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ーサラ・ヒューイットー
修学旅行が終わってすぐの日曜です。
まぁ、本来なら旅行でくたびれてだらけそうな感じですが、ウチのクラスに限ってはそういう常識が当てはまらないみたいで。
今日もネギ君の部屋にクラスメイトが大挙して押し寄せてました。
私はいつも通りエヴァちゃんの別荘で訓練中です。
エヴァちゃんって花粉症持ちなんで別荘にいることが多くて、私としては魔法の特訓も見てもらえるんですごく助かってます。
休憩も兼ねて別荘を出るとネギ君とアスナちゃんがログハウスに来てました。
「あら?ネギ君とアスナさん、こんにちは。今日はエヴァさんに用事ですか?」
「あ、サラさん。こんにちは」
「こんにちは、サラ。ちょっと聞いてよ、ネギったらエヴァちゃんに弟子入りするって言うのよ」
「私はもともと弟子は取らん主義だったんだよ。サラ・ヒューイットとは取引をしたから弟子にしてやっただけだ。今思えばあの取引も…」
「まぁ、エヴァさんに魔法を習いたいと思うのは悪いことではないと思いますよ。なんだかんだ言って最強と言われる魔法使いですし、魔力を封じられても強いですから」
「それに、僕は京都での戦いをこの目で見て、魔法使いの戦い方を学ぶならエヴァンジェリンさんしかいないと思ったんです!」
「…ほう。つまり私の強さに感動したというのか?」
「はい!」
「本気だな?」
「ハイ‼︎」
「…そこまで言うならよかろう。但し、私は悪い魔法使いだ。悪い魔h「魔法使いにモノを頼む時にはそれなりの代償が必要だ」…どうして私のセリフを、サラ・ヒューイット、貴様が言うんだよ?」
「いやぁ、今の流れで行くとエヴァさんの足を舐めろとかアダルティーな要求をしてきそうな感じでしたので」
原作でやってましたしね…。
「サラもエヴァちゃんに弟子入りするとき何か代償を払ったの?」
「私自身が何かしたわけではないですよ。ただ、エヴァさんを麻帆良に封印したサウザンドマスターの息子がいるという情報を教えただけですね」
「ええー!それってネギのことを売ったの⁈ちょっと酷くない?」
「確かにネギ君の情報を売ったと言われても仕方ないかもしれませんが、もし事前に情報を伝えずにエヴァさんとネギ君が鉢合わせたらどうなると思います?」
「えーっと…、どうなるの?」
さすがバカレッドというべきでしょうか。
なんだか説明するのが面倒になってきました。
「サラ・ヒューイットはな、私が暴走してぼーやを襲わないよう学園側にも根回しをしてやったんだよ。全く師匠を何だと思ってるんだか…」
「ネギ君の血がエヴァさんの解呪には必要だろうと考えると、何も知らずにやってくるネギ君と、麻帆良を出ていきたいエヴァさん。まさに危険な組み合わせでしょう。だから事前に情報を渡してネギ君の安全を図ろうと考えたわけですよ。実際突発的な暴走も起こらなかったわけですし」
「そうだったんですか?ありがとうございます!」
「いえいえ、ネギ君。私もエヴァさんに弟子入りできたのでおあいこですよ。それより仮に弟子入りが決まれば、訓練の際ネギ君の血を少しもらってはどうでしょう?ネギ君は特訓を受けられ、エヴァさんは少量ながらネギ君の血をもらえる。代償としては十分でしょうし、お互いWin−Winの関係になれるのではないでしょうか?」
「私はそれでも構わん。が、ぼーやはどうなんだ?」
「ハイ!それで大切な人を守れる力を手に入れられるなら、僕は一生懸命頑張ります‼︎」
「まぁ、まずは弟子入りのためのテストが必要じゃないですか?それに合格しなければ弟子入りはできないことになりますが」
「そうだな。テスト内容は追って知らせる」
「ありがとうございます、エヴァンジェリンさん!」
「それとネギ君、何かしらの近接戦闘用の技術を持っていた方がいいですよ。京都で闘ったフェイトも持っていたでしょう」
「…は⁈そうですね、アドバイスありがとうございます。サラさん」
そう言ってネギ君とアスナちゃんは部屋を出ていきました。
「サラ・ヒューイット、これも貴様の予定通りなのか?」
「そうですねぇ。私の未来視ではネギ君は
「確かにそうだな。条件も同じでいいだろう。これでダメならどのみち芽はないだろうしな」
「さすがに習い始めて日にちが少ないと思うので、日曜日の午前0時、世界樹前広場でお願いします」
「まぁ、それくらいはいいだろう。ところでなぜ、さっきは私のセリフを奪ったんだ?」
「予想はされてると思いますが、未来視ですね。ひょっとしてネギ君に足を舐めて欲しかったんですか?私は師匠にそう言う倒錯的な性癖を持って欲しくないのですが…」
「そ、そんなことさせるわけなかったに決まってるだろう」
「思い人の10歳の息子に足を舐めさせるなんて、そんなことするはずがないですよね〜」
「…うぐっ⁉︎も、もちろんその通りだ」
「なら、何も問題ないですよね?」
「問題ない…。久々に悪人モードができると思ったのに」
最後はよく聞き取れませんでしたが、なんとか説き伏せることができました。
いやぁ、本当よかったです。
条件に何も言わないあたり、話も誤魔化せたでしょう。
翌日の月曜、ネギ君は登校中、多数の挑戦者を相手に圧倒的な強さで勝つ古ちゃんの姿を見たそうです。
これでネギ君が古ちゃんに弟子入りするのは確定ですね。
実際、授業が終わる時
「えーと…。あのー、くーふぇさん。ちょっとお話があるんですが…」
「へ?ワ、ワタシアルか?」
「あ!でも、みんなの前だとマズイかな…?うーん…、よし!世界樹前広場の大階段に放課後来てもらえますか?」
「いいアルけど?」
「ありがとうございます!では、また後で」
なんていう会話があったんですが…。
これだけを聞くと、まるでネギ君が古ちゃんに告白するために誘ったかのように聞こえません?
世界樹前広場というのも告白の名所として、学園では有名ですし。
案の定、ネギ君LOVEの委員長と間違った噂を拡散するのが得意なハルナちゃんを筆頭に、色恋沙汰が大好きなクラスの面々が集まってます。
「おい、…ぐす。あれで本当に、…ぐすぐす。いいのか?」
「大丈夫ですよ。たぶん今日の放課後か明日からカンフーの練習が始まるでしょう。それよりも、エヴァさんの方が大丈夫ですか?」
エヴァちゃん、真祖の吸血鬼とはいえ、今は能力を封印されているので元の身体の10歳の女の子と変わりません。
そして花粉症持ちなためマスクをしていても鼻をすすってます。
「全く、…ぐす。この時期だけは好きになれん。…ぐす」
「どうします?私がテスト内容伝えに行きますか?」
「いや、…ぐす。それは自分でやろう。」
「わかりました。では今日も稽古お願いします」
「ああ、…ぐす。早く別荘に…ぐす。行くぞ」
さすがに別荘の中までは花粉も飛んできませんしね。
弟子入りテスト本番の日曜日、午前0時より少し前。
世界樹前広場には私とエヴァちゃん、茶々丸さん、チャチャゼロさんしかいません。
広場は広いのに人気がないせいでとても静かですね。
「オイ、御主人。コレジャ試合ガ見レネーゾ。モットイイ位置ニ座ラセロヤ」
広場の街灯の足下でチャチャゼロさんがボヤきます。
エヴァちゃんの魔力によってチャチャゼロさんは稼動しているので、エヴァちゃんの魔力がない今は喋る人形でしかありません。
しかも、チャチャゼロさんって口が悪いんですよね。
「チャチャゼロさん、ここでいいですか?」
そう言って、チャチャゼロさんを胸に抱えます。
「スマネーナ。御主人ノ魔力ガネーセイデ弟子ニ迷惑カケチマッテヨ」
「全く役に立たないくせに、口だけはうるさい奴だな」
「しかし、よろしいのですか?マスター。ネギ先生が私に一撃を与える確率はおよそ3%以下と思われますが…」
「別に構わん。一撃当てれば合格などとは破格の条件だ。それがダメなら、ぼーやもそこまでだったということだ。いいな、茶々丸。手を抜いたりするなよ」
「ハイ…。了解しました」
そろそろ時間になりますね。
「エヴァンジェリンさーん!ネギ・スプリングフィールド、弟子入りテストを受けにきました‼︎」
同時に近くの時計台の針が12時を指しました。
「よく来たな、ぼーや。早速テストを開始するぞ。お前のカンフーもどきで茶々丸に一撃でも当てられたら合格、手も足も出ず貴様がくたばればそれまでだ。わかったな?」
「はい、その条件でいいんですよね?」
「ん?ああ、いいぞ」
エヴァちゃん、引っかかりましたね。
ネギ君は一撃決めれば合格ですが、不合格の条件は定められてません。
まぁ、さすがに気絶しちゃったら不合格確定でしょうが、逆を言えばそれ以外は不合格にならないということです。
「それよりも…、そのギャラリーはどうにかならんのか⁈」
「すいません、ついて来ちゃって…」
というネギ君の背後にはアスナちゃん、古ちゃん、まき絵ちゃん、このちゃん、せっちゃん、亜子ちゃん、祐奈ちゃん、大河内さんが応援に駆けつけてます。
まき絵ちゃんがここにいるということは、原作同様ネギ君LIKEの気持ちがLOVEへとシフトしたんでしょう。
「茶々丸さん、お願いします!」
両拳を突き合わせて礼をするネギ君に
「お相手させて頂きます」
と言って態勢を整える茶々丸さん。
「では…、始め‼︎」
エヴァちゃんの号令とともに茶々丸さんがネギ君へ肉迫します。
ネギ君は
「
と、我流の自分への魔力供給を行い茶々丸さんを待ち構えます。
茶々丸さんが牽制の左のパンチを突き出し、本命である右のストレートパンチを、右肘のジェットを噴出しながら放ちます。
そのパンチに対し身体をコマのように回転させて避け、身体を回して威力を増した裏拳を叩き込みますが、茶々丸さんはガード。
そのまま近距離でパンチやキックを互いにぶつけ合い、またはガードするものの、やっぱり練習期間が短かったからかすぐに均衡は破れ、茶々丸さんの蹴りでネギ君は吹き飛ばされます。
茶々丸さんは追い討ちをかけようとネギ君に再接近し、右拳を突き出します。
蹴り飛ばされた勢いを殺し、茶々丸さんの右拳をネギ君は両手で受け流し、さらに左手で茶々丸さんの右手首を掴んで自分に引き寄せ、右肘を突きます。
カウンターとしてはこの上ないタイミングの右肘でしたが、茶々丸さんは近くの柱を使って三角跳びの要領でこれを回避。
さらにジャンプした勢いも利用して回し蹴りをネギ君に叩き込みました。
ギリギリでガードをしたものの、蹴り飛ばされてまともに受身をとれなかったネギ君は地面を盛大に滑って、あちこちに擦り傷を作ってます。
エヴァちゃんはちょっと不機嫌そうですね。
「ゴ機嫌ナナメダナ、御主人。ケケケッ」
「残念だったな、ぼーや。だが、それが貴様の器なんだよ。顔を洗って出直してこい」
なんて言ってますが、エヴァちゃんはネギ君を侮ってますね。
「まだです…。僕はまだくたばってませんよ」
「ぬっ…?何を言っている?勝負はもうついたんだ。ガキは帰って寝る時間だぞ」
「アノガキ、ヒット直前ニ障壁ヘ魔力ヲ集中シテヤガッタゼ」
「エヴァンジェリンさん、条件は『僕がくたばるまで』で、制限時間もありませんでしたよね?」
「な…、何っ⁈貴様まさか…‼︎」
「ええ、その通りです。一撃当てるまでは何時間でも粘らせてもらいます。…茶々丸さん、続きを‼︎」
「しかし、先生…⁉︎」
ネギ君は根性があるというか、頑固というか…。
こうなるとわかっていたので、提案した条件に抜け穴を作っておいたんですけどね。
あとはネギ君がどれだけ粘れるかですが。
こうして見ても息は上がってて、足にはガタがきてます。
その身体に力を込め、気合いの掛け声とともに拳を突き出します。
しかし魔力の供給も切れてしまったため、動きのキレもテストの始めと比べるとガクッと落ちています。
そこからはネギ君が突撃をしては茶々丸さんに返り討ちされるというのを繰り返します。
1時間も経った頃にはボロボロの状態で、顔の左側は腫れあがってます。
茶々丸さんは命令で手加減を加えてないものの、ここまで一方的なテストになると心配になってきてるのでしょう。
顔が僅かに曇ってます。
「お、おい。もういいだろ、ぼーや?いくら防御に魔力を集中したからといえ限界がある。お前のやる気はわかったから、な?」
「アイツ、根性アルナー」
さすがのエヴァちゃんもこのテストが弱い者いじめのように見えてきたのか、降参を勧めます。
それでも、ネギ君は諦めません。
「い、いえ…。ま、まだでふ…。まだ、諦めまふぇん」
そう告げて再び茶々丸さんに突っ込みますが、スピードもキレも落ち切ってるネギ君の攻撃が届くわけもなく、逆に蹴りを喰らいます。
さすがにボコボコにされてるネギ君を見るのも限界になったのか、アスナちゃんが
「も、もう見てられない!ネギを止めてくる‼︎」
と言いますが、これに待ったをかけたのがまき絵ちゃん。
「だめー、アスナ!止めちゃダメーッ‼︎」
「でも、まきちゃん!あいつ、あんなにボロボロになって…。あそこまで頑張ることじゃないわよ‼︎」
「わかってる、わかってるけど…。ここで止める方がネギ君にとってはひどいことだと思うの。だってネギ君、どんなことでも頑張るって言ってたもん!」
「あいつのあれは子供のワガママよ。ただの意地っ張りだから止めてあげなきゃ…」
「違うよっ!子供の意地っ張りじゃ、あそこまでできないよ。ネギ君には覚悟があると思うの。ネギ君には目的があって…、そのために自分の全部で頑張るって決めてるんだよ。アスナ、自分でも友達でも先輩でもいいし、男の子の知り合いでもいいけど、ネギ君みたいに目的持ってる子いる?あやふやな夢とかじゃなくて、しっかりこれだって決めて生きてる人いる?」
「そ、それは…」
「ネギ君は大人なんだよ。だって目的を持って頑張ってるもん。だから、今は止めちゃダメなんだよ」
いい言葉ですよね。
バカピンクと揶揄されるまき絵ちゃんの言葉と思えません。
やっぱり恋する乙女は強いということでしょうか。
まき絵ちゃんの言葉に、思わずみんなの動きが止まります。
それは茶々丸さんも同様です。
「あ!おい、茶々丸‼︎」
「え?」
エヴァちゃんの声に少し反応が遅れた茶々丸さんの頬にネギ君の拳が当たります。
ただし、その拳には全く威力がなく、「ぺちんっ」となった音はとても頬を拳で殴ったような音には聞こえません。
それでも一撃は一撃です。
「あ…、当たりまふぃた…」
遂に攻撃を当てることができて気が緩んだのか、ネギ君はそのまま倒れて気絶してしまいます。
「や…、やったー!」
「ネギくーん!」
「コラー!茶々丸ーっ‼︎」
「す、すすすすいません。マスター!」
ネギ君の目が覚めたのは朝陽が射して、空気も暖かくなり始めた頃でした。
あれだけボッコボコにされながらもよく頑張りました。
だからこそ掴めたチャンスだと思います。
「負けたよ、ぼーや。約束通り稽古をつけてやるからいつでも家に来な。そのカンフーの修行も続けておけ。どのみち体術は必要だからな。理屈っぽい貴様に中国拳法はお似合いだよ」
そう言ってエヴァちゃんと従者、それに私も広場を離れます。
「サラ・ヒューイット。貴様、また謀ったろう?」
「なんのことですか?」
「前回はぼーやとの模擬戦で助言していたろう?」
「手出しはしてませんよ」
「今回のテストも、あのぼーやが諦めないというのを知っていたんだろう?」
「まぁ、予想通りでしたね」
「だからあの条件を提示したんだろうが」
「でも、反対されませんでしたよね?」
「うぐっ…」
「エヴァさんもあの条件でテストしようと思っていたでしょう?」
「全く、貴様からの提案は今度からは吟味しないとならんな…」
「そんな悪いことやってませんよ?」
「貴様のはしれっとやって来る分、なおたち悪いわ!」
「まあまあ、みんなで幸せになりましょうよ」
エヴァちゃんに何か怪しいものでも見るかのような眼差しを向けられてます。
とりあえず、これでネギ君の弟子入りが決定となりました。