蓬莱山家に産まれた   作:お腹減った

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今回魔法の森が出てきます。魔法の森は場所としてですが、長野県小谷村にあるブナの森に囲まれた鎌池辺りか長野県茅野市豊平にあるため池の御射鹿池な感じです。魔法の森に池は必要ですので。
魔法の森のイメージは長野県の御柱の森か鹿児島県の白谷雲水峡ですかね。まあイメージとしてですけど。
とりあえずその辺を魔女たちが術式や原生林な森に魔法を掛けたり魔法の植物をあちこちに栽培して、瘴気やら迷路状やら結界やら異次元空間やら色々しているので人間も妖怪も迂闊に入れば迷って瘴気とかで死ぬんじゃないかな。多分。


諏訪国の魔法の森

「お久しぶりお兄さん」

 

「ああ。最近はどうだパチュリー。レイラやアリス、魔女達と平穏に過ごせているか」

 

「ええ。神も妖怪も民も、みんな私達魔女が吃驚するほど良くしてくれてる。喘息も完治したから快適ね。エレンも魔女狩りに怯えず、平穏に魔法の研究で勤しんでるから」

 

魔女達が住んでいる館、ヴィクトリアン・ハウスみたいな建物の傍で木製の椅子に腰を掛け、お菓子と紅茶を飲みながらパチュリーと談笑しているが、ここは森のど真ん中で森に囲まれている。この場所は魔女達が原生林に魔法を用いて元は原生林だった場所を異空間に繋げ、神や妖怪は除いて人間が迂闊には入り込めない様になっている。

まあマヨイガの森みたいな感じで、名はそのまんまで魔法の森だ。それと紅茶やお菓子が無くなった時に新しいのを用意する為、魔界にいるはずの小悪魔がパチュリーの傍にいる。どうも、エリスの命で小悪魔はパチュリーに仕えているらしい。一応小悪魔と呼んでるが、小悪魔は愛称であって本名じゃない。パチュリーは相変わらず本を読みながら会話するが、一旦読むのをやめて俺を見る。

 

「それでどうしたの。東に行くと聞いていた筈だけど」

 

「実は、依姫が妊娠してな。お腹に子を宿した状態で働かせる訳には行かんし、依姫が余計な事をしないかどうかの監視を頼みたい」

 

「妊娠は御目出度い事だけど、監視…? 余計なことって具体的に言えばどんな事」

 

「お節介焼きだから、放って置けば勝手に掃除やら料理やらする女だ。せめて子を産むまでは安静にしなくてはいかんしその為の監視を頼む」

 

数秒程お互い沈黙。パチュリーは俺の隣に目線を一度向けたが、最後は頷いて承諾した。安心して右手を使い俺の隣にいた依姫の肩を掴んで抱き寄せた。依姫の顔を見たら不服顔で、椅子に座っている依姫の上にレイラが乗ってケーキやお菓子を食べている。

 

「弘さん。私は自分の体調管理が出来ない女ではありません。それ以前に、この場に私がいるのにパチュリーに監視を頼むなんてどういうつもりですか」

 

「隠し事されるよりはいいかなと思って依姫とも同席して話をするんじゃないか。なあレイラ」

 

「うん!」

 

満面の笑みでレイラは俺に顔を向けたので、右手で依姫を抱き寄せたまま左手でレイラの頭を撫でる。隠してたら隠してたで俺が依姫に怒られるんだ。ならば最初から打ち明けておいた方がいい。パチュリーには最後に、萃香達へ頼んで諏訪国の寺子屋建てるから諏訪国の子供達に魔法のご教授願いたいので、暇があれば頼むと魔女の皆に、特に エレン へ伝えて欲しいと頼んでおいた。

まだ不服顔の依姫と口吸いし、数秒程したらやめ、依姫の頭を撫でながら椅子から立ち上がって、帰り際にパチュリーの背に控えていた小悪魔を見てアイコンタクト。すると小悪魔は頷いた。俺は背を向けて魔法の森から抜けようとし、レイラと手を繋いで去る。この魔法の森、魔女の誰かに案内されないと迷うんだ。

 

「しかしこの魔法の森、不気味で怖いんだけど」

 

「もうー なさけないなー」

 

笑いながらレイラに言われるが、不気味で薄暗いし、お化けが出そうで本当に怖い。レイラと手を繋いでいたから少し手を握る力を強めたら、痛いよとレイラに言われたので繊細にレイラの手を握りながら奥に進む。結構歩くのかと思いきや、辺りが明るくなり太陽の日差しが所々に差し込んで来た。数分で魔法の森から抜け出せるようだ。魔法の森から抜け出せたのでレイラは帰ろうとしたが引き留めて一緒に神社に向かう事に。白蓮と幽々子達に会わせる為だ。魔法の森から神社の近くにある鎮守の森まで歩き終え、そのまま歩くと森を抜けて神社の庭に出る。縁側で二人の少女が森を抜けた俺に気付いて駆け寄って俺の元へと駆け足。

 

「氏神様ー! 寂しかったよ会いたかったよー!」

 

「ぐはぁ!」

 

諏訪子直伝のロケット頭突きをお腹に食らい、倒れなかったが咳き込んだ。もう永遠が俺にはない。永遠を無くした理由は平将門に会いに行く時、マミゾウの能力を使う際に邪魔だったからだ。お腹で顔をすりすりしている白蓮を撫でながら白蓮にもう幽々子と友達になったのか聞いてみた。摂津国の弘川寺にいた西行は記憶を既に消している。

 

「び、白蓮と幽々子はもう友達になったのか」

 

「私達友達になってもう仲良しなんだ! ねー?」

 

「ねー?」

 

白蓮と幽々子は顔を向かい合わせて首を傾げながら同調。レイラの事を紹介しようとしたらもう知っていたらしい。パチュリーやアリスも顔を合わせて友達になっている様だ。レイラと白蓮は幽々子に魔法を教えてあげると幽々子を連れて神社の庭で魔法の勉強会をし始めた。神社のふすまを誰かが開けて、中から出て来たのは藍だった。

 

「子が産まれたそうだな藍」

 

「はい。主と私に、珠のような可愛い娘が産まれました」

 

縁側に座り俺の隣にいる藍が1人の赤ん坊を抱っこしてあやしている。横目で藍を見ると藍のその顔は母親のそれ、俺も抱っこしてみたが結構重かった。目の前の庭には平安京から連れて来た幽々子と白蓮、奴隷商人から買い取った魔女のレイラの声が耳に入る。一緒に遊んでいる様だ。あ、それともう1人いる。白蓮の背に隠れているんだが、その子は白蓮の妹。前、白蓮には妹が産まれたそうだが俺がいなかったので聖は永琳に名付け親を頼んだらしく、名付け親として頼まれた永琳が名付けたその子の名は 命蓮 と永琳は名付けた。諏訪国には100を超える魔女がいるが人里から少し離れた所にある原生林で、魔法を使って原生林を魔法の森なる場所へと変貌させて命の危険にはもう怯えずに生きられるので魔女達、エレン、パチュリー、レイラ、アリスは気ままにそこへ住処を建てて住んでいる。一度魔法の森に俺は行ったが迷ってしまい、魔女の誰かが案内してくれないと迷うのだ。もしくは魔女達に頼んで魔法の森へ認証させるとかの手段もある。しかも魔法の森に魔女達が化け物茸やマンドレイクを植え魔法を糧として魔法の植物を栽培している。どうも魔法の森のあちこちにあるマンドレイクという植物と化け物茸の胞子が原因で魔法の森は迷うようだ。

 

「主。私はこの子の真名を考え、いずれその真名を教えるつもりですが。主の許可なく勝手に真名を考えてもよかったでしょうか」

 

「産まれた子が男の子ならまだしも女の子だし、男の俺が考えるより女の藍が考えた名がいいと俺は思うから気にするな」

 

藍は抱っこして右手で寝ている赤ん坊の背を優しくぽんぽん叩いてあやしながら俺に聞いた。白蓮とレイラが幽々子に魔法の使い方を教えている光景を眺めながら気にするなと首を振る。

諏訪国の政治を任せている 豊聡耳 神子 物部 布都 蘇我 屠自古 の評判を軽く聞いてみたら、民達から不満は出て無いそうだ。よかったよかった。流石、大和朝廷の政治に携わっていた者達だ。

 

「子を産んだばかりで悪いんだが狐で稲荷大明神の藍に頼みがあるんだ。嫌なら拒否しても構わない」

 

「私は主や永琳様に仕える巫女であり神使なのですからお気になさらず。寧ろ私にもっと言いつけて仕事を与え、命令してください」

 

藍の言葉に感謝しながら藍にはこの後下野国へ赴き、玉藻御前という女性と話し合い懐柔してほしいと藍に言ったら、分かりましたと一瞬も悩まずに即答で返される。ここまで従順なのはやはり心配である。昔から俺の命が優先で自分の事は二の次なのはありがたいし嬉しいが、俺みたいに自分の事を一番に考え生きて欲しい物だ。

藍の台詞を聞いてまずは両手を数回叩いて呼び出す。目の前に目をぎょろぎょろ動かすスキマが開き、中からは紫と幽香が顔を出し、最初に幽香がスキマから降りて俺に近づいて右手の掌を俺の右頬に当てた。

 

「お父様。やっと帰って来たのね。帰って来て私達を呼び出してくれるのをずっと待ってたわ」

 

「それよりお父さん大丈夫? 顔が辛そうに見えるんだけど」

 

紫も幽香に遅れて俺に近づき、縁側に座っている俺の隣に座って俺の顔を覗き込む。白蓮に諏訪子直伝のロケット頭突きを喰らっただけだと言ったら、苦笑いしながらご愁傷様と俺を慰める。感傷に浸りたいところではあるが、そのまま本題に移る。永琳はいない。今は月のクレータのティコにある研究所だ。月を無くすためにな。

 

「今からどれだけの妖怪を動かせる」

 

「すぐに動かすなら300から500くらい、かな。パルスィやヤマメの百鬼夜行にはまだ八ヶ岳に住む妖怪を全て平らげてないから動かせないよお父さん。八ヶ岳は本当に広くて高いね」

 

「私、萃香、勇儀、華扇が一緒に行くなら苦戦は強いられる事はなさそうね。私達4人だけでも十分な戦力になるから」

 

「なになに、久しぶりに戦えるの? 絶対私達行くから、来るなと言われても絶対行くから! だいだらぼっちみたいに大きい手洗鬼と競うのも楽しいけどね」

 

今は紫や幽香、萃香達の配下だが。西の妖怪だった 手洗鬼 とは鬼の名があるが鬼では無く、だいだらぼっちと同一視されることもある四国地方の妖怪であり巨人だ。四国地方の妖怪 犬鳳凰 も配下にしてる。霧のまま喋る萃香が行く行くとしつこいが、元よりその気だったので連れて行く。それを聞いた萃香は霧のまま喜びの声を挙げて勇儀と華扇に伝えてくるとこの場にいた萃香の霧と気配が消えた。

 

「じゃあ萃香達も連れて行くか、ならば紫に幽香。関東、下野国にいる百々目鬼、玉藻御前、リグルを引き込む為に全ての妖怪を引き連れて下野国に向かってくれ」

 

「分かったわお父様。東の妖怪を全て叩き潰せばいいのね、じゃあ行くわよ紫」

 

「いや叩き潰したらダメでしょ幽香。その前にぬえも呼ばなきゃね。幽香のお目付け役だから」

 

幽香はぬえのお目付け役と聞くと立ち止まって振り返り、暴走しないからぬえをお目付け役にしなくても大丈夫と、幽香は目で訴えかけるが俺は口笛を吹いて気付かない振りをする。

リグルは下野国にある戦場ヶ原、玉藻御前は下野国にある那須野、百々目鬼は下野国にある明神山、二荒山神社の近くにいる。他にしずか餅や化灯籠、ムジナに化けて真夜中 不気味な歌を歌いながら徘徊する小豆研ぎ婆。あ、雷獣も下野国、栃木県の妖怪だった筈だ。紫と幽香には雷獣をもう一匹捕獲して貰おう。いや、それは紫と幽香より華扇と華扇が飼ってる雷獣の方が適任やもしれん。後で頼んでおこう。紫と幽香は了承して妖怪達を挙妖しにスキマへと入っていく。俺も腰を上げ、藍を見る。

 

「子はどうする藍。そのまま置いとく訳には行くまい」

 

「大丈夫です。てゐに頼んでおきますから」

 

「氏神様… また遠くに行っちゃうの?」

 

いつの間にか白蓮が傍にいて、俺を見上げながら聞かれた。白蓮の服装は西洋風で、白黒のゴスロリ風ドレスに黒いブーツを履いている。どうも魔女のエレン、アリス、パチュリーが考え、魔法で造り出したらしい。

 

「平将門の件が終われば、暫くは諏訪国に留まる。だからそれまで待っていてくれ」

 

「うん…」

 

「ごめんな、黒姫」

 

片膝を地面に付け、俯く白蓮を抱きしめる。白蓮も抱きしめ返す。片手で白蓮の背を撫でて数分。いつまでもこのままではいられないので、名残惜しいが白蓮の背中を片手でぽんぽん叩いて離してもらった。別に、僧や仏教を嫌っている訳では無い。ただちゃんと、女や酒に溺れず、僧の役目を果たして欲しいだけなんだ。

 

 

準備を終えたので諏訪国を発とうとしたらお腹が大きくなってきている依姫に不安げな顔で見送られる。あれほど安静にしておけと言っているのに見送りに来た様だ。俺は平将門、シンギョクの命を拾うべく関東へ、紫と幽香も妖怪を引き連れて関東に行く。

今の永琳は色々忙しいし、諏訪子も椛とはたてに取っておくよう頼んでおいた高千穂峰の山頂に突き立てられていた日本神話の 天逆鉾 を使ってユーラシア大陸を上回る程の空に浮かぶ大陸を創造してもらわねばならんのだ。

 

「弘さん。やはり私も一緒に行った方がいいのでは」

 

「駄目に決まってるだろ。いいかパチュリーにレイラ。依姫は絶対に何かする事はないかと聞くのは目に見えている。二人の役目はお腹の子を労わる様に依姫を安静にさせるのだ」

 

「任せてちょうだいお兄さん」

 

「分かったー!」

 

魔法の森からパチュリーとレイラも来て見送られながら出立。竜頭蛇尾にならないように祈り、平将門がいる常陸国、茨城県にある利根川は 禰々子 という河童の女親分でメスの河童が神として祀られていたりする。東の妖怪 縊鬼 とかも欲しい。空で輝く太陽を見つめ、簠簋内伝を思い出しながら隣にいたマミゾウに問う。

 

「では早速、シンギョクの容姿を覚えているかマミゾウ」

 

「第一声がそれとは酷い男じゃ。シンギョクの容姿はちゃんと覚えておるわい」

 

マミゾウは木の葉を一枚俺の頭に乗せると煙が俺の体を包み始め、顔や着ている服や髪型がシンギョクと同じになる。マミゾウは手鏡を取り出して俺に鏡部分を向け、自分の顔を見るとなんとそこには美男子が。瓜二つだ、これで平将門の妻である桔梗、桔梗伝説の話を使える。人間の目では俺が平将門になっているのを見抜く事は出来まい。この優男な素顔で紫と幽香を見る。

 

「どうよ紫と幽香、美男子だぞ」

 

「好みじゃない」

 

「気に入らない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1人の神に痩せこけた城頭巾を頭に被る坊主や咳をする女が平伏して命乞いをする者が寺の前で大勢。この場の僧や女は飢饉や病に苦しんでいる者が多い。大剣を肩に担いで1人だけ立つ男は笑いながら平伏している者達に言う。

 

「いやいや。今や神仏習合されてる俺って 牛頭天王 だろ? その俺が直々にお前達を殺してやるんだ、寧ろ僧なら感謝してくれよ。死ねば涅槃もクソもないぜ」

 

また一人、一人と、僧兵や坊主や女の頸を刎ね、スサノオは返り血を浴びまくり身体の所々が赤一色で染まり、辺りは死屍累累。すると死屍累累だった死体が立ち上がり、うめき声を挙げながら辺りを徘徊し始め、そのまま延暦寺や森に入っていく。少し時間が経つと延暦寺の中から僧の叫び声が聞こえてくるが、今頃ゾンビと化した者達に目や腕や足、耳や鼻に舌。両手や両足の親指、人差指、中指、薬指、小指を噛み千切られながら喰い殺されている頃だ。それを気にせず目につく範囲で生きている人間はいなくなったので、これで十分かとスサノオは大剣を肩に担ぎながら隣で僧兵や女が殺される光景を見ていた肩から死体を操っている黒猫のお燐を乗せていた輝夜に確認する。

 

「蝦夷、平氏、源義仲、奥州藤原氏も神国側だがよ。既に建てられた寺は燃やさずに残し、ちゃんと修行してる坊主は殺さなくてもいいんだよな」

 

「そうね。お兄様も放蕩だけを鏖殺しろと仰っていたから。お寺を焼失させる理由も、僧兵は皆殺しだけどちゃんと修行している僧を殺す理由はないもの」

 

なにも日本の西側に住む全ての僧を殺し、仏教に関係する寺などは全て取り壊して仏教を滅ぼそうとは考えてはいない。ただ天竺の宗教である ヒンドゥー教 は仏教の開祖である仏陀、釈迦如来をヴィシュヌのアヴァターラ、化身として仏教をヒンドゥー教へ取り込んだように、いずれは日本の仏教を神道に取り込むからである。とは言え、それはちゃんと修行をしている僧の場合に限る。人を殺す僧兵や、女や酒や金に現を抜かしていた坊主たちが、ちゃんと慎ましやかな生活を送りながら修行していた者が比叡山延暦寺に1人でもいたらその僧は殺さないといった話。悪僧、僧兵は別だ。僧兵が自分の身を自分で守る考えは大事ではあるが、僧が兵になるなど仏教の考えから逸脱している。これでは仏教とも仏に仕える僧とも言えない。

咲夜が森の中から出て来る。全ての僧が死んだかどうかを確認していた。数人ほど森へ逃げたのだが、咲夜が追いかけて止めを刺す為だ。咲夜の頬に数滴の返り血が付いている事に気付いた輝夜は、ハンカチを取り出して返り血を拭い。咲夜は輝夜にお礼を言いながら現状報告。

 

「逃げた僧と僧兵を仕留め終えましたわ。これで延暦寺の僧も僧兵も全滅ですわね」

 

「まあ。十六夜 咲夜が仕留め損ねても天津神達が比叡山を包囲しているから無駄な足掻きだけどよ」

 

「延暦寺の僧兵へ陣中見舞いにと、 先に袋に入った小豆を届けた方が良かったかしら」

 

咲夜はフルネームで呼ぶなとスサノオに言うが、輝夜の言葉を聞いて袋の鼠かとスサノオは腕を組んで高笑い。僧が逃げた時点でアウト。僧が神や仏に許しを請う時点でアウト。僧が死にたくない生きたいと、殺される恐怖を感じた時点でアウト。まだ修行をしている未熟者とは言え、感情に突き動かされる僧は生かす理由は無い。もちろん僧も人間だ、死にたくないと生存本能が訴えかける。だが僧が何の為に修業をするかと言われたら煩悩を捨て、悟る為である。煩悩の犬は追えども去らずとも言うが、煩悩を捨てる事は感情も思考も捨てなければいけない。それらは釈迦の様に涅槃の境地へ向かう為には邪魔なのだ。スサノオは大剣にこびりついた血を手ぬぐいで拭いながら、延暦寺は終わったので次はどうするかを輝夜に聞く。

 

「んで。次はどこに向かえばいいんだよ」

 

「僧兵がいる所は全部当たろうと思うの。次は摂津国にある石山本願寺。その次は高野山真言宗。西に向かいながら修業を疎かにしている僧、人を殺す僧兵には消えてもらいましょう」

 

「では山城国の近畿地方から九州までを天津神 総動員で当たりましょうか。戦力を一つの国に集中するより分散した方が終わるのが早いですから」

 

「え、まさかあたいも行くの?」

 

輝夜の肩に乗っていたお燐の言葉に輝夜は顔をお燐に向けて頷いたので、お燐は早く帰りたいと嘆き、咲夜は輝夜の従者なので従う。弘天は延暦寺や本願寺の女や酒に現を抜かす僧や僧兵を皆殺しにしてくれと輝夜と咲夜にお燐は頼まれているが。序でなので近畿地方から九州にいる僧兵を消した方がいいと考え行動に移す。延暦寺の中にある僧や僧兵の死体は一か所に集めて火葬や エンバーミング せず放置しておくことに決めた、死体は放って置けばいずれ腐敗して遺体から感染症が蔓延するのだが、これは今も病が流行っている病原菌を増幅させるためだ。

そして死体を放置する上で重要なのは、充分な供養を受けていない死体が化けた 陰摩羅鬼 を生み出す為であり、この陰摩羅鬼は山城国の妖怪でもある。

 

「あら、スクナビコナじゃない」

 

「少名 針妙丸だってば」

 

森の奥から来訪したのはスクナビコナ、もとい 少名 針妙丸 薄紫色のショートヘアーにお椀の蓋を頭に被り、服は赤色の和服で、裸足。 針妙丸は辺りを見渡して息を漏らす。

 

「天津神のサグメがいると思って来たけど、いないのね。折角、瓜子姫と天邪鬼のお話で自作自演をした人物をお縄にちょうだいしたのに」

 

スクナビコナは打ち出の小槌で人間と同じ大きさになっている。スクナビコナは縄で括られて簀巻きにされている人物を地面へ放り投げ、簀巻きにされた人物が地面に叩きつけられる痛かったのか声を漏らしたが、頭には小さい角が二本生えている。朱雀門に住んでいた天邪鬼の鬼人正邪は怒鳴り声を上げる。

 

「縄を解け、私は決められたレールを進むのはゴメンだ! 今の人間達が何も考えず神を崇める様に従って堪るか!」

 

「昔から何かに従うのを嫌い、逆らうのが大好きだったわね。でも天邪鬼は脆弱な妖怪、打ち出の小槌も無いのにそれで天津神や国津神にどう対抗するの。貴方一人で何が出来るの」

 

「人間は、何かに縋らなくては生きられないですわ。食も水も満足に供給されている訳ではないのよ」

 

スクナビコナはそれに首を横に振り、咲夜は今の人間たちの生き方は何も間違ってないと返す。天邪鬼の鬼人正邪には諏訪国に住む 

伊吹萃香、星熊勇儀、茨木華扇、ヤマメ、パルスィ、紅葉、コンガラ、鬼人正邪。

この8人の鬼女たちに与えられた魏石鬼、または八面大王の再結成には必要不可欠。だから五体満足で生かして捕らえ、現在簀巻きにされて地面に横たわっている。正邪は芋虫の様な動きをしながらまた怒鳴った。

 

「お前達、頭おかしいだろ? 決められた通りに進んで何が楽しい。バカみたいな年月を生きて同じ事を繰り返して。そんなの生きていると言えるのか。何度 時間の矢を放つつもりだ!」

 

正邪は頸を動かして先程から黙って静観していた咲夜を見るが、咲夜は正邪に向けていた視線を横に逸らした。スサノオは咲夜に替わって正邪に言う。

 

「おいおい勘違いすんな、時間の矢じゃなく時間のブーメランだ。それによ、全ては同じに進んでねえし並行世界は存在してねえ」

 

人間とは もしも 仮に if maybe 可能性 という言葉が好きだ、下らない。神を見た事が無いと言ってる人間共の様に、観測できない時点でそれは存在しているとは言えないのだ。

確かに物理的因果性に基づき保たれているなら、世界は無数に重なり合っている。しかし、世界は重なり合っているが、世界は一つだけしか存在しない。

 

「御託はいい! 妖怪は数多くいるが、その中にいる私の様な弱者も強者な妖怪も神の操り人形じゃない!」

 

スサノオは笑って言うが、正邪はただ怒鳴るだけ。この先、天邪鬼の鬼人正邪は必要。双六勝負をした弘天は勝つ事が目的では無く、鬼人正邪を見極める必要があったから双六勝負の勝負を申し込んだ。昔から天邪鬼とは嘘を吐き、本当の事は言わないのが天邪鬼だったから。もしあの双六勝負に弘天が勝っていても仲間になる事は無かったのは目に見えていたのもある、そこで鬼人正邪が嫌がりそうな負けを選んでその場から去った。だからスクナビコナは鬼人正邪を捕らえ、簀巻きにしてサグメに引き渡そうとしたのだ。輝夜は縄で簀巻きにされている正邪を見下ろし、右手を正邪の頭に置いた。

 

「正邪。貴方の言いたい事は分からないでもないけど、お兄様には貴方が必要なのよ。それに逆らうのなら私達ではなく脳、世界、精神、力への意志に逆らいなさい。ねえ、咲夜」

 

「人間は自分達が脳を支配していると勘違いしていますが、実際の人間は脳に支配されています。常に人間は束縛され、法に、秩序に、国に、記憶に、政治に。挙げればキリがありませんわね」

 

「それで正邪はどうしよう。サグメに引き渡しに来たけど無駄足でしたし。正邪、私達も輝夜と咲夜について行きましょうか。重いからスサノオ、お願いします」

 

「なんで結論がそうなるの!? 姫、私の縄解いて!」

 

「嫌」




白蓮は長野県のお話にある黒姫伝説の黒姫の立ち位置。

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