蓬莱山家に産まれた   作:お腹減った

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全知全能

「――思ったんだがディープキスってさ、男と女でする行為の中で一番エロくね?」

 

 

「…………はあ!?」

 

大きな声を出してしまった鈴仙は、演奏しているセクサロイド達に心なしか睨まれているのを感じながら自分の両手で自分の口を塞ぎ、そのまま黙る。しかし今のを聞いた鈴仙がお前は何を言ってるんだ、この性欲に忠実なサルは藪から棒に何を宣うのかという表情になって俺を見てくる。

いやだってさ、粘膜に塗れたオスとメスの舌で絡まってさ、唾液でぐちゃぐちょと艶めかしい音を立てつつ舌全体を舐め回してお互いの唾液も混じりあうんだぜ。

他にも相手の舌を甘噛みしたり、舌を軽く吸ったり、自分の舌の腹で相手の舌全体や、口内の歯や歯茎を撫で回して刺激を与えるこの行為。スゲーエロイです。はい。

まだ初心で慣れてないなら、キスしたまま相手の唇を舐めるとか、慣れたら自分の舌で相手の唇を割って入ったり、お互いの舌を朧に、しどろもどろに舌を相手の口内に入れて相手の舌を数回突くのもいい。

 

今はラボラトリーの内部にあるコンサート会場の大ホールで、数十名のセクサロイド達にアメリカの作曲家ジョン・フィリップ・スーザの 合衆国野戦砲兵隊 を演奏してもらいながら、ふと思った事を口にした。このコンサート会場には客席が殆ど無く、豪華なソファーが数個ほど置いてあるだけだ。本当は喋ったらダメだが、別に聴き入ってる訳じゃなくて、青娥が来るのを待つ時間ヒマなので、ただの暇つぶしがてらセクサロイド達に演奏してもらい聴いてるだけである。

合衆国野戦砲兵隊が終わって、次は陸軍分列行進曲をセクサロイド達は演奏し始める。フランス軍軍楽教官シャルル・ルルーはいい仕事をした、やっぱ陸軍分列行進曲は何度聞いてもカッコいい。荒鷲飛行中隊や進む日の丸も好きだが。

…あーでも恋人つなぎもエロいよなー。だって男女の指を絡ませて合わせるんだぜ。つーか男と女が一緒にいるだけで既にエロいな。よくよく思い返せば、永琳とはセックスよりディープキスが多い気がする。最初は雰囲気や愛撫の為にしてたけど、正直セックスよりベロチューが一番エロくて気持ちいいんだよなあ。

 

「やはりこれが真理だよワトソン君」

 

「…手遅れですね。後で永琳様にお薬出して貰っておきます。万年発情期でヤリ過ぎのせいかも。優先順位は昔と比べて大きく変動してるなんて永琳様に知られたら…」

「うるせえ万年発情期に関しては人間やお前もだろ淫乱玉兎」

「それは地上のウサギの話ですよね!?」

 

また大声を出してしまったと、鈴仙は演奏していたセクサロイド達を恐る恐る見たが、陸軍分列を演奏し終えていたようで、セクサロイド達が鈴仙を見る表情は、とても、いい笑顔でした。まる。俺の隣で一緒に聞いていた鈴仙は殺される恐怖を感じたのか俺の左腕に両手で抱きついてきたが、これは俺がいたらセクサロイド達は何もしないという確信があるからだろう。さすが卑劣で狡猾で姑息で腹黒くてそういうことに限っては頭が回るオンナだ。鈴仙のこういう性格や、人間を見下したりする所や、左腕に抱きつき、薄目でセクサロイド達を見ながら怯えて今も震えてる臆病者で、更には身勝手な性格であり、しかも性格の根っこ部分は基本的にお調子者だから、その辺りだけ。その辺り だけ が結構気に入ってる。

しかし邪魔なので、空いてる右手の掌で今も左腕に抱きついてる鈴仙の顔面をぐいぐい押してどかそうとするが、小声ながらも悲痛な叫びを上げつつ鈴仙は梃子でも動かぬようになる。

 

「やめてやめて弘天様! 私がセクサロイド達に囲まれ、あらゆる手段で殺されます!」

「大丈夫、俺はお前の真意を汲み取っている。だから殺されても後で蘇生してやるから安心しろ」

「真意を汲み取るならそういう問題じゃないのを察してください!」

 

そうこうして、次はイギリスの作曲家エドワード・エルガーの 威風堂々 を、セクサロイド達は演奏し始めた。

 

生物、動物というのは、子孫を残すためにセックスだけをする。自然界の動物でもメスの尻を見て欲情する事もあるが、人間のオスは人間のメスのパーツでならばどこでも欲情できる。人間以外にも欲情する場合もあるが、人間の場合尻だけではなく胸、または腕や足、中には髪や匂いの場合もある。子孫を残す事が動物の目的ならただセックスするだけでいいのに、それ以上の事を求めるのだ。一体なぜだろうか。業が深いというか、性癖や性欲に忠実というか、ストライクゾーンが広大というか。

西洋宗教の統治下にない外国でも処女を求める国はあったが、古代オリエント地域の女は処女だと結婚が許されない国も嘗てあったし、古代では童貞が希少価値だった国もあった。こういう違い、日本と外国の違いを文化の違いと言う人間はいるが、それは正確な言い方ではない。厳密に言えば”宗教観の違い”が正しい。殆どの人間は宗教を信じてないが、宗教に影響されてるからな。

しかしたまーに、私だけは貴方を理解してるわよ的な女がいる。こういう女は滅びるべきだろう。永琳達はこういう何でも理解しているような態度をする女達ではない。

 

「なぜ神は人類をそのように創ったのだろう…。嗚呼、主よ! 我ら愚鈍な者達如きが、大いなる主を察する事が出来ません」

「弘天様がその神です…」

 

勘違いされやすいが、俺はキリスト教や、教えに思想は好きだ。でも妄信するキリスト教徒はキライだ。インドの宗教家、哲学者の マハトマ・ガンディー は言った

『私はキリスト教(イエス・キリスト)は好きだが、クリスチャン(キリスト教徒)はキライだ』

恋と愛が同じ気持ちではないように、宗教と宗教家は別である。ユダヤ教とユダヤ教徒も同じではない。これはちゃんと区別するべきだ。しかしキライ=否定という訳ではない。キライはともかく、それを否定する事はキリスト教の歴史を、延いてはその宗教に入信した彼らの祖先を否定する事と同義である。だからこの違いも、ちゃんと理解すべきだ。その為に言葉や文字は差別化されてる。格ゲーする時、選べるキャラが全て同じキャラしかいなくて、しかも同じコマンド入力しかなかったら、ゲームとして成り立たない事と同じだ。まあ一部はそれでもいいと言うのもいるだろうが、一部だけじゃ意味ないんだよ。

 

キリスト教の教えや、神に対する考えは好きだ。ユダヤ教の考えや教えとか、イスラム教の考えや教えも大好きだ。気に入らない所はあるが、嫌いになれないし、否定なんて出来る訳が無い。

オナニーをしてはいけないという教えは理解できないが…そもそもヤハウェはオナニーをするな、とは旧約聖書には一言も書かれていない。旧約聖書のオナンがヤハウェに殺され、オナニーはしてはいけないんだと。そのように解釈されてそうなっただけだ。

もちろん文芸復興のルネサンス時代もいいものである。しかし、それでも、キリスト教の隣人愛があったから、人間の道徳面では良かった部分もあるんだ。まあ黒人は奴隷にされ、魔女や異教徒は殺されるけど。

昔があるから今がある。などと知った風に、分かった風な事をほざくヤツがたまにいるが、それを言っていいのは当時の歴史の背景を知ってからだ。当時の歴史を知りもせずにそれを言うのは滑稽でしかない。

 

「それに日本神話の場合、人間は勝手に生まれたのであって、イザナギ様とイザナミ様は、人類を創造してません」

 

「うむ。日本人は、地球が生んだミトコンドリア・イヴ達の子孫が圧倒的に多い。だからこそ我々が定期的に減らして、数を一定以上増やさない」

 

インド神話と仏教は、ギリシャ神話とローマ神話の関係に似ている。全部が同じな訳ではない部分も一緒だ。

仏教哲学や仏教の思想も好きだ。平安末期の仏教や、鎌倉仏教は、当時の農民などの人間へ道徳面で大いに貢献している。なにせその道徳が平成まで続いているからだ。…一部余計なのもあるが。しかし公家や武家が影響されている儒教の教えは明治時代である程度なくすべきだったとは思う。2~3世紀にいたインドの僧で大乗仏教の創始者でもある龍樹は、僧になる前は透明人間になって、当時のインド美女達をレイプし、欲は人間を破滅すると考えて出家したクズなのは有名だ。

 

意味ワカメ。なんで性欲を無くしたり抑えたりする必要があるんだよ。そりゃ僧にとっては当たり前でもそれは僧の話であり、仏教に関わってない人間が順守するのはおかしな話である。

別に正当化しようなどとは思わんが、性欲は生物、動物の基本だろう。それを否定したり、抑えるなんて、自分は生物じゃない、動物じゃないと言ってるようなモノ。延いては食欲、睡眠欲さえも抑えるようなモノだ。動物、人間にとって欠かせない三大欲求を抑えるなど愚かな行為や思想だとは思わんか。

性欲を否定するならば、せめて人間から食欲と睡眠欲が無くなってからにして欲しいもんだ。まあ昔と比べると、明治時代から昭和時代にかけて娯楽が沢山増えたからな。やる事が句を詠んだり、茶道したり、はにわ作ったり、セックスしかなかった昔とは違う。

 

そもそも僧が涅槃の境地へ到達するには欲を捨ててはいけない。欲を越えなきゃいけないんだ。

悟る為に必要のない『欲を捨てる』じゃないんだ。必要な事は『欲を越えなきゃいけない』んだ。

捨てると越えるは違う。これを理解してない人間は結構いる。

 

「大体さ、神が人を救うとかいう意味不明な思想は昔から気に入らんのだ」

 

「弘天様が言いますか…」

 

「当たり前だろ。俺は昔から神の子孫には援助してきた。そりゃ当然だ、神の子孫の人間だからな。だがそうでない人間、ミトコンドリア・イヴ達の子孫は、神話の時代から殺してきたんだ」

 

Jesus、キリストの奴は本当に余計な事をした。百歩譲って天皇がそう思うならばまだ分かるさ。なにせアマテラス、ニニギの子孫だからな。そう思っても別に不思議じゃないし、アマテラスやニニギが天皇に助言や、力を貸しても別におかしい話じゃないさ。そんな話は、メソポタミア神話のギルガメシュ時代からある事だ。演奏を観ながら鈴仙とまた話す。

 

「神の子孫とただの人間。これの区別がついてない人間は意外と多くてな。だから自分も、神様に救ってもらえる。などと勘違いし、分不相応な考えを多くの人間が持つようになった」

「滑稽ですね。必竟、人間は自分にとって都合のいい事しか観ない」

 

鈴仙は冷淡な笑みになり、セクサロイド達の演奏を見た。

例えば、古事記と日本書紀は日本神話の出来事全てを記載されている。だがそれは、人間側が神の出来事を全ての人間に理解するように、言わば翻訳しているのだ。だからこそ、神は人間の定義に該当しない。これは旧約聖書でも同じ事だ。出エジプト記のヤハウェがした事、そして会話した時の言葉も、あれは人間に理解させる為の翻訳なのだ。神のした事を、人間の言葉で翻訳しているのだ。

原理はともかく。神が死者を蘇生させた場合、その原理を解明する事は不可能だ。事象が理解できないのではない、なぜ蘇生したのか、その原理を説明する事が不可能であり、これを説明できない事を多くの人間は理解できてないのだ。これを自分以外の人間に話しても無駄だ。なにせその死者を蘇生した時の言葉の、文字の原理や定義が不明だからだ。蘇生じゃないし、戻したという言い方も、俺達からしたら正しくない。即ち誰かに何かを説明する場合、言葉や文字を使わなくてはいけない。しかも自分以外の人間が理解できる様にだ。大抵の場合は蘇生、再生、魂を戻す、傷を癒すなどが多いだろうが、この言葉は間違っている。例を挙げるならばだ、神が人間を蘇生した。これは合ってる、人間に対してならばその言葉は合ってるさ。でも俺達、神々の場合は間違ってるんだ。つまり言語の限界だよ。

 

「そもそも人間が定めた定義とは何だ」

 

「人間がこの世に存在するモノ、概念、事象、存在を明確にし、定義付けた情報を、存命している全ての人間と、後世の人間とで共有する為です」

 

「まあ歴史の定説と同じ話だな。少し前まで源義仲が任官したのは征夷大将軍が有力説だった時もある。それが今じゃ源義仲は征東大将軍が有力説になっているが」

 

歴史同様、その為に人間は自分たち人類も定義付けしている。自分たち人類がどういう存在か。それを明確にし、何をして積み重ねて来たか、というのを理解する為。歴史は定説だ、歴史は後世の人間の解釈という定説で出来ているのだ。そこに真実なんてモノは最初から無い。これは歴史ばかり知っている慧音にも言えるさ。

レミリア・スカーレットの言葉を借りるなら『歴史ばっかり見てるお前に運命は変えられないよ』

 

「仮に。ただの人間が200歳以上生き、剰え老化もしない人間は、人間の定義に該当するか」

 

「人間ではないですね。見た目だけは人間かもしれませんが、人間ではないと思います」

 

この違い、言い回しを変えて説明しようか。永琳が造ったる~ことや、あそこで演奏しているセクサロイド達は外見、見た目だけ人間だ。人間らしく見え、人間らしく振る舞い、人間らしく会話し、感情があるから人間らしく笑ったり泣いたりする事が可能だ。普通の人間にとってはもうそれだけで十分だろう。人が普通に生きる上ではな。だってさ、自分の隣で自分と話している美女を見て、その美女が『人間らしいかどうか』が重要な訳だ。人間らしい行動してるセクサロイド達を、果たしてその人間が『この美女は人間じゃない』と思うだろうか。確かに人間とは違う行動したら疑問を抱くかもしれない。だがそれが起きない場合、その人間には彼女をセクサロイドと見抜く事は不可能だ。ああ、確かに彼女達、セクサロイド達は人間のそれと変わり無いだろう。ただしこの場合において、コミュニケーションに関しては人間と同じと言う意味だ。

 

長々と話したが、セクサロイドは老化しない事と、セクサロイドのコミュニケーションは、人間と同じ事を前提とし、それを踏まえて言おう。

確かにコミュニケーションに関しては普通の人間と大差ない。だがその美女と交流を深め、人間はそのセクサロイドの美女と結婚したとしよう。何年、何十年と過ぎ、自分がジジイになって老いても、妻のセクサロイドは若々しいままで老化しないんだ。これを夫側側から観たらどう思うかな。そして、そのセクサロイドを人間として観られるのか。妻とは観られるかもしれないが、本当に、自分と同じ人間と観られるのか。人間らしく見え、人間らしく振る舞い、人間らしく会話し、そのセクサロイドは笑ったり泣いたりする事が可能、つまり人間と同じ心があるからそのセクサロイドは人間だ。みたいに、こんなつまんねーこと言わないでくれよ。そんなありふれた答えでは、この話をした意味がない。

 

「では神様が、ある人間に炎や水、要は自然を操ったり出来るようにし、不老不死にしたり、魔法も使え、更には空を飛ぶ事が出来る様にしたとして、そいつは人間か」

 

「それを人間とは言いません。天皇みたいな神裔なら分かりますが、そんな力をただの人間が神から貰ってる時点でおかしいです。最初からそんな力を持ってる時点でも人間とは言い難いです」

 

だよな。天皇は神の子孫である神裔の人間、神の血を持たない人間と違うんだ。俺が言ってる事は、ギャグマンガに出てくる死なないキャラに、なんでこのキャラ死なないんだ、とツッコミしているようなモノだ。そんな事は最初から理解している。理解した上で、この話をしてるのだ。

 

「じゃあ鈴仙、お前は天皇や、アレクサンドロス3世をただの人間と観るか」

 

「…率直に言いますと、いくら神裔でも、地上にいる時点で私は同じと考えます。しかし」

 

最後を強めて言い、一息おいて鈴仙はまた話す。

 

「ただの人間とは、観ません。何故なら天皇と同じ神裔のアレクサンドロス3世は、ギリシャ神話の神々を統べるゼウス様の子孫、ヘラクレスとアキレウスが祖だからです」

 

「やっぱり俺…お前のそういうところが好きだ」

 

ここだ。地上を見下したり人間の事がキライでも、この違いを分かってるから鈴仙の性格や人格が好きなんだ。それを聞けて、俺は十分だった。隣のいる鈴仙の頭を撫でると目を細め、体を震わせながら唇を突き出したが、そのまま右手で抱きしめた。左腕はまだ鈴仙に両腕の中にあるからだ。抱きしめられた時の鈴仙の体は強張ったが、目を細め何も言わず抱きしめ返した。数分くらいお互い抱きしめていたが、離して俺は演奏を見る。これはユダヤ人以外の人間がヤハウェを全知全能の存在などと言い、ユダヤ人以外の人間にとって、都合のいいGODとして見られてる事と同じだ。

 

「む、無理矢理口付けされるかと思いました…撫でたり抱きしめたりとなんですかいきなり。優しく抱きしめて懐柔する以前に、私は弘天様や永琳様の奴隷なんですけど…」

 

「別に好きと言っても色々あるだろ」

 

ドイツの作曲家ヨハン・ゼバスティアン・バッハの 主よ、憐れみたまえ を、セクサロイド達の演奏が大ホールに響きながら、懐から聖典を取り出し、両手に持って読みつつ演奏を聴く。話題を変えるためか、俺の右手と左手に持ってる聖典について、鈴仙が覗き込みながら聞いたので、俺は頷いた。

 

「それは聖典ですか。旧約聖書の方はモーセの十戒辺りみたいですね」

 

「ユダヤ教の旧約聖書、出エジプト記20:13とヨシュア記、イスラム教のクルアーン、コーランの第9章5節に目を通してる。イサクの燔祭。一部を除いたキリスト教徒は燔祭にしなきゃな」

 

右手に旧約聖書の出エジプト記とヨシュア記、左手にイスラム教の聖典クルアーン、コーラン第9章の5節を読みながらこの先の事を口にすると、鈴仙が疑問を投げかけたのでそのまま答えた。

皮肉である。俗説とはいえ、ゴルゴタの丘で十字架に磔にされ、Χριστος(クリストス)がユダヤ人に殺された。それが後世のキリスト教徒が同じ目に遭うのだから。

 

「多くの人間は当時の国と宗教の背景や、宗教の教えと聖典を誤解や勘違い、拡大解釈や曲解してやがる」

「どうでもいいと思いますけど」

「いやそれ言ったらお終いだろ」

 

宗教の歴史を調べず、剰え聖典を読まずに宗教を悪などと、ちんけで卑小な概念でレッテルを張り、定義付けする人間は特にクソだ。当時のオリエントの歴史やアラブの歴史、イスラエル人の歴史を知りもせずに言うんなら尚更だな。どいつもこいつも宗教の争いの歴史だけしか見ず勝手なことばかり言う。

西洋宗教と宗教家、キリスト教とイスラム教のお蔭で発展した科学、医学、道徳、論理、価値観、哲学、美術、音楽、アーキテクチャもあるし、日本でも昔から宗教争いがある。まあ西洋哲学に関しては、古代ギリシャの水増しが多い。

中世の歴史はすかすかだ。しかしある意味キリスト教があったから、文芸復興のルネサンス時代が来たんだ。イスラム教のお蔭で古代ギリシャと古代ローマの哲学や医学が生き残ったんじゃないか、西洋の火薬だって、カトリック教会の信者 ベルトルト・シュヴァルツ が発明したんじゃないか、イスラム教徒の科学者、哲学者の イブン・スィーナー がいたから、当時の科学や医学や哲学が発達したんだよ、アラビア科学(イスラム科学)や医学だって、ユダヤ教徒とキリスト教徒とイスラム教徒が発達させたんじゃないか。西洋宗教を否定する事それ即ち、その歴史全てを否定する事と同じなんだぞ。

そもそもさ、アラビア科学、医学、哲学の恩恵を受けている日本人が、西洋宗教を否定していい訳ないだろ。前々から思っていたが、日本はイスラム教国やイスラム科学についてもっと触れるべきだ。

 

確かに妄信するのはどうかと思うが、1000年以上も続いている宗教を否定していい訳がない。それを否定する事は、今まで続けて来た歴史を否定する事と同義だからだ。どんな事をしたとしても、否定してはいけない。否定するのではなく、思い直したり、改善しなきゃいけないんだ。それが肝心で重大だ。歴史とは何の為にあるのかと言えば、今を生きる人間が同じ轍を踏まないよう、二の舞にならないため過去から学び、今を改善する判断材料として使えるからである。

だが、当時のアレクサンドロ図書館の書物を読みたかったのも本音。まあパチュリーが読むだろうし俺も見たかったので、実は焼き払わせず日本に転移させてるんだなこれが。

 

「と言いますか、なんでそんなモノを読んでるのでしょう。もう何回も見てますしいい加減捨てないんですか。そんな聖典、面白くないと思います」

 

「聖典は何度読んでもこんなに面白いのに、己は読みもせず否定しか出来んのか玉兎。奴隷のくせになまいきだ。殺されたいのか鈴仙」

 

ソファーに腰掛けながら受け答えし、視線を鈴仙に向けて殺すぞと脅したら、鈴仙はおろおろして俺の左斜め前に置かれたもう一つのソファーの後ろに隠れた。鈴仙がソファーの後ろに隠れて数十秒、ソファーの後ろから鈴仙の耳がゆっくりと出て来て、なんか、くぐもった声が聞こえる。ソファーの後ろから出ている耳も心なしか震えているし、どうやら嗚咽を漏らして泣いている様だ。

どんだけ臆病で泣き虫なんだこいつは。其の癖お調子者で、ある事ない事を自慢する女だし、余計にタチが悪い。未だに鈴仙はソファーの後ろに隠れながらも、嗚咽を漏らして会話を続けた。

 

「か、簡単に燔祭って言いますけど、ヤハウェは全知全能でしたよね。キリスト教徒を燔祭したらヤハウェが出てくるんじゃないですか?」

 

「…昔からJew、ヘブライ人、イスラエル人、古代イスラエルやユダ王国だけを贔屓するヤハウェが、全知全能…だと」

 

それを頭の中で何度も反芻すると次第に笑いがこみ上げ、そのまま大笑いしてしまった。

 

「ハハハハハ! いつの時代も全知全能は人間にとって良い意味で拡大解釈されるよな!」

 

鈴仙の発言を聞いて、俺は自分の右手でお腹を抱えて俯き、左手でソファーの肘掛けを何度も叩きながら大笑いしてしまった。

あんな、器が小さく、一貫性も無く、自分が言った事を棚上げして矛盾した事を言い、理不尽な事を要求し、しかも人間のように嫉妬深くて、人間みたいに感情的に行動し、主を信じ信仰していた信者が苦しんでいるときもただ観ていたヤハウェが、自分勝手なあいつが全知全能とか笑える! ここは笑うところだ。今笑わなくて一体いつ笑うというのだ!!

 

まあ歴史、聖典なんて解釈次第だ。なにせ、地球が出来た時から生きて、全部見て来た訳じゃない。だから自分が正しいなんて自惚れた事はないし、そう思った事は一度もないさ。

それでも、鈴仙の発言を聞き流す事は出来なかった。

 

「おいおい笑わせるなよ鈴仙! 俺はユダヤ教徒を燔祭するんじゃなくて、キリスト教徒の一部を燔祭するんだぞ。その場合ならヤハウェは出てこない。それ以前にお前が言ってる事は」

 

旧約聖書に基づくならば、ヘブライ人は主のヤハウェに認められ、選ばれた民族である。だからこそ、イスラエル人には燔祭をしない。ヤハウェが煩いからだ。

だが。イスラエル人にはしなくても、それ以外の民族には燔祭をする。これがユダヤ人のキリスト本人ならまた話は違っただろうが、今のキリスト教にはユダヤ人が一部しかいない。

ユダヤ人が迫害された時もあったが、彼らユダヤ人はそれを試練としてたし、全ての試練が終えるとイエス・キリストの方ではなく、ダビデの子孫のメシア、ソーテール(救世主)が来ると信じられていた。

 

「エジプト神話、クマルビ神話、ヒッタイト神話、メソポタミア神話、他の神話も混ざりまくってるギリシャ神話が、全て古代ギリシャ人が考えたオリジナル神話と言ってる様なモノだぞ!」

 

ふははははは。あいつが全知全能、面白い冗談だ。

まだ笑っていたら、ソファーの後ろに隠れていた鈴仙は両手をソファーに置いて、そのまま少しずつ顔を出してきたので、左手の旧約聖書と右手に持っていたクルアーンをソファーの上に置いた。

 

肘掛けに左腕の肘を置き掌で顎と頬を支えながら足を組み、魔方陣で右手に草薙剣を転移させて、そのまま鈴仙の顔面へと力いっぱい投げると、声にならない叫びを上げながら、鈴仙は俺が投げた草薙剣に銃弾形の弾幕を数発撃ってソファーの後ろにまた隠れる。鈴仙が右手から銃弾形の弾幕を撃って軌道を逸らしたので、弾幕に弾かれた草薙剣は空中で円を描きながら、そのまま床に刺さった。横目で床に刺さった草薙剣を見ながら魔方陣でまた右手に転移させて、草薙剣を片手間に触ったり、上に放ったりして遊ぶ。

 

「い、いきなり何するんですか…危ないです」

「全盛期と比べて弱体化したが、玉兎如きに負けるほど俺は落ちぶれてないぞ」

「私は最初から、弘天様や永琳様に歯向かったり戦う気は微塵もないですッ!」

「死んだら蘇生してやるから大丈夫」

「そういう問題じゃないんですってば!」

 

俺が好きなのは、全人類の罪を一身に背負い、隣人を愛せと言った新約聖書のイエス・キリストではない。それ以前にキリスト教徒にとってキリストは主の子だから人間でも、ユダヤ人でもないそうだが、実際のキリストはユダヤ人だ。

 

「では聞くが。旧約聖書は誰にとって都合がよく、また、ヤハウェという主も誰にとって都合がいい神だ」

 

「こ…古代エジプトから逃げて、ヤハウェから古代イスラエルの三種の神器(契約の箱)や、アロンの杖を授かったモーセにアロン達と、古代イスラエル王国を統一したイスラエル人と、ユダ王国のユダ族」

 

「そうだ。仮にヤハウェが全知全能だとしても、なんでイスラエル人、ヘブライ人以外の人間を。ユダヤ人以外の弱者の人間をヤハウェが助けなきゃならんのだ」

 

ギリシャ神話が古代ギリシャ人にとって、日本神話が天皇や神裔にとって都合がいい事と同じだ。それなのにイスラエル人、ヘブライ人以外をなぜヤハウェが救わねばならんのだ。どいつもこいつも、全知全能という言葉を、人類にとって悪い意味ではなく良い意味で捉えすぎだ。

キリスト教徒が言うに新約聖書、平和主義のイエス・キリストは神の子らしいが、ヤハウェの子が世界の平和を謳ってどうする。何の為のヤハウェの子だ。ユダヤ人、ヘブライ人だけを救うならともかく。世界の平和を説き、隣人を愛し、人類全てを救う…

それではヤハウェの子として全く意味が無いではないか。ヤハウェはイスラエル人、ヘブライ人だけの主だというのに。

 

「古代イスラエルとヘブライ神話の歴史を調べ、旧約聖書と新約聖書をちゃんと読んで言ってるんだろうな鈴仙。主や西洋宗教を否定するのはせめてそれからだぞ」

「で、ですけど…」

 

…ああ、忘れてた。鈴仙は中途半端に回帰させていたんだったな。そりゃ今の発言も仕方ないか。ヤハウェはユダヤ人に都合がいい神だという事を忘れるなんておかしいと思った。まあ日本人にはあまりピンとこないだろうが、キリスト教徒を殺す場合、人間がそれをするとかなり大変な事になる。人間の場合だがな。

 

「待て、まさかお前、ヤハウェだけじゃなく、全知全能と言われるゼウスがなぜ運命に逆らわないのかさえも憶えてないのか」

 

ゼウスに関しても俺は否定はしない。だが鈴仙はヘブライ神話だけじゃなく、ギリシャ神話をちゃんと憶えてないようだ。

ヤハウェは全知全能ではない、仮に全知全能だとしてもそれはイスラエル人、ヘブライ人、ユダヤ人だけに限った話になる。ただギリシャ神話を見るにゼウスは全知全能だ。

 

「でも、幼少期からメーティスを飲み込むまでガイアの予言の運命に翻弄され、テューポーンには負け、ヘーラーには浮気がバレたり、他の神には出し抜かれてる事が多いゼウスですよ?」

 

「それよく言われるけどさ、ゼウスの場合はギリシャ神話のパンテオン全て、メーティスを飲み込んだ以降もあえて自分に軛を付けてんだよ」

 

「…あえて?」

「その前に、ギリシャ神話においてゼウスはどういう存在だ」

 

鈴仙は当たり前のことを聞いたせいか、ソファーの後ろから顔を出して、一瞬戸惑い首を捻るが、難しく考えずに思った事を口にした。

面白ければなんでもいい、という思想はとても危うい。それは犯罪や人殺しさえ、そう言った人間が被害に遭わず、ただ第三者視点で観る上で娯楽として面白ければいいという事だ。これは別に、屁理屈ではない。これを屁理屈だと思うならば、それを言う前に、面白ければなんでもいいという言葉の意味を、人間はちゃんと理解してから言うべきである。

 

「一般的には兄弟を助けるために実親を殺害し、パンテオンを統べる最高神になって、神々と人間の秩序を守護する神…ですか」

 

「その通りだ。それを踏まえて言えば、まず第一に、ギリシャ神話のパンテオンは運命なんぞに縛られていない。だが、ゼウスは神々を桎梏した」

 

確かに最初、ゼウスが子供の時から、そして妻のメーティスが孕んだアテーナーを産むまでゼウスにはいくつかガイアの予言があった。そのガイアの予言に、つまり運命にゼウスは翻弄され、束縛されていただろう。しかし女のアテーナーが産まれ、ゼウスはその全ての予言から脱したお蔭で、運命から逃れたので縛られていないのだ。即ちガイアの予言の運命からも脱しているし、またガイアが予言を言ったとしても、今のゼウスには全く意味がない。

もう一度言うが、ゼウスはメーティスと出来た子、アテーナーが生まれた時点で、ガイアの予言からは解放されて支配下にない。この時、知恵の女神メーティスを飲み込んだ事も重なり、ゼウスは全知全能となった。では全知全能となったゼウスが、あんなに間抜けな事を何度もしてるかと言えばだ。

 

「次に運命の三女神Μοῖραι(モイライ)だ。モイラは運命を操る力を、ゼウスから与えられている。ゼウスが神々と人間の秩序を守るためだ」

 

運命を司る力を、ゼウスがモイライに与えてると言う事はだ。与える事が出来ると言う事は、つまり本来なら、ゼウスは運命を簡単に抗える。ただしこれは、ゼウスが運命を司る力を与えた運命の三女神モイライだけの話だ。ガイアの予言の場合、ゼウスは予言の支配下にあり、アテーナーが生まれるまでガイアの予言に翻弄されていたことは、もちろん肯定する。

 

「…あ、そういえばそうでしたね。思い出しました」

 

首を傾げていた鈴仙は一瞬沈黙したが、やっと思い出したのかうんうん頷いた。本当はもっと細かく説明したいのだが、説明としてはこれで十分だからいいだろう。これ以上は蛇足でしかない。

 

科学は無粋である。なにかの出来事が起きた場合、その原因が科学や医学で説明がつくからだ。例えば永琳が言うに、恋というのは体内にあるニューロペプチドが受容体と結合するのが発端らしいが、それはつまり、その恋した時の気持ちも、自然に生じたモノではなく、結局は自分の脳に作られた感情になる訳であり、自分の意思に沿わない形で、脳が勝手に恋した時の気持ちになる訳だ。いや、本当は、人間が勝手に自分の気持ちはあると思い込んだり、或いは錯覚してるだけで、自分の気持ちや意思なんてモノは、最初からないのかもしれない。これは決定論やMKウルトラ計画。全人類を操る沈黙の兵器などという陳腐な話ではない。

 

「弘天」

 

ソファーの後ろから声が掛かった。声からして天魔なのは察したので、セクサロイド達の演奏を観たまま俺は受け答える。

 

「諏訪子からね、真澄の鏡の在処を聞かれたよ」

「ああ」

「だから、いいんだよね。回帰させてもいいんだよね」

「二柱の諏訪子が望んだなら、それでいいんじゃないか」

 

真澄の鏡は諏訪湖の底深くに隠してある。諏訪湖にいるわかさぎ姫に頼めば、すぐに見つかる筈だ。幻月と夢月の夢幻世界にいたあの諏訪子が、ドレミー・スイートの力を借り、量子テレポーテーションで諏訪国にいる諏訪子に重なってあれを見せたのは知ってる。夢幻世界にいた諏訪子と、諏訪国にいる俺と永琳の実娘、諏訪子が望んだなら、俺から言う事は何もない。

 

「そっか。あ、早くパルスィに会ってあげなよ。あの子、感情だけ回帰してるから、もう毎日毎日弘天の事ばかり考えててべた惚れ状態なんだから」

 

「分かってる。ところでさ、天魔ってどういう存在だ」

「もー! 今更確認するなんてヒドイなー!」

 

翼を羽搏く音が聞こえ、音が近くから上空へと遠くになっていくなってくる。するとソファーに座り、演奏を見ていた俺の上へと空中から落ちて来て対面した。これを傍から見たら、俺達が騎乗位してるようにしか見えんだろうな。

前にも言ったが、第六天魔王は大国主と同一視されてるし、ミシャクジ神とも同一視されている。この第六天魔王と、大国主が同一視されるきっかけになったのは、『太平記』や『沙石集』などの中世日本紀が主な理由だ。

 

「私は封印される前の大国主の分霊を取り込んだ。そしてミシャクジ神であり、天狗の長だね」

「この態勢じゃ演奏見えない。あと重いんだが」

「ちょ、その言い方は私でも傷付く!」

 

天魔が騎乗位のまま両手で俺の後頭部に回し、顔だけを抱き寄せた。胸に埋もれて窒息しそうになるが、それもいい気がする。美人で、しかもスタイル抜群の女の胸で死ぬなんて幸せじゃないだろうか。あ、天魔はパルスィと神子を生んだが、生んだと言っても、これは俺が四季映姫を生んだ事と基本的に同じやり方だ。だからお腹を痛めて産んだ訳じゃない。

 

「じゃあ諏訪国に帰るね」

「気を付けてなー」

 

天魔は飽きたのかソファーから降り、翼を羽搏かせて上空に漂いながら話し、俺も天魔を見上げながら別れを告げた。天魔は右手を腰に当て、左手の人差し指を立てる。

 

「うん。でも最後に言っとく。文、はたて、椛を神使としてあげたけど、ちゃんと愛してあげて。あれでも多くの天狗の中で私のお気に入りだから、私のお願いね」

 

「…部下を道具としてしか見なかった昔のお前にそれを聞かせたら、なんて言うかな」

「だってあんなに回帰したからね。流石に道具でも愛着が湧くし、色んな了見も出るよ」

 

今も天魔は羽搏きながらも上空で話していたが、それが最後だったのか笑って右手を振り、待ってるからねと言い終えた須臾、瞬きする暇もなく、天魔は一瞬で諏訪国に帰った。

 

藤子・F・不二雄の『ミノタウロスの皿』という漫画がある。好きな漫画だ。

かつてマンガの神様(手塚治虫)と言われた人物がいたが、そのマンガの神様はなんと言えばいいのか…とにかく設定とか性格、人間の魅力に至るまで発想が凄いと、そのマンガの神様が描いた漫画を読んで思った人間が多くいた。それら全ての設定を、マンガの神様が今までの人類の中で初めて考えたんだと、そう思い込んでしまった人間は沢山いるだろう。俺がそうだった。例を挙げるなら、有名なので、メトロポリス、火の鳥、アトムだろう。でもな、人造人間や機械で出来たロボットも、怪物や合成獣も、科学も医学も、死者が復活する事も、ヒーローや魔法や魔女も、男が女になったり女が男になったりする性転換さえも神話時代からある。しかも今挙げたモノは全部ギリシャ神話で登場してるさ。

この話とは関係ないが食ザーや男が妊娠したりする話さえエジプト神話 セト の話で既にある。

 

だが違ったんだ。それは読んだ俺が無知だっただけで、もうその設定や性格、人間の魅力に到るまでもが、神話時代から既にある事を知らなかったんだ。多分マンガの神様は、漫画のタイトルや、漫画に出てくるキャラクターの名前から観るに、日本神話やギリシャ神話などの神話を知っていたんだろう。

最初に出来たモノより、後から出来たモノが評価されるなんてのはよくある話だ。それは、歴史が証明している。而して、だからこそ思うのだ。本来評価されるべきは、その神話なのだと。つまり多くの創作物は、各国にある神話の後追いで、真似事で、水増しでしかない。

 

 

 

老爷(だんな様)。御待たせ致しました」

 

声を掛けられたので見ると、自動ドアをからこちらに近づく青娥だった。老爷とは俺の事で、意味はだんな様らしい。俺達が座るソファーの左斜め前に立ち、俺がセクサロイド達はの演奏を見えるようにしてから話を続けた。鈴仙は未だにソファーの後ろに隠れている。

 

「盤古、及び玉皇大帝と元始天尊。三清達、四御。九天応元雷声普化天尊、西王母は天界から動く気はないようです」

 

「分かった。わざわざ盤古達に確認してもらって疲れたろう××。る~ことに何か甘い物を作らせてやろうか」

 

盤古とは中国神話の創造神、宇宙開闢創世神であり、玉皇大帝と元始天尊、三清は中国宗教である道教の全真教や正一教の宗派によって分かれている最高神の事だ。そこで中国神話の神々のうち、流石に盤古達が動くとなるとかなり面倒なので、盤古達が動く事はないようにまずは青娥に頼んで釘を刺してもらったのだ。しかし道教と一言で言っても、色んな宗派がある。まあそれはキリスト教や仏教、神道も同じだがな。儒教は学問であって宗教じゃないとよく言われるが、それはありえない。儒教の思想で神格化された人物は結構いるからだ。例えば三国志の英雄の関羽は儒教の思想により、三界伏魔大帝神威遠震天尊関聖帝君という名が贈られている。つまり関羽は、儒教の神様という事だ。関羽以外でも儒教は夏・殷・周の時代、中国神話に出てくる人間君主の殆どを神格化しているし、やはり儒教は宗教だな。

 

「元々、私が撒いた出尔反尔、恶果です。それに私達は夫婦ですから、お気になさらないで下さい。敢えて言うなら私の事は××ではなく娘々(にゃんにゃん)と呼んで欲しいですわ、老爷」

 

青娥は右手を頬に当て、射貫くような視線で言いながら、さっきまで鈴仙が座っていた俺の隣に座ると寄り添ってきた。レイセンは怯えながらもソファーの後ろに隠れたままこちらを見ているが、青娥の邪魔したら何をされるか分かった物ではないからだろう。しかも俺の左手を両腕に包んだので青娥の豊かな胸が両手に当ててるから形が変わり、水色の半袖ワンピース越しとはいえ胸の感触が左腕にダイレクトに感じるし、終いには青娥の右手と俺の右手を合わせてどっちが大きいかを比べ始めている。青娥は中国神話の月の女神だ、そして中国では女神の愛称、尊称を娘々と言う。それでだろう。イヤだと言おうとしたが、のらりくらりとかわされるのがオチなのを予想し、娘々と呼ぶことにした。どうでもいいが中国では男神の愛称を爺々( いぇいぇ)という。別に年寄りという意味じゃないが、日本の場合言葉のままイメージして解釈すると、年寄りの神なのかと誤解しやすい。

 

「いつも敵意を向けられてキラわれてましたから新鮮ですわ。こう見えて私は甘えたがりなんです。甘える私を可愛がって下さいね」

 

「……」

 

何て図太い神経だ、よく言うよ。お前が今までしてきた事を考えると、キラわれても仕方ないだろうが。…内心でそう思っても口にしろと言われて口では青娥に返せない。

 

「でも、甘えて下さるのも私は好きです。私がいないとダメなヒトも私は好きですよ。依存されるのも好きです」

 

「貴様」

「―――娘々でしょう?」

「――ごめんなさい」

 

青娥はさっきから劣情を抱かせる表情をしていたが、昔からのクセで貴様呼びすると、途端に真顔になり即答で訂正を求める。青娥が恐かったので僕は謝りました。言い返しても首を縦に振る事はまずないので、俺から折れる事にした。恐かったとは言え屈辱である。

 

「…娘々、いつにも増して上機嫌だな」

 

「はい。今まで幾度も回帰してきましたが、私達が夫婦になったのは…今回が初めて、ですもの」

 

左腕で俺の右手を抱きながら、空いた右手の人差し指で俺の鎖骨辺りに当てて円を描き、上目遣いで青娥は言った。しかし残念だが、俺には効かん。チッ、内心舌打ちしてしまったけど、なんだ、俺がお前に甘えろというのか。ありえないぞ。そう思考していたら、青娥は俺の右耳に顔を近づけ、淫靡にねっとりと囁き始めるが、これを聞くと理性が緩み、抑えている本能が緩まされる。何て言えばいいか、この声を聴くだけで脳や電気信号を声でじわじわ侵食し、最後は指令を下す脳を全て支配されていく感じだ。まあ俺には効かんが、そこら辺にいる人間ならば即落ちて、堕落して、青娥がいなきゃダメになり、依存するダメ男になる程の効果を期待できるだろう。

 

「私の肉体、頭から足。髪の毛1本に至るまで。全て貴方の物です。老爷の好きにしてくださってもいいんですよ…?」

「では早速あれを娘々にやる」

「あん。いけずぅ」

 

セクサロイド達に演奏をやめさせ、放置していた鈴仙も一緒にティコのラボラトリー内部にある強制収容所に転移した。強制収容所に転移したのは衣玖、鈴仙、る~ことに頼み、持って来て貰った数人の死体を青娥に渡す為だ。台の上に乗せている死体は、子供の男女から老婆爺に到るまで選り取り見取りだし、殺したといっても死体はちゃんとエンバーミングをしてるので、腐敗は一切してないから死体状態も悪くはない。別に殺したとしても蘇生すればいいし。まあ蘇生させないが。

 

「これを…全て私にですか」

 

「手始めに数人殺して残った死体が邪魔でな。蘇生か、あるいは廃棄してもいいんだが、娘々死体愛好家だったろ。好きな死体を持って行け。やはり赤子の方が良かったか」

 

「そんな事ありません。童の死体でも、私は十二分に嬉しいです」

 

死体の具合を確かめる為、青娥は立ち上がり台の上に乗っている死体を両手で触っている。最初は死体を貰えるから嬉々としていた青娥も、死体の顔、服装を見ると、嬉しそうな顔も段々と真剣になり、最後は眉を顰めた。青娥が全ての死体を持って行かない場合、残った死体は破棄せざるを得ない。本当は残った死体をお燐にくれてやりたいのだが、月の民の死体を妖怪が喰うと、非常に、非常に面倒な事しか起きないので、お燐には悪いが断念した。

 

「誰もを魅了し、国を傾けるほど綺麗で価値がある装飾品を贈られるよりも。私にとって、死体を頂けるのは悦ばしいわ。…ですが、この死体は」

 

「全て月の民だ。日本神話の宇宙樹も準備を終えたし、とりあえず俺が月の民の首を飛ばして数人殺し、他数名は宇宙樹が生命力を吸い取って死んだ者達」

 

要は頸が繋がってもう骨や皮になってる死体が宇宙樹がした方で、頸の繋がってない方は俺が殺した月の民。

日本神話の宇宙樹も順調に月の民、月自体の概念を吸い尽くしている。このまま行けば紫と幽香に持たせたインド神話の道具は使わずに済む、などという事にはならない。そもそも日本神話の宇宙樹を使ったのは、豊姫と依姫以外の邪魔な月の民を弱体化、或いは月の民全てを植物状態にして動けないようにしたりする為だ。宇宙樹が月自体を吸い尽くすのはおまけでしかない。

 

「芳香はまだ見つからんのか」

 

「そうねぇ。いつもの場所に死体が無かったから、私じゃない誰かが蘇生させたみたい。どこに行ったのかしらあの子は」

 

全ての死体状態を時間をかけて丁寧に見ながら芳香の事を青娥と話すが、進展はないらしい。誰が死んでいた芳香を蘇生させたかと聞かれたら、ヤマメなのだが。それは黙っておこう。中国神話の八仙の事も聞いてみたが、普段と変わりないようだ。

何かを思い出した青娥は死体を見るのをやめ、両手を叩いた。年寄りかな? 俺たち神と違って娘々は仙女だ。仙女と神は厳密に言えば違う。まあ永琳と輝夜の能力で作った蓬莱の薬を飲んでるから青娥は年取らない上に死ぬ事がない。しかし美人で肉体も瑞瑞しいが実際のねんれ――

 

「ぶべら!?」

 

え、気付いたら何かにぶたれた。青娥と俺の間には台を挟んであるし、反対側にいる青娥の距離では両手は届かない。片手でヒリヒリする頬を押さえながらも、青娥はニコニコして、何食わぬ顔で話を続ける。

 

「そうそう、昔からいつか聞こうと思ってたの。大国主の封印をなぜ解かないのかしら」

 

「あー 娘々、中国神話側だから知らないのか」

 

青娥は微笑したが、唐突に大国主の事を聞かれた。青娥は中国神話の女神だから、なんで大国主を注連縄で封印したのかは知らないのだろう。そういや娘々を娶ったの今回が初めてなの思い出した。あんなに回帰したというのに青娥を娶ろうと、一度も考えた事がない気がする。美人なのは分かってるんだが、如何せんそう思わなかった。

さっきから青娥は目を瞑り、もじもじしながら頬に赤みがさしていたがそれも消え、急に動きは止まってまた死体状態を見る。妖怪の山にいる古明地さとりじゃあるまいし、考えてる事がバレてれてないと思うんだ。大丈夫さ、大丈夫…

 

「ティムールは知ってるか」

「ティムールと言うと…ティムール朝の開祖、人間の英雄の方? 確か、大元時代や室町時代辺りの時期に産まれていましたわね」

「うむ。大国主の封印を解かないのはつまりそういう事だ」

 

ティムールとは1336年4月8日から1405年2月18日にいた人物である。ティムールが亡くなった後は死体を柩に入れられたのだが、そのティムールの柩にはこう刻まれていた。

『私が死の眠りから起きた時、世界は恐怖に見舞われるだろう』

そして、大国主は今も出雲大社で封印されている。つまり今の大国主は、ティムールの柩と同じなんだよ。しかも、大国主は第六天魔王と同一視されてるんだ。

 

大国主の神話は古事記では多くあるが、日本書紀では大国主の神話をかなり削られているし、あの因幡の白兎だって古事記にはあっても日本書紀では削られて無くなっている。

そもそも日本神話の国譲りはおかしな話だ。大国主と少名針妙丸(スクナビコナ)が出雲国、つまり国造りしたが、アマテラスたちの天津神がその出雲国を全て寄越せと言った。他人が造った国をいきなり寄越せと言ったり、日本全てはアマテラス、またはニニギの子孫が治めると言ったヤツらが、天津神だぞ。しかも大国主はそれを聞いて、自分の息子たちが納得したら差し上げますと言った。そして大国主は出雲大社を建てて欲しいと天津神達に申請して、それが承諾された訳だ。

ただしよく大国主は国津神側と勘違いされるが、古事記や日本書紀に基づくならば大国主は天津神であるスサノオの子孫である。元々スサノオは高天原にいた天津神だ。スサノオがバカな事をしたから、高天原より落とされ下界、つまり日本に来たので国津神という破目になったが、元を正せばスサノオは天津神側なのだ。だから正確に言えば大国主は国津神ではなく、本来の大国主は天津神である。もっと正確に言えばスサノオは天津神だが、その妻のクシナダヒメは国津神だし、大国主は天津神と国津神の血が混じったハーフになる。まあ天津神と国津神の違いなんて、神が高天原にいるか日本にいるかの違いだ。血とか、見た目とか、人間からの信仰とかはあんまり関係ない。古事記と日本書紀を見る限り、という話になるが。

 

「しかし。娘々のあれ、なんだっけ。あの死んだ赤子を使う禁術」

「おそらく、养小鬼の事かと」

 

「それだ。あの思想、オレは好きだな。童乩とかも好きだ。童乩の思想はギリシャの巫女(ピューティアー)とか日本の巫女と似てるし、青娥の術が多才な所は結構気に入ってるし好きだな」

 

どういう禁術かと言うと、墓に埋葬されている子供の遺骨を掘り出したり、流産して死んだ胎児、人の手で殺された子や、事故で死んだ子供の死体を使い、子供や胎児の死体や遺骨で霊を使役するんだったか。禁術だが、全く素晴らしいな。本当はしたらダメらしいんだが、青娥は道教の仙人として、仙術や禁術を他人に見せびらかす事が趣味、らしい。それでまだ世界が初期頃、暇つぶしに見せてもらった事がある。結構面白かったし、興味深かった。青娥を初めて感心し、見直した時があれ一回。

 

ヤンシャオグイ、养小鬼の事と青娥の事を褒めたが、それを聞いた青娥は死体を触る動きを止め、顔を上げて目をぱちくりさせた。そしてリピートを求める。

 

「すいませんよく聞き取れませんでした。もう一度言ってくださらない?」

「いやだからさ、青娥のそういう所は結構好きだし。ああいう思想オレ大好きなんだよ。禁術とはいえ死んだ赤子でも使うのは如何にも宗教って感じだろ」

 

「……ありがとうございます」

 

一瞬、青娥の左手に録音機みたいな物が見えた気がしたが、多分気のせいだろう。

古代ギリシャの数学者、発明家 ヘーローン はスゴイ。 アイオロスの球 という蒸気機関を、発明したからだ。というか古代ギリシャは数学者に天才が多すぎる。古代中国も言葉や文字があったし、凄かったなあ。その分、頭おかしいのも多かったが。古代日本も、先進国だった古代中国の影響をかなり受けてるし、バカには出来ない。しかし平成のギリシャ同様、今や見る影もないのは悲しいモノだ。まあ古代ギリシャ人と平成時代のギリシャ人はルーツが違うがな。うろ覚えだが、確か平成時代のギリシャ人ルーツはエトルリア系で、古代ギリシャ人ルーツとは違うし何の関係もない。古代ギリシャ人の哲学者や数学者は凄かったが、殆ど頭が固いのは欠点だ。

 

前々から懸念がある。今は輝夜と咲夜、天神地祇が僧兵を皆殺しにしているが、人魚の肉を食べて不老不死になった雲居一輪と、一緒にいる雲山も引き込みたいのだが、一体どこにいるのだろう。輝夜と咲夜、針妙丸と正邪がいるから大丈夫だとは思うが、一輪って尼だし、殺されそうで不安だ。一輪が死んだら白蓮が悲しむだろう。そんなの俺は観たくない。どっかで山籠もりでもしてるなら殺される心配はないとは思うが…

 

「雲居一輪が気になりますか」

 

俺は考え事をしていたが、口に出してないので何も言ってない。しかし青娥は俺の思考を読み取ったように、一輪の名を出した。

 

「……やはりお前を娶ったのは軽率だった。前言撤回を請いたい」

「却下ですわ」

 

そうこうして、死体を全て視た青娥はなんと全ての死体を所望したので、内心驚きながらも承諾した。全ての死体は諏訪国に持って行く事にする。神社の裏にある蔵の地下には、永琳の研究施設があるから、そこに死体全てを魔方陣で転移させた。だからここにいる理由はもうない。

 

「用も済んだし、諏訪国に帰るか」

「ええ」

 

全ての死体を見終えた青娥を見てそう告げる。もう少し何か言うかと思ったが、案外すんなりと、青娥は素直に聞いた。青娥を諏訪国に連れて行くのは、華扇に道教を授けて仙人にする為だ。さっきからずっと黙っていた鈴仙は、それを聞くとこの場から逃げる様に早歩きで歩き出そうとするが、俺が鈴仙の肩を掴んで、鈴仙が逃げる事を許さなかった。

 

「じゃあ私は来るべき決戦に向け、このラボラトリーで英気を養いながら待機ということで…」

「――は?」

 

「…え?」

 

なにバカな事を宣うのかこの奴隷は。鈴仙が嫌がる素振りを観る前に、右手で鈴仙が着ている制服の襟首を掴んで引っ張り、地面に引き摺りながら歩く。あーやること山積みだし気が重い。

 

「何言ってんだお前。鈴仙も諏訪国に来るんだよ。依姫に会いたいだろ。行くぞ龍神」

「は~い」

 

「ちょ、襟首掴んで引き摺らないでお尻が地面に擦れて痛いッ!! やだやだ依姫様にオシオキされるから行きたくなーい! いやああああああああああ!」

 

龍神を呼ぶと一瞬で現れるが、流石に龍形態だとここは狭いので人型形態で龍神は現れた。まだ喚く鈴仙を聞き流しながら、空いた片手で手招きして青娥を傍に来させる。鬱陶しいぐらい密着してきたが、気にせず諏訪国に転移しようとすると、龍神が進言した。

 

「あ、弘ちゃん~」

「なんだ」

 

「そろそろ依姫ちゃん、産むよ~」




前話でも書きましたが、実際に第六天魔王は大国主と同一視されてますし、第六天魔王はミシャクジ神とも同一視されてます。だからミシャクジ様を諏訪国の神様として、私は出しませんでした。天魔がいるからです。あ、大国主が第六天魔王と同一視されるのは『太平記』とかが理由です。まあ実際は太平記だけじゃなくて『沙石集』とか他にもありますけどね。
大国主が注連縄で出雲大社に封印されてるのは、東方原作にあるので、ちゃんと公式設定です。
まあその原作設定を使ったのは大国主が第六天魔王と同一視されていたからですね。

ここの青娥は東方原作の嫦娥と同じで、永琳のあらゆる薬を作る能力と、輝夜の永遠を使って作り上げた蓬莱の薬を飲んでいます。だから嫦娥を混ぜている青娥は不老不死です。ただし不老不死は不老不死でも、ここの不老不死に関しては原作の東方と同じではありません。簡単に言えば、ここの不老不死はかすり傷一つつきません。斬り付けても無駄ですし、火山口に突き落としても着ている服は溶けますが、肉体や髪、目や耳、鼻や口にマグマが入ろうと、なんともないです。宇宙に放り出しても意味がありません。結論としては、常に無敵状態になった訳ですね。まあ蓬莱の薬を作った永琳ならその無敵状態を解く事が可能です。
原作設定に基づくならば、それをすると追放や罰を受けますが、ここでは弘天や永琳、豊姫と依姫が月の民と月の都を牛耳ってるので、それは起きません。穢れに関しては旧作キャラのキクリが解決してますし、これも問題ありません。

それに原作設定を一旦置くならば、日本神話や中国神話において不老不死になる事を禁じてませんし、それ以前に穢れの考えが日本神話と原作とではだいぶ違いますからね。
そもそも嫦娥は、不老不死になったからヒキガエルにされたんじゃなくて、夫の羿を裏切って月に逃げたから、西王母が報いとして嫦娥をヒキガエルにした神話です。まあ嫦娥がヒキガエルにされたのは諸説ありますが、これが一番有名だと思います。
もちろん原作設定も色々使いますが、基本的に蓬莱山家に産まれたでは、神に関する話におきまして、原作設定ではなく、各国の神話設定が大前提としてベースにしてます。まあ基本的にと言う話ですが。

人造人間や機械で出来たロボット、怪物や合成獣、科学も医学、死者が復活する事も、ヒーローや魔法や魔女や吸血鬼、男が女になったり女が男になったりする性転換の話はギリシャ神話で既にあります。紀元前当時の時代的に考えて、古代ギリシャ人はアイデアや発想が凄いですね…
どんな国や、どんな部族の神話においても、語り継がれている神話とは大抵イカレテいる事を説明する為、見たくもないでしょうがこれを書きます。
今回ちょっと書いた食ザーや男が妊娠するのはエジプト神話 セト の神話で実際にあります。
まあセトは説によって男だったり女の場合もありますが。しかも男と女を兼ね備えた両性具有ではないかという説もあったりと、エジプト神話のアトゥムも両性具有ですから。古代エジプト人は、想像力がユニークだなと、当時は思いました。
ですがエジプト神話は時代によって神話の内容がだいぶ変わるので、この話は多くある中の神話では諸説が多い神話です。

ちょっと、今回の弘天がした説明では分かりにくいかなと思い、説明しておきます。

例えばマッチがありますよね、あれは摩擦で発火させる物です。摩擦で発火する原理としてはもっと細かい事を私も理解してますが、今は省略します。
とりあえず一言で言えばマッチは摩擦で発火します。それで発火する原因の説明はできますし、皆さんも把握していると思います。これは、言葉や文字、原理を理解しているからこそ、説明が出来ます。細かい原理を知らなくて、詳しく説明してないのになんとなく把握できるのも、ある程度の知識があり「火」「摩擦」「発火」の定義や言葉を理解しているからです。
ですが、その発火と言う言葉や文字も、摩擦という言葉も、そもそも人間が理解する為に定義付けた言葉です。人間だけが分かる様、理解しやすくしたりしたり、説明する時の為に、便宜的な方便の言葉で定義付けたんです。

そこで話を変えますが。出雲神話の大国主の再生神話の場合、大国主が八十神に殺されて亡くなり、大国主の母親である刺国若比売が神産巣日之神に蘇生を助命し神産巣日之神は蚶貝姫と蛤貝姫を遣わして、死んだ大国主を蘇生します。
ここで天照や諏訪子などの天神地祇、弘天や永琳など神話に出てくる神側としては、なんで死んだ大国主が生き返ったりしたのかは理解してますし、その原理を説明できます。神にとっては死者を蘇生させることは別におかしい話じゃないし、その原理や事象を、語弊を招くかもしれませんが、言葉で理解してます。この場合、言葉と言っても人間のそれとは違います。
簡単に言えば、人間側から見た場合それは「蘇生」になりますが、神側としたらそれは違う訳です。まあ当たり前ですけどね、日本神話の神々が日本語使う訳ないですから。要はこれが翻訳なんですよ。神がした事を人間が理解しやすいように無理矢理説明している状態。
しかし人間側からしたらその事象を完璧に説明できないんです。いや、無理に説明しようと思えば、比喩として説明できるでしょうし、こじつけて説明も可能でしょう。ですがそれは齟齬の説明です。正確な説明ではありません。神と人間には認識のずれが生じている訳です。
その事象、つまり蘇生行為に当て嵌まる適切な定義や言葉がないんですよ。だから強引にその事象について当て嵌めた言葉が蘇生、または再生という日本語の言葉になる訳です。
有体に言えば言語の限界。正確に説明できませんから。

…すいません。自分から説明しておいて意味不明になりました。正直、これだけ説明しても自分が納得できた説明じゃないです。申し訳ない。頭の中では纏まってるんですが、頭の中にある事を、文字や言葉として上手く表現できないんです。私の不徳の致すところです。本をもっと読み、色んな活字を見て学ばなきゃ駄目ですね。これが漫画なら尚更説明は難しかったでしょうが…
もう一言で纏めるとですね。神がした全ての事象を、人間は定義付けられた言葉でそれら全てを、敢行な解釈をして人間の言葉や文字に翻訳している。と考えて下さればいいかと思います…はい…

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