世界中に拠点があるそうなので、ここ以外にもマジックアイテムが見つかるかもしれません。私からは以上です」
「それは上が処理することだから、俺にはどうしようもないことだなぁ。だが嬢ちゃん、こいつは大手柄だぞ。ひょっとしたら、行政の方から何かしらの表彰も出るかもしれん」
「え⁈そんな大事なんですか?」
私の一言に、隊長さんがまた呆れ顔を浮かべます。
「嬢ちゃんなぁ、世界規模で経営してる会社のオーナーの不正を暴いたんだぞ…。それくらいは当然だろう。嬢ちゃんどっか行く予定あるか?」
「そうですねぇ、ここで噂になってた賞金首は捕まえたんで、賞金をもらったらケフィッススに向かおうと思ってるんですが…」
「悪いがそいつは延期だ。今日中に報告はするが、会議は明日になっちまうだろうからな。早ければ明後日に表彰されるとは思うが、こればかりは上がどう判断するかに左右されるからなぁ。すまんがしばらく街にいてくれ。もちろん、こちらの都合で街にとどまってもらうんだ、宿泊費は出すぞ」
今は4日目の夕方。
確か明後日には「
でも、すでに結構な人に顔を見られてるんですよね。
それを考えたら今更ですか。
何かあれば逃げの一手でいきましょう。
「わかりました。とりあえず昨日と同じ、詰所の近くの宿に泊まるので、何かあったらそちらに連絡してください。それからヨミアエルの賞金を明日もらいに行きたいので、書状を頂けますか?」
「あぁ、そういえばそうだったな。ちょっと待てよ…、ほれ」
ギュンター隊長から、ヨミアエルの賞金と交換する書状を
「明日は街をぶらついても大丈夫ですよね?」
「まぁ、明日すぐに呼び出すなんてことはないだろうな。明後日以降は、連絡を取りやすい状態でいてくれればいい」
「わかりました。ではこれで失礼します」
そう言ってお辞儀をして、詰所を後にしました。
翌日は最初に銀行に行って、盗賊とヨミアエルの賞金を受け取りに行きました。
昨日隊長さんからもらった書状を銀行員さんに渡します。
これで集まった金額は47万ドラクマになりました。
あと53万ドラクマですか…。
この調子で大物が捕まれば楽なんですけどねぇ。
屋台を冷やかしながら、街を歩き回ります。
焼鳥みたいに串を刺した肉を売る屋台、布地を売る屋台、果物を売る屋台などいろんなものがあります。
果物屋で見た目が柑橘系の果物を買って、食べながら詰所へと訪れました。
「なんだぁ?まだ上からは何の連絡も来てないぞ」
ギュンター隊長が書類の束を抱えながら、話しかけてきました。
熊のおじさんが書類を抱えてる姿は、なんか変な感じです。
「いえ、ジェシカさんはどうされたのかが気になったんですよ」
「ああ、昨日嬢ちゃんが連れてきた娘さんな。確かに捜索願が出ていたよ。ちょっと遠くから連れてこられたみたいだから、護衛をつけて家に帰してやるところだ。お、噂をすればなんとやら。ブレナンさんが来たぞ」
「ジェーンさん!」
そう言って手を振りながら駆け寄ってくるジェシカさん。
「よかったですね、お家に帰れるみたいですよ」
「それもジェーンさんのおかげですよ。本当にありがとうございました」
「気にすることないですよ、私が満足したいがためにやったことなんですから。さぁ、早くお家に帰って家族を安心させてください」
「はい!本当に感謝してもしたりません」
「気をつけて帰ってくださいね」
「ありがとうございました!」
そう言ってお辞儀をしたジェシカさんは、昨日の女性衛兵とともに詰所を出て行きました。
「なんだ、嬢ちゃんはあんな感謝のされ方に慣れてねぇのか?」
「そうですね。あそこまで明け透けに気持ちを伝えられることは、あまりなかったんで。ちょっとこそばゆい感じです」
そもそも私がやってきたことといえば、裏方ばかりで、暗躍してるような感じしかないんですよね。
だからあんな純粋に感謝されたことがないというか…。
悪い気はしませんが、居心地が悪いというのが正直なところでしょうか。
「これからどうすんだ?詰所にいたってつまらんだけだぞ」
「特にやることないんで宿に戻ります。でもその前に、イートン氏の手下とか違法なマジックアイテムはどうなりました?」
「手下たちは全員捕まったよ。あれ全部嬢ちゃんが捕まえたんだろ?ヨミアエルも同じように氷柱に入れてたんだから」
「まぁ、そうなりますね」
「いやぁ、ホントにすげぇよ。あっちこっちに氷柱が立ってんだもんな。そういやトカゲ族の男が解放された時なんか泣きじゃくってたが…。嬢ちゃんなんかしたか?」
「情報を吐かないと氷漬けにして、地中に埋めると脅しました」
にっこり笑顔で答えたんですが、
「可愛い顔して言うこと怖えな…」
なんて引き攣った顔で返されました。
「ですがその人が言うには、賞金稼ぎが3人地中に埋められてるらしいですからね。それも捜したほうがいいと思いますよ」
私は地中に埋めなかっただけマシじゃないですか?
「なるほどな、あのトカゲを問い詰めるとしよう」
「マジックアイテムはどうでした?」
「あの大きな金庫だろ?確かに魔法陣が描かれていたよ。専門家を呼んで開けてもらったら、色々やばそうなものが出てきたから、封印処置を施してもらった。これで大丈夫だろう」
「そうですか。じゃあ、後は隊長さんの上の方々が動くのを待つしかありませんね。私はこれで失礼します」
特に用事もなかったので、宿に戻ってゆっくりしてたら、ギュンター隊長から
「明日、午前9時に行政庁舎まで来てほしい」
との旨があったと、フロントから連絡がきました。
昨日の今日で、本当に話を詰めたんでしょうか?
隊長さん曰く、世界中に展開してるチェーン店のオーナーの不祥事ってことですから、話し合いやら家宅捜査?みたいなことも
私としてはケフィッススに早く行けるなら、それでいいと思ってます。
どうせ偉い人の話し合いなんてわからないし、興味もありませんからね。