ーサラ・ヒューイットー
ラカンさんのアジトから、影の
街に戻る前にネギ君と同じように魔法をいくつか腕に仕込みます。
これならいつでも術式兵装を纏うことができますからね。
さて、これからどうしましょうか?
ここにいるとあと1週間もすればネギ君、コタロー君、ちうっち、茶々丸さん、和美ちゃん、さよちゃんが。
それとは別口で亜子ちゃん、大河内さん、夏美ちゃんがグラニクスにやってくるんですよね。
影の袋に入れた「
まずはこの街で賞金首や非合法組織の情報を知りたいんですが…、どこの誰に聞いたらいいんでしょうか?
道行く人に聞いてみましょう。
「すみません、賞金首の情報ってどこに行けば手に入りますか?」
「何だ、嬢ちゃん?…そんな弱っちそうな身体で賞金稼ぎやんのか?やめとけやめとけ」
最初に聞いた虎っぽい獣人さんは、私を上から下まで眺めてからそう言って、どこかへ行ってしまいました。
手足と角と尻尾が生えた以外は普通の15歳の人間女子と変わらないから、あしらわれたんでしょうか?
それとも普通に心配されたのか…。
次に明らかに妖精です!って感じの人にも聞いたんですが、似たような返答でした。
妖精さんに言われたくはないんですが、私よりちっこいのに「まだ小さいんだからやめとけ」だそうです。
やっぱり見た目がダメなんでしょうね。
それならばということで、路地裏に隠れて「
途端に私の身を黒い鎧が包み込みました。
この時気付いたんですが、フルフェイスの兜も選択することができるみたいです。
ひょっとしたら鎧の他の部分も選択して消したり出したりできるのかもしれませんが、今は検証してる場合ではないので、後回しにします。
再度表通りに戻って聞き込みを始めますが、今度は鎧を着ていた効果があったのか1人目から情報をもらえました。
曰く、衛兵の詰所か酒場に行けばそういう賞金首や非合法組織に関する情報が手に入るそうです。
詰所では誰が賞金首なのか、酒場ではどこにどんな組織がいるらしいとか、どの街にどんな賞金首が現れたらしいとか、噂話レベルの情報ですが手に入るそうです。
先に詰所を訪れました。
賞金首の写真と懸賞金の額が書かれた手配書が張り出されてます。
まだ「白き翼」の情報は流れてないですね。
「お嬢ちゃん、手配書なんか熱心に見て、誰か探しているのかい?」
詰所の衛兵さんに話しかけられたんですが、そんなに集中して見てる感じに映ったのでしょうか?
「いえ、賞金稼ぎをやってみようと思って眺めていたんですが…。そんなに熱心に見えましたか?」
「若い女の子が手配書を見てる光景というのが珍しくってな。身に付けた鎧もなかなかのもんだ。気を悪くしたらすまないが、どこかのお偉いさんかお金持ちのお嬢さんだったら、こちらとしても怪我してほしくないんでな」
つまりどこぞの子女だったら、傷付いて責任問題になるのを防ぐために声をかけたのかな。
「いえ、私はそういうお嬢様とかじゃないですよ。この鎧も私の種族の固有スキルで作られたものです。この通り」
そう言って「闇き夜の型」を解除します。
鎧がなくなり、元々着ていた服装に戻しました。
そういえば、私の種族ってなんになるんでしょうかね?
人間ではないんでしょうけど、エヴァちゃんと同じ吸血鬼という感じでもないですし…。
よくわかりません。
それから、新しい服が必要です!
今着ている服はいつの間にか尻尾の所に穴が開いてたんですが、それ以外の持ってきた服は普通の人間用の服ですから、穴なんて開いてません。
幸い、魔法世界には尻尾がついた人なんてザラですから、そういう服だってあるでしょう。
この後、服も買わないといけませんね。
「ほう、鎧を自由に着脱できるなんて便利だなぁ。だが賞金稼ぎなんて体力仕事だぞ。そんな細っちょろい身体で大丈夫なんか?」
また「闇き夜の型」を発動させ、
「さっき道行く人にも同じことを言われました。なのでこの鎧を着てるんですよ。それに魔法もそこそこ使えるので大丈夫です」
「まぁ、本人がそこまで言うなら止めないけどな。あんまり無理するんじゃないぞ。こんな若い娘が悪い奴に捕まったとなりゃ、おじさんも夢見が悪くなるからな」
そう言って、衛兵さんは手配書の束を渡してくれました。
私はそれを受け取りながら
「大丈夫ですよ。今に賞金稼ぎで有名になってやりますから」
「そりゃあ、スゴい。それじゃ未来の有名人の名前を教えてくれないか?」
名前…。
馬鹿正直に本名を言って後で「白き翼」のメンバーとして捕まったら、話にならないですからね。
ネギ君たちの名前が公表されたかは覚えてませんし。
一応偽名を名乗っておきましょう。
「私の名前は…ジェーン・ドゥ。ジェーン・ドゥと言います」
「頑張れよ、ジェーン!」
「ありがとうございます」
お礼を言いながらお辞儀をして詰所を後にしました。
ちなみに「ジェーン・ドゥ」というのは日本語でいえば、「名無しの権兵衛」です。
詰所を離れ、次に向かったのは服屋です。
今着ている服はラカンさんの所で1度洗いましたが、ずっとこの1着を着続けるのもアレなんで、新しい服の上下を6着と下着も6着を購入しました。
もちろん尻尾を通す穴が開いているズボンや下着と、角を通しやすい襟首になっている上着です。
ドネットさんからお金を交換してもらっておいてよかったです。
服の購入で1,800ドラクマ近く消費しましたが、ドネットさんからの10,000ドラクマと、スリから奪った1,000ドラクマと少しの合わせて11,000ドラクマから、服代と変装薬代を合わせた2,100ドラクマを差し引いても、約8,900ドラクマあります。
でもお金は必要ですからガンガン稼がないと。
それと変装薬は必要なくなったので後で魔法具店で買い取ってもらいましょう。
服屋を後にし、酒場へとやってきました。
服は影の袋に詰め込んで、鎧を改めて着用し、さらに魔法世界に来るときに着ていたローブを上から被っています。
服屋から酒場に来るまでに鎧が目立ちすぎたのかジロジロ見られたんですよね。
その視線を避けるためにもローブを着用せざるを得ませんでした。
カウンター席に腰をかけ
「すいませんが、賞金首か非合法組織に関する情報ってありませんか?」
「嬢ちゃん、こういう情報収集をするのは初めてか?酒場で情報を集めるんだから、せめて酒場に利益を出してから、情報収集するのが暗黙の了解なんだぜ」
隣に座っていたうさぎの亜人さんが教えてくれました。
私はルール違反してたみたいですね。
「それはすみませんでした。では注文したいんですが…、アルコールは飲めないので何かの果汁を頂けますか?」
「少々お待ちください」
「おい、嬢ちゃん!アルコールも飲めねぇのに、酒場に来てんじゃねぇよ!」
「ウチに帰っちまえよ!」
「いや、それよりもこっちでお酌してくれよ〜。ギャハハハハ」
酒場はやっぱりうるさいところですね。
「あんな小物は別に気にする必要もないぞ。群れてないと何も言えない奴らだからな」
「そうですね。まぁ何か仕掛けてきたら潰しますけどね」
「ハハハハハ、嬢ちゃんなかなか豪気だなぁ」
うさぎさんは私の言葉を信じてないのか、明らかに子供扱いをされてます。
「群れてないと何もできない有象無象なんて、何も感じません」
「あぁー、嬢ちゃんそこらへんでやめたほうがいいんじゃないか?」
うさぎさんが私の後ろを見て、文句を言うのをやめたほうがいいと言いますが、私はやめませんよ。
そもそも挑発してるんですから。
「いえいえ、徹底的に叩かないと後から後から湧いてきますから」
「おい、嬢ちゃん。あんまり調子に乗ってると痛い目見るぞ?ん?」
私の後ろでは人や猫、トカゲの亜人など数人の男たちが扇形で私を囲んでいます。
隣のうさぎさんも押しのけられてしまいました。
「マスターさん、飲み物は少し待っててください。ちょっと後ろの人を黙らせてくるんで」
「この女ぁ、1度痛い目見ねぇとわかんねぇみたいだな!」
真後ろから殴りかかってきた男に対して糸でベクトルを逸らして、隣の男を殴らせます。
「おい!俺を殴るんじゃなくて、殴んのはこの女だろうがよ!」
「違ぇー!この女がなんかしやがったんだよ‼︎」
「とりあえず店の外に出ましょうか。ここでやるとお店に迷惑ですから」
そう言ってカウンター席から立ち上がり店外に移動すると、私の周りを囲むようにしながらガラの悪い男達も移動します。
周りではすでに賭けが始まってます。
周りの男たちが数の暴力で勝つと思ってる人が多いのか、私のオッズが低いですね。
もう少ししたら騒ぎを聞いた衛兵も来るかもしれません。
ですので、さっさと終わらせましょう。
影の袋から鉄扇を取り出し、
「さあ、どこからでもかかってどうぞ」
両腕を広げて挑発すれば、すぐに後ろから男が殴りかかってきました。
それを鉄扇で捌き、腕の関節を極めながら顔面を地面に叩きつけます。
それで固まった男を糸で拘束。
「次の方どうぞ〜」
そう言うと左右から2人が殴りかかってきますが、動きがバラバラなんですぐ避けられます。
「魔法の射手 風の2矢」
拘束魔法である風の矢を放ち殴りかかってきた2人を拘束。
残りは4人ですが手にナイフやらそこらで拾った棒切れを握ってます。
いえ、1人魔法使いがいるのか雷の矢を3本背中に浮かべてます。
3人が私を拘束するために動き、魔法使いは雷の矢を私に放ってきました。
「魔法の射手 氷の3矢」
無詠唱で氷の矢を放って雷の矢から潰し、私を抑えにきた3人と魔法使いも糸で拘束しました。
魔法使いの魔法発動体の指環を回収したので、売ればそれなりの値段になるでしょう。
風の矢で拘束した2人を改めて糸で拘束しておきました。
「嬢ちゃん、ホントに強かったんだなぁ」
うさぎさんも近付いてきました。
「アレくらい何てことないですよ。弱過ぎです」
「そんだけ強けりゃ、賞金稼ぎもやっていけんだろうな」
一緒に店内のカウンター席に戻ると、すでに飲み物が置いてありました。
「お客さん強かったねぇ。あいつらにはちょっと困ってたんだよ。この一杯はそのお礼だ。もちろん情報だって教えてあげるよ」
「ありがとうございます」
ちょっとした運動で喉が渇いたので、飲み物で喉を潤します。
パイナップルみたいな甘い果汁が美味しいですね。
「いやぁ、甘くて美味しいです」
「そうかい、それは良かった。それで何が聞きたいんだい?」
「この近辺に潜んでると思われる賞金首か武器を横流ししたり、政府に認可されてない奴隷売買組織とか。盗賊とかでもいいですが」
「地図持ってるかい?」
「世界地図でしたら」
「うん、それでいいからちょっと開いてみて」
マスターさんの言う通りカウンターに地図を広げます。
「ここがグラニクスで、ここから川沿に南へ行くとヘカテスって街がある。さらに南に行くと山脈があって、その向こうにアルボルっていう街があるんだ。このヘカテスとアルボルの街道沿いで盗賊が出るっていう話でね。30人以上の規模で襲いかかって金目の物を奪ったり、女性や子供を攫って奴隷にしてるっていう噂だ。盗賊を退治できてうまくいけば奴隷売買組織の情報も掴めるかもしれない。どうかな?」
30人以上なら術式兵装の試運転にも最適かもしれませんね。
「わかりました。ちょっとそこを潰しに行ってきますね」
「おいおい、自分から情報を出してなんだが、そんな簡単に言って大丈夫なのかい?」
「まぁ、そこまで難しくはないでしょう。情報ありがとうございました」
出された飲み物を一気に飲み干し
「お代はいくらですか?」
「あぁ、いいっていいって。あのゴロツキを追っ払ってくれたんだから」
「いえ、アレくらいどうということなかったのに、いい情報をくれたんですから」
「じゃあここは俺に奢らせてくれ」
それまで横で話を聞いてたうさぎさんから提案がありました。
「嬢ちゃんのおかげで臨時収入が入ったんでな」
なんて笑いながらお金の入った袋をカウンターにドンと置きます。
多分、さっきの騒ぎの賭けで私に賭けてたからかなりの儲けが出たんでしょう。
それなら、ここは甘えましょうか。
「では、ここは奢ってもらいましょう。ご馳走様でした」
「いいってことよ。こっちも嬢ちゃんに感謝してんだから。嬢ちゃんなら拳闘士としてもやっていけるぜ、きっと」
「それもそのうち考えておきます。では私はこれで失礼します」
「おう、頑張れよ!」
「ありがとうございました。気をつけるんだよ」
うさぎさんとマスターさんに見送られて、酒場を後にしました。
私が拘束したゴロツキもちょうど捕まって引っ張られてるところで、何か喚いてましたが私には聞こえませ〜ん。
40話まできてしまいました。
まさか、ここまでかけるなんて思ってもみなかったです。
これからも書き続けるので読んでくれたら幸いです。