憑依生徒サラま!   作:怠惰なぼっち

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第23話

ーサラ・ヒューイットー

 

エヴァちゃんの別荘でどんちゃん騒ぎをやったあと、別荘を出てログハウスへと戻ってきました。

とりあえず、皆さん寮へ帰るみたいですが、外は雨が土砂降りで雷もなっています。

 

「うひゃー、スゴい雨やー」

 

「傘1本しかないですね」

 

このちゃんとネギ君が雨の激しさに思わずつぶやきます。

 

「私の傘をお貸ししますよ。もう少しエヴァさんとお話してから寮に戻るつもりなので。その頃には雨も止んでるでしょうし」

 

「すみません、サラさん」

 

「ごめんなー、サラちゃん」

 

私が来るときに使ってた傘を渡します。

もちろん1本しかないんですがないよりはマシでしょう。

 

「エヴァちゃん、テスト勉強の時間が足りなくなったら、また『別荘』を使わせてよ」

 

確かにバカレッドとバカイエローのアスナちゃん、(クー)ちゃんには有用な使い方かもしれませんが

 

「別に構わんが…、女には薦めんぞ。中にいればいるほど歳を取るからな」

 

エヴァちゃんが言う通り、外では1時間しか経ってなくても、体感では1日歳を取ることになるんです。

 

「げ⁉︎そうだった」

 

「私は気にしないアルよ」

 

「別にいいんじゃない?2、3日くらい歳を取っても」

 

古ちゃんと和美ちゃんは全く気にしないみたいです。

まぁ、私は他のみんなより結構な頻度で使ってるので、それこそ今更なんですけどね。

 

「「「「「「「「お邪魔しましたー!」」」」」」」」

 

そう言って、ネギ君、アスナちゃん、このちゃん、せっちゃん、本屋ちゃん、夕映ちゃん、古ちゃん、和美ちゃんの8人は2本の傘や自分のカバンで雨を避けながら、寮へと走って行きました。

 

「やれやれ…。やっとうるさいのが帰っていったか」

 

「マスター、楽しそうでしたが?」

 

「そうですよ。それにネギ君の意外と重い過去にちょっとブルーになってませんでした?」

 

「ええい、うるさい!それよりもなぜ貴様は帰らないんだ⁈サラ・ヒューイット」

 

「侵入者がいるからですよ」

 

「何?」

 

私の言葉にエヴァちゃんの雰囲気が変わります。

 

「確かに、少し違和感を感じたような気はしたが、私は気のせいだと判断した。なぜ貴様はそこまで断言できる?」

 

「これも未来視ですね」

 

「全く、便利な代物だな」

 

「いえいえ、それほどのものではないですよ。問題は侵入した者たちですね」

 

「ほぅ、者たちということは、賊は複数か」

 

「はい。スライムが3体に悪魔が1体です。目的は『学園の調査』と『ネギ君、アスナさんがどの程度脅威となるかの調査』ですね」

 

「そこまでわかってるならあいつらと一緒に戻ればよかったんじゃないのか?」

 

「ネギ君の潜在力を見たくありませんか?」

 

「何だと?」

 

エヴァちゃんの声が訝しむものになります。

 

「この戦いでネギ君の潜在力が見られるんですよ。何故なら相手はネギ君の村人を石化したあの悪魔ですから。そんなトラウマと相対してしまったらネギ君の魔力は暴走するでしょう」

 

「確かにそんな奴と対峙したら、ぼーやは暴走するかもしれんな。だが貴様はそれでいいのか?」

 

「私はネギ君ならこれくらいの困難は乗り越えられると信じてますから」

 

「まぁ、いいだろう。それで、そのイベントはどこで行われるんだ?」

 

「世界樹の下にあるステージです」

 

「そうか、ならば私も観戦させてもらうとしよう」

 

「悪魔にバレないようお願いしますね」

 

「貴様は師匠である私をバカにしてるのか?ん?」

 

「いやぁ、冗談ですよ。冗談。師匠がそんなヘマするわけないことくらいわかってますって」

 

「全く、最近調子に乗ってきてるんじゃないのか?」

 

「いやいや、そんなことないですよ」

 

「最近の茶々丸といい貴様といい…。それで、貴様はどうするつもりだ?」

 

「本来は私が手出ししなくてもどうにかなるのはわかってるんですが、あちらさんが一般人である那波さんまで人質にとるんですよね。さすがに堅気に手出しされては私も黙ってられません。少しあちらの邪魔をしてやるつもりです」

 

「堅気って…。貴様はどこのヤクザだよ…。私はぼーやの潜在力を見たいんだ、邪魔するにしてもそこそこにしておけよ」

 

「了解です」

 

そう言って私は先に世界樹下のステージへと向かいました。

 

 

ステージが見下ろせる世界樹の枝の上に行くと…、まだ誰もいませんでした。

そういえば、本屋ちゃん、夕映ちゃん、古ちゃん、和美ちゃんはお風呂に入ってる途中でスライムに襲われるんだっけ?

ということは、もう少し時間に余裕がありますね。

しばらく待っていると…、ああ、来ました来ました。

水の転移魔法(ゲート)を使って、スライムたちが4人を捕まえた状態でやってきました。

さらにせっちゃんが運ばれ、アスナちゃんとこのちゃんも捕まり、水でできた牢屋に入れられます。

アスナちゃんだけが下着姿にペンダントをつけられ、腕を縛って動けないようにされてます。

最後に那波さんも悪魔…、えーっとヘルマン?伯爵に抱えられてスライムが使う転移魔法で運ばれ、他の人たち同様水牢に入れられました。

 

あ、気絶してたアスナちゃんの目が覚めたみたいです。

自分の格好に気付いてヘルマンに蹴りをかましました。

アスナちゃんとヘルマンが何やら話をしているんですがここまではちょっと聞こえません。

そこへ魔法の矢が複数飛んできました。

矢が放たれた方向を見ると、ネギ君とコタロー君が杖に乗ってこちらへ向かって来てます。

魔法の矢もネギ君が放ったものなんですが、アスナちゃんの魔法無効化(マジック・キャンセル)能力をペンダントにより増幅させることで無力化されてしまったんですね。

そして2人が広場の客席へやってくると、さっそくとばかりに3体のスライムが2人に迫ってきます。

スライム特有の軟らかい身体を利用して攻撃してきますが、ネギ君はカンフーで捌いて逆に吹き飛ばしました。

さらにコタロー君が囮となってスライムの相手をし、ネギ君が隙をついてヘルマンを封印するため、コタロー君から預かった封魔の瓶を使いますが、これもアスナちゃんの能力で無力化されます。

ヘルマンは近接格闘でネギ君とコタロー君を攻撃してきました。

近接格闘と言いましたが、その拳には魔力がこもっているからか、ただのパンチやアッパーから衝撃波が飛びます。

2人もなんとか防御や攻撃を繰り出しますが、ついにコタロー君が吹っ飛ばされました。

 

「お?やっているな」

 

「ちょうどいいところにいらっしゃいましたね、エヴァさん」

 

声をかけられた方を向くとエヴァちゃんと茶々丸さんがいました。

茶々丸さんがエヴァちゃんを抱えてジェットで飛んできたんでしょうか。

 

ステージに目を戻すとヘルマンがその正体を現してました。

やはりネギ君の村人を石化して回った上位悪魔でした。

しかも戦うのが好きだけど、将来有望な若者を石化して潰してしまうのはさらに好きという、どうしようもない性格をしてるんですよね。

だからこそ邪魔してやるんですが…。

ネギ君の暴走が始まりましたね。

瞬動を習ったわけでもないのに、それに近い動きでヘルマンに一瞬で接近し、掌底で上空に吹き飛ばします。

さらにネギ君自身も杖で飛びカンフーによる連打を浴びせ、キックと右ストレートでステージの方へと叩き落としました。

 

「そろそろ茶々を入れてきますね」

 

「まぁ、程々にしておけよ?」

 

「ええ。止めはネギ君に任せますから」

 

そう言って世界樹から飛び降りて虚空瞬動でさらに加速。

一気にヘルマンの真上に来ると浮遊術でこの場にとどまり、操糸術でヘルマンの顎と角に糸を絡ませ引き絞り、石化ビームを吐こうとしていた口を無理矢理閉じてやります。

ヘルマンに迫ってたネギ君はコタロー君が弾いて地面に落とし、意識を取り戻させたみたいです。

 

「む?私達の真剣勝負に邪魔をするとは無粋な少女だな」

 

「何が真剣勝負ですか…。あちらの攻撃手段は封じているくせに」

 

「はっはっは。これは手厳しい。そういえばクライアントの依頼には操糸術を使う人間の調査もあったんだが、ひょっとして君のことかな?」

 

「操糸術は私だけじゃないですよ。かの吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)だって操糸術は使うという話ですからね。そのクライアントも闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)と対峙したんでしょう?」

 

どうせ貴方はフェイトが差し向けた調査員なんでしょう。

 

「それは信用に関わるので何も言えないな」

 

「それに将来有望な若者を石化して潰すのが趣味という変態とは長々と話をしてたくないんですよね」

 

「君は本当に手厳しいね…。ネギ君の仲間の女性にはそういう方が多いのかな?」

 

「それは私にはわかりかねますが…。伯爵のご希望通り、あなたとあの2人だけで真剣勝負できるようにしてあげますよ」

 

私はそう告げると虚空瞬動と重力による加速を利用してどんどんステージへと向かいます。

 

「しまった!あめ子、すらむぃ、ぷりん、彼女を止めるんだ‼︎」

 

着地するとステージの石畳みが割れ窪みができましたが、それを気にしてる場合ではありません。

こちらにスライム3体が迫ってきますが、こんな雑魚にかまってる場合ではないので、さっさと能力発動、魔力の糸で3体とも捕まえ一気に引き寄せます。

 

「なんだこの糸⁈」

 

「力が抜けるデスゥー」

 

「これは脱出不可」

 

能力範囲内に入ったので魔力の吸収量が上がり、ついにスライムとしての魔力がなくなったのか、スライムの形を成してた水分だけがビチャビチャと石畳に落ち、水牢も崩壊しました。

封魔の瓶を回収し、アスナちゃんに瞬動で近付きペンダントも奪い取りました。

 

「ネギ君、コタロー君。あなた達の本気を伯爵に見せつけてやりなさい!」

 

「サラさん!」

 

「すごいやり手やないか、あのねーちゃん!」

 

「とっておきのやつがあるから、小太郎君前衛頼める?」

 

「ふんっ!オレをナメんなよ!ネギこそ大丈夫かいな?」

 

「ふふふ、いいぞ、かかって来たまえ‼︎」

 

コタロー君が分身を作ってネギ君を守る盾となり、ネギ君が止めとなる呪文を唱えます。

 

「ラ・ステル・マ・スキル・マギステル

来たれ虚空の雷(ケノテートス・アストラプサトー) 薙ぎ払え(デ・テメトー) 雷の斧(ディオス・テュコス)‼︎」

 

この魔法、威力は中の上程度ですが詠唱時間が短い上位古代語魔法(ハイ・エイシェント)です。

勝負は決しましたね。

ヘルマンもダメージの許容量を超えたのか身体を煙に変えながら、自分の国へと還ろうとしています。

 

「君達の勝ちだ。…止めを刺さなくていいのかな?このままなら、私はただ召喚を解かれ自分の国に還るだけだ…。しばしの休眠の後、復活するかもしれんぞ?」

 

「…ぼ、僕は…」

 

「君の事を少し調べさせてもらった。君が日本に来る前に覚えた9つの戦闘用呪文の中で最後に覚えた上位古代語魔法…。本来、封印することでしか対処できない我々のような高位の魔物を、完全に打ち滅ぼし消滅できる超高等呪文…。君が復讐のために血の滲む思いで覚えた呪文だろう?」

 

「…僕は、止めを刺しません」

 

「…ほう」

 

「6年前…、あなたは召喚されただけだし…。今日も人質に…、そんなにひどいことはしなかった。それにあなたの方こそ、本当の本気で戦っていなかったのではないですか?僕には…、あなたがそれ程ヒドい人には…」

 

「どうかな?やはり私は悪人かもしれぬぞ?何せ悪魔だからねぇ」

 

「…それでも、止めは刺しません」

 

「…。ふふ…、ははははは。ネギ君!君はとんだお人好しだ‼︎やはり戦いには向かんよ!コノエコノカ嬢…。おそらく極東最強の魔力を持ち、修練次第で世界屈指の治癒術師となれるだろう。成長した彼女の力を持ってすれば、ひょっとすれば今も治療のアテがなく、静かに眠っている村人達を治すことも可能かもしれんな。さて、そちらのお嬢さんも私に用かな?私ももうすぐ召還されるわけだが…?」

 

「そうですね。ネギ君があなたに止めを刺さないと決めたので、私もそれをどうこう言うつもりありません。ですが、一般人を成り行きとはいえ人質にしたのはいただけません。なので、再びこの瓶に入っていただきます」

 

「サラさん、でも!」

 

ネギ君はヘルマンがかわいそうだと言わんばかりに私を見ます。

ヘルマンが評価した通り、ネギ君はやっぱりお人好しですねぇ。

 

「いいんだ、ネギ君。そちらのお嬢さんの言うとおり、一般人のお嬢さんを巻き込んだのは私の失態だ。いわばこれはペナルティなのだよ。すまないねぇ、お嬢さん」

 

「いえいえ、気にしてませんよ伯爵。あなたがネギ君に目をつけたのは正解です。彼は今後さらに強くなりますよ」

 

「それはいいことを聞いた!いずれは再戦したいものだ」

 

「まぁ、その時考えましょう」

 

「やはり君は手厳しい!では、そろそろ頼むよ」

 

そう言うヘルマンの身体は半分以上が消えています。

 

「ええ、伯爵。ではまたお会いしましょう」

 

私は瓶をヘルマンに向け、

 

封魔の瓶(ラゲーナ・シグナートーリア)!」

 

と、呪文を唱え伯爵を封印しました。

 

「サラさん、あの…」

 

ネギ君が申し訳なさそうに私を見ています。

 

「先程のことは気にしてないので大丈夫ですよ。伯爵がネギ君の事をお人好しと評しましたが、私はそれもネギ君の欠点であり、美点でもあると思ってますから。この瓶についてはエヴァさんにお渡しします。伯爵は再戦を願ってましたが、それを叶える叶えないはネギ君次第ですよ。では、お疲れ様でした」

 

そう言って、私はステージからエヴァちゃんのログハウスへ戻りました。


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