憑依生徒サラま!   作:怠惰なぼっち

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第41話

ーサラ・ヒューイットー

 

グラニクスの酒場を出て、影の転移魔法(ゲート)でヘカテスに移動し、一応野宿をする場合に備えて4日分の堅焼きパンや干し肉、飲み水、毛布を購入しました。

それらを影の袋に収めて街道を南に進みます。

左手にはグラニクスまで流れる川、右手には山々が連なっていて、あの向こうにはケルベラス大樹林が広がっているのでしょう。

そしてネギ君、コタロー君、ちうっち、茶々丸さんがそれぞれ合流するために頑張っているはずです。

それにアルボルに通じるこの街道を通って、和美ちゃんとさよちゃんもヘカテスに向かうでしょう。

私にはみんながどこにいるかを知る術はありませんが、ひょっとしたら和美ちゃんたちとはすれ違うかもしれませんね。

まぁ、今は「闇き夜の型(アクトゥス・ノクティス・エレベアエ)」で鎧を着て、フルフェイスの兜も被っているため、私だとはわからないでしょうが。

 

なぜそんな格好をしているかといえば、単純に盗賊団を誘き出すためです。

この鎧、見た目はそれなりにいいものらしいので、これをエサにして街道を歩いていけば、あっちからやって来てくれるかと思って。

ただ、鎧兜を身につけたフル装備なのに武器を持たずに歩いてる姿は、傍目からすれば滑稽に映るかもしれませんね。

すれ違う人たちが私から少し距離を置く光景がさっきから続いてて、地味にショックを受けてます。

そんなジロジロ見ながら離れていく必要ないですよね?

「闇き夜の型」解除しようかなぁ。

そしたら、女の子の一人旅みたいになって狙われやすくなるでしょうか?

それならそれもいいかもしれませんね。

顔を見られるのは避けたいですが、角も生えた私を、すれ違う人はサラ・ヒューイットと認識しないでしょう。

そもそも、まだ私たちの手配書も出回ってませんし。

盗賊を潰すときだけ兜を着けて動けば鎧兜姿のジェーン・ドゥの方が目立って、サラ・ヒューイットの印象は余計霞むでしょう。

よし、その方向でいきましょう!

街道には街から離れてきただけあって、すれ違う人の数は減ってきてるんですが、まだまだヘカテスへ向かう人の数は多いですし、私のようにアルボルに向かう人もいます。

一旦街道から外れて休憩しつつ、旅人が流れるのを見送ります。

時間が経って、私への注目がなくなったのを見計らって「闇き夜の型」を解除し、街道に戻りました。

 

やっぱり鎧姿が目立っていたんですね。

今度は誰も私をジロジロ見たりしません。

あとは盗賊が襲いに来てくれるかどうかですが…。

こればかりはあちらの腕に期待するしかないですよね。

そもそも、私が襲いやすい物件に見えてるかどうかもわかりませんし。

もし襲撃がこないままアルボルまで着いてしまったらどうしましょうか?

その時は…、またヘカテスに歩いて逆戻りでもしますか。

そんな取り留めもないことを考えてるうちに日が暮れてきたので、歩くのも今日はここまでにしましょう。

私が暖をとるための薪を集めていると、街道を大きなトカゲに引かれた馬車?蜥蜴車が通りかかりました。

おそらくヘカテスとアルボルの間を繋ぐ乗合馬車みたいなものなんでしょう。

引かれてる幌がかかった客車には、老若男女種族を問わない色んな人が乗っていました。

御者をしてる犬族のおじさんが

 

「おい嬢ちゃん。あんたどこ行くんだい?」

 

と声をかけてきました。

 

「この街道沿いに進んでアルボルに行く予定です」

 

「この乗合車もアルボルへ向かうんだが、嬢ちゃんも乗って行かねぇか?もっとも今日は暗くなったから、こっちもこの辺で野宿なんだがよ。もちろんお金は払ってもらうが、途中から乗ってもらうからその分はちゃんと割引くぞ」

 

そうですねぇ、1人でトボトボ歩くよりはこういう乗合車の方が狙われやすいかもしれませんね。

顔を複数の人に見られてしまいますが、バレないことを願いましょう。

 

「わかりました。私も乗せてもらっていいですか?」

 

「いいぜ。だがさっきも言った通り、今日はここで野宿だ。一応女性は客車の中で寝られるんだが、どうする?」

 

「いえ、せっかくですので外で寝てみようと思います」

 

「そうか。まぁ、中で寝たくなったら勝手に寝てもらって構わないからな。そういや、随分軽装だが荷物や食い物は持って来てんのか?流石に飯は用意できないぞ」

 

「ちゃんと準備してますよ」

 

そう言って影の袋から堅焼きパンを取り出します。

 

「ほう、マジックアイテムの袋か。なかなかいいもの持ってるな。しかも影に収納できるのなんて、色んな旅人を見てきたが初めてだぜ」

 

「これは影の転移魔法を応用して作った、自作のものですよ。ひょっとしたら、同じことを実践してる人が他にもいるかもしれませんけど」

 

「なるほどなぁ。あぁ、薪の準備してるところを呼び止めて悪かったな。こっちでも火の準備はするから、そっち使わねぇか?」

 

あちらでは他の乗客さんがテキパキと火を起こして、その周りに倒木を置き簡易的な椅子とし、歓談していました。

私も火の近くに薪を置いて、椅子に座らせてもらいました。

私の隣には小さい女の子を連れた猫族の家族が座っていました。

いやぁ、子供は可愛いですよね。

まだ5〜6歳と言ったところでしょうか?

 

「お姉ちゃんはどこに行くの?」

 

「お姉ちゃんはねぇ、アルボルっていうあの山の向こうの街に行くんだよ」

 

そう言って進行方向に見える山を指差します。

もっとも、すでに暗くなっているので見えませんが。

 

「私たちもアルボルに行くんだよ!ねぇ、お父さん、お母さん!」

 

「ええ、今からアルボルの家まで帰るんです」

 

「ヘカテスとグラニクスに家族旅行に行ってね。ちょうど帰宅途中だったんだ。君はアルボルへ何をしに行くんだい?」

 

まさか盗賊退治ですなんて言って、この家族を不安にさせるのもなんだしなぁ。

 

「転移魔法の暴走で、世界に散った友達を探す旅に出たばかりなんですよ。まぁ、当てはないですが、他のみんなも逞しく頑張ってるはずなので、私も探そうとしているんです」

 

「そうか…。それは大変だったね」

 

「当てもないのにあちこち探して大丈夫なの?」

 

「幸い、あと1月半もすればオスティアで祭があるので、みんなそれに向かうと思いますよ」

 

「終戦記念祭だね。友達が見つかるよう祈っておくよ」

 

「ありがとうございます」

 

それからもたわいのない話を続けていたのですが、夜も更けてきたので、さぁ寝ようとなりました。

しかし、女の子が離れてくれません。

 

「お姉ちゃんと一緒に寝るの!」

 

なんだか歳の離れた妹ができたみたいで、こんなこと言われたら甘やかしてしまいますよね。

影の袋から毛布を取り出して

 

「私は別に気にしませんよ。どうされますか?」

 

とお父さん、お母さんに尋ねました。

 

「まさかアリシアがここまで甘えん坊になるとは、思わなかったなぁ。すまないが一緒に寝てもらってもいいかな?」

 

「あなた、ジェーンさんに悪いわよ」

 

ちなみに自己紹介は済ませてます。

お父さんはアラン・ピーターズさん、お母さんはキャロルさん、女の子はアリシアちゃんだそうです。

 

「だがここでグズらせたら他のお客さんにも迷惑がかかるからなぁ。ジェーンさんにくっ付いてから寝てしまえば、こちらで引き取ればどうだろう?」

 

「朝まで一緒に寝ても構いませんよ。私も小さい妹ができたみたいで嬉しいですし」

 

「それじゃあ、お言葉に甘えようかな。済まないね、娘の面倒まで任せてしまって」

 

「アリシアが引っ付いちゃって大変でしょう。本当にごめんなさいね」

 

「いえいえ、これくらいなんともないですよ。キャロルさんは車内で寝るんですよね。そしたら何かあればアランさんに言ったらいいですか?」

 

「そうだね僕は近くの倒木を枕に寝てるから、何かあったら言ってくれよ」

 

「それじゃあ、アリシアちゃんも限界みたいなのでもう寝ましょう」

 

アリシアちゃんは舟を漕ぐように頭がフラフラ動いてます。

 

「ではおやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ」

 

「ええ、おやすみなさい」

 

アリシアちゃんに毛布をかけ、自分も毛布を被って1日が終わりました。

 

翌日、ピーターズさんたちと一緒に朝食を摂り、乗合車に乗って街道を進みました。

のんびり進んではいるんですが、やっぱり歩くよりも速いですね。

車内でもアリシアちゃんは私に懐いてくれたのか、ずっと隣に座って話しかけてきます。

妹がいたらこんな感じなんでしょうか?

歳が離れてるからこれだけ懐かれてるのかもしれませんね。

街道にはこの車しか通っておらず、街道の石畳と車輪がガタゴトぶつかる音にアリシアちゃんの声だけが車内で賑やかに響いています。

他の乗客は地図を眺めたり、目を閉じてうつらうつらと舟を漕いだり様々です。

このままのんびりアルボルまで進むのもいいなぁなんて思ったんですが、あるいはこれがフラグにでもなってしまったんでしょうか?

順調に街道を進んでいたはずの客車が急に止まってしまい、乗客も慣性で進行方向に身体が倒れてしまいました。

遅れて御者のおじさんの声が聞こえたんですが

 

「なんだお前ら⁈ぐぁっ!」

 

と呻いてしまったところを見ると傷つけられてしまったんでしょうか?

まさか問答無用で殺すなんてことはないと思いたいですね。

とにかく、盗賊団が現れたのは確かでしょう。

だったら私がやることは決まってます。

隣で怯えて私にしがみついてるアリシアちゃんを落ち着かせるために声をかけます。

 

「アリシアちゃん、大丈夫だから。ちょっとここで待っててちょうだいね」

 

そう言いながら私の服を掴むアリシアちゃんの指をゆっくりはがしていきます。

 

「お姉ちゃん、どうするの」

 

「悪い奴らを懲らしめてきてあげるから」

 

指を外したので抱き上げたアリシアちゃんをアランさんに渡します。

 

「ジェーンさん、今は外に出ちゃダメよ!」

 

キャロルさんがそう叫びますが、そういうわけにはいきません。

私の目的は盗賊団ですからね。

 

「大丈夫ですよ。腕に覚えはありますから。それに御者のおじさんも助けないといけませんし」

 

キャロルさんに返事をしながら「闇き夜の型」を発動させ、黒い鎧兜を身に纏います。

 

「じゃあ、ちょっと行ってきますね」

 

そう言って、唖然としてる乗客の皆さんを尻目に客車を降りました。


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