ーサラ・ヒューイットー
麻帆良祭2日目のまほら武道会準決勝が始まろうとしています。
準決勝は
第1試合 クウネル・サンダースvs長瀬楓
第2試合 ネギ・スプリングフィールドvs桜咲刹那
という対戦になりました。
ちうっちはさっきからパソコンとにらめっこですが、その表情は先程よりも固いものになってます。
キーボードを叩く速さも上がっていますね。
リングでは第1試合が始まりました。
アルビレオさんが有無を言わせず重力魔法で長瀬さんを床に叩きつけますが、長瀬さんは分身の術でこれを回避し、逆に必殺技でアルビレオさんを叩きつけます。
しかし、アルビレオさんも身体は本体ではないので、その身体は無傷なままです。
アルビレオさんと長瀬さん5人の攻撃の応酬は15×15㎡という狭いリングでは収まらず、場外まで飛び出します。
長瀬さんは虚空瞬動で避けますが、リングと客席の間の堀に重力魔法が落ちて水柱を立てます。
「あっぶねー。何すんだよ!」
ちうっちは慌ててノートパソコンが濡れないように庇いました。
アルビレオさんは浮遊術で浮かんだまま長瀬さんと何か話していますが、魔法の秘匿を忘れてまs…。
あぁ、
派手なことをしたら超ちゃんの思う壺なんですがねぇ。
さらにアルビレオさんの周りに沢山の本が螺旋を描くように浮かび上がりました。
アレはアルビレオさんのアーティファクトですね。
「
もっともアルビレオさんより優れた人物は数分しか再現できないそうですが、長瀬さんに対して再現したのはネギ君の父であるナギさんでした。
流石に魔法使いの英雄には、長瀬さんも敵うはずがありません。
16分身で攻撃を仕掛けた長瀬さんを一瞬で伸し、長瀬さんの本体を捕まえた
リングの土台を壊すほどの威力で叩きつけられた長瀬さんですが、直前に
土台を壊してできた土煙が晴れると、相変わらず無傷のアルビレオさんが立っています。
リング上で何か会話をした長瀬さんはすぐにギブアップしてしまい、アルビレオさんの決勝戦進出が決定しました。
ちうっちはずっとネットに張り付いてくれてたみたいです。
「おいおい、さっきのトンデモバトルにも関わらず今度は魔法否定派・大会演出派が盛り返してるぞ。どうなってんだよ?単純なネット論争なんてレベルじゃない、ネットを介した世論操作戦、超超高度な電子戦じゃねぇか。どうなってんだよ、サラさん?」
「私はネット関係は苦手ってさっきも言ったんですけど…。そちらの茶々丸さんは詳しいと思いますよ」
「千雨さん」
「え?」
「先程から頑張っていらっしゃるようですが…。あなたのハッキング技術や、現在個人で開発しているプログラムの独創性は存じてます」
「な、なんでそれを⁉︎」
「しかし今、ネット上で行われているのは、片やあなたのブログラムの何世代も進んだ世論・情報操作プログラム。片や魔法使い達の最新型2003年式電子精霊群…。これは超科学と最新魔法技術の戦いです。残念ながら、あなたがそのノートパソコンでできることは何もありません」
「超科学に…、最新魔法だと…?」
「ハイ。私達のクラスメイト
「あー…、いろいろな所がアレで突っ込む気もなくなりそうなんだが、そんな話を私にしていいのかよ?秘密なんじゃねーのか?茶々丸さん」
「千雨さんは先程のネギ先生とサラさんとの会話から独自に魔法使いの存在をを確認・確信したように見受けられましたが?」
「私ははっきり断言してないですよ」
一応断りは入れておきます。
「それこそ今更じゃねーのか、サラさん?」
痛いところを突かれましたね。
「私は千雨さんが、ネギ先生に黙って影から協力しようとしていらっしゃるのが…、その、なんと言えばいいでしょうか…。とてもカッコイイと思います」
「な⁈これは別にあのガキのためじゃねえぞ!その…、何となく…。何となくだよ、特に理由はねぇ。それに茶々丸さんには関係ねぇだろ」
「いえ、もし千雨さんがネギ先生に協力されるのでしたら、千雨さんとは敵対することになります」
「何だ?てことはあんたは超の側についてるってことか?」
「ハイ。生みの親の頼みですから断れません」
「お二方、ネギ君の試合が始まりますよ」
リングにせっちゃんとネギ君が登ってきましたが、ネギ君は何か思い詰めた顔をしていて全く集中できてません。
できてないというか空回りしてますね。
まぁ、長年追っていたお父さんの姿(偽物なんですが)を見てしまっては気もそぞろになるでしょう。
試合が始まり、ネギ君はせっちゃんの背後に瞬動で回り込んで持っていた杖を槍のように突きます。
が、せっちゃんは気で威力を逸らし、逆に神鳴流の技でネギ君を滅多打ちにします。
叩きのめされて膝をつくネギ君にせっちゃんが何か声をかけました。
お?肩の力が抜けたみたいですね。
試合開始の焼き直しみたいにネギ君がせっちゃんの背後に回りました。
せっちゃんも予想済みなのか得物のデッキブラシを振りますが、ネギ君はさらに瞬動で回り込み杖と魔法の矢を打ち込みます。
そこからは瞬動と杖、デッキブラシ、それぞれの得物を使った高速戦となりました。
「なぁ、茶々丸さん、サラさんよ。ここに載ってる話はホントかよ?」
ちうっちが指を差すノートパソコンの画面には、ネギ君の父が行方不明であることと、アルビレオさんがネギ君の父かもしれないという話が載っていました。
「ハイ。このニュースを流したのは超さんだと思いますが、内容に間違い無いかと。ネギ先生のお話とも一致しています」
「あぁ、クウネルさんはネギ君のお父さんではありませんよ。お父さんの知り合いではありますけど」
ニュースを見た観客からは、ネギ君コールが起こります。
決勝に行けばネギ君はお父さんと闘えるとネットに書いてあるのですから、ネギ君を応援したくなったのでしょう。
ネギ君はというと律儀に観客にお辞儀をしてます。
試合の残り時間が少なくなってきたので、せっちゃんはブラシを捨て、無手での勝負をネギ君に申し込みました。
ネギ君もそれに応えて杖を置き、それぞれが構えをとります。
せっちゃんとネギ君が睨み合い、緊張感も高まって…。
両者同時に瞬動で飛び出し、せっちゃんは右手を突き出し、ネギ君は両掌を重ねて上に向けた状態で突き出しせっちゃんの拳を逸らしながら肘鉄を腹部へと叩き込みました。
この一撃が決め手となりネギ君の決勝戦進出が決まりました。
休憩時間中これまでの試合のハイライトが流れていましたが、いよいよまほら武道会の決勝戦が行われます。
リング上ではアルビレオさんとネギ君が対峙していて、ネギ君はカンフーの構えをとっています。
試合開始の合図とともにアルビレオさんの周りに本の螺旋が浮かび上がり、長瀬さんとの試合同様他人の姿を再現しました。
この姿は高畑先生の師匠、ガトウ・カグラ・ヴァンテンバーグさんですね。
話は変わりますがアルビレオさんのアーティファクトにはもう一つの能力があります。
それはアルビレオさんの周りに浮かんでいた「半生の書」という魔法書に特定人物の半生を記すことができ、その時点での性格、記憶、感情などの全てを含めた「全人格の完全
これは再生時間が10分間だけ、魔法書も魔力を失いただの人生録となってしまうらしく、アルビレオさん曰く「動く遺言」だそうです。
アルビレオさんは、「自分に何かあった時、息子に言葉を残したい」というナギさんの頼みを受けて、このまほら武道会に参加したんです。
水煙が晴れるとアルビレオさんが1冊の本を持ってネギ君と向かい合っていました。
そしてアルビレオさんが光に包まれ、その光が消えるとローブを着た赤毛の男が立っていました。
アレがネギ君の父親、ナギ・スプリングフィールドですね。
ネギ君も思わず涙を流し「父さん!」と叫びながらナギさんに駆け寄りますが、魔力を込めたデコピンで吹き飛ばされます。
ナギさんにしてみればまだ生まれてない息子が目の前にいるという不思議な感覚なんでしょう。
ネギ君の頬をムニュムニュとつねったり引っ張ったりしてます。
そして頭を撫でたかと思えば、ネギ君から距離を置き構えを見せました。
色々と話をするには10分という時間は短いですから、代わりに稽古をつけるということでしょう。
ネギ君も構えをとりナギさんに挑みますが、その拳も蹴りも予期してたかのように受け止められ、反対に蹴りとパンチを浴びせられます。
瞬動でナギさんの背後をとり、魔法の矢を拳に纏わせたパンチを脇腹に当てても、ナギさんにはまるで効いてないのか、ネギ君は手首を掴まれて電撃系の魔法でダメージを受け、大空へと放り投げられました。
ネギ君を投げた方向に先回りしたナギさんは無造作に蹴りを放ち、さらに蹴り飛ばしたネギ君へと魔法の矢を1本放ったんですが、込めてる魔力が大きいからか随分太い魔法の矢が飛んで行きました。
ネギ君は虚空瞬動がまだできないので魔法の矢でこれを回避し、杖を読んで浮遊術で浮いてるナギさんへとさらに挑みます。
しかし、百戦錬磨のナギさんにはやはり敵うはずなどなく、半生の書の制限時間である10分近く闘いましたが、とうとうダウンとなり10カウントでネギ君は負けてしまいました。
ネギ君はこの闘いで幻とはいえ父親と触れ合えて、もうすぐその時間も終わりだとわかっているからか、名残惜しそうな、泣き出しそうな顔をしています。
「ナギ‼︎」
試合会場に響いた声のした選手控え席にはエヴァちゃんがいました。
自分の弟子はまだ試合をしてたのに会場を離れるんですから、あんまりな気もするんですが、エヴァちゃんはアルビレオさんが苦手みたいなんで一緒にいたくなかったんでしょう。
その苦手なアルビレオさんがエヴァちゃんの好きなナギさんの再現をしてるのは皮肉ですねぇ。
そのエヴァちゃんはナギさんに撫でてもらってその感触を確かめるように目を閉じてます。
ナギさんはネギ君に何かを告げながら光に包まれ消えて行きました。
リングに残ったのはエヴァちゃんを撫でるアルビレオさんと、アルビレオさんに蹴りを入れるエヴァちゃん、父親が消えて涙を流すネギ君だけとなりました。
その様子に誰もが口を開けずにいます。
そんな静まり返った会場に超ちゃんが現れ、授賞式を開くということで、時間が戻ったかのように歓声が上がります。
「いやぁ、面白かったですね」
「サラさんは面白かったかもしれねーけど、私は常識やら何やらを失った気がするよ」
ちうっちはくたびれたような顔をしてます。
「千雨さんも色々言いたいことがあるでしょう。ならこの後茶々丸さんの野点に行くといいですよ。そこにネギ君がいるはずですから」
「なんでそんなこと知ってるんだよ?」
「それは企業秘密です」
「サラさんは付いてきてくんねーのかよ?」
「私はこの後クラスの出し物のパートが入ってるので、行きたくても行けません」
「それは…、仕方ないか」
「ネギ君にはお疲れ様でしたと伝えてください。それでは千雨さん、茶々丸さん。私はこの辺で失礼します」
「あぁ、クラスの方頑張ってな」
「サラさん、お疲れ様でした」
2人の言葉を受けて、私は授賞式で沸き立つ龍宮神社を後にしました。