蓬莱山家に産まれた 作:お腹減った
新約聖書・ヨハネの黙示録 第22章13節
『
「正勝吾勝勝速日」
神綺とサリエルに頼み、また創造してもらった、月の都の謁見の間にある、神韻縹渺のような、それでいて金殿玉楼な、空席のフリズスキャールヴへ腰を掛け、流れる動作で両足と両腕を組んだ。尊大横柄な態度で一度殺した女神2柱を観ると、玉座の両脇には、神綺やサリエル、××神話の高位の女神が侍られている。咲夜は輝夜を追って地球に戻った。
豊姫と依姫は、魔界、地獄、天界、冥界に転移させていた玉兎たちを束ね、創り直した月と月の都へと連れて行き、殺してまた蘇生させた月の民へ引き渡している。月の都の組織と上層部を洗い、また1から全てを再構築し、元月の使者・海神の豊姫と依姫が一旦纏めあげ、玉兎を含めて統括するためでもある。月の民が死んだままだと困るからだ。ソレを終えたら後は蘇生した月の民に任せて、依姫は子供を育てるのに専念するコトになっている。豊姫は、いろんな国を旅行して、いろんな物を食べて、観光するらしい。二柱共、もう月の使者じゃないから好きにしても問題はない。オレ、永琳、豊姫、依姫が月の支配者であればいいから、月の民にもあれこれ命令はしない。好きにしてもらう。鈴仙は元々、豊姫と依姫が飼っていた愛玩動物なので、飼い主に返した。簡単に返された本人は不満そうだったが、飼い主二柱が妻だし、鈴仙が欲しくなれば妻たちへ言えばいいし。
側頭部に付けていた能面のこころを右手で掴み、今度は顔に装着した。まずは前口上を話そう。
「二柱の気分はどうだ」
この場にいる、ギリシャ神話、中国神話の有能な二柱の女神が、和光同塵するコトのないように、××神話へ引き込んだけど、その前に一度殺しているので、現状の気分はどうか聞くコトにした。引き込んだと言っても、必要な時以外は好きにしてもらうので、犬馬之労みたいにさせる気はないし、八紘為宇のような、世界を一つの家にするとかいう、第二次世界大戦中の日本が、中国、東南アジアへの侵略を正当化するための、スローガンみたいなコトじゃない。
古代ギリシアの哲学者・クセノファネスは言った。
『すべては一であり、一は神である』
オレが求めてるのはメソポタミア神話、ギリシャ神話、インド神話みたいな、一燈照隅萬燈照国だよ。かと言って、百万一心をしたいワケでもないのだが。
「私は特にないわね」
「老少不定。私も、死んだ子供が戻ってくれました。だから...十分です。これ以上は望みません」
「…あれほど瞋恚していた嫦娥は――」
「もはやどうでもいい」
双方を一方的に殺したんだし、もう少し反応が欲しいところではあるけど、地獄の女神と仙霊は、マイペースだった。恬淡寡欲であるへカーティアは、右手で口元を隠しながら欠伸をして、一緒にいるクラウンピースを呼んでなにかを頼み、純狐は一陽来復の表情で、子供を両腕で支えながら抱っこし、我が子を慈しみながらあやしているが、なんというか行雲流水で、花顔柳腰な母の顔になり、殺す前と比べて落ち着いている。あの様子を観るに、百折不撓ではなかったようだ。いやそうなったのは回帰させたからなんだけども。
純狐を一度殺して、まだ子供が殺されず、純狐が憎悪の塊になる前の感情を、彼女に
しかし、嫦娥なんてどうでもいいと言う、悠々自適な仙霊の立ち振る舞いを見て、これを、よかった、とは言えない。
「ねーねー。ひろは、やっぱり地獄の女神と仙霊を、××神話に混ぜるの?」
「色んな民族の神話が混ざってるメソポタミア神話みたいに、神話って、本来そういうモノだろ」
「そうだけど~。まるで第二次世界大戦中の日本のスローガン、
「八紘一宇というより、和洋折衷、もしくは和魂洋才だと思うが」
右隣にいた地獄・魔界の総括であり、××神話の高位の女神である神綺が、両膝を床につき、悪魔みたいな翼を動かし、オレの膝に両腕を置いて、撓垂れ掛かりながら話しかけたので、右手で神綺の頭を撫でつつ、愛でながら返答すると、脇にいたサリエルが、××神話へ混ぜることに同調した。サリエルの表情から伺うに、へカーティアと純狐を××神話に混ぜるコトへの不満はないようだ。
「神綺、いいではありませんか。神が増えるのは喜ばしいコトです」
「サリエルはひろの命令には忠実すぎ。少しは不満を抱いた方がいいわよ」
「旧約聖書・エノク書に記載されている
「…エノク書は偽典だし、正典には天使ガブリエル、天使ミカエルしか出てこないわよ」
「聖典・タナハでもそうなってます」
どうでもいいかもしれないが、一部のキリスト教派では、エノク書が正典扱いになっている教派もある。
偽典や、ヘブライ神話などに出てくる天使で、俗説が無駄に多い事で有名なサリエルは、大天使説と、熾天使説がある。脇に侍らせているサリエルには、この二つの説が混入されているのだ。てかキリスト教の教派、無駄に多すぎなんだよ。あれ全部、解説を交えながら捌ける人がいたら、オレはその人を、間違いなく尊敬するね。
しかし、天使は禁欲的な感じなモノと思われがちだが、偽典に出てくる天使って、基本的に人間とセックスしまくってるんだよなあ。まあ天使って存在、元々は人間って場合が多いからな。元から天使のヤツもいるけど。
「純狐、〝解釈の余地がある〟ってどういうコトだと思う」
「格物窮理......一般的には…色々な想像が出来る、というコトでしょうか?」
抱っこしてる子供に夢中で、純狐へと声をかけると、自分の世界に入っていた彼女は、ハッとして意識を呼び戻し、今の問いを反芻して思考を重ね、ここは一般論で答えたが、キレイな答えだった。それではダメだ。
「いいや違う。解釈の余地があるってコトは、言わば
あくまでも便宜的な方便ではあるが、仏教には、象の上に世界がある、っていう考えがあるのは、有名だ。でも釈迦はさ、そんなコト一言も言ってない。釈迦が言ってないコトを言うってコトは、もう別モノだ。つまり、元々あった設定に無いコトをするってコトは、虚言や妄想と同じだ。その時点で曲解ですらない。釈迦が言ってないのだから、曲解のしようがないのだ。だから、教えを守るってのは、大事なんだ。
「……あえて綺麗に言いましたが、天帝はハッキリ言いますね...」
「絶対に自分の都合にいい方へ解釈するモノが出るから、明確に言うべきだ。キレイな言い方はするべきじゃない」
だからこそ、神話、あるいは歴史に無いコトをするってコトは、妄想なんだよ。それに、幻想郷、という言葉はダメだ、幻想郷という綺麗な言葉でいい方へと解釈して思い込み、先入観で勘違いするモノは必ずいる。妄想郷に変えるべきだ。そして定義は必要だ。曖昧にするのは解釈の余地があるって言うけど、それ妄想だろ。綺麗な言い方をしないでくれ。
釈迦が言ってないコトを、仏教の教えだ、って言うのは滑稽でしかないよな。釈迦が言ってないコトを言うってコトは、曲解ですらない。それは虚言で妄想だ。それと同じさ。面白ければ、結果が良ければ全てよしって考え、邯鄲の枕はキライだ。
人間が神に無礼なコトをしても許されるとか、当時の価値観と神をなめてるだろ。今が鎌倉時代とはいえ、いいや鎌倉時代だろうが平安時代だろうが、当時の価値観から考えると、普通、殺されても文句は言えんぞ。神がただの人間に、血も、才能も、容姿も、なんの取り柄もない平凡な人間に、なんの長所もなく、短所しかない欠点だらけの人間に、その辺にいそうな人間に優しくするとか、笑わせるなよ。神が他の人を助けて死んだ人間を褒めたり、その死んだ人間の人生をやり直させる、とかを神が言い出すのは、ホントに頭が痛い。ソレはただのお為ごかしじゃないか。そんなコトを言い出す、妄想で出来た
「妖怪の父と言われた、あの水木しげるは、妖怪の
色んな妖怪漫画を手掛けた、かの水木しげるは、自分が実際に体験したコト、妖怪の伝承、歴史、古い文献や絵巻を調べていた。一反木綿とかをあの姿へ形にしたのは水木しげるだけど、ちゃんと調べた上で、妖怪が実在するモノとして、漫画を描いていた。妖怪を実在するモノとして描いてたのであって、自分の妄想として、自分のオリジナルとして、妖怪漫画を描いてなかったんだ。今、平成時代の妖怪があるのは、水木しげるのお蔭だ。鬼太郎は、元々正義の味方じゃなかったがな。
とりあえず、水木しげるの漫画『悪魔くん』の鳥乙女ナスカは、今観てもカワイイ。
「オレの目的の1つは一燈照隅万燈照国だが、へカーティアと純狐には動いてもらう時が来る」
純狐に解釈について話していたら、仙霊の隣にいた地獄の女神が、会話に混ざって来た。
「ソレってまだ先の話じゃない?」
「そうだな。へカーティアと純狐は、それまで好きにしていい」
彼女と会話してると、ギリシャ神話を思い出す。
オレはギリシャ神話で言うと、
ユウゲンマガン、夢月、幻月、魅魔などの女神にも、それぞれの与えられた役割がちゃんとある。稀神サグメは、日本神話通りの、ドレミー・スイートは中国神話通りの役割、なのだが、ドレミーの立ち位置的に言えば、ドレミーはギリシャ神話の夢の神
肝心の実妹、輝夜の役目は、
「私たちは幾度も回帰したけど、ゼウスの命で、ギリシャ神話のイクシーオーン、シーシュポス、タンタロス、プロメーテウス達が、永遠に苦しみ続ける話がある。あれ、ループ物よね」
「原点だ。神話の設定を作り、そしてソレを語り継いできた紀元前の人間は、やはり優秀だろう。後から出来たモノは、ソレの派性か、あるいは真似事で、水増しで、後追いでしかない」
世に出ている創作物では、男装女装、BDSM、逆レイプ、食糞、飲尿、貞操帯、色々あるけど、これらが神話で既にあるってどういうことだよ。紀元前の人間は未来に生きてんな。しかも今挙げた一部は、古事記と日本書紀の日本神話にもあるし。
「ナポレオンがピラミッドで未来を見た話があるけど。あれも、ね…」
「ああ。アポローンの力で未来を観る事が出来た、ギリシャ神話のカッサンドラーとそっくりだ」
元ギリシャ神話の女神を観て思うが、昔、天才と謳われた古代ギリシア人の哲学者、数学者たちの
古代ギリシア人を調べてみたら、古代ギリシアの哲学者ピュータゴラース・哲学者プラトーンも、天皇と同じ、神裔だったんだ。天皇にとって都合がいい、日本神話と同じように、ギリシア神話もまた、古代ギリシア人にとって、都合がいい神話だった。
例えば、そうだな。古代ギリシア人の祖とされるギリシア神話の神裔・
神裔の天皇・藤原氏・稗田氏・平氏・源氏・菅原氏・出雲氏・物部氏・蘇我氏・小野氏・諏訪氏、みたいにな。
オレが古代ギリシア人を認めているのは、そういう理由も含んでいる。それに、古代ギリシア人の哲学者・数学者たちが神の子孫なら、彼らが天才だったのも納得だ。全員が神の子孫だったワケではないがな。ギリシャ神話のプロメーテウスが、人類を創造した話もあるから。
「ゼウスは白銀時代と青銅時代の人類を
「ああ。
「古事記と日本書紀にある日本神話の場合、古代日本人は勝手に生まれたのよね?」
「そうだ。天皇は神裔だが、古代日本人は勝手に生まれた。イザナギとイザナミは関与してない」
今の鎌倉時代は、ギリシャ神話でいう黄金時代、あるいは英雄時代……に近いだろうな。
…仮に、仮にだ。自分の祖先を調べて、50代前の祖先が判明するなら、ソレはかなりスゴイんだ。なにせ、
そこで、日本神話と××神話の神々、すなわち天津神は、高天原である月の都から日本へと滞在しつつ、天皇・藤原氏・稗田氏・平氏・源氏・菅原氏・出雲氏・物部氏・蘇我氏・小野氏・諏訪氏は神裔だ、という証明人と、DNA鑑定の代わりとして、
実際に、天皇のDNA鑑定をされると、宮内庁が困るだろうし、絶対に出来ないだろうからこその、適切な処置だ。
「第16代アメリカ合衆国大統領 エイブラハム・リンカーン、ゲティスバーグ演説の記憶。
旧約聖書・
『先にあったことは、また後にもある、先になされた事は、また後にもなされる。日の下には新しいものはない。"見よ、これは新しいものだ"と言われるものがあるか、それはわれわれの前にあった世々に、すでにあったものである。前の者のことは覚えられることがない、また、きたるべき後の者のことも、後に起る者はこれを覚えることがない。』
「〝
他に例を挙げるなら、幻想郷という単語もダメだ、勘違いするモノが確実に出る。妄想郷に変える方が、まだそれを防げるだろう。
…地獄の女神と仙霊は××神話に降った、つまり、へカーティアと純狐は、月の民となっている。へカーティアとループ物の原点を話をし終え、月、月の民で連想したのか、オレを視界に入れながらも、彼女はある小説の名を出し、続けて喋る。
「月といえば、私、『本当の話』と、『イカロメニッポス』っていうSF小説が好きなのよ」
「確か…史上最初のSF小説で、2世紀にいた著作家 サモサタのルキアノス の作品だったな」
「そうそう」
スゴイよな。だって2世紀で、人間が月に行くSF小説が、すでに出来てるから。
『本当の話』の方の小説は、ゼウスのお蔭で不老不死になったエンデュミオーンが、月の王として出てくる内容…だっけか。古代ギリシア・古代ローマの人間は才能豊かで凄かったなあ。ああいう人間だけが生き残ればいいのに。滅んだけど。
まあSF物において、月に高度文明を持つモノがいるなんて設定、とっくの昔に使い古されてるよ。月に人がいるなんて設定なども、19世紀や20世紀に出来上がった設定ではない。それらの設定は、2世紀からすでにある設定だ。
SFの父と言われる ハーバート・ジョージ・ウェルズ と ジュール・ヴェルヌ がいるけど、これが19世紀とかなら別にスゴくない、なぜならば、2世紀に生きていた人間よりも、宇宙の知識があるからだ。平成時代の日本人が、マッチを使って発火しても、別にスゴイ、とは思わないだろ。マッチを使うと発火するのは、平成時代の人間だと、至極当然の常識なんだから。
「ローマ帝国第23代皇帝・ヘリオガバルスみたいなのはいたがな」
「ヘリオガバルスは皇帝としては無能でも、変態キャラとして観たら最高の逸材よん」
オレの言にへカーティアはうんうん頷いて同調し、実に神様らしいことを言い出す。別に成果主義ではないけどさ、ああいう人間こそが、本来、天才と呼ばれる人間たちだろう。誰もが認める結果を出し、その結果が、後の中世、ルネサンス、後世の基盤となっているから。日本の歴史を調べたら判るが、これは日本も例外じゃない。現時点、平成時代になってもなお、彼ら、古代ギリシア人の影響は、アラビア・西洋だけではなく、日本においても膨大だ。
なにせ、平成時代の人間より、古代ギリシアの知的水準が高かったからな。間違いなく、平成時代の人間より、古代ギリシア人の方が、知的水準は上だ。断言できるほど、彼らは天才だった。もちろん、席巻した時の奴隷がいたから、ヒマだった。というのも大きいだろうが。
とにかく、確実に言えるコトは、平成時代の人間の倫理があるのも、彼ら古代ギリシアの哲学者たちの偉業だ。もちろん神道仏教、新約聖書、儒教から派生している道徳・倫理などもある。
「やっぱり弱者で無能な人間は、身の程を弁え、弱者は弱者らしく地面に這い蹲り、有能なモノの奴隷として、歯車として生きたらいいわ」
「同感だ。神話に出てくる神裔・半神の王、
その辺は、古代メソポタミアと、古代ギリシアの人間が、ちゃんと身の程を弁えて、理解してた。自分たちは、神より劣る存在だとな。古代ギリシアの格言には、
へカーティアへ返答しつつ、よしよしと、オレも両腕を神綺の背に回し、抱きしめ返して甘やかすが、数分くらい経ってやっと満足した神綺は、サリエルの反対側に侍り、満足げな神綺を観るコトが出来たので、もう十分だろうと思い、紫と幽香も諏訪国へ帰ってるし、オレも諏訪国に帰ろうとしたら、回帰して全てを知ってるクセに、へカーティアに待ったを掛けられ、この先どうするのか聞かれる。…山紫水明の境地にいる純狐は、蘇生させた子供に夢中で、話に入ってくる気が無いようだ。
ギリシャ神話と中国神話の女神を××神話に降したが、あれこれ命じて何かさせようという気はない。ただ、欲しかったから、彼女たちを降して、娶っただけ。唇歯輔車の関係だ。
強いて言えば、二柱とも、神綺とサリエルが創った魔界、地獄、冥界、天界で好きに過ごしてもらう気でいる。××神話に降したからと言って、特に仕事はないのだ。今は、だが。
必要になる時は、おそらく、明治時代から昭和時代。そして平成時代より後になるだろう。
現在の鎌倉時代では、まだ、始まってすらいないのだから。
「それで、××神話の
「…へカーティア。
最初はいい加減にして、あとから真面目にするのが、オレのスタイルであり、モットー。
とはいえ、正直に言うと、オレがしてるコトは、古代ギリシア人たちと、ほぼ同じコトなんだが。
美女をレイプしまくったゼウスは、本来、最高神ではあったが、女好きではなかった。
古代ギリシアの詩人・ホメーロスが産まれるよりも前の、あのヘーラーも、あんな性格ではなかった。…ゼウスの姉、ギリシア神話ヘーラーは、元々あのような性格ではなかったんだ。あんな性格になったのは、ホメーロスの影響が、大きい。
「第96代天皇・後醍醐天皇時代、後醍醐天皇に仕えた楠木正成は、〝七生報国〟と言った」
たまに"神話は宗教ではない"と言うモノはいるが、それはありえん。少なくとも、紀元前の歴史を調べて、顧みるに、間違いなく、古代の人間たちにおいて、神話=宗教だった。もちろんこれは、紀元前の人間たちを調べた上で言ってる。だからこそ、この話は、古代ギリシアにも言えるんだ。それすなわち、あの古代ギリシアの哲学者たちにも該当する。古代メソポタミア、古代エジプト、古代中国の夏・殷・周の三代時代もそうだ。とはいえ、夏・殷・周の時代にも神の存在や思想は、一応あるけど、古代中国から平成時代の中国までの歴史を観るに、神の存在や思想はかなり薄い。そういう意味では、神の存在を扱わなかった仏教の開祖・釈迦と同じく、紀元前の古代中国にいた儒教の始祖・孔子も神を扱わなかったし、スゴイかもな。まあでも、これは古代中国から、色んな民族が何度も何度も、侵略と反映を繰り返してるのも、原因の一つとしてはあるかもしれない。
「お前達を××神話に降して、娶ったように、オレの目的は女を侍らすコトが一つではあるが」
日本神話とギリシア神話は、見比べてみると、ほとんど同じだ。もちろん内容が違う部分もあるし、神話の設定が全く違う部分も多くある。肝心なのは、神話時代・英雄時代のあと、天皇みたいな神の子孫がどうしているか、について、やってるコトがほぼ同じなんだ。古代ギリシアの場合は、負けたがな。古代ローマや、オスマン帝国が無ければ、古代ギリシアはどうなっていたのだろう。
江戸時代末期・幕末の朱子学者 斎藤拙堂 が、和洋折衷を唱える前は停滞していた、江戸時代の日本みたいに、なっていたかもしれんな。
「日本を、日本神話と内容、設定が酷似するギリシア神話のような結末にするコトでもあるのだ」
「あれ、それだと滅ぶんじゃ……」
「だ、大丈夫。メイビー。決して、脱亜入欧ではない」
紀元前の古代中国では火薬、紙、羅針盤、あとは活字印刷する技術があったのは有名だけど、当時の古代中国が先進国で、古代中国人が優秀だったのも納得だ。しかしながら、古代中国から何度も侵略と、侵略した民族を反映し、反映した民族と混血されてる。だから、紀元前の古代ギリシア人と、平成時代のギリシア人が、同じではないように、古代中国人と、平成時代の中国人は、完全に一致するかどうかという意味で、同じ民族ではない。
そう、かつて、紀元前の古代ギリシア・ヘレニズム諸国は、最終的に古代ローマに征服されたが、宗教、哲学、科学、医学、音楽、芸術、神話に到るまでの文化に関しては、逆に征服したように。
ギリシア神話の信仰が無くなっても、キリスト教徒や、後の中世、ルネサンス時代、平成時代までずっと語り継がれてきたように。
多岐亡羊ではなく、結末はすでに決まっている。
「二柱へ伝えるべきコトは特にないし、地獄と仙界に帰っていいぞ」
「ん。なら地獄に帰るわ。クラウンピース」
「あ、待ってくださいご主人様ー!」
フランクな返事をしたへカーティアは、地獄に帰るために次元を裂きつつ、自分の部下の名を呼び、クラウンピースは置いて行かれないよう主人の元へ向かうと、地獄の女神は隣にいた友人である純狐の右肩に、右手をそっと置き、仙霊は視界を子供から友人へと向けて、今も大事そうに抱っこしている子供を観て、地獄の女神は感慨深く呟いた。
「子供、よかったわね」
「ええ。本当に。よかった……」
二柱はお互いの顔を観て笑った。地獄の女神と仙霊がこの場でした会話はこれだけだった。
一言だけ莫逆の友と言葉を交わすと、昵懇の仲ゆえか、それだけで十分お互いへと伝わったようで、じゃあねと、オレに片手を振って、地獄の妖精を連れて地獄に帰った。
しかし、裂かれた次元は依然として残っている。純狐がまだいるから、だろう。
彼女も後に続くため、立ち上がった。しかし、裂け目から仙界へと帰る前に、フリズスキャールヴに座るオレと距離はあるが、子供を抱っこしたまま向かい合い、両目を瞑り、心の底から、感謝の気持ちを言葉に乗せ、一言一言に重みを増しながら、口にした。
「色々…添了麻煩。私の孩子について、深く...真的非常感谢。天帝のご厚意には報います」
「オレ、へカーティアと純狐を殺しただけでなにもしてないけど」
「いいえ。天帝が命じなければ、隣に佇む熾天使は、絶対に動きませんから」
「……なるほど。では、感謝してるならお前のカラダを――」
「はい。天帝のお好きにしてください。爺々の子なら、私は産みたいです」
まずは実子を蘇生させた恩を返して貰うため、仙霊のカラダを要求しようとしたら、出鼻をくじかれた。なんてことだ…イヤがる純狐にムリヤリ体を要求し、手玉に取る計画がパーだ。
ですが、と前置きをして、続けざまに純狐は喋る。
「青娥より後はイヤですから、先に私からでお願いします」
「待て、さっき嫦娥のコトはもうどうでもいいって……」
「それとこれとは話が別です。それでは失礼します」
彼女は立ち上がり、実子を抱っこしたまま一笑し、踵を返して次元の裂け目に入り、仙界へと帰った。純狐が入り終えると、次第に裂け目は閉じていき、最後は閉じて元の空間に戻る。
やっぱり青娥のコトまだ根に持ってるじゃないか! まさか后羿にもまだ怨みが残ってるのだろうか...面従腹背はゴメンだぞ。一度だけとはいえ、回帰させたというのに、どれだけ根深く怨みを募らせるんだ。せめて怨みではなく、愛とか、恋とか、そっち方面を募らせてほしいです、はい。
まあいいや、月の民と月の民を滅ぼし、月も消滅させた。そしてまた月を創り、月の都を創り直し、月の民もあらかた蘇生をし終えた。後は、両脇にいる女神に帰ると伝えよう。
……なんか最近、マジメなコトばかりで疲れたな。
「オレの役目は終えたし、諏訪国に帰るよ」
「え~。もう行くのー?」
「またグダグダ会議で小田原評定になっても困る。神綺、リグルのコトは任せた」
「うん…」
「月の民を蘇生し、月の都、月を創り直したが、忙しいのに色々とさせてすまん。ありがとう」
「私がひろの夢を叶える手伝いをするから、創って見せるから、それまで待っててね。まだ月の都が地上にあった時に……そう、約束、したからね」
まだ、リグルを使う時ではない。
オレの足元にいる神綺と、脇に侍らせていたサリエルに、へカーティアと純狐については任せる、そう目配せすると、サリエルは目を瞑って了承したが、足元にいた神綺は、寂しい寂しいと、抱き着き、オレの耳元で囁いてくる。最近、××神話のオレと神綺の実娘である、アリスにも逢えてないらしいので、寂寥感を募らせ、苛まれているのだろう。
「弘君。諏訪国へ帰る前に、不死について永琳とご一考ください」
「……そうだな」
「アテーナー様が生まれて、ゼウス様はガイアの運命から解放されました――」
左隣にいたサリエルは、右手でオレの左手を掴み、不死の話を進言して、考えるように言われた。即答は出来なかったけど、フリズスキャールヴに座っていたが、腰を上げ、すぐに諏訪国へと帰るコトが出来るよう、足元に魔方陣を展開し、なんとか返事を返す。
「――二回殺された弘君も……既に死の運命から......」
オレは今まで繰り返してきたが、その中で二回死んでいる。
さっきも言ったけど、オレは
ガイアの予言の支配下から逃れたゼウスは、ギリシャ神話において最高神になったが、元最高神で、殺され、あるいは封印された祖父、父へと続き、ゼウスは三代目の最高神だから。
「大丈夫だ。もう会者定離になるコトはない。死ぬ気はないし、殺される気もない」
「そう、ですか。大本営発表は......もうイヤですよ」
右手と左手を繋いでいたが、左手を動かして、繋がっている天使の右手と恋人繋ぎをしてから、しっかりと握り返して不死について肯定した。
不安だった表情から、胸をなで下ろしたサリエルは愁眉を開き、気が抜けて緊張の糸が切れたのか、両目の端から一筋の水滴となって流れ、頬へ伝わる。
「よかった、よかった。永琳も報われます…」
「お、おい、こんなコトで泣くなよ」
「…それだけ、嬉しいのですよ。昔、不死について進言しても、"イヤ"だの一点張りでしたから」
体を動かして泣いている天使と対面し、空いた右手の親指の腹で流れていた水滴を拭う。昔のコトを持ち出されると、言葉に詰まって何も言えなくなる。
今のオレは、平成時代、そして平成時代よりも未来に進んでも、もう死の運命に従うコトはない。しかし、今まで回帰しても、永琳やサリエルから不死について進言されたが、オレはソレを断り、なあなあと繰り返してきた。不安な表情をしながらも、永琳共々、ずっと不死になってくれるように願っていたサリエルは、絶対にオレが死ぬコトはない、という確実性に欠ける保障ゆえか、今まで抱えてきた、胸をえぐられる思いもあり、不死になってもらい、浮かばれたいという気持ちも、あるにはあるのだろう。
「いい雰囲気のところ悪いけどちょっと待って。今の言葉、ウソじゃないよね!?」
××神話の熾天使を泣かしてしまい、どうしたモノかと悩んでいたが、そんな空気を、悪魔である神綺がぶち壊してくれた、のがいいが、オレの胸ぐらを掴み、今もサリエルと恋人繋ぎをしながらも、ぶんぶん前後に振られてシェイクされる。
心なしか、繋いでいた天使の片手に、オレを逃がさないように力がこもった、気がした。
「ホントホント、ウソじゃない」
「じゃあこれ! これ飲んで!!」
「うげ」
脳をシェイクされた事と、ソレのせいで酔って気持ち悪くなった事と、観たくもない薬を出されてのトリプルパンチで、イヤだという声をあからさまに出してしまった。一体なにを渡されるかと思いきや、魔方陣で神綺の右手へと転移させ、オレへと渡したのは、青娥が飲んで不老不死になった、あの蓬莱の薬、だったのだ。
サリエルと恋人繋ぎをしている左手は使えないので、空いている右手でソレを受け取った、けど、これは、飲みたくない。
「結局、不死になるなら蓬莱の薬でもいいよね? はやくはやく。あ、飲むまで逃げないでね」
「か、顔が怖いよ神綺ちゃん。折角の美人が台無しだ。不死についてはこれ以外の方法が…」
「イヤ! 私達を安心させてほしいから、この場で弘が飲むのをしかと見るまで行かせないわ!」
胸ぐらを掴むのはやめて、オレを逃がさないためにまた抱き着かれた。
これ以上ここにいる場合、蓬莱の薬を飲まねばならんだろう。でもそれはマズい。今も手を繋いでいるサリエルと、抱き着いている神綺から撤退しようと判断し、先程から展開していた魔方陣を使い、諏訪国へと帰還せざるをえない。
「神綺、鎌倉時代で飲むワケには、不死になるワケにはいかんのだよ」
「あ、まっ――」
転移を止めようとした神綺から振り切るため、そのまま魔方陣で諏訪国へと帰った。
オレが月の民、へカーティアと純狐に対処してる間、地上でどれだけ進んだかの現状を聞くため、久しぶりに魔方陣で
「人間の感情は脳で生まれた化学反応でしかなく、恋という気持ちも脳にあるニューロペプチドが受容体と結合するのが原因の発端。人間・動物が老化するのは、活性酸素が原因の一つでもある」
エステル書残篇 第
『而して王此等の事を記憶にとどめんがため記錄を作り、モルデカイも亦之を記しぬ。』
旧約聖書・出エジプト記 第17章14節
『
「
神話で重要な話とは、神裔・半神・英雄時代も含まれる。
これは日本神話や、ギリシャ神話、インド神話、中国神話の黄帝、旧約聖書のノア・アブラハム・ヤコブ、新約聖書のイエス・キリスト、イスラーム教のムハンマド・イブン=アブドゥッラーフだろうが、同じだ。ギリシャ神話の場合だと、その人数はとても多いから、判らなくはないんだが。
神話においてなによりも大事なのは、神話時代から紡ぐ"血"だ。
なにが神は人を救うために存在するだ。そんなあやふやで、曖昧な言い方をするな。もっと具体的に述べて説明しろ。
ユダヤ人はヤハウェの子供みたいなモノじゃないか、古代ギリシア人も、ほとんどはゼウスの子孫じゃねえか、日本神話も、天津神と国津神の神裔に都合がいい神話じゃねえか。
日本神話・ギリシア神話の場合、なんのタメに、誰のタメにあるのか、ソコをちゃんと理解してんだろうな。
「そしてどういうワケか、大抵の人間は英雄という言葉を聞くと、人格者と思い込むヤツが多い」
よくいるんだよ、
つまりこれは、
…まさかとは思うが、ディズニー映画のヘラクレスを判断材料にしてないだろうな。ギリシャ神話のハーデースは悪役じゃないんだぞ!! むしろヘーラクレースより、ハーデースの性格、人格の方が、まだ、まともだというのに。
お蔭で神、神裔、半神はいい迷惑だ。そんなコトをするから弱者に、神、神裔・半神の英雄がどういう存在かを勘違いされるんだ。
キリスト教における三位一体で、神の子であり、神でもある、イエス・キリストの扱いはこうだ。
新約聖書・マタイによる福音書 第27章11節
『さて、イエスは総督の前に立たれた。すると総督はイエスに尋ねて言った、"あなたがユダヤ人の王であるか。"イエスは"そのとおりである"と言われた。』
マタイによる福音書 27章54節
『百卒長、および彼と一緒にイエスの番をしていた人々は、地震や、いろいろのできごとを見て非常に恐れ、"まことに、この人は
新約聖書・マルコによる福音書 第3章11節
『また、けがれた霊どもはイエスを見るごとに、みまえにひれ伏し、叫んで、"あなたこそ
新約聖書・ルカによる福音書 第22章70節
『彼らは言った、"では、あなたは
新約聖書・ヨハネの黙示録 第19章7節
『ユダヤ人たちは彼に答えた、"わたしたちには律法があります。その律法によれば、
ヨハネの黙示録 第19章17節
『イエスはみずから十字架を背負って、
キリストがユダヤ人に殺されたので有名な話は、ヨハネの黙示録にある。
例えば、ヨハネの黙示録の第19章7節であるように、坊主が守らなければならない規律の、戒律がある。今で言う法律と同じだ。これを僧などが破ったら、罰を与えられる。でもそれは、人が人へ罰を与えるのであって、仏が罰を与える訳じゃない。
実際はユダヤの王ではないが、新約聖書において、ユダヤの王、神、ヤハウェとマリアの子とされている、イエス・キリストと勘違いしてんじゃねえのか。
「これは、不老不死の仙人と、寿命があるただの人間、祭神に仕える処女の巫女と、娼婦で生計を立てる歩き巫女が、同じ存在と言ってるようなモノ。これではダメだ、肝心の区別が出来てない」
日本神話は天皇と神裔だけに都合がいい、ギリシャ神話は古代ギリシア人だけに都合がいい。これは中国神話も同じだ。中国神話に出てくる黄帝の子孫、または、道教に都合がいい神話だ。誰にでも都合がいい神話ではない、ただの人間にとって、都合がいいモノではないんだ。なんのために、言葉や文字を差別化してると思ってるんだ、区別するためじゃないか。
巫女の文字でよく混同され、一括りにし、今でもしばしば誤解を生んでいるが、祭神に嫁いで仕えて、神の身の回り、例えば食事の用意など、または、巫女舞の雅楽で神を楽しませ、あるいは神の性行相手をする処女の巫女と、娼婦で生計を立てる歩き巫女とは、そもそも別モノなのだ。これの区別がついていない人間は、無駄に多い。これは半神・天皇とただの人間が、同じ存在と言っているようなコトで同義なのに、何故気づかないんだ。
「科学と宗教は同じではない、と言うモノがたまにいる。だが実際は言い回しが変わっただけだ」
前に、"普通でないことと嫌悪感は、その種の性的行為が不法であることを意味しない。"そう聞いた時は、その通りだと思った。
「近親相姦がダメだと謳うモノって、教えを守る原理主義の宗教家と、狂信者と何が違うんだよ。法も、思想も、倫理も、論理も、価値観さえも。科学で判明したコトを守る。でもそれって」
天狗達に整備された山道を進む事に、山だから斜面なので次第高となっていくが、少し肌寒い。聳え立つ妖怪の山の整備された山道を登っていると、両脇にある森林はまだ紅葉のようだ。もう少ししたら冬なので、これも見納めだ。鬼女の紅葉は元気だろうか。
山紫水明の妖怪の山は、四季の季節によって桜梅桃李になるので、ソレを眺めるコトが出来るから結構嬉しい。
そうこうして、かつてのムダにデカい門へと到着。やっとここまで来たが、頂上までまだ歩かねばならん。ソコで門番をしていた天魔の部下である天狗は、オレの顔を観ると頭を下げて門を開けた。顔パスです。あの時は、コンガラも一緒だったな。
門を抜けると、視界には頂上へと続く階段が映る。ひーこらしながらクソ長い階段を上って行くと、砂礫帯に到達し、塔みたいな建物が観えて懐かしい気持ちがにじむ。どうでもいいが、ここ、コマクサが辺りに咲いていた。そういえばコマクサって、蓮と似てるよなあ。まあコマクサより蓮の方が咲いたらキレイだけど。
「紀元前から続く宗教となにが違う。なにも違わない、同じだろ。科学の教えを守る、科学教だ。人間の本能で、食人、殺人、同性愛、獣姦、両性具有、近親相姦は
知ってるか、見た目は愛らしいあのラッコのオス、アザラシの赤ちゃんを力づくで強姦したりと、強姦したせいで死んでしまったアザラシの子でも、ラッコは何日間も交尾しようとするんだよ。つまり死体とセックスしようとする"死姦"だ。まあラッコと人間とでは色々違うが。
人間の感情は化学反応、
科学で判ったコトが正しいと言う人間がいたら、ソイツは立派な科学教の信徒だ。ソレを自覚してないモノはムダに多い。
科学が
「やっと着いた」
遂に妖怪の山の頂上へと到着したが、風がスゴイし寒い。
なんで魔方陣を使わず歩いて来たのか。その理由は、道中でにとりたちの女河童たちや、河童が山に移ったメスの山童を観られるかもしれないと思ったから、ここまで歩いて来た。基本的に、河童たちへと接触してるのは永琳と神奈子くらいで、オレは最近、にとりと逢ったり会話をしてないから、偶然に出会うコトを期待してたけど、無駄足だったよ。落胆だ。やはり逢うにはアポを取らなきゃいけないな。こんなコトなら魔方陣で一気に塔の内部まで行けばよかったと思う。今更遅いけど。緊褌一番だった月関係を終えたから、当分は空いてるので、ヒマな時にわかさぎ姫のところへ赴き会ってみよう。
「お帰りー」
「シヴァ神・大国主・ミシャグジ神か…」
「分霊を取り込んだといっても、私は魔縁だけどね」
疲れたので一息つき、内心でひとりごちたら、空から地上へとオレの目の前に急降下した。余波の風圧で涼んでいると、翼を羽搏かせながら、予定通り天魔が現状を報告する。
が、天魔の隣には鬼神もいた。鬼神の彼女も喋ろうとしたが、天魔の手で遮られてしまい、喋りたくても喋る事が出来ないというもどかしさにじわじわと蝕まれ、そわそわと落ち着きがなく、ちらり、とオレを観て視線がぶつかってしまい、そっぽ向いた。なのにまた横目で観てはやめて観てはやめての繰り返し。天魔もソレに気付いてるが、実娘で遊んでいるのか無視してる。
月、へカーティア、純狐についてやっと終わった。しかし元とはいえ、至高神が動くってどうなんだろう。
「弘天が月の民を殺戮し、地獄の女神と仙霊を引き込んでる最中、承久の乱は終わったよ」
「…アマレク人とエブス人もビックリだな」
「それで天津神と国津神たちからね、僧兵をあらかた殺し終えたって報告も受けてる」
「ならば足利氏に命じて、室町に進めるか」
「室町なら、コシャマインの戦いもあるね」
承久の乱は終えたなら、後で鎌倉へ向かうか。六波羅探題はオレが潰さねばならんし、忘れないようにしよう。鎌倉幕府を潰すと言っても、源義仲を殺すって意味じゃないし、北条氏を皆殺しにするワケでもないんだが。
徳川家康って人物は有名だろう。しかし、徳川氏が源氏の末裔っていうのは、かなり疑わしいのも有名だろうと思う。徳川家康なんぞ、所詮、クソ乞食坊主が祖先の成り上がりで、もっと正確に言えば、先祖を捏造したモノだ。
百姓から成り上がり、平氏を自称し、徳川家康同様、先祖を捏造した豊臣秀吉もダメだ。なにせ、治承・寿永の乱は起きてない。実際に起きたのは、平将門の乱と、承平天慶の乱だ。よって、あの
日本神話が実際に起きた以上、血縁関係と、血の濃さと、譜第と、家を守るコトは、かなり大事になる。今までも、血を偽証したモノは、全て殺してるから。天網恢恢疎にして漏らさずだ。
でだ。オレは平氏の
だからオレは、徳川家康に、江戸幕府を開かせる気はない。
ひとまずは、源氏の足利高氏に次の指示を出そうと思い、その任は文にでも頼もうと考えてたら、何かを思い出したように、天魔は声を上げる。
「それとね、産まれたよ」
「え、なにが」
「弘天とはたて、弘天と椛の子供に決まってるじゃない」
「……そ、そうか」
ついに産まれた、ようだ。喜びより、複雑な感情が攪拌された気分でしかない。隣にいる鬼神も知っていたようで、驚いた表情にはならなかった。
でもなんか、今は鬼神だけど、昔、彼女がまだ橋姫だった時の記憶が脳裏へこびりついてるので、その名残ゆえか、妬ましいああ妬ましい、と心の中で連呼していそうなのだから、怖い。なんと言うか、コレを上手く表現できないが、かつては橋姫だった時の片鱗を、垣間見た気がします。
天魔は出産が終えたコトを知らせたが、その生まれた子供をどうするかについて、かつて交わした約束を確認した。
「はたてと椛が産んだ子、私たち天狗が育ててもいいんだよね?」
「まあ、昔からそういう約束だし」
「そう。良かったわ。元とはいえ、
天魔は、文、はたて、椛を、オレに神使、そして妻として譲ったが、天魔にとって主な目的とは、政略結婚の意味もあり、天狗に××神話の血を入れて血縁関係となって天狗たちの安泰や、神の血と天狗の血を引く、強くて美しいハーフの天狗が欲しかったコトなどが、理由として挙げられる。とはいえ、世界がまだ初期頃だった時から、天魔も××神話に引き込んでいるのだが。
天魔は片手をオレの肩に置き、今まで見た中でも最高と言えるほど、とびっきりの笑顔で、とんでもないコトを口にした。
「早く文とパルスィと神子を孕ませてね」
「笑顔でそんなコトを言われると、かなり怖いぞ…」
「やったね弘天ちゃん! 家族が増えるよ!!」
「やめろォ!」
子供が産まれたのは、天魔にとっては灌漑だろう。反出生主義、塞翁が馬、五蘊盛苦か…。
天魔の隣にいる彼女の名も出たが、本人はまんざらでもない表情で、熱い眼差しをオレに向ける。しかし、大体のコトを聞き終えたので、別れの挨拶を交わしながら、神社に戻ろうと背を向けた。…いくらオレが
しかしオレの囁かな願いは天には届かず、オレの肩に置いて天魔の片手で止められ、待ったをかけられる。なんだと思い顔を天魔に向けるが、まだ聞きたいコトがあるらしい。
天魔は導入へと入る前に、最後最後、と前に付け加えて、日本神話、および万世一系について聞かれた。
「第50代天皇・
「…オレは純血に拘泥しているワケではないし、そもそも神武天皇は存命している。捨て置け」
「なら伏見宮貞成親王も」
「どうでもいい。それに暫くは、現天皇である弘文天皇のままだからな。元弘の乱も起きない」
「ん。オッケー。なら勘合貿易はいいとして、足利義満は文に暗殺させようか」
「そうしよう」
女系天皇・女性天皇はダメだ。女系の説明はいわずもがな。女性天皇については、確かに過去でもいた。しかし、いたと言っても、男系の女性天皇が即位した女帝だし、そもそも、女性天皇という存在は、昔から皇統を継承する資格を持った男子がいない、あるいは、いても幼少であった場合の繋ぎとして、だからな。そう、あくまでも繋ぎとして、女性天皇は即位しただけにすぎない。まあでも、女性天皇は、農耕に力を入れる時なら別に即位してもいいんだけど。
どうでもよさそうな表情の天魔は頷き、この場を後にする。結局のところ、万世一系さえしてくれていたらそれでいい。神の血を受け継ぐ、というのが、この世界において何よりも重要で、肝心なのだから。
天魔の隣にいる彼女を置いて、さっき妖怪の山を下山して逃げようと、神社へと帰ろうとしたせいか、鬼神に睨まれている、気がする。まるで、さっきからオレの背に刃物で、ずぶりと、遅効性の毒のように、体内へ刃先をじわじわ侵入させ、心臓に向かって奥へ奥へと刺され続けているかのような、二つの肺を鷲掴みにされて握り潰されかけてるような、そんな威圧感を背から浴びていて、半端ないのだ。かつての神奈子と諏訪子の関係を思い出すが、蛇に睨まれた蛙の気分だった。オレはここで死ぬのだろうか。
ここはゼウスのように、運命を受け入れるときだと判断して、白旗を挙げて投降せざるを得ない。そうです。あのコが僕の畏敬する天使様なのです。
「お久しぶりです。イラン神話・ペルシア神話・ゾロアスター神話の女神よ。記憶が戻って何より」
とりあえずこの妖怪の山の頂上で、まずは片膝を付けて挨拶をしようと僕は思いました。
目の前にいる女神は、腰に三振りの刀があり、そのうちの一つは顕明連という代物。その一振りを朝日にあてれば、三千大千世界を見通すことが出来るのだが、お蔭で彼女の記憶は回帰している。月のクレーターティコにあるラボラトリーへ来た天魔に、そう仕向けたと聞いた。
インド神話の シカンディン は、前世の記憶を思い出す、という話がある。まあ、ソレと似たようなコトだ。我ながら言い得て妙だと思う。
「遅いわよ」
「申しワケないパルスィ。色々と面倒なコトが、立て続けに起こりまして」
両腕を組んで眉を顰め、不気味だ、というその表情を観なくても理解できた。この言葉遣いはやめた方がいいのかもしれん。
目の前にいるパルスィは、イラン神話・ペルシャ神話・ゾロアスター神話の女神だが、それと同時に鬼神でもある。そして、彼女の名はパルスィと言うが、インドでは
波斯国――ペルシアと言えば、やはり平安時代中期に成立した長編物語『うつほ物語』を思い出すな。
「天使はゾロアスター教起源だったな……」
「天使?」
天使に反応したパルスィは聞き返したが、オレが答えなかったので訝しみながらも聞き流した。
彼女はスカートだから、ズボンとかを履いていないので、剥きだされた生足なのだが、こんな妖怪の山の中だというのに、スカートや生足が汚れるのを厭わず、片膝を付けているオレに合わせてか、地面に両膝を付けたまま話し始めた。オレは今も顔を俯かせている。
「会いたかったわ...顕明連で記憶を回帰したから、尚更よ…」
「らしいな。隣にいる天魔に聞いた」
微塵も悪びれる様子を出さず、俯いていた顔を上げながらも返答した。なんということでしょう、いつの間にか僕の目の前に美女の顔が――
「好き」
「ちょっと何言ってるか分かんないです」
咄嗟にそう返し、また地面へと顔を伏せた。
………あれ、なんで告白されてんの。確かパルスィ、ヤマメ、キスメを諏訪国に引き込んだ時に、オレが娶った......よな。まさかオレの妄想だったのか…。いやいやそんな、そんなコトないだろ。だって、だってさ、そもそも今回で初めて娶った青娥とは違い、パルスィを娶ったのは今回が初めてじゃない。まだ世界が初期頃だった時から娶っていたんだ。なので記憶が回帰してるなら、そのコトを覚えているハズ......なのだが。
事態を整理する為に思考を重ねたが、結局、判らない。だから顔は地面に向けたまま、オレの勘違いかどうか、鬼神のパルスィに問い質す事にした。
「オレ…すでにパルスィを娶った気でいたんだけど、もしかしなくても、オレの勘違いか」
「ううん。違うのよ。そうじゃなくて」
目を伏せて、右手で金髪のショートボブの髪をかきあげつつも、そう言い終えたパルスィは、唇を軽く押し付けた。
まさかパルスィがそんな行動をとるとは思わず、内心ではビックリして、一瞬なにが起きたのかが理解できなかったけど、接吻してるコトだけは理解できる。
パルスィは髪をかきあげつつ、ただ唇を押し付けるだけで、それ以上のコトはしなかったが、満足したのか唇を離していき、オレの目とパルスィの目が交差した。
「また、アナタに惚れ直したの。だから、もう一度言うわ」
「アナタの事が――好きです」
「そ、そうですか」
気圧されて、思わず敬語になってしまった。
パルスィ一世一代の大勝負である告白を聞いた、けども、彼女は返事なんてどうでもよくて、ただ自分の気持ちを伝えたかったらしい。言いたい事が言えて、満足げな表情だ。
他に伝えたいコトはないようで、しずしずと歩き、オレの隣に来た。どうやら一緒にいたいらしい。一部始終を観ていた天魔に、どうするべきだ、そうアイコンタクトし、意思疎通を交わすが、なんとアイツは口角を上げてほくそ笑んでいた。しかもアイコンタクトの返答が、娘のコトを頼むと返されて、オレから逃げるように翼を羽搏かせながら仕事に戻ってしまい、オレとパルスィが残ってしまった。
「……い、行こうか」
「そうね」
このオレに打つ手はないので、パルスィを連れて下山する。わざわざ歩いて下山しなくても、オレには魔方陣があるしソレでパルスィを連れて帰ろうとしたら、パルスィがスゴイ嫌そうな顔になったのでやめました。
だが、日本神話の富士山と八ヶ岳の背くらべが起きてないし、この
パルスィは体を伸ばして、燦々と輝く太陽を右手で翳しながら、雲一つない天気を観て安堵する。
「今日は晴れてよかったわねー」
「だが眩しいのは勘弁してほしいな。ソレに山の天気は変わりやすいから油断はできないぞ」
「雨もイヤじゃないわね。でも曇ってると洗濯物を干せないからキライって藍がよく言ってるわ」
「日日是好日の方がいいのか。藍は家政婦と巫女の鑑、内助の功だな…」
「尽くされてて、愛されてていいじゃない」
「でも、
最近は雨が降っていなかったので地面がぬかるんでいない。斜面ばかりで崖も少ないし転落・滑落の危険もないだろう。遭難しても魔方陣で帰ったらいいし。
今日は快晴だが、山の天気は変わりやすいし早く降りなくてはいけない。まだ頂上付近にいるので突風は凄くて少し寒いしで、正直いうと、デートをしている雰囲気ではないのに、一緒にいる妻の鬼神は楽しそうな笑顔にして、自分の幸せを周りに振りまいていた。
……もしや、パルスィは体を動かすのが好きなのだろうか。今までも彼女を娶って来たけど、ソレには気付いたコトがなかったな。今度、散歩に誘い連れて行こうか。
最近パルスィと逢えてなかったので、一番心配していたコトについて、まずは聞いてみた。
「他の妻とはどうだ」
「お互い折り合いつけてるけどいつも通り。一触即発な関係じゃないから、安心しなさい」
「そうか。ソコを特に懸念してたが、安心した。パルスィの場合だと…余計にな...」
「いくら私が元橋姫でも、ずっと妬んだままでいないわよッ!」
「嫉妬の妖怪なだけあって、あの時はホントに怖かった。てかその記憶しかない」
「もっと甘々な時もあったでしょう」
「そうだったかなあ……」
上機嫌なパルスィと色々会話をするが、他の妻を妬まず、懇意に接しているようだ。
まだ砂礫帯にいるけど、辺り一面にコマクサが咲き乱れている。並行して一緒に歩いていたパルスィは、急に立ち止まり、
コマクサ、という花は、幽香とは真逆の花みたいだと感じる花だ。コマクサは花の部分が地面に向かって垂れてるし、なんと言うか、まるで太陽を追いかけて咲く向日葵と対極だ。でも、孤高の花という部分でなら幽香と似てる。幽香も基本的に1人でいるコトが好きらしいから、孤高の存在で、孤高の女王とも言える。
一緒に歩いていた鬼神は、コマクサを観ると隣にいるオレを観て、またコマクサを観た。なにか感じる部分があったのだろうか。そう言えば、
「ねえ。私と手、繋いでくれる?」
「構わないが…」
今まで立ち止まっていたパルスィは、片手をすっと差し出した。自然に右手を差し出してきたので、オレも握り返すが、なんというか、言いたい事を言い終えたら、自分の気持ちを、態度や行動に出して、積極的になってる気がする。こう、オレからではなく、相手からぐいぐいこられるのは、反応に困る。
手を繋いだ彼女は感触を確かめるため、または繋いだ実感を得るためか、力を強めたり弱めたりと繰り返している。
「初心に帰るのも悪くないわね」
「そーですね」
「なによその棒読み。もっと嬉しいって気持ちを言葉に乗せてくれないと、昔の私に戻るわよ」
「橋姫に戻るなら…戻る前に言ってくれると助かる。ホント頼むから。おれにも心の準備が…」
「…………昔の私、そんなに怖かった?」
「うん」
ショックを受けたのか、繋いでいた手の力が弱まり、歩く速度が落ちた気がする。
実際の桃太郎は桃から生まれたワケではないが、間違いなく桃から生まれた話の方が有
名だろう。だから今回はそれをベースに説明する。無粋な事は百も承知だ。
しかし、冷静に考えて。普通に考えて、桃から子供が産まれるワケがない。普通に考えて、人間が鬼に勝てるワケがない。いや、もちろん天皇みたいな神の子孫、藤原氏、平氏、源氏みたいな人間の場合なら、鬼を倒せたというのは納得できる。なにせ祖先が神で、藤原氏・平氏・源氏は神裔だからな。
メソポタミア神話・ギリシャ神話の
つまり、これは桃太郎にも言える。なぜならば、桃太郎は人から産まれたワケじゃないからだ。だからこそ、鬼を倒したという結末も、鬼の宝を奪ったコトも、全て納得できる。むしろ、桃太郎が聖人扱いされてる子供向けの昔話の方が、本来おかしいのだ。
…まあ、桃太郎の正体は天皇の子、皇子というのも有名だ。だからその説を前提として言うなら、桃太郎は神裔・天皇と同じ存在というコトになるので、桃太郎はただの人間ではなく、神の子孫になる。これを前提とするならば、尚更、桃太郎が鬼を倒したという話も、納得できるというモノだ。
側頭部にある能面のこころを触りつつ下山してたら、娘の声が聞こえた。
「お父さーん」
何も無かった空間からスキマが生じ、どんよりとした雰囲気を放ちながらも、中から紫がにゅっと上半身を出してきた。オレと視線が合うと和やかな表情を向け、そのまま優雅に地面へとスキマから片足を下ろす。右手に小傘を持っているが、今日は幽香ではなく紫が持つ日らしい。
紫に遅れて幽香も来たが、放たれた矢のような速さで紫より先に地面に降り、右手はパルスィと手を繋いでいるのを一瞬で理解した娘は、空いたオレの左手を自分の両手で優しく包み込み、お互いの目と目を合わせ、上目遣いにして言った。
「来ちゃった」
「幽香...どこでそんな言葉と行動を……」
「この行動をして言えばお父様が喜ぶ。天魔さんからそう聞いたわ。お父様、嬉しい?」
普段は素面で、オレと手を繋いだり、抱き着いて来ても照れるコトは滅多にしない幽香が、今回は珍しく照れているのか、きめ細やかでいつもは白い頬と首筋が、ほんのりと紅色に染められていた。
「キライじゃない」
「そう。ちょっと恥ずかしかったけど、お父様が喜んでくれたなら何よりね。また助言を貰うわ」
即答で返答したけどあの女ッ! いつもいつも余計なことばかりしやがってホントありがとうッ!
しかし、天魔が元凶と判った途端、横目でパルスィを見ると、はらわたが煮えくりかえる思いなのか、オレの右手が彼女の左手でギリギリ圧迫されて、オレの右手はもうダメかもしれない。このままでイタイイタイ病になる!
紫は幽香に続いてスキマから地面に降り立つと、はしたないと態度に醸し出しながらも、急がなくてもいいのに、娘はとてとてと小走りでオレの傍に来た。月の民と月の都を、インド神話の道具を使って潰してもらったから、なにか労いの言葉を言った方がいいのかと思ったけど、ここはいつも通りに接しよう。
幽香は両手で包んでいたオレの左手を名残惜しそうに離し、隣にいる紫が右手に持っている小傘は、一旦、傘から人型へと成り、紫と幽香が月を滅ぼし終えたコトを伝えた。
「全部終わったよ!」
「みたいだな。小傘もよくやってくれた」
「ほとんどはぬえ、紫お姉ちゃん、幽香お姉ちゃんの功績だけどね」
「いや。ああいう時は、小傘が幽香の傍にいて抑えてくれたらいい」
「ソレ、私じゃなくて紫お姉ちゃんでも荷が重すぎるよ……」
ルーミアとキクリはただ連れて行っただけで、月の民を殺したり、月の都を滅ぼした紫と幽香に力を貸していない。ただじっと、その光景を観てもらっただけだ。観てもらう必要があった。
小傘の髪を空いた左手でわしわしと撫でるが、髪が寝癖みたいになるのはイヤみたいで、人型から傘へと成り、紫の右手にまた戻った。
…よく目を凝らして観ると、隣にいる紫の左手には、二つの人形が手の中にあった。あれはかつて、にとりに貰った2つの人形――メディスン・メランコリーと鍵山雛だ。
四季映姫はオレが生みだし終え、紫が持つ、からかさお化けの小傘も生まれて、オレの側頭部には面霊気のこころが今もいる。ならば彼女たちも、そろそろだろう。ここまで長かったな。
「着々と付喪神が増えつつあるね、弘天さん」
「そうだねこころちゃん」
あの二つの人形を観て、同じ所感が生じたようで、オレも同意した。
メディスンと雛を除けば、残りは九十九八橋、九十九弁々、最後に堀川雷鼓の三人か。
紫は照れてる幽香を横目で見ながら流しつつ、実娘の小傘を右手でくるくる回しながらこの場に来た理由を述べた。
「白蓮がね、ずっと寂しそうにしてたから連れて来たの」
「そう、か。寂しそうにか」
「厳密に言えば、寂しい、とは違うと思うけどね」
紫はおおよその予想はついているのだろうが、それ以上は語らなかった。
白蓮を連れて来た、と聞いて周りを見渡して観るけど、パルスィ、幽香、紫、小傘、あとはオレの側頭部に能面として付けている秦こころくらいで、白蓮の気配も影もなかった。ホントにいるのだろうか。
妖怪の山は危ないから連れて来るべきではない、と紫には言わなかった。紫はオレより賢い。この場に白蓮を連れて来るというコトは、すでに紫と幽香は妖怪の山にいる妖怪を全て従え終えたのだろう。それに白蓮ってまだ子供とはいえ、パチュリー達の魔女から魔法を学んでるから使えるし、しかもある程度、美鈴から中国武術や護身術を教わっている。この子は僧侶ではないけど、まさにガンガン行く僧侶。まあ何かあってもオレがフォローすればいい。
そういえば、紫と幽香がスキマから出て来たのに消える気配がない。そのまま訝しんで注視していると、目玉と闇しかないスキマの中から顔が出て来た。
長い間、途方もない時間の中、ずっと探していたモノがやっと見つかったという声色を出して。
「氏神様ー!」
「
オレを見つけるや否や、スキマから飛んで地面に着地をし、そのまま助走を付けて駆けながらも、勢いよく地面を蹴り、いつも通りオレの腹部へ頭から突撃した。その衝撃で、オレの胃から色々なモノが込み上げてきたので、右手で自分の口を押える。
昔の諏訪子といい、白蓮といい、オレのお腹になんの怨みがあるのだ…。
「お父さん、もうお昼だから藍に頼んで昼餉の用意でもしてもらう?」
「…だな。紫、悪いが藍に伝えてくれるか」
「任せてよ。ほら、行くわよ幽香」
「あぁ、攫われる。私がスキマ妖怪の神隠しにあっても、お父様をずっと思っているわ――」
自分たちはいない方がいいと判断したのか、昼餉を作って貰う事を藍に伝えに行くという口実で、ずっと開いていたスキマに入りながら、片手で幽香の右腕を掴んでスキマ内に引き摺り込もうとしてる。
幽香は紫に摑まれていない左手を伸ばし、オレに掌を向け、今生の別れでもするかのように、体がスキマにじわじわ呑まれて行きながらも、女優顔負けの演技を披露し始めるが、ソレに反応した紫は幽香に詰め寄った。
「……幽香。前から思ってたけど、私で遊ぶのやめない?」
「大切な家族で遊ぶなんて…そんな酷いコト、私がするワケないじゃない。泣くわよ」
「どの口が言うのかしら。一度、胸に手を当ててよく思い出しなさい。それとも浄玻璃鏡の方が」
「大きいわね」
「自分の胸に手を当てなさいって話にどうして私の胸に手を当てるの!? ちょ、揉まないで! いくら幽香とはいえ私の胸も体も髪から爪の先に到るまで触っていいのはお父さんだけで――」
静かに帰るつもりだったろうに、いつも通り幽香のペースに流されてしまい、紫は自分の爆弾発言に気付かないほど、ポンコツと化していた。聞いてはいけないコトも聞こえてしまった。なんとか幽香をスキマに入れ、神社に向かったようだ。
なにあれ、漫才かな? 紫の気遣いか、白蓮がすぐに帰るコトが出来るよう、スキマは消えずに、ただオーラを放つだけで、ソコに残っている。
それと同時に、オレの胃にダイレクトアタックした張本人は、顔をばっと上げ、清浄な表情でオレを観ている。このダイレクトアタックの行動は、白蓮の嫌がらせゆえの行動、ではないだろう。
ただ、自分の気持ちを言葉で上手く表現出来ないから、行動で表現しか出来なくて、逢えない寂しさを蓄えられたゆえに、逢えた時の反動が凄まじく、こうして喜びの表現を伝えようとしているのかもしれない。オレの胃に痛みを伴う愛情表現で。
「おかえりなさい!」
「た、ただいま……」
もう関係ない話だが、昔、空海――弘法大師が開祖した真言宗の宗派だった命蓮と、その姉がいた。
その姉は、"神も仏も、妖怪との違いはない"と、仏に仕えながらも、平等主義を謳った、僧侶だ。人間についてなら、まだいい。それだけなら気にしなかった。でも、神と妖怪について口に出すのは、見逃せない。重要なのは、ここに神と妖怪が含まれているという点だ。人によっては、彼女を雲中白鶴な女性、だと思うのも多いだろう。何事も変わっていくコトは、オレが一番知っている。だから、仏に仕えるモノが、そんなバカげたコトを謳うのも、仕方ない、と思う部分もなくはない。
そしてその姉は、早苗に『貴方は妖怪の味方なの?』と聞かれ、こうも言った。
『味方………と言えば味方ですが、人間の味方でもあります。私が目指すのは人間と妖怪の平等な世界。神様の貴方には判らないかも知れないですが、虐げられてきた妖怪の復権を望んでいるのです。』
仏教の開祖・釈迦が、あるいは真言宗の開祖・空海が、神と妖怪について、そう言及したならば、別によかったんだ。なんの問題もない。仏教を開祖した釈迦の教えを守るのは、そりゃ僧侶として当然だ。2000年以上続く教えを、否定なんかできるワケがない。オレは神だから、気に入らないモノは、全て否定するけど。
神も仏も妖怪との違いはない。ソレを言った時、命連の姉が僧侶じゃなかったらば、なおさら問題なかった。
だがな。いくら調べても、妻と子を捨てて出家した釈迦は、神と妖怪について一切言及してないんだよ。地獄や天国みたいに、死後の世界についても、釈迦は否定や肯定はしなかった。しかし今の仏教では死後の世界、つまり浄土や地獄についてよく扱われてる。だが、紀元前の古代インド時代的に、インド神話・神という思想や存在はあったから、神はまだ判る。だが存命していた時の釈迦が、妖怪という存在を知ってたのか甚だ疑問だ。
釈迦と空海が一言も言及してないってコトは、解釈・曲解のしようがない。なにせ、言及してないってコトは、解釈の余地が皆無だし、もはやソイツは、仏に仕える僧侶、とは言えなくなる。
仮に釈迦が平等主義を謳ったとしてもだ、それは間違いなく当時のカースト制や、古代インド人、つまり人間に対する話だろう。そこに神と妖怪は入ってない。区別を付けろ、拡大解釈はやめろ。大体、神と妖怪について言及してないのだから、拡大解釈も曲解もしようがない。
ソレは妄想ではなく、ただの〝妄言〟だ。
世界が初期頃で、
「白蓮はそんなに逢いたかったのか」
「うん。紫様と幽香様が幽々子と一緒に遊んでくれてるけど、氏神様の傍にいると落ち着くの」
「……そこまで好かれるようなコトしたかなー」
いや、判ってる。そもそも教義や、経典の時系列が無茶苦茶になっていた仏教が、古代中国へと伝わったのも、紀元前268年~紀元前232年にいた
日本の仏教も、中国宗教である道教や儒教の文化が、かなり混ざってるからな。何事も、そのままで残るコトの方が少ないってのは、理解してる。
平成時代の日本の神道だって、道教や儒教、仏教の影響をかなり受けて、すでに別モノなんだよ。今は鎌倉時代だが、鎌倉時代の神道も、古代日本の神道と比べて、もはや別モノと化している。
平成時代には色んな工場が建てられているのもあり、雨が汚いと言われてる。でも、工場が乱立する前の時代では、一番綺麗な水は雨って言われてた。
「一仕事終えたから、暫くは一緒にいられる。だからソレまでは一緒にいよう」
「やったー!」
「こやつめ、ハハハ。愛いやつよ」
判ってる。判ってるさ。だからと言って...納得できるワケがないだろ!
日本神話も、中国神話も、ギリシャ神話も、すでに完成しているのだ。完成しているモノに余計なモノを加える必要は、あるのだろうか。
解釈の余地がある。なんて綺麗な言い方はダメだ、解釈の余地があるって言うのは、還元すると、自分が考えた妄想ってコトだからな。それを自覚せず、理解してない人間は多い。
可愛いは正義なんて言葉、大ッキライだよ。自己を正当化する正義なんてモノ、この世界に、地球にあるワケないのだから。
はしゃぐ白蓮を観て、世界が初期頃だった時、悩んで悩んで、熟慮断行した結論を、口にした。
「白蓮はカワイイからいいや。それに天皇と同様、神裔だし」
「私、カワイイの?」
「当然じゃないか。まさに泥中之蓮という言葉を、白蓮は名で体を表している」
カワイイという言葉に反応した白蓮は、いまいちカワイイの意味を理解してなさそうだったので、強く肯定した。オレの反応を見て褒められている、と理解した白蓮は、抱きついてオレの背に両手を回し、胸に顔を埋めながら、甘えてくる。
まるで、そう、白蓮は春風駘蕩と、泥中之蓮という言葉を体現した存在と言えるだろう。間違いない。あと衣錦還郷。まあ白蓮は神裔だから、ただの人間ではないし、それ以前に、白蓮を僧侶にする気は微塵もないのだから。
しかし。
「イスラームの預言者
そんなコトを呟くと、何故か藍に頼んで昼餉を作ってもらうため、神社に戻ってるハズの娘二人の声が、観えないサイズでスキマを出しているのか、どこからともなく声が聞こえた。
「お父さん、まだ手を出しちゃダメよ」
「しない、ハズだ」
「お父様、手を出すにしても私や紫、パルスィが先なのを忘れないで」
「しれっと言うが、何気に自分が一番目なのか……」
以前にも言ったが、平成時代の科学と医学では、赤ん坊から成人するまでの記憶で、人間の性格・人格を形成しているかについては、平成時代の科学と医学では未解決、となっている。もちろんこれは人間だけの話だ。オレみたいな神を除く。
んで、この世界は因果的に、因縁果に閉じられている。つまりは原因があって結果がある。これを唱えたのは、まだ存命していた時の釈迦で有名だろうから、聞いたコトはあると思う。だがそれだけじゃなくて、古代ギリシャの哲学者・
所謂、縁起・因果論だ。では、オレと楽しそうに会話をし、はしゃいでいる少女、神裔・白蓮は、〝一体何が原因で、今の人格・性格を形成しているのか。〟
「白蓮よ。
「うん?」
知らない女性の名を聞いて、今も抱き着いている白蓮はオレを見上げ、笑顔のまま首を傾げるが、続けて話す。
産まれてから現在までのオレが出会い、この場にいる白蓮を含めて今まで話した相手は、
神、妖怪、悪魔、天使、魔女、妖精、半妖、
仮に、この先進むとき弊害になり、邪魔な存在になりそうならば、娶ろうとせず即座に殺してた。
そしてまだ神話時代だったころ、ネアンデルタール人、クロマニョン人、ジャワ原人、北京原人、デニソワ人、馬鹿洞人、ムンゴマンなどの、色んな猿人を各国の神話に出てくる神々が殺してきたワケだが。あと魅魔とくるみが今もどこかで、ミトコンドリア・イヴの人間を殺している最中だろう。
現在の鎌倉時代に、ミトコンドリア・イヴの子孫は日本各地に生き残っている、が。しかしソレは、明治時代から昭和時代にかけて、ミトコンドリア・イヴの子孫が必要だったからこそ、オレは見逃して生かしているに過ぎない。本当は今すぐにでも滅ぼしたいのだ。生かす価値がなければ、このオレがミトコンドリア・イヴとY染色体アダム系統を滅ぼさず、ただ呑気に日々を過ごすワケがない。爪弾きにしないワケがない。
つまりこれの意味するところは、オレは一度たりとも、ミトコンドリア・イヴの血を引く人間とは出会って会話をしていない、というコトになる。
「彼女は試練を乗り越えて、原初神の
「へー。スゴイ人なんだね」
「そう……だな。神裔・半神が神様の妻になって神の仲間入りっていう神話、実はかなり希少だ」
この子は、打てば響く、叩けば鳴る、当たれば砕く子だ。でも、なんでいきなりこんな話をしたのか、これがどれだけ大事な話なのかを、多分、子供の白蓮は理解していないだろうが、とりあえず神様の配偶者として認められたスゴイ女性、というのは理解したらしく、感服したような声で同調した。
エロイ、エロイ、ラマ、サバクタニ。
旧約聖書・士師記 第10章10節
『そこでイスラエルの人々は主に呼ばわって言った、"わたしたちはわたしたちの
士師記 第16章17節
『
「
「さむそんとばらく?」
「ああ。白蓮は旧約聖書に出てくる
唐突に、ヒトらしきモノの名を聞き返す少女は、今もオレに抱き着いたまま、はてな顔で聞き返された。しかし、旧約聖書・士師記の人物
もう腰まで伸びてきた白蓮の髪を右手で掴み、髪を結おうかと悩みつつ弄るが、士師記の人物
まだ、恋とか、愛とか、人間とではなく神と夫婦になるとかについてどういうモノなのかは、あんまり判ってないだろうけど、空いた左手で、まだ子供とはいえ、このまま成人まで成長し、将来は磨かなくても間違いなく光るコトを約束された、美貌と知性を兼ね備える逸材であろう、オレの妻である少女の右頬へと触れた。
「白蓮は、皆と、ずっと一緒にいたいか」
「みんなと……」
「永琳や諏訪子、紫や幽香とか、鬼、天狗、河童、諏訪国にいる全員とだ」
抱き着いていた白蓮は、半歩離れ、事の重大さを理解してないような表情でうんうん唸り、考えても判らないコトを考えるのは無駄だと悟り、考えるのをやめて答えた。
ハッキリ言って、こんな大事なコトを、まだ子供相手にするのもどうかなとは思う。さっきの話に出てきたプシューケーも、子供では無かったから。
「夫婦とか、神様とか、よくわかんない。でも――」
ソコで言い淀み、一拍置いて言う白蓮は、なぜか自分でも判ってないような表情と態度で、何かを訴えるための、悲痛な叫びだった。
前々から思っていたが、白蓮は昔と比べて抱き着いたり、べたべたしたり、甘えたりするコトなどが、今までの世界で何度も何度も回帰して、段々とその回数が地味にとはいえ、増えた気がしていた。
本来ならおかしくなった振り子のように、この世界は永遠と同じ速度で、永遠と同じ間隔で振られているハズ、なのだ。感情も記憶もリセットされている。回帰したら消えたモノが復元されるので話は別だが。
……白蓮には、人格と感情が残ってる、のだろうか。
「――私は、オトナになっても、氏神様と一緒にずっといたい。いたいよ。置いていかないで…」
左手をこの子の後頭部にやり、そのままぐいっと寄せた。また左手を動かし、次は腰に回して、苦しく、または痛がるかもしれないが、安心させるために、気持ち程度に力を強めて抱きしめた。
よく、
そして消えずに残った大事な
「
「ウソじゃない…?」
「既に二回殺され、死ぬ運命から逸れてるんだ。オレが白蓮にウソを言ったコトないだろ」
「何度もあったよ」
「………」
腰を下ろして白蓮を抱いていたので、今も手を繋いでいた隣のパルスィを見上げると、彼女は察して手を離してくれた。この話を脱線させるため、この子の両脇に両手を差し込んで高く上げ、不安な感情を忘れさせようと、自分の両手を白蓮の太ももへとやり、支えて落ちないようにして肩車をした。
この子はまだ子供とはいえ、とても聡明だから、効果があるか判らないが、ここは大抵の人間なら絶対に判らなくて、しかも意味のない質問をして気を紛らわせよう。頭が良くないオレが出した、精一杯な苦肉の策だ。
「『アルファがベータをカッパらったらイプシロンした。なぜだろう』これ、判るか」
「……わかんない」
「考えても意味はないんだよ。なら考えなくていい。大丈夫だ、オレはもう白蓮を置いてかない」
「うん……分かった」
何の根拠もないせいか、白蓮はまだ解せない様子で、渋々頷いた。この子は神裔の女だ。だからこそ娶るし、生かしている。
他山の石、いい言葉だ。そしてことわざには、読書百遍義自ずから見る、というのがある。
ただの人間・または妖怪相手に、打算がなく、ただ友好的に接する神なんぞがいたならば、オレはソイツを絶対に生かす気はない。即座に斬り捨て、ブタの餌にする。
オレは色んな神話を読み、観てきたが、そんな神、いる価値も、生きる価値もない。厭悪や蛇蝎され、淘汰されるべきだ。
情状酌量の余地なし。無残に捻じ伏せて、蹂躙されて、惨たらしく、屠られ、黙って早々に死ね。あるいは自尽しろ。
今の念話を、ずっと白蓮とのやり取りに介入せず、黙って静かに見守っていた妻に送り終え、顔を向けた。
「
「……宜なるかな。否定はしないけど、私に同意を求めないでよ」
「大体さ、思い上がった人間が神を蔑むと、神から罰を受け殺されるなんて、神話ではざらだよ。なのに神を貶した人間を、神の命に従わない人間を神が許すとか、妄想と我田引水も甚だしい」
神という存在は、偉そうじゃなくて実際に偉いのだ。なのに、そんな神を冒涜する人間と、礼儀がなってない人間と仲良くする神は、神と呼べない。敬語で話さない人間を、崩した態度で神に接する人間を、なぜ神が許す。なぜ神がソレをされて平然としている。礼節や立場というモノを知らんのか。普通、神から罰を与えられるか、殺されるぞ。今が鎌倉時代なら尚のコトだ。
現人神の天皇だって、アマテラスに対してそんな無礼なコトを絶対にしない。絶対にありえない。ソレをするコトは、自分が現人神の天皇だというコトを否定し、自分と祖先の、全ての始まりである神武天皇が、神裔なのを否定しているコトと同義である。
だからそんな、ダレカの無知で、我田引水で生まれた、妄想が反映された"神"という存在に対して、ハッキリと言おう。
"ソレ"は無知と無自覚と、古事記や日本書紀の日本神話を、語り継いできた各国の神話を読書百遍せずに、寡聞なダレカの主観で生まれ、"神"という言葉を先入観で自分勝手に拡大解釈し、ダレカの自己満足と自尊心の塊という妄想で投影された、虚空の〝神〟だ。
第38代天皇・天智天皇を、
「まぁ…ソレが不敬な考えなのは間違いないわ。時代が時代なら、処刑されても文句は言えない」
「ああ。相手のコトを、古事記や日本書紀の始終までを観ずに、神の存在を語ってたら、滑稽だ」
……いや、どうせ殺すにしても、あっさり殺すのは実にもったいない。どうせするならば、
ギリシャ神話のイクシーオーン、シーシュポス、タンタロス、プロメーテウスの話では、永遠に続く痛みと、苦しみと、もどかしさと、虚無感に苛まれる話があるし、それと同じコトをソイツにする方がいいな。実際にソレをされても文句は言えない。
ここは地球だ。並行世界なんて、エヴェレットの多世界解釈なんて都合のいいモノはない。どうあがいても、ここは地球にある日本なのだ。
量子力学は好きだが、可能性とか、あったかもしれない、とかよく聞くがそれ妄想だろ。そういう誰にでも使えて便利すぎる部分や、ただの妄想なのに、キレイな言い方をするところはキライだ。
胡蝶の夢も、水槽の脳も、並行世界も、量子力学も、神となにが違うんだよ。結局は、神から別の言い回しへと変わっただけじゃないか。キレイな言い方をするな。
「ソレをする人間がいたら、天皇はソイツを不敬罪で死刑にする。当たり前だ、オレだって殺す」
「確か昭和時代の天皇が崩御する間際、社会が停滞して自粛ムードだった程の影響力だからね」
「今が鎌倉時代とはいえ、いや…鎌倉時代だからこそ、斬首・獄門をされてもおかしくない」
「当然よ。宮内庁が怒るわ。
大抵の神話の場合、神々がその土地の民族を創造する話が多い。神々が人間を創造する話は
旧約聖書に登場する主・ヤハウェはそうさ。ただし、ヤハウェが助けるのは特定の民族限定だよ。即ちイスラエル人・ヘブライ人・ユダヤ人だけだ。
よく忘れられてるが、旧約聖書のヤハウェと、新約聖書のヤハウェは、人類を2回も滅ぼしてる。あのヤハウェでさえ、人類を計2回も滅ぼしてるんだよ。ここまで言っても判らないなら、神は人に優しくするとか、神は妖怪や人を助けるとか、神は平等に接するとか、神は差別しないとか、そんなコトをほざくなら、あまりの驕慢に、自分たちに都合のいいコトしか観ないヤツに、ただ呆れるしかない。日本神話・旧約聖書・新約聖書・ギリシャ神話・中国神話でも差別はあるのにさ。
別に無知を非難したいワケでは、無知は罪と言いたいワケではない。ただ……
「日本の歴史・古事記と日本書紀にある日本神話を観ずに、
ギリシャ神話・中国神話・旧約聖書にも、神が人間を創った話はある。しかしながら、
神話を知ってるなら、読んでるなら判る。これがどういうコトなのか、今の説明で十分だ。
「神という存在はどういう存在か、歴史を調べず、ましてや神話を読まずに知ろうともせず、ただ自分自身の中だけで自己完結をし、自分の妄想で出来た"神"という理想を神に押し付けてるんだ」
旧約聖書・士師記 第2章11節
『イスラエルの人々は主の前に悪を行い、もろもろのバアルに仕え、かつてエジプトの地から彼らを導き出された先祖たちの神、
「クソが。自分は押し付けるだけ押し付け、叶うように願うだけで、都合のいい時だけ神頼みか。口だけか。ならその人間は、オレとゼウスよりクズだ。神と仏は便利な道具ではない」
神がその辺にいるただの人間を殺して、謝罪するワケがない。願いを聞くワケがない。意味不明だ。たかがその辺にいる人間を殺したくらいで、神が力を貸すワケがないだろ。ある人間がある人物を死にそうなところから助けて、神がソレを褒めたり称賛するワケないだろ。
神も仏も、色んな人間を救うためにいるワケじゃねえのに、都合よすぎなんだよ。
神は分け隔てなく、全ての人間へ平等に優しくするだと。フハハハハッ! 笑わせんなッ!!
「
抜苦与楽、仏の顔も三度まで。って言葉があるけど、あれを聞くと、本当に頭が痛い。
釈迦も、ヒトを救うために仏になったワケじゃねえのに、なにが仏は人を救うだボケ。なにが仏像を拝めだカス。んなこと釈迦は一言も言ってねえだろうが。虚言癖と妄想・妄言も大概にしろよ。釈迦をイエス・キリストみたいに神格化するなよ。釈迦はそういう存在じゃねえだろうが。釈迦は死んだ後は自分を神格化しろとか、人を救うため仏になるとか、そんなコト一言も言ってねえし、ましてや涅槃の境地へいる釈迦に、感情なんてあるワケない。
『極端なのはダメ』、『行き過ぎなのはダメ』、『どちらにも囚われない、偏らない立場の中道に』と、釈迦は言ったがな。
「神が人を救う、なんて自分に都合のいい方へと解釈し、妄想を垂れ流すのは大概にしろ。神話を1から10まで読まず、神がどういう存在かを妄想する前に、日本神話と各国の神話を読むべきだ」
仏教は釈迦だけいたらいいのに、なんでインド神話の神がいるんだよ。
なんだよ菩薩って、なんだよ明王って、なんだよ天部って。そんな存在、概念は、紀元前、釈迦が存命した時の仏教にはなかったんだぞ。あったのは、釈迦が産まれるよりも前の古代インドにあった輪廻転生くらいだろう。
余計な設定を付け加えるなよ!
「ソレをしないのは神に失礼だろ。1000年以上語り継がれてきた神話に失礼だろ。人間にはさ、出来るだけ周囲へ迷惑をかけない最低限の礼儀、というモノがあるんだろ。ならソレを守れよ」
たかだか数十年残ったモノと、色んな時代と共にしても残った数千年のモノがあった場合、どっちがスゴイか、どれだけの重みがあるかを知らんのか。
だが……妄想する前に、真贋を見分ける目を養ったらいい。
「血も、頭も、才能も、容姿も、出生もない、何の取り柄もない人間に神が力を貸すワケがない。ましてや、借り物の力しかないモノを、神や妖怪が
まるで五蘊盛苦だよ。
新約聖書・マタイによる福音書 第27章46節
『イエスは大声で叫んで、"
旧約聖書・詩篇 第22篇1節
『なにゆえ遠く離れてわたしを助けず、わたしの嘆きの言葉を聞かれないのですか。』
「白色人種だろうが、黒色人種だろうが、黄色人種だろうが、赤色人種だろうが、褐色人種だろうが知るかよ。神の子孫じゃない人間、神に創られていない猿人は死ね、すぐ死ね、さっさと死ね」
旧約聖書・詩篇 第22篇4節
『
旧約聖書・士師記 第10章11節~12節
『
士師記 第10章13節
『"しかし
「小人閑居して不善を為す。言い得て妙だ。神話を読まずに神を語るのは罪ではないのか。ソレは1000年以上語り継がれてきた神と神話、延いては語り継いできた先人達も蔑ろにしてるだろ」
例えば、あの有名な金太郎には、金太郎の死後、日本に神社を建てられ、神様になったコトは有名だ。そもそも金太郎の生まれ方が特殊で、雷神の子供、という話もある。つまりは、雷神の子供という前提だと、金太郎は、天皇と同じ神裔というコトになるのだ。こういう伝説と化している人物には、生まれ方が特殊とか、他のモノより優れた才能、または女性が一目見ただけで惚れる顔などが結構あるけど、それは言い換えると、選ばれた存在扱い、になっているというコトだ。
例えば神話や、伝説に出てくる
「なぜ神や妖怪が人間に対して偉そうにせず、友好的になるんだ。頭が痛い。本当に頭が痛いぞ。神と人間は違う。なのに、なんで人間の倫理と価値観を神と妖怪に語らせるのだ。虫唾が走る」
つまるところ、その辺にいる人間とは、顔も、生まれも、才能も、出生も、ただの人間とは違う、というコトが、全面的に圧されているワケだ。もちろんこれは、説得力を持たせるためや、これを聞いた人間が納得できる、という理由もある。だってさ、普通の人間が、一人で大岩を持ち上げたり、鬼や熊と相撲して勝ったという話を聞いても、納得できないだろ。普通に考えて、ただの人間にそんなコト出来るワケが無いんだから。
すなわち、原因があって、結果が生まれている。オレだったら、ただの人間にそんなコトが出来た場合、納得はできないだろう。説得力が無いし、納得出来る理由がないからだ。
「旧約聖書・新約聖書を読まずにヤハウェを使うなよ。ギリシャ神話を読んでないのにゼウスたちを使うなよ。日本神話を齧っただけで神を、天神地祇・
だからこそ、天皇は特別なんだよ。普通の人間とは違うんだから。天皇と同じで、桃太郎の出生が人から産まれたワケじゃない人間で、ただの人間じゃないからだ。
そもそも、神話時代、紀元前から平成時代までどれだけの時間が流れ、血が薄まってると思ってるんだ。
神話時代から飛鳥時代でも天津神の血はかなり薄まってるのに、神話時代から戦国時代までとか、どれだけ譲歩したと思ってる。
「日本神話とギリシャ神話の神々が平和を謳ったり、ただの人間を神が愛し、力を貸したりする――ソレは何とも鳥肌が立つな。寒気がするな。気持ち悪いな。誰かの妄想が投影された神よ」
それを踏まえるならば、中国神話の黄帝は、言わば日本でいう桃太郎に近い。これは桃太郎の役割とか、立ち位置の話ではなくて、生まれ方が特殊という意味だ。黄帝の生まれについては諸説あるけど、中国神話の場合の黄帝は、人間から、つまり出産でこの世に生を受け、産まれたワケではない。桃太郎と同じで、1人で勝手に生まれている。だから黄帝は、神話でしたコトを含めてもだ、人間とは言い難い。桃太郎は爺さんと婆さんが若返り、セックスして産まれたという話もあるけど。
大体だな、
「――ちょっと。白蓮がいるんだから、のべつ幕無しも抑えなさい」
隣にいたパルスィが両手を叩き、破裂音が一度響いた。
冷や汗が出ていたようで、おでこから頬へ流れるのを感じ、破裂音のした方へ首を動かしすと、今も目が点になっているオレを一瞥しつつ、色気のかけらもない手ぬぐいを取り出し、軽く拭ってくれた。
「……すまない」
「それは言わない約束でしょう。いいのよ。慣れてるから」
それはそれで…問題は無いのだろうか。しかし危なかった。呑まれかけていた意識を急ピッチで引き戻せてよかった。これではオレも純狐のコトを言えないじゃないか。
しどろもどろにならないかを気を付けて、今も肩車している白蓮を不安にさせてしまったのは間違いない。謝っておこう。
「怖い思いをさせたらごめんな白蓮」
「んーん。大丈夫」
「面倒なコトは考えないでいいわ。それより、美味しいものでも食べていた方が有意義よ」
「藍のご飯食べたら、魔法の森に行って魔女達からなにか甘い物でもくすね…食べに行くか」
冷や汗を拭い終え、何事もなかったように明るく話しかけてくれたが、今も肩車している白蓮の太ももに置いて、落ちないように支えなければいけないので、手を握れなくて残念そうにして、彼女は気遣いながら、寄り添ってきた。
……ごめんパルスィ。そう言ってくれるのは嬉しいが、面倒なコトを考えない、ワケにはいかないんだ。
「氏神様、私の妹も連れて行ってもいい?」
「いいよ。幽々子も連れて行こう」
提案を快諾し、肩車してた白蓮を下ろすと、まだソコに残っているスキマへと一目散に入って行った。オレとパルスィも一緒に行こうとしたが、待っててと言われて待つコトにしてこの場に残っている。
中世にいたイスラムの哲学者 イブン・ルシュド は、全知全能のGODが本当に全知全能なのか、という全能の逆説を取り組んだことで知られている。
紀元前にいた古代ギリシア人の古代哲学者から中世哲学者たちでは、"神"、あるいは"GOD"とはどういうモノか。それを真面目に議論し、論理を組み立てていたのは有名だ。しかしそれは、神という存在があいまいで、視界に映らず、キリスト教徒やイスラム教徒の場合、GODが聖書にしか出てこなくて、漠然としたモノだったからこそ、でもある。
だが、各国の神話は実際に起きた。だから ゲーデルの不完全性定理 の話なんてしない。
ましてや、イン・シャー・アッラー、デウス・ウルト、
神話が起きた以上、確かにアイツらは、ちゃんとソコに存在する。
"アッラーフ・アクバル"って言葉がある。日本人には理解できないだろうが、この言葉を気軽に口にしようモノなら、宗教家に怒られるか、最悪、訴えられてもおかしくない。
神なんかいない! と宗教の根本を否定しても同じコトが言えるさ。神を信じ、感謝し、信仰するってのは、そんな単純な話じゃないんだ。彼らが積み重ねてきた信仰、祈り、行い、感謝、人生を否定するコトと同義だからだ。彼らが積み重ねてきた道徳・倫理を否定するコトにもなる。
ハッキリ言って、そんな言葉を気安く口にしようモノなら、殺されても文句は言えん。これを知って、宗教家が怖いって思うヤツこそ、オレは怖い。なにせ、そう思うってコトは、相手の気持ちを考えず、自分の価値観で、自分中心の考えで判断して、怖いと思ってるコトになるからだ。ソレは無自覚に、1000年以上続く宗教の信仰を貶している。形はどうあれ、1000年以上続いてるってのは、かなりスゴイんだ。バカに出来る事じゃない。天皇だって、血が1000年以上続いてるだろ、それと同じだ。万世一系が本当に続いてるなら、っていう前提だが。DNA鑑定はしないだろうけどな。
何かの話声が聞こえ始めてきた。間違いなくオレとパルスィではないので、スキマを観ると、中から出てきた白蓮は、何かを両手で掴み、ソレを川の流れに逆らうよう懸命に引きずっていた。
なんだと思ったら命連だった。やっとこさ妹を連れて来たのを実感したのも束の間、逃げるのをやめたのか姉の背に隠れた。
「ダメよ命蓮。氏神様にちゃんと目を合わせてご挨拶しなきゃ」
白蓮の背に隠れている妹――命蓮は、隠れないように押し出そうとされるが、それに負けじと抵抗し、姉と妹の激しい攻防が繰り広げられている。ソコには譲れないモノが、負けられない戦いが、確かにお互いにあった。
この子が、あの平安時代末期の絵巻物『信貴山縁起人』に出てくる主人公。いや、ヒロインと言うべきか。でも最近はヒロインを主人公とも言うしな……これは悩みどころだ。
確か彼、ではなく彼女は、第60代天皇・醍醐天皇時代にいた人物だ。人見知りなのだろうか。
まだ月滅ぼす前に、インド神話のヴィシュヌから貰ったチャクラムを諏訪子に渡した、って永琳に聞いたけど、転輪聖王の説によっては諏訪子とソレが被ってんだよなあ。
いつの間にか姉の根気に負けたらしく、ビクビクしながら一歩、一歩と、オレに十分に近づくと、立ち止まって名を名乗った。
「――氏は諏訪、名は命蓮、です……」
「命蓮、もっと大きな声を出すのよ」
「む、ムリだよぉ」
「私と同じようにしたらいいだけだから」
「御前でそんな無礼なことをしてるのがおかしいよ...いくら氏神様に嫁ぐといっても限度がある。
そのまま些細なことがきっかけで、お互いの考えをぶつけていく口論へと発展していった。
白蓮は姉としての立場ゆえ、妹の力になろうとして頑張ってるのは判るが、ソレが空回りしてる。最初はビクビクしていただけだった命連は、ありがたい説法をする白蓮と会話していく事に、そのおどおどした態度や動きは消え、顔を凛と引き締め、話し方に流暢が出始め、論理をすらすらと綴らせる。
うーん……姉妹ってこういうモノなのだろうか。オレって妹はいても姉がいないからな。しかし今の時代で姉のコトは、お姉ちゃんとかお姉様とかで呼ばないのかね。今は鎌倉時代だが、平安時代は弟であろうが妹であろうが、 おとうと、と表したらしいけども。
……あれ、オレに姉っていなかったっけか。今のオレ、記憶が段々と戻って来てはいるが、未だにボロボロだしな。これはもうだめかもわからんね。オレの実姉がいたような気もするが。
ヘーラーみたいな姉はイヤだなあ......。
「パルスィって神子と姉妹だったよな、あれが普通なのか」
「私達の場合、冷戦になるわ」
遠い目をして語った彼女は、どこか涅槃の境地にいそうな表情だった。
隙アリと言いたげに、また右手でオレの右手と繋ぎ、今度はもっとお互いの手を絡めようとゆっくり動かしているが、好きにさせておこう。
まだ口論を続けていた姉妹の背を両手で軽く当てて、ムリヤリ中断させる。白蓮は渋々だが、まだ言いたいコトがありそうな命連の顔を覗き込み、驚かせて気を分散させた。
「魔法の森にいる魔女達から甘い物を物色しに行くから一緒に行こう」
「は、はい……」
「あ、その前に藍のご飯を軽く食べさせてくれ」
歩いて下山するつもりだったが、予定が詰まってるのでここは早く帰ろうと思い、視線でパルスィに謝りながらも、魔方陣を展開して神社へと向かおう。
旧約聖書・
『今あるものは、すでにあったものである。後にあるものも、すでにあったものである。』
創作物において大事なモノは色々あり、過程、魅せ方、キャラ、プロット、納得などが大きく分けて挙げられる。しかしながら、物語、ひいては創作物において何よりも必要なのは、
設定があるからこそ、キャラを動かしたり、物語を進めたり、納得出来たり、日常を過ごしたり、恋愛したりするコトが出来る。例えばだな、漫画に出てくるキャラをお金持ちキャラ設定にしたら、プロットを練ったり、キャラも動かしやすくなるし、話の幅も広がる。これはギャグマンガにも言えるコトさ。
真っ白な紙切れ一枚渡されて、それを
だからこそ、最初に設定を考えた人物は、偉大なのだ。例えソレが神話だろうともな。つまるところ、それ以外は水増しで、後追いで、真似事にすぎないのだから。
そもそも神、人間、妖怪、霊、悪魔、天使、妖精、エルフは、先人が生みだしたモノでしかない。
「こんな日々は、いつまで続けられるだろうか」
「もう死ぬコトはないんでしょ? なら世界が滅んで回帰するまで続くわ」
「……重いな、パルスィ」
「初志貫徹。何度も。何度も。アナタと逢うために回帰した女の1柱よ。当然じゃない」
そんな軽口を言い合い、藍のご飯を食べるために白蓮、命蓮、パルスィと魔方陣で神社へ戻る。
率直に言って、箕子の憂いが出来る八意 永琳が妖怪と仲良くしてるように観えるならば、ソレはおかしい。これは
豊姫と依姫がまだ産まれる前、オレたちがまだ子供だったころに妖怪の話をよく聞かされた。まあ全部ウソだったんだけど、月人に寿命が生じるのは妖怪が穢れをまき散らしてるのが原因だとか、妖怪は月人の敵だとか、浄土へするには妖怪を殺すしかないとか、そんな感じで印象操作されたりプロパガンダされたりと、妖怪関係でいい話を聞いたコトがなかった。
要するに子供の頃のオレたちは、虚偽記憶を植え付けられていたのだ。
月の民を妖怪たちに殺させたのも、ましてや、月の負の遺産って、実はソレが理由ではないんだ。あえて言うなら、外面的な理由として旗を掲げ、旗幟鮮明しただけに過ぎない。オレと永琳の真意は別にある。
一応言うと、妖怪に対するその考えを永琳から払拭していない。永琳は月に行かずオレと一緒に残ってくれたけど、その考えをオレが払拭したワケでも、改めさせたワケでもない。大体オレ自身でさえその考えを捨ててない。ただオレの場合、女好きだったからそう観えなかっただけだ。故に、オレは妖怪と仲良くしないのではなく、ただ美人か可愛い女を侍らせたいだけ。
ダレカに植え付けられた倫理・価値観というモノは、実に厄介だ。付け焼き刃ではなく、幾星霜に培ったモノであれば尚更そうだ。しかもソレを永琳に植え付けたのは原初神だったオレではない。かと言って"無関係だ"、とも言えない。
…全てウソだったみたいだけど、まだ子供のころにそう聞かされ、オレはソレを信じていた。あの月の頭脳と言われた永琳がソレを見抜いていたのかどうかは……判らない。まだ子供だった時に、あの公園で永琳と出会って、"オレの女になれ"とかバカなことを言ったワケだが、あの時点ではまだ少女だった永琳は、今までの世界の記憶を回帰していたのかについて教えてもらったコトがない。
いやそれ以前に、あの公園で会った時点で永琳の記憶が回帰してるなら、オレにアッパーカットを食らわせ、近づくなという態度や、悉くイヤそうな顔で会話をして鰾膠無い返事をされ、あんなに反抗したり、第一に、"オレの女になれ"って言った時点でOKを貰ってるハズなのは、間違いないと思う。端的に言えば、あそこまで嫌われてないハズなんだ。もちろん記憶か感情が回帰してる前提だが。感情が戻ってるなら、尚のコト笑顔でOKを貰ってるハズだ。
最初から知ってたのか、知ってて知らないフリをしたのか、単純に知らなかったのか。そもそもいつから記憶を回帰させていたのかを教えてもらったコトがない。教えない理由は、また世界が消滅して回帰した時に、どの時点で上書きしてるのかを知られるのは面白くない、と言われている。でも、多分ソレは本音じゃなてく、きっと建前だろう。オレの場合は記憶が欠落しててボロボロだったから、元原初神だったとか元至高神だったとかは憶えてなかったので、永琳はオレの場合とは違う。
ここまでで、永琳と初めて出会った時のコトを長々と想起した。記憶がなかったオレは、ただ単純に、ただ愚直に、ただ永琳が美人になりそうだから欲しかっただけである。記憶がないのもあったが、そんな大層な理由ではなかった。女を侍らしたかっただけだ。豊姫と依姫の場合は、師匠がくれてやるとか言っても、都が地上にあった時は手は出さなかった。
悲しいかな、オレの行動理念は神話と女しかない。でもコレは、オレの場合だ。
豊姫と依姫ならオレよりいっぱいあるハズだ。だからもう一度言う。
永琳が妖怪と仲良くしてるのは、仲良くしてるように観えるならソレはおかしい。
なにせ永琳は……
鬼神にしているここのパルスィは、イラン神話・ペルシャ神話・ゾロアスター神話を混ぜてます。
紀元前や西暦の中国って、色んな民族が侵略と反映を、幾重にも交互に繰り返してますが、
古代ギリシアや古代ローマみたいに、混血、あるいは古い血が途絶えてる場合が多いです。
古代ギリシア人と、平成時代のギリシア人が、血を含めた意味でも同じ民族ではなくて、全く別の民族なように、古代中国人と、平成時代の中国人は、血を含めて同じではないです。つまり混血ばかりで純血がいない、という話ですね。これはアイヌにも言えます。
今回の地の文に日本の戸籍について弘天は説明しています。
そして神話時代にいたアダムにイヴと、平成時代の人間は同じではないでしょう。
なにせ旧約聖書・創世記に出てくる人間は、アダムを含んで、基本的に300年以上も生きてます。
だからもう一度言いますが、『混血』ばかりで、『純血』が、いないんです。
日本人でも、ギリシャ人でも、中国人でも、アイヌでも、神話時代から平成時代までの長い時間が流れ、平成時代にいる人間は、それまでで色んな民族と交配し、混血ばかりで、『純血』がいないんです。
弘天が日本の戸籍を含めて指摘している一つはソコです。
日本神話のヤマトタケルや、ギリシア神話のヘーラクレースは神裔であり、双方は神話時代に出てくる英雄です。やはり親、または祖先が神、というのは大事です。神話の場合なら説得力がありますからね。有名な安倍晴明も出生が特殊ですから。安倍晴明はスゴイ才能があるとか、能力持ちと言われても、その辺にいる平凡な人間がそうなるよりまだ納得できます。
例えば鬼の酒呑童子は、源氏の源頼光に殺されてます。この話の場合、源頼光は神の力を借りている話もありますけど、源頼光は源氏ですので、神が手を貸してもおかしくはないですし、源頼光が酒呑童子を殺しても納得できます。
それは神裔・半神のギルガメシュや、ヘーラクレースの話で、神が手を貸したのもありますから。源氏については、今まで説明してきたので、分かってくださるかと。
今までの説明が分かりにくい説明でしたら、不徳の致すところです。
冷静に考えて言うなら、ただの人間が、丸腰のまま鬼に勝てるのかと聞かれたなら、よほどの人じゃない限り、ムリです。
ですがこの人間に、例えば、雷神の子と言われる事で有名な金太郎みたいに、神の子孫という話を付け加えたら話は変わります。鬼を倒しても、さっきよりは納得できて、説得力がありますから。神裔・半神が能力や霊力を持ってても、ただの人間よりは、納得できると思います。
これは出生が特殊な桃太郎や、一寸法師にも言えます。桃太郎や一寸法師にも、鬼を倒せた理由・原因が、ちゃんとあるんですよ。神裔の天皇みたいに、桃太郎と一寸法師の生まれ方が特殊なので。すなわちミトコンドリア・イヴでも、猿人でもないワケですね。
しかし、ただの人間が能力を持ってて、しかも霊力があって、丸腰で鬼に勝ったという結末なら、納得は難しいです。ましてやその辺にいるただの人間が、神に助けられたり、力を貸して貰ったりするのは納得できないでしょう。
お金がないのにお金持ちみたいなことをしてたらおかしいですよね、それと同じだと思います。
それ以前に、例えばギリシャ神話のゼウス、また旧約聖書と新約聖書のヤハウェは人類を滅ぼしていますが、数万、数千万、数億人を殺したとしても、それぞれの神話を観る限り、神様が謝罪するのはまずないです。というかありえません。
これはインド神話、中国神話、メソポタミア神話、エジプト神話、マヤ神話でも同じ内容がありますが、そこは同じです。神と人間は対等ではないですから。
なぜ神が人間如きに謝罪するのでしょう。なぜ偉い神様が人間如きにフランクな態度になるのでしょう。なぜ神様が人間如きに優しくするのでしょう。相手が平成時代の人間なら尚更です。
神話の神が人間を殺してしまって迷惑をかけたから、あるいは誰かの代わりに死んだ、または誰かを助けて死んだそのモノ達の願いを聞き入れる、なんて事も絶対にないです。
神話に出てくる神様なら、それが当然です。神は弱者の、その辺にいる人間の便利な道具ではないですから。