憑依生徒サラま!   作:怠惰なぼっち

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第1話

ー???ー

 

「サ…ヒュ……トさん」

 

誰か呼ばれているなぁ。

っていうか私いつの間に寝てたんだろ?

 

「サラ・ヒューイットさん」

 

ほら、サラさん呼ばれてるよ。早く返事しないと。

あれ?うちのクラスにサラなんて生徒いたっけ?

ひょっとしてまだ起きてなくてこれって夢なんじゃない?

 

「サラ・ヒューイットさん!」

 

「は、はい⁉︎」

 

横から肘で突つかれて思わず返事しちゃった。

キョロキョロ周りを見てみると、肘鉄くれた隣の子は訝しむように私を見ていた。

さっきから名前を呼んでいた女性もちょっと怒ってるような、むしろ呆れてるような顔でこっちを見ながら前に進むよう目で促している。

金髪でちょっとつり目だけど美人だった。

つり目だから怒っているように見えるのかな?なんて思っていて、やっと呼ばれていたのが自分だということに私は気づき、前に出た。

 

正面の階段を登った先には長い白髪とこれまた白くて長い髭を蓄えた褐色の老人がいて、優しい顔でこっちを見ていた。

さっきの女性といいこの老人といい、どっかで見た顔だなぁなんて思っていると老人から賞状のようなものを手渡される。

場の雰囲気を察して私は恭しくそれを受け取ると老人に声をかけられた。

 

「そんなに緊張することはないんじゃぞ」

 

その老人は年相応の笑顔と少年のような目でこちらを見ていた。

別に緊張なんてしてなくて、ただ状況が飲み込めてないだけなんだけど、気を遣ってもらったみたいだから返事はしておかないとね。

 

「はい、ありがとうございます」

元いた位置に戻って私は改めて周囲を横眼で確認する。

どうやら大きな講堂にいるみたい。

周りにはたくさん人がいるんだけど皆ローブを羽織っていた。

隣の子もローブととんがり帽子を被っていた。

 

「まるで魔法使いみたいよねぇ」

 

あれ…?魔法使い?白髪白髭褐色老人に金髪つり目美女?

 

 

……

 

………

 

<あぁぁぁぁぁっ‼︎>

 

思わず声をあげるところだった。

まだ卒業式は続いてるから危なかったぁ。

そう、今は卒業式の真っ最中。

そんでもってあの老人と美女は、"おじいちゃん"ことメルディアナ魔法学校校長とドネット・マクギネスさんじゃない‼︎

そりゃ見たことあるはずだわ。

よく見ると講堂の中も側面はわからないけど正面は見憶えあるもん!

ということは私は日本ではなくイギリスにいる…。いやいや、それどころか「魔法先生ネギま!」の世界にいるってこと⁈

 

 

 

…なんで?

 

 

 

衝撃の事実に思い至って最初に思ったのはそれ。

 

昨日は「ネギま!」を読んでる途中で寝てしまったみたいだけど、それがなんでメルディアナにいるんだろ?

私日本人よ?

「サラ・ヒューイット」なんて思いっきり外人の名前じゃん。

ていうかここがメルディアナならイギリスにいるってことだから私の方が外人か(笑)

 

 

 

…(笑)ってる場合じゃない‼︎

私に何があったの?今私が「サラ・ヒューイット」になっているのなら元の私はどうなったの?それに「サラ」自身もどうなったのよ⁈

 

学校長とドネットさんに気付いて上がった体温も血の気が引くと同時に下がっていくのがわかる。

答えなんて出るはずないのはわかってるけど、どうしても疑問が止まらない。

今わかってるのは私が「サラ」という女の子になったこと。ここが「ネギま!」の世界ということ。

 

 

 

…どうしろと?

 

思考がループに陥りそうになったその時、

 

「以上で卒業証書授与式を終わります」

 

とアナウンスが流れた。

いつの間にか式は進んでたみたい。

講堂からも人が出ていく。

私と一緒に卒業証書を受け取った子たちも講堂を後にするようだ。

 

「仕方ないか…」

 

ここで無い頭を捻ったところで元の世界には戻れるわけではないことは私にだってわかる。

そもそもここにどうやって来たのかわからないんだし。

納得なんてできるはずないけど、ここに突っ立ってるわけにもいかない。

それならしばらく「サラ」としてこの世界に生きるしかないよね。

なんとなく生きていくはずだったのに、まさか私にもネギ君みたいな波乱万丈がやってくるなんて…。

 

そういえば、ここが「ネギま!」の世界ならネギ君も卒業してあの廊下で幼馴染のアーニャちゃんと修業先の話をしてるはずよね。

修業先は知ってるけどネギ君と話もしてみたいしちょっと捜そっかな…って 言 っ て る そ ば か ら いたぁぁぁぁ!

あの赤毛に愛くるしい顔!アーニャちゃんも一緒じゃない‼︎有名人に会ったことなんて元の世界でもないけど、きっとこんな感じでテンション上がるんだろうなぁ!

さっきはすごく落ち込んでたけど、それもなんのそのって感じ。むしろ落ち込んでた分、余計に嬉しい!

早速お話しないとっ‼︎

 

「こんにちは、ネギ君!アーニャちゃん!」

 

「こ、こんにちは。サラ・ヒューイット?…さん」

 

「こ、こんにちは…」

 

あれ?ネギ君もアーニャちゃんも反応が悪いぞ?

ひょっとして、「サラ」は2人とあまり会話したことがなかったのかな?

 

「そんな他人行儀に言わないで、サラでいいわよ」

 

「はい、サラさん」

 

「……」

 

ネギ君は素直だけどアーニャちゃんは怪しい人を見る目だわ。何かおかしかったかな?

まぁ、いっか。とりあえず修業先を聞かないとね!どこ行くかは知ってるけど。

 

『ところで2人はどこに修業に行くの?』

 

今度こそ2人は信じられないものを見たかのような顔をした。

 

「あれ?私変なこと言った?」

 

「…僕達まだ卒業してないですよ。

一応来年には卒業予定ですが…」

 

「ネギ、この人さっきボーッとしてて名前3回も呼ばれてた人よ…」

 

え?ちょっと待って?ここって「ネギま!」の世界でしょ?だったらネギ君も卒業してるんじゃないの?そしてアーニャちゃんは私を小馬鹿にするかのように言わないで!

 

「ほら、ネギ。さっさと行くわよ」

 

「そ、それでは失礼します。サラさん卒業おめでとうございます」

 

2人はそそくさとこの場を離れてしまった。

 

 

 

…どうしてこうなった?

 

 

 

 

よくよく考えれば私が知ってるのは漫画として描かれているネギ君だけだったのよね。

原作ではポンと卒業シーンが出てたけど条件を満たしてなければ卒業できるわけないのは当たり前。

そして私は卒業するんだから学年が違って顔見知りではない可能性が高いわけで…。

知らない人にいきなり話しかけられたら、そりゃあ引かれるはずだわ。

第一印象最悪だろうなぁ。

 

どうしてジェットコースターみたいに気分が上がったり下がったりしなきゃダメなの?

…ダメだ、この世界を認識したとき以上にショックで涙が出そう…。

 

でも下手したらネギ君が先に卒業している世界に来てる可能性もあったわけよね。

そしたらネギ君に引かれるどころか会えなかったかもしれない、と思うとはるかにマシというものだわ。

そうよ、これから仲良くなればいいのよ。

まだ始まったばかりなんだからクヨクヨしてられない!

泣いてる場合じゃないわよ、私‼︎

それでもやっぱり落ち込むわぁ。

仕方ない、私の修業先でも見よう。

ネギ君は来年卒業予定って言ってたから、先に麻帆良に行って魔法先生か魔法生徒としてネギ君を迎えるのもありね。

魔法先生は無理か。そんな頭よくないし…。

 

と、とりあえず卒業証書を確かめないと。

 

 

卒業証書を開いてみるとちょうど修業先が浮かび上がるところだった。

「なになに…

 

…『ロンドンで占い師』

 

 

 

…は⁈

 

はぁぁぁぁぁぁっ⁈」

 

あまりにも大声だったからか廊下には人が疎らだったが、それでもそこにいた人は私を見る。

でも私はそれどころではない。

そもそもロンドンで占い師という修業はアーニャちゃんの修業だったはずなのに、どうして私にその修行が来るのよ?

あ、ヤバい。私を好奇の目で見る人の中に学校長がいた。こっちに近づいてくる。

この卒業証書見られたら確実にロンドン行き確定じゃない⁈

さっきネギ君に変な目で見られたから修業だけはと思ってたのに、このままじゃネギ君の中の私は変人のまんまじゃないの!

私はネギ君と麻帆良で修業頑張りたいのにどうしてこうなるのよぉ!

 

「廊下で大声を上げるとはどうしたのじゃ?」

 

「い、いえぇ〜。なんでもありませんよ、あははははは」

 

声が上擦っててあきらかにどうかしていた。

案の定、学校長が訝しんだ目で私を見てる。

 

「ちょっと卒業証書を見せてくれんかの?」

 

言うが早いか私の手にあったはずの証書はあっという間もなく、学校長に手の内に収まっていた。

私の人生始まったかと思ったら終わった。

グッバイ麻帆良、ウェルカムロンドン。

もうネギ君の中の私は変人から変わることはないのね。

神様がいるのなら私を何度ドン底に落としたら気が済むのかしら?

 

「サラ君、この証書を見て何を驚いたのかな?」

 

そう言って学校長は私に証書を返してくれた。

しかしそこにはさっき浮かび上がっていたはずの文字が消えてなくなっていた。

私はまた声をあげてしまった。

 

「え、あれ?さっきは文字が浮かび上がってきたはずなのに⁈」

 

「ほほう、浮かび上がった文字が消えたんじゃな?

それが本当なら前代未聞じゃが…。証書にはなんとかいてあったのかな?」

 

証書の文字が消えたのはこれが初めてみたい。

でもどうしよう?

正直にロンドンのことを話した方がいいのかな?

けどロンドンより麻帆良の方に行きたいし…。

でも麻帆良ですって嘘をついてそれがばれたら修業どころじゃなくなりそうよね。

ネギ君の修業先は「日本で先生」としか書いてなかったのに、麻帆良に行くこと前提で話してたのを考えると学校長は修業先を知ってる可能性が高いわね。

それなら正直に話してダメ元で麻帆良行きを訴えてみようかな。

 

どうせ失敗してロンドンに行くことになっても来年まではネギ君もメルディアナにいるんだし、麻帆良に行く前に誤解を解けばいいのよね。

いい加減返事をしないと学校長も怪しむから話しましょう。

 

「証書には『ロンドンで占い師』と書いてありました…」

 

「そうじゃろうな。修業先は生徒の成績や資質を先生方に判断してもらってから、本人のレベルより少し難易度を上げることで更なる資質の向上をはかり、"立派な魔法使い(マギステル・マギ)"を目指してもらおうというものだ。

修業先の判断が適切であれば本人の魔力に反応して修業先が浮かび上がる魔法陣が仕掛けられていたのじゃよ。

適切でない修業など本人のためにはならんからの。

しかしこの証書の魔力に反応する陣は何故か消失したようじゃのう。

サラ君の成績で言えば、まずはロンドンで修業を積んでもらおうというところだったのじゃ」

 

それはつまりどういうことなんでしょう?

 

「しかし、文字が消えてしまったのなら話は変わってくるのう。

何しろこんなことは初めてじゃから、1人だけ修業を後伸ばしにするわけにもいかん。

はてさてどうしたことやら」

 

そう言いながら卒業式の時と同じ少年のような目で、むしろ面白いいたずらを思いついた子供のような目で私を見つめた。

学校長は私のさっきの迷いに気付いていて、それも踏まえて私がどうするのかを試してるみたい。

…それならやっぱり踏み込むしかないでしょ!

 

「私は…、私は麻帆良で生徒として今まで以上に勉強したいです!」

 

「ほほう。じゃが勉強するだけなら麻帆良でなくてもいい気がするがのう。

ここでもできるし、アメリカにもジョンソン魔法学校がある。

なぜ麻帆良なのじゃ?」

 

学校長の目が一転、私を見極めようとしてるかのようにじっと見つめてきた。

まさかネギ君と一緒の学校に行きたいからなんて口が裂けても言えない。

でもネギ君のことは無しにしても、麻帆良に行きたいという気持ちがないわけではない。

じゃあ何故?

 

あとから考えたら私は変わりたかったのだと思う。

これまでなんとなく生きてきた、それが悪いというつもりはない。

そういう人生もありだろう。

でも私は「サラ」になった。

それなら私は「サラ」としてどこまで成長できるのか?

この時点では考えていなかったが無意識のうちにそんな思いが芽生えてたのかもしれない。

そしてこの世界で私が唯一知っている麻帆良を最初の目標としたのかも。

 

でも今はその気持ちに気付いてないし、咄嗟の言葉も出てこなかった時点で私の考えが浅いことは学校長にも予想がついただろう。

だから拙くてもいいから私の気持ちを伝えようと思った。

 

「わかりません。

でもやるからには悔いが残らないよう私にできることを精一杯やりたいです。

それには麻帆良がいいと私は考えました」

 

お粗末な言い訳だと思う。言い訳ですらない。でもよく考えたらこの世界に来て数時間しか経ってないのだから…、ってこれも逃げか。

学校長にさっき宣言したのだから自分ができる範囲で精一杯やるしかないのだ。

私は変わると決めたのだから。

 

「…サラ君の評価を変えねばならんな。

以前は具体的な目標がなく漂ってるだけのようだったが、今はおぼろげながらも目標ができたのは大変良いことだ。

是非麻帆良で学び"立派な魔法使い(マギステル・マギ)"を目指してもらいたい」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

よかった!やっぱり私の言い分はかなりの無理があって、学校長にもまだまだこれからと暗に言われた気がする。

それでも私の思いは伝わったのだと思うと、嬉しさも大きくなるのは仕方ないよね。

 

「修業先の学園長はワシの友人じゃからの。

ま、がんばりなさい」

 

「はい!がんばります!」

 

こうして私は麻帆良に行くことが決まった。

頭の中はすでに麻帆良のことでいっぱいだ。

 

「そういえば、サラ君は日本語は話せたのかな?まだならこれから日本語の勉強をしてもらい、来年の1月から麻帆良の3学期に編入という形も取れるがどうかの?

もちろんそれより早く編入できるが、麻帆良も今は夏休みのはずじゃ。新学期が始まる9月まで、編入は待ってもらわねばならん。

どうするかな?」

 

証書をよく見ると名前の下に今日の日付が書いてたんだけど、今は2001年7月らしい。

原作終わったのが2012年だったから、いつの間にかタイムスリップもしてたみたい。

全然実感が湧かないのが残念。

 

とりあえず編入の話だけど、元々日本人だったんだから日本語はわかるはずなんだよね。

ってことはさっさと麻帆良に行って魔法の勉強始めた方がいいんじゃない?

そうよ、それでいこう!

でも学校長はそのこと知らないから、この夏休みは麻帆良で日本語を勉強するということにしないとね。

 

「できれば夏休みのうちに麻帆良に行って、日本語は現地で学びたいのですがよろしいでしょうか?

やるからにはとことんやりたいのですが…」

 

「それは構わんのじゃが、頑張りすぎて無理をしてはいかんぞ。無理して身体を壊しては、修業にならず本末転倒じゃからな

手続きは1週間もあれば終わるから、終わり次第連絡を送ろう。

その後麻帆良へ向かうとよかろう」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

これでいよいよ麻帆良に行くことが決まったわ。

麻帆良で何が起こるかは知っているけど、私自身に何が待っているかは知らないから、今からワクワクしてきた!




後書き
早速オリジナル設定ですね。
卒業後の修業先。
でも本人にできて当たり前なことを修行としても意味ないですし、あまりにレベルが違いすぎることをやらせても仕方ないですよね。
なのであの形としました。
それと主人公の修業先が消えたのは主人公の特殊能力のせいとします。
いずれわかることなんですけどね。

追記 2015/1/28
今更ですがここはイギリスなので英語をしゃべっていると思ってください…。

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