憑依生徒サラま!   作:怠惰なぼっち

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チートです。


第42話

ーサラ・ヒューイットー

 

アルボルへ向かう乗合車が急に止まったので、「闇き夜の型(アクトゥス・ノクティス・エレベアエ)」を発動させて客車を降りました。

街道の左手には岩場、右手には林が広がっており、待ち伏せするには最適な場所だったのでしょう。

岩や林の陰から弓や杖、剣、斧、槍など様々な武器を構えた男たちがぞろぞろ出てきました。

男たちは20〜40代と思われ、人間だけでなく、熊やトカゲ、犬、猫、色々な種族がそこにいました。

全員ニヤニヤと嫌らしい笑いを浮かべてます。

客車を引いてたオオトカゲは無事ですね。

御者のおじさんは肩を弓で射たれたみたいですが、命に別状はないみたいです。

ただ盗賊団に襲われて、さらに黒の鎧が現れたことに驚いてるみたいで

 

「だ…誰だ、あんた…?」

 

なんて聞かれてしまいました。

 

「私です。昨日の夕暮れから客車に乗せてもらった者ですよ」

 

「あぁ…、あの嬢ちゃんか…。そんな鎧を着てるところを見ると…、戦うつもりみたいだが…。あんただけでも逃げろ…。こいつらは最近噂になってた盗賊団だ…」

 

「知ってますよ。私はこの盗賊団を潰すために、街道を通ってたんですから」

 

「っな…⁉︎」

 

驚いて声にならないというおじさんを脇に抱えて、客車に一度戻ります。

盗賊団は、ゆっくりですがこちらに近付いてきてますね。

襲撃をかけてから、動いたのが私しかいないからか、ニヤニヤ笑いを浮かべながら近づいています。

が、油断をしてないところを見ると、場慣れしているのでしょう。

誰一人として突出してこないところからもしっかり統制されていることがわかります。

こちらの動きを見ながら包囲を狭めてきてますね。

客車におじさんを乗せる前に肩に刺さった矢を抜き取り、

 

「この人の手当てをお願いします。それと皆さん毛布を用意しておいてください」

 

と一言断ってから、おじさんを客車に押し込みます。

そして周囲を見渡せば、半径50mの円を描くように囲まれてしまいました。

私1人が逃げる分には余裕なんですが、客車を引いたオオトカゲは逃げられないでしょう。

そもそも私は逃げるつもりもありませんし。

 

「御者のおじさんを射ったのはあなたがたですか?」

 

とりあえず質問します。

いや、ここまで囲まれておいて犯人が他にいるとは思えないんですが、一応念のためですね。

 

「その声からすりゃ、若え女みてぇだな。弓を射ったのは確かに俺たちだが…。お前は別なことを心配しな。これから大変な目に遭うんだからよ」

 

この盗賊団のリーダーと思しき男の答えに、周りの盗賊たちもゲラゲラ笑ってますが…。

これから大変な目に遭うのはあなたがたですよ?

まぁ、それを言っても仕方ないでしょう。

なので、実際に体感してもらいます。

 

「わかりました。では皆さん、頑張ってくださいね」

 

私の言葉に何を言ってんだこいつ?と言わんばかりの顔を一瞬して、再びゲラゲラ笑う盗賊たち。

まぁ、あちらはパッと見30人超。

こちらは1人ですから、何もできないと思ってるんでしょう。

 

解放固定(エーミッタム・エト・スタグネット)千年氷華(アントス・パゲトゥ・キリオン・エトーン)

掌握(コンプレクシオー) 術式兵装(プロ・アルマティオーネ)氷の女王(クリュスタリネー・バシレイア)』」

 

ぶっつけ本番でしたがちゃんと発動してくれました。

言わずと知れたエヴァちゃんの術式兵装ですね。

周囲に意識を向けると、私の魔力が氷のフィールドを形成していき、盗賊たちの足下も凍りつき、半径100mほどのリンクが出来上がりました。

 

「な?なんだあいつ⁈お前ら殺っちまえ‼︎」

 

リーダーの一言で滑る足下を物ともせず、盗賊たちが殺到します。

弓や魔法を撃とうとする者もいますが、遅すぎですね。

 

凍てつく氷柩(ゲリドゥスカプルス)

 

これはかなり楽ですね。

氷のフィールド上は私の支配下とも言え、上級以下の呪文は無詠唱でいくつも唱えることができます。

その特性を活かして、盗賊たちを1人だけ残して、全員氷柱に封じ込めました。

氷のフィールドを解除して、残った1人にゆっくりと近付き、

 

「あなただけになりましたが、どうされます?私にかかってきますか?」

 

態と爪をカチャカチャ鳴らしながら尋ねます。

せっかくドラゴンのような爪が生えたんですから、有効に使わないとですよね。

私の鋭い爪と表情の見えない兜を見た盗賊最後の1人、鳥系の亜人は一目散に逃げて行きました。

まぁ、アジトを見つけるために逃がしたので、魔力を込めた糸を巻きつけてそのまま見送ります。

これで私の魔力が目印になるので、アジトもすぐ見つけられるでしょう。

それと乗合車の方は大丈夫でしょうか?

術式兵装を解除し客車の方に戻ります。

オオトカゲは急な寒さに驚いていましたが、今は氷もなくなって落ち着いてるみたいです。

乗客を驚かせないようノックをしてから、客車に乗り込みます。

 

「皆さん大丈夫ですか?」

 

「急に寒くなったんだが、何があったんだい?」

 

代表してアランさんが質問してきました。

 

「すみません、氷系の魔法を使ったもので。でも、もう大丈夫ですよ。盗賊はほとんど捕まえました。私はヘカテスの衛兵を呼んでくるので、少し待っててください」

 

「闇き夜の型」も解除し、ヘカテスの詰所まで影の転移魔法(ゲート)で移動します。

詰所には人と虎の衛兵がいたので、人の方を捕まえて有無を言わさず影の転移魔法で乗合車まで戻り、盗賊の襲撃があったこと、御者のおじさんが怪我していること、盗賊のほとんどを捕まえていることを伝えると、状況をやっと理解した衛兵さんは念話で応援を呼んでくれました。

 

「じゃあ、ここのことはお願いしますね」

 

「待ちなさい、君はどうするつもりだい?」

 

衛兵の、まだ若いお兄さんが尋ねてきますが、私がやることは決まってます。

 

「アジトを割り出すために1人逃がしたので追いかけます。ちゃんと目印をつけておいたので大丈夫ですよ」

 

「いや、こちらの応援を待ってから…」

 

「応援を待ってたら、逃げられてしまいますよ?ここにいる30人近くも私だけで捕まえたので問題ありません。では私は行ってきますので」

 

そう言って「闇き夜の型」を発動し、影の転移魔法を衛兵の制止も無視して展開。

目印の近くまで一気に近付きました。

目標は山の麓にできた洞窟の中にいるみたいですね。

中に入って襲撃を受けるというのも勘弁なので、もう一度向こうから出向いてもらいましょう。

 

「リインカーネイション

契約に従い 我に従え

氷の女王 疾く来たれ

静謐なる 千年氷原王国

咲き誇れ 終焉の白薔薇

固定 『千年氷華』

掌握 術式兵装 『氷の女王』」

 

再度術式兵装を装備し氷のフィールドを展開。

洞窟の中に私の魔力でできた氷を送り込みます。

しばらくすると氷で滑りながらも盗賊の残党が出てきました。

やっぱりアジトに人を残してたみたいで、私が目印をつけた鳥人の他に2人人間が出てきました。

 

「凍てつく氷柩」

 

3人を氷柱に封じ込め、洞窟の中に入ります。

罠とか仕掛けてあるかと思ったんですが、急に氷が洞窟に入ってきたせいで、とにかく逃げ出すことを考えてたんでしょう。

特に何が起こることもなく、洞窟の奥にたどり着くことができました。

捕らえた人を閉じ込めておくための牢屋もありましたが、中には誰もいませんね。

他の部屋には旅人から奪ったお金や装飾品、武器、防具などが無造作に置いてありました。

これは手をつけないほうがいいのかもしれませんね。

魔力を込めた氷で部屋ごと封鎖し、誰も入れないようにしてから、術式兵装を解除して洞窟から出てきました。

洞窟に入る前に捕まえた3人を氷柱ごと浮かべて、浮遊術で乗合車まで戻ります。

私が戻るとすでに応援の衛兵が駆けつけていたのはいいんですが、盗賊を捕まえてきた私にまで剣の鋒を向けるのはやめてほしいです。

最初に連れてきた衛兵のお兄さんとアランさんのとりなしで事なきを得ました。

 

それからは乗合車の乗客や御者のおじさんに握手されたり、抱きつかれたり大変でした。

おじさんの怪我は駆けつけた衛兵に治してもらったみたいで、被害がほとんどなかったことをとても感謝されました。

盗賊の被害はここ最近で増えてきたらしく、乗合車を経営している会社も盗賊騒ぎが収まるまでは、運行中止を検討している最中に今回の件でしたからね。

会社としても運行中止で損害が出ずに済むということなんでしょう。

アリシアちゃんはずっと私に引っ付いたままです。

まだ鎧姿のままなので触り心地は悪いはずなんですが、一向に離れようとしてくれません。

 

「アリシアちゃん、鎧が当たって痛いでしょ?ちょっと離れない?」

 

「いや!お姉ちゃんから離れない!」

 

ずっとこんな感じなので仕方なく倒木を椅子にして、膝の上にアリシアちゃんを乗せて、衛兵さんたちの仕事を眺めています。

私が作った氷柱に楔を打ち込み、ロープで繋いでいきます。

あのまま引っ張って帰るんでしょうね。なんだったら氷の道でも作ってあげるべきでしょうか?

そんなことを考えてると横から声をかけられました。

 

「君があの盗賊団を壊滅させたジェーン・ドゥさんかな?」

 

声がした方を見ると虎の衛兵さんが立っていました。

っていうかこの人、若い衛兵拉致った時一緒にいた衛兵さんですね。

 

「はい、私がジェーン・ドゥですけど」

 

「その兜を取ってもらってもいいかな?」

 

そう言われたので兜を外します。

 

「君はさっき、ウチの若いのを影の転移魔法で連れ去っていった女の子だよね?」

 

「アリシアちゃん、ちょっとこのおじさんと大事な話があるから、お母さんのところに戻ってもらっていいかな?」

 

「ごめんな嬢ちゃん。おじさんこのお姉ちゃんに大事な話があるんだ」

 

そう言ってにっこり笑う虎さんですがちょっと怖いですよ。

アリシアちゃんもすぐお母さんのところに逃げてしまいました。

 

「えーっと、連れ出した件は謝ります。ですが、あの客車の乗客や御者のおじさんの安全を、早く確保しなければならなかったのと、残党狩りもありましたから。あの盗賊が溜め込んだ金品なども、そのままにしてありますがどうされますか?」

 

「いや、それは緊急事態だったんだ。少々強引ではあったがそれも目を瞑ろう。金品などについては後で部下に引き取らせに向かわせるから場所を教えてくれればいい。それも大事なんだが、懸賞金の話だよ。あの御者に聞いたところによると、君は賞金稼ぎとしてあの盗賊団を捕まえに来たんだろう?」

 

「あぁ、その話ですね。確かに賞金首を捕まえに来たんですが…。あの盗賊団に賞金かかってるんですか?」

 

「盗賊団自体に20万ドラクマの懸賞金がかかっており、最近盗賊団に入ったとみられるやつらも数人が賞金首だったんだよ。手配書持ってるか?」

 

そう言われたのでグラニクスでもらった手配書を出して、虎さんに渡しました。

 

「えーっと、こいつとこいつ。それとこいつもだな」

 

そう言って手配書の束から、今回捕まった3名の手配書を取り出して並べていきます。

残りの束は返してもらいました。

3人の懸賞金は20,000、30,000、50,000ドラクマだったので、盗賊団のも合わせて30万ドラクマが手に入るんでしょうか?

 

「合わせて30万ドラクマだな。どうする?すぐいるなら一筆いれるが」

 

え?一筆いれるなんて、この虎さんは偉い人なんでしょうか?

 

「あぁ、自己紹介が遅れたな。俺の名はウィリアム・バスク。ヘカテスの衛兵隊の隊長をやっている。盗賊と賞金首の確認もできたから、俺の署名が入った用紙をヘカテスの銀行に持って行きゃ、すぐに賞金を貰えるが?」

 

「今回が初仕事で、最近賞金稼ぎを始めたジェーン・ドゥです。貰えるなら早いうちにもらって、次の賞金首を捜したいとは思ってますが」

 

「今回が初仕事なのにこんだけ稼いだのか。嬢ちゃん凄腕のハンターになれるぜ」

 

そう言いながら、用紙にサラサラと何かを記入していくウィリアムさん。

 

「ほれ、これを銀行で渡せばOKだ。今回は助かったぜ。ありがとよ」

 

「いえいえ、こちらこそありがとうございました」

 

お辞儀をすると、ウィリアムさんは作業をしている衛兵さんたちのところに戻って行きました。

あとはあの家族と御者のおじさんに挨拶してヘカテスに行きましょう。

 

「嬢ちゃん本当に強かったんだなぁ。ちょっと寒気がしたかと思ったら、すぐに終わっちまうんだもんな。しかも30人以上はいただろう盗賊たち全員を氷漬けにしてしまうんだからな。あの時嬢ちゃんを拾っておいてよかったぜ」

 

「いえいえ、私も賞金稼ぎを始めたばかりで初仕事がスムーズに終わってよかったですよ。昨日乗ったところからここまでの運賃を払おうと思うのですが、いくらですか」

 

「初仕事であんだけやれんなら将来安泰だな。っていうか命の恩人に金の請求なんてできねぇよ。どうせアルボルまで乗って行かねぇんだろ?だったら運賃もいらねぇよ。嬢ちゃん、今回はありがとな」

 

「どういたしまして。これからどうされるんですか?」

 

「あぁ、アルボルからも衛兵が来てくれるらしいから、その人たちに守られながら街道を進むさ。嬢ちゃんはどうすんだ?」

 

「私はヘカテスに一度戻って賞金をもらってまた別の地で稼ぐつもりです」

 

「そうか…。じゃあここでお別れだな」

 

「ええ、おじさんも気をつけて、お仕事頑張ってください」

 

「嬢ちゃんの方が賞金稼ぎなんて、危険なことを仕事にしてんだ。嬢ちゃんの方が気をつけな!だが元気でな」

 

おじさんは手を振って、オオトカゲの方に行ってしまいました。

 

「お姉ちゃんどこかに行っちゃうの?」

 

声がした方を向くとピーターズ親子がいて、アリシアちゃんは私にしがみついてきました。

そういえば「闇き夜の型」を解除してなかったですね。

「闇き夜の型」を解除すると服の方にアリシアちゃんがしがみついてきました。

 

「ごめんね、アリシアちゃん。お姉ちゃんはさっきの悪い奴らを退治するためにここに来てたんだよ。今度は他のところで困ってる人を助けに行かないとダメなんだ」

 

「ほら、アリシア。お姉ちゃん困ってるじゃない」

 

「ごめんよ、ジェーンさん。まさか娘がここまで君に懐くとは思わなかったよ」

 

「いえ、私もこれだけ慕ってもらえるのは、嬉しいですよ」

 

「さぁ、お姉ちゃんから離れるよ」

 

「嫌だ!私もお姉ちゃんと一緒に行く!」

 

さすがに小さい子を連れては歩けないですよ。

 

「アリシアちゃん、世界にはまだまだたくさん悪い人がいるんだよ。お姉ちゃんは悪い人から困ってる人を助けるために行かないといけない。アリシアちゃんがお姉ちゃんの服を離してくれないと、そういう人たちを助けに行けないよ。それでいいのかな?」

 

こう尋ねると首を横に振りながら服を掴む手を離してくれました。

アリシアちゃんを抱き締めてアランさんに渡しました。

 

「ごめんなさいね、ジェーンさん。最後まで面倒かけて」

 

「いえいえ、私もいい経験をさせていただきました」

 

「それだけじゃなく、僕たちも守ってくれたんだから、感謝してもしたりないよ」

 

「それも私の仕事だったんですから、気にされることはないですよ」

 

「もうヘカテスに行くのかい?」

 

「はい。(ばら)けた仲間も捜したいですし」

 

「そんなことも言ってたね。じゃあ友達捜しも頑張って」

 

「ありがとうございます。アリシアちゃんも元気でね」

 

アリシアちゃんは私の方を向かずに、手だけを振ってくれました。

私は苦笑しながらも、お辞儀をして影の転移魔法でヘカテスへと戻りました。




2回目の術式兵装を装填するときの
古典ギリシャ語がわかりませんでした。
勘弁してください。

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