憑依生徒サラま!   作:怠惰なぼっち

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第38話

ーサラ・ヒューイットー

 

目が醒めると私の周りは真っ白で何もない空間でした。

そこに

 

「構エロ。構エネバ死ヌゾ?コレハ精神ノ死ダ」

 

断罪の剣を構え、襤褸(ボロ)を纏ったエヴァちゃん(のコピー体)が立っています。

さすがに断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)を受け止めることはしたくないですよ。

魔力の糸は…使えますね。

斬りかかってきたエヴァちゃんの右腕に糸を絡めて、動きを止めます。

 

「エヴァさん、断罪の剣を受け止める自信はないので別の魔法を使ってくれませんかね?」

 

「ホホウ、貴様ハ既ニ『闇の魔法(マギア・エレベア)』の本質を理解しているようだな。ならばこれはどうだ?

リク・ラク・ラ・ラック・ライラック

来たれ氷精(ウェニアント・スピリートゥス) 闇の精(グラキアーレス・オブスクーランテース)

闇を従え(クム・オブスクラティオーニ) 吹雪け(フレッド・テンペスタース) 常夜の氷雪(ニウァーリス)

闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)‼︎!」

 

エヴァちゃんの手元から、黒と白の奔流が私に迫ります。

エヴァちゃんが稽古でよく使う技ですし、私も使えますが、これを実際に受け止めるのはちょっと怖いんですね。

でも、こんなの本当のエヴァちゃんに比べればなんでもありません!

 

「はぁぁああああ!」

 

知らずに気合をいれるために声をあげてましたが、ついに私の右手に「闇の吹雪」が当たります。

が、それを受け止め、さらにその魔法を丸く固め

 

掌握(コンプレクシオー)

 

握り潰して身体の中に取り込みました。

原作のネギ君みたいに上半身裸にはなりませんでしたが、肌の色は褐色とかいうレベルではなく、黒くなりました。

これも「闇の魔法」の影響なんでしょうか?

 

「『闇の魔法』を会得したな。まさか、こんなに早く会得されるとは、私も驚きだ」

 

「私の師匠はエヴァさんでしたから、その影響もあるのではないでしょうか?攻撃魔法を受け入れ、飲み込むことが大事なんですよね。ここにいるエヴァさんは私の記憶から構成された、私の一部と言える存在。だからあなたの攻撃魔法も受け入れられるんです」

 

「この短時間でよくぞここまで理解を…、いや知っていたのか?まぁ、私はそれを証明できないからどうでもいいことだ。今はその成果を…」

 

エヴァちゃんが再び断罪の剣を構えます。

 

「見せてもらおうか!」

 

宙を浮いていたエヴァちゃんが私に向かって加速し、剣を突き出してきました。

私も掌握した「闇の吹雪」を装填しエヴァちゃんの断罪の剣に拳をぶつけます。

途端にぶつかりあった魔力が爆発を起こし、辺りは真っ白な光に包まれました。

 

 

「お?もう目を覚ましたのか⁈早かったじゃねぇか」

 

巻物の幻想空間から戻ってくると、ラカンさんの顔がいきなりどアップで視界に入ってきました。

 

「えーっと、どういう状況でしょうか?」

 

「あぁ、嬢ちゃんが幻想空間(ファンタズマゴリア)に取り込まれて倒れたからな。そのままにしとくのも悪りぃかと思って、ゲストルームに運ぼうとしたんだが…。その必要はなかったわけだ。まさか倒れてすぐ戻ってくるとは思わなかったぜ」

 

「それはお手数をおかけしました。ですが、ちゃんと『闇の魔法』は会得できましたよ」

 

そう言って両腕に魔力を集中させるとて、手の甲から肘にかけて翼を象ったような模様が浮かび上がります。

 

「ホントに会得しちまうとは驚きだぜ。いくら幻想空間の体感時間が現実の数倍だとにいっても、こっちでほんの数分も経ってないってこたぁ、あっちでもそんなに時間がかかんなかったんだろ?驚きを通り越して呆れちまうな」

 

カラカラと笑うラカンさん。

ネギ君だって現実時間で2日以上かかって会得したんですから、それを考えれば私は異常なのかもしれません。

いえ、原作知識の恩恵と思いましょう。

 

「すみませんが、もう少しこの巻物を借りてもいいですか?それと魔法球も貸してもらいたいんですが…」

 

「そりゃ構わねぇが…、何する気だ?」

 

「『闇の魔法』を暴走させて侵食を早めます」

 

「おいおい、その言葉の意味をわかって…、言ってるんだろうなぁ。その顔付きを見りゃわかっちまうぜ。だがホントにいいのか?」

 

「はい。まぁ悪ければ死んで、よくて人外となってエヴァさんの仲間入りを果たすだけでしょう。ですが、これは決めていたことなんですよ」

 

「そんだけ知ってて、あっさり言っちまうってこたぁ、嬢ちゃんの中じゃ覚悟ができてたんだな。いいだろう、ついてきな」

 

巻物を手に取り、ラカンさんの案内で最初に見た高い塔の中に入ります。

中は物置になっているのかいろんな物で溢れていました。

 

「魔法球なんて最近ほとんど使ってねぇからなぁ。どこにやったっけか?」

 

ラカンさんが昔使っていたと思われる剣や盾の他にもキャスター付きの黒板や「青森りんご」、「愛媛みかん」のロゴが入った段ボールやらいろんな雑貨が置いてあります。

段ボールは…、詠春さんの贈り物だと思いましょう。

 

「おお、あったあった!あったぜ、嬢ちゃん。長いこと放置してたから、ちょっと埃被っちまってはいるが…問題なく動くだろう。嬢ちゃんはエヴァんとこの別荘使ったことあんだろ?この魔法球はそれと同じタイプだ。現実時間の1時間が24倍になって、中に入ると24時間出られねぇ。って知ってるよな」

 

「はい、大丈夫です」

 

「俺ぁどうすりゃあいい?嬢ちゃんが暴走するというなら抑える役が必要なんじゃねぇか?」

 

「いえ、そこまでしてもらうことはないんですよ。私お金も持ってませんし」

 

持ってはいても日本円なんですが…。

あ、ここに来る前に両替しておけばよかったですねー。

バタバタしてる間にすっかり忘れてました。

 

「まぁ、本来なら500万ドラクマくらい請求してもいいんだが…。エヴァの固有スキルをただの人間の嬢ちゃんが引き継いで、さらに使いこなそうっちゅうんだ。少しくらい手ぇ貸してやりたくなんのが人情ってもんだろ?」

 

「本音は?」

 

「そりゃ人類初の『闇の魔法』の使い手がどうなるのか見てみt…あ」

 

しまった!と言わんばかりの顔で私を見るラカンさん。

いや、そんなことだろうって思ってたので別にいいんですけどね。

 

「まだ会得したばかりで、習熟度なんて0に等しいのでコピー体のエヴァさんでも、十分私を抑えれると思うので大丈夫ですよ。それと私よりもネギ君の方に期待してください」

 

「いいじゃねーかよ、減るもんじゃねぇし」

 

「まぁ、ここでどうこう言っても仕方ないので、とりあえず中入りましょう」

 

「ほれ、ここが転移用魔法陣だ」

 

ラカンさんの魔法球に入ると、ビーチとコテージとヤシの木みたいなのが生い茂る、いかにも南の島みたいな光景が広がってます。

私は持ってきた巻物を広げ、再度エヴァちゃんを喚び出しました。

 

 

 

 

ーエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(コピー体)ー

 

私が本体に造られてどれくらい経ったのかはわからんが、まさか普通の人間が『闇の魔法』を会得するとはな。

世の中何が起こるかわからんものだな…。

 

「あのぉー、しみじみしてるところ申し訳ないんですが…」

 

「うぉい⁈って、何だ貴様か。それで、また私を喚び出して何の用だ?」

 

「『闇の魔法』を暴走させて侵食を早めてほしいんですよ」

 

こいつは言ってることの意味がわかってるのか?

それは人間をやめるカウントダウンを早める行為じゃないか。

 

「せっかく『闇の魔法』を会得したというのに、死にたいのか?」

 

「死にたくはないですよ。でも『闇の魔法』を使い続ければ、いずれ侵食されるのはわかっていることです。所詮ただの人間には『闇の魔法』は過ぎた代物なんですよ」

 

「確かに『闇の魔法』は、我が本体が吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)であることを前提に開発された技法だ。会得できただけでも、本体に鍛えられただけのことはあると言えよう。だからこそ、侵食された後は死か魔物になる未来しか待ってないのだぞ?」

 

「そうですね。ただ『闇の魔法』を使う場面なんて戦闘以外ありえません。そして戦闘中に侵食で使えなくなる前の今の内にわざと侵食されて、私自身が使えるか使えないか判断する方が、味方の危険も少なく合理的だと思いませんか?それに根拠はありませんが、私は死なないと思ってますから」

 

「その根拠のない自信はどこから来るんだか…。だが貴様の言うことも一理ある。戦いに行ったのに使えなくては、役立たずどころか足手纏いでしかないからな。いいだろう貴様の賭けに乗ってやろう。なに、心配するな。骨はそこの筋肉馬鹿が拾ってくれるさ」

 

「えぇー、俺かよ?」

 

「当たり前だ!私は所詮、仮初めの身体しか持たん。それに貴様は、この小娘がどうなるか見たくてきたんだろうが。ならそれくらい面倒見てやれ」

 

「へいへい、仕方ねーなぁ」

 

ただの人間が『闇の魔法』に挑もうと言うのだ。

この筋肉馬鹿でさえ気になってしまうのはしょうがないだろう。

 

「では、始めるが準備はいいか?」

 

今まで飄々としていた小娘もさすがに緊張しているのか、少しピリピリしているな。

だが深呼吸をして、

 

「はい、大丈夫です。よろしくお願いします」

 

そう言って片膝をつき、頭を差し出してきた。

奴の頭の上に左手を置き、暴走を誘発させる。

 

「ぐぅっ…ぐぅぅうあああぁぁぁぁ!」

 

侵食に耐えきれず声を上げ、その身を包むように闇が奴を覆っていき、異形の姿へと変わっていく。

手足にはドラゴンのように鋭い爪が生え、太く長い尻尾も生えているな。

頭にも後頭部から、角が前へと生えてきた。

そこまでは生物的な見てくれだが、それ以外は甲冑のようなものに包まれている。

顔も兜で覆われてその表情も見えない。

それどころかさっきまで苦悶の声を上げていたというのに、声一つ発しなくなってしまった。

 

「この小娘は『闇の魔法』を発動させたのか?」

 

「うんにゃ。この嬢ちゃんは『闇の魔法』を会得した証は腕に出ていたが、全く発動させてない。つまりあれか、予備動作もなしに全力運転させちまったようなもんか?」

 

「まぁ、そういう事だろうな。徐々に慣れていけば問題なかったのかもしれんが、いきなり闇に喰われてしまったのかもしれん。なんせ人間が『闇の魔法』を会得するのも初めてだし、それを乗り越えようというのも当然初めて。私にもわからんことだらけだ。だが、死んだというわけでもなさそうだし、私はしばらく様子を見るつもりだ。貴様はどうする?」

 

「俺は嬢ちゃんが暴れたら抑えるつもりでここに来たんだが、この状態じゃ役にも立たんだろう。なによりつまらんからな。1日したら外に戻る」

 

「そうだな。貴様がいても何にもならん。それならさっさと戻ってしまえ」

 

私の言葉に筋肉馬鹿は「うるせー」と一言返し、コテージへと入っていった。

さて、我が本体の弟子よ、闇を乗り越えて戻ってこい。

さもなくば、本体に対して申し訳が立たんし、私としてもこんなところで潰れる貴様なんぞ見たくないぞ。




いろいろ独自設定が出てきましたが
そこはご愛嬌ということで。

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