蓬莱山家に産まれた   作:お腹減った

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今回ギリシャ神話のピュグマリオンの話が出るのですが、念の為に説明しておきます。
かなりややこしいんですが、ここでは地球が生んだ人間と神が創った人間は同じではありません。
具体的に言えばミトコンドリア・イヴ、またはそれ以外のミトコンドリア・イヴの人間は地球が生んだ人間の始祖であり、それ以外、例えば神話に出てくる神が人間を創造した場合の人間は同じではありません。

要はミトコンドリア・イヴと神話に出てくる人間、またはインテリジェント・デザインの人間は
見た目は同じに見えても実際は全くの別物で、別々の存在です。
天皇、蘇我氏、物部氏、稗田氏、藤原氏、小野氏、平氏、源氏、諏訪氏は寿命の概念が存在しないように、ミトコンドリア・イヴから続く人間と、神の子孫である神裔の違いの一つは、寿命がいい例です
神と神、神と妖怪、神と魔女、神と妖精、神と神裔、神裔と神裔から産まれた子は寿命がないです
ただしミトコンドリア・イヴの子孫と神裔から産まれた子は、寿命があります。まあ少し長生きにはなりますが、半人半霊や半妖ほどではありません。

ここからは今回の地の文で軽く書いてますが一応前書きでも書いておこうと思います

弘天は日本神話の神の一柱であり、天津神でもあるんですが、正確に言えば違います。
全部説明するとかなり長くなるので割愛するならば
ギリシャ神話とローマ神話の関係に近いです

ローマ神話がギリシャ神話の影響を受け、ギリシャ神話がエジプト神話から影響を受けている様に
日本神話がギリシャ神話で、ローマ神話が弘天や永琳などの月人な感じ
日本神話と弘天の関係のイメージとしては、そんなところです

これも地の文でも書いてますが、レイセンにはキルギス族神話に出てくるウサギの話を混ぜてあり
レイセン、鈴仙を含めた全ての玉兎にはインドと中国にあるウサギの神話も、勿論混ざってます。


οικουμένη

パルス・プロ・トト

まずは、ドイツの哲学者 カール・ヤスパース が唱えた【枢軸時代】

イギリス、イングランドの哲学者、神学者 フランシス・ベーコン が指摘した【イドラ】

オーストリア、イギリスの哲学者 ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン の【言語の限界】

現在も存命しているアメリカ神秘思想家 ケン・ウィルバー の【意識のスペクトラム】

 

最後にドイツの詩人、小説家の言葉を引用しよう

 

『私も昔は時間の値打ちを尊重しすぎた。それで百歳になろうと思った』

 

『だが、永遠の中には時間は存在しないんだよ。永遠は瞬間に過ぎない』

 

『一つの冗談に充分なだけの長さだ』

 

要は俺の実妹、輝夜

 

時間とは、哲学でも創作物でもよく使われる事象だ。しかし、時間とはそんなに万能ではない。

時間を時間として見てるのは人間だけだ。時間という、あんな不確定なものが万能とは思えない。時間が全て解決する。という考えもあるが、それは違う。正確に言えば

エントロピーの法則が全てを平均化するのだ。この場合は乱雑さではない、平均化である。

時間の矢、光陰矢の如し。

 

これは咲夜と夢子だ

咲夜のデフレーションワールドも万能ではない

 

 

 

枢軸時代のインド、イラン、中国、パレスチナ、ギリシャにローマなどの先人達。一部を除いてこれら殆どはアジアで発生した。

紀元前800年頃から紀元前200年、アクシアの枢軸時代。本当の意味で、人間が人間として生まれたのは、枢軸時代にロゴス、ヌースが形成された時だ

 

枢軸時代の先人達が築き上げたものは、殆どがオリジナリティーのヌーメノンばかり。

なにせ枢軸時代から平成時代まで続いてるものばかりだからだ。

現代の哲学、世界観は、神話時代の人間、または枢軸時代のアクシアな先人達が生み出し完成している、と言っても過言ではない。

 

勿論10は超える古代文明にも言葉や文字はあったし、それ以前の優れたシュメール人もいた。

紀元前2600年のギルガメシュ叙事詩など、インド哲学では紀元前1000年頃の ヴェーダ もあるし、それ以外の古代文明にも言葉や文字などはあった、が。

最初は、太初に言葉が生まれた時だ。数百年前、いや。紀元前7年頃から人類は言語の限界が生じている。

ユダヤ教、旧約聖書のアブラハム。耶蘇教(キリスト教)、新約聖書の東方の三博士、ベツレヘムの星。

カール・ヤスパースの哲学用語で言うならば、限界状況。

とはいえ、これは神話に出てくる人間の話。神話に出てくる人間と、ただの人間は別々の存在だ。

 

 

「父さん、蘇我入鹿の神子から話があるってさ。後で本殿に来てよ」

 

「本殿だな。分かった、後で向かう」

 

両手で抱いていた赤ん坊の早苗をてゐに渡し、てゐは早苗を受け取ると、布団の上に優しく置き、てゐが早苗をあやしているのを、諏訪子はちゃぶ台に方肘を置いて、ただぼーっと見ていると、おもむろに空いた片手で服の中へ突っ込んで取り出したのは犬笛みたいな笛だった。

誰が作ったのだろう。にとりなどの河童だろうか

諏訪子はその笛を口に含んで吹くと、廊下から足音がどたどたと聞こえ、俺達がいる居間の前で足音が止まり、すぱーん! と襖を開けたのは、影狼だった。

…なんだ、どこぞのキバヤシみたいに、人類は滅亡する! とでも言うのか

 

影狼は俺に気付くと腰から生えてる尻尾がぶんぶん振っている。

多分、喜怒哀楽の喜の感情を露にしてるんだろうが、こいつ、笛を吹いたら飛んで来たぞ…

 

「呼んだー? あ、神様お帰りー。じゃあいただきまーす」

 

影狼が俺を喰おうと跳びかかって来たが、組み伏せてヒールホールドを掛けながら返す

 

「なにがじゃあだ。出合い頭に飛びかかるクセ何とかしろ」

 

「いたたたたたたたた! イタいよ神様! 私の愛情表現を痛みで返さないでー!」

 

ヒールホールド掛けたら右手で地面をバンバン叩いて影狼は降参したので、離すとじゃれ合いは終わった。

諏訪子にとっては見慣れた光景なので、動じずにそのまま影狼に言い渡す。

 

「父さん帰って来たし、入鹿たち呼んできて」

 

「分かった。じゃあさっそく行って来るねー」

 

影狼は諏訪子からの要件を聞くと、襖を閉めてまた足音が響いて遠のいて行った。

 

……あいつ、狼のクセに笛を吹いて来るとは、まるで調教された犬じゃないか

狼としての誇りはないのか。

 

「影狼って、いつの間に調教されたんだ」

 

「この笛を使って鮭で餌付けしてたらね、影狼が覚えてくれたよ。あ、父さんも欲しいなら私のあげるよ」

 

「…そうか。なら、貰っておくか」

 

「んー じゃあ、はい」

 

諏訪子は首に掛けていた笛の紐を解き、俺に手渡す。俺も頸に掛ける為に紐を首に回して、落ちない様にしっかりと紐を縛る。

紐を縛って笛を掴んで見ると、さっき諏訪子が吹いた笛だから、なんか、諏訪子が口付けた所が唾液のせいか、少しだけてらてらと光っている。

これは、いいのだろうか。やっちゃってもいいのだろうか。俺が口につけて吹いちゃっても

 

いや、諏訪子は俺と永琳の実娘なんだけどさ。

 

「なに、なんかその笛おかしい?」

 

「いやなに。まず先に間接口吸いか、もしくは直接、諏訪子との口吸いが先か迷ってしまってな」

 

「…バカな事言ってないで、早く出てって」

 

「なにを言う俺は本気だ。俺が嘘を言った事あるか。ないだろ」

 

「いっぱいあるね」

 

諏訪子の俺を見る目は、とても冷めた目だった。…あれ、そんなバカな。

辯解しようとしても思い当たらないので、なにを弁解したらいいのか分からず口を閉じてしまう。仕方ないからてゐに弁護をお願いしようと見たら、てゐは俺に背を向け、早苗を見たまま首を振る。

 

なんてことだ…無罪を主張する者がいなければ、俺は有罪判決になるじゃないか。

ネミネム・カプティヴァビムスに保護されているといえ、ここはせめて、暫定協定を結ぶべきだ。

 

「神の一柱として、こんな盟神探湯、俺は認めない。こうなったら、自分で自分を弁護してやる。裁判官の映姫を呼べ! ディベート、湯起請で白黒はっきりつけよう」

 

「いーから早く行ってよ!」

 

「なんだ諏訪子、顔赤いぞ。照れてるのか。おいおい今更照れるような間柄じゃないだろ。あんなに激しくお互いを求めて、まぐわった仲じゃないか」

 

「照れてないし私達はただの親子でしょ、それに、まだまぐわってないのに誤解を生む言い方はやめてよね!」

 

俺を居間から追い出す為に立ち上がった諏訪子は、両手で俺の背中をぐいぐい押して今から放り出された。

 

とりあえず、神子達が来るのはまだかかるだろう。

藍に会いに行く為、台所に向かい、到着

 

「らーん。腹減ったー」

 

「分かりました。では、軽いものでも作りますね」

 

「あ、そういえば玉藻前を引き込めたのか」

 

「はい。すんなりと」

 

 

さっきの話が脱線したので、話を戻そう。

 

 

かつてヘブライの預言者は『太初に言あり』と言った。

 

続いてカラビ・ヤウ多様体というのがある。

 

そして永琳は、因果律、因縁果、引き寄せの法則で集合意識の【エイブラハム】さえも掌握したのだ

 

 

有名な神話で説明するならば

 

エジプト神話の知恵を司る神 トート は言葉で世界を形作った。つまり、何も無かった世界に、トートの言葉で世界に意味を与えたという事だ

ユダヤ、ヘブライ神話の神で主の ヤハウェ もトートと似たように、言葉を紡いでいくと宇宙、地球全体が組み立てられていった。旧約聖書、では、そう書かれている

 

つまりトートにヤハウェは【カラビ・ヤウ多様体】を通じて世界に意味を与え、世界を構築した。

 

というイメージが一番近く、トート達がした事を捉えやすいだろう。

もちろんこれは比喩表現のイメージなので、実際は違う。

 

そしてこの神話の場合。言葉と言っても人間のように声を使った、という訳じゃない。

 

だが、かつて永琳のした事の一つは、エジプト神話でいうならばトートの立ち位置だろうな。

エジプト神話トートも、永琳と同じく知恵の神だから

 

新約聖書もだが、旧約聖書、ヘブライ神話は昔から気に入らん。どれも似たような話が他の神話ですでにある。それはメソポタミア神話やウガリット神話が有名だろう。どちらも読み物としては面白いが、あくまでも読み物としてだ。

ユダヤ教はゾロアスター教の後に出来た宗教。そして、旧約聖書には出エジプト記がある。

即ちエジプト神話トートがした事を拝借し、彼らはヤハウェとして記したのだ。要は元ネタがある。

もちろん旧約聖書、ヘブライ神話の歴史は古い。だがエジプト神話はもっと古い歴史だ

更に言えば、エジプト神話はギリシャ神話よりも古い歴史がある

 

『周知の事実だろうが。我々パンテオン、八百萬神も役割があるとはいえ、巨視系の事象に無力ではない。もちろん微視系の事象も無力ではない。ただし人間は別だ』

 

あまりにも話の脈絡がなく、内容が無茶苦茶で有名な【ポポル・ヴフ】のマヤ神話では 

 テペウ と グクマッツ と フラカン はマヤ神話の創造神であり、この三神が最初に創造した人類は、泥で創ったせいか喋る事も出来ないし、言葉や魂を持ってなかったので、失敗作の人類は滅ぼされた。

2回目に創造された人類は木から創造された。この人間は言葉を喋る事は出来たが、肝心の魂が無かった。

 

つまり人間にとって言葉とは、魂が無ければ何の意味も無かった訳だ。2回目の人類にも魂が無いせいか、神を称えたり、神を敬う事をしない出来損ないだったので、また人類は滅ぼされた。

が、イシュムカネーとイシュピヤコックの二神はトウモロコシからまた新たに3回目の人類を創造して、最初は魂が無かった人類に魂が生まれ、人間の言葉に意味が生まれた。

これはギリシャ神話の黄金時代から白銀時代、青銅時代へと続く神話と似たような話であり、似たような時代だ。ギリシャ神話の場合は人間に魂や言葉はあったがな。

 

はははははは! 

程度の違いはあっても マヤ神話 や ホピ族 の予言はまるで 枢軸時代 じゃないか

 

このマヤ神話と似たようなことを、アメリカ合衆国の先住民族であり、マヤ文明の末裔と言われるホピ族の予言はこうだ

 

『人類は過去で3回創造主に滅ぼされている。現在の人間の歴史は4回目』だと

 

創造主が過去に三度も人類を滅ぼした理由については、一応あるのだが。詳しい事は省く。

それで創造主、と言ってしまうと勘違いされるかもしれないが、ここでいう創造神、創造主は

ユダヤ教やキリスト教でいう主、ヤハウェの事ではない。

 

この話はマヤ神話や、マヤ文明の末裔ホピ族だけではなく、アステカ神話にも実際にあり

アステカ神話の場合の人類は4回滅ぼされている。アステカ神話があった前提ならば

5回目に創造された人類が彼女達、ミトコンドリア・イヴがいた時代の人間、だそうだ。

 

他の神話だと

北欧神話、ゲルマン神話の神々に創造された最初の人間の男女である アスクとエムブラ に

アース神族 ヴェー は言葉、言語を二人に授けた

メソポタミア神話の知恵の神である エンキ はエリドゥの主に知恵を授け、もともと一つだった言葉を変え、人間に争いを起こさせた

 

俺が言いたいのは、つまり【マリーの部屋】や

イギリスの神経学者 オリヴァー・サックス 著書の 火星の人類学者 で引用すると

『色は言葉による記憶でしかなかった』に近い

 

『知っての通り平成時代の人間は、微視系の事象についてなんとか、なんとか対処できる。だが、いくら科学を進歩させようと、人間は巨視系の事象には無力なんだよ。現状は、だが』

 

続いて俺の弘天、八意××の永琳という名は、自分ではなく親に名付けられた名だ

名というのは世界に存在する為の証であり、軛であり、呪いであり、悪魔と契約するより質が悪い一方的な契約でしかない。つまり『ヒュレー』 

だから永琳の××、俺の××は言葉や文字にとして観えないし、表現できないし、人間には××がなんなのか理解できない。

この名というものこそが、我々神々や、外国の神々、パンテオンが地球にいる為に、地球自身から課せられた軛の1つだ

 

『例えばミクロの系では起こった事でも、マクロの系でそれが当て嵌まるのかどうか、である。その逆も然り。つまり蓋然性だ』

 

 

この話をする前に。まずは平成時代の日本で使われている

【寛容】は元々【耐え忍ぶ】の意味に近かった事を踏まえてもらいたい

 

多神教優位論、という話がある

 

よく、多神教は他宗教に寛容。と思う者に

 

それはありえない。寧ろ多神教の方が寛容じゃない。と言う者がいる

 

正直、これは俺でも、神道や日本神話を知ってるからこそ否定できない部分が、あるにはある。

 

が、キリスト教徒に異端視され、迫害されても、キリスト教や他の宗教とも習合して生き残り

奴隷解放で自由になった【ブードゥー教】【カンドンブレ】【ウンバンダ】【サンテリア】などの宗教もあるんだ。

神仏集合した神道も似たようにシンクレティズム。要は折衷案、妥協。そして余計な思想が生まれたせいである

 

他と比べ、自分達は違う、自分達は優れていると優越感に浸り、強辯で自己を正当化し、自尊心を保つ。つまり遼東之豕

 

それを悪い事だとは言わない。そもそもこれは多神教だろうと、一神教だろうと。変わらない部分が、あるにはある。

ただ、元々、そんな思想は人間になかったのに、時代によってこのような思想が生まれたからこそ、そうなっただけだ。

 

有名なので、神道が他宗教に許容ならば物部氏と蘇我氏の争い、それ以降の神社と寺の争いも起きていない。とかが多いだろう

そもそも仏教の開祖である釈迦は、当時は蕃神と言われて、今で言う仏と見られてなかった。

要は仏陀、釈迦は今でこそ仏と言われているが、当時は他国から来た神の蕃神。そう見られていた訳だ。もちろん神仏戦争が起きたのは、当時の政治的な意味合いも、あるにはあるだろう

 

例えば古代メソポタミアのメソポタミア神話は多神教であり、古代メソポタミアには色々な多民族がいたが、彼らは他宗教の神でも 許容 だった。寛容ではない、許容だ。

まあ一応補足すると。神関係の争いが、全く、一度もなかった訳ではないのだが。争いが起きるのは当たり前である。争いの理由が、神に変わっただけに過ぎない

 

つまり古代メソポタミアは単一民族国家ではなく、多民族国家だった。多民族、という事は、自分達とは違う宗教や神があったのにだ。

この時代にはキリスト教は無かったし、神道と似て、当時はシンクレティズムだったんだ。

 

そして、多民族国家だった古代メソポタミアのメソポタミア神話は

日本神話や日本でいう 八百万の神 や 八百萬神 に負けず劣らず神々の名が 2000以上 もある

実際に、メソポタミア神話では、神の名が本当に 2000以上 あるんだ。

 

そもそも今ならば宗教と言えるが、彼らにとってそれは当たり前であり、宗教とは見てなかっただろう。宗教を宗教と観るようになったのは 西暦 からだし

いや。むしろ宗教を宗教と観るヤツらの方が本来おかしいんだ。

当たり前のことを、生贄や人身御供などを宗教だ異常だという目で見る奴らは特に

 

メソポタミア神話とその宗教は、人間の道徳面でかなり優れている。

哲学に関しては古代ギリシャ人が完成させている、が。

人間の道徳面では、メソポタミア神話と古代メソポタミア文明が完成させている。と言っても過言ではないかもしれん。

 

実際にあったのかどうかはひとまずおいて、こうして歴史を見ると中世の人間、現代の人間は

古代の人間より劣っている。唯一は科学や医学くらいだろう。

と言っても、その科学と医学も古代の先人たちが築き上げた物だ。所詮、先人達が残した借り物の後追いでしかない。

 

正に、nani gigantum umeris insidentes 巨人の肩の上。という言葉そのものだ

 

神を信じていた者達は優れていて、神を信じていない者達が劣ってるとは、実に皮肉だな

 

『巨視系の事象、微視系の事象、マクロの世界とミクロの世界も、同じではないのだ。

それについては時間の矢がいい例だろう』

 

メソポタミア神話、エジプト神話、ギリシャ神話、マヤ神話、ハワイの神話、ホピ神話、中国神話、アステカ神話などが有名だろうが、これらの神話では人間が滅ぼされる話が実際にある。

神々が人間を痛めつけ、人間を溺れさせ、人間を疫病で滅ぼす話が、これらの神話で本当に、実際にあるんだ。

しかしこれらの神話では人間を滅ぼそうと動いても他の神に止められてやめるか、滅ぼしても二人の男女が生き残ってしまうか、また新たな人間を創り直して創造する。が、基本的な結末である。

 

なにが言いたいかと聞かれたら、他国の神話をしっかり読んでみると

一部を除いて殆どの神々は。神を敬わない人間、神を信仰しない人間が大嫌いだし、ゼウスのように神を敬わず、堕落してしまった人間は全て殺して滅ぼすべきだと考えるのは神々とって当たり前、という話。人間にとっては下らない理由、または神って器が小さいと思うかも知れない

しかし神々にとってはそれが当たり前であり、重要な事だ。動物の人間が、お腹を空かせば食べたり、眠くなったら寝たりすることと同じくらい、神々にとって当たり前のことなんだ。

 

これを知って

神は人間を滅ぼしたり苦しめたりする存在だから、神を信じないし信仰しないし敬わない。

などとバカげた理屈を言う人間はおかしい。

 

というか一部を除いて殆どの神話の場合、神々が人間を創造して生みだしてるし、殺されても実際は文句が言えない。

神話において、神と人間は対等の関係ではないのだから。寧ろ喜んで神に殺されるべきだ。

即ち。全人類を滅ぼそうと思えば簡単なんだよ。いくら人間の科学が進歩しようと無理だし

だいたい科学と言っても、科学は自然がある前提の上で、初めて成り立つものだ。

その科学が成り立つ自然や法則などの前提を崩してしまえば、科学なんて所詮ゴミだゴミ

いや、何の役にも立たないからゴミより価値がない

 

そもそも神話に出てくる人間や半神ならいざ知らず、ただの人間が神に勝つなんて

デウス・エクス・マキナ。機械仕掛けの神そのものじゃないか。ただの人間が神に勝つ…

なんともバカげた考えで、自惚れで、身の程を弁えない烏滸がましい連中なのだろう。

竜の髭を蟻が狙う、だ。勝てる訳が無いのに

 

神話に出てくる神々に対し、人間は科学で勝てると思ってる奴は、しっかり神話を見ず、流し読みでまともに神話を読んでない奴らだけだ。

 

なにせ殆どの神話の神は不老不死ばかりな上に、神話を読めばわかるが世界、地球を滅ぼそうと思えば何度も滅ぼせた連中なのだぞ。神話に出てくる武具だって、どれも強力すぎる代物ばかりだ。

それは有名なのでゼウスの雷霆や、紫と幽香に持たせたインド神話のインドラの矢、トリシューラやパスパタがいい例だろう。他にもたくさんある。

 

ただし日本神話の武具は、破壊力がない。三種の神器などがそうだ。その代り、日本神話の武具は呪い方面ではかなり強力。

実際、古代日本人が特に恐れていたのは呪いや祟りなんだ。この呪いや祟りは疫病なども該当する。

それは平将門の怨霊や、殺した相手から呪いに蝕まれるのを恐れた大和朝廷が、死んだ相手を鎮め、弔うために建てた隼人塚とかが有名だろう。

 

 

 

本殿に向かう為、まずは神社から出ようと玄関に向かっていたら、目の前から女の声が聞こえ、誰もいなかったはずの廊下で霧が晴れていくかのように女は現れた。

 

「産土様。コンガラ様を発見しました」

 

跪いているのは、光学迷彩を使用していた俺直属の甲賀忍者部隊筆頭、望月千代女だ。

諏訪子が千代女にコンガラを探すよう命じた、と早苗をあやしていたとき諏訪子自身から聞いている。

 

「場所は」

 

「出雲大社です」

 

「よりにもよって出雲か…」

 

彼女は昔から方今音痴な所もあったが、出雲阿国じゃあるまいしなぜ今回は出雲なのだろう。

蝦夷地にいたり琉球王国にいたりと、昔から彼女だけは読めない…

 

出雲と言えば、スサノオから譲り受け、今は俺の神使になっているが、元々ナズーリンは大国主の神使だ。

大国主の神使になったのは気まぐれと言っていたが、この話を聞いたらナズーリンはどう思うだろう。

 

「序でだ。『出雲国造』に大国主の現状、大国主に使った注連縄の状態はどうなっている」

 

「現在の出雲国造は分裂しておらず、大国主様は封印されたままです。大国主様を封印するために使った注連縄も、今は特に異常はないと、出雲氏が仰っていました」

 

なるほど。さすが出雲氏の注連縄と言いたいが、彼女はどうするべきか。後ほど念話で輝夜に頼んでおくか。今頃、近畿地方から九州地方までの僧兵を皆殺しにしているだろうし

僧兵がいる鰐淵寺もそうだが。出雲大社とて、例外ではない

 

「鎌倉は」

 

「鎌倉につきましては、征夷大将軍となった源義仲様は無事、鎌倉幕府を設立し終え義仲四天王、巴御前様。諏訪盛澄様も義仲様を支えております」

 

「そうか。ならば承久の乱と北条時行だな。あ、南部重清はもう産まれてるのか」

 

「いえ。まだ産まれておりません」

 

目の前にいる望月千代女は、一度死んだ

 

諏訪氏の金刺盛澄、望月千代女、甲賀三郎、源義仲、巴御前、熊坂長範、中原兼遠、海野幸親

全員、一度死んだ。死んだだけだったので、蘇生は布都に頼んだから簡単だった。

が、何故死んだのか。その原因は不明。永琳は薄々気付いているだろうが、俺はそれをまだ聞いていない。

 

肝心なのは、この者達が寿命で死んだわけではない。という事だ

 

ふはははは…はーっはっはっはっ!!

……本来、源氏、諏訪氏、望月氏、中原氏、海野氏には、寿命がないのにな

 

古代中国の儒学者 季路 は儒家の始祖である 孔子 に死について聞くと、孔子はこう答えた

『未だ生を知らず、焉んぞ死を知らん』

 

とはいえ、一度死んだという事は、気持ちよく寝ている所を叩き起こしたようなもの

俺も寝ている所に叩き起こされたら、いい気分には、ならないだろう。だから謝罪した。

 

「寝ている所を叩き起こして悪かった」

 

「いいえ。私達は産土様の為に生きているのです。死のうと生き返ろうと、それは変わりません」

 

「そうか。ならば、萃香達に頼んで望月氏の城を建ててやろう。城名は望月城でいいか」

 

甲賀忍者部隊には、にとりたちが作り上げた光学迷彩などを与え、色々動いて貰っている。

信賞必罰。与えられた役目を務め上げた者には、それなりの褒美を与えなければならない。

 

「…不遜を承知で申し上げます。我ら望月は、御身の名の一部を頂きたいと存じます。

……よろしいでしょうか?」

 

望月千代女は今まで跪き、顔を上げずに俯いて俺と会話していたが、聞くために顔を上げ、不安げな表情で聞いてくる。断る理由なんて元からないので頷く。

頷いたのを確認した望月千代女は、ほっとした面持で俺を見上げたまま城の名を言った

 

「城名は『天神城』」

 

 

 

 

 

この世界は因果的に閉じられている。それは因縁果とて同じ事だ

 

 

アイルランドの哲学者 ジョージ・バークリー は言った

 

『存在することは知覚されることである』

 

知覚、と言っても、これは触れる事が出来たり、人間の視界に映るなどという視覚的な、物理的な意味ではない

語弊を招くかもしれないがクオリア、感覚の事ではなく、知覚とは、体験や影響の事だ。

知覚と感覚、アイステーシスとクオリアは似ているが、同じではない。

さっき言った俺と永琳の名がいい例だ。まあ俺はドクサ、知覚されなければ存在しない、とまでは言わない

 

先程も言った名だが、我々には本来、名はないんだ。俺の弘天や永琳の名は源氏名みたいなものであり、都がまだ地上に、地球にあったとき親から名付けられた名だ。

したがって、永琳や弘天、永琳の××や俺の××は名であって名ではなく、だからと言って

××が本名という訳ではない。つまり俺と永琳はアーカーシャである。ようは何者でもない

 

即ちこれは、神様や仏様、宗教の思想を信じてるのか、信じてないのか、の話ではない。

宗教の道徳、思想の影響を受けているのか、いないのか、である。これはとても大きな違いだ

 

 

15世紀から16世紀のスコットランドでは【ソニー・ビーン】というのがいた

人を殺して人肉を喰っていた人物だ。ソニー・ビーンには妻がいて、その妻は多くの子を産んだ。

産まれた子供達は成長すると、子供達同士で近親相姦を繰り返し、また多くの子が産まれた

 

近親相姦すると奇形児の子供があーだこーだという者はいるが、若い女性はともかく

近親相姦して産まれてくる子が奇形児になる確率は、高齢の女性が赤ん坊を産む場合と同じくらいなんだ。

一世代や二世代くらいならばあまり問題ない。

近親相姦で問題なのが、4世代5世代、更にどんどん続けていくと、産まれてくる子が奇形児、障害持ちになる確率が上がる、という話だ。

 

それで有名なのは ハプスブルク家 だろう。

幸いなるオーストリアよ。この言葉も、今や皮肉だ

 

つまり、近親相姦で奇形児や障害持ちの子が産まれてくるからやめろ。と言う者がいるならば

奇形児や障害持ち子が産まれてくる確率が同じくらいの高齢出産も、本来やめさせるべきなのだ

それに。平成の日本では、近親相姦そのものを取り締まる法律は現状制定されていない。

そもそも近親相姦しなくても、そういった子供が産まれる場合もあるんだ。

 

結論として、日本は近親相姦を法で禁止にしてないんだなこれが。まあ当然、近親相姦と言っても無理矢理はダメだし、未成年に手を出したら捕まる。

が、日本では文化的にタブーでも、兄妹、姉弟などが成人して性行為をしても捕まる事はない。

当たり前だな。元々、日本は性におおらかだったんだから。

 

嘗て白人に支配されていた黒人が、黒人の血を絶やさないため実母と性行為した時代も、あった。

要は、家族だろうが、身内だろうが、血が繋がっていようが、発情は出来るんだよ

 

メソポタミア神話のエンキは実娘、その娘と関係を持って産まれた孫娘、その孫娘とも関係を持って産まれた、曽孫娘にも手を出して孕ませてる。更にその孫娘の娘にも手を出しているんだ。

娘、孫娘、孫娘の娘に、エンキは手を出して孕まして、産ませているんだ。

ギリシャ神話ゼウスも実娘に手を出しているが、こうして見るとあのレイプ神でも、エンキよりはマシだと思ってしまう程である。

 

ただ有名だろうが、人間以外の動物で近親相姦する動物は、自然界でかなりいる。

というより見境がない、が正確な言い方だろうか。

人間は理性があるとか、本能的に避けるものだ。などを何とかかんとか言う者もいるが

それは人間という動物を定義付け、人間以外の動物をケダモノと見下しているだけだ。

 

つまり神を信じたり、どこぞの宗教に入信する=信者という訳ではないし

神はいないと否定したり、どこの宗教に属さない=無宗教という訳ではない。

だがまあ、それは無神論ではあるだろう。

 

神を信じるとか信じないとか、信仰するとかしないとかはどうでもいい。どうでもいいんだ。

肝心なのは、宗教の影響を無意識に受けている事だ。信じる信じないの話ではないし、今はそれが重要じゃない。人間が潜在的に宗教の影響を受けている時点で、既にこの話は終わってる。

 

何故なら、宗教とは神がいて成り立ち、そして人間の道徳、論理、価値観などは長い時間をかけて宗教で培ってきたんだからな。もちろん宗教で全てを培ってきたとは言わない。

本当の意味での無宗教とは、本能のままに生きる動物の事である。

 

古代ギリシャの【テレゴニー】がいい例だ。テレゴニーの話があるギリシャ神話があったから

古代ギリシャ人にはテレゴニーの考えがあった。神話の影響を受けたからテレゴニーがあったんだ

 

日本も例外ではない。ただそれが当たり前になって、気付いていないだけなんだ

 

古代ギリシア人の哲学者達も例外ではない。まず神話があり、次に古代ギリシアにはオルペウス教という宗教が生まれた。正確に言えば生まれたというより、そこにもうあったが正しいか。

まず神話、次に宗教、その次はヒマにロゴス、そしてテロスが生まれた訳だ。10は超える古代文明にも言葉や文字などはあったがな。

古代ギリシア人は全て奴隷にやらせてたから殆ど暇人だった。だから、あそこまでの哲学と科学、芸術や音楽が生まれたんだろう。だがその哲学も、ギリシャ神話やオルペウス教などをベースとして古代ギリシア人にロゴス、ディベートでディアロゴス、テクネーが生まれた。

 

医学に関しては古代ギリシャよりも、古代エジプトの方が優れている

アーキテクチャに関しては、古代ギリシャより古代ローマの方が優れてる

 

ギリシャにはデルフォイの神殿、アポロンの神殿というのがある。ここにはピューティアー、要は日本でいう巫女がその神殿にいて、その巫女、シビュラから神の神託が聞ける。

デルフォイの神殿で聞ける神託は絶対であり、古代ギリシャ人はそれを信じていた。

つまりだ、これは表現の違いなだけで、日本で言う神社、神や巫女と似た場所であり、似た関係だった訳だ。

これに関しては古代ギリシャの哲学者 ソクラテス の友人 カエレポン がデルポイ

デルフォイの神殿で、ソクラテスより賢い人間はいるか。という問いに対し、デルフォイの神殿にいた巫女が神託で、ソクラテスより知恵あるものはいない。と言ったのがいい例だろう。

まあ。これに関しては日本やギリシャ以外でも神託や神勅は結構ある

 

古代ギリシャの哲学が再評価されたのは中世からだ、そもそもそんな事になったのは

古代ローマ帝国にいた当時のキリスト教徒と、ヒュパティアという女性哲学者が原因の一つなわけだが

 

嗚呼…私はディオゲネスになりたい……

 

 

 

 

 

 

神社の本殿の中にいる俺は、胡坐をかき、右肘を胡坐をかいている右膝に置いて、右手で自分の右顎を押さえながら欠伸をしていた。

本殿内で対面しているのは正座して顔を伏せている豊聡耳神子、物部布都、蘇我屠自古だ。布都と屠自古は神子より後ろの両脇に控え、神子は二人より前に出て対面。

俺が帰ってきたら神子達から話したい事があるらしいと諏訪子に聞かされ、大和朝廷の政治に携わっていた神子達が、諏訪国にいる経緯を聞くために神子達を呼んで俺はこの場にいる。

 

「比売大神の八意様、苗裔神の諏訪子様、既に二柱へお伝えしているのですが。経緯はそう言う訳でして、私達は世間から死んだ事になっております」

 

神子が言うこの比売大神、苗裔神という名。永琳は俺の妻なので比売大神、諏訪子は俺と永琳の娘なので 苗裔神 と呼ばれている。諏訪子の場合は御子神ともいうが。

 

「天津神と国津神に聞かされてるから大凡は把握している。分かった、3人が諏訪国で過ごすなら好きにしろ」

 

本当は最初から知ってたから天津神と国津神から実際に聞かされてない。神子達はこの話を永琳と諏訪子には前に話しているが、その時は俺が不在だった。だから諏訪国に帰って来た俺にもう一度その話をしようと3人は来て、改めて話している。

 

「はい。ただわかさぎ姫については厚かましい事かと存じますが、何卒。わかさぎ姫に危険が及ばない様に保護をお願いします」

 

「わかさぎ姫って人魚だったお蔭で神使に出来たし、俺の神使にした以上はちゃんと保護して守るから安心しろ。萃香、天狗達、影狼もいるしな」

 

神子は正座したまま感謝の言葉を口にしながら頭を下げるが、この三人は元々大和朝廷の政治に携わっていた者達だ。

神子、布都、屠自古が諏訪国に住む許可と、諏訪国にある諏訪湖でわかさぎ姫を萃香、天狗達、影狼が守る代わりに3人には諏訪国の政治を任せる事になっている。

俺は政治なんて面倒だからしたくないし、俺より有能な者が政治をするべきだからだ。まあ支配権や決定権は俺にあるんだが、面倒なので全部この三人に丸投げして任せる。

日本神話や天皇関係以外で働きたくないし

 

「ありがとうございます。これで肩の荷が下りました」

 

神子は安堵した表情になったのも束の間、神子の脇に控えていた布都が伏せていた顔を上げ、なんというか、キラキラした目で俺を見ながら唐突に口を開く。

 

「感謝しますぞ諏訪大明神。話は変わりますが、諏訪大明神は好色家と聞いておりまする。我ら 三人を夜伽に命じる時、閨に呼ぶ際はいつでもお申し付けくだされ。身を清めて向かいまする」

 

俺を見てはにかみながら言う布都を見てある言葉が想起された

イギリスの劇作家、クリストファー・マーロウの言葉に

『最初の一目、機会で恋を感じないなら恋というものはないだろう』という言葉だ。

しかし、俺はこの言葉に異を唱えたい。目を瞑って顎を支えていた右手を頭において言う。

 

「…あー 物部よ」

 

「物部とは他人行儀な、布都とお呼びくだされ。我らは婚姻を結んだ夫婦ではありませんか」

 

異を唱える前に婚姻を結んだことを布都に言われて思い出し、喉に出かかった言葉を無理矢理飲み込む。

物部氏はニギハヤヒの神裔だ。つまり天皇と同じく寿命で死ぬ事はない。

婚姻と言ってもニギハヤヒがした事なんだが、物部氏である布都は自分の氏神に逆らう事は出来ないし、逆らう気がそもそも無い。

布都とニギハヤヒ、神子の狙いは物部氏をまた再興する事である。だからまずは子供を産まねば話にならない、という事で、ニギハヤヒが俺と布都の婚姻を結ばせた、らしい。

 

「死んでいた筈の我が姉上を諏訪大明神に仕える神長官として匿っていただけたのです。受けた恩を返さねば物部の名に傷が付きまする」

 

正座しながら感謝の意を表す為に深々と頭を下げる布都を見ながら内心で否定する。

違う、物部守屋は必要だったから諏訪国へ匿ったに過ぎない。必要だったから匿ったのに恩を感じられても困るのだ。

俺が何を言っても無駄だと悟り、ニコニコして話を聞いていた神子と、どうでもいいといった表情で聞いていた屠自古へ助けを求める

 

「神子に屠自古も何とか言ってやってくれ」

 

「姉妹のパルスィが煩いですが、お望みとあらば私は構いません。そもそも私は洩矢神と比売神にわかさぎ姫を保護して下さるなら、私自身を差し出しますと言いました」

 

「私は神子に従います」

 

…コペルニクス的転回が起きるかと期待して頼みの綱を使ったが駄目だった。

右手で頭を掻きながら思うが、昔からこの三人に対してはどうも苦手意識がある。

嫌いではない、どう接したら良いかが分からないのが正直なところか。

だから神子、布都、屠自古が閨へ呼ばれて抱かれても構わないと言われても、俺としては反応に困る部分が内心では大きく占めていた。

そんなこと言ってうだうだ建前を並び立てても、神子、布都、屠自古の三人は美人だから閨に来るなと言えないので文句の付け様が無いし、俺としては三人とも閨に呼んで結局抱くから、我慢しろと言われても禁じ得ない上に、抱いても構わないと言われて内心では狂喜乱舞しているのは然もありなん。

ただこの時代では別に普通の事だが、布都は少し幼すぎる。いや諏訪子や萃香にも手は出すけど、布都はもう少し後だな。

 

話を変えようと右手の掌で膝をパンと叩き、三人に大事な事を伝える事にした。それを聞いた神子が布都と屠自古の代わりに聞いて来る。

 

「そ、それよりもだな! もう少ししたら一時期だけ源氏名として名を変えようと思ってるんだ。その時はその名で呼んでくれ」

 

「御身の名を変える…どのような名でしょう、承りたいです」

 

俺は天神であり、海神であり、雷神である。まあ俺は他にもあるのだが

諏訪国には天、海、地の三柱が揃っている。

地神は苗裔神の諏訪子、海神は神奈子と依姫、そして天神は俺なので

 

「天海」

 

名を伝えると、承りましたと言いながら三人は平伏する。

神子達の話や俺の話は終わったので、神子達はいつも通り諏訪国の政治をする為、失礼しますと言いながら三人は本殿から出て俺一人になる。

胡坐をかきつつ背を伸ばすが、かったるい。こんなの俺の性に合わない。

 

立ち上がって本殿から出て、鳥居から神社へ続くように咲き、意思と妖力を持ってる西行妖と遊んでいる白蓮と幽々子の元へと向かう。

 

 

どこぞの宗教家が嘗てこう言った

 

アウトピストス。私達人類はアダムとイヴの子孫…

つまり人類皆兄弟! 白人は兄で黒人は弟である!

 

などと意味不明な供述をしており。

 

これを言い出してからおかしくなったんだ、アダムとイヴは全人類の始祖ではない。

旧約聖書に基づけばアダムとイヴはユダヤ人、ヘブライ人だけの始祖だと言うのに。

ミトコンドリア・イヴの誤解はこれが大きいだろう。

イヴという名のせいで誤解や勘違いが広まったミトコンドリア・イヴみたいに

どいつもこいつも、その言葉や文字のイメージだけで語る奴が多い。

 

西洋宗教がよく謳う、神の前では皆平等。がある

全ての人間に平等なんて旧約聖書のどこにも書かれてないのにな

強いて言うならば。ユダヤ、ヘブライ人だけに平等なのがヤハウェだろう。

 

次にアポリアとアナムネーシス、フィロソフィアだ

 

元始はパンテオン、次にプシュケー、インドではプラーナだったか。そして正教会の永遠の記憶

吾らは日本神話であり、××神話の存在である。

××神話といっても、要するに日本神話と××神話は、ギリシャ神話とローマ神話みたいな関係だ。

ただしこの××神話はまだ終わってない

 

俺が死んで、永琳は最高の肯定と回帰をした。それを神綺とサリエルから聞いたら、昔こんな事を永琳が言ってたらしい。

 

『人は常に初恋に戻る。人間の誰かが言ったこの言葉、私は好きよ。だけどね神綺、サリエル。

いつだったか、別の人間はこうも言ったわ』

 

『愛してその人を得ることは最上である。愛してその人を失うことはその次によい。こんな言葉があるけど』

 

『私は失うなんてイヤ。エジプト神話のオシリスがセトに殺され、妹で妻でもあるイシスがオシリスの死体を集めて蘇生させたように。私達は神様だからワガママなの。神奈子、青娥。お願い』

 

××。永琳は神綺とサリエル、神奈子と青娥に頼んで最高の肯定と回帰をした

俺はこの事象を人間に説明できない。説明しようにも意思疎通する為の媒介である言語の限界が生じているからだ。

何故かは知らないが、永琳が手を尽くしても死んだ俺は蘇生できなかったらしい。

 

だが。永琳がした事を強引に説明するならば、なんと言えばよいのか……

しっくりくるので言えば古代ギリシャの哲学者 プロティノス の【一者】か【ト・ヘン】に近いだろう

 

 

 

本殿を出て境内へ。境内にある西行妖の元へと到着すると、地面には桜の花弁が埋め尽くされて一面白色やピンク色。

 

掃除が大変だと思いながら近くの西行妖に近づき右手を当てる。右手を当てるとその西行妖の枝が動き出して数秒経つと、俺の両隣に枝に乗っていた白蓮と幽々子を連れて来てくれた。

白蓮は数本の枝に腰掛に座るようにして足を下ろし、幽々子はベッドで寛ぐかのように数十本の枝の上で仰向けで寝ていた。西行妖め、至れり尽くせりじゃないか…

 

幽々子はハンモックみたいになってる枝の束に支えられながら、風に煽られつつ快適そうにし、さっきの銅像、映姫の話をする。

 

「あの銅像スゴイ綺麗だよねー。本当に動き出すの?」

 

「動くぞ。幽々子はギリシャ神話の神裔、ピュグマリオンは知ってるか」

 

映姫、と言えば、閻魔や閻羅王は有名なのになぜ倶生神が有名じゃないのだろう。納得できん

十王よりも倶生神の方が重要な役割だろうに、浄玻璃鏡にそのイメージが食われてしまって悲しいものだ。

 

他に地獄へ関係あるのは菅原道真、醍醐天皇、源公忠、平頼綱、インド神話のガヤとアルジュナ、インドにあるボロブドゥール遺跡、ヤズィディ教のマラク・ターウース、スペインのデイデ山、

ギリシャ神話やゼウスと関わりが深いゾロアスター教のアラストル

ゾロアスター教のアストー・ウィーザートゥ

テュルク系民族の神話ケサル王伝、日本の妖怪である憂婦女鳥、地獄に生えているイスラム教の

樹木ザックーム、イスラム教のイブリース、イスラム教の堕天使ハールートとマールート

ケルト神話のアラウン、リトアニア神話のピクラス、ドゥアト。天狗や鬼もそうだがこれらのように地獄へ関係するのは結構ある

 

知ってるのだけでも挙げると、思った以上に地獄に関係するのがあった。いくらなんでも多すぎるんじゃないだろうか…

地獄や天国の考えはゾロアスター教だが、餓鬼などの考えは元々ヒンドゥー教だし

 

あと中国の詩人である李賀もそうだった。

彼が死んだ後、冥界に天帝が建てた白玉楼へ李賀は行ったんだったな。

冥界関係でいつも思うのはエジプト神話は冥界関係の神が多すぎることだ…

 

しかし閻魔と言えばやはり大威徳明王、 ヤマーンタカ。 ヤマーンタカはヤマ、閻羅王を殺すものと言われてるし、ヤマーンタカは菅原道真とも関わりが深い。

 

菅原道真が地獄に関係してるのは、こんな話があるからだ。

 

菅原道真は死後に太政威徳天神へとなったが、現世で急死して浄土と地獄を巡り巡っていた

平安時代の僧である 日蔵 という僧と共に地獄で苦しむ醍醐天皇を見たら日蔵が生き返った、という話がある。

つまり菅原道真も平将門と同じく地獄の関係者である。

 

……どういう訳かこの醍醐天皇、菅原道真、源公忠、日蔵という僧も含め、この時代は地獄に行く話が特に多い。

 

「んーん。まったく知らない」

 

「そうか。 ピグマリオン効果 という言葉があってな、そのピュグマリオンからきている言葉なんだが」

 

幽々子は知らないと首を振るが、俺のしていることはぶっちゃけギリシャ神話ピュグマリオンのリスペクト、またはオマージュだ。

……パ、パクリではない。断じて違う。これはリスペクトやオマージュだ。

パクリ、リスペクト、オマージュの意味まったく別の意味である。これの区別がついてない者は結構多い

 

「ピュグマリオンは彫刻家で、天皇や幽々子と同じく神の子孫、神の血を受け継ぐ神裔でな。才能豊かなんだが、ある事情で現実の女性が嫌いになるんだ」

 

「ふーん。おじさんと真逆の人なんだね」

 

否定できないので言葉に詰まったが、幽々子が言った事を咳払いして流し、そのまま続ける

 

「彼は自分が彫刻家というのを活かし、理想の女性を彫刻で作り上げ、大理石で出来たその彫刻を心から愛した」

 

「ピュグマリオンは人間の女性と同じ彫刻、大理石を人間として扱ったんだ。大理石で出来てる彫刻だから動かないし、食事もしないし、言葉を交わせなくてもだ」

 

これは一種のヌミノーゼ。信じる、なんとも楽な行為だ。ただ信じるだけで願いが叶うならなんと楽な事か。別に彫刻が人間になると信じ続けるのを否定する気は無い。しかしながら、信じていれば願いが成就するなんていうのはおかしな話である

オチとして機械仕掛けの神があるが、これが正にそうだ

 

ただの人間が信じるだけで神が人間の願いを叶えるというのでは ピグマリオン効果 は出ない。

なにかそれ以外の、願いを聞き届け叶えてくれる存在が出てきてもおかしくない要素が必要なのだ。

例えば、天皇と同じく神の血を受け継ぐ神裔という要素があれば、ピグマリオン効果は出る。

 

「愛してやまない彫刻が人間になるようピュグマリオンが毎日願い続けると、愛と美と性の女神アプロディーテーがその願いを叶え彫刻が人間になり、彫刻をガラテイアと名付けてお終い」

 

本当はそれで終わりじゃないのだが、説明としてはもう十分だろう。

 

「その神話から、誰かが期待する事により、相手もその期待に応える事からピュグマリオンの名にちなんでピグマリオン効果という心理学用語が出来たんだ」

 

人間の願いを女神が聞き入れたという話で語弊を招くかもしれないが、ただの物に命を吹き込むなんてのはそこら辺にいる人間には出来ないし、その願いをそこら辺にいる人間がしても叶わない。

何故ならこのピュグマリオンは神話に出てくる人間で、しかもピュグマリオンは神の血を持つ神の子孫、神裔だからである。

 

分かりやすく一言で説明するなら、ピュグマリオンは日本でいう天皇と同じ存在な訳だ。

ピュグマリオンも神の子孫だから間違ってはいないだろう

 

ピュグマリオンは神話に出てくる人間、しかし厳密に言えば人間でもあり、神裔でもある、というのが正しい。

神話に出てくる人間なので、ただの人間ではないのだ。だからこそ、ギリシャ神話のアプロディーテーはその願いを聞き入れて叶えている。神の血を受け継ぐ子孫だからだ。

ただの人間の願いを女神が聞き入れ叶えるという話ではないので、勘違いしてはいけない。

神裔なら話は別だが

 

話が長かったかと隣にいた幽々子を見たが、俺を見上げて見ている幽々子は呆れ顔だった。

 

「……なんか、男の人の妄想が具現化した話だね」

 

…まあ古代ギリシャ人やギリシャ神話に出てくる人間は、想像力豊かでナルシストが多かったし。幽々子の感想も間違ってない。

 

「神話に出てくる人間や枢軸時代の人間も知能は高かったが、その部分だけ変わってない事が分かるな。おいで白蓮」

 

「うん…」

 

長話したせいか束になった枝に座ったまま眠たそうにしていた白蓮に両手を使って地面に下ろす。

 

無知は罪ではないが、アイデア、という言葉がある。アイデアと言うと綺麗に聞こえるが、結局の所アイデアというのは無知と無自覚から生まれた産物だ。

閃き、アイデアとは以前から使われていたのかを知らないか、またはつまらないので誰にも使われてないかのどちらか。

結局のところ、未来の人間がしている事は、シュメール人や枢軸時代、先人達の後追いでしかないのだ。

自分が考えたアイデアだ、と綺麗な言葉を捲し立て上げようと本当の意味でオリジナリティーに溢れていない。

 

科学の知識を創作物に使ってる時点でも言える。先人たちが築き上げた産物、定義を用いる時点で

その創作物は科学のリスペクトであり、オマージュであり、二次創作だ。

 

本当の意味で、オリジナリティーとは、言語の限界をなくす事にある。

 

当然これは

地獄、天国、極楽浄土。天界、魔界、前世、来世、輪廻転生。神、仏、妖怪。天使、悪魔、魔女。精霊、妖精。魂、怨霊、英霊、成仏、僧が葬儀に関わるきっかけになった道教と儒教の先祖供養

 

宗教の思想を創作物に取り入れた時点で先人達の後追いで真似事で借り物

そして宗教の思想に影響されている創作物の全てに言える事だ。

例え宗教ではなく科学を使っても同じ事が言える

 

宗教、科学、医学。音楽も美術も先人達が築き上げた。その築き上げた概念を使ってる時点で

派生、二次創作。もはやオリジナリティーではない。

オリジナリティーとは。言語の限界を無くす事なのだ。

 

ある場所へ向かう為に石段を下りようと、石段まで歩きながら映姫の銅像を横目で見て思い出す。

あれは、日本がアメリカに降伏した後の、戦後だったか。

 

「…是非曲直庁、裁判官。そういえば、極東国際軍事裁判。東京裁判があったな」

 

石段に到着し、一つ一つ石段を下りながら思った

日本で一番偉いのは誰かと聞かれたら

 

「天皇じゃなくて大統領だよなぁ。まあ不敬罪の恐怖政治はもう勘弁だが」

 

石段を下り終え、そのまま歩いて民の様子でも見ようと向かうが、誰かが右袖をくいくい引っ張ったのでそちらに顔を向けると、俺の隣にぴったりと付いて来ていた白蓮がとびっきりの笑顔で俺を見上げながらお願いする。

 

「氏神様、頭撫でて」

 

「おう」

 

右隣にいた白蓮の髪が乱れないよう丁寧に、優しく右手で頭を撫でる。白蓮の髪はストレートなのだが、さっきから白蓮の頭を撫ですぎて白蓮の髪がくせ毛や寝癖みたいに少しぼさぼさっとしている。後で髪を梳いてやらねば。

映姫の銅像に俺の神気と神力を送り込んだ時、譲歩して後でして欲しいこと全部してやるといったからだ。さっきから白蓮にあれしてこれしてと言われ俺はそれを聞いているのだが、白蓮の頭を撫でるのはこれで何度目なのか忘れた。

白蓮と立ち止まって白蓮の頭を撫でていたら、左隣にいた幽々子が喋る。

 

「どこ行くの」

 

「萃香達が建てた寺子屋に行く序でに逍遥だな」

 

久しぶりに民の様子を見るため鎮座していた神社から降りて来たが、一緒に来た幽々子は世間話している民や、甘菓子食べたり酒を飲んで騒いでる民、秋なので実った冥加の作物を収穫する民や、名馬を世話して忙しなく動いている民を見ながら聞く。作物を見た感じ今年の秋は豊作のようだ。まあその作物は冥加、つまり信仰心によって神から受ける加護だから、豊作なのは当然なのだが。諏訪国の民って狂信者しかいないし。

 

俺は寺子屋に行く為、白蓮と幽々子を連れて逍遥していた。

幽々子は俺の左手側から一緒に歩き、白蓮は俺の右隣を付かず離れずに付いて来てる。

 

「氏神様」

 

「うむ」

 

こんな民達が行き交う往来のど真ん中で、右手側にいる白蓮は恥ずかしげもなく俺を見上げなら言うと、俺は腰を下ろして両手を白蓮の腰に回して抱きしめる。序でに白蓮の頬と俺の頬を合わせて頬擦り。まだ子供だから頬はもち肌だ。

髪も腰まで伸びてるので白蓮の髪に右手を突っ込み櫛のように梳かすとメス特有のいい匂い。もしかしたら俺は神だけに髪フェチなのかもしれない。

まだ子供だから身長は低いが、目線を白蓮の胸にやったらかなりの速度で成長してきている。その視線に気づいた白蓮は何故か少し嬉しそう

 

「ふむ。中々育って来てるじゃないか。将来有望だな白蓮」

 

「本当? 私も比売神様みたいに出るとこ出てる体型になれる?」

 

「永琳みたいな体型か…白蓮なら永琳を越えるかもしれんぞ。とりあえず揉んでみよう」

 

白蓮は視線を自分の胸にやり、両手で自分の胸を触って将来の体型に期待する声を出す。

一度どんなサイズと思い右手を白蓮の胸に当てて揉む事にした。

 

「氏神様くすぐったい~」

 

白蓮は俺に胸を揉まれても全く恥ずかしがっていない。

なんか凄い笑顔で、しかもキャーキャー言いつつ白蓮は嬉しそうに両手を俺の体から頭に回し

俺の頭を抱きしめてきたので自然と俺の顔は白蓮の胸へと吸い寄せられるが、驚いた。胸の大きさと成長速度に

 

「ば、バカなぁ…! まだ子供なのになんだこの成長速度は……!?」

 

俺の掌でなんとか収まる大きさとは…着やせするタイプなのだろうか。まだ子供なのに。

あの永琳でもこの年頃の時は胸なんて皆無だったぞ。当時の永琳の胸は壁だったよ壁

 

このまま行けばどうなるのだろう、ばいんばいんまで行くのだろうか。

何て事だ、最高じゃないか! まだ子供なのに末恐ろしい。

 

しかも幽々子、命連と白蓮さえも。俺達みたいに老化しないんだ! 

嗚呼、世界が輝いて見える…生きるとは、なんて素晴らしいんだろう。ありがとう神様……

 

って神様オレじゃん!

 

左手で白蓮を抱きしめ、右手で白蓮の胸を揉んで会話していたら、隣にいた幽々子が俺の背中を掌でぽんぽん叩いたので首を回すと左手の人差し指で指しながら聞いてくる。

 

「ねーねー あそこに凄い大きなウメの木があるよ」

 

「ああ、幽香が成長させて咲かせた巨木だな」

 

その巨木は、諏訪湖近くの盆地にある。今は秋でも未だに咲き乱れ、風に揺られて花弁が散っては咲いての繰り返し。

円環時間現象の、死と再生の神である神奈子がしているんだろう。神奈子は意識的にしてないだろうが…

 

ウメの巨木と幽々子を見ながら思い出した。あれは、春が終わらなかった時だったか。

その時にどこぞのスキマ妖怪、賢者が言った。力とは、智恵であると。

この考えは古代インド哲学や、古代中国哲学ではない。古代ギリシアの哲学者寄りの考えであり

イングランド、イギリスの哲学者 フランシス・ベーコン の格言である、知識は力なり。だ

 

「そっかー。おじさんはウメが好きなの?」

 

「まあウメも綺麗だし、大好きだ」

 

「私はウメも氏神様も好き。氏神様のことを考えてるとね、どきどきするの!」

 

「…そうか。俺も白蓮のこと好きだぞ」

 

両手を白蓮の両脇にやり高い高い。満面の笑みで言う白蓮を見て、あれはいつだったか…もう覚えていない。

まあ永琳はこんな事を言っていた

 

『弘は、人間がいう恋ってなにか知ってる?』

 

『…いや知らない。じゃあ白蓮と幽々子を愛でに行くから俺はこれで失礼をば…』

 

この話は長くなりそうだから逃げようとした俺に、永琳は諏訪子と紫と幽香を呼び、剰え神使の影狼と文とはたてと椛に命じて俺を取り押さえ聞かされた。

 

永琳が言った事をかなり簡潔に纏めると

 

人間が言う【恋】というものは、体内にあるニューロペプチドが受容体と結合するのが発端。

それで生じるフェニルエチルアミンという化学物質が恋をした時の胸の高鳴り、つまり恋をした時に起きるドキドキが作られ、そのドキドキが心臓の動きの促進して感受性を高め、免疫システムが強化されて身体は健康になる。とかなんとか

 

『昔から人間が恋をすると心も体も綺麗になるって言われるのはそういった理由ね。まあ…これは余談で人間の話』

 

『だから白蓮と幽々子は今よりもっと美人になるわ。絶対に。…よかったわねぇ貴方? 幽々子、特に白蓮は胸も将来有望よ。この浮気者…』

 

『…××、永琳。とりあえず俺を睨むのをやめて縄解いてくれないか』

 

永琳は最後に余談を付け加え、俺は居間の床で簀巻きにされたままこの話は終わった。

夜になっても居間で簀巻きにされたままで放置され、居間に入って来た俺を見て正邪は指を差してお腹を抱えて大笑いされたので後で報復してやろうと誓い、縄は神社に帰って来た美鈴と慧音が解いてくれたので二人にお礼を言ってから大笑いした正邪も同じ目に遭わせようと、正邪を押し倒し、力づくで縄を使い簀巻きにしてから西行妖に吊るしてそのまま数日放置して泣かせてやった。

 

 

 

かなり昔の話だが、逃げた俺を縄で縛って無理矢理聞かせられ、その時には居間にいた永琳の膝枕でお昼寝していた幼い白蓮と幽々子を、永琳は慈しむ瞳で寝ている二人を見ながら、羨ましそうに言ってた。

俺からすれば永琳に膝枕されてた白蓮と幽々子の方が羨ましかった。あの頃は、既に永琳と夫婦だったが依存されてなかったからなー

 

それに人間は人間でも、白蓮と天皇の血を持つ幽々子は半神に近いんだが

 

白蓮を下ろして歩き出し、また会話を再開する

 

「唐突だがあのゴミ… もとい幽々子と白蓮は出雲神話の大国主って知ってるか」

 

「それなら知ってる。有名だもんね」

 

「大国主はスサノオやニニギって神様と同類のクズ野郎だって比売神様、永琳様から聞いた事あるよ!」

 

うーん…幽々子はともかく、永琳から聞かされて知った白蓮の言った事は、神話時代の始まりから見てきた者としては何一つ間違ってないと思い、俺は昔の誼みとして反論しようにもできず、二人と会話しながらも、口を閉ざしてしまった。

我が正妻ながら、恐ろしい女だ。永琳の教え方が問題とはいえ、子供にそんな覚えられ方をされるとは。なんとも哀れな奴である…

 

どうでもいいかもしれないが、実は大国主って第六天魔王と同一視されてるんだ。

あと第六天魔王はミシャグジ神とも同一視されてる。

 

幽々子と白蓮にそう言おうとしたが、興味がないかと思って言うのはやめた。

 

 

 

 

 

白蓮と幽々子を連れ、萃香達に造るよう頼んでおいた寺子屋に到着。

目の前に聳え立つ寺子屋、まるでカントリー・ハウスやタウン・ハウス…というより

中世ヨーロッパのマナー・ハウスの広さと大きさだろうか。

寺子屋が聳え立つその隣には、イギリスのヘイ・オン・ワイみたいな建物もある。

 

この寺子屋で、天子の奴隷扱いの白龍が、ブロッケン山から連れて来た魔女達に頼んで魔法を諏訪国の子供達に習わせる、つもりなのだが。

しかし、うーむ。バカでかい寺子屋を見上げて神社を思い出す。

 

白蓮と幽々子を連れて寺子屋の中に入ると、我慢できなかったのか幽々子と白蓮は探索してくると言い奥に行ってしまった。

 

「素晴らしい出来栄えだな。萃香達にはまた鬼ころしを大量に進呈しよう」

 

鬼とはいえ、あれだけ飲んでウェルニッケ脳症にならないのが不思議だ。妖怪だからだろうか

 

軽く歩き回ったが、かなり広いしこれは寺子屋以外の目的で使えるかもしれん。

咲夜の空間能力のお蔭で神社内部も広くはなってるとはいえ、この寺子屋、でかいし別荘にしたいと思うほどである

 

「この広さ、ディベートとしても使えるな。萃香達に寺子屋を建てといてくれと頼んでよかった」

 

よし決めた。この寺子屋は領主館のマナー・ハウス兼、別荘兼の寺子屋として使わせて貰おう。

寺子屋に入ってまだ軽くとはいえ歩いて見たが、無駄にデカいし広いし、問題はない筈。寺子屋の隅々まで見て回ろうとしたら、それこそ日が暮れる程の広さだ。

 

問題は、その領主館で誰に諏訪国の荘園支配を任せるか、だが。これは諏訪国の政治を任せている神子、布都、屠自古の三人に、この寺子屋を領主館として進呈し、使ってもらおう。

政治とかめんどうだし俺は絶対にしたくないので、神子達へ丸投げにする。

元々、その面倒な事は諏訪氏や藍に全て任せていたんだが、早苗を産んだばかりだし、今まで働き詰めだったから、藍には少し療養してもらう。

 

もしや既にあいつが広間で居座ってるのではないかと思い、歩いていたら広間を見つけ、中に入ると案の定。マミゾウが広間で煙管吹かしながら酒を飲んでいた。

マミゾウは俺に気付くと、上機嫌で片手を挙げる。

 

入って分かったが、広間には文机が並べられていて、しかも壁には黒板がある。一体、誰が運んだのだろう。

 

「おお、弘天殿。いつも通り儂はここに居座るぞい」

 

「また寺子屋に住み着くのか。…この寺子屋は神子達、魔女達、慧音が使うんだ。程々にしてくれよマミゾウ」

 

「大丈夫、大丈夫じゃて。基本的に儂は酒飲んでるだけじゃ。…白蓮や命連も、いずれこの寺子屋を使う日が来るじゃろうし」

 

……ギリシャ神話には【バウキス】に【ピレーモーン】という名の人間の老夫婦がいる

バウキスとピレーモーンの老夫婦は人間だ。ギリシャ神話のパンテオン、神ではない。

この老夫婦が出てくる話には、ゼウスとヘルメースが出てくるのだが。これを白蓮と命連が見たら、どう思うのだろう。

 

「俺は、二人を尼にさせる気はない」

 

「分かっとるよ」

 

マミゾウは酒を飲みつつ、白蓮と命連の名を出すと遠い目になる。尼にさせる気はないが。白蓮と命連は、今回どうするのか。

まあ白蓮と命連が尼になったとしても俺の妻にするがな! これは白蓮と命連が産まれた時から、既に決まっている事だ。

 

萃香達に頼んで諏訪国に寺子屋を建てたが、江戸時代には民間教育施設の寺子屋が存在した。

学ぶには金は要るが、金を取らずに無償で子供に学ばせる寺子屋もあった。

金が要る場合もあるとは言え、農民の子が勉学を学べたんだよ。

 

今では当たり前になってるが。庶民の、農民の子が! 勉学を、勉学や道徳を学べた時代なんだ!

農民の子が読み書き出来て、そろばんの使い方を習って理解し、扱えたんだぞ。

古代の庶民を顧みると、これがどれだけ凄いスゴイ事か…

 

つまりここからだ。自分達とは違う 言葉 を手に入れた時からだ。その寺子屋で世界地図を見て日本という国は より大きな世界の一部でしかなく 自分達は坐井観天だった事を知った。

狭まった価値観は崩れ、世界に対する認識を改めた。本来なかった余計な思想が、平等、自由という言葉が拡大解釈されて行った事と同じだ

 

「ところで、肝心のリグルはどこにおる」

 

「あいつの能力ってかなり面倒だろ。だから閉じ込めて脅迫…もとい仲間になってもらえないか鬼と一対一で交渉中だ」

 

地球内だと、どこから蟲が湧いて来るか分からん。

だから、リグルは蟲がいない魔界へと招待している。

 

「相も変わらず、鬼がリグルと交渉しておるのか」

 

マミゾウは呆れ返りながら、煙管を吸う。

 

この寺子屋は魔法、歴史などの勉学を学ぶ場所になる。

魔法は魔女達、歴史は慧音だな。後は、慧音が帰って来たら、昔と同じ光景がまた見られる。

今はまだ子供とはいえ、慧音が大人になって諏訪国の子供達に勉学を学ばせる教師姿、早く見たいものである。

子供のままの慧音が、諏訪国の子供達に一生懸命教える姿も、それはそれで、そそられる

 

「まあ、平将門のように困った事があったら儂を頼るがよい。昔の好で聞いてやらん事もない」

 

「じゃあ仲良くしろと言わないが、もう少しキツネに対する感情を抑え」

 

「いくらあんさんの頼みでもそれは無理じゃ。儂にも出来る事と出来ん事がある」

 

顔を背け、食い気味に拒否された。昔から言ってるせいか、これを言うとこいつは不機嫌になる。

キツネの話題を出してしまったばかりに、マミゾウは誰かの話を始めてしまう。

 

「永琳殿は、好きとか、愛しておるとか、依存しておるとか。すでにそんな次元の話ではない。

もうその域を通り越しておる。あせんしょん、じゃ」

 

これはマズい。マミゾウのスイッチが入ってしまった。

一刻も早く離陸しなければ、底なし沼へ嵌るかのように俺は一日中付き合わされてしまう…!

 

「じゃが。主、主、主と。彼奴は昔からそうじゃった。お前さんの妻の中で一番依存しておるのにそれに気づいてない振りをする。誰よりもお前さんの傍にいたいクセにのう。昔から気に入らん」

 

永琳やマミゾウはともかく、藍は記憶も感情も回帰してない。

藍はもう一度初めから、弱っていた所を俺が拾って、栄養失調から永琳に助けられて、仕えようと思った一連の出来事を、俺の妻になって早苗を産む喜びの永遠を、永琳と輝夜に望んだ。

覚えていなくてもまた会えると、藍は確信していたのだ。そこに回帰が必要とは、考えなかった。

 

この世界が因果的に閉じられている事を、藍が知っていたからである。

しかもその因果、特にエイブラハムと【因縁果】は、永琳が掌握し、操っている事も、藍は知っている。

 

この話を終わらせるべく、俺はマミゾウの背に立ち、両手をマミゾウの両肩に置いてマッサージをしてやる。

 

「うむうむ。お前の言う通りだな」

 

「そうじゃろうそうじゃろう。じゃから弘天殿と永琳殿が藍を引っ張っていってやるのじゃぞ。

藍は、あんさんと永琳殿の命ならば、喜んで従う」

 

「…ああ」

 

肩を揉みつつ、数十分ほどマミゾウの話に付き合っていたら、近くにあった文机に突っ伏して、やっと寝た。

 

「萃香達と酒飲み勝負した時以来の強敵だった。やはりマミゾウがいる時に藍や狐の話はタブーだな…」

 

少し肌寒いから、魔方陣を展開して毛布をマミゾウに掛けて広間を出た。

 

神子達もこの寺子屋を使うが、神子達にとってこの寺子屋は日本でいう

【宮内省】または【宮内庁】と同じ場所。そう考えてくれたらいい。

……あれ。ということは、ここは日本でいう【禁衛府】になるのだろうか。

弘文天皇は山城国の平安京にいるんだがな。

 

ここは寺子屋なので学び舎になる。

そして、かつて誰かが言った言葉を引用しよう

 

『この発狂したメガホンは、一見この世で最も愚劣、無用、禁制なことをやり、どこかで演奏された音楽を無選択に愚劣に粗野に、しかもみじめにゆがめて、ふさわしからぬよその場所にたたきこんでいるが』

 

『しかもこの音楽の根本精神を破壊することができず、この音楽によってみずからの技術の無力さ、から騒ぎの精神的空虚さを暴露するばかりだ』

 

『よく聞きたまえ、君にはその必要があるんだ。さあ、耳を開いて』

 

『そうだ。どうだ、ラジオによって暴力を加えられたヘンデルが聞こえるだけじゃない。ヘンデルは、こんな鼻持ちならぬ現れ方をしても、やはり神々しいのだ』

 

『―――そればかりでない、ねえ君、同時にあらゆる生命のすぐれた比喩が聞こえ、見えるのだ。ラジオに耳を傾けると、理念と現象、永遠と時間、神性と人間性、それらのあいだの原始的な戦いが聞こえ、見える』

 

『君のようなたちの人間には、ラジオや人生に批評を加える資格はまったくない』

 

『むしろまずよく聞くことを学びたまえ! 真剣にとるに値することを真剣にとることを学びたまえ! ほかのことは笑いたまえ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、帰ってらしたんですね。皆さん寂しがってましたよ」

 

「うむ。星と美鈴はそれだけの量、どこに運んでるんだ」

 

「広間に教材運びです。魔法や歴史を学ぶにしても、床几や教卓、紙に墨は必要と思いまして」

 

星は俺に会釈し、美鈴は軽々と片手で持ち運びながら、運ぶ場所を説明する。

なんて力だ。それぞれ片手で床几や教卓を同時に持ち運ぶとは、美鈴は凄いんだな。

星も持っているが、美鈴とは正反対に紙や筆などを小さな倭櫃に詰め、両手で持っている。

 

「じゃあ、すぐにサボり魔のてゐを呼んでやらせよう」

 

「いえいえ大丈夫です。力には自信がありますし、私が好きでしているだけですから」

 

霧になっている萃香を呼んで、てゐを連れて来て貰おうとしたが美鈴に止められた。

美鈴に道場の事を聞いたら今日はなくて、ヒマだったらしい。本当に好きでしているようだ。

 

「ならいいが。ところで白蓮を見てないか。はぐれてしまったんだ」

 

「白蓮様ですか。私は見てないですね」

 

流石に荷物を持ったまま立ち話も辛いだろうと思い、広間まで美鈴と星の間で歩きながら聞いてみたが、美鈴は見てないようだ。行き詰ってしまったな。

 

星は寅丸星という名だ。偶然だと思うが戦国時代には幼名で 寅王丸 という名の諏訪氏がいる。

寅王丸は当時の諏訪氏当主である諏訪頼重と、武田信玄の妹、禰々の嫡子だ。

 

ダメもとで美鈴の隣にいる星にも白蓮を見たか聞いてみよう。

 

「星はどうだ」

 

「先程、大客室でルーミアさんと遊んでいるのを見ました」

 

よかった、白蓮を見た様だ。大客室か。場所はどこだったか。まあ歩いてればその内見つかるだろう。

そんなに遠くなかったから広間に到着し、マミゾウはまだ寝ていた。

美鈴は大荷物を出来るだけ音を立てない様に床几を下ろし、下ろされた床几は軽いので星が運んで並べる。

美鈴も星の後に続いて片手で持っていた教卓をよく見える所に置き、後は大量の紙、墨、筆を倭櫃から取り出して終わった。

さっき広間に入った時、文机が並べられていたが、美鈴たちが運んで並べた様だな。

 

しかし、うーん。美鈴が歩いたりするとスリットからは太ももが見え、美鈴が腰を屈めたりすると尻を凝視してしまう。

…許せ美鈴。仕方ない、仕方ないんだ。男のサガなのだ。

そもそも美鈴は娶ったから俺の妻なので、イヤだと言われる事はないと思うのだ。

 

…だが、何故だ!?

なぜ星はスカートなのにズボン履いてんだ! 

これじゃあスカートを捲っても意味ないからつまらないし、ズボン履かれたら生足を拝めないしで俺が色々と困るじゃないか! 

まあでも、まぐわいをする時、着衣でするのも結構好きだが

 

星は薄々勘付いているだろうが、鈍感な美鈴は俺の視姦に気付いてないようで、仕事を終えたら、座って壁に寄り掛かり、美鈴と星を眺めていた俺に近づいてくる。

 

「一先ず必要最低限の物は運び終えました。明日にでも魔女達から魔法は習えると思います」

 

「そうか。二人共ありがとう」

 

「諏訪国と弘様に仕えている身です。お気になさらないで下さい」

 

「私は一応、神使ですから。仕事をしないと食いっぱぐれるかもしれないので」

 

美鈴はともかく星はご飯目的だったようだ。なにかしないと酒嚢飯袋にされると思ったのだろうか。

まあ、永琳から教わった藍の料理、美味しいから分かる。

…まだ。イン・メディアス・レスとはいえ、やっと、ここまで来たな

 

「私の顔になにか付いてますか?」

 

「いや。美鈴を見てると落ち着くんだよ」

 

美鈴は妻にして結構経ってるが、昔から美鈴を見ていると落ち着くようでどうも落ち着かない。

いつもなら美鈴の綺麗な脚線美を擦ったり撫でまわしたいとか、美乳を揉みたいとか、美尻を揉みたいとか、ディープな口吸いしたいとか、押し倒してまぐわいたいとかを常日頃から考えるのにそれがなくなる。落ち着くんだがそんな俺に落ち着かない。

いや本音を言えば美鈴の脚線美に関しては今もしたいんだけどさ。

俺と同じ龍だし、美鈴とは波長が合うのだろうか。

 

「綺麗だ美鈴。お前を娶って良かった。愛してる」

 

「ひ、弘様はいつも急ですね。ですが弘様と出会えて、夫婦になって、私も嬉しいです…」

 

立ち上がり、俺は右手を動かして美鈴の腰に回しつつ、空いた左手で美鈴の右手と軽く合わせ、ゆっくりと、俺の左手で優しく美鈴の右手を開いて指同士を絡める。

体を寄り添い、お互いの片手の指同士を絡めて見詰め合い、二人だけの世界に入った。

 

マミゾウは文机に突っ伏して寝てるし、星は寝ているマミゾウを見つつ湯呑に入った熱い茶を飲んで一息ついていた。いつの間に湯呑へ茶を淹れたのだろう。

 

が、美鈴と愛し合っていたら、ルーミアが両手で落ちない様に白蓮と幽々子を抱きしめて広間に入って来た。ので、美鈴の腰に回していた右手を出来るだけ挙げる

 

「おールーミア」

 

「ちょっと、私に白蓮達の世話を任せてなに睦み合ってるの。星も止めなさいよ。この二人、誰かが止めないといつまでも見詰め合ってるんだから」

 

「私は、幸せそうなお二人を見てるとなんだかホッとするので、止められないです。だから止めようとも思えないですね」

 

向かい側にいるマミゾウが寝ているのを見ながら、星は湯呑に入った茶を飲んで落ち着いてる。

だが、ルーミアが来たのはちょうどいい。

 

美鈴に視線を向け、意図を汲み取った美鈴は寄せ合っていた体を離れる。

俺の、俺の美鈴が、俺の女神が離れてしまった…

 

「もうすぐ戦争だ。キクリと一緒にお前も付いて来い」

 

ルーミアは天魔、パルスィ達のように元々はインドにいた者達だ。

天魔は最初から憶えているし、パルスィは顕明連を朝日に当てて回帰しているので思い出した。

しかし、ルーミアが憶えてるのか、それとも憶えてないのかはこの際どうでもいい。

ルーミアは戦力として連れて行くわけではない。キクリと一緒に来てほしい。ただそれだけ

月人、月の関係者としてはルーミアを、どうしても連れて行きたいという気持ちが、俺にはある。

 

「…あのね。諏訪国にシンギョクの片割れがいるのよ。私は、私を封印したシンギョクを殺したいの。というか殺さなくちゃいけないのよ。そんな暇はないわ。大体、行くってどこに行くのよ」

 

白蓮と幽々子を下ろしながらルーミアは話を聞いていたが。俺の意味不明な誘いに、ルーミアは事態が飲み込めず、いつも通りただただ絶句。

だが数秒程集中して、断片ながらもなんとか理解し、呑み込めたルーミアは無理無理と片手を横に数回振り、拒否。

 

だが、来てもらわねば困る。自分勝手と言われようともだ。

どこに行くのか聞かれたので、今も光り輝いている衛星を、右手の人差指を空に指す。

 

「どこって、懐かしの月だよ」

 

左手を差し出し、ルーミアの元へ向かい、お互いの左手に絡ませて握手する。

 

「だから来いルーミア。シンギョク、仁科を殺すのはそれからでも遅くはないだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時は来たり」

 

今夜は三日月のようだ。

月の光が綺麗だが、そもそも月の光って太陽の光が反射して光ってるんだよな。

じゃあ太陽が苦手な妖怪や、悪魔の吸血鬼が、月の光で力が増すっておかしくないか。

 

などと下らない考えを考えながら龍神の名を呼ぶ

 

「黒龍」

 

「はいは~い」

 

黒龍の名を呼ぶと諏訪国へと即座に登場。黒龍は巨体ゆえに天を覆い隠しているが、魔方陣を展開して黒龍の頭へ転移し、地上を見下ろす。

しかし龍神の頭に乗っているのは物足りないので、魔方陣を展開して玉座を出す。

出した玉座に座ると、なんか偉くなった感じになれて気分がいい。

 

上空で月を眺めていたら、何かが急接近して、反動も無く龍神の顔の前に一瞬で止まった。

誰かと思えば山伏を着ている文だ。

 

「あやややや。どちらに行かれるのですか弘さん」

 

「月」

 

龍神を呼び出して何をするのかというと、今から月に行くのだ。

俺と同じく上空にいる文は、月に行くといったらなんとも言えない表情になる。俺達、神と妖怪にとって、時間はあるようでないようなものだからこその片鱗だ

 

「はー もうそんな時期まで来ましたか。光陰矢の如しですねぇ」

 

「まあ依姫が産んだ後の話だ。産むといえば、椛とはたての具合はどうだ」

 

依姫の事ばかり気にしていたが、俺は椛とはたてに手を出し、孕ませているのだ。今までも問題は無かったとはいえ、やはり心配だ。

それを文に聞いたら、背中に生えてる翼を羽搏かせながら、苦笑いを浮かべて答える。

 

「椛は食欲が以前より増し、はたてはつわりで嘆いていましたが、概ね良好ですね。弘さんの血が天狗に入った事で、天魔様は大喜びしてますよ。当人達より一番喜んでるのは天魔様ですね」

 

「問題が起きてないならいい。しかし、次はお前だぞ」

 

「あはは…。お手柔らかにお願いします。回帰したおかげで、私の体はまた生娘ですから」

 

次が自分だと分かってる文は、色んな感情が渦巻いた表情で頷いた。文とする時は、山伏を着て欲しいな。する時に言って文には山伏へと着替えてもらおう。

文にも手を出すが、萃香達に手を出さねば。文に萃香たちの鬼女には、俺の子を産んでもらわねばこの先、困るのだ。

 

もう少し文と話に耽ていたいが、そろそろ行かないとマズいな。遅れたら神綺達に何を言われるか分かったものではない。

 

「じゃあ月に行って来る。文、留守は頼んだぞ」

 

「はい。弘さんに何かあったら椛とはたて、もちろん私も泣いてしまいますので、お気をつけて」

 

だがその前に、一つやっておく事がある。

龍神に顔を動かしてもらい、鳥居の近くに造って置いた四季映姫の目の前まで来た。

この距離なら手を伸ばせば余裕で触れる。

 

「さあ四季映姫。今こそ我が前に顕現せよ」

 

両手を映姫の両頬に当てて、俺の神気と神力を注ぎ込むと、青同色だった映姫の銅像は、岩のように硬かった頬もだんだんと粘土のように柔らかくなってきた。

暫く注いでいたら、映姫の肌も褐色から肌色になり、着ていた服も色が着色され、彩が増す。

うーん。まるで自分が画家になった気分だ。悪くない。

 

そろそろいいかと思い、注ぐのはやめると映姫は閉じていた瞼を開く。

映姫の両頬を両手で揉んで堪能しつつ、話す。

 

「久しぶりの顕世はどうだ」

 

「…修身斉家治国平天下、尺を枉げて尋を直くす」

 

折角開いた瞼を再度閉じ、返答。まあ映姫なら恋の山には孔子の倒れにはならないだろう。

裁判長をイメージして造ったので、テーブルと椅子も映姫と一緒に造っている。

だから映姫は椅子に座って話してる。俺は龍神の頭、しかも偉そうに玉座に座ってるが。

 

「まあ形式上、俺は映姫の父親だろ」

 

「えぇ。残念ながら」

 

「ほら、呼んでみんしゃい。あ、父さん、お父さん、お父様、パパはダメだぞ。被るから」

 

「…目覚めた早々、なんたる嫌がらせですか。父上」

 

映姫の両頬から両手を離し、お互い向かい合い。対面する形になる。久しぶりに会えたから、テンション上がってるかもしれん。

なにせ映姫は、回帰した状態で、今までの出来事を永遠に忘れない事を望んだ女だから。

つまり映姫は、俺や永琳と同じ。全部覚えている者が多いのは、結構嬉しいもんだ。

 

「常住不断の生生世世。この俗世は依然としてイデア論、色即是空のようですね」

 

「うむ。まあ真面目な話、お前は諏訪国にとって今、そしてこの先も必要なんだよ」

 

「だからいつも通り諏訪子を支え、神子達の政治の助言や手助け、及び、人間が愚かな事をしないかの監視。昭和21年から昭和23年の東京裁判、極東国際軍事裁判は頼んだぞ、映姫」

 

映姫は諏訪子、神子、布都、屠自古を支える裏方、縁の下の力持ちになるだろう。

椅子に座ったまま両肘をテーブルに乗せ、両手を合わせて指を組み、神妙な表情で映姫は頷いた。

 

「ジパング安寧秩序の為。諏訪大明神の社稷の臣、諏訪国の公平無私としてこの四季映姫。与えられた職務を承り、実事求是を全うします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くくく」

 

「ふはははは」

 

「はーっはっはっはっ!!」

 

「来た、見た、勝った!」

 

「まだ勝ってないですわ」

 

俺の言葉を青娥に否定され、出鼻をくじかれる。

 

「確実に無量大数は優に越えてる議題は、月の民の鏖殺。早速、私達の身内である月の民、月人を鏖殺する計画。この場にいる皆で、月の民をどうやって殺しましょう会議で企てましょう!」

 

「神綺、嬉々として言う事じゃないでしょう。それに最初は開戦事由について話し合った方が…」

 

「そもそもビッグフット数くらい回帰してるから実際は無量大数じゃ足りないわよねぇ」

 

神綺は両手でデスクをバンバン叩いて話していたが、サリエルが注意し、永琳が回帰の回数を数え、神綺に教えて訂正していた。

永琳、そこは重要じゃないだろう。

 

月のクレーターティコのど真ん中に聳え立つラボラトリー

その内部にある通信指令室兼、作戦司令部で、俺達はぐだぐだ会議をしていた。

 

ただ、なぜかこのラボラトリーの外観は竜宮造りになっている。

 

「ともあれ、月の民と月の都は滅ぶべきであると考える次第である。なあ神綺」

 

「そうよね。月の都滅ぶべし。Si vis pacem, para bellum ねぇ夢子」

 

「はい、神綺様」

 

俺の言葉に続いて神綺は同調し、神綺は傍で控えていた夢子に聞くと、とてもいい笑顔で肯定。

夢子は俺の許婚だが、咲夜と違って神綺の手伝いをしている。

 

夢子に視線を向けると、夢子は視線に気づいて俺に微笑み返したので、俺も笑い返す。

暫く見詰め合ってたら、対面しているユウゲンマガンから睨まれた。

仕方ないので議題を続けよう

 

上から気配がしたので顔を上げると、枕を抱きしめながら天井付近に漂うドレミー・スイートがいた。

俺が気付いた事に気付いたドレミー・スイートは片手を上げて挨拶したので、俺も挨拶を返す。

 

「やー」

 

「や、やー。…いたのかドレミー」

 

「私の事は気にしないでねー」

 

気にするなと言われたので、気にしないでおこう。

 

神綺が言う皆殺しについては、既に決まっているのだ。だからこれは、月の関係者達が

ただ駄弁るだけの集まり。しかし、こうして集まるのはいつ以来だろう。

 

「弘君。神綺が真似するので古代ローマの言葉は使わないで下さい…」

 

「そもそも私達、月人で月の民だよ天君。自決したいの?」

 

「バカな、自決だと。ああ確かに俺はバカさ。だがなくるみ」

 

「この俺が、古代ローマの詩人ホラティウスの詩、今というこの時を、全力で楽しめ。を座右の銘とし、至上と、モットーとしているこの俺が、一体全体誰なのか忘れたのか」

 

「うん。天君は若干バカだよね。分かってて言ってるの」

 

サリエルは俺を諫め、くるみは真面目に返すが、くるみの言葉が聞き逃せなかったので反論すると、揶揄われていた様だ。

くるみ、憐れんだ目で俺を見るのはやめろ

 

ここにいるのは嘗ての約束をして、尚且つ、覚えている者達だけだ。

豊姫、依姫、神奈子、輝夜、咲夜、サグメ、キクリ、天魔はいない。

輝夜と咲夜は近畿地方から九州地方の僧兵を殺していて、サグメは行方知れずだし

 

記憶が欠落してるから来られないが。本来なら、ここにキクリもいたんだ。

天魔もここにいるべき存在だが、今回は欠席している。

エリスは天子の監視役なので、ここには来られない。

 

「いいか、俺はすっぱいぶどう理論が大嫌いだ! 世界に存在する数多の美女達を侍らせるまで、死んでたまるか! Dona nobis pacem! Dona nobis pacem!」

 

まだ俺達は イン・メディアス・レス の最中にいるのだ。

俺の目標を高らかに宣言したら、幻月と夢月が揚げ足をとる。

 

「いや二回も死んでるじゃない。第一、私達はその平和を壊す方よ」

 

「そうだそうだー。永琳を悲しませたクズ野郎ー」

 

「ふふん。俺にとってクズは最高の褒め言葉なんだなこれが」

 

俺にとって美人、可愛い女を娶るのは生きて行く上で必要不可欠だ。

なんだっけ、確か似た様なので、これを ブランケット症候群 って言うんだったか。

そんな俺に、夢月と幻月は引いた

 

「うわー引くわー」

 

「ないわー」

 

ただ永琳に関しては好き放題言われても言い返せない。俺が永琳を残して死ぬなど

 

これはアメリカにとっての屈辱の日である9月11日、パールハーバーの屈辱と同等だ…!

 

夢月と幻月はる~ことに淹れてもらった紅茶を飲みつつ、る~ことが作った洋菓子

ヘラティーナやエスプミージャなどを食べていた。

甘いものは好きだし、美味しいのは知ってるが、あれを見てるだけで胸焼けする。

 

る~ことはセクサロイドだが、シングルタスク仕様だ。マルチタスクにしておけばよかったか。

しかし人間に近い存在として造り上げたから、やはりシングルタスクのままでいいや。

 

ユウゲンマガンが夢月と幻月の間に座っているが、基本的に無口なので基本的に何かを黙々と食べてるだけだ。

魅魔は一息吐いて、周りを見渡す。

 

「この場にいる永琳、神綺、サリエル、くるみ、青娥、夢月、幻月、ユウゲンマガン、る~こと、夢子、ドレミー・スイート、私。これだけ美人揃いなのにまだ求めるとはねぇ」

 

「おい魅魔! 自画自賛はやめヘぶッ!?」

 

「んー? ヘブの法則がなんだってー?」

 

「言ってねえよ!」

 

魅魔が煎餅を俺の顔に投げて喋るのを遮られるが、この煎餅、食べてみたら結構美味しい。

 

このままではいつもの様に議題のレールから脱線してしまうと思ったのか、青娥は軽く咳払いをして、月の民をどうやって殺しましょう会議を続行する。

 

「賽は投げられたとはいえ、月の都の被害を出来るだけ減らす事を考えた方がいいのではないでしょうか」

 

「あ、魅魔その煎餅くれよ。結構美味かった」

 

「はい」

 

「パスパタやトリシューラ、インドラの矢を使うと月の都だけでなく、月自体まで消えてしまいます…って私の話を聞いて下さい」

 

魅魔の目の前に菓子器が置かれていたので、菓子器に入っている煎餅を貰って齧ってたら青娥に怒られた。ボリボリと音を鳴らして煎餅を食べていたら一つ思いつく。

【Web Bot】にエイブラハム、アカシックレコード、沈黙の兵器は俺達の手中にあるのだ。

 

「なら吸血鬼の始祖であるくるみが全ての眷属を率いてだな」

 

「それ天君がする事と変わらないの」

 

「最凶最悪と名高い幻月が」

 

「イヤよ疲れるじゃない」

 

「じゃ、じゃあ沈黙の兵器でも使うか。永琳、る~こと。任せた」

 

「あれはダメよ。沈黙の兵器はアメリカだけに使うと皆で決めた事でしょう。東京裁判とかでね」

 

「…」

 

煎餅を食べながら隣にいる永琳に顔を向けて聞いたが、まだ使えないと首を振る

次に夢月、幻月、ユウゲンマガンに甲斐甲斐しくご奉仕していたる~ことを見たが

永琳がダメだと言ったのでる~ことも首を振る。

沈黙の兵器の話題を出したせいか、セクサロイドなのにる~ことはおかしなことを言い始めた。

 

「沈黙の兵器ですか。このままでは私達、機械に支配されてしまいますね」

 

……

 

 

(それはひょっとしてギャグで言ってるのか…!?)

 

俺が脳内でツッコんでしまった。る~ことの冗談はいつも分かりにくい。

まあその冗談は、現実味を帯びているが。

 

一旦、月の民をどうやって殺しましょう会議を止め、数十分ほど休憩をとることになった。

あいかわらずぐだぐだである。

 

「正しく勝った、私が勝った」

 

レイセンが入れられている地下牢までやって来たのはいいが、なんか、腰を下ろして壁に体重を預けて両足を延ばし、両手は壁にぶら下がっている手錠に嵌められて身動きは取れないと一目でわかる上に、スゲーぐったりしてる。

ここは明るく、尚且つ爽やかに、月の裏切り者の女に話しかけよう

 

「ようレイセン。調子はどうだ」

 

旧時代的な地下牢に来てレイセンに話しかけても反応がない。

あ、まずは猿轡のボールギャグを外さねば会話が出来ないじゃないかと思い出し、牢の中に入ってレイセンに近づき、両手をレイセンの後頭部に回してボールギャグのベルトを外し、序でに目隠しを外してやると憎々しげに、吐き捨てるかのようにレイセンは言った。

 

「…最高ね、オー・ヘンリーの気分よ」

 

「いやー オー・ヘンリーと比べるとかなり酷い待遇と思うが。まあそれは僥倖だ」

 

きっとレイセンなりの皮肉だろうと考え、立ちながら腕を組んで鉄格子に背を預け続ける

サグメから借りた天鹿児弓で放った月光の矢に付けておいたアガスティアの葉を使い

レイセンの記憶は回帰している。回帰したからストックホルム症候群は起きてない

 

「いいかレイセン。神は除いて『責める権利を持つ者はこの世に存在しない』さ。だがな」

 

「お前、アメリカのアポロ計画の時、真っ先に地球へ逃げただろ。玉兎達やお前程度の存在では、月人の上層部も気にしてなかったが、敵前逃亡なんて軍規違反だし完全に裏切り行為だぞ」

 

レイセンは一瞬身体がビクついた。玉兎であるレイセン自身が、玉兎は月の民の奴隷という事を忘れた訳ではあるまい。レイセンの記憶はある程度回帰させているので、ちゃんとアポロ計画の事を覚えている。

このネタで昔から何度もレイセンに嫌がらせを続けているのだが、本来ならレイセンは月の民に殺されても文句は言えんのだよ。

 

「月の民は殺生を好まないとはいえ、死刑判決が下されてもおかしくないだろう」

 

「それは、世界がまだ初期頃だった時の話じゃない。いい加減忘れてよぉ…!」

 

「イヤだね。俺はこのネタでお前を揺すって、永遠に嫌がらせすると決めているのだ」

 

レイセンではなく、永琳が月から逃げたのならまた話は違っただろうが、所詮、玉兎のレイセンは豊姫と依姫の愛玩動物でしかない。とはいえ玉兎の中でも、このレイセンは優秀だった。

だから月人や月の民はレイセンにバツを与えていない。レイセンの代わりはいくらでもいるから。まあ昔の話だ。

穢れの件に関してはキクリのお蔭で解決してるので、月だろうと地球だろうと、なにをしても穢れはもう発生しない。

 

「臆病女め。あれだけ回帰してもまだ死ぬのが怖いか。まるで、お前の嫌いな人間だ」

 

「違う…。私は、あんなヤツらじゃない…」

 

「…まあ、お前の人間嫌いに関しては俺と永琳、特に魅魔の影響のせいでもあるか。お前の飼い主である豊姫と依姫は人間を好いていないが、嫌ってないからな」

 

顔を俯かせて黙り込んでいたレイセンは、弱々しくも人間と同じではないと言った。

レイセンは豊姫と依姫の愛玩動物な訳だが、月人と月の民に影響されたレイセンはともかく、豊姫と依姫は人間をそこまで嫌っていない。だからと言って好いている訳ではないが。

人間を好いても嫌ってもいない豊姫と依姫は、俺達とは生まれた世代が違うんだ。

豊姫と依姫は、俺と永琳、神綺やサリエル、魅魔とユウゲンマガン達の後だから。

 

「 エガス・モニス という神経科医がいた。そして」

 

鉄格子に背を預けていたが、レイセンの元へ向かう為に歩き出し、近づきながら話を再開する。

 

「かつてアメリカでは猿を使ったロボトミー手術があった。第35代アメリカ大統領、暗殺された

ケネディ大統領の妹ローズマリー・ケネディはロボトミー手術を受けている」

 

「次はアメリカ合衆国の小説家 ダニエル・キイス の アルジャーノンに花束を 

最後に1979年、昭和54年の日本で起きたロボトミー殺人事件があった」

 

そうだ、ロボトミー手術。永琳がいて、る~ことのアカシックレコードにエイブラハムもある。

頭を弄り回すか、脳をなくすにしてもアカシックレコード、エイブラハムを代わりに詰め込めばいい

簡単簡単。まあこの話に適応されるのは人間だけなんだが。

 

今の言葉で理解したようで、嘗ての出来事が想起されたレイセンがばっと顔を上げて絶句し、逃げられない事は分かっているからか逃げず、蹲ったまま両腕を頭をかばうようにした。

 

「ッ…やだ、いや!」

 

「うお。なんて力だ。さすが月の都で肉体労働ばかりさせられる玉兎なだけある」

 

一部を除いて殆どの玉兎は気楽に過ごしてるが

 

地下牢の壁を背に蹲っていたレイセンを見下ろしながら言い、腰を下ろし、俺の両手でレイセンの両腕を掴み、強引に俯いているレイセンの顔を見ようとしたが、レイセンは今の話を聞いたせいか必死に抵抗してくる。

レイセンの目を見ても俺は狂気に堕ちないので、問題ない。

 

手錠の鎖の擦れる音が静かな地下牢でやけに響く中、やっと鈴仙の片腕をどけると、顔が露になる。

 

「なーに泣いてんだ」

 

「…泣いてなんか、ないわよ...バカ」

 

……性格や人格を変えてみようかと、久しぶりにしようと思ったが、片腕をどけて見えたレイセンの泣き顔を見て興が冷めた。従順なのはやはりつまらん。

それ以前に玉兎全員が、俺達の奴隷だし、玉兎達を生かすも殺すも俺の気分次第だ。

 

玉兎という妖怪は日本の妖怪ではなく中国の妖怪だが、月にウサギがいるという起源はインドが有名だ。しかし、それだけではない。月にウサギがいる起源はインドではあるが

その話の前に キルギス族神話 で ウサギが誕生する神話 があるんだ。

 

創造神を目の前にしたんだから、キルギス族神話のウサギの反応はごく自然だろうが

目の前にいる臆病者のレイセンみたいに、キルギス族神話のウサギは小心者で泣き虫だった。

 

「レイセン。お前は玉兎な訳だが、キルギス族神話のウサギの話を思い出して気が変わった」

 

両手をレイセンの両腕から離すと、レイセンは自由になった右腕の袖で目尻から垂れてきている水を拭いつつ、出来るだけ平静に返答してくる。

涙は滂沱の如く流れていなかった様だ。

 

「私だけじゃなくて、鈴瑚と清蘭…他の玉兎にも本当に、なにもしないの…?」

 

「もう大昔にしてるだろ。数多の神話の神、俺や永琳達を除いた月人達とお前ら玉兎はとうの昔、支配下においたのだ」

 

もちろん永琳、神綺、サリエル達はこれに該当しないので、支配下にはない。

永琳達以外の月人と月の民、全ての玉兎が俺達の支配下にある。

 

キルギス族神話は、ウシの誕生神話があるから好きなんだ。菅原道真は牛が神使だったし、レイセンの事もやめた。

そもそも全ての玉兎は俺の奴隷なのだから、生かすも殺すも決定権は俺にあるので、今の所はいいか。今の所は

 

天皇や大王、物部氏などの神裔、諏訪国の民は除くが。俺は、人間の事が嫌いではないが好きではない。ただ、美人や可愛い女は好きだ。

だがそれは俺の好みがそうであって、人間が好きだという事にはならない。これは、とても大きな違いである。

しかし神々によって創造された人間、神話に出てくる人間、要は、インテリジェント・デザインの人間は嫌ってないし寧ろ好きなので話は別

 

肝心なのは地球によって生み出された人間。即ち

俺が好きでも嫌いでもない人間はミトコンドリア・イヴ達の事であり、そいつらが好きでも嫌いでもないという話。神々によって創造された人間は好きな部類に入る。

パンテオンによって創造された人間と、地球によって生み出された人間の違いは、とても大きい。

同じ人間でも生まれた過程と結果が違うからだ。

 

「出ろ。お前も会議に出席してもらう」

 

「…分かったわよ」

 

壁にぶら下がり、片手に嵌めこまれていた手錠を空いた片手で鈴仙は砕いて外した。

手錠などで拘束していたが、元々、人間用の手錠なので、最初から拘束具としては何の役にも立っていなかった。

逃げたら永琳に廃人にされるし、逃げる気が起きないだろう

 

ある人間は100までしか生きられず、ある人間は500以上生きられると言ったら、もはや同じ人間ではないだろう。見た目が似てるだけで別の存在になる。

そもそもだ。仮に、ある人間が200以上生きて、しかも老化しない。

そんな奴が、自分はこれでも人間です。と言ったら、そいつは人間ではない。人間の振りをしている化け物だ

 

100以上生きてる時点で人間じゃないし、老化しない時点で動物である人間の定義に当て嵌まらないし、人間が神みたいな事をしでかした時点で、人間という定義からはみ出てる時点で。

もはやそいつは人間ではない。見た目だけが人間と同じ唯の化け物だ。それでも自分は人間と言い張るなら、そいつは俺達みたいにイカレてる

本来の人間に出来ない事をしてる時点で、もう人間じゃないんだよ。

まあ、神話に出てくる人間なら話は別だが

 

古代ギリシャの哲学者 ヘラクレイトス は言った

 

『同じ川に二度入ることはできない』

 

続いてドイツの小説家 ヘルマン・ヘッセ は言った

 

『私たちは朗らかに場所を次から次へと通り抜けるべきである。そんな場所にも故郷のように執着してはならない』

 

俺達は幾度も回帰してきたが、あの時は良かったなどと、一度も思った事はない。

それは俺だけではなく永琳達もだ。

 

 

 

 

「さあ、イヤだが今度は真面目に会議を再開しよう。今の俺はロームルスかノートン1世だ」

 

「私はハンムラビだと思うけど。なに、また ジョハリの窓 でもするの?」

 

「俺達ジョハリの窓やりすぎてお互いの事が筒抜だろ神綺」

 

通信指令室兼、作戦司令部に戻って面倒な会議を続行。

鈴仙もこの場に連れて来て、俺と永琳の背に立って控えている。この場にいる月人の面々を見ると真っ青になり、さっきから鈴仙の膝が笑って、小心翼翼。

 

ただ。真面目に会議と言っても、俺が作戦を考えるなんて

昭和19年の インパール作戦 の悲劇を繰り返すようなものだぞ…

役立たずで無能の俺より、やはりここは、頭のいい永琳に頼みたいのだが、基本的に永琳はなにも言わない。俺が決めた事に従うだけだ。

 

「デウス・ウルト、ジハードなどという立派なものではないが、なんかいい案ないか」

 

「確認なんだけど、今回は豊姫と依姫は敵なのよね?」

 

「うむ。こちら側に下る事は、決してない。豊姫と依姫の性格上、まず無理だ」

 

「しかも今回はここに神奈子とキクリがいないもんねー」

 

幻月は今回、豊姫と依姫は味方では無い事を俺に確認し、俺は肯定すると、神奈子の名が出る。

本来、神奈子は必要だったのだが、この際、仕方ない。

 

「知ってるだろうが依姫は妊娠している。月の都と月の民を滅ぼすのは依姫が子を産んでからだということを、重々承知してほしい」

 

依姫は妊娠して、諏訪国にいる。多分、時期的に考えてそろそろ産まれると思うのだが

妊娠してるから月の民を皆殺しにする時、依姫の障害はなくなる。

だがそれでは依姫は納得しないだろう。だから依姫が産むのを待つ。

 

依姫の子が産まれて数週間ほど経てば、俺は 月面戦争を決行する 

その時なら依姫も全快してるだろうし、どうせ戦争するなら依姫もいた方がいい。

 

依姫の妊娠、そして依姫が産んだ後の戦争について話すと、夢月と幻月が棒読みで俺を貶してきた

 

「強姦魔ー」

 

「レイプ神ー」

 

「おいこら、依姫とは合意の上だ」

 

「…」

 

「なんだ。お前も俺が依姫を無理矢理手籠めにしたと思ってるのか」

 

ユウゲンマガンは首を振って否定し、俺を見ながらまた洋菓子を黙々と食べ始め、ユウゲンマガンは俺の隣にいる永琳に、視線を一瞬だけ向けた。

バカめ。永琳が俺を信じない訳ないだろ。

 

「もちろん永琳は思ってな」

 

「思ってるわよ」

 

……あれ。聞き間違いかな。隣の永琳を見たら読者していた。

読書をしているせいか顔は軽く俯いているので、表情が読み取れない。

 

永琳が読んでるのはイギリスの小説【フラットランド 多次元の冒険】だった。二次元に行きたいのだろうか。しかしそんなもの読まなくても

永琳がカラビ・ヤウ空間を使えば二次元や四次元にいつでも行けるというのに

 

今度は夢月が挙手して別の人物を提案した。

 

「純狐は?」

 

「駄目だ。こちら側に青娥がいる以上、純狐は使えない。よって、ヘカーティア・ラピスラズリも無理だ。仮に使えたとしても諸刃の剣か、獅子中の虫になる。お前、恨み買い過ぎ」

 

「中国神話とはいえこれでも神の一柱です。恨みを買うなど神として普通ではありません?」

 

「…確かにその通りだ。あ、クラウンピースって最狂の妖精なんだろ。…最凶最悪で

名高い幻月さん。やはり、ここはですね。最凶と最狂という二重の意味でも力添えを」

 

「嫌よ。大体さっきから私に頼ってなんなの。妹に頼ってあげないとか同郷の好みでも殺すわよ」

 

幻月に頼んでも駄目だった。寧ろ死刑宣告されかけてしまったじゃないか。

クソ、この妹大好きっ娘め。触らぬ神に祟りなしだ。オレ神だけど、幻月には勝てないし、この場は引くしかない。

 

青娥は中国神話の月の女神で、月に来たときヒキガエルになっていた。

俺が永琳、豊姫、依姫を使って月を牛耳った時に戻し、今は元の姿に戻っている。

 

純狐は華陽夫人と名乗り、ヘカーティア・ラピスラズリは地獄の女神として地獄にいるのだが

 

「あーめんどくせー。面倒だし青娥を人柱ならぬ神柱にするか。それで丸く収まるだろ」

 

「冗談じゃありません。そんな事をされたら私は殺されますので、断固反対します」

 

「んーそもそもね、青娥。貴方を除いてこの場にいる月人全員は、ひろ側なのを忘れちゃ駄目よ」

 

「そうね。青娥と違って私達は××神話だから」

 

神綺の言葉に永琳が共感すると静まり返る。青娥もそれを理解しているが、生贄などは真っ平御免だろう。

さっきから天井辺りでふよふよ漂ってるドレミー・スイートも中国神話側だが、この話において、基本的に関わる気がないようだ。

 

我らは、××神話の存在だ。ギリシャ神話と中国神話の神々との仲は良好だが、現状は、という話。全面戦争が必要な時は、する。

 

そこで青娥は、一つ提案した。

俺にとって最高の提案であり、この状況では最悪の提案だ。

 

「あのな青娥。お前が必要だからヒキガエルから戻してやったが、俺達にとって純狐

ヘカーティア・ラピスラズリの二人は、今の所ペルソナ・ノン・グラータでしかない」

 

「…それは理解しています。だとしても、数の暴力、多数決で決めるなど愚の骨頂。なので、一つ提案があります」

 

いやいや。俺達が××神話とはいえ、日本神話を見ても、日本神話の神々は民主主義だぞ。

みんな集まって議論して、可決とかするし。だが中国神話は違うようだ。

 

「先程貴方はこう仰いました。世界に存在する数多の美女達を侍らせるまで死んでたまるか、と」

 

言った。確かに言ったさ。俺の生きる夢であり目的だ。

隣にいる永琳は呆れ果てているが。何も恥じる事はない。

だが、俺はさっきの言葉を反芻していたら、嫌な予感が込み上げ、しだいに犇犇と感じてくる。

 

「私、純狐、ヘカーティア・ラピスラズリが欲しくありませんか。それとも私達は貴方の御眼鏡に適いませんか」

 

「うげ。今回はそうくるのか。お前、流石になりふり構ってられないようだな」

 

俺の皮肉を聞き流し、青娥はそのまま魅力を挙げてアピールしてくるが

他の月人達はまた始まったという顔で、それぞれ好きに食べて、飲んで、話している

 

「しかもヘカーティア・ラピスラズリを娶ればランパースのクラウンピースなども付いてきます。そして、ヘカーティアは貴方が愛してやまないギリシャ神話の女神です」

 

「ぐ…」

 

元々、へカーティアはギリシャ神話の一柱ではない。だが、過程はどうあれ、結果として

今はパンテオンの一部だ。だからこそ、この提案を即答で拒否できない

 

「更にヘカーティアは魔女の支配者であり。諏訪国にはブロッケン山から連れて来た魔女達がいますね。ヘカーティア、魔女と言えば、ギリシャ神話のメーデイアを思い出しません?」

 

「…き、貴様ァ! なんて、なんてあくどい手を…!!」

 

そう、だからこそ。パチュリー、レイラ、エリスの魔女達を諏訪国へと移住させたのだ。

 

勝ち負けの問題ではないが、このままでは俺は、負ける。

俺は垂んとしてしまう…狡猾な悪女め…! 

だが、全てが全て、貴様の思惑通りには動かん。

 

「いいだろう。貴様の思惑にまんまと乗ってやる。が、3つの提案をお前が受け入れたらの話だ」

 

「えぇ。なんなりと」

 

「…だがその前に、我が愛する者達よ」

 

青娥を除いたこの場にいる永琳、神綺、サリエル、魅魔、くるみ、夢月、幻月、ユウゲンマガン、夢子、る~ことに言い渡す。序でにドレミー・スイートにも伝える

 

「大前提として言うが。俺がする事は、俺達××神話が、ギリシャ神話と中国神話の神々

パンテオンとの戦争が勃発する確率が高い。だからお前達は腹を括っておけ」

 

仮にも、純狐は中国神話の一柱で、ヘカーティア・ラピスラズリはギリシャ神話の一柱だ。

一つ間違えれば、我ら××神話とギリシャ神話、中国神話の三つ巴戦争が勃発する。

俺達に利益があれば話は別だが、それが無い場合、戦争は出来るだけ避けるべきだ。

この場合は無価値な争いなので、戦争が起きるのは俺としても遠慮したい。

 

ただし、月の民は皆殺しにするし、月の都も滅ぼす。

これは無駄な事ではない、必要な事だ。

 

サリエルはギリシャ神話に中国神話と争うのは以前した時、徒爾だった事があるので、

それは回避すべきだと、左手を挙げて進言する。

 

「弘君。ギリシャ神話や中国神話とまた争うのは、かつての様に不毛な争いではないでしょうか」

 

「サリエルの言う通りだが、昔から俺達は一蓮托生だろう。巻き込んで悪いが、まずは全面戦争が起きるかもしれない事と、仮に起きても辞さない事を、今回も俺はこの場で宣言しておく」

 

幻月と夢月からは面倒だとブーイング、ユウゲンマガンはどっちでもいい、くるみと魅魔は賛成

青娥が言い出した事なので青娥は賛成でもないが反対でもない中立

同じ中国神話のドレミー・スイートは、出来るだけ話し合いの会談を望んだ

 

永琳、神綺、サリエルも思う所はあるようだが、最終的には俺に従うので、抗議はしないようだ。

る~こともただ従うだけ。夢子は俺と神綺に従うようだが、折衷派だ

 

会談と折衷は難しいな。なにせ、純狐とヘカーティア・ラピスラズリは青娥を恨んでいるのだ。

そこに話、または折り合いを求めても上手く行く確率は低い。

むしろ、余計に恨みを買う羽目になる場合もある。

青娥を差し出せばいい話だが、それで殺されては困る。青娥は必要だ

仮に青娥を差し出したとして、青娥が殺された後は俺達が蘇生してやればいい話だが

それは青娥が納得できないだろうし、拒否するだろう。

 

 

全員の意見を聞き終えたので、次の話に進めよう。

左手の人差指、中指、薬指話立てて、まずは薬指を折る。

 

「では、さっきの話に戻そう。青娥には俺が出す3つの提案を受け入れてもらう」

 

本当は、月の都を滅ぼす事について何の問題もない。

パスパタやトリシューラを幽香に持たせ、天羽々矢とインドラ矢を紫に持たせた。

次に輝夜には御頸珠を依姫対策として首に掛けさせ、豊姫対策としては死ぬ事などの

変化を嫌う輝夜の永遠がある。

 

月の民の最終兵器、豊姫が持っている扇子は、森を一瞬で素粒子レベルで浄化する風を起こす物だが、あれはそもそも敵味方識別されていて、月の都や一部の玉兎、一部の月人や月の民である月の関係者には効かない様になっている。

つまり俺や永琳達には効果が無い代物。まあ妖怪には効くんだが、そこは輝夜の能力を使えばいい。

 

要は、豊姫と依姫の問題が既に解決してるのだ。

ただ天魔やエリスはともかくとして、神奈子とキクリがいないのはかなり痛手

 

「1つ。貴様の道教、ある鬼女に授けろ」

 

「…あぁ。まだ華扇を気にしてるのね。そう言えばことわざで、蓬莱山に住む神仏。なんて言葉がありました」

 

「黙れ」

 

「冷たいですわ。私もあの場所で約束をさせていただいた一柱ですのに」

 

こいつには威圧的に言っても効果がない。いつも、笑うだけだ。

 

最大の問題は、純狐とヘカーティア・ラピスラズリだ。この二人は、青娥に恨みがある。

仮に、仮にだ。豊姫と依姫の問題を解決し、月の都、または月の民を皆殺しにしたとして

俺は一度、月の民を皆殺しにしてから蘇生させるし、月の都も復興させる。

ここで肝心なのが、その後。

 

次は中指を折る

 

「1つ。この場にいる月人全員、永琳達を使ってでも、お前を守ると俺の名に懸けて誓ってやる。だから俺が決めた事には逆らうな」

 

数人ほど不満を漏らしたが、この際無視する。俺も非常に癪だ、しかし

これは、俺だけの問題じゃない。月の関係者である俺達全員の問題だ。

 

青娥は右手を握り、左手を開いた状態で両手を合わせる拱手をした

こいつは、一つ一つの動作が婀娜というか官能的というか、基本的に男を惑わし、誘うものばかり。

 

「…Dāngrán。我无法想象没有你的世界。所以、我永远爱你」

 

「やめい」

 

「あら。私の思惑に乗ると言う事は、私を娶るという事をお忘れですか」

 

「貴様、亡くなったとはいえ嘗て夫がいただろ。儒教の教えはどうした」

 

俺が否定しても、何を言っても、青娥からは、あらあらうふふ。の反応しか返ってこない。

こいつは特に苦手だ。

 

「…なにを言うかと思えば、私は中国神話の月の女神です。貴方は中国神話の東方の天帝『帝俊』そして、帝俊の妻の一柱が月の女神『常羲』…運命めいたものを感じません?」

 

「ない。大体、その運命さえも昔に永琳が…」

 

先程から黙って隣に座っている永琳を見る。さっきから永琳がだんまりでスゴく怖い。

神綺達は普通に駄弁ってる。なんか、後ろで控えている鈴仙を見たら、鈴仙は永琳を見ながら涙目になっていた。

…だ、大丈夫。大丈夫ッたら大丈夫。

 

俺にとっては一度だけでいいのに、二度も三度も特定の人物、青娥を殺す為だけに月の都へ来られては鬱陶しいのだ。俺にはやるべき事がまだまだある。

だから、青娥、純狐、ヘカーティア・ラピスラズリの問題を放置する訳にはいかない。

面倒事を放置するのは愚かな行為、それに後で困るのは俺なんだ。

 

だから、純狐とヘカーティア・ラピスラズリをなんとかしなくてはいけない

 

「元とはいえ、人妻は御嫌いですか」

 

青娥は俺の右手を両手で優しく包みながら見詰めて来たが、俺には効かん。

俺の右手を包んでいた青娥の両手を振り解き、会話を続ける

 

「好きだが。大好物だが。相手がお前だし」

 

「それは残念ですわね」

 

最後の一本、人差指を折った。

 

「最後。玉兎は妖怪だ、皆殺し対象には含まれてない」

 

「だからこそ。豊姫と依姫がいない今。豊姫と依姫の愛玩動物である」

 

椅子から立ち上がり、後ろで震えながら控えていた鈴仙の背に回り込み、両手を鈴仙の両肩に置いて言う。

 

「俺達月人と月の民の奴隷。この玉兎を使おう」

 

鈴仙は、鈴仙の背にいる俺へと首を動かして顔を向け、素頓狂な声を出す

 

「……え?」




分かりにくいかと思いますが、今回の話で鎌倉時代へと突入していて
月面戦争については、依姫が赤ん坊を産んだ後になります。

る~ことは永琳に造られたセクサロイドですが、る~ことの役割はWeb Botに近いかもしれません

竜宮では竜女という仙女がいるのですが
弘天に中国神話の東方の天帝、帝俊を混ぜたのは、帝俊の妻の一柱が月の女神の常羲でして。
月の女神である嫦娥を青娥に混ぜたのは、天帝の帝俊を混ぜてる弘天が、月の女神の嫦娥を混ぜた青娥を娶る為です。嫦娥と常羲は中国神話の月の女神であり、尚且つ、同一視されてるからですね。
青娥、公式でも元人妻設定ですから、丁度いいと思いまして。そう考えると嫦娥と青娥って似ている部分が多々あります。

メソポタミア神話では神々の名が2000以上あるといわれていますが
諏訪大明神と建御名方神は元々別の神様だったのに同一視されて同じ神様と言われてますけど
本来は諏訪大明神と建御名方神は同じ神ではありません。別の神様です


はい。今回の地の文で書いた通り永琳のした事の一つはプロティノスの思想に近いです。
最初にも書いてますが、知恵の神様繋がりで、永琳がした事の一つはエジプト神話のトートにも近いです。
他に永琳はカラビ・ヤウ多様体やアカシックレコードにも関わっていて、因果や因縁果にも干渉してますし、引き寄せの法則エイブラハムにも携わってます。
まあ永琳には「人は常に初恋に戻る」の言葉や他にも色々混ぜてるので、永琳がした事はそれだけではないですが。

そもそも私は、時間という事象が万能。などと微塵も思っていません。
だから、永琳がした事は、時間が殆ど関係してないんです
この蓬莱山家に産まれたの東方キャラで色々混ぜてるのは、永琳が断トツでしょう

今回出した
メソポタミア神話、エジプト神話、ギリシャ神話、マヤ神話、ハワイの神話、ホピ神話、中国神話、アステカ神話、マヤ神話。これらの神話では人間が滅ぼされる話が実際にあります。
本当はこれらだけではなく、他の神話でもありますが、流石に多すぎるのでやめときました。

まあ、実際は今回で書いた通り、滅ぼして新たに人間を創るか、滅ぼしても数名生き残るか、苦しめるだけ苦しめて終わり、というパターンがこれ以外の神話でも多いです。
ですがこの、蓬莱山家に産まれた。では、かつて日本や外国にある全ての神話が起きた前提です。
そう考えると日本神話は人間にとって平和なものです。神同士の争いはありますけどね

信じる信じないは一先ずおいて。枢軸時代って、まるでマヤ神話やホピ族の預言に似てるんですよね。だからなんだと聞かれたら、特に意味はないです
しつこいですが。蓬莱山家に産まれた、では。日本神話だけではなく、これらのように外国の神話は実際に起きています。


四季映姫をギリシャ神話のディケーを混ぜたのは、ゼウスとテミスの3女神の娘は1柱、つまり単数の場合Hōra(ホーラ)と言われているのですが、ディケーを含んだ3女神、複数の場合はHōrai(ホーライ)と言われています。
弘天の名は弘天ですが、苗字が蓬莱山。蓬莱山、蓬莱、ほうらい、ホウライ、ホーライ。
こんな感じで映姫はディケーになりました。もちろんエジプト神話のマアトも映姫に混ぜてます

次に弘天は龗神(龍神)であり、天神であり、海神であり、水神であり、貴船大明神なのは前回の後書きで説明しましたが
龗神(龍神)が住む竜宮城には、季節関係なく四季が同時に楽しめる庭があり、四季の景色が見られると言われています


閻魔を殺すものとして大威徳明王、またはヤマーンタカというのがいます
元はインド神話のマヒシャースラで知られていますが、この大威徳明王と死後の菅原道真と習合され、菅原道真は太政威徳天神となった事は有名ですね
だから弘天には大威徳明王を混ぜてますし、インド神話のマヒシャースラも弘天に混ぜてます。

序でに言えば白澤、白沢は牛の姿と言われていますし、大威徳明王の神使は水牛と言われ、そしてなにより菅原道真の死後では、天神である菅原道真の神使が牛と言われてます。
つまり白澤、白沢である慧音は弘天の妻ではあるんですが、それと同時に弘天の神使ということになります。これ大事、本当に大事

望月、というのは満月の異称で有名です。今はありませんが長野県には望月城がありました。
この望月城はかつて天神城と呼ばれ、菅原道真の天神から因んだ名の弘天が、月人として月に関係してる理由の一つがこれです。
ですが最初は鎌倉時代に望月氏が本拠地として天神城を建城したと言われています。だから元々の城名は天神城で、望月城となったのは後という事ですね。

アリスは弘天の実娘ですが、蓬莱人形という使い魔の人形を所持している公式設定があるのでそうなりました。アリスを弘天の娘にしたのは特に深い意味はありません


有名でしょうが一応説明を
「天海」とは安土桃山時代から江戸時代初期にかけての天台宗の僧です

前回の後書きで、弘天は天神であり海神である説明をしましたが弘天が天海と名乗るのは、当初のプロットからすでに考えていました。
空海は真言宗、天海は天台宗なので同じ宗派ではありませんが…
ここでやっと僧である空海の弘法大師の名から因んだ弘天の弘が活きてくるわけです
長かった。まあ弘天の元ネタはまだありますけどね

醍醐天皇、菅原道真、源公忠、日蔵が地獄に行ったという話は実際にあります。
日蔵という僧が平安時代にいるのですが。彼は死んでしまい、地獄や浄土を巡っていたら、地獄に落とされ地獄でくるしむ醍醐天皇を、太政威徳天神となって雷神鬼王などの異形の配下を伴って現れた菅原道真と見て、日蔵は生き返った話が実際にあるからです。
本当はもっと色々な話があるんですが、流石に長すぎるので割愛します
ですが、醍醐天皇が地獄で苦しむのを見て日蔵が生還したとか今見ても意味不明です

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