蓬莱山家に産まれた   作:お腹減った

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衆惡之必察焉・衆好之必察焉

古代中国の哲学者、儒家の始祖・孔子は言った。

『道に聴きて塗に説くは、徳をこれ棄つるなり。』

 

「古之學者爲己、今之學者爲人。其言之不怍、則其爲之也難」

 

神社の裏にある蔵、その地下にあるブリーフィングルームで、上質な椅子に座り、向かい合わせに座って読書している最初の妻を一瞥した。この部屋には、にとりたち河童が造った天井照明があるお蔭で明るいのだが、外に出たら真夜中だ。まだ眠気もないし、後で、星空を眺めにいく予定だ。その序でに、やっと付喪神になったメディスンがいる無名の丘の鈴蘭畑へ赴く気でいる。

視線に気づいたのか、一旦、読むの中断して、微笑んできたが、両脇にある肘掛けに両腕を置き、体重を椅子に預けて身を任せ、天井を見上げると、彼女はまた、活字を読む作業に移行しつつも、苦言を呈した。

 

「ソレを全て観ても、明治時代から昭和時代の結果は変わらないのに」

「そうだが、御浚は大事だ。現天皇が弘文天皇とはいえ、一応『神皇正統記』も読まねば」

「南北朝時代。吉野朝廷の、歴とした正統性もなにもあったモノじゃないわね」

「イザナギとアマテラスの血を引く天皇、天津神の神裔。延いては血の濃さ、純血の方(弘文天皇)が優先だ」

 

古代ギリシアの歴史の父・Ἡρόδοτος(ヘロドトス)曰く。

『何を考えているにせよ、最後まで見ることだ。殆どの場合、神は人間に幸福をちらりと見せた後、奈落に突き落とすものだ。』

オレも永琳と同様、この部屋で『古事記』、『日本書紀』、『出雲国風土記』、『皇室典範』、『ポツダム宣言』、『神皇正統記』、『出雲国造神賀詞』などに目を通しているせいで、静寂だ。この先で必要になる知識とはいえ、正直、かなりの量です。はい。一日かけても、今挙げた全てを読むコトは出来ないよ。載籍浩瀚だから、急いで読むと重要な記載を絶対に見落とすので、時間をかけて通覧しなくてはいけない。おさらいとして、あとで『諏方大明神画詞』も拝見しなくては。

なにせ、行動が伴わない限り(・・・・・・・・・)全ての言論は空虚なのだから(・・・・・・・・・・・・・)

日本の神裔は戦国時代で終わるので、日本で生き残ってるミトコンドリア・イヴとY染色体アダムは、明治時代から昭和時代の捨て駒として使う予定だが、明治の邏卒と五箇条の御誓文どうしようか。

テーブルの上に置いて、題簽されている『日本書紀』を右手で手繰り寄せ、左手でぺらぺら捲る。コレは『古事記』とは違い、日本の歴史の〝正史〟とされている。日本書紀以外の書物で、正史とされている書物は他にもあるが、そう。コレは、ダレカにとって都合がいい〝正史〟なんだよ。

 

「地球は球体、と判ってた古代ギリシア人は天才だった。古代中国人も天才が多かったワケだが、頭おかしいのもいた。しかし、平成時代の人間が、過去の人物にあれこれ言うのは滑稽だよ」

 

「平成時代にある倫理と価値観を、紀元前の人間に言ってたら、失笑ものだからね」

「それで、人間は語るコトを人間から学び、神々から沈黙を学んだ」

 

1944年に起きたインパール作戦で部隊を指揮した 牟田口廉也 は、失敗に終わった。

そして、"責任を取る為に自決するべきだろうか。"というコトを 藤原岩市 に相談すると、彼はこう言った。

『昔から死ぬ死ぬといった人に死んだためしがありません。司令官から私は切腹するからと相談を持ちかけられたら、幕僚としての責任上、 一応形式的にも止めないわけには参りません、司令官としての責任を、真実感じておられるなら、黙って腹を切って下さい。誰も邪魔したり止めたり致しません。心置きなく腹を切って下さい。今回の作戦はそれだけの価値があります。』

 

「〝創作物〟と言えば聴こえはいいが、結局のところ創作物とは、お人形遊びの延長線である」

「ダレもが判りきってるコトなのに、ヒドイ言いようね。諷刺もほどほどにしなくちゃダメよ」

「自己欺瞞ほど楽なものはない。都合の良い所だけ真実だと信じていられるのだから」

 

江戸時代の日本は、文化に関しては栄えた。でも科学に関しては、文化ほど進展はしなかった。

日本なんてさ、古代中国や西洋の文化をパクリまくって、先進国気取ってるだけでしかないのだ。古代ギリシア人と古代中国人より劣る民族だよ。"その文化を日本独自に"、と言うのがたまにいるけど、笑わせるなよ。最初にその文化を築いた人間が、どれだけ偉大だと思ってる。

平成時代の日本人は、紀元前の先人達より、何一つ優れてはいない。所詮、平成時代の人間とは、温故知新でしかないのだ。踪跡の俚諺だって先人達が生みだしたモノだ。

 

「平成時代の日本にさ、〝財閥〟を名乗ってる企業があったら、どう思う」

連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)は、一体なにをしていたのか...気になるわね」

 

平成時代の人間で、よく『最近の世の中は……』と言うモノもいるが、その言葉も古代エジプトの『イプエルの訓戒』にある。若者批判ではなく、世の中批判である。

次に、紀元前356年から紀元前323年の古代ギリシアにいた、Ἀλέξανδρος Γ'(アレクサンドロス3世)は、東方遠征して、ギリシア文明とオリエント文明を融合させた、東西融合――ヘレニズム文化というモノを齎したのは有名だが、その当時の人間は、 独自の文化が崩れ去るコトを嘆き、瞬く間に変化していく世の中について、『世界は老いた……』と評していたのも有名だ。

この話をした意味は、所謂〝原理主義〟または〝古参〟というモノが、紀元前からいたというコトである。つまり人間は、 紀元前からなにも変わってないんだよ。

しかしながら、紀元前と平成時代の人間では、祖国や自国の文化に対する価値観が、同じではなく、全く異なるように、大きく隔てられているコトも、念頭に置かねばならない。ソレは自明の理だろうけど。

 

「そもそも、お人形遊びに使う設定(人形)ってのは、自分が作った人形(設定)ではない。所詮は借り物なのだ。ならば、その借り物の人形(設定)を大事に扱い、設定(人形)に尊重と敬意の念を抱くのは、至極当然の話だろ」

 

そう、どんなにキレイに言い繕おうと、どんなにキレイな言葉でお茶を濁そうと、どんなにその話が面白かろうと、日本神話の神々、あるいは"神"という存在を出した時点で、結局は先人達が生みだしたモノの借り物でしかない。科学や医学だろうとも、歴史や地図や古人類学だろうと、妖怪や日本神話の穢れだろうと、神やGODだろうと聖書の悪魔や天使だろうと、魔法や錬金術だろうと、魔女や妖精だろうと、現人神や霊だろうと、仙人や道教だろうと、価値観や倫理と論理だろうと、怪物や英雄だろうと、半神や人間だろうと、吸血鬼や人魚だろうと、鬼や天狗や河童だろうとも。後世の人間が、その設定を使った時点で、もう同じコトさ。先人たちが築き上げたモノの派性であり、真似事であり、水増しであり、後追いであり、ソレらの二次創作でしかない。平成時代の人間が生みだしたモノの殆どは、何一つ、オリジナルのモノでは、ないのだ。

自分が生み出した設定、などと言うヤツは、無知と、自尊心と、自惚れの塊さ。よって、諒恕する余地なんてあるワケない。

 

「こんな話、当たり前の事なのに、いちいち言わねばならんほどとは嘆かわしい。そんなヤツら、教えを守るユダヤ教徒(キリスト教徒)やイスラム教徒をバカにする資格はなく、クソ民族と言わざるを得ない」

 

よく、ギリシャ神話のパンテオン(神々)は死なない、というモノがいるけど、実際は死ぬ神が結構いる。ギリシャ神話のΑλκυονεύς(アルキュオネウス)とか、Σάτυρος,(サテュロス)とか、他にも結構いるよ。あんまり知られてないだけでな。他には、パウサニアスの『ギリシア記』に出てくる海神・Τρίτων(トリトーン)は、酒を飲んで酔っ払い、眠った時に、斧でトリトーンが殺された話もある。

ソレは巨人・半人半獣だろとか言われそうだけど、死ぬモノはいるんだよ。

 

「……いや、違うな。それ以前に、〝面白ければいい〟という考えのニンゲンは、総じてクソだ」

 

結局のところ、先人が生み出したモノからの後追い、真似事、水増しだ。言わば、先人達から設定を借りて、お人形遊びをしているにすぎない。所詮、平成時代にいる人間とは、先人達からソレ(設定)を借りて、おままごとをしているモノでしかないのだ。平成時代の人間達は、先人達のような設定を生み出さず、ただ借りてる立場でしかない、というコトを自覚した方がいい。

先人達が積み重ねた1000年以上のモノを、全て自分が考えた、みたいにほざくヤツは、非難されない方がおかしいのだよ。面白ければいいって思想、キライだ。

 

言っておくがな、自分が築き上げた設定・モノではないのに、"面白ければいい"なんて、ふざけたコトはぬかすなよ。ソレを言っていいのは、語り継いできた先人達だけだ。

大体、表現・言論の自由。ってのはあるがな、その意味を拡大解釈し、履き違えるのは、本当に、目も当てられない。自由だからって、どんなコトをしても許されるワケねえし、好き勝手していい理由にはなんねえよな。

 

「トゲがあるわね」

「郷原は徳の賊なり。とりあえずソイツらは、ナポリを見てから死ぬべきだな」

 

原始仏典の一つ、経典・ダンマパダ――『法句経』において、古代インドの哲学者・釈迦は言った。

『もしも、"彼は、私を面罵し、殺そうとし、打ち勝った。私からものを強奪した。"という想念をもつ人がいたならば、その人は決して怨みという苦しみが止むことはない。真にこの世において怨みに報いるために怨みをもってこれをしたならばすなわち怨みのやむことはない。怨みを捨ててこそ怨みはやむ。これはすなわち永遠の真理である。』

釈迦の言う通り、感情に左右されるなんて、ダメなのは判ってる。それでも、ダレにだって、譲れないモノが、コレだけは、という妥協できない部分だってあるんだ。オレの場合は、ソレが神話だっただけでな。

極端な言い方をすれば、知り合いでもなんでもない、会ったコトがない人間から、いきなりにも、"死んでくれ"と言われたら、ダレだって拒否するだろう。でも、死にたがってるモノにソレを言うなら、この話は無意味だが。

眼光紙背に徹しろ。とは微塵も思ってないし、唯々諾々もどうかとは思う。

 

「古代中国の儒家の始祖・孔子は、『子絶四、毋意、毋必、毋固、毋我』と言われてるが」

 

儒教は、一部問題があるとはいえ、教えの殆どは、まっとうなモノばかりだ。

そして、古代ギリシアの哲学者・Πρωταγόρας(プロタゴラス)曰く。

『人間は万物の尺度である。』

確かにその通りだ。紀元前の人間は偉大だよ。その言葉を否定する気は、微塵もない。でもさ…

明治時代では既に完成されている各国の神話を放縦して、日本神話・ギリシャ神話・中国神話に、余計な設定やモノで糅然をするのだけは、理解できない。納得できない。出来るワケがないだろ。

ソレは、明治時代で完成してるのに、余計なモノと設定を添加して、改竄や歪曲するな! 

子供と思われても、闊達しろと言われても、コレだけはムリなんだよ。旧約聖書・ギリシャ神話・日本神話を全部読んでいようと、ソレは先人達や、神話に出てくる神々への冒涜としか取れない。

既に完成されている神話に、余計なモノと設定を付け加えて妄想を垂れ流してんじゃねえよッ!

 

「例えば、日本神話(日本列島)主人公(支配者)は、どう観ても天皇・皇室(天津神)だ。天皇の存在が前提として揺るぎない」

 

もちろん、天孫族(天皇)が九州地方から東北地方までの支配者、と言っても、これは琉球王国(沖縄)蝦夷地(北海道)を除いた話だ。ただし、琉球國の場合は、天皇の血を引く源氏の源為朝がいるので、厳密に言えば、蝦夷地だけを除く、と言った方が正確だろう。

古代エジプトのファラオも、神の子孫として国を統治していたのは有名だ。天皇みたいな現人神として君臨してな。とはいえ、天皇の場合、権力を実際に掌握していたのは、300年もないよ。

 

「だが、その主人公が出ない場合、果たしてソレを日本神話だと言えるのか。もはや別モノだろ」

「……あのね弘。私、晦渋もアレだけど、安易に敷衍するのもどうかと思うの」

「禅問答。庭先にある柏の木の話をすると、殆どの人間には理解できないから仕方ない」

 

大体さ、日本神話の神々は、Rex regnat et non gubernat(君臨せずとも統治せず)、とかほざくヤツたまにいるけども、なーに妄言をぬかしてんだって話だよ。日本は昔から神権政治だろ。

神武天皇は、神であり、半神に近い存在なのを忘れてるヤツが多いよ。それに、平氏と源氏が一体ダレの血を引いているか、"知らない"とは言わせんぞ。

そもそも、日本の歴史上、藤原氏、平氏、源氏を称した人間が、過去にどれだけいるのか知っててほざいてるんだろうな。なめるなよ。コレはな、一人、十人、百人の域っていう話じゃねえんだ。ソレ以外でも、皇室(天皇)の子孫を称した氏族は沢山いるし、鮮少とはいえ、国津神の子孫を称した氏族がいるコトも、自覚した方がいいぞ。

藤原氏(天津神・アマノコヤネ)出雲氏(天津神・アメノホヒ)物部氏(天津神・ニギハヤヒ)も、日本の正史通りに進んでいる前提ならば、天津神の血を引く、現人神の神裔みたいなモノじゃねえか。『日本書紀』には出てこないタケミナカタだって、天津神・スサノオの血を引く、大国主の子孫なワケだし、諏訪氏も天津神の血を引いている。ただし、日本神話に出てくるタケミナカタと、長野県で語り継がれてきたタケミナカタの伝承は、同じではないというコトも、あらかじめ顧慮しなくてはいけない。

フハハハハ。ちゃんちゃらおかしいよ。無知は罪ではないが、不知不識は怖い。

 

「......七生報國・尊皇討奸。まるで三島事件の、三島由紀夫が彷彿するわ」

「日本神話が実際に起き、不老の天皇は神なのだ。二・二六事件が起きるのも道理にかなうさ」

「二・二六事件は、日蓮宗で累が及ぶから、色々と面倒ね」

 

永琳は呆れた口ぶりで話すが、言いたいコトについては、オレも同じ見解だ。でもコレは、大事なコトだ。おざなりに、蔑ろにしてはいけない。1000年以上も語り継がれてきたモノなら、尚更だ。例えソレが、視界に映らない存在でも、軽佻浮薄に扱っていいモノではない。

たまに勘違いしてる奴がいるけどさ、仏教においての考えだと、ある人間が死んで、輪廻転生をした場合、次に生まれ変わったとしても、人間になれるのは、望み薄と言っていい。仮に生まれ変わるコトが出来たとしても、次の生は虫とかだろう。

無知は罪ではない。だが、齧った程度で、知ったか振りするのはやめろ。ソレは、ダレカが気安く使っていいモノでは、都合がいい存在では、便利なオモチャではないのだから。

 

「しかしな。神話には宇宙と月と太陽を創った神が記されている。で、地球、あとこの日本とか、異国の大地、それから各国の民族などに動物とか、基本的にその民族の神様が創ったりと様々だ」

 

「でも、それは神話の話。そしてココは日本であり、天皇はプミポン国王とは違うのよ」

 

ギリシャ神話は古代ギリシア人が前提としている。故に、古代ギリシア人が出ないギリシャ神話など、もはやギリシャ神話ではない。旧約聖書はイスラエル人・ヘブライ人・ユダヤ人を前提としている。故に、イスラエル人が出ない旧約聖書など、旧約聖書ではないのだ。

『皇室典範』と『ポツダム宣言』を総覧し、1945年9月2日に大日本帝国と連合国間で交わされた『日本の降伏文章』を横目で観ながら、この先についてあぐねかいていると、向かいから、紙を捲る音だけが響いた。

 

「大抵のコトに言えるけど。どんなコトであれ、拗らせたモノの末路は、醜いわね」

「うむ。でもな、ダレカの妄想で出来たナニかが、ソレら全てを創った場合、クソッたれだ」

 

オレには、オレには無理だ。そんな恥知らずな真似、出来るワケがない。自分が全てを創ったなんて、言えるワケがない。色んな民族が語り継いできた文化の象徴である神話を、否定なんか出来るワケがない。出来るワケないだろ。オレはクズだが、そこまで腐ってないぞ。

よく勘違いされてるんだが、オレは(・・・)女好きなのであって(・・・・・・・・・)妖怪好きではないんだよ(・・・・・・・・・・・)

あの弘法大師はな、『信じて修行すれば誰でも必ず仏になることが出来る。』と言ったが、それは違う。仏になったと自分を騙して、思い込んでるだけだ。自慰行為となんら変わらないんだよ。

 

昔、『メアリー・スー』というキャラもいたが、ダレカの妄想と願望を投影したキャラってのは、"気持ち悪い"と思われて、揶揄されても、ソレは当然の話だ。

何度も言うように、日本神話・ギリシャ神話・インド神話・中国神話・旧約聖書・新約聖書はさ、既に完成されているモノだよ。なのに、ソレらの神話は、クトゥルフ神話とはなにもかもが違う、というコトを、理解してないヤツが多すぎる。なぜ、ギリシャ神話がギリシャ神話と言われるか、なぜ、日本神話が日本神話と言われているのかを、ちゃんと理解してるんだろうな。

あの天津神・国津神・八百萬神(八百万の神)が、妖怪を差別せず、妖怪と仲良くしたり、"神と妖怪は同じ"なんてほざいたら、気味が悪い。まったくもって、悍ましい。

〝ソレ〟はダレカの無知と無自覚が投影され、ダレカの願望と妄想の塊で出来た〝神〟だ。

不愉快極まりない。平然と妄想を垂れ流してるけど、本当に、吐き気がするくらい気持ち悪い。

 

「なにせソレは、各国の歴史と神話を蔑ろにしてるし、ソレは各国の歴史と神話を冒瀆してる」

「その見解は、拡大解釈・曲解じゃないの?」

 

「違う。なぜならソレをするコトは、正史とされる色んな民族の歴史・各国の神話を蔑ろにして、顕示欲(自尊心)の塊の自分勝手なダレカが、妄想(願望)を垂れ流し、ソレらを全否定してるコトと同義だからだ」

 

ソレを理解してないヤツラが、自覚してないヤツラがムダに多すぎる。

そもそも神話っていうモノは、歴史と同じだ。自分たちがどこからきて、自分たちがどうやって生まれ、自分たちが誰の血を引いて、自分たちが住むこの土地は一体ダレが創り上げたのか。それを説明するために、"神"という存在を使い、自分達、つまり民族の歴史を説明したモノが、神話だ。そういう神話の場合が多い。というか、殆どの神話がそれしかない、と言っても過言ではないよ。いや、説明と言うより、証明と言った方が適切かもしれん。

 

「仮にオレがソレをやってたら、とんだクソ野郎だ。そして、そのダレカにも言える」

「弘のコトは好きだけど、婉曲的な表現はキライよ。つまり弘は、自慰行為と颺言したいワケね」

「…せっかく詞藻で曖昧模糊にしたのに身も蓋もない。後でオナニーと言うつもりだったが」

 

コレを言い換えると、つまりこういうコトだ。

"面白ければ、ダレカの願望と妄想が投影されて出来たナニかで、2000年以上のモノを、全て否定してもいい。"

"面白ければ、先人達が築き上げたモノを、ダレカの妄想と願望が投影されたナニかで、ソレら全てを掠め取り、投影されたナニかの偉業にしてもいい。"

横紙破りだな。口幅ったい。呆れを通り越して吹き出す。自分が作った設定、存在、モノではないというのに、恥というモノがないのか。膾に叩きたいワケじゃないが、対岸の火事じゃないんだ。結局は借り物なのだから、融通無碍は、疎略はダメなんだよ。

 

「それにね、そんなコトを言い出したら、あの旧約聖書はどうするの」

「旧約聖書は2000年以上語り継がれてきたモノだ。平成時代で生まれたモノとは重みが違う」

 

ヘブライ神話は先人達が2000年以上語り継いできた神話だ。平成時代にいるダレカの妄想が投影されたナニかと一緒にされるなんて、ヘブライ神話・ユダヤ教・イスラエル人に失礼というモノ。いや、ヘブライ神話を侮辱しているコトと同義である。

例えソレが、ダレカの都合がいいように、改竄されまくったモノでもな。

新約聖書・ヨハネによる福音書 第6章30節~31節

『彼らはイエスに言った、"わたしたちが見てあなたを信じるために、どんなしるしを行って下さいますか。どんなことをして下さいますか。わたしたちの先祖(イスラエル人・ヘブライ人・ユダヤ人)荒野でマナを食べました(旧約聖書・出エジプト記)。それは『天よりのパンを彼らに与えて食べさせた』と書いてあるとおりです。"』

旧約聖書・出エジプト記 第16章4節

『そのとき(ヤハウェ)はモーセに言われた、"見よ、わたしはあなたがたのために、天からパン(マナ)を降らせよう。民は出て日々の分を日ごとに集めなければならない。こうして彼らがわたしの律法に従うかどうかを試みよう。"』

 

「有体に言うとだ。日本神話の神々を出すなら、天皇・皇室にも手を出せよクソ共が。って話さ。古代ギリシア人(古代イスラエル人)が出ないギリシア神話(旧約聖書)など、もはやギリシア神話(ヘブライ神話)ではないのだから」

 

"皆がやってるから自分もした、だから自分だけじゃなく他の人間にもソレを言うべき。"とかほざくヤツがいるけど、ソレは絶対に言ったらダメだ、ソレは一番言ってはいけないコトだ。

いくら面白いとは言え、なにしても許されるなんて考えはふざけてる。なんでもありと思われてるギャグマンガでも、やってはいけないコトだってちゃんとあるんだよ。

例えば、イスラーム教の開祖・預言者محمد(ムハンマド)を、ギャグマンガに登場させ、殺してみたらいいよ。そしてソレを、الشيعة(シーア派)でもوالجماعة(スンニ派)でもいいから、イスラーム信徒に見せたらいいのだ。きっと、みんな笑って許してくれるよ。

日本神話だろうが、中国神話だろうが、ギリシャ神話だろうが、ヘブライ神話だろうが、ソレらは、もう明治時代で完成しているのだ。故に、その完成されたモノを、平成時代の人間が、余計な設定を付け加えていいハズがない。

しかし永琳はソレに同意せず、興味がないと言った声色で、ぴしゃりと撥ね付ける。

 

「私はそんなコト、どうでもいいのだけど」

「お待ちを××(永琳)さん。その常套句を出すとこの話が終わるので、ココは厳に慎みをですね……」

「あの弘法大師(空海)には、空白の七年間があり、妖怪退治した話があったりと、伝説が多い僧よ」

「単に空海が神格化され、尾ひれが付いてる話が多いだけだ。芋が石に、迦陵頻伽や弘法水もな」

「四国地方・阿波国(徳島県)にあり、弘法大師が開基したとされてる、『金磯弁財天(弁才天)』。弁才天(弁財天)と言えば、琵琶(・・)琵琶と言えば(・・・・・・)九十九弁々(・・・・・)。そしてあそこ(金磯弁財天)には、蓬莱山が(・・・・)――」

 

永琳の話を聞いていたが、その先を言わせないために、懐から一冊の書物を取り出す。

コレは平安時代に編纂された古代氏族名鑑、『新撰姓氏録』だ。

中を改めてもらおうにも距離があるので、妻に渡すため、ソレをテーブルに置き、そのまま滑らせて贈りつけ、気を利かせてくれた彼女は、ソレを黙って受け取る。すると、一拍おいて紙の音が耳に入ってきた。

天津神・天皇・神裔の血は戦国時代で終わるのを妻も知ってるし、記憶と知恵の女神だから、忘れてるワケがないのは知ってるが、一応。

 

「『新撰姓氏録』。天神様と言われる菅原道真の氏は菅原氏で、天津神・アメノホヒが祖神ね」

 

「そう。ココが日本の正史通りで、歴史の史実が一致するなら、今の日本(鎌倉時代)とは、天津神と国津神の血を引く人間が殆ど、だというコトを、忘れてはならん」

 

正史通り、というコトは、血縁も、祖先も、改竄し、仮冒したダレカにとって都合がいい歴史通りに進んでいる、というコトだ。ならば、そのダレカに全て都合がいいまま、日本を動かしたらいい。そう、貴族も武家も、殆どの日本人が、全て、アレの血を引いている、歴史通りに。

実際は神裔ではない蝦夷の父と、物部氏と同じ天津神・ニギハヤヒの神裔・阿刀氏の血を引くとされている玉依御前から産まれ、ニニギの天孫降臨に随伴した天津神・アメノオシヒ神裔・大伴氏の後裔ともされた、あの"空海"もだ。

ああ。血に関してだけは、ダレカの都合が良いようにするさ。戦国時代まではな。

 

ニニギ(天孫降臨)に随伴した、天津神の子孫である天孫族達は、日本各地にいる。この話は、国津神の血を引く神裔も例外じゃない。日本は神国(・・・・・)と言われるのも、言い得て妙よ」

 

「八木氏・大神氏・阿曇氏の氏族とは、国津神の後裔だが……天津神の血を引く氏族は、多すぎて例を挙げる気が失せるほどだ」

 

「アメノヒボコ。渡来系氏族なら、波多氏、秦氏、坂上氏、東漢氏、大内氏。有名なのを挙げたら、キリがないわね」

 

古代ギリシアも、古代ローマに征服されなければ、日本と同じだったが……残念だ。

相対する永琳は、新撰姓氏録を観るのをやめて、また小説を読んでいたが、意識をこちらに向けるためか、ゆっくりと両眼を閉じると、片目の瞼を開き、ウインクしたまま、視線を滑らかな動きでオレへと向けた。

真言宗の開祖・空海――弘法大師は言った。

『迷いの世界に狂える人は、その狂っていることを知らない。真実を見抜けない生きとし生けるものは、自分が何も見えていない者であることがわからない。わたしたちは生まれ生まれ生まれ生まれて、生のはじめがわからない。死に死に死に死んで、死のおわりをしらない。』

つまり、空海の言葉を曲解するなら、戒律を守らないクソ生臭坊主を鏖殺しろというコトですね、はい。僧兵と生臭坊主達は、天津神と国津神に頼んで根絶やしにしてもらったので、残った僧は、真面目に修行して、戒律を護持する和尚しか残ってないのが現状だよ。本来は明治時代だったが、鎌倉時代で神仏分離は為終えてるので、仏教に関わるコトはないだろう。多分。

 

「でも、弘の話を聞いて、懐かしい話を思い出した」

 

オレが見たコトない小説を読んでいた永琳は、ソレをテーブルに置き、どこから取り出したのか、ヘシオドスの『神統記』と『仕事と日』。ホメーロスの『イーリアス』と『オデュッセイア』。オウィディウスの『変身物語』。パウサニアスの『ギリシア記』など、今挙げたモノ以外にも次々と出し始め、古代ギリシアの有名どころをテーブルに並べると、ソレで埋め尽くされてしまった。

多すぎて山積みになっているせいで、反対側に座っている永琳の顔が見えない。だが、その宝の山でめぼしいモノを見つけたらしく、永琳はその一つを左手で掴み、積まれていた作品を少しだけ残して、それ以外は魔方陣で片づけた。

 

「ある事件が起きて、その事件が起きた因子を調べる。でもその犯人が、実は、自分だった話」

「ギリシャ神話の神裔・Οἰδίπους(オイディプース)か」

 

犯人は当然ぼくでもなければ真理でもなく......

…思い出した。ギリシャの諺に、parturient(山が産気づいた) montes,nascetur ridiculus mus(お笑い種のネズミが一匹生まれた)ってのがあったな。戦国時代の日本にソレが伝わり、大山鳴動鼠一匹、という諺が出来たのは有名だ。

永琳はオイディプースの話をしながらも、書物を流し読みしながら、なにかを見つけようとしている。すると、その人探しは見つかったのか、捲っていた右手が止まり、そのページを注視したまま、彼女は、尋ね人の名を出した。

 

「ギリシャ神話の神裔・Λαοδάμεια(ラーオダメイア)を、弘は憶えてる?」

 

イヤな名を出されて、 霎時だが面を食らった。ギリシャ神話の神裔・Λαοδάμεια(ラーオダメイア).その名は、悲劇の女性の名だ。碌な目に遭っていない、神裔の女性。

永琳の声色を察するに、この話は、全く意味がない話ではないのだろう。そう感じ、返答するコトにした。

 

「インド神話のサティーと、北欧神話のグルヴェイグに似てるな。あとイザナミ」

「厳密にはラーオダメイアとは違うわ。サティーとグルヴェイグは女神で、双方は生き返ってる」

 

仕儀は、ギリシャ神話の神裔・Λαοδάμεια(ラーオダメイア)は、トロイア戦争で夫のプローテシラーオスが死んで、最初の戦死者になった。しかし彼女は、その夫が死んでも忘れるコトが出来ず、夫に似た像を作って交わったが、ソレを憐れんだギリシャ神話の神々は、夫を冥府から呼び戻した。彼女はそれを喜んだけど、また夫が冥府に戻されたて絶望し、後を追うように自殺した、だったかな。

 

「いつまでも忘れずに、愛した夫を思い続けて自殺し、後を追った哀れな女。本当に、哀れ……」

 

永琳は両目を瞑り、なんと言うべきか判らない、形容できない妙な表情で、胸に痞えて、溜まりに溜まった、名状し難いナニかをひり出して、空にしようと思ったのか、大きな溜息を吐きだすと、またオレを観た。

たまに永琳はこんな表情になる。いや、どんな表情でも永琳は美人だからこの表情もキライじゃなし、寧ろ好きだけども、同病相哀れむというモノかな。ラーオダメイアと自分を重ねてるのだろうか。この時ほど、井戸を覗くみたいに、永琳がなにを考えてるのかが、簡単に判ったらいいと思ったコトはない。でも、ウェルテル効果は困るぞ。

 

「弘も、そう思わない?」

××(永琳)、日本の百合若大臣とギリシアのオデュッセイアのような復讐に、駆られてないだろうな。オレが死なないコトは知ってるだろ。正確に言えば、死ねないだが」

 

「復讐なんて考えてない。だけど、言うのも詮無いかしら。うん、今の言葉で安心した」

「早良親王、小野篁、平将門、菅原道真、北畠の怨念の祟りは、ダブスタは勘弁してほしい」

 

永琳はパッと点燈したかのように、さっきまでの暗い表情に蓋をして、言葉にしなかった無数の想いを、心の片隅に追いやった。妻の心情を斟酌するに、オレが死ぬ運命には、今までなにもできなかったから、永琳の心が自責の念という名の無数の針が突き刺さり、まるで、痛くて痛くてたまらない針の筵のようで、それでいて後味の悪さが、胸中のわだかまりとして、心に残っているのだろう。溜飲が下がってるようには観えないし。

向かい合わせにいる妻は、探し物を見つけて満足したのか、テーブルに並べたギリシャ神話の書物を全て回収し、魔方陣でどこぞに転移させた。

 

「もう、愁嘆場はイヤよ。愛するヒトが傍にいないとダメになる女なの。だから一柱にしないで」

「大丈夫だよ。××(永琳)は心配性だな」

「夫が嘘つきだから戒めるのよ。私は弘がいないと片輪者だというコトを、絶対に忘れないでね」

 

〝葦黴のごとく萌えあがるものによりてなれる神の名は。〟これは、古事記だったかな。

手ぐすねを引き、橋頭堡はすでに築き終えているんだ。帰趨、鎌首をもたげるコトはない。

またオレが死んだとしても、小泉八雲の『蠅のはなし』では、死んだ人間が蝿に転生する話があるし、ソレも面白そうだよ。蝿だと人格なんてないだろうし、オレ神だから、転生できるのかは判らんけど。でも、インド神話の話では転生してる話が多いし、案外、夭折した後は転生できるかもしれない。

そういや、中国の『子不語』には、自分の前世と来世を知っていて、死んだその日に生まれ子へと転生する話があるし、確かインドの『カター・サリット・サーガラ』では、自分の前世を観る事が出来る皿があった。他に知ってるのは、平安時代の『今鏡』と『更級日記』、中国の『剪灯新話』には、自分の前世を教えられる話もある。後、古代ローマの『変身物語』に出てくる古代ギリシアの哲学者・ピュタゴラスも、輪廻転生について語ってたか。

 

オレが読んだモノとはいえ、パッと思い出せるだけでもこんなにあるよ。つまりだな、輪廻転生にも、積み重ねてきた、語り継がれてきたそれ相応の歴史があるんだ。当たり前みたいにその設定を使ってるヤツいるけどさ、その輪廻転生の歴史調べず、安易に転生設定使うヤツは、先人達に失礼と思わないのか。

憑依する設定だってそうだ。ソレも、1000年以上も前から先人達が語り継がれてきたモノだよ。当たり前みたいに使ってるヤツは、その設定全てに、長い歴史がある設定だってコトを、自覚し、理解した方がいい。

どんなモノであれ、ちゃんと一から十まで読んだり、調べるコトもしないのにその設定を使うとか、片腹痛い。そんなヤツラ、先人達に対する冒涜と取られて、陋劣されてもおかしくねえんだよ。不労所得はするな。

 

神と妖怪だってそうだ。相手が天皇みたいな神裔ならともかく、神と妖怪が平成時代の人間を愛したりするワケないだろ。気持ち悪いんだよ。

神と妖怪がどういう存在か、その伝承・古い文献・絵巻・歴史を調べず、ダレカのおままごとに、お人形遊びに使うな。

 

また呑まれかけた矢先、目の前にいる妻は、穏やかな口調で、子供を宥めさせるように、言った。

 

「イヤって言われても。ずっと、弘の傍にいるからね。こう見えて私、しつこい女なの」

「……ああ。今までも尽くしてくれたのは知ってる。コレでも、感謝してるんだ」

 

面と向かって言ってくれるのは嬉しいが、存外、照れる。世界がまだ初期頃だった時から言われ続けているが、聞き飽きたコトはないし、寧ろ、心地いい。

張りつめていた空気は次第に萎んでいき、知恵と記憶の女神は気持ちを切り替えるため、書物を閉じ、しばしの別れを惜しむ恋人のように、もどかしい気持ちを抑えながらも、部屋を出ようと椅子から立ちあがった。

 

"蓬莱の薬を飲んで欲しい"と、永琳は言わなかった。催促する気はないらしい。世界が初期頃から今までで、面倒なコトを頼み、色んな苦労させてしまったのに、ただオレが、自分から飲もうとするのを待つなんて、いい女だ。あの時、娶ろうとして、本当によかった。

まるで、そう、仏教の開祖・釈迦は、何年も肉体に苦痛を与える苦行をして、もう骨と皮しかないくらい痩せこけたが、スジャータという女性が、乳糜を供養してくれて、釈迦は命を救われ、悟りの境地に到達した話がある。今のオレは、まさにそんな心境だ。

 

「なんだか、似合わないコトをしたかも。諏訪子、白蓮、幽々子、早苗の寝顔でも観て来るわ」

「……多いな」

「そうそう。鈴蘭畑に行くなら、折角だしメディスンから毒を貰って来てね」

「言うコトに従ってくれたらな」

「あの子は素直じゃないけど、弘になら、文句を言いながら渡すのよ」

 

彼女は風を背中に受けて押し流されるというか、目に見えない糸に引かれている様に歩いて行き、気に掛けるような視線を流眄でこちらに向けたが、あとは振り向きもせず、裳裾を揺らしながら、娘たちの寝顔を観て癒されるため、入り口の自動ドアから廊下に出た。なぜか鈴蘭畑へ行くコトがバレてたけど、流石である。

ああいう時の永琳とは極力、オレが一緒にいようとするべきじゃない。甘えたい時は向こうから来る。無理にソレをすると、ひっつき虫みたいに、一日中くっ付いて傍にいようとするんだ。オレが押したワケでもないのに、一度スイッチが入ると、四六時中そんな感じになるから、適度に愛でなくてはいけない。オレが長年かけて築き上げた説明書にも、取り扱い注意と書かれている。諏訪子が生まれたお蔭で、昔と比べるとソレも減った気はするが。

 

「倉庫を覗いてから、鈴蘭畑へ行くか」

 

この部屋の入り口以外には、もう一つだけ扉がある。オレも重い腰を上げ、この部屋の隅に造られたアレは、部屋というより、倉庫というべきかもしれない。ソコへ赴くと、冷気を逃がさないための厳重な扉に右手を当て、こっちとあっちを完全に隔離する、まるで、閉鎖病棟のような扉に設置された、申し訳ない程度にある円形の窓ガラスを覗き込むと、観ただけで悴み、しもやけになりそうなくらいの冷気が漂う場所。有体に言えば冷凍倉庫だ。倉庫と言っても食材などを入れてる訳じゃない。ただ妻の一人が、ココで寝てるだけである。

 

「レティは……いた。まだ寝てるのか」

 

敷布団を敷いて、その上で長襦袢のまま、抱き枕に抱き着きながら寝ていた。いや雪女なのは判ってるけど、寒くないのか。

なんのためにこんなモノを造ってあるのか。ソレは、単純に雪女のレティの部屋だからだ。基本的にここでレティは寝てる。今は秋だから、この冷凍倉庫から出てくるコトはないが、もうすぐ冬の季節を迎える。そろそろ、起きるハズだ。こうして覗き見が出来るから、プライベートが全くない部屋だけど、レティは特に気にしてない。

 

このまま観てたら風邪を引きそうだ。ここは撤退し、再起を図ろうとしたら、なにかが開く音が聞こえる。ダレカが来たのかと思い、入り口の自動ドアへ目線を向けると、ポニーテールを舞わせながら、依姫がブリーフィングルームに入ってきた。月の民と鎌倉幕府について頼んでいたが、どうやら、無事に終えて、諏訪国へ帰って来たようだ。

 

「弘さん。鎌倉幕府は恙無く潰してきました」

「悪い、助かったよ。なら養生して、産んだ子を育てるコトに専念してくれ」

「判りました」

 

藍に預けていたハズの産んだ赤子を、依姫が両手で抱いているが、永琳と入れ替わりに来た妻は、入り口付近で立ち止まり報告する。月の都と月の民の事後処理、そして鎌倉幕府を潰すコトを任されていた豊姫と依姫の仕事は、コレでなくなった。後は、豊姫と依姫がしたいコトをしてもらう。コレと言って、仕事はないのだ。

ココにいるのは、オレ、依姫、あとは産まれた赤ん坊だけだが、そういえば、鎌倉幕府へ一緒に行った豊姫が見当たらない。

 

「ところで、豊姫はどうした」

「お姉様なら私に報告を押し付けて、諏訪国を観て回ると言ってましたよ」

「観て回るって……豊姫だから仕方ないな。依姫はいいのか」

「私は俗世に興味はありません。一先ずは、この子を育てます」

「そうか。なら当分は、諏訪国で好きに過ごせばいい」

 

文に頼んで一っ飛びしてもらい、源氏の足利高氏へと、既に勅諭として命を下している。室町幕府が創立されるのも時間の問題だろう。

鎌倉時代には、大地震が何度も起きて津波が発生した記録がある。そこで、海神の豊姫と依姫二柱に持たせておいた、日本神話の潮盈珠と潮乾珠を使って海を操ってもらい、鎌倉幕府を襲うような津波を意図的に起こさせ、ある程度死んでもらった。とはいえ、一部を除くとだが、津波で殺した人間は、ミトコンドリア・イヴとY染色体アダムばかりだ。

ただ、比企氏が津波で族滅したけど、比企氏が滅ぶのは歴史通りだから問題ない。神裔の梶原氏、城氏、和田氏、三浦氏とかは津波でちょろっと死んだ。でも、少ないとはいえ生き残りがいるから、ソレらの血筋と家は断絶はしていない。例の北条氏はある程度、存命している。源義仲もだ。

やっと、やっと室町時代。だが、嬉しいという感情は皆無。ソコは重要ではない。室町時代だろうが戦国時代だろうが、ソレは時間が進んでいるという証の、時計代わりに使っているにすぎないからだ。

もう少しで、この日本に、あのミトコンドリア・イヴと、Y染色体アダムの、クソッたれな人種ばかりが、鬱陶しいくらいに増える。が、殺すにしても、少なくとも平成時代までは、我慢しなくてはいけない。

 

もう遅いし、依姫にはどこで寝泊りして貰おうか。いや、別に神社で寝泊りしてくれてもいいんだが、一応聞いておこう。寝泊りするにしても、寺子屋だってあるし。

 

「住むとしたら、神社か寺子屋、どっちがいい」

「神社でお願いします」

 

依姫は最初から決めていたようで、迷うことなく返す。ただ、赤ん坊を抱いて気が抜けていたのか、それとも真夜中に帰って来たのも重なってか、少し眠たそうだ。

…神社の方がいいのか。咲夜の能力のお蔭で、神社の空間を拡張しているから、空き部屋も多い。料理は全部、巫女の藍が作るし、洗濯と家事も、藍が進んで請け負っているので、住むにしても、大した不便はない。とはいえ、寺子屋、と言っても、あそこもかなりの空き部屋がある上に、ムダに広いので、ソッチの方が快適だと思う。

というのが建前で、本音は、神社にいるオレの妻が、殆どは妖怪だから、月の民の依姫は、ソレに耐えきれるのか心配ゆえ、寺子屋の方がいいんじゃないかな、と余計な心配を勝手にしているだけだ。

記憶と感情が回帰してるのは、判ってるんだ。だが依姫も、オレと永琳ほどではないにしろ、妖怪について印象操作されたり、倫理・価値観を植え付けられている。豊姫にはソコまで浸透してないが、依姫の場合は根深い、と言っても過言ではない。

そんな心配を見透した妻は、今も抱っこし、熟睡している赤ん坊を愛おしそうに、慈しみながら観て、諭すように、オレの不安を払拭するように言ってくれた。

 

「弘さんの傍に置いて下さい。私は、あの時にそう言いましたよ。検討するまでもありません」

「……判った。一旦、地下から出ようか」

 

さっきの永琳の時もそうだったが、あっさりと、思ってるコトが妻に看破された。もしかしたら、思ってるコトが顔に出やすいのかもしれない。

依姫も眠たそうだし、なにより、赤ん坊をいつまでもココにいさせるのは忍びない。ソレに、神社に行って床に就くにしても、蔵の地下から出なきゃいけないので、依姫を連れてこの部屋から出た。

 

部屋から出ると、隧道のような廊下の両脇には、一定の間隔をおいて、無数の扉がずらーっとあり、枚挙に遑がない。その1つ1つを開けた先には、河童たちが集まり、それぞれ違うモノを作ってる、と聞いた。オレは河童のにとりと盟約を交わしたが、実際のところ河童達は、永琳と神奈子が従えてるようなモノだ。鬼と天狗はオレだが。

地下から出る為、廊下の中央を歩き続けているが、まるで、敷き詰められているような扉が否応にも視界に入るので、かなり気になるけど、ひややかな廊下を抜けて、やっと地上に出る為の手段、リノリウムの階段へと到着。

依姫は赤ん坊を抱いているので、倒れてしまった場合オレが受け止める準備をして、先に上ってもらおうとしたら、階段を上るだけで大げさだと言われ、一笑された。

ひんやりとした手すりを握って、そのまま無事に登って行くのを確認しつつ、後に続き、階段を上り終えると蔵の中へ出る。蔵と言っても大したモノは無く、定期的に藍が掃除をしてくれてるので、塵埃は全くない。

が、ここにいても仕方ないので、外へ出ると、辺りは真っ暗で、冷えた空気を吸い込み、肺へと送られる。不気味なくらい物音が聞こえないし、夜深人静が引き立つ。

 

「神社の案内は…必要ないか。空いてる部屋はいくらでもあるし、そこで寝てくれ」

「はい。おやすみなさい、弘さん。鈴蘭畑に行くのも、程々にしてくださいね」

 

子供を窘めるような言い方をして、赤ん坊を抱っこしたまま、依姫は神社へと向かった。しかし、鈴蘭畑に行くコトさえも見抜かれていたが、オレってそんなに判りやすいのだろうか。

本当ならば、オレが神社へと案内したり、どこの部屋が空いているかをするべきなんだろうけど、依姫は回帰してるから、全部憶えてる。そう、世界がまだ初期頃だった、あの時の記憶も。

同じ……いや、同じではない。オレも、永琳も、神綺も、サリエルも、豊姫も、依姫も、輝夜も、魅魔も、エリスも、幻月も、夢月も、エリーも、ユウゲンマガンも、あの時、××神話を捨てたのだ。シンギョク・コンガラ・キクリ・サグメはともかく、咲夜でさえ……

 

「…紀元前の古代ギリシア人(古代マケドニア人)と平成時代のギリシア人、紀元前の古代中国人と平成時代の中国人、紀元前の古代日本人と平成時代の日本人が、血を含めて、同じ民族なワケ、ないのだから」

 

古代ギリシア・古代中国の地に、中世、平成時代までで、どれだけ後からきた別の民族がいると思ってるんだ。平成時代にいる民族は、もう紀元前の時とは別モノで、同じ民族では、ないんだよ。

だから天神地祇たちは、天孫族の天皇(皇室)・出雲氏・平氏・源氏・土師氏・尾張氏・物部氏・藤原氏・諏訪氏・稗田氏・藤原氏・小野氏のような神裔を不老にし、寿命で死ぬコトがないよう、加味したのだから。

 

 

群青な夜空を見上げると、空を覆いつくほどの星が、日本列島を俯瞰しながらも、満遍なく輝いていた。

星、星か。確か星と言えば、インド神話では北極星の神となった ドゥルヴァ は、元々人間だったが、ヴィシュヌ神の手により、人間から神に、北極星になったんだっけか。ドゥルヴァは、天皇みたいに、ただの人間じゃないがな。

……あ、インド神話で思い出した。以前、鬼女の紅葉が持っていたお琴を(・・・・・・・・・・・)貰った(・・・)のはいいけど、あの九十九八橋は、まだ、お琴の九十九神(付喪神)へと成っていない。九十九八橋を九十九神(付喪神)にするには、琵琶が、琵琶の付喪神・九十九弁々が必要不可欠なのだ。だから、インド神話のसरस्वती(サラスヴァティー)である弁才天に琵琶を貰っておくコトを、忘れないようしなくてはいけない。

 

でも、面倒だな。神使のダレカに行かせようか。現在、オレの神使として諏訪国にいるのは、

狐の藍、兎のてゐ、河童のにとり、天狗の文・椛・はたて、鼠のナズーリン、人魚のわかさぎ姫、虎の寅丸星、二ホンオオカミの影狼、狸の二ッ岩マミゾウだ。

お燐は輝夜のところにいて、藍・はたて・椛は出産を終えたばかりなので、頼むコトは出来ない。てゐとにとりは永琳と神奈子に色々頼まれて忙しそうだし、わかさぎ姫は、永琳から人間になる薬を貰っているが、神子との取り決めにより、諏訪湖から動くコト、動かせるコトも基本的に出来ない。文には他にしてもらうコトがあるし、お空は神綺のペットだからなあ。

消去法でいくと、すぐに動けるのは、ナズーリン、星、マミゾウ、影狼だろうか。しかしながら、弁才天に礼節を欠き、心証を悪くさせると、後が面倒だから、マミゾウが……いいかもしれんな。星とナズーリンもいいが、あの化け狸は記憶を回帰し、松傘より年嵩で、礼儀と作法は心得てる上に、アイツも、一応は神様だから。

 

「しかし……あなや。てかデケー」

 

さっきから星を眺めているが、背に月を置き、月明かりに照らされながらも、天空に巨大大陸が漂っていた。

前にはたてと椛に命じて、九州地方にある高千穂峰の山頂部に突き刺さしたまま放置されていた、日本神話の天逆鉾を、実娘の諏訪子へ能力と天逆鉾を使って巨大大陸を創ってくれと頼んでいたが、ユーラシア大陸規模の大地を創ってもらい、遂に完成しました。アレもいつか使う日が来る。いや、あそこに一度皆殺しにした月の民を住ませようかなという考えは、無きにしも非ずだけど、それだけの理由で、諏訪子にアレを創ってもらったワケじゃない。

よーく目を凝らしてみると、天守閣が視界に入り、次に『輝針城』もアソコに建てられているのが観える。あの城、天空大陸の裏に建てられてるので、逆さになっているが。

ソレを見詰めつつ、能面として側頭部に張り付いているこころへと話しかけた。

 

「こころは、室町時代にいた世阿弥が作者の、能の演目の1つ『融』って知ってるか」

「月は死者の世界、とかいう能だっけ?」

「そう。霊を題材にしたモノで、月の都が出てくる。そして月とは死者の国、という能だ」

「だから月の民を殺したの?」

「中らずと雖も遠からず」

 

だから××神話の月の民を全てを殺した、ワケではないんだけど。月の民全てを、あの天空大陸に移住して貰うためには、皆殺しが必要なコトではあったから。

オレは二回死んで、魅魔も一回死んでる。今は普通に生きてるとはいえ、生き返ったワケじゃないんだが。

道行く人よ。余はペルシア帝国の建設者キュロスなり。願わくば、わが死体をおおうこの一片の土をわれに与うるを惜しむなかれ。

 

「世阿弥と言えば、鎌倉時代末期から南北朝時代の武将に、佐々木道誉ってのがいてな」

「知ってる。佐々木氏は源氏だから、神裔だね」

「うむ。オレ、アイツだけはかなり気に入ってるんだ」

 

足利高氏(尊氏)も田楽が好きだったっけか。足利義満も田楽を気に入り、よく世阿弥と観阿弥の観世一座を召してたな。肝心の足利高氏は、室町時代を創らせている最中だから、もう少し後の話。

そして足利義満と言えば、陰陽師を重用したので有名だ。古代日本には陰陽師というのが普通にいたワケだが。歴史上、才能豊かな陰陽師はいた。

確かにいたよ。いたが……忘れてもらっては困る。その陰陽師たちの殆どは、一体ダレの血を引いているのかを。

例えば、飛鳥時代・奈良時代・平安時代・鎌倉時代・室町時代・戦国時代の貴族・武家・公家とは、そもそもの始まりがダレの血縁で、ダレが祖先で、ダレの家系かを、"知らない"とは言わせんぞ。足利氏も、血の元を辿れば、アソコに行き着くんだ。

平氏の平将門も、源氏の源義仲も、織田氏も、那須氏も、島津氏も、突き詰めてしまえば、みんな同じなのだ。ウソかホントかは、どうでもいいんだよ。だからオレも、今は大人しくしてるんじゃないか。だからオレは、女のコトだけを考えて、今は忘れようとしてるんじゃねえか。

ミトコンドリア・イヴと、Y染色体アダムが、普通に生きている、こんなクソみてえな時でもな。

そして、あの阿倍氏の安倍晴明(・・・・)も、土御門家も、天皇の血を引いている(・・・・・・・・・・)コトを忘れちゃいけない。系図を観たら判るが、第8代天皇・孝元天皇の第1皇子・大彦の血を引いている、皇別氏族だというコトをな。

 

「月かぁ...鎌倉時代の『十訓抄』には、月の宮を訪れる話もあったね。あと竹取物語」

「……竹取物語はともかく、なぜ十訓抄を知ってるんだ。永琳の入れ知恵か」

 

月は昇る百尺の楼、じゃなくて月に依りて百尺の楼に上るか。

しかし、あの大きさだと目立つし、何より今も月の光の進行を遮っているので、本来なら諏訪国も影に覆われているハズだが、あの天空大陸を光学迷彩で、一部のモノ以外に観えないよう隠してる。オレもうっすらと観えるくらいだ。今は鎌倉時代だから、アレはあまり重要じゃない。今は。

ただ、戦国時代で神裔は打ち止めにするから、その神裔たちをアレに住んでもらおう、と思って、実娘の諏訪子に創らせたんだ。最初は、地上にいたままの方がいいんじゃないかなと思ったけど、やっぱりやめた。神裔と、ただの人間を判りやすくするためには、区域はあった方がいい。

 

空、星、天空大陸を眺めるのに飽きたのか、こころは扇動を促したので、ココは従うコトにした。

 

「弘天さん弘天さん。鈴蘭畑へ行こう」

「そうしようそうしよう」

 

神社から鳥居まで咲いている桜の西行妖とは違い、蔵の近くには、ウメが咲いているが、このウメもなぜか一年中咲いている。原因は不明。ウメも綺麗だし、いつでも花見が出来ていいんだけど。ココか西行妖で、勇儀、萃香、華扇、紅葉、パルスィ、ヤマメたち鬼女が、よく酒盛りしてるから。

鎮守の森を一瞥しつつ、鈴蘭畑へと向かうために、鳥居まで行こうと歩いていたら、参道の脇にでかでかと咲いている桜、西行妖が枝を伸ばし、オレの右手に絡ませてきた。ぐいぐい引っ張ってもビクともしない。幽香の妖力と能力で育った桜だからだと思うが、枝のクセにかなり頑丈だ。恐らく、この枝を刃物で斬りつけても、無意味だろう。

 

「なんだ、遊んで欲しいのか。いつも幽々子と遊んでるクセに、仕方ないヤツだな」

「仕方ないヤツだなー」

 

オレの言に、こころは真似しながらも、能面から人型に成ったが、不満を口にはしなかった。

西行妖は、肯定的な発言を聞いたせいか、次から次へと枝を伸ばし始めて、右手を雁字搦めにし、樹木へ来させようとしてるけど、殺そうとか、苦しめようとする敵意は感じない。まだ時間の余裕はあるので、西行妖の元へと歩き出し、近づくにつれて右手に絡まっていた枝を緩め、解放されていくが、樹下へ到着すると、もう右手の軛はなくなった。多分、コイツは、ダレカが傍にいて欲しかっただけかもしれん。

 

「ソコには、なにもないよ」

「判ってる。幽々子は生きてるし、この西行妖の根元に、ダレカの死体はない」

「死体と言えば…ギリシャ神話の神裔・Ἰνώ(イーノー)は、死んだ後、ΖΕΥΣ,(ゼウス)さんの手で神へとなった女性」

「……本当に、よく知っている」

 

実を言うと、あのヤハウェの手で死者を蘇らせた話は、結構ある。その例を挙げたら、キリがないくらいに。

旧約聖書・列王紀上 第17章21節~22節

『そして三度その子供の上に身を伸ばし、(ヤハウェ)に呼ばわって言った、"わが神、主よ、この子供の魂をもとに帰らせてください。"主はエリヤの声を聞きいれられたので、その子供の魂はもとに帰って、彼は生きかえった。』

旧約聖書・詩篇 第30篇3節

『主よ、あなたはわたしの魂を陰府からひきあげ、墓に下る者のうちから、わたしを生き返らせてくださいました。』

 

死者か。新約聖書には、死んだ者が生き返る話が結構あったな。イエス・キリストも、御使(天使)によると、蘇ってるらしいが。

現人神の早苗と、神の子とされるイエス・キリストは、似てるよ。双方とも、神であり、神の血を引いて、しかも奇跡起こしてる。正直、酷似しすぎだ。

新約聖書・ヨハネによる福音書 第6章12節

『人々がじゅうぶんに食べたのち、イエスは弟子たちに言われた、"少しでもむだにならないように、パンくずのあまりを集めなさい。"そこで彼らが集めると、五つの大麦のパンを食べて残ったパンくずは、十二のかごにいっぱいになった。』

新約聖書・マルコによる福音書 第1章40節~42節

『ひとりのらい病人が、イエスのところに願いにきて、ひざまずいて言った、"みこころでしたら、きよめていただけるのですが。"イエスは深くあわれみ、手を伸ばして彼にさわり、"そうしてあげよう、きよくなれ"と言われた。すると、らい病が直ちに去って、その人はきよくなった。』

新約聖書・マタイによる福音書 第14章25節~27節

『イエスは夜明けの四時ごろ、海の上を歩いて彼らの方へ行かれた。弟子たちは、イエスが海の上を歩いておられるのを見て、幽霊だと言っておじ惑い、恐怖のあまり叫び声をあげた。しかし、イエスはすぐに彼らに声をかけて、"しっかりするのだ、わたしである。恐れることはない"と言われた。』

 

「神裔の女性・Σεμέλη(セメレー)も、死後は女神になってたよね」

「ソレは、ΖΕΥΣ,(ゼウス)Σεμέλη(セメレー)の息子ΔΙΟΝΥΣΟΣ(ディオニューソス)のお蔭だな」

 

こころに指摘されながらも、西行妖の根元に右手を当てて、かつての、記憶を無くしたあのコの、靄にかかるほど昔の記憶だが、朧げながらも想起される。ココは、冥界にある白玉楼ではなくて、諏訪国だが。

幽々子は、白蓮、命蓮、早苗、藤原妹紅、豊聡耳神子、物部布都、蘇我屠自古、稗田と同じ神裔。

そして、ギリシャ神話の神裔・半神Ἰνώ(イーノー)Σεμέλη(セメレー)は、死後、神になった話がある女性だ。

 

「勇儀さんから、真夜中の花見もいいモノだって聞いたけど、未だにピンとこないや」

「こころも、記憶と感情は戻ってるハズだが」

「んー。景色を楽しむっていうモノに理解できない感じ、だと思う」

 

面霊気は、人型のまま西行妖を見上げながら、首を傾げていた。言いたいコトは判るし、共感できる部分もあるが、こころの場合は、単純に、そういう琴線に触れるコトに関してだけ、鈍感なだけではないだろうか。

 

「マルコ・ポーロの『東方見聞録』と、西洋人か……天子を迎えに行った方がいいのかもしれん」

 

風が吹く中で、桜が散っていく風情を眺めながら思うが、この桜のコトを、幽々子は憶えてないのに、西行妖の傍にいようとする。多分、無意識だろう。やはり、白蓮と同じく、幽々子にも、かつての、四季映姫から、冥界に住む幽霊たちの管理を任されていた時のナニかが、残ってるのかもしれない。

腰を下ろして、能面になったこころを側頭部に付け直し、樹下に背中を預けていたら、大きな声で呼ばれ、心臓が飛び出るくらい驚き、頭を樹木にぶつけてしまった。

 

「お前さん!」

「うわッ!? ってなんだ小町か。急に出てくるとビックリするから、やめてくれると助かる」

「それどころじゃないよ!」

 

よほど急いでいたのか、息を切らしつつも鬼気迫る勢いで小町が詰め寄ってきた。諏訪国にいるというコトは、小町の能力を使い、小野篁と一緒に移住を終えたのだろうが、そんなコトを説明する暇もない様子の小町は、諏訪国に移住したせいで、かつての上司と出会ってしまった理由を尋ねる。そう言えば、小町に伝えるの、忘れてた。

 

「どうしてあの映姫様がいるのさ!? 予定では戦国時代か昭和時代のハズだったよね!」

「どこぞの女神と仙霊のせいで予定が変わったんだ。…××神話だってもう少し後だったのに」

「……女神と仙霊って、符牒かなにかかい?」

 

小町は月の都とか、へカーティアや純狐について全く知らない。だからなんのコトかを把握できなかった彼女は、今の話を追求しようとした瞬間、ダレカが謦欬をした。オレと小町は、面と向かって話をしているし、オレ達ではない。

一体ダレなのか。ソレを察知した元死神の小町は、蒼惶しながらも、自分の能力で逃げようとしたが、諏訪国に移住した以上は無駄と悟り、彼女は体を丸め、オレの隣に隠れてやり過ごそうとした。でも、肝心の体が隠れてない。だから謦欬した娘には、バレバレだった。

 

「私の父なら、実娘の頼みを、無下にはしませんよね。早くソレを渡してください」

「この前、小町と契りを結んで娶ったし、オレのだと思うんだが」

「父上のモノ()である前に、ソレは私の部下です」

「元じゃないのか……」

 

鳥居の下で、ショートカットだが、右側だけが長い緑色の髪を、風にはためかせつつ、両手に持った笏で口を隠し、閻魔として地獄の仕事に戻りたそうな表情で、映姫は怠け者の部下をとっとと連れ戻そうと言を発した。オレの隣に隠れている小町は、ソレを聞いた途端、更に両手へと力を入れて抱き着き、働きたくないという抵抗の意思を見せる。だがその時、西行妖の元へ来ようと歩いている映姫の眉が、ピクリと動いた、ように見えた。

 

「私達は生前の罪を裁く者。罪を裁く者は、常に公明正大に身を正していなければいけない」

「すみません……っていきなりソレ扱いですか!? 感動の対面なのにヒドイですよ映姫様!」

「どれだけ回帰しているのかを忘れましたか。もう貴方の顔は見飽きているのですよ」

 

クセが付いてるのか、即座に小町は映姫に向けて謝罪から始めたが、ツッコミに冷徹な表情で返されたので、どう返せばいいのかと一瞬だけ口を噤む。しかし、かつては自分の上司だった相手とはいえ、ここで呑まれたらまた仕事をさせられると危惧したのか、心が乱れてるのか、緊張してるせいなのかは判らないが、小町は言い淀みながらも反論した。

 

「あ、あたいは自由を愛する女。そして過去じゃなく、今を生きる女。鎌だって捨てました!」

「サボってないで早く行きますよ、仕事は山積みです。それとも一度、私の裁きを受けてみる?」

「流石に映姫さま直々の裁きは……霎時遠慮したいかなーって......きゃん!」

 

これ以上は埒が明かないと判断したのか、小町の首根っこを片手で掴み、そのままずるずる引っ張って行く。小町から視線で救難信号を送られてきたが、オレが映姫に言ってもムダだ。あの子は、融通が利かない頭でっかちちゃんだ。ここは運が悪かったと思って諦める他ないんだ。オレが映姫に、斡旋を出来るならしたいが、娶った妻を甘やかしたいところではあるが、これは仕方ないコトなんだ。

小町を引き摺りながらも、閻魔はオレが余計なコトをしないように釘を刺してきたが、不服顔の妻は譲歩してもらえないか提案する。でも即答で拒否された。

 

「コレは甘やかせば甘やかすほど怠けます。いくら小町を娶ったとはいえ、程々にして」

「映姫様、これが原因で倦怠期になり、あたいが縁切寺へと駆け込んだらどうするんですか」

「縁切寺と言っても、数年は寺の仕事をしなくてはいけない。ソレを貴方には出来ないでしょう」

「それは……そうですけど。お願いですからあたいら新婚夫婦の時間をください!」

 

よほど仕事をしたくないのか、映姫に引き摺られながらも駄々をこね、これだけは譲れないというモノを、小町はかつての上司に提示する。しかし、血も、涙も、胸も、寛大も、譲歩も、融通さがまるでない、仕事一筋の閻魔は、冷徹のまま返し、何の意味もなさなかった。

 

「ダメよ。地獄も人手不足なのだから」

「昔と違って今のあたいは死神じゃないのにー!」

 

死神というか、あれでも彼女は小野氏だから、天皇の血を引いているので神裔なんだけど。能力と言えば、小町は三途の川の距離を操作できたっけかな。便利なモノだ。

なにか言いたいコトを思い出したらしく、小さな声を漏らした実娘の映姫は、足元に永琳が創った魔方陣を展開しつつも、立ち止まって一顧した。

 

「父上。私は東京裁判を迎えようと、『こわれがめ』のような結末ですよ」

イワレビコ(神武天皇)天孫族(神裔)だが、日本書紀(日本神話)ニギハヤヒ(物部氏の祖神)に殺された長髄彦は、神裔ではない」

 

前にも言ったが、古事記と日本書紀に基づくなら(・・・・・・・・・・・・・・)古代日本人は勝手に生まれていた(・・・・・・・・・・・・・・・)

とはいえ、殺された長髄彦は(・・・・・・・・)国津神の血を引く神裔(・・・・・・・・・・)三輪氏と言われてる(・・・・・・・・・)。つまり、長髄彦はミトコンドリア・イヴと(・・・・・・・・・・・・・・)Y染色体アダムの子孫ではない(・・・・・・・・・・・・)、というコトだ。

彼は神裔、といっても、ソレを前提とするならばの話だが。実際、古事記と日本書紀には、三輪氏と書かれてないしなあ。

 

間接的にとはいえ、オレは第38代天皇・天智天皇と、第40代天皇・天武天皇を殺した。

しかし。ソレについてアマテラスが黙認しているのは、この日本に存命している純血のイワレビコ(神武天皇)が、存命しているからである。カレに死なれると困るので、オレが寿命で死なないよう、不老にしたからこそ、アイツはなにも言ってこない。古事記と日本書紀のカレは、本来ならば、とうの昔に死んでいる。

仮に、オレがカレを殺していたら、アマテラスを敵に回していただろう。

それだけ、天皇・大王・皇室という、イザナギ、その娘のアマテラスの血を引く、純血の神の子は、日本神話にとって、重要人物なんだ。

古事記と日本書紀のイワレビコ(神武天皇)は、天下、つまり日本を平定して治めるために、八百萬神(八百万の神)の説得を自ら行い、納得させたりしている。古事記と日本書紀に出てくるアマテラスも、カレには甘々で、神武天皇のために動き、力を貸している記述もある。〝天壌無窮の神勅〟の意味も、あるだろうがな。

正直、日本神話においてのアマテラスは、親バカで、過保護と言っても過言ではないほどだろう。そしてイワレビコ(神武天皇)、延いては大王・皇室は、半神・神裔だ。古事記のカレは、熊野の山の神を切り倒しているが、ソレはカレが、半神・神裔だからこそ、納得できるんだ。

だが、日本人らしいと言えばらしいけど、古事記は読みやすいとはいえ、その設定は、いい加減な部分が多い。設定に関しては日本書紀の方がしっかりしてるが、その代りに、色々とくどい部分も多くある。

 

「故に、東京裁判の判決は、皆殺しでいい。神裔は、戦国時代で打ち止めなのだから」

「……」

 

娘はなにも言わず、小町を連れ、魔方陣で地獄に帰った。映姫は沈黙で返したが、反論がないというコトは、ソレで納得しているのだろう。

 

先程の『こわれがめ』とは、ドイツの劇作家、小説家・ハインリヒ・フォン・クライストの戯曲である。

その内容を簡潔に説明すると、あるモノを壊した犯人は、自分が犯人というコトが判っているのに、ソレを秘めたまま裁判を行う、という話。

つまり、結果が判りきってるコトなのに、裁判を行う、言わば茶番劇。

だが、東京裁判で死刑判決だろうとも、どうでもいい。なにせ、神裔は戦国時代で終わるのだよ。それに、神武天皇は存命しているのだから。本当なら、神裔は平安時代で終えるつもりだったがな。

 

「なんのために、ミトコンドリア・イヴと、Y染色体アダムを生かしてると思ってるんだ」

 

嗚呼、面倒だ。とっととあの猿人共を皆殺しにしたい。だがソレをすると、この先、困る。

日本はアメリカに負けた。だが、負けるにしても、最善を尽くした負け方というモノはある。ソコで、神裔を戦国時代で終わらせ、江戸時代からはミトコンドリア・イヴの血を引く人間に泥を被ってもらい、苦汁を嘗めてもらう。

アメリカ合衆国の哲学者・ラルフ・ワルド・エマーソンは言った。

『すべての歴史は主観的になる。言い換えれば、正しくは歴史は存在しない。あるのはただ伝記だけだ。』

人間の視点で観た時点でソレは真実ではない。いや、真実なんてモノは、最初からないだろうさ。実際、正しいか正しくないかなんて、そんなコトはどうでもいいんだよ。重要なコトじゃない。

だが、それでも、先人達が生みだしたモノを調べないヤツは……

 

「高邁の精神、という訳でもない。しかし、どんなモノであれ、一朝一夕にできたモノではない。結局は、借り物で、受け売りで、後追いで、真似事で、水増し。やはり先人達は、偉大だ」

 

懐から中国の清代の短編小説『聊斎志異』を取り出し、7巻に出てくるモノを観る。

霍桓という男が、ある女性に一目惚れして結婚。いろんな問題はあったが、男の子と女の子をもうけ、その夫婦は仙人になり、煙のように消えていた。という小説。あらましとしてはこんな内容だが、夫婦仲が良くて結構なコトである。

この話では、どんなに硬いモノでも、ソレを抵抗なく穴を開けるコトが出来る鑿があったり、木の枝を二頭の馬にしたりというのもあるが、道士・仙人はなんでもアリだな。

だが、もう関係ない話だ。アイツは聊斎志異に出てくるヒロインではない。中国神話の嫦娥なのだから。

 

「美しい籠やヘラを持って、この丘で菜をお摘みのお嬢さん、君はどこの家のお嬢さんなのか教えてくれないか。諏訪国の全てを私が治めているのだ。私こそ教えよう、家柄も名も」

 

ふと神社に目線を向けると、木製で出来た、引き戸の玄関の扉の中央に、ぽっかりと大きな穴が開いていた。するとその穴から、仙女が通り抜けてきたが、オレと視線が交差すると、微笑んで、YEAH、と言いながら右手を上げ、こちらに来ようとする。噂をすれば影が差すとは言いますが、こっちへ来なくてもいいだろうに。

その女性は、壁抜けの仙人で無理非道な仙人・青娥である。鬼の華扇はまだ仙人へ到達してないと彼女に聞いてるから、諏訪国にいる仙人は、まだ一人しかいない。

そして、中国神話に出てくる嫦娥の話とは、竹取物語――かぐや姫の原型になったという説もあったりするが、どうでもいいか。

 

「今、失礼なコトを考えませんでしたか」

「とんでもない。見目麗しい女性を観て言葉を失い、見惚れていたんだよ」

「あら、お上手ですわね」

 

もちろん今の褒め発言は、内心で舌打ちしながら答えたウソである。いや、彼女の外見とカラダに関しては、文句の付けようがないので、ソコだけは、本当だけれども。

蠱惑的な彼女は、目を伏せ、毛先を右手の人差し指にクルクルと巻きつけながらも、満更でもない表情になった。外見は大人の女性のような感じだが、たまに童心的になる。しかしアレは、素直に褒められて照れてるのだろか。彼女も長年生きてるのに、そんな生娘みたいな女性とは思えないのだが。

青娥の能力は、髪に挿している簪で、壁を切り抜いて穴を開け、その穴を通って向こう側に通れているのは理解しているが、コレについて知らなかったら軽くホラーだな。しかしながら、迷路状のダンジョンでゴールを目指す時には便利。扉に開けた穴については、時間が経てば塞がる仕組みらしいので、穴を開けても咎めるつもりはない。どうでもいいけど、硬ければ硬いほど楽らしいが、柔らかいものに簪を使って穴を開けるのは難しいと聞いている。

彼女は、月を観ようと空を見上げるが、頬がひくついた。空に漂う浮遊大陸が視界に入ったから、だと思う。だが気を取り直して、何事もなかったように振る舞いながらも、オレの傍に来たが、そこまで親しくないハズなのに、まるで、程孔傾蓋のように話し始める。

 

「今日も、月が綺麗です」

「死んでもいい、なんて言わんぞ。そもそも己は、扉を使うという発想がないのか」

「癖のようなモノです。扉を使わずに移動するコトが多いので」

 

仙霊、純狐を××神話に降して娶った。完全に、とは言い難いが、彼女の怨みも泡のように頭から消えている。オレの支配下に入っている純狐は、感情で動くコトはない、ハズだ。

そんなコトは露知らず、老獪の仙女は、元人妻なのに、感佩しているのも重なってか、まるで生娘みたいに羞じらい、自分の両手を合わせて、目線はオレに向けつつ、心臓が波のような動悸をうっているように、落ち着きがない。

しかし青娥は、遂に意を決したのか、両親指をくるくる回しながらも、たどたどしく尋ねた。

仙霊から助けたコトについては、感謝の言葉じゃなく、オレに抱かれるという行動で示すらしい。

 

老爷(旦那様)。はしたない女、と思わないでいただけたら幸甚ですが。後ほど、私と閨を共に――」

「平氏の春姫とする予定です」

 

春姫――妖精のリリーには、どうしてもオレの子を産んでもらわねばならん。故に、即答したら、青娥は笑顔のまま石膏細工のように固まり、直後、ヒビが入るような音が響いた。即座に拒否されて、自分から頼んだ手前もあるのか、今も彼女は、黙然なお地蔵さんみたいに、ただソコで静止している。お地蔵さんなら、苦悩の人々を助けるというお役目があるハズ。ならば尊重の気持ちを持ちながら、このまま置いて行こう。

昔の人は言いました、触らぬ神に祟りなしです。先人達の知恵に尊敬と感謝の念を抱きつつ、この場を去ろうと背を向けたら、娶った妻に呼び止められたので、また踵を翻す。

笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣が牙をむく行為が原点である。

 

「で、では、明日どうでしょう。釈迦に説法かもしれませんが、一夜の過ちも悪くないかと」

「…日本書紀の雄略天皇はな、童女君とセックスし、その日に孕んで子が生まれた話がある」

「ええ。雄略天皇は、童女君を7回もお召しになっていますわ。私達もそれに倣うべきです」

「そういう意味で言ったワケじゃない」

 

見目麗しい青娥(嫦娥)は、この世界がまだ初期頃だった時、永琳みたいに娶って、何度も何度も夫婦になったワケじゃない。今回初めて娶った女だ。なのに、早く手を出せという態度を醸し出し、オレには効果がないのに秋波を送ったりしてる。ギリシャ神話の女神・Ἀστερία(アステリアー)は、ゼウスのレイプから逃げ切った女神だが、普通は、そんな感じでイヤがるハズ、だと思うんだけど、別にそんなコトはなかったよ。はい。寧ろ、強引にされるのもキライじゃない、とこの前ほざいてた。

コイツは、気に入った相手ならば、誰にでもついて行くし、力の強い相手へ純粋に惚れ込み助言したりの節がある。前々から思ってたが、悪癖だ。自分の目的が成就されたら、周りなんてどうでもいい、という姿勢はスキだが。〝惚れ込む〟と言っても、恋とか愛とかの話じゃない……と思う。

 

「中国の『列仙伝』に登場する女几は、仙人から房中術の書物を用い、性交による若返りをしています。梨の礫も困るので、1発だけなら誤射です」

 

「でも娘々、蓬莱の薬を飲んでるから死なないし、老化もしないだろ。それにしわ――」

「いくら老爷と雖も、その先は命にかかわるパンチを繰り出しますわよ」

「やめてくださいしんでしまいます」

 

急に彼女は笑顔になり、命にかかわるパンチをせず、まずは右手の親指と人差し指を動かし、オレの頬を少しつまんでねじり、命にかかわる攻撃に打って出た。

蓬莱の薬を飲んでいる青娥は、不老不死だ。故に、死ぬコトはない。無敵状態と言っても、コレは過言ではないだろう。よしんばオレの雷霆を青娥に投げても死なないほど、と言えば、無敵状態の意味も判るハズだ。というか、中国神話もギリシャ神話に負けず劣らず、不老不死ばっかり出てくるしなあ。中国神話に出てくるモノは、死ぬモノもいる。ただ、中国神話の場合は、不老不死の神というより、不老不死の仙人という方が、正確だろうけど。

 

「…ここまで頑なとは、慮外。手弱女な私の見て呉れは悪くないと思いますが、あたらですわ」

「自分で手弱女と言うのはどうかと思いますよボクは」

「ここ最近は、どうしたら振り向いて下さるかを考え、枕を涙で濡らし、輾転反側する日々です」

「涙じゃなくて涎だろ」

 

そういえば、手弱女、という言葉を聞くと、確か、日本書紀だったかな。ソレにあることわざの、〝天の神庫も樹梯のまにまに〟という言葉が想起する。

朱に交われば赤くなるとは言うが、肝胆相照らすのはやぶさかではない。青娥の性格と人格はともかく、見た目は10人中10人が美人というほどだろう。ソレは間違いない。別に隔意があるワケじゃないんだ。青娥とは気軽に話せるから落ち着くし、苦と思ったコトはない。

しかし、法華宗の宗祖・日蓮は言った。

『天月を見ずして但池月を見ることなかれ。』

そして、盛唐時代の中国の詩人・李白は、水に映る月影をとらえようとして溺死した伝説がある。四元素説を唱えた古代ギリシアの哲学者・エンペドクレスも、エトナ山の火口に飛び込んで死んだ話があるのだが、オレはそんな死に方、絶対に願い下げである。隘路なワケじゃないが、青娥へと手を出そうにも、未だ払暁はまだ観えないのだ。

 

「取らぬ狸の皮算用じゃないんです。灌漑してるんですから、契ってくださってもいいんですよ」

「褥を共にするのはいつか来るだろ。蚊帳して寝なきゃなあ」

「……朝三暮四では埒が開きません。どんな陳情をすれば同衾していただけるのでしょうか」

 

彼女は恥を忍んで聞いて来た。もっと遠回しな表現をされると思っていたので、表情には出さないが、少し驚いた。

秋の田のかりほの庵の苫をあらみ 我が衣手は露にぬれつつ。仄聞だが、コレは、天智天皇だったかな。

セックスするにしても、コイツを犯したいような、そうでもないような、という板挟みの気持ちにいる。いや、別に閨を共にするにしても、ソレをしなくちゃいけない話ではないのだが。例えば、朝まで喋ってお互いのコトを知るとか、布団の中で寄り添って就寝するとか、他にも夫婦の営みは、あるにはあるのだが……。

しかし、あのティコにあったラボラトリーで、青娥は、地獄の女神・へカーティアと、仙霊の純狐から守ってもらう代わりに、自分を差し出しオレに嫁いで来たし、恐らく彼女は、女好きのオレというのもあって、すぐに手を出してくると踏んでいたが、予想を裏切り、いつになっても手を出さないので、焦燥感に駆られて、自分から言いだしてきたのかもしれん。

いや、よく考えなくても、そんなヤワな神経はしてないか。きっと裏があるハズだ。絶対そうだ、そうに決まってる。この娶った妻は、あの中国神話の女神・嫦娥なのだから。

 

「ちょっと両手を、料理する時みたいな猫の手にしてくれないか」

「こうですか?」

「そうそう。でだな、こう言ってくれ」

 

今からしてもらうコトを観て、聞いて、犯したいと思ったら、明日か明後日にでもセックスしよう。とボクは思ったんです。

青娥へ近づき、耳打ちして、こう言って欲しい、という旨を伝えて三歩離れる。内容を聞かされた彼女は、態度に出さず、上手く隠してるが、内心では戸惑っている、かもしれない。

こんなふざけたコト、いくらオレの頼みでも絶対に言わないだろう。と考えていたのに、頬に紅がうっすらと彩りながらも、目を瞑り、両手を握って、青娥は大きな声で言った。

 

「娘々!」

 

 

 

静寂で支配されたが、次に西行妖の、一陣の風で生じた葉擦れの音が、この場を支配した。

彼女はうっすらと片目を開け、無言のまま俯いているオレの反応を観る。オレは真顔で返した。

いや、オレがそう言えと申したのが原因とはいえ、イラッとした。一応は妻である彼女から離れる前に、苛立ちを込めて地面に唾を吐き、その場を後にする。

小池一夫の漫画みたいに、エレクチオンはしなかったよ。

 

「待ってください」

「待ちませぬ」

 

鳥居を目標地点に走って逃げるのも大げさと思い、彼女を腫物でも扱うように、早歩きで去ろうとしたが、娶った仙女の左手で、オレの右腕を掴まれてしまう。ボクはコレでも××神話の天津神なので、宗教の勧誘なら間に合ってますよ。

ココは振り向かず、今も後方にいる妻へと交渉に入るが、この場から早く離れたい衝動に駆られたとはいえ、本来の目的であった無名の丘に行くコトを伝えると、ちょうど彼女もヒマだったらしく、医鬱排悶もかねて、オレの隣に立ち、一緒に歩いて目的地に向かいつつ、会話を続けた。

おかしいな、青娥は華扇に道教の全てを授け、仙人に仕立てあげてる最中のハズで、ヒマなどないと思うんだが、どうしてこうなった。

しかし、彼女はなにをとち狂ったのか、今のやり取りをオレの趣味と取られ、そういうのが好きなのかと勘違いされた。

 

「そういうのがお好きなのかしら? ソレならそうと言って下されば、私は同衾で受け入れて…」

「違います」

 

オレの反応と行動を観たハズなのに、どうしてその結論に達するのか、ボクには理解できませんでした。きっと、古代ギリシア・古代中国・古代インドの哲学者達が考えても、判らないだろう。

コイツ、オレがどんなに罵倒をしても、どんなに冷たい態度で接しても、どんなにあしらっても、めげないしょげない泣いちゃだめ、の三拍子みたいに、なかなかどうして挫けない。松柏之操だ。そのクセ、どうでもいいコトではムダに傷付いたり、落ち込む時がある。訳わかめ。まるで彼女は、頑是無いが大人になったみたいだ。オレと青娥は、神話時代で止まってるから、当たり前と言えば当たり前の話だが。

この手だけは使いたくなかったが、今回のコトを理由に、華扇が仙人になるための修行で手を抜かれても困るし、また正面から向き合って話そう。もう鞭はやめて、飴だけでいいような気がしてきた。いくら美人でも、煮ても焼いても食えないのは、扱いに困る。

 

「妄言多謝。じゃあこうしよう。華扇を立派な仙人にしてくれたら、オレの閨に招聘する」

「蜚鳥尽きて良弓蔵せられ、狡兎死して走狗煮らる。という諺を思い出しましたわ」

「折角の美人にそんなことするワケないだろ、もったいない」

「...一驚を喫しました。いくら本当のコトとはいえ、素直に言われると、少し照れます」

「おい」

 

ダレが観ても、青娥は美人だ、と答えるだろう。性格・人格にやや問題があるとはいえ、献身的だし、カラダも出るとこ出てる。なんの欠点もない女性、なのだが……こう、セックスしたいとか、オレのモノにしたい、という欲求が湧きあがらない。コレを上手く言えないが、なんか、三歩離れて観ていたいだけで、それ以上はいいかなって感じ。強いて言うなら、鬼の霍乱になった気分……だな。

もう一点、懸念がある。彼女は仙人なワケだが、道教には养小鬼(ヤンシャオグイ)というのがある。前に説明した流産した胎児、殺した赤子、あとは埋葬された遺骨を使って霊を使役する道術だ。

 

「私と老爷の子なら、ソレは絶対にしません。自分で産んだ子は、死ぬまで愛します。永遠に」

「すました顔で心情を汲み取るのはやめろ」

 

んで、ギリシャ神話の神裔・Πρόκνη(プロクネー)Φιλομήλα(ピロメーラー)姉妹は、強姦されて産んだ子の幼児イテュロスを殺して料理し、強姦したΤηρεύς, (テレウス)に食べさせる話があってさ。神話ではよくある〝食人〟の話だ。ソレで、青娥を観てると、その神話が頭でちらつくんだよ。そんな問題が重なって、手を出しにくいという感じですね、はい。ソレを陋習、と言う気はないけど。

しかし彼女は、蓬莱の薬を飲んでるから不老不死だ。そういえば、あの一輪も、人魚の肉を食べて不老不死だったっけ。

 

「ところでさ、江戸幕府の第3代将軍・徳川家光って尼僧を側室にしてたよな」

「正確に言うと、尼僧は還俗して側室になってます。家光は元々女嫌いだった話で有名ですね」

「そうだよなそうだよな!」

 

青娥は、オレの代わりに徳川家光と側室になった尼僧について敷衍に説明してくれた。

いきなりの話題転換だったから、お前は一体何を言ってるんだという顔で青娥から観られたけど、尼僧のワードから連想したのか、この話に関する人物の名を出す。

旧約聖書・レビ記 第11章45節

『"わたし(ヤハウェ)あなたがた(イスラエル人)の神となるため、あなたがたをエジプトの国から導き上った(ヤハウェ)である。わたしは聖なる者(・・・・)であるから、あなたがたは聖なる者とならなければならない。"』

レビ記 第20章26節

『"あなたがたはわたしに対して聖なる者(・・・・)でなければならない。主なるわたしは聖なる者で(・・・・・・・・・・・・)あなたがた(イスラエル人)わたしの(ヤハウェ)ものにしようと、他の民から区別したからである(・・・・・・・・・・・・・・)。"』

 

「まさか......雲居一輪ですか」

「そうだ。アレにも天津神の、天皇の血を引いている。ならば問題はない」

「アレが大人しく従うとは思えませんが……」

「白蓮がいるじゃないか。だから、アイツはオレに従うだろう。てか、従わざるを得ないんだよ」

 

しかも人魚の肉を食べて不老不死ときた。最高だ、本当に最高だよ。オレが娶るに不足はないな。白蓮を餌にしたら一輪は従わざるを得ない。魚懸甘餌だ。そして一輪を引き込めるというコトは、序でに雲山も付いて来る。魚網鴻離だよ。笑いが止まらん。オレの目的は徐々に叶いつつあります。

お燐のお蔭でもあるが、元は四国妖怪の七人ミサキだった舟幽霊の村紗水蜜だって、今は地獄にある血の池地獄にいるとはいえ、白蓮の名を出したから従ってるワケだし。だが白蓮がいなくても、お燐の能力で村紗水蜜を無理矢理従えるコトは出来るけど。幽霊の正体見たり枯れ尾花だったよ。

旧約聖書・申命記 第14章2節で、古代イスラエルの民族指導者מֹשֶׁה‎(モーセ)は言った。

あなた(イスラエル人)あなたの神(ヤハウェ)、主の聖なる民(・・・・)だからである。(ヤハウェ)は地のおもてのすべての民のうちからあなたを選んで(イスラエル人・ヘブライ人・ユダヤ人)、自分の宝の民とされた。』

 

「ですが、憶えているのでしょうか。()白蓮のコトは忘れてるかもしれませんわよ」

「忘れてても、全部預かってる」

 

オレは右手の人差し指で、自分の頭をこつこつ叩いて全員の記憶と感情を預かってるコトを示すと、青娥は合点がいった表情になったが、即座に不満顔へとなって一度頷いた。

そう。ココは地球だよ。並行世界なんて願望・理想・妄想という名の、都合のいい言い訳で出来たモノでは、面倒だからという理由で逃げた世界では、創られた世界ではない。

新約聖書・テサロニケ人への第一の手紙 第3章11節~13節

『どうか、わたしたちの父なる神ご自身と、わたしたちの主イエスとが、あなたがたのところへ行く道を、わたしたちに開いて下さるように。どうか、主が、あなたがた相互の愛とすべての人に対する愛とを、わたしたちがあなたがたを愛する愛と同じように、増し加えて豊かにして下さるように。そして、どうか、わたしたちの主イエスが、そのすべての聖なる者(・・・・)と共にこられる時、神のみまえに、あなたがたの心を強め、清く、責められるところのない者にして下さるように。』

 

「女性を囲いたいのは知ってますが、妻の前で他の女の話に熱が入るのは、聊か気に入りません」

「え、ダレがダレの妻なんだい」

「老爷に嫁いだ私です」

「そうだったかなあ……もしそうなら仮面夫婦か、離婚を前提としたお付き合いを――」

「そんなコトをしたら、謝罪と賠償を要求します」

「ソレは中国じゃなくて朝鮮だろ」

 

朝鮮と言えば、20世紀に作られ偽書とされる『桓檀古記』の朝鮮神話には、神とされている桓雄と、熊から人間の女になって産まれた神裔・檀君がいたが、あそこの場合、確か人間はすでにいたという内容だったかな。中国神話に出てくる釈迦みたいに、朝鮮神話にも釈迦が出たりしてたな。ソレで神武天皇の兄・稲飯命が、新羅王の祖という話もあったっけ。

だがオレが神話と認めるのは、紀元前から16世紀、あるいは18世紀までに語り継がれてきた神話だけであり、ソコから先に出来た神話は、神話として絶対に認めるワケにはいかない。

 

そして、この日本の歴史も、国が認めた正史通りに進んでいる。つまり歴史通り、正史通り、一部を除いた九州地方から東北地方に住む日本人は、神裔・天皇の血を引いている。

でも、平成時代の日本人は、混血しかいないコトを、忘れてもらっちゃあ困る。

古代ギリシア人と、平成時代のギリシア人が同じではないように、平成時代の日本人に、純血はいねえんだ。天津神の血・天皇の血が一滴だけあればいい、なんて都合のいい願望・妄想は垂れ流すなよ。百歩譲って、平成時代にいるモノがソレを言っていいのは、出雲氏・諏訪氏・氏姓、名字がない天皇のようなモノ達だけだ。

新約聖書・ユダの手紙 第1章14節~15節

『アダムから七代目にあたるエノクも彼らについて預言して言った、"見よ、(ヤハウェ)は無数の聖徒たちを率いてこられた。それは、すべての者にさばきを行うためであり、また、不信心な者が、信仰を無視して犯したすべての不信心なしわざと、さらに、不信心な罪人が主にそむいて語ったすべての暴言とを責めるためである。"』

 

「勿論、女を侍らすのもあるが。昔、あの時いた(命蓮寺)モノを全て集めて欲しい、と白蓮に頼まれてさ」

「容喙は承知ですが、それ以上の意味はない、と」

「ああ」

「ですがあの子は、קַדִּישׁ(聖なるモノ)...旧約聖書の大士師と聞き及んでいます」

 

諏訪国の支配者は、実娘の諏訪子である。オレは諏訪国の支配権を持ってるだけで、殆どは諏訪子に丸投げしているのが現状だ。

しかし、オレの血を引く諏訪氏の白蓮は、旧約聖書・士師記に登場する大士師・サムソンである。旧約聖書において、大士師、という意味は治める者の意味があり、他の民族からイスラエル人を、つまり、その土地に住む民族を救う英雄、という意味もある。

それで、戦国時代には川中島の戦いで、諏訪国を支配下に置こうとする、武田信玄がいるのだが、どうでもいいか。

白蓮と言えば、『今昔物語集』と、『古本説話集』に登場する信貴山の命蓮は、修行するために、信貴山で庵を結び、鉢を人里に飛ばして食を貰い、瓶を川に飛ばして水を汲んでたな。その天稟はスゴイけど、ここまでいくと、もう仏教と言えないだろ。てかソレって、神通力というより、もはや魔法と変わらない、ような気がしなくもない。

 

旧約聖書・民数記 第6章1節~4節

(ヤハウェ)はまたモーセに言われた、"イスラエルの人々に言いなさい、男または女が、特に誓いを立て、ナジルびととなる誓願をして、身を主に聖別する時は、ぶどう酒と濃い酒を断ち、ぶどう酒の酢となったもの、濃い酒の酢となったものを飲まず、また、ぶどうの汁を飲まず、また生でも干したものでも、ぶどうを食べてはならない。ナジルびとである間は、すべて、ぶどうの木からできるものは、種も皮も食べてはならない。"』

 

「役割としては、命蓮も似たようなモノだ。白蓮にはパチュリー達に頼んで魔法を憶えさせたし」

「そうですか。彼女に大士師(英雄)の役目は、荷が重そうですけど」

「大したコトじゃない。神裔・源氏の武田氏との戦で勝てばいいだけだ」

「簡単に言いますわね」

「実際すぐに終わる。諏訪勝頼の存在があるとはいえ、武田氏は目障りでしかない」

 

白蓮についてはその通りだが。オレ、白蓮のコト話したかな。青娥を娶ったのは今回が初めてだから、説明した記憶がないのは気になるが、オレの記憶は未だにボロボロだし、当然と言えば当然か。

大坂夏の陣で、神裔・真田氏の真田信繁が徳川家康を殺してくれたらいいけど、そうもいかない。だが豊臣秀吉と徳川家康は絶対にダメだ。双方とも先祖を捏造してる上に、血の濃さ的にアウト。

ソレを言ったら神裔の忌部氏・平氏・藤原氏とされる織田氏は、実際は平氏でも分家の分家だが、織田氏にはオレの血を入れるから、正直あんまり問題はないんだ。でも、ハゲネズミ(豊臣秀吉)脱糞野郎(徳川家康)が天下統一して静謐するよりはいい。

…肝心なのは、諏訪国にいる神裔・源氏の三好氏と、キリスト教徒・キリスト教を布教する、あのザビエルだなー。

 

旧約聖書・民数記 第6章5節~7節

『また、ナジルびとたる誓願を立てている間は、すべて、かみそりを頭に当ててはならない。身を(ヤハウェ)に聖別した日数の満ちるまで、彼は聖なるものであるから、髪の毛をのばしておかなければならない。身を主に聖別している間は、すべて死体に近づいてはならない。父母、兄弟、姉妹が死んだ時でも、そのために身を汚してはならない。神に聖別したしるしが、頭にあるからである。"』

民数記 第6章8節

『"彼はナジルびとである間は、すべて(ヤハウェ)聖なる者である(・・・・・・・)。"』

 

「それに白蓮は、ナジル人。そしてあの子は、今も髪を伸ばしている」

「つまり、かつての誓願は終わってないと」

「でなければ、あの子を、聖を象徴するナジル人(・・・・・・・・・・)、とオレは呼ばん」

 

彼女は興味が失せたのか、この話の続きをしなかった。

民数記 第6章22節~26節

(ヤハウェ)はまたモーセに言われた、"アロンとその子たちに言いなさい、あなたがたはイスラエルの人々を祝福してこのように言わなければならない。願わくは主があなたを祝福し、あなたを守られるように。願わくは主がみ顔をもってあなたを照し、あなたを恵まれるように。願わくは主がみ顔をあなたに向け、あなたに平安を賜わるように。"』

民数記 第6章27節

『"こうして彼らがイスラエルの人々のために、わたしの名(ヤハウェ)を唱えるならば、わたしは彼らを祝福するであろう。"』

 

…でも、よくよく思い返せば、今までいろんな女を娶ってきたけど、レイプした記憶がないッ! 

今の言葉を声に出した言ったワケではないのに、一応とはいえ、妻である彼女は、とっても柔らかそうな、ピンク色の唇を、一度舌なめずりし、まるで真珠のような爪先であり、白く透き通った細い右手の人差し指で、その唇を、すっと、軽くなぞった。

なんというか、このオレが思わず、キスされるためにできた唇と錯覚してしまうほどだった。

だが、今の動作は彼女にとって素なのか、意図してやったモノではないような表情のまま、どんな男でも夢中になりそうなカラダで、その欲望を受け止める意思を示した。

 

「し、仕方ありません。ならば老爷の肉慾を私にぶつけてもらい、全て発散させて――」

「いや、五胡十六国みたいなカオス時代に、手を出す気はない」

「……ご無理なさらなくても、私は拒みはしませんが」

「我慢なんて殊勝なモノ、オレにあるワケないだろ」

 

情欲という一時の感情に流され、青娥とセックスしても、実際はなんの問題もないよ。

だが、鎌倉時代の曾我兄弟の仇討ち、江戸時代の赤穂事件と鍵屋の辻の決闘も、復讐という感情で動いた結末が、アレ。

そして彼女は、あの嫦娥だ。オレはもう死ぬコトが無いとはいえ、中国神話の時に陰謀詭計した女ゆえ、抱くにしても油断はできない。綢繆未雨しておかねば。

オレも人のコトは言えないんだけど、ハッキリ言うと、この妻は、自己中心的な性格だ。あと自分の力を魅せたいという、顕示欲が強い。まだ世界が初期頃だった時、中国から日本に渡来して、豊聡耳神子(厩戸皇子)に取り入り、当時の日本に仏教を広めた。まったくもって、いい趣味をしている。

コイツだ。この世界での彼女は無関係だが……日本に仏教が広まるコトになった元凶が、青娥だ。

 

「今日も皎月千里で綺麗だなー」

「そうですね。上手く表現できませんが、ココを眺めていると、酷く懐かしいです」

 

無名の丘は妖怪の山の反対側にあり、川沿いの村や山里の酒屋の旗が、風にたなびいている人里を超えた先にあるのだが、下らないコトを話していたら、いつの間にか到着していた。ココは広々とした平野のあちらこちらで鴬がないて、白い花の鈴蘭畑が新緑に映えている。

この畑は、幽香の能力で作り上げたモノだが、遼遠でも、この光景を観に来られてよかった。時間があれば、後でわかさぎ姫へと会いに行くため、諏訪湖にも顔を出した方がいいかもしれん。

空気の流れが生じ、冷たい風が体全体へとぶつかる。もう冬だな。今はまだ秋だが、秋といえばあの言葉を思い出す。

 

「秋風のなかあなたと共にいる。それは百年にも千年の歳月にも値するものだ」

 

一度立ち止まり、隣にいる青娥を観ると、彼女もこちらを見た。この風景を観ていたら、パッと出て来た言葉をつい口にしてしまった。

さっき、釈迦が乳糜で悟った話をしたけど、仏陀の弟子で、苦行を共に行っていたモノ達がいる。ソレは五比丘、婆敷、摩訶摩男、婆提梨迦、阿説示、5人の弟子達だ。彼らは、供養された乳糜を口にした釈迦を観て、ムリガダーヴァ(鹿野苑)の苦行林へと去った。

乳糜について、釈迦……ゴータマ・シッダールタは、言い訳をしなかったそうです。はい。

 

「……ソレは一休宗純でしたか。聞き取れなかったので、もう一度、復唱してください」

「一休宗純って判るなら、ちゃんと聞いてるじゃないか」

 

彼女はソレを聞き、呆けていたが、ソレを無視して先に進む。歩く速度を上げたのか、後方から地を蹴る音が先程よりも大きくなっている。するとオレの右腕を両腕で抱きしめ、寄り添って来た。妻を一瞥すると、笑顔のまま、さっきの言葉をもう一度聞きたいと言われたが、鬱陶しいので振り払おうと、右腕を振り回す。が、ますます放そうとせず、まるで、動けば動くほど絡まってしまい、羈縻されていくような蜘蛛の巣に引っかかった気分。娶ったのはミスだった。

だが、コイツもしや、構われるのが好きなのかもしれん。

 

「来たわね。だけど、スーさん(鈴蘭)は私が守る!」

「毒を貰いに来ただけだ」

 

鈴蘭畑にある鈴蘭を踏まないように気を付け、奥に進んでいたら、スーさん、つまり鈴蘭を守ろうとしたのか、小さな人形が傍らにいるメディスンは、蝶結びされた頭にある赤色のリボンが揺れ、同じ色のスカートを翻しながら、闇討ちをかけるみたいに、突然、辺りにある鈴蘭から飛び出してきた。しかしソレは誤解なので、敵意はないコトと、決してスーさんを許可なく摘みに来たわけではないコトを説明すると、付喪神である少女は、落ち着いた。聳懼していのだろうか。

落ち着いたが、なぜか辺りの空気はピリピリして、雰囲気がはりつめ、緊迫感が漂っている。

 

「なんか機嫌悪そうだが…なにかあったのか」

「さっき貴方の娘が来て、私に長々と人形解放はムリだとかいう説教して帰ったのよ!」

「あー......すまん」

「閻魔を娘に持つというのも、大変ですわね」

 

今も隣で、オレの右腕を両腕で包み込むように抱いている青娥は、同情したような声色で話すが、そうか。通りで映姫がいたワケだ。多分、貴方は少し視野が狭すぎる、みたいな感じで聞かされたんだろうけど、娘の説教を聞く方としては溜まったモノではないだろう。でも、いかんせん、あの子は元来、ああいう性分なんだ。

永琳に頼まれていたので、魔方陣で10個以上の瓶を出す。その中に毒を入れてもらうため、少女に渡そうとするが、メディスンは人形の付喪神ゆえ、背はかなり低いから、腰を下ろすと、一つ一つぶんどられる。

映姫のコトを忘れさせようと思い、話題を変えるため、声色を変えて、真摯に話す。ソレを汲んでくれた人形は、不気味そうにしながらも、全ての瓶に毒を入れつつオレの話に耳を傾けている。少女の記憶も戻しているが、この決意表明をするやり取りは、昔からのお約束だ。

隣にいる青娥は、興味がなさそうにして、鈴蘭畑を眺めている。口を出す気はないようだが、時々、右手でオレの髪を触ったり、弄ったり、耳に息を吹きかけたり、頭を撫でたりしてヒマをつぶしている。

 

旧約聖書・出エジプト記 第12章12節

『その夜わたし(ヤハウェ)はエジプトの国を巡って、エジプトの国におる人と獣との、すべてのういご(初子)を打ち、またエジプトのすべての神々(エジプト神話)に審判を行うであろう。わたし(ヤハウェ)は主である。』

出エジプト記 第12章29節

『夜中になって主はエジプトの国の、すべてのういご、すなわち位に座するパロのういごから、地下のひとやにおる捕虜のういごにいたるまで、また、すべての家畜のういごを撃たれた。』

出エジプト記 第12章30節

『それでパロ(ファラオ)とその家来およびエジプトびとはみな夜のうちに起きあがり、エジプトに大いなる叫びがあった。死人のない家がなかったからである。』

 

「真面目な話をしようか」

「……なに?」

「確認したいのだが、ニンゲンはキライか」

「キライに決まってる。大ッ嫌いよ。雛はともかく、にとりも同じことを言う!」

 

心の底から、感情をぶちまける人形の少女を観て、安堵した。ニンゲンなんぞと馴れ合おうとするのは、オレも気に入らんのでな。

オレの場合、ニンゲンがキライと言っても、天津神の血を引く、天皇・蘇我氏・物部氏・諏訪氏・出雲氏・小野氏・稗田氏みたいな、神の子孫は除く。だからメディスンみたいに、全てのニンゲンがキライなワケではない。

だが、側頭部に能面として付けているこころと、紫と幽香の日傘として使われてる小傘は、実際のところ、人間に対してそこまで敵意を抱いてはいない。オレがニンゲンを殺せと命じたら、従うといった感じだ。

琵琶の付喪神・九十九弁々はまだとはいえ、お琴の付喪神・九十九八橋はこころと小傘が持ってるし、彼女達もソレに賛同するだろうが、和太鼓の付喪神・堀川雷鼓は、微妙だな。アイツ軽いし。

 

「まだ先の話だが、人間が爆発的に増える時が来る。その時は、ニンゲンを好きにしていい」

「具体的には、善光寺地震、関東大震災辺り?」

「ソレと日本の人口が一気に増えた、昭和時代の産めよ、殖やせよ政策(旧約聖書・創世記)・ベビーブーム辺りだ」

「……その時まで待て、と言われてもね。平成時代のニンゲンはどうするの?」

「紀元前の人間よりもはるかに劣る平成時代のニンゲンに、生かす価値があるワケないだろ」

 

旧約聖書・列王紀下 第19章10節~11節

『ユダの王ヒゼキヤにこう言いなさい、"あなたは、エルサレムはアッスリヤ(アッシリア)の王の手に陥ることはない、と言うあなたの信頼する神に欺かれてはならない。あなたはアッスリヤの王たちがもろもろの国々にした事、彼らを全く滅ぼした事を聞いている。どうしてあなたが救われることができようか。"』

列王紀下 第19章12節

『"わたしの父たちはゴザン、ハラン、レゼフ、およびテラサルにいたエデンの人々を滅ぼしたが、その国々の神々は彼らを救ったか。"』

 

列王紀下 第19章14節~15節

『ヒゼキヤは使者の手から手紙を受け取ってそれを読み、主の宮にのぼっていって、(ヤハウェ)の前にそれをひろげ、そしてヒゼキヤは主の前に祈って言った、"ケルビムの上に座しておられるイスラエルの神、(ヤハウェ)よ、地のすべての国のうちで、ただあなただけが神でいらせられます。あなた(ヤハウェ)は天と地を造られました。"』

列王紀下 第19章16節~18節

『"(ヤハウェ)よ、耳を傾けて聞いてください。主よ、目を開いてごらんください。セナケリブが生ける神をそしるために書き送った言葉をお聞きください。主よ、まことにアッスリヤ(アッシリア)の王たちはもろもろの民とその国々を滅ぼし、またその神々を火に投げ入れました。それらは神ではなく、人の手の作ったもので、木や石だから滅ぼされたのです。"』

列王紀下 第19章19節

『"われわれ(イスラエル人・ヘブライ人・ユダヤ人)の神、(ヤハウェ)よ、どうぞ、今われわれ(ユダ族)彼の手(アッシリア)から救い出してください。そうすれば地の国々は皆、主であるあなただけが神でいらせられることを知るようになるでしょう。"』

 

列王紀下 第19章34節

わたし(ヤハウェ)は自分のため、またわたしのしもべダビデのためにこの町を守って、これを救うであろう』

列王紀下 第19章35節

『その夜、主の使が出て、アッスリヤの陣営で十八万五千人を撃ち殺した。人々が朝早く起きて見ると、彼らは皆、死体となっていた。』

 

「安心した。ニンゲンを殺すな、なんて言われたら発狂する」

「……オレが大人しくしてるのも、正史(歴史)通りに進んでいるせいだ」

 

旧約聖書・サムエル記下 24章1節

『主は再びイスラエルに向かって怒りを発し、ダビデを感動して彼らに逆らわせ、"行ってイスラエルとユダとを数えよ"と言われた。』

旧約聖書・歴代志上 第21章6節

『しかしヨアブは(ヤハウェ)の命令を快しとしなかったので、レビとベニヤミンとはその中に数えなかった。この事が神の目に悪かったので、(ヤハウェ)はイスラエルを撃たれた。』

サムエル記下 24章10節

『しかしダビデは民を数えた後、心に責められた。そこでダビデは(ヤハウェ)に言った、"わたしはこれをおこなって大きな罪を犯しました。しかし主よ、今どうぞしもべの罪を取り去ってください。わたしはひじょうに愚かなことをいたしました。"』

歴代志上 第21章11節~第21章12節

『ガデはダビデのもとに来て言った、(ヤハウェ)はこう仰せられます、"あなたは選びなさい。すなわち三年のききんか、あるいは三月の間、あなたのあだの前に敗れて、敵のつるぎに追いつかれるか、あるいは三日の間、主のつるぎすなわち疫病がこの国にあって、主の使がイスラエルの全領域にわたって滅ぼすことをするか。いま、わたしがどういう答をわたしをつかわしたものになすべきか決めなさい。"』

サムエル記下 第24章14節

『ダビデはガデに言った、"わたしはひじょうに悩んでいますが、(ヤハウェ)のあわれみは大きいゆえ、われわれを主の手に陥らせてください。わたしを人の手には陥らせないでください。"』

 

サムエル記下 24章15節

『そこで(ヤハウェ)は朝から定めの時まで疫病をイスラエルに下された。ダンからベエルシバまでに民の死んだ者は七万人あった。』

サムエル記下 第24章16節

『"天の使(天使)が手をエルサレムに伸べてこれを滅ぼそうとしたが、(ヤハウェ)はこの害悪を悔い、(イスラエル人)を滅ぼしている天の使(天使)に言われた、"もはや、じゅうぶんである。今あなたの手をとどめるがよい"。その時、主の使(天使)はエブスびとアラウナの打ち場のかたわらにいた。』

旧約聖書・サムエル記下 第24章17節 歴代志上 第21章17節

『ダビデは(イスラエル人)を撃っている天の使(天使)を見た時、(ヤハウェ)に言った、"民を数えよと命じたのはわたしではありませんか。罪を犯し、悪い事をしたのはわたしです。しかしこれらの羊は何をしましたか。わが神、主よ、どうぞあなたの手をわたしと、わたしの父の家にむけてください。しかし災をあなた(ヤハウェ)(イスラエル人)に下さないでください。"』

 

「しかしだな、その神裔の、天皇の、天津神の血を引いているという正史も、戦国時代で終わる」

 

儒教は、豎儒は好きではないが、だからと言ってキライなワケではない。

古代中国の儒学者・孟子は言った。

『人皆有不忍人之心。今人乍見孺子將入於井、皆有怵惕惻隱之心。無惻隱之心、非人也。惻隱之心、仁之端也。』

この意味を簡単に訳すと、"子供が危険な目に遭いそうなら可哀想と思う気持ちがある、しかしそう思う感情、つまり憐れみの心がない者は、人ではない。"という言葉だ。

なかなかどうして、豎儒はいいコトを言う。いや……豎儒だからだな。

孟子の言葉を引用したように、ならば、先人達が生みだした、例えば"神"という存在に、自分勝手なダレカが余計な設定を付け加えたり、神の性格を改変したり、神を蔑ろにするヤツってのはさ、宗教家や、神を信仰してるモノ達に対する申し訳ないと思う気持ちが、尊重する気持がないヤツも、ヒトじゃないよな。そんなコトするニンゲンは、どう考えてもクソッたれなニンゲンだろう。非難されて、糾明されて然る可きだ。寧ろ、何故ソレをされないと思い込み、自分に都合のいい方へ考えるのか、理解できない。

 

「即ち、地球が生んだミトコンドリア・イヴと、Y染色体アダムしかいなくなる」

 

平成時代の人間は、当たり前みたいに使ってるが、"付喪神"や"仙人"だって、先人達が生みだしたモノだ。どんなにキレイな言葉で飾って言おうと、自分が作り上げた設定では、概念では、存在ではない。どう考えても、ソイツが考えたオリジナルではない。

ならばこそ、先人が生みだしたモノに敬意と尊重する気持ちを持つのは、当然ではないのだろうか。

旧約聖書・レビ記 第24章16節~22節で、主はモーセに言われた。

あなた(モーセ)はまたイスラエルの人々に言いなさい、"だれでも、その神をのろう者は、その罪を負わなければならない。(ヤハウェ)の名を汚す者は必ず殺されるであろう。全会衆は必ず彼を石で撃たなければならない。他国の者でも、この国に生れた者でも、主の名を汚すときは殺されなければならない。だれでも、人を撃ち殺した者は、必ず殺されなければならない。獣を撃ち殺した者は、獣をもってその獣を償わなければならない。もし人が隣人に傷を負わせるなら、その人は自分がしたように自分にされなければならない。すなわち、骨折には骨折、目には目、歯には歯をもって、人に傷を負わせたように、自分にもされなければならない。獣を撃ち殺した者はそれを償い、人を撃ち殺した者は殺されなければならない。他国の者にも、この国に生れた者にも、あなたがたは同一のおきてを用いなければならない。わたしはあなたがたの神、(ヤハウェ)だからである。"』

 

「……判った。気に入らないけど、ソレまで我慢する」

「そうか。その時になったら、オレも邪魔はしない。自由に動いてくれてもいい」

 

人形の付喪神は、渋々ながらも頷き、この話は終わった。コレを説明するのは、何度目だろうか。ちょうどメディスンが全ての瓶に毒を入れ終えたらしく、零れないように蓋をして、渡してきた。オレはソレを受け取るが、どれも毒々しく、禍々しい色合いで、素人のオレが一目見ただけでも、毒と理解できるほど。ソレを魔方陣で永琳の元へと送り、お礼を言う。

 

「助かるよメディスン」

「スーさんを刈られたら困るから、仕方なくよ」

 

人形はそっぽ向き、踵を返して、また鈴蘭畑にへと入っていった。メディスンは人形ゆえに、この鈴蘭畑に行かれると、少女がどこにいるのか判らなくなる。焼き払ったら丸裸にはなるが、ソレをするとオレが殺されるのでしない。

だが、昭和時代か……紫と幽香に命じ、日本の妖怪を全て集めさせ、且つ従えさせた。土台はある程度終えているのだ。今のオレがやるべきコトと言ったら、天津神・国津神の血と、天皇の血を、戦国時代まで血を受け継がせ、その時代から平成時代まで、神裔を生かしていくコトだ。

 

お互いの腕を組みつつも、今まで隣で黙っていてくれた彼女がヒマそうだったので、オレの左手を妻の頬に当てた。そのまま顎まで下ろし、クイっと持ち上げて、顔を無理やり自分の方へと向ける。

いきなりだったので、妻は瞠目したが、準備出来てますとばかりに目を閉じ、唇を差し出してきた。でもソコでやめた。諏訪湖にいかなくてはいけない。

左手を顎から離したコトと、キスしてこないコトで焦らされたのか、閉じていた両目を開けると、現状を把握して、恨めし気な目で見られた。

 

「糠喜びさせて擯斥するのはどうかと思いますわ」

「本当は今すぐにでも口付けをしてお前を抱きたいが、一度したら止められないんでな」

「そう思っていただけてるなら嬉しいですけど……ホントに私を抱きたいと思ってますか?」

「はい。いじらしくて、レイプしたいと思うほど」

「ならいいですわ。口付けも、抱かれるのにも、光明が差してきました」

 

落胆顔だった青娥は、女として観られていると判った途端、上機嫌になってさっきの表情も消え失せた。本来ならば、彼女は彼女なりの感謝の気持ちはあるんだろうけども、オレが娶ったコトや、女好きなのもあり、抱かれるコトを選んだんだろう。てかそっちのほうが嬉しいです。

オレのモノにしたいというのはウソである。でもクーリングオフしたいけど出来ない。しかしながら、性格・人格に聊か問題があるとはいえ、カラダに関しては文句の付けようがないのも事実で、レイプしたいのもホントだ。

 

「じゃあ、オレは諏訪湖に行くよ」

「もう少しだけお傍にいたいですけど……判りました」

「娘々は、早く華扇を仙人にしてくれ」

「もちろん、あの時の約束は守ります。ソレと、華扇についてですが......」

 

華扇の話題を出した途端、さっきまで 和気藹々の雰囲気だった青娥は、××神話に引き込んだ際に交わしたコトの確認を、肯定しながらも、そのまま言葉を紡いでいくが、段々と声色が変わって、言葉を途切らせた。

この場の雲行きが変わり、ただ鈴蘭畑が風に靡く音が耳に入る。ソレを聞き流しながら、途中で口を閉じていた彼女は、重々しくも、言葉を繋いでいく。

 

「嘗てのアレは、ヒトと妖怪の平和を謳う側でした。老爷は、ソレでも構わないのでしょうか」

「……」

 

…華扇はインド神話に出てくるऋषि(リシ)でも、室町時代にいた金春禅鳳の作品・一角仙人でもないよ。ましてや、かつての青娥が憧れた、八仙の女仙・何仙姑でもない。鬼女なのだ。

故に、無言で返し、肯定した。

江戸時代の朱子学の儒学者、哲学者・新井白石は言った。

『神は人なり。』

言いたいコトについて、判らなくはない。神話に出てくる神々とは、殆どは人間みたいに感情的に動くからさ。

だがな。例え、神という存在が、人間みたいな存在だとしても、人間の価値観と倫理を語るのだけは、絶対にしちゃいけない。

もちろん、旧約聖書に書かれているヤハウェが、イスラエル人に神の教えを説き、ソレを守りなさい。って言うのは、別におかしくない。なにせ、ソレは聖書にちゃんと書かれているからだ。

従って、古事記と日本書紀に書かれているなら、日本神話の神々だって、人間の倫理と価値観を語ったとしても、大した問題ではない。なにせ書かれているから。

つまり、聖書に書かれてないコトをヤハウェに言わせたり、ギリシャ神話にないコトをゼウス達に言わせたり、古事記と日本書紀に書かれてないコトを日本神話の神々に言わせるのは、

虚言で(・・・)妄想(・・)妄言なんだよ(・・・・・・)。コレは、拡大解釈や、曲解したコトでも、同義だ。

 

それでいいなら。と、それ以上、彼女は何も言わず、息災を願って見送る。

 

「老爷も道中は気をつけてください」

「流石に諏訪国で死ぬコトはない」

 

彼女は、先程の問いと、夫婦の時間を楽しむのにまだ腹八分目とでも言いたげだが、青娥とこの場で乖離した。諏訪湖へと向かおう。

さっきから、というか神社の裏にある蔵から出た時点で、オレの周りには、霧になった萃香がいるし、なにかあっても逃げる。死ぬコトはない、ハズ。

諏訪湖へと向かう道中、鬼について思い出すが、鬼にも長い歴史はあるワケだ。

 

「歴史か……」

 

原始仏典の一つ、経典・ダンマパダにおいて、古代インドの哲学者・釈迦は言った。

『およそものごとは、意思をその基本とし、意思をその主とし、意思によってそれが創り出される。からだから影がついて離れないように、もしも清らかな心で話し、行えば楽しみはその意思をもつ人についてくる。』

辻説法も聞いていいと思うほど、釈迦の説法は、平成時代の人間に通用するくらい、教訓になる。仏教にとって、金科玉条は大事なコトだ。だが剃髪染衣の生臭坊主はくたばれ。

釈迦は偉大だよ。でも、こうして色々な書物・法・教えを読んで思うが、結局は読んだとしても、それは読んだモノの(・・・・・・)主観と(・・・)解釈という名の妄想でしかない(・・・・・・・・・・・・・・)。コレを軽々しく〝真実(正しい)〟などと、とてもじゃないが、言えないよ。

徳川家康の側近で、江戸や四神相応に関わり、その正体は明智光秀説がある天海だって、ソレはあくまでも説であり、それ以上ではないんだ。山王一実神道は好かんがな。

オレだって、自分が正しいなんて思ったコトは一度もないし、そう自惚れたコトもない。

だけれども……

 

「じゃあ観るなとか、納得しろとか、コレはこういうモノなんだよと言われても、ムリだ」

 

日本の歴史と神様の歴史、または神話を読まずに神を語ったり、神を使うヤツは総じてクソだが、平成時代まで残った神話とは、基本的に後付け、と言いたいのは判る。例えばギリシャ神話だってローマ神話の話が混ざってるからな。というか、コレは殆どの神話に言えることだよ。だからさ、ソレは否定しないし認めるさ。否定できるワケがない。

ギリシャ神話だって、キリスト教徒によって後付けされた部分もある。ソレは旧約聖書だろうが、新約聖書だろうが、インド神話、中国神話、古事記と日本書紀にだって、後付けは言えるコトさ。

例を挙げようモノなら、枚挙に遑がないよ。

だが。だからこそ、コレを言う。

 

「〝昔と今は違うんだよ〟」

 

勘違いしているモノはムダに多いが、神話に後付けが許されたのは昔の人間だけだよ。なのにさ、明治時代で完成されてる神話に対し、インターネットなんてモノがある平成時代の人間が、余計な設定を盛り込むのはアリ、なんていうのは、決して、平成時代の人間が言っていいコトではない。ソレを言っていいのは昔の人間だけだ。

大体ソレは、昔の話なワケだが、平成時代と紀元前が同じ、なんてほざくヤツは、言ねえだろう。紀元前と平成時代ではなにもかもが違うというのに、〝同じ〟なんて、おかしなコトを言うワケないよな。

 

「白鵬の反則エルボーでも喰らえ」

 

ソコで黙り、雑草と湿った土を踏む音が止む。遂に目的地の諏訪湖へと来たからだ。

真夜中だが、月明かりのお蔭で、周りや、足元までよく観える。湖に映る月が反映され、瀲灩しているが、どっかの小説みたいに、あそこへ入って月に行けたら面白そう。

しかし、流石は諏訪国一の淡水の湖、唯々でかい。

ただ、さっきからダレカの歌声が聴こえる。彼女だろうかと思い、辺りを見渡すが、どこにも見当たらない。とても澄みきった歌声が、聴こえるだけだ。一瞬でも気を抜くと、その歌声へと夢中になり、なんだか誘惑されそうになる。

わかさぎ姫に会う場所を最初から決めている。近くに沿岸と遠浅があるけど、人工の遠浅砂地だ。前もって会う場所を指定した、と永琳から聞いている。一応、オレも海神なのだが、諏訪湖を潜って人魚のわかさぎ姫を探すのは、出来なくもないけど、しない。

一向に出てくる気配がないが、寝てるのかな。雷霆……を投げると大変なコトになるし、神としては地味なやり方だが、ココは念話を送ろう。序でに発炎筒を使うか。

お、歌声が止んだ。でも、わかさぎ姫って記憶が戻ってるのか戻ってないのかを、オレは知らないや。

よし、ここは英語のエロい単語を念話で送りまくってみよう。意味を知らなきゃただの雑音だが、意味を知ってたらセクハラと取られるけど、大丈夫だろ。多分。

 

「あなたは、私を退治しに来たのですか?」

「しません。そんなコトしたら、オレが神子に殺されるじゃないか」

 

念話でバカなコトを送りつけていると、水面から静かに、一切の波紋を起こさず顔だけが出て来た、のはいいけど、まず第一声が、不安そうにしてから疑問を投げかけてきた。

殺されるかもしれない、という恐怖を、彼女は感じているのかもしれないと思ったが、声色から伺うに、どうやらそうでもないらしい。

 

「……恥ずかしながら、送られてきた単語を、私は聞き及んだコトがありません。どういう意味でしょうか」

 

「ゴメンゴメン。ソレは特に意味はないんだ」

「そうでしたか」

 

さっきのでかなり警戒されているのかと思いきや、彼女は水辺から遠浅へ来ると、波に体を揺られながら、鱗に覆われた下半身だけを、そのまま横たわらせた。警戒心薄すぎではないだろうか。

上は着物を着ているが、諏訪湖に入っていたので、当たり前だが、びちょびちょだ。彼女の青色の髪から、水滴が流れて、地面へとぽたぽた落ちていき、火照った顔も合わさって、なんかエロい。着物も濡れてるし、これが、水も滴るいい女と言うやつか。下半身は魚、と言っていいのかは微妙だけど、その部分にはなにも着てない、丸出しなワケだが、これは、裸を見せているコトと同義ではないのだろうか。人魚の価値観は判らんな。

 

「で、諏訪湖の住み心地はどうだい。問題があれば改善するが」

「そんな……ココは静かに過ごせますし、それでいて、暖衣飽食で困りません。まるで天佑神助。感謝こそすれ、不満なんて……」

 

「それは良かった」

 

おっとりしている彼女は、本当に感謝しているコトを、深厚で真摯な心から、胸の内に秘めていた気持ちを明かす。

もしかしなくても、彼女はかなりいい子なのではないだろうか。これは、ちょっと、いや、かなり心配だ。神子がオレに嫁いだ、というのもあるんだろうけど、彼女、博愛主義なのかもしれん。

昔、あの鬼人正邪が、弱者が支配する野望で、少名針妙丸を誑かした時では、打ち出の小槌の魔力の影響で、わかさぎ姫も暴走はしていたが、今はその影響ないお蔭で、彼女は鷹揚して、かつての片鱗を感じない。

 

「諏訪大明神のご寛恕に、心から感謝を」

「礼なら、神子に言ってくれ」

「はい。そう伝えました。ですが、貴方と同じコトを言われましたよ」

 

彼女は口角を上げ、両目を閉じ、祈りのポーズをしながら、感謝の意を示された。

神使として人魚はどうしても欲しかったから、別に感謝されるほどじゃない。神子とオレの利害が一致しただけだ。なによりオレは、雷神ではあるが、海神でもあるのだから。

あ、彼女は、永琳から人間になれる薬を貰ってるハズだ。承諾してくれたら、後で、わかさぎ姫の下半身が人魚から人間へと成っていく過程を、まじまじと見せてもらおう。

 

日本神話の神々は、古事記と日本書紀にあるように、役割や立場は決められたコトが色々ある。

だが、我々××神話は、その神話を捨てた。従って、日本神話のように決められたモノは少ない。故に、××神話の神々は、日本神話を正史通りに進ませ、天皇、物部氏、出雲氏、諏訪氏のような神裔を、不老にして、天津神と国津神の血を、戦国時代まで受け継がせていく役割を担っている。

戦国時代代からは、ミトコンドリア・イヴと、Y染色体アダムのニンゲンを養子に取らせ、今まで守って来た家督も、譜第も終わり、全て神裔ではないニンゲンへと譲らせる。だから、もう、神裔は産まれないのだ。

平成時代の人間は、"宗教ではなく科学を選び神を捨てた"と勘違いしてるモノは多いが、実際はそうじゃない。神が人間を捨てたんだ。混血しかいない、雑種しかいない、ニンゲンモドキを。

 

「少し変なコトを訪ねるが、キミは人間に対してどっちなんだい」

「どっちとは......どういうことでしょうか?」

琉球國(沖縄県)には人魚伝説があるんだが、この話は両極端でな」

 

紫と幽香は、ニンゲンを妖怪よりも下に観ている。だが、天神地祇の血を引く神裔のニンゲンに関してなら、ソコまで見下していない。出来た娘達だ。

オレは最初から、ニンゲンなんぞ見下しているよ。天皇みたいな人間は、例外なだけでな。神裔のモノは気にしないが、そうでないただのニンゲンはキライさ。

そして、ギリシア神話には、Σειρήν(セイレーン)という怪物がいて、その怪物は、平成時代では人魚と同じとされている。アレは元々、人魚ではなかったが。

 

それで、江戸時代に出来た『稲生物怪録』というモノがある。内容を掻い摘んで言うと、コレには妖怪の魔王・山本五郎左衛門が、稲生平太郎を驚かそうとしたけど、彼は全く動じず、その気丈さを称えた、という話だ。しかも、稲生平太郎は、実在した人物である。

昔、コノ稲生平太郎という人間が気になって、彼の家系を調べて判った(・・・・・・・・・)。彼は平氏・藤原氏の血を引くモノだったのだ。平氏は天皇・皇室からの輩出で、藤原氏は娘を天皇へ嫁がせて近親婚を繰り返し、天皇の血が入っている。つまりはそういうコトだ。

そもそも藤原氏は天皇の血がなくても、天津神・天児屋命が祖神で、天皇と同じ神裔だがな。

 

「人間を助ける話と、そこに住む人間全てを津波で死なせる話がある」

 

ホント、今まで長かったよ。自由にして来たように観える、かもしれないが、実際はそんなコトはなかった。もちろん、オレはセックスと女が好きだよ。ただ、女好きで娶って来たのは事実だが、ソレは他の事を考えないようにするためにしてただけだ。

長かった。ココまで来るのにも長すぎた。盈虚を何度観ただろうか。もう、ビッグフット数くらい回帰してるが、気が遠くなるほど繰り返しても、永遠なんて、まだまださ。

 

「もう一度聞くが、キミはどっちだ」

「......ソレは、大事なコトなのでしょうか」

「この先の分水嶺を左右するくらいには」

 

別に、どちらを選んでも構わないんだ。どんな回答だろうとも、諏訪国から出ていけなんて言う気はないし、神使としての資格を剥奪する気も、ましてや四六時中、監視体制を敷く気もない。

淡水に棲む人魚――わかさぎ姫については、神子に頼まれていたコトだから、今更ソレをなかったコトにもしない。だが、彼女がニンゲンに対してどう思ってるかについては、やっぱり確認しておきたいんだ。

例え、記憶が回帰してなくても、あの時の感情を復元してなくても、胸襟だった仲を、全て泡沫の如く消えてもだ。

 

「私は――」

 

人魚は、一縷の望みを言葉に乗せて、答えてくれた。

いきなりの無茶ぶりにも、真剣な表情をして答えてくれた人魚の言葉を聞いて、満足だ。

影狼と会わせてみようかな。アイツもオレの神使として諏訪国にいるが、今はわかさぎ姫と仲良くなってないので、草の根妖怪ネットワークは、まだ結成されてないハズだ。

八ヶ岳(妖怪の山)にいる古明地さとりと、古明地こいし、赤蛮奇も、紫と幽香が従えたみたいだし。

懐から、諏訪子に貰った犬笛を取り出し、そのまま口に含んで笛を鳴らすと、湖の諏訪湖や、辺りの沿岸や平原に響き渡った。コレでオレの神使である狼は、条件反射で音に反応して、すぐ来るだろう。諏訪子と永琳がアイツを調教したらしいが、まるでパブロフの犬だな。一応、アイツは狼なのに。

彼女は、なぜ笛を今吹いたのか、不思議そうにコチラ観て、首を捻ったが、オレは気にせず話し続ける。

 

「答えてくれて助かったよ」

「本当に、コレでよかったのでしょうか」

「ソレでいい。オレは好きにした。キミも好きにしろ」

 

「え......あ、今、スキって仰って……」

 

人魚は、自分の両手を両頬に当てて、顔を隠した。彼女を真っ赤にさせるような発言を、してしまっただろうか。目の保養になるのは嬉しいが、全く身に覚えがない。

まあいいや。大事なコトをちゃんと聞くコトが出来た。後は、犬笛で呼んだアイツと会わせよう。

 

最初は微音だったが、次第に地を蹴る音が聞こえ始め、ソレがだんだん大きくなっていく。音がする方へと顔を向けたが、月の光が届いてないから、よく観えないんだけど、ソイツは森林の奥から駆け抜けながらも、まるで逃がさないように、刺すような目付きでこちらを観ていた。

 

「狼男だな。間違いない」

「狼女です!」

 

すると、獲物でも襲おうとしていたソイツは、森を抜けて、ようやくオレが呼んだと判ったのか、両足に力を入れて、止まるために踏ん張ろうとしているが、地面と足が擦れているので、その摩擦と推進力の衝撃により、けたたましい音を出し、足回りに土埃が舞いながらも、オレの隣でなんとか止まった。

止まった、のはいいが、誇りだけは高いこの狼は、さっきから、人魚に穴を開けんばかりの視線で観ているが、食べ物が目の前にあって我慢できなかったのか、腹が減っているのか、狼の腹部が小さく鳴り、その音を聞いた人魚の口から、かすれた悲鳴が漏れた。

……コイツ、永琳にわかさぎ姫を食べたらダメ、と一度言われてるハズなのに、流石だな。アレに逆らうなんて、オレでも出来ないぞ。

 

「スゴク美味しそう。ねえねえ神様......アレ(人魚)、食べていい?」

「ダメです。喰おうとしたら、咲夜を呼んでナイフの錆にしてもらうぞ」

「ひえー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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