蓬莱山家に産まれた   作:お腹減った

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長谷雄草紙

ぬえに紫と幽香の事を頼んだので、朱雀門の上に飛んで寝そべり、大の字になって寝ころびながら満月を眺め、俺のお腹には丸くなって寝ているお燐もいる。

 

月人を皆殺しにした時もあった。世界から太陽と月の概念。太陽自体、月自体を無くした時もあった。俺は、皆が皆。手を取り合って生きて行けるとは、どれだけの時間の矢が放たれ生きようとも無理だと、そう頭にしこりが残っている。太陽も月も、人間、または自然界になくてはなら無い恒星と衛星。

 

人間と引力や生き物のバイオリズムは月の引力に因果関係がある、月の引力で有名なのは潮の満ち引きが有名ではあるが、それだけではない。ウミガメは下弦の月に産卵し、サンゴが産卵するのは満月の夜。ニンニクは月の欠けている間に成長するとかもあり、そしてニンニクの話の中にギリシャ神話の月の女神 ヘカテー に関連が有る。まったく、日本各地にある混ざりに混ざったスサノオの話みたいに吸血鬼の話は複雑で手に負えない。

 

 

19世紀の伝道者 ヘンリ・ドゥラモンドが言った『隙間の神』とも言えるかもしれんが。隙間の神と言われると、まるで紫だな。

 

話を戻して、イングランドの物理学者、数学者、自然哲学者である アイザック・ニュートン が着想した 万有引力 がある。

 

実は人間に限らず、満月の夜になると力が増す妖怪もそうなのだ。万有引力の影響を受けつつ引力に引き寄せられている、分かりやすく言うなら『頭に血が上る』

つまり。血が上へ上へ、空、宇宙の衛星の月へと引き寄せられて昂っていると考えればいい。だから俺が暇つぶしに思いついて遂行したのは、その月が無くなれば人間はどうなるだろう、とかな。そんな事をすれば人間だけでは無く自然界のバランスや生態系が確実に狂う。ので、消した時もあった。

 

日本神話で言うなら太陽神である天照大神が隠れ、世界が真っ暗になった岩戸隠れ。これ、太陽が隠れて世界はずっと夜に包まれてしまい、月だけが残ったせいで、満月の夜になると力が増す日本の妖怪たちが暴れて騒ぎ出してかなり大変だった記憶がある。八百万の神、八百萬神。神道の神が総動員で妖怪を鎮圧しに行ったが。何分、神に限らず妖怪の数までもが無駄に多く満月の夜になると力が増す事もあり鎮圧は時間をかけねば無理だったので、高天原の知恵袋な永琳がいなかったらどうなってたのか。あの時は 桂男 も暴れていたし。前にも言ったが、高天原の場所の一つは 月 だが地上にも高天原はある。

 

俺は常々思っていた。月の民は地上に住む生物、特に妖怪と人間を極端に嫌っている。妖怪は自然から妖怪化し、妖獣は元は獣から妖怪化した存在。妖怪も妖獣も自我や意思、理性を備えている。知能も人間に勝るとも劣らない。だがそれってさ、まるであの時の、最初は本能だけで生きていた人間達と似てる、って。

 

イギリスの自然科学者、卓越した地質学者で生物学者 チャールズ・ダーウィン が

猿から人間になったという進化論もあるが、これは違う。人間は、最初から人間だ。一度も進化はしていない。

一部の人間はインテリジェント・デザイン説ではあるが、全てがインテリジェント・デザイン説ではない。

 

まあいいや。どうせ諏訪国以外の人間は苦しめ、月に住む者は一度皆殺し。とっくの昔にそう決めてるのだから。明日は十六夜、既望だが、今はまだ十五夜なのでぼーっと望月、満月を眺めていたら、地上から翼が羽搏く音が聞こえ、顔を上げて音の方向へ目を向けていたら右だけ生えた翼と、銀髪でセミショートの髪をハーフアップが見え、そのまま大の字でいる俺の隣まで天使の様な翼を羽搏かせながら降りる。しかし、サグメは飛んでいたのでスカートの中が見えてしまった。

 

「サグメ。下着が見えてるぞ」

 

「……」

 

今日は風が強いから、サグメが履くスカートは風の影響で揺れてサグメの下着が視界に入ったのは不可抗力。そう指摘すると両目を瞑り黙ったままサグメは両手でスカートを抑えるが、スカートを抑えながら俺の隣に来て、右手を差し出すので見たら。

 

物部氏の氏神 饒速日命が乗っていた 天の磐舟 だった。サグメは天の磐舟を持って来てくれた様で、俺が天の磐舟を受け取ると隣に座り出した。お互い何も喋らないまま満月を眺めていたのだが、サグメを見たら頭を下げた。大の字で寝そべっていた俺は上半身を起こして、右手を隣にいるサグメに差し出そうとしたが、両手でサグメの両頬を引っ張る。

 

「気にしなくていい。天の磐舟を持って来てくれたんだし言う事は無い。お前が尊敬して崇拝する八意様の永琳もそう言う」

 

「……」

 

「余計な迷惑を被らせてしまい、すまない」

 

サグメは気にしてないと言いたいのか頸を横に数回振る。本来、朱雀門に住む鬼人正邪を引き込むのはサグメの役目であった。とは言えサグメが双六勝負に負けたのは気にしていない。天の磐舟は掌に収まるほどのサイズでちんまりしているが、俺には 打ち出の小槌 があるので、天の磐舟を大きくする事が出来る。なぜ天の磐舟がこれ程小さいかと言うと、回帰の影響だ。

 

そして肝心なのがこの天の磐舟を永琳と河童に頼んで改造する。

 

 

天の磐舟から『聖輦船』にな。平将門がいる常陸国、茨城県の江戸時代で見られた伝説の船である 虚舟 の正体は 聖輦船 と言う訳だ。

 

 

「能力のせいで全く喋らないな。本当はお喋りな女なのに」

 

「…」

 

両手でサグメの両頬を軽く引っ張ったり頬を揉みしだいていたが一切喋らない。サグメはされるがままである。暫くサグメの頬で遊んでいたら、サグメは自分の片手の掌をまず俺に向けてから、次に掌を向けた片手の人差指を自分に差し、やっとサグメが一言。

 

「奴隷」

 

奴隷奴隷… 頭の中で反芻する。いい響きだ、玉兎の鈴仙も奴隷だから人権は無いので好き放題に出来ている。あ、サグメって天津神で月の民だから玉兎を含め月の都に住む者は俺と永琳などの 奴隷だったな。それでされるがままなのか。

 

それに、月は高天原である。そして肝心なのは古事記に記載されている『御頸珠』を俺が頸に巻き、かけている。古事記に置いて御頸珠はイザナギが天照に高天原を治めよと委任させアマテラスに授けた物が御頸珠である。

 

つまり御頸珠とは『高天原を統治する者の証』なのだ。王が宝石やら何やら、煌びやかなもので着飾る人物が多い。それは自分が王だと他の者に一目で知らしめるためでもある。

なので俺は高天原の統治者になるんだなこれが。即ち高天原の場所の一つである月も含めて。まあ元々、俺は月の王子らしいがね。

サグメの頬で遊ぶのはやめて、目をサグメが背負う弓を見つめて右手をサグメに差し出す。

 

「急な話で悪いが。サグメの背に背負っている『天鹿児弓』を貸してくれないか」

 

「……」

 

サグメは黙ったまま、俺の申し出に頷いて天鹿児弓を渡してきたのでそのまま右手で受け取って借りた。この天鹿児弓は日本神話に出てくる物、元々永琳が持っていた天鹿児弓をサグメが受け継ぎ、天鹿児弓の片割れで紫が永琳から受け継いだ 天羽羽矢 などは神と妖怪限定で神力と妖力さえあれば矢は必要ない。

 

俺のお腹の上で寝ていたお燐を謝りながら優しく揺すって起こす。のそのそと起きたお燐は俺の肩に乗ったので俺は立ち上がり、右手で天鹿児弓を持ちながら構え、神力を天鹿児弓に注ぎ込んでいくと弓の弦に光の矢が生成され、俺はそのまま宛てがっている光の矢を月のクレーターティコに標準を合わせて、左手で射出。

 

矢とは反発力を利用して放つ物だが、この神力で生成した光の矢、反発力は皆無で力は込めていないのに弓の弦から放たれた光の矢、月光の矢はソニックブームを巻き起こしながら音速の壁を越え、光速な 等加速度直線運動 で月へと向かって行く。

あれだ 慣性の法則 とも言う。放たれた矢の後光がオーロラみたいでとても幻想的である。最後にもう一発射出するが、これは東に向けて。計二発を放ち終えた、これでいい。一発目に放ったが、月のクレータにあるティコへ届くかね、まあ届くだろう。きっと。弓である天鹿児弓をサグメに返して借りたお礼を言う。

 

「もう十分だ。ありがとよ。序でと言っては何だが、渡したい物というか、預かっていた物を返しておく」

 

お礼の言葉を聞いて頷いたが、サグメは俺が何を言っているのか理解できず不思議がる。そりゃあそうだ、サグメは覚えてないんだから。殆どの者はいらないといって回帰したが、ごく一部の者は時期が来たら戻してほしいと頼まれている。まあ、時限爆弾みたいな感じ。サグメの右腕を左手で掴み、右手の人差指をサグメの唇に当てて行う。

 

「サグメ。回帰前で交わした約束通り、お前の記憶。今まで蓄積された記憶のデータを戻してやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あるお寺に一人の女性が来訪。修業するため寺にいた坊主は用件を女性に伺うと、女性は腰に差した剣の柄を左手で掴みながら抜き、剣の切っ先を坊主に向けて首元へ切っ先を当てる。剣の切っ先が当たった首元が軽く切れたのか血が溜まり、そのまま一筋の血が流れる。女性は空いた右手の人差指、中指、薬指を立てながら話す。

 

「急で申し訳ないのですが、貴方に聞きたい事が3つあります。一つでも答えを間違えば死んでもらいますのでご容赦のほど」

 

剣の切っ先を坊主の首元に向けている女性は、その剣で頸と胴体を切り離して殺す気は無い。頸と胴体を切り離したとしても即死はしないとはいえ、苦しむ事は無いのは間違いない。なので、延々と死ぬまで苦しませる為にファラリスの雄牛に坊主を入れ、炎に炙られながら苦しみながら死んでもらう。

 

実は女性の目の前にいる坊主の前に一人、坊主の男が既にファラリスの雄牛に入れられた後はカグツチの炎に炙られ、ファラリスの雄牛に入れられた坊主は叫び声を上げて悶え苦しみながら殺されている。女性の目の前にいる坊主が、女性の質問を一つでも間違えたら最後、ファラリスの雄牛に入れられている坊主と同じ末路を辿る事になるだろう。

 

しかし剣の切っ先を首元に当てられて血は流れているのに、それを聞いた弘川寺にいる坊主は怯えるどころか、頷いた。坊主は煩悩や執着を絶ちながら無常でいなくてはいけない、その為の一つとして坊主は寺で修業するのだ。性欲や欲望、極端な話で言うなら生存本能によって生きようとする本能までも無くす必要がある。恐怖や痛覚さえも、必要ではない。坊主が涅槃の境地に立つ為にはそれらの欲求は、坊主が涅槃の境地に立つための不純物であり夾雑物であり不要なのだ。

女性は中国の道教や儒教が入り交じり初期仏教ではなくなった仏教も、ファッションか何か、崇高な宗教と勘違いしている仏教に関係する坊主などに対していい感情は持ち合わせていないが、それを成し遂げている坊主を少し感心した女性は話を続ける。

 

「では質問する。佐藤 義清、いいえ。今は西行でしたか」

 

女性は坊主に質問したが、坊主は女性からの質問に全て答え、全問正解。本来ならば坊主が知る筈はない未来の出来事を3つ、女性は西行に聞いた。だが全問正解。

袈裟を着用している男は頭を下げ

 

「拙僧は、藤原氏。天皇の血を持つ神裔 故、長生きはしましたが、生きるのに疲れました。拙僧の神祖、その親戚に言うのは忍びないのですが、綿月様。どうか拙僧を」

 

その先を察した依姫は、西行の声に被せる様に少し大きな声で言う。僧の癖にこの世の柵をまだ捨てきれていない様だ。涅槃の境地に立つ為には死にたいと思う気持ちさえも、全てを捨てなければならないと言うのに。

 

「それは出来ない。私は貴方に3つの質問をする為に弘川寺へ来た。ですがその質問を全問正解。もう私の役目は終えたのです。ファラリスの雄牛に入れる理由も、斬る理由も無い」

 

「…そうですか。では、あの方に言伝をお頼み申したい。拙僧は、全て戻っていると。そして拙僧を殺してくだされと」

 

依姫は、それを聞いて剣の切っ先を西行の首元に当てるのをやめて、鞘に納めながら、ファラリスの雄牛を転移。

 

「いいでしょう。ですが幽々子はどうする気です」

 

「幽々子は拙僧の娘。大王、天皇の血を持つ神裔であり、寿命で死ぬ事はまず無く、矍鑠になる事も無い。そして何より幽々子は女です。あの方は大昔から大層な女好きであらせられる」

 

女好きと言われ依姫は頭が痛そうに抱えて数回横に振るが、気を取り戻して西行は続ける。

 

「申し訳ないですが。幽々子は拙僧の祖先、藤原不比等にあの方へ嫁がせるようお任せしています。拙僧は何度も何度も。気が遠くなる程の時間でこの世に関わるのも、生きるのにも疲れたのです」

 

「だから世俗を離れる為に出家したと。言いたいのですね」

 

「是。こうすればあの方が間違いなく殺してくれると考えました。予想は外れ、綿月様が来られましたが。見抜かれたのやも、しれません」

 

西行は知っている。死んだ後は神か幽霊になるかであり、死んだとしてもこの世からの束縛が無くなるのではないと。

 

 

       かつて早く逝きたいと思い。西行は弘川寺で詠んだのだ。

 

 

     『花よりは命をぞなお惜しむべき 待ちつくべしと思ひやはせし』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ、サグメ。冥王代以来か。あれ、ジュラ紀だったか。まあ、先カンブリア時代 以来だ。久しぶりだな」

 

文化や文明は平安時代に近いが現在は 旧石器時代 か 縄文時代 である。

 

目をぱちくりしていたサグメを見ていたら、もう一度両手でサグメの両頬を軽く掴んで揉んで揉んでの繰り返し、飽きたら次はサグメの胸を両手で揉みながら話す。だがサグメが嫌がる気配はない。記憶に戸惑いを覚えているのもあるが、記憶が戻ったからこその無抵抗と嫌がる素振りが無いのだ。

 

「早速本題に移ろう、嫌だったらいいんだが、輝夜と咲夜は平安京に留まるらしい。だから二人の傍にいてやってくれ」

 

咲夜に頼んで天智天皇の死体の時を止めてもらっていたが、俺が天智天皇の死体は回収している。だがしかし、まだ輝夜と咲夜の役目は終わっていないのだ。

 

100以上の回帰前、藤原不比等を俺が殺したせいで輝夜と妹紅の両名、昔はお互いと殺し合いをしていたんだが今や親友になっているのは変な気分である。サグメの胸を両手で揉んでいたら脳裏に玉兎が思い浮かぶ。さっき思い出したが玉兎も月の民も俺の奴隷なのは間違いないだろうが、サグメの背に回って後ろからサグメの胸を揉みながら確認の為に一度聞いておこう。後ろに回ったら何か、メス特有のいい匂いが凄い。

 

「ところでさ、サグメって全ての玉兎と同じく俺の奴隷で間違いないよな」

 

「……」

 

サグメは記憶に関して戸惑いながらも頷く。そうかそうか、俺の記憶違いじゃないんだな。 なら人権は無い。奴隷なのだから。鈴仙を薬漬けにはしてないが、鈴仙は薬漬けにされてると思い込んでいる。自分が自分じゃなくなっているのは永琳の薬のせいだとな。実際はただの栄養剤とかを与えているだけだ。

 

「じゃあ、まずはそうだな。よし決めた。記憶も戻した事だし、とりあえず回帰前でたまにしてたサグメのワカメざべぇ」

 

「…それ以上言えばある事ない事、八意様に告げ口する」

 

「な、ない事まで言われるのは困る。あれでも結構煩いところあるんだぞ。あ、これオフレコでお願いします…」

 

言い切る前にサグメは頸を動かして背にいる俺に冷徹な顔をしながら右手で俺の口を押えられた。仕方ないのでもう言わないとの意思表示の為、両手の掌をサグメに向けながら両手を上げるとサグメは右手を俺の口から離す。俺のキャラではないが今度は咳払いをして真面目な顔をしながらサグメに話す事に。

 

永琳、神綺、サリエル、依姫、咲夜、サグメ。月人は、金髪もだが銀髪が多いな。

 

「記憶が戻ったなら理解してるだろ。俺は玉兎以外の月人を確実に皆殺しにする。月にいた全ての天津神は地上に降り立ち、前回の世界で交わした約束通り記憶を戻した」

 

多分、豊姫は全力で俺の妨害をするだろう。記憶を戻していないんだ、当たり前と言われたら当たり前である。だがな、この先、神と妖怪は対等でなくてはいけない。これは絶対にだ。なので対等である証として月人を一度、鏖殺する。目には目を歯には歯を、刃物には刃物を銃には銃を、核には核を核ミサイルには核ミサイルを、神には、妖怪を。

対等になって初めて、お互いが席に腰を下ろして話し合う事が出来るのだよ。

実を言うと、依姫は大した脅威ではない。何故なら、依姫の能力は八百万の神がいてこそ脅威なのである。だが肝心な八百万の神が機能しなかったら依姫の戦闘能力はがた落ち。

がた落ちで能力を無くしてそれでもまだ脅威なのだから俺の元部下ながら末恐ろしい。

 

問題は豊姫。豊姫の能力は実に厄介。インドラの矢とトリシューラを使って結界を破壊し、どれだけの大群で月の都を急襲しても一瞬で地球に強制送還されるのだ。

 

まあ負ける事は無い。俺の永遠と頸にかけている『御頸珠』があるのだから。記憶は欠落しているが俺が生きてる時点で、俺が回帰した時点で、全てやり遂げ終わってる。

 

「それでサグメ。どうする。俺の邪魔をしても構わんが何の為に記憶のデータだけを上書きした。本来なら記憶だけでは無く他にも上書きできると言うのに」

 

サグメはフォーマット状態だったが、上書きした今は違う。俺は平将門の命を拾う為、関東地方へ行かねばならんし輝夜や咲夜と一緒にはいられないのだ。俺としてはサグメには輝夜と咲夜の傍にいて欲しいのが本音である。

 

「…私、は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朱雀門の楼上に降りて、そのまま中に入ると。誰もいなかったが、物陰から、ぬっと現れる。黒髪に白と赤のメッシュされ、頭には小さな二本の角を持つ。服はワンピースのようなもので、腰には上下逆さになったリボン。

この朱雀門に来た時点で双六勝負をしに来たのだと、相手も理解している。

 

「双六勝負を申し込みに来た」

 

「……ほう。双六勝負で百戦錬磨の私をお前が倒すと言うのか」

 

「馬鹿め! 双六勝負で勝った事も負けた事も無いこの俺を侮るでないわ!」

 

「…それって一度もした事が無いだけだろこのバカ!」

 

 

 

それで双六勝負したのはいいんだが。

 

負けました。はい。わなわな震えている正邪は立ち上がって人差指を俺に差す。

 

「ふざけるな! お前、双六の仕方やルールを知らんだろう!? 最初は冗談だと思っていたがあまりにも弱すぎる!」

 

正邪の怒鳴り声を聞きながら頭を右手で掻く。目の前に置かれた双六盤、白コマ黒コマ、振り筒、サイコロ2個を見ながら思うが、おかしいな、ここは勝つ流れだと思ったらまさか瞬殺されるとは思わなかった。

だが目的は果たしたぜ。天邪鬼である 鬼人正邪 は嘘をつくのが上手いからな、取り繕った状態を崩すためにはこうするしかなかった。

 

ルール。これは、日本語では無く、横文字で異国の言葉である。だからこそ、俺はこういうのだ。

 

 

「元気か瓜子姫」

 

鬼とは昔話において最初から鬼では無く、元は人間だった。という展開が多い。

例を挙げるならば、紅葉伝説、鬼婆、鉄輪、鬼女、藤原千方の四鬼、橋姫、青頭巾、鬼童丸、

温羅、酒呑童子、茨木童子、阿倍仲麻呂。

鬼が元は人間だった話を挙げればキリがない。そもそも鬼とは、頭に角が生えていたら鬼と言う訳では無いのだ。あ。そういえば 一寸法師 も妖怪や鬼扱いされる時があったな。そして、うりこひめとあまのじゃくの昔話。あれは自作自演であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事が昨晩あってさ」

 

「そうですか。サグメの豊満な胸を揉んだのですねお兄様」

 

そこなのかと思い、隣にいる輝夜を見ると輝夜は鬼饅頭を食べながら相槌を打ち、咲夜は編み物を編んでいる。俺の両脇に輝夜と咲夜がいるが、今は幽々子と双六勝負で対峙していた。しかし

 

「って、また負けたぞ幽々子強すぎ!」

 

「おじさんよわすぎ」

 

幽々子は笑うが隣にいた咲夜は鼻で笑うのが聞こえたので俺は突っ伏す。何て事だ… ああ咲夜よ笑うがいいさ、幽々子と双六勝負していたが子供相手に本気出すのはどうかと思い手を抜いてみたらこの様よ。まだ幼いと言えどなめて掛かるのは駄目だなと学びました、まる。

飽きたのか、幽々子は突っ伏していた俺の傍に近寄り、両手で俺の体を揺する。何だと思って起き上がると、後ろから抱き着いて来た。抱き着いて来た幽々子に気を付けながら隣で編み物を編んでいた咲夜を見る。

 

「咲夜、編み物を編んでどうした」

 

「ダーリンにあげるのよ。この先、する事が多いみたいだから。永遠の存在だから寒くは無いでしょうけど、気休め程度にね」

 

「やりぃ」

 

咲夜が編んでいるのは手編みの手袋の様だ。静葉から貰った鬼饅頭。凄い美味しいんだが、いかんせん。鬼饅頭の数はかなりある。輝夜は美味しい美味しいと食べていたので、一口サイズの鬼饅頭を取り、そのまま輝夜の唇に当てる。

 

「よし輝夜、口開けろ」

 

「い、いいです。一人で食べられますから」

 

恥ずかしいのか遠慮していた輝夜の唇に鬼饅頭を多少強めに押し当てていたら、観念して鬼饅頭を口を開け、口内へと入れて咀嚼。輝夜が鬼饅頭を食べ終えたらまた餌でもやるかのように次の鬼饅頭を与え、喉が渇いたと目線で訴えて来たら熱い緑茶が入った湯呑を片手で掴み、唇に当て口内に少しずつ流して飲ます。

 

「おじさん! 輝夜お姉ちゃんばっかりずるい!」

 

「いくら妹だからって甘やかしすぎですわね」

 

徒然だったのか背に抱き着く幽々子と、手編みの手袋を編みながら横目で咲夜に注意される。仕方ないじゃないか。血が繋がった身内なのだから。それに、今回の俺は月に行かなかった。そのせいで輝夜に色々迷惑をかけたのは間違いないんだ。咲夜も月人なら分かるだろ、いや。分かって言ってるのか。俺と永琳はあの核で死んだと思われ、姫だけが月にいたのだから。輝夜は政治の道具として傀儡にされたのだ。本当に悪かった。いつまでも監禁されているような生活で、豊姫が連れ出してくれなかったらどうなっていたか。俺の妹、輝夜には本当に迷惑をかけ過ぎた。謝っても謝り足りない。だからこそ自由に生きて欲しい。

 

そうこうして輝夜を甘やかしていたら襖を開けて藤原不比等が俺を呼んだ、俺がいる屋敷は藤原氏である藤原不比等の屋敷なので不比等がいるのは当然である。

 

内密の話があるそうで、肩に乗っていたお燐にも遠慮してもらい。不比等に奥の間へと案内され、屏風がある部屋で対峙しながら重々しく口を開いて一言。

 

「稗田氏の稗田阿礼が亡くなりました」

 

…はい? 哀悼の意を表す前に Wait Wait Wait! 稗田阿礼は稗田氏。稗田氏とは古代より朝廷の祭祀に携わってきた氏族の一つ 猿女君 の末裔である。

だがちょっと待って欲しい。猿女君は天津神の アメノウズメ を始祖としている。実際その通りなのだが、大事なのは稗田氏は神裔という意味になり、神裔は天皇と同じく寿命で死ぬ事は無い。寿命以外の死因としての満足に食べられず餓死か、もしくは今の時代では常套手段な水源の井戸に腐肉を投げ込み、つまり BC兵器 で死んだのかと聞いてみたら違うらしく、原因は不明と言われた。第一に、俺は病に関してだが基本的に人間だけにしているので殺す理由が無い天皇や皇子、神裔を病で殺すメリットは皆無。人間はどうもいいが、神裔などは寧ろ死なれると困るんだ。なので理由が無い限り殺す事は無く、元凶の俺は関わっていない。だからこそ、目の前にいる藤原不比等は生きている。

 

「それで、稗田阿礼の子が残されているみたいなのですが」

 

「ふ、読めたぜ不比等。俺にその話を持って来たのは、残された子が女だな」

 

「俗な話。今は夫や父親が死んだ未亡人や娘、残された女が悲惨なのはご存知だと思います。現在、家畜も作物も憫然。病も急速に流行っており。神からの罰は甘んじて受けますが私は幼い子にまで…」

 

「手助けしようにも出来ないのは知っている。貴族の藤原氏なお前でさえ生活が苦しいのだ、妹紅や幽々子、魂魄家だけでは無く輝夜や咲夜もいるし面倒をかけて悪いな。OKOK その子は俺が貰う」

 

序でに言っておこうと。食と病の問題を取り除きたいかと聞いたら、不比等は俺の言葉を聞いて嬉々として同意する。現在の征夷大将軍は坂上田村麻呂。しかし坂上田村麻呂は東の蝦夷と平将門の朝敵を討伐する為に征夷大将軍として東にいる。なので東の蝦夷と平将門を何とかするまでは源義仲が征夷大将軍になる事は出来ない。この征夷大将軍は1人だけしか許されないのだ。鎌倉幕府を造り上げたとしての前提で言うと、朝廷に鎌倉幕府を造る許可も承諾も得る気は無い。こっちが勝手に鎌倉幕府は造り上げる、朝廷の許可を得たとしてもそれは鎌倉幕府を造り上げた後だから事後承諾になるだろう。民が病になるというのは朝廷からしても貴族からしても困る事態である。農民などの民が田を耕しているんだからな。勝手に食べ物が湧き出てくるわけじゃない。

 

鎌倉幕府を造り上げる上で最も厄介なのは北条氏である。しかしこの北条氏、ルーツが桓武平氏高望流の平直方を始祖とされたり、伊勢平氏の祖・平維衡の子孫だったりと、本当に桓武平氏の流れであるのかどうか分からん。まあいい、ともかく鎌倉幕府や征夷大将軍が北条氏の傀儡になる事を避けるため、征夷大将軍に任官した源義仲が死なないように気を付ける必要がある。

何せ、鎌倉時代は『族滅』の言葉が多くみられる時代だからな。対抗勢力は徹底的に粛清される。比企氏、和田氏、梶原氏。とか他にも色々族滅されてるし、この時代は戦が頻繁にあったから鎌倉武士団はかなり強い。西の貴族共では勝ち目は皆無だ。後は足利氏だな、室町時代へと繋げる為には生きていてもらわねば困る。それに足利氏は源氏だし。藤原氏のもいるが。

 

 

鎌倉時代は親兄弟でも殺し合っていたと言うのに、いつから人間は死に対して過保護になった。刷り込みだろうか。ただし、それは東の話で西の平安京に住む貴族たちはそれを聞いてドン引きしていたが。

 

 

いいや違うな、東はともかく西の祖先を敬う考えだが、これは中国の宗教である儒教の影響が大きいか。祖先を敬うなんて考えは大昔になかったし。日本もその影響は少なからず受けている、沖縄、琉球王国は仏教の影響は少ないがその変わり儒教の影響が特に強い。

 

 

「朝廷と天皇に、冥加の作物と現在起きている民達の病を何とかしたくば、坂上田村麻呂の次は 源義仲を征東大将軍ではなく征夷大将軍に任官、将軍宣下しろと伝えろ。そうすれば病や作物を戻そう」

 

本当は神仏習合の件も言っておこうかと思ったが、とりあえず今は東に神仏習合の影響を与えるなと不比等に言っておいた。そして俺は諏訪大明神、諏訪国の神だ。ならば俺が今言った事は神託になる。神託とは神の意を伺う事。また、その時伝えられた言葉であり、本当は巫女などに伝えるか巫女の人格を乗っ取ってトランス状態にして言うと神託になるのだがな。そしてこれは、同一人物の第46代・第48代 称徳天皇 と 孝謙天皇 のバカ女か日本三大悪人の一人である道鏡のせいで起きたのかは知らないが、宇佐神宮の神託の虚言で起きた『宇佐八幡宮神託事件』

 

日本三大悪人の一人である平将門か興世王がそうしたのかは知らないが八幡神を利用して

『新皇』を自称したように。この二つも神託が絡んでいるし、朝廷が源義仲を征夷大将軍に将軍宣下する為の理由作りでもある。

何事も建前は必要なのだよ。そして俺は諏訪国を治める神なのだから。源氏の源義仲と北条氏の北条政子が結ばれれば源氏と平氏の血が混ざる。嗚呼、まったく、素晴らしい。神託は俺では無い、アマテラスに任せる事にする。一応、諏訪の神が神託したと言うより天孫族の神が神託したと言う方が貴族も天皇も納得しやすいだろう。

 

九条兼実が 王者の沙汰に至りては人臣の最にあらず。と言うが俺は神なのでどうでもいい。それ以前に九条兼実は藤原氏である。しかも藤原不比等は妹紅が原因でまだ生きているのだから。

 

これだけの事が起きているのに天皇は一度も滅んでいない。それだけ、天皇は特別なのだ。鎌倉に敗れ、落ちぶれて惨めになろうともな。家系や血はそれだけ重要なんだ。

本当にちゃんとした大王の血が歴代天皇に受け継がれているかどうかは分からんかもしれんが、監視者の俺などがいるから間違いなく天皇の血を受け継いでいるので問題は無い。

 

「そうそう。不比等よ、日本書紀を編纂する前に一人、日本書紀の編纂を関わらせたい 慧音 という名の女性がいてな。その女にも日本書紀の編纂を任せる事にしたから後よろしく」

 

「お待ち下さい諏訪大明神!」

 

「嫌だ絶対に待たない」

 

奥の間から出てそのまま玄関に向かう。この世には聖人はいるのかと聞かれたら、微妙だ。いるにはいる、数は少ないが。

…ジャンヌ・ダルクが聖人と言われる、んな訳ない。その時代には城や砦に使う大砲があったのだが、あの女はその大砲を人に向けて撃ったのだぞ。

 

 

 

 

話はかなり変わるが、かつて月人が住んでいた都市に使ったり広島の長崎 原爆など。

今や核兵器は驚異的な兵器ではあるが。この核兵器が出来た要因の一つは

 

この世の法則はすべて決まっている、それを我々はまだ知らないだけ。という意味で

量子力学の不確定性原理に反論した言葉の 神はサイコロを振らない  と言った

 

ドイツの理論物理学者 アルベルト・アインシュタイン が導き出し唱えた『E=mc^2』

特殊相対性理論の方程式、関係式が一つ。この方程式で核兵器が出来た原因の一つだ。

質量とエネルギーは等価であるとな。

 

 

よくアインシュタインは天才と謳われるが、違う違う。実際は何も凄くは無い。ただ、何も知らなかった人間がこの世界に元々あった法則性や方程式などを時間をかけて見出したに過ぎないのだから。それに、法則性や方程式も人間の解釈で出来ている。一部はゆっくり燃えるだけの火薬もあるが、火薬に火をつけたら爆発する。そんなごく単純な事。

1つは解決済みだが残り6つの、アメリカのクレイ数学研究所によって2000年に発表された100万ドルの懸賞金がかけられている ミレニアム懸賞問題 もいつかは解決するさ。時間が、あればな。

まあ、ビッグバン説を持ちだすならば、ビッグバンが起きてからこの世の法則は決まったとも言われているがね。

 

 

 

また、神も万能ではない。生贄や人身御供は過去の日本でもあった、神は人間に代償を求める。

もしも神が万能なら、そんな事はしない。と思う者もいるだろう。

 

神は救いの存在と人間の脳にインプリンティング、刷り込まれているからな。

 

 

違う、そうじゃない。

 

 

人間に対し代償を求めない神は、人間にとって最高に便利な存在と言う事だ。そりゃあそうだ、何の代償も払わず自分の頼みを聞いてくれる存在なら都合がいい便利な存在と言えるだろう。

 

 

だが、それは万能とは言わない。自分にとって都合のいい存在なだけだ。万能の意味を履き違えてはいけない。

 

 

俺がさっき藤原不比等に言った征夷大将軍の話もそれに近い。病や冥加の作物を戻す代わりに代償を払えと。

 

日本の民話。異類婚姻譚の話である 鶴の恩返し、雪女、葛の葉、蛇女房、食わず女房。

今挙げた例は女性が、または妻になった女性が消える話ばかりである。

 

これさ、異類婚姻譚の話って見方を変えて見ると 女が神に嫁ぐ または 人身御供 なのだよ。昔話はそれを 隠喩 した話が多いのだ。

 

長野県の『黒姫伝説』は黒姫と言う名の人間の女性が黒龍、つまり神に嫁ぐ、または『人身御供』の意味では顕著だな。まあ、龍は妖怪扱いされる時もあるがね。もちろんただの物語を深読みする方がどうかしているかもしれない。だが日本だけに限らず昔から残る話とは右往左往、紆余曲折を繰り返して今の時代に残っている。

 

しかし、昔話に限った話ではないが昔から言われ続ける話は意図的に改変や編纂されている。

よくいるだろ、子供には見せられない内容だから子供向けに改変しよう、というのが。

 

昔話は納得できないとか、理不尽だとか、残酷だとか。そんな話が多いのに今やそれもソフトにされている。昔話の『うりこひめとあまのじゃく』はその典型と言っても過言ではない。一種の情報操作である。

 

要は、誰かがした何か、その何かの事実があったとして、その事実を別の事や他の誰かに当て嵌め、暗喩として出来たのが昔話と言う訳だ。

 

つまり、自然現象を神のせいにした日本神話に限らず、異国にも数多くある神話と似ているんだ。

 

「ねえ。いい加減、出雲の大国主の封印を解いてもいいでしょ?」

 

「それを言う為にわざわざ常世から平安京に来たのかスクナビコナよ。気持ちは」

 

「今は少名 針妙丸!」

 

「ああ。今は少名 針妙丸と名乗っていたか。しかしな。気持ちは分かるが大国主の封印を解くのは、ダメなんだなこれが」

 

腰を下ろして少名針妙丸を掌に載せる。うーむ、相変わらず一寸法師の様に小さいなスクナビコナは。スクナビコナは大国主と一緒に国造りをした神である。大国主と一緒に国造りを終えた後は常世にいたんだがな。

 

 

 

ソビエト連邦の軍人、宇宙へ赴いた最初の人類 ユーリイ・アレクセーエヴィチ・ガガーリン。

宇宙飛行士で最初に宇宙へ行った人物である。

 

日本では、地球は青かったで有名なユーリイ・ガガーリン。だがしかし、この『地球は青かった』は正確な引用ではない。

 

 

そこで ユーリイ・アレクセーエヴィチ・ガガーリン は見た、見てしまったのだ。地球を内側からでは無く、外側から地球を観測してしまった。

 

観測したが故に、観測者効果は発現してしまう。

 

 

 

 

アメリカ合衆国のアポロ計画のアポロ11号。歴史上初めて人類を月面に到達させた宇宙飛行であるが、アポロ月着陸船。彼らは月へと行ったのか行ってないのか。

 

それは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

諏訪国にある 木曽川

 

その木曽川には水流によって花崗岩が侵食されてできた自然地形である 寝覚の床 と言われる名勝がある。この寝覚の床には、あの浦島太郎が竜宮城から帰ってきた後の伝説が残っていたりするのだが。そこで二人の少女がごつごつした岩の上に座っている片方の少女が楽器を一つ片手に持っている。二人の背には諏訪国の民の遺骨をヤマメの妖術で形作り、巨大な がしゃどくろ が二人にもしもの事が無いか心配で傍にいる。ただし、このがしゃどくろ。一体だけでは無く別で小型ながしゃどくろが一体いる。がしゃどくろは妖怪ではあるが、元は諏訪国の民達だ。こころは特別な立ち位置にいて、小傘は弘天の神力と紫と幽香の妖力が混ざって生まれた存在、言わば弘天、紫、幽香。3人の実子になるのだ。

 

「おかしいな~ 紅葉さんから貰ったこのお琴、十分な妖気を感じるのに妖怪化しないなんて」

 

「前から思ってたけど、物から妖怪化ってどうしたらいいの」

 

「えー 面霊気のこころがそれを言うの~? あ、から傘お化けの私にも言える事かな。私もどうやってこの姿を具現化したのか覚えてないや」

 

こころが片手に持つお琴は、鬼女の紅葉から借りた。小傘は弘天に諏訪国の 塵塚怪王 になって欲しいと言われ、諏訪国に戻った際、さっそく小傘とお共、レイラの側頭部にお面として過ごしていたお供のこころは行動に移り八ヶ岳に住むある程度の妖怪を従えつつある鬼達、鬼女の紅葉に会いに行きお琴を借りたのだ。

鬼、鬼女達は八ヶ岳に住む 二姉妹の覚 猫の里に住む猫 手長足長 その娘のろくろ首、または飛頭蛮 これらをまだ従えてはいない。

 

「ふふん。教えて進ぜよう。そのお琴を妖怪化させるには二つの手順を行わなければならんぞ。その為に、まず一つが打ち出の小槌、もう一つは琵琶が必要なのじゃ」

 

「おぉ、一体いつからいたの」

 

こころは急に現れた人物、二ッ岩マミゾウに問うが、頭にはタヌキの耳、腰辺りから大きな尻尾は生えているが、それ以外は殆ど人間の容姿。髪は長髪で服装は本格的な和装である。ただ少し肌寒いのか白の市松模様柄のマフラーを首に巻いている。

 

「儂は 二ッ岩大明神 と祀られる猯ぞ。化かすのも驚かすのも。気配を消し、ふと現れるのもお手の物」

 

「でもタヌキの化ける能力はキツネより劣ってるし実際の狸ってまぬけで滑稽なのが多いよね」

 

「そんな事を言う口はこの口かこの口じゃな!? 悪い事を言うこの口は儂が成敗してくれるぞい!」

 

「いひゃいいひゃいよー! 助けてこころー!」

 

小傘の毒舌を聞いたマミゾウは頬を引き攣らせながらもとてもいい笑顔で小傘の片頬を引っ張る。涙目の小傘はこころに救援を要請したがこころは木曽川の川が流れている所をじっと見つめていた。こころが背に背負う薙刀をマミゾウに使う気は無い様だ。煙管をぷかぷか吹き、吐いた煙を小傘とこころの方へ行かない様に吐きながら嘆く。

 

「諏訪大明神の実娘ながら酷い事を申すのう。ほれほれ。思い立ったが吉日。そのお琴を妖怪化させる為の打ち出の小槌は諏訪大明神が持っておる。ならば最後の琵琶を手に入れるが吉じゃろう」

 

パンパンと。両手を叩きながら行動を移すよう激励。小傘とこころはその激励に絆され、小傘はがしゃどくろの右肩、こころは左肩に乗る。そして小傘は落ちない様に左手でがしゃどくろの骨を手すりの様に掴む。次に右手の人差指を前に突き出し、がしゃどくろに号令。

 

だがおかしい。何故マミゾウは弘天は打ち出の小槌を持っている事を知っているのか。

 

「がしゃどくろ発進!」

 

がしゃーん がしゃーん と歩き出す光景はさながら巨大ロボット。本来、がしゃどくろには足が無いのだが。このがしゃどくろには足がある。それも諏訪国の民で出来た骨だ。そのままがしゃどくろが一歩一歩歩く事に地響きが辺りに響く。走る事も可能なのだが、走った際の地響きがかなり煩いので余程の時以外はしたらダメと諏訪子、そして紫と幽香に禁止されている。小傘とこころ、がしゃどくろが遠くへと行くのを眺め、煙管から吸い、煙を吐いて青息吐息。

 

「もう何度目か。こうしてあやつの娘達にお節介にも助言をし、見送るのわ」

 

「疲れましたか」

 

いつの間にか がしゃどくろ の肩に座っていたレティがマミゾウに問う。これがもう一体の方のがしゃどくろ。小傘とこころが乗って行ったのよりは小さめ。このがしゃどくろは幽霊の様に地面から浮遊していて、動く事は出来るのだが足は無い。幽霊の様に浮遊しているので足音は無く、がしゃどくろの気配も皆無。流石の二ッ岩大明神も接近されようと中々気付かない。がしゃどくろは骨の右手をレティの前へと差し出し、レティはお礼を言いながら右手の骨に降りて、そのまま右手は地面に下ろされてレティも続いて地面に降りる。マミゾウはその光景を眺めながら鮮少に思い出していた。

 

「かもしれんの。おぬしはどう思う、レティ」

 

「私はあの人の治める国と、あの人のお傍にいるだけで満足。他に何かを望む気はありません。それに私達以外にも最初から記憶を所持しつつ初対面の振りをしている人はいる」

 

相も変わらずあやつに尽くすのが好きで健気な女と思いながら、永琳や河童などが造らなければ確実にないであろう煙管をぷかぷか吹いている。だがこの煙管、永琳や河童が造った訳では無い。最初からマミゾウは煙管を所持していた。そしてマミゾウは煙管を持たない方の手で懐から丸眼鏡を取り出してかけると視界がクリアになる。これも永琳と河童が造っていた訳では無い。最初から持っていたのだ。生まれた時から丸眼鏡も煙管を、ずっと。困っているマミゾウを見ながら、レティは右手で口元を隠しながら軽く笑う。

 

「…そうじゃろうな。困った困った」

 

「ふふ。化かすのがお上手な狸が化かされてたら化け狸の名が泣くわね」

 

「まったくじゃ」

 

レティはがしゃどくろの右手に、マミゾウはがしゃどくろの左手に乗って小傘とこころを追いかけようと動き出す。がしゃどくろはふわふわと浮遊しながら二人を追いかけるが、がしゃどくろの左手に乗るマミゾウは煙管をぷかぷか吹きながら物思いにふけていた。

 

 

 

 

 

ある時、人情に厚く、金貸しをする妖怪がおり。人間を襲う事は無いが化かして人間を驚かす一匹の狸がいた。その話を聞いたある男はその狸が住む山へと繰り出して散策していたら、それをみた狸はこの男も化かして脅かそうと考え、若い女に化けて男が進む先を予想し、待ち伏せていた。そして、狸が待ち伏せる場所までやってきた男が若い女を見つけたが、その女はとても具合が悪そうだったのだ。心配した男は頸に掛けた首飾りを鳴らしながら女に怪我は無いかと聞く。聞かれた女の足は鋭い物で斬られたかのような傷跡がある。だがこれはそう見せているだけで実際は怪我をしていない。とりあえずここは危ないと言った男は、どこから取り出したのかとても頑丈そうでしなやかな縄を取り出し、何故か若い女を簀巻きにする。いい医者がいるから連れて行くと男は言うが、わざわざ簀巻きにする必要はないだろう。しかも狸がそろそろ正体を男に明かして化かし驚かそうと思った矢先にこれだ。簀巻きにされた若い女は危険を感じどうにかして逃げようと

 

タヌキは

 

「斬られた足が痛いので一度下ろしてくれませんか」

 

と言ったが男は即答で

 

「駄目だ」

 

そう返す。

 

若い女に化けた狸は縄を使い簀巻きにされている。物でも扱うかの様に背負われ、男の右手には支える為の一本の縄が握られているのだ。まさか即答で返されるとは思わなかったタヌキは悩んで悩んで思いついたのが苦肉の策であった。その苦肉の策とは。

 

「尿意を催してきました。その辺の木陰でさせてほしいのですが」

 

もちろんタヌキの嘘である。だが男はそれを聞いて無駄に大げさに驚いて返す。

 

「なんと! それは大変だな」

 

歩きながら女の言葉を聞きつつも信じた。タヌキは内心ほっとする。これで逃げられると。もう化かす化かさないの話では無くなっているのだが、狸の予想を大きく裏切ってしまう。

 

「ならばそのまましてしまえばいい。美人な女のなら見たい、俺は気にせんので大丈夫だ」

 

一体何がいいのか皆目見当がつかない。そっちはよくても化けた女が気にするに決まってるのだ。しかし男は立ち止まり、いい事を教えよう。そう言いながら背に担ぐ女を頸を動かしてみる。

 

「こんな山奥に若い女がいるわけないだろ」

 

 

その後はもう人間は化かさないから許して欲しいと女に化けながら平謝りするタヌキを、男は神使として勧誘したのだ。二ッ岩大明神と祀られ、人々に厚く信仰されるタヌキと諏訪大明神と呼ばれる男、あれが初めての出会いだった。

 

 

 

嗚呼、懐かしいぞい。あの日が昨日の様に思えるのう、あんさん。




今回出て来たマミゾウは鈴奈庵の容姿です。あれに狸の耳と尻尾が生えたバージョン。

ご存知かもしれませんが実際に長野県には木曽川があり、寝覚の床と言われる名勝があります。この寝覚の床には浦島太郎の伝説がありますね。

マミゾウの話の元ネタは、日本三名狸に数えられている団三郎狸のお話が元ネタ。

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