蓬莱山家に産まれた   作:お腹減った

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内容がかなりデンジャー


Why is there something rather than nothing
平安京のUFO


「良かった、本当に思い出したんだ。最初、神綺様から弘天の記憶が無いと聞いていたからショックだったけど。戻ってよかったね」

 

「まあ記憶が戻ったのは僥倖。しかしシンギョク。無くなってると分かってた上で、あの時は初対面の振りをしたのか」

 

「うん。私だけが弘天の事を一方的に知ってるのはちょっと寂しくて悲しかったよ」

 

元々ここの山城国にあったのは 長岡京 だったが今は平安京。ループはただ繰り返すだけで、繰り返すだけなのだから記憶が戻る訳が無い。回帰は違う、回帰とループの大きな違いはデータの上書き保存があるかないかの違いだ。そして今までの回帰は全て上書きしていて、その一つが記憶という事。記憶だけでは無く他にも色々上書きしてる、例えば物とか。記憶に関しては自分の意思、任意である。だから記憶が無いのではない、あえて自分の記憶を消した者も多くいるのだ。なぜ自分の手で消すのか聞いてみたが、そいつらは笑って

 

『今までの事を知ってるなんてつまらないじゃないか。それに記憶が無ければ真っ白な私達で会える。だからさ、また私達を引き込んどくれよ。あの時のバカな台詞で大笑いしたいから』

 

何度聞いても、何度も綺麗な歯を見せながら、そう笑って答えたのだ。だからあいつらの記憶は戻せない。初期仏教もそうだったように仏教、延いて輪廻転生はこの世にないのだから。本当に一度だけ生を受けるだけだ。

 

「それで平氏はまだ天皇では無い山部皇子、桓武天皇。源氏は惟仁皇子から分岐した家系の派生。ならば小野氏であるお前の血のルーツは誰だ」

 

「ルーツを聞くと言う事は、完全に記憶が復元されてないのね」

 

「そうだ。もしや小町の方か」

 

この屋敷に来て中に入ると何か、懐かしい匂いがする。プルースト効果か。小野篁が住む屋敷の庭にある井戸の近くで鬼饅頭を食べながら、シンギョクに問う。シンギョク自身が小野を名乗るなら知らないとは言わせん。

 

小野氏は 第5代 孝昭天皇 皇子 天押帯日子命 がルーツ。そして何より、もしも目の前にいるシンギョク、どうでもいいと思うかもしれないが、小野氏が天押帯日子命のルーツだった場合、平氏や源氏の様に蘇我氏や藤原氏の血が混入して無い事になる。つまり純血に近い。そして肝心なのがだ、平氏である平将門は天皇の血を持つ。しかしこの平将門はシンギョクの片割れ。なら目の前にいるもう片割れのシンギョクもそうなのではないかと思い、聞いてみた。しかしシンギョクは右手の人差指だけを唇に立てて意地悪そうに一笑する。情報を漏洩させる気は無い様子。

 

「いーや。教えなーい。それにさ、もうどうでもいい事だよ。話は変わるけど、綿月依姫様や神道の神を使って西方面で色々手を回したね。次は東に手を出すのかな」

 

「まだだ、今は東に手を出さない。まずは神がしでかした事を日本書紀に記載させる為こんな面倒な手を西一帯で使ってるんだよ」

 

「態々 冥加 の作物を凶作ではなく不作に、滅多に人里へ来ない二ホンオオカミが家畜を。狐や鼠などが作物を食い散らかつつ荒らし。鼠のせいで病の問題も増すばかり。他にもいるけどこの三つ」

 

シンギョクは顎に手を添えて俺を見るが、俺は恍けた振りをする。西一帯の作物は凶作では無く不作にして、西一帯の家畜にはあえて何もしていない。人間は危機的状況に陥ると神を求める、これは外国の人間にも言える事。そこが狙い目なのだ。そして、その危機的状況へと陥らせるには急激に進めるのではなく、緩やかに進めなくてはいけない。ヘイトは少しずつ溜めて行かなくては。

 

例えばこんな実験結果の話がある、繁殖力では最強の存在のネズミの研究だと恐怖心は孫の代まで記憶の遺伝をするとかな。勿論ネズミの実験結果であり、人間の実験結果ではない。こんな面倒な手を使う一つの理由は人間の脳や、この先産まれる人間達の遺伝子に刻み付ける為には必要な行為である。無駄かもしれないが念には念をだ。分かるだろシンギョク。全ての出来事が神の手によって引き起こされたとすれば。当然人間のヘイトは神に向けられる。それでいいのだ。我らは不変の、永遠の存在なのだから。

 

「作為的な表現だな。是。と言いたいが、狐や鼠や二ホンオオカミが家畜や作物を食い荒らすなんて偶然だろ。鼠に関しては作物より伝染病の ペスト や ハンタウイルス肺症候群 の心配をした方がいい」

 

「そう。古事記に記載されている 御頸珠 があるけど。イザナギから天照大神、天照大神から 弘天が受け継ぎ 御頸珠 を頸に掛けているという事はそう言う事だろうし」

 

肝心なのは、まだ疫病が収まる兆しは見えて無いし。見せる気も無い。最初は西一帯の 冥加 な作物を凶作にしようかと考えたが、一気に餓死や飢饉で人間を殺すより人間の首を少しずつ絞めながら苦しめた方がいいと考え不作にした。そして俺には病、感染症を操るヤマメと神道の疫病神と疱瘡神がいる。ああ。そう言えば外国のペスト流行を魔女の仕業とされて中世のヨーロッパでは魔女狩りが起きたんだったな。外国に限らず日本も昔から何か不都合が起きると人間は誰かのせいにする。住む所は違えど人間の本質はいつまでたっても変わっていない。

 

歴史は当時の人間が残した歴史書を後世の人間が考察して判断する、本当は最古の歴史書と言われる古事記や日本書紀以前の歴史書はあったんだが、蘇我入鹿が乙巳の変で殺され、蘇我蝦夷が邸宅に火をかけて自害。そのせいで邸宅にあった 天皇記 や 国記 など他にも色々焼失した。そして乙巳の変後の蘇我氏はかつての勢いは戻らないまま凋落し、平安時代初期には公卿が出るのも途絶え、歴史の表舞台から完全に姿を消す事になるが、蘇我氏の血を持つ 蘇我 屠自古 が俺の手中。今度は藤原氏だ。これが蘇我氏より中々厄介な存在。まあいい。自然現象の全ては神がしでかした事だと藤原不比等に歴史書の日本書紀を、他にも日本書紀に限らず神が原因だと歴史書に記載させるのだ。藤原氏は色々面倒だと思い、藤原不比等も殺そうかと最初は考えた。が、一応天皇の血を持っているので生かす。実は昔それをやって妹紅に殺されかけた、仕方ないので藤原不比等を蘇生させたが本当にファザコン娘。ただし平氏はともかく源氏は征夷大将軍を除けば生かす理由があるようで無い。なぜなら沖縄、琉球王国の王が源氏だからだ。1人だけこの世に生き残っていれば後はいらないんだよ。藤原氏、平氏はどうしても必要だ。尾張国の家督で頭角を現した織田氏が台頭しているからな。織田氏のルーツは平氏と言われ、まあ藤原氏や忌部氏とも言われてるが。そして、藤原氏に源氏に平氏は俺の手中にある。

 

つまりだ、藤原氏の関白や伊達氏、上杉氏、甲斐氏。征夷大将軍の源氏、信濃源氏、そして足利氏、最上氏、今川氏、武田氏。伊勢平氏、平家や平氏、北条氏や織田も。信濃村上氏や信濃島津氏も。他にも色々俺が握っている。源氏軍の半分以上が平氏だしな。

 

ふははははは! これが笑わずにいられるか!!! バナナ型神話のツケがこの時に回って来たんだからな! だが何も問題は無い。それは時間で死ぬ事、寿命が無い意味もあるしその気になれば代が変わる事は無い意味もある。そうなると独裁になるかもしれんが。

問題の上杉氏、上杉謙信も毘沙門天の化身と自称していた。これを使わない手は無い。上杉謙信を中心に けんえん とも呼ばれていた忍者の一種 軒猿 も頂いておこう。

 

クラゲの一種であるベニクラゲは不老不死のクラゲと言われるが、厳密に言えば若返り。神裔や天皇の血を持つ者は成人まで身体が成長してそこでストップ。年をいくらとっても老人になる事は無く、若返る事は無いが年を取る事も無い不老。約76年周期に見れる ハレー彗星 を時間の矢の役目の人物が終えるまで永遠に観測できる存在。まあ永遠と言っても不死では無い。寿命で死なないのであって暗殺されたり病などでは死ぬ。物理的因果性に保たれる世界で悠々と世界精神に従う気は無い。物理的因果性と言っても 299 792 458 m/sの光速より早いのは実際あるのだが… それはいいとして。大海人、天武天皇を消したように江戸だって徳川でなくてもいいのだ。俺は昔から恣意的で屑。思うがまま好きにするさ。鎌倉、江戸を早めに滅ぼし、天皇の血を持っていなかった 明治天皇 を俺が消した先は パラダイムシフト でまともではないのだから。

 

だが 我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか。そんな事を考えるのは時間の無駄で馬鹿らしいかもしれないが、人間にとってそれは永遠のテーマであり哲学でありアイデンティティーであり人間という種族のはかりではかる最大の課題で命題の秤量である。不老不死にも言える事。全く答えが不明ばかりの哲学など、下らない事を考えるのが好きな暇人で穀潰し。その下らない事を考える西洋社会の化学者や科学者や哲学者やキリスト教など宗教家の人間が科学を進歩させたと言っても歴史的に見て過言ではないがね。

 

「諏訪国に行く前にね、私は朝廷から討伐要請を受けてるの。だからそれを終えたら暇を貰い小町を連れて諏訪国へ移住するよ」

 

「シンギョクに討伐要請、妖怪か」

 

「うん。宗仁皇子の寵愛を受けて思うがままに朝廷の権勢を振るってるから、討伐軍を編成して 玉藻前をね。京の都を荒らした酒呑童子はお察しの通り」

 

酒呑童子については討伐する人物は同じな様子、なら討伐者は源頼光とその配下である四天王という事だな。久しぶりに妖怪を引き込む。上皇を除いた鬼と狐、三大悪妖怪共を。

 

民にとって最も最悪なのは カキストクラシー だろう。即ち現在の朝廷。そして一番に望む事は優れた者による支配、つまり アリストクラシー と平和だ。後は生きるのに必要な食と水の供給。餓死は本当に辛いからな。要は、ちゃんと国を治める人物なら誰でもいいんだ。天皇じゃ無ければ駄目という訳では無い。これは諏訪国を治める俺にも言える事。

 

井戸の奥を覗くと地獄が見える。地獄にいる鬼達が地獄にいる人間を痛めつけようと人間を追いかけているが。追いかけられていた人間は躓いてしまい、そのまま鬼達に喰われた。 これが本来の妖怪、これが普通だ、異常ではない。今や絶滅したが、昔の日本には二ホンオオカミがいた。その二ホンオオカミが人間を襲い、人間を喰う事なんかよくある事だった。まだ日本に生息する熊だって人間を喰うし。熊などが暮らしていた所を、人間が建物を建てたり開拓して住む所を追われたから人里に降りて来たからでもある。

 

人間は動物、だから人間も自然の一部と言えなくもない。それは然もありなん。何故なら人間の体は水素原子が半分以上、酸素分子が25%炭素分子が10.5%でもあるし、人間は肉の塊でもあれば、脳も言ってしまえばたんぱく質の塊だからな。

 

しかしだ、自我や意思がある時点で動物と、自然の一部と言えるのだろうか。その気になれば地球をある程度は破壊する事が出来る種族だ、人間という種族の腕力などは大した事は無いし、昔から知能は発展してない。だが知識は時間をかけて次代へ次代へと受け継がれて今や、有り体に科学力ではバランスブレイカーの種族が人間なのだ。神程ではないさ、喉を潤す為綺麗な水を飲み、腹を満たす為何かを食べ、脳を休ませる為寝る事が必須の生き物とは違う。食と水を抑えられたら人間は終わりだ。人間は動物の存在である以上作物、家畜、水などそれを摂取しなくては生きられない自然の奴隷だからな。

 

シュメール神話、ギリシャ神話のゼウスが元凶のデウカリオン、インド神話のマツヤ、ノアの箱舟。大洪水の話の神話は他にもありすぎるが神話に出てくる大洪水は怖い怖い。大洪水とは神話において、文明を破壊する為に天誅として神々によって起こされた理由の洪水が殆どである。 後は人間の数を減らす為や滅ぼす為。まあ、あくまでも神話の中での大洪水がそうなだけだが。これも自然によって起きた大洪水、本当に神がいなければ神は関係ないんだろう。実際これらは神のせいで起きたのだが、もしもこの世に神がいなければこの話でも神が原因とされ神は被害者。これは見方によって神の意味が変わる。神は自分勝手に人間を理不尽に滅ぼす存在、人間の味方ではないとの暗喩であり神に逆らうのはやめろとの警告。自然神が多い神道の神もこれに共通している。一体誰だ神が人間の味方の存在だと最初に脳に植え付けられ勘違いしたのは。ミトコンドリア・イヴだろうか。

 

「京の都を荒らした酒呑童子と配下の鬼の四天王、鬼童丸は源頼光と諏訪国出身の金太郎に。宗仁皇子の寵愛を受けている玉藻前についてはシンギョクに任せる。酒呑童子と玉藻前はこの先必要だ、殺すなよ」

 

「最後の仕事だから張り切るよ。ところで弘天はどうするの」

 

「日本三大悪妖怪の最後の人物である 崇徳上皇 はまだ死んでない。中世の三大妖怪 大嶽丸 は諏訪国へ従えさせた。だから 躰仁皇子 を病の身にした元凶を捕まえに行く」

 

「永遠の神だから大丈夫だろうけど気を付けて。あ、言い忘れてたけど最近京で凄く小さな娘がいるらしいよ」

 

小さい娘... ああ、スクナビコナが京にいるのか。シンギョクが住む屋敷から出るが、どこに向かえばいいか分からない。寿命が無い者が多いからだが平安京って無駄に広すぎるんだよ。シンギョク、小野篁の在地は平安京で言うと西大宮大路の西、冷泉小路の南、二条大路の北にある。貴族の住む宅地は大内裏に近い左京だったかな、確か藤原氏のような上流貴族の宅地が左京北部な筈だ。だが朱雀大路に来てしまった。右手に見えるあれは大学寮だな、あそこは陰陽を学ぶ場所か。ああいうのは諏訪国にない、萃香達に頼んで建てて貰うのもありだ。諏訪国の寺子屋で慧音には子供達の教師役に抜擢しよう。何だか、諏訪国の子供達が羨ましい。

 

左手には朱雀門が見え、朱雀門に近づいて右手を朱雀門に当てる。今の天皇は弘文天皇だが、本来の桓武天皇は詔を出して朝廷の軍と死刑制度を廃止にしたんだったか。金が掛かるからでもあるが軍を廃止にすると言う事は警察を無くす事だ。お蔭で各地の治安は無いに等しく、そのせいで農民が武装して武士が出て来た、とかそんなんだったな。言ってしまえば武士が生まれた原因の一つは桓武天皇のせいでもある。あと藤原氏。だから後の鎌倉が出てくる。まあ、色々形骸化してしまう。そう言えば桓武天皇は、穢れや天武天皇系の怨霊を恐れていたんだったな。つまり穢れと呼ばれる死。

 

しかし、今の状況はそれより悪い。軍や死刑制度を廃止にしていないとは言えその軍は人間で編成してあり、西一帯は病原菌が蔓延している、この平安京に住む人間たちも例外ではない。一部の例外はいるが病に侵されている者が殆どだ。その上、今年の秋の作物は不作と来た。水があるとは言え食べる事が出来ないのは餓死を免れない。その不作の作物も狐や鼠に多少喰われ、家畜は二ホンオオカミなどに喰われていたりもする。治安はお世辞にもいいと言えないし、民の理性はどこまで持つかね。このまま行けば民の不満は溜まりに溜まって、爆発する。しかも俺は奴隷商人から100人以上いる子供たちを買い取って 博麗 靈夢 や 森近 霖之助 には西の人間に今回の出来事の原因を吹き込ませている。子供達は病や食べ物、水などに困る事は無い。何せ龍神が人間形態になって子供たちと共にいる。そもそも、こんな面倒な事の発端は神仏習合を朝廷が認めたのが始まりだ。これで民からは朝廷の威光も権威も信用失墜するだろう。こんな面倒な手を使い、東は含まず西一帯だけなのは鎌倉時代へと繋げる為の布石でもある。

承久の乱を起こし、朝廷には一度負けてもらい天皇、並びに朝廷の権力を制限させる。それが終われば鎌倉幕府は俺がすぐに潰すがね。皇民化教育をされてはかなわん。

 

今は中央集権、つまり天皇中心。日本とアメリカが戦争時、太平洋戦争時だった時にあった事だが、当時の子共達は天皇中心の 皇民化教育 を植え付けられていた。天皇の為に働き、死ぬ事は最高の名誉だとな。まあ別におかしく無い、若い内からそうした方が纏めやすいし。昔から人間なんてそんなもんだ。野蛮な存在であり崇高な存在ではない、所詮人間はケダモノ、動物なのだから。

 

鎌倉時代の武士団は有能ではあるがどう見ても鬼畜だし、やる事がえげつない。当時は私有財産の考えは殆ど無く、その時の常識は食料は現地で強奪したりして兵站や補給部隊は無かったからな。先に始めたのはてつはうを投げて来たモンゴルだが、てつはうは火薬や鉄片が入れられた炸裂弾、しかしてつはうやモンゴル弓は射程距離が短くて武士には当たらず、鎌倉武士団が持っていた長弓の射程距離を活かしていたのも勝利した大きな要因であった。正直な話、鎌倉時代の御家人粛清しまくって族滅や、捕まった捕虜を盾にされてもそれを無視して捕虜ごと殺しに来る鎌倉時代と比べると戦国時代なんて可愛いもんだ。 族滅 この言葉が多くみられるのは鎌倉時代だし、武士の頭おかしいと思うが本当に頭がおかしいと思うのは室町時代の武士。鎌倉幕府が滅亡した大きな原因は、日本の鎌倉時代中期に起きた 元寇 だが、これは異国から防衛戦のため恩賞が用意できなかったせいでもある。そして神風のお蔭で勝つ事が出来たが、10ヶ月近くも海の上にいたらそりゃあ神風ならぬ台風も来るさ。眉唾物だが、源義経にはジンギスカン説なんてのもある。

 

重要なのは征夷大将軍の位を得て鎌倉幕府を開くのは 『源頼朝』 ではない。俺が推すのは 『源義仲』 だ。その為に蘇生させたのだから。源頼朝と言えば、源頼朝の娘の一人に 乙姫 という名の娘がいたな。あの浦島太郎の話に出てくる乙姫と同じ名。

 

日本は本当に運がいい。小競り合いは昔からよくあった。室町時代の 諏訪大明神画詞 には 神功皇后 の時代に起きた 三韓征伐 で 諏訪大明神 や他に 住吉三神 が手を貸し、日本書紀には神国の兵と恐れた新羅は戦わずして降服。鎌倉時代中期に起きた 元寇 には神道の神が手を貸して勝利し、アメリカに敗北した時もあったが一度も日本という国と文化が滅ぼされてはいないんだからな。滅ぼされた国は本当に悲惨、その国の文化や神話が跡形も無く消える。本当に全てが消失するのだ。そういう国や神話は実際いくつかある。代表的なのがマヤ神話だが、断片的で辛うじてマヤ神話は残った。完全に消失した神話はもう分からない。

 

…あー やめだやめだ。難しい事を考えるのは暫くやめよう。疲れる。俺は愚直に進み馬鹿な考えで女を侍らすのだ、それだけでいいのだ。産まれた時にそう決めたのだから。記憶が無いのに回帰以前同様、同じ夢を持つとは記憶が無くても俺って何も変わって無いんだな。

 

「お前さん、何してんのさ」

 

「ん? その声は小町か。嗚呼、天にまします我らの救いの女神小町よ! 助けてくれないか。迷ったんだ」

 

後方から急に話しかけられ すわすわ。声は間違いなく小町なのだが、振り返って見ると困った事にロングの外套を着用。もうすぐ冬とはいえ暑くないのだろうか。頭には深めの笠を被っているので顔も見えず声を聴かなければ誰か分からなかった。肌も顔も殆ど隠れていては分かる訳も無いしどう見ても不審者だ。御用だ御用だ! と提灯を持ちながら非違を検察する天皇の使者、検非違使の武士共が叫んで来るぞ。妖怪の対応に忙しくてそれどころではないだろうが。久しぶりに小町と談笑したいがそれは今宵にしよう。

 

「未来の夫には悪いけど案内してる時間が無くてね。目的地を言っておくれよ。そうすれば能力ですぐ着く。どうする行くかい?」

 

「じゃあ能力で。目的地は藤原氏の住む所へ頼む」

 

「あいよー じゃあ あたいの手を握ってー」

 

「ばっちこーい」

 

 

 

 

 

ある神は暇つぶしに人間を造り、ある神は玩具を造ろうと人間を、またある神は自分達と似た存在の人間を造り上げ、生物としてどう進化していくのかを見たかったが故に動物の人間を創造した。そして何をとち狂ったのか余計な事に地球までもが人間を生んだ。殆どの人間は地球が生んだが、一部は神が人間を生み出したのだ。この時の人間には本能だけで生き、意思と自我は持っていなかった。そして人間は 『励起』 する。

 

ヨブ記の神、ヤハウェにゼウスは人格神であり、気紛れに人間を殺して数を減らすので人間にとっては屑神で恣意的で最低最悪の神だが。何故かギリシャ神話のゼウスの神話が人間の視点でどう見ても屑神なのに、ゼウスを好意的に見る者が多い。

確かにゼウスは自然を擬人化、擬神化した神が多い人格神な神道の神と同じく人間味溢れている人格神だが、何故だろう。というか、ゼウスは多神教の神で最高神だが一神教の神は人間の視点から見たら理不尽で鬼畜で畜生な神が多い。

ゼウスも人間の視点で見たら畜生で屑神だが、ギリシャ神話はゼウスに限らず屑が多い、多すぎる。ただし ティーターノマキアー で活躍した ヘカトンケイル とかは別。

 

旧約聖書のカインとアベルの話の神やヨブ記の神はかなり酷いもんだが、よく考えればあれが普通かもしれん。神にとって人間が絶滅しようがどうでもいいだろうし、神の僕である天使も屑が多い。

しかし諏訪国に住む者は男だろうが妖怪だろうが俺の身内であり民だ。種族は問わんし問う気も無い。

 

あの時、ロケットに乗り月に行く事を選んだ俺が天孫降臨に付き添い、俺と永琳、そして神奈子。

俺達三神が諏訪国の民を守るのも昔交わした約束でもあるんでな。

 

躰仁皇子を病の身にしたあいつとて例外ではないのだ。その人物はUFOの姿で見える時もあるらしい。平安時代のUFO。

 

しかし平安時代のUFOか、UFOと言えば江戸時代に似た様なのがあったな。

 

あれの名は確か『虚舟』

 

沖の太平洋に突如現れたとされる、江戸時代における伝説の舟、だったか。

場所は、平将門がいる常陸国。つまり茨城県。

 

 

 

 

「おじさーん!」

 

幽々子が抱き着いて来たが、走って抱き着いて来たから勢いを無くすために体を回転し、勢いを流れに任せて緩くしていく。俺は問題ないが何周も体を回転させたせいで、幽々子が目を回している。このままではマズいと思い足腰を踏ん張らせて、身体の動きを止めて目を回している幽々子の両脇に両腕を差し込み、そのまま両脇に差し込んだ両手を上げて高い高い。あー 何か子供の笑顔って何も考えたくない時に見ると最高。

 

サグメを双六で負かした鬼人正邪に双六勝負で勝たなくてはいかんし色々やる事は多い。

 

「大丈夫か幽々子」

 

「うん!」

 

幽々子を抱っこしたまま屋敷に入り、そのまま庭まで行く。すると庭で蹴鞠をしていた輝夜と咲夜に妹紅がいたが邪魔しては悪いなと思い幽々子と遊ぶことにしようと、何をして遊ぶか聞いてみよう。

 

「幽々子、何して遊びたい」

 

「源氏物語読んで! 見ようとしても妹紅お姉ちゃんが読ましてくれないの...」

 

「えっ… 幽々子さんにはまだあれを読ませる訳には...」

 

「おじさんさっき何して遊びたいかわたしに聞いたでしょ。嘘つくとえんまさまに舌を抜かれちゃうって妹紅お姉ちゃんが言ってた」

 

「閻魔の奴は俺と神綺の支配下なので大丈夫ですだから勘弁してください! 女性が源氏物語好きなのは知ってるがあれを読ませるのは許してください幽々子様! どうか情けをこの私めに!!」

 

抱っこしていた幽々子を下ろして土下座する。流石にあれを子供に読み聞かせるメンタルは俺にはない。あの昼ドラみたいな、いやそれ以上にやばいドロドロで幼女を誘拐して監禁して手籠めにする話なんかを読み聞かせるんだぞ無理だ! その話を俺が実行し遂行する事は出来るが読み聞かせるなんて出来る訳が無い!! 

 

「なーにやってるんですかお兄様。久しぶりの再会だというのに、実の兄が幼女に土下座。この状況を見せられて私はどんな反応をすればいいのでしょう。私は悲しいです」

 

「これはいいですわね。写真でも撮りたい気分です。人様の玄関前で幼気な娘に土下座している成人男性、とても諏訪国の王とは思えませんわ。現像された写真は私の一生の宝物になるでしょう」

 

「ええい見世物ではないぞ咲夜。妹紅、何か言ってやってくれ」

 

「玄関で大声をだされたら気になって見に来ますよ」

 

「ですよね。ごめんなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

諏訪国にある鳥居から石段を一段ずつ上り、弘天の神使である一人が笛に口を付けて吹いているが、それに続くように疎らながらもネズミが付かず離れずの距離でついて行く。神使の女性はネズミたちとは笛の音色で意思疎通をしているのだ。

まるでドイツの民間伝承 ハーメルンの笛吹き男 そのもの。

 

石段 一つ一つの高さはそれほどないので体が小さいネズミでも頑張ればよじ登れる高さ。ネズミに限らず野生の生き物は寄生虫や菌など衛生上よろしくない生き物だらけではあるが、妖怪は病に陥る事は無い。それは神使の女性もそうだ。菌を感染しない訳では無いのだが、菌や寄生虫の方が妖怪、または妖獣に近づくのを極端に嫌う為である。

一部の例外は除き、これは妖怪、または妖獣が自然神でもあるからだ。石段を上り詰め、そのまま参道の端を笛を吹きながらネズミたちと歩き鎮守の森へと向かう。

 

すると二ホンオオカミの群れを見え始めたが、その二ホンオオカミの群れをもう一人の神使が纏めていた。二ホンオオカミから結果報告を受けている様だ。妖獣とは獣から変化した物、身体能力が非常に高く能天気な者も多いが知能は人間と勝るとも劣らない。そして妖獣になった物は基本的にその種族の頭領が多い。ネズミの妖獣ならネズミの、二ホンオオカミの妖獣なら二ホンオオカミをといった具合。てゐは兎ではあるが、妖獣ではない。笛を吹いていた女性は笛を吹くのをやめて、片手を上げながら話しかける。

 

「やあ。こっちは終わった様だよ。そっちはどうだい影狼」

 

「完璧よナズーリン。この場にいる皆が西の家畜をあらかた喰ってやったわ。この子達もお腹一杯食べられて満足してる。西から諏訪国に戻って来る時の運動で殆ど意味ないけど。一方的な狩りだったのは少し残念かな」

 

尻尾を振っている二ホンオオカミ達を撫でながら、影狼は母性に満ちた顔で配下を可愛がる。その数は時十匹程ではあるが、これはほんの一部。実際は100は超えていて、この場にいる二ホンオオカミは中でも精鋭部隊で先に仕事を終えたから諏訪国に帰って来たのだ。ナズーリンの尻尾の先にはバスケットを吊っているが、数匹の子鼠はそのバスケットに入って寝始めた。ナズーリンは起こさない様に気を付けながら影狼の言葉に相槌を打っていたら、周りを見渡して疑問を口にする。

 

「おや。狐達はどうしたんだい。確か狐達は藍の直轄の筈だが」

 

「ほら。藍が神様の子を産んだじゃない? 狐の皆は藍の様子を見に行ってるよ」

 

「ふむ。ならば私達も行こうか。ご主人様と藍の、ヘルシャーの子を見たい」

 

「じゃあ皆かいさーん! あ、諏訪国の民だけは絶対に襲っちゃだめだからねー! 私が殺されるから…」

 

影狼が一令するとネズミも二ホンオオカミも散り散りになり、最後にはナズーリンと影狼だけが残る。自分達も藍の様子を見に行こうと動き出し、鎮守の森を抜けて秋なのに桜の花びらが舞い散る中、神社の庭まで来たのはいいのだが神社の庭が埋め尽くされていた、狐で。

 

「…いくら藍が心配だからって庭が埋め尽くされるほど来なくていい! しかも何でキタキツネがいるんだ... ここは諏訪国であって、蝦夷地や樺太じゃないのに」

 

「そうだそうだー! これじゃあ藍と神様の子が見られないじゃないの!! でも気高くカッコいい狼と違ってやっぱり狐は何度見ても可愛い。羨ましい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、諏訪国へと来ていただけるのかしら」

 

「日の本、ね。正直、私達にとって大海の木片。それに吸血鬼は上下関係が厳しく。それぞれ階級があるし当然、始祖が頂点で私は始祖に逆らう事はまず不可能。招待状も始祖から頂いた、だけど」

 

「魔女狩り以外で何か心配事でもあるの」

 

霧のせいでこの紅魔館は暗すぎる。この紅魔館は霧が濃く、近くには湖があるそうで、そこは霧の湖と呼ばれる湖があるようだ。紅魔館の庭にはこの薄暗い天気には到底そぐわない白いテーブルに真っ白の椅子。そこに天子や天子の肩にいるエリス。そしてレミリア、フランの姉妹を交えて談笑をしている。

この紅魔館、レミリアとフランだけでは無く清掃、洗濯、炊事などの家庭内労働を行う女性の使用人のメイドがいるのだが、そのメイドは全員妖精。紅魔館の近くにある霧の湖に棲んでいる妖精を仕えさせ、妖精達には紅魔館の家事全般を任されている。

レミリアの後ろで控えているメイドは妖精たちを纏める大妖精と呼ばれる妖精。名前は無いが愛称で大妖精とレミリアやフランには呼ばれているそうだ。髪の色は緑、左側頭部をサイドテールで黄色いリボンが付けられ、服は白のシャツに青いワンピースを着用。背中には縁のついた一対の羽が生えている。レミリアやフランに仕えている妖精のメイドに淹れてもらった紅茶が入ったティーカップを手に取り、そのまま喉を潤したレミリアは悩ましげな顔で吐き捨てる。

 

「キリスト教のクソ共が、今起きてる魔女狩りや、他は吸血鬼に十字架が効くなんて戯言を言い出したりして色々面倒なの。今の所、西洋社会はキリスト教の統治下にあるから」

 

あれ。キリスト教の神って、悪魔の敵なのよね。ならその神は悪魔を滅ぼしてたりするのかしら。私が両腕を組んで首を傾げていたら察したレミリアは首を横に振る。

 

「それは誤解。旧約聖書に収められているヨブ記や旧約聖書の登場人物のカインとアベルのお話はご存知かしら」

 

「んー どっちの話も神に対する信仰心を試すため人間が理不尽な目に遭うような話なのは、朧げながら知ってる」

 

「そうね。旧約聖書を見るにヤハウェは悪魔の味方ではないけど敵でも無く、寧ろ人間の視点から見たらヤハウェは人間の敵であり、キリスト教に利用された被害者」

 

今でこそキリスト教には天使と悪魔の考えが有名だが、そもそもキリスト教はユダヤ教から派生した宗教。だから元を正せばヤハウェはユダヤ教の神で、ユダヤ教には旧約聖書に収められたヨブ記のサタンは悪魔ではないが、天使や悪魔の考えは一応あった。しかしその考えは薄い概念であり、悪魔と天使の考えで大きいのはペルシャのゾロアスター教に顕著に見られる存在。これがユダヤ教やキリスト教などに与えた影響を大きく占める。

今の仏教に近い。仏教は初期と比べて多くの派性、分派が生まれてしまい元にあった教理が無茶苦茶になり仏教は初期仏教ではなくなった。日本へ仏教が伝来した時には伝来した仏教は中国の儒教や道教が入り交じった物になっていたのだ。もはや仏教と呼べるものでは無かったが、それを知る由もない日本はそれを仏教として受け入れた。仏教がそうなったのは色んな設定を色んな人間が作り出して上書き保存を、繰り返した結果と言える。輪廻転生の考えも仏教には最初無かった、とは言え、仏になる前の釈迦が何を言ったのかは誰も知らない。釈迦の弟子たちがその通りに伝えても虚言を言う者もいるのだ。

 

「キリスト教の天使や悪魔の概念、元はユダヤ教にもその概念は少しあったけど大部分を占めるのはゾロアスター教の影響。天国や地獄もね。上書き上書き、キリスト教は仏教同様それを繰り返し。だから厄介なのよ」

 

「つまり今の地位や宗教を守ろうと必死とも言えるという事ね。それって、西洋社会をキリスト教が統治してるから?」

 

「地学、化学、科学、医学、哲学。これらの学問や西洋社会の全てがキリスト教の統治下。他にも色々あるけど笑っちゃうでしょ? でもそれだけ宗教というのは今の人間にとって大きい」

 

「そして神の敵、魔女狩りなども誰かのせいにされ悪者と見られた者は殺されると」

 

レミリアは天子、地子の問いに頷く。旧約聖書に出てくる神、ヤハウェは旧約聖書の登場人物のカインとアベルや、旧約聖書に収められている書物である ヨブ記 の話などのヤハウェは人間の味方としては書かれていない。むしろ見方によっては人間の敵の神だ。まあ、ヨブ記の話が起きたのはサタンが元凶なのだが。安易に神が人間の味方の存在であると教えている訳では無いのだ。今までの話を聞いていたフランは、お菓子を食べながら無邪気な笑顔で言う。

 

「よく分かんないけど皆殺しにしたらいいんじゃないのお姉様? 邪魔な人間全て消したら万事解決だと思うんだけど。私の能力もあるからそれを全ての人間に使っちゃ駄目なの?」

 

「フラン。貴方の能力は破壊に適してる。私も本当はそうしたい。でもね、ある程度の人間を殺す事は許容するでしょうけど度が過ぎるとヤハウェが出てくる、ヤハウェは人間の味方ではないけど敵でもない面倒な立ち位置」

 

「GOD 一神教の神って融通が利かなくて本当に面倒だねー」

 

「ヤハウェはね、人間の人口調節をしているの。だから極端な考えはやめた方が身の為かもしれない」

 

厳密に言えば西洋で言う GOD と日本でいう神 神道の神 は全く意味が違い、同じ内容ではないのだが。フランは難しい話を考えるのは面倒だと思いテーブルの上に置いてあるお菓子を食べる事に専念して、たまに紅茶を飲んでの繰り返し。レミリアは両肘をテーブルに置き、両手を組んで真面目な顔をする。

 

「これが最大の問題。私とフランは魔力を所持しているから魔女と言える、だけど吸血鬼でもある。太陽を浴びると灰になるから霧の外には行けないわね。そして吸血鬼や魔女を匿う事はキリスト教などの宗教からは敵対する」

 

真剣な表情で言うからどんな無理難題を言われるかと思いきや、何の問題は無いわね。諏訪国は地上だけじゃなく、諏訪国の地底には都や地獄があるんだから。太陽の影響は皆無。緩やかな風が吹いて来たけど、少しずつ風の勢いが増していき、最後には突風が吹いて来た。魔女達を諏訪国に行かせていたけど遅い帰りね。どこで道草食ってたのかしら。真っ白の椅子から立ち上がり、両手を腰に添えて笑いながら私は連れて行く事にした。

 

「なーんだ。それなら安心。丁度帰って来たみたいだし白龍を使って諏訪国の地底地獄にメイド達や紅魔館ごと転移させる。あそこは血の池地獄があるから吸血鬼の二人はきっと気にいると思うわよ」

 

私の言葉を聞いてレミリアは茫然自失、フランは両手を上げて やったねお姉様、日本の食べ物でお姉様の好物 納豆を食べ放題だよ! やったー! と大喜び。

いいのいいの。面倒事はあの人にぜーんぶ! 放り投げてやるんだから!

でもね、大丈夫よレミリア。貴方が心配している事は杞憂に終わる。キリスト教が本朝、日本に敵対するのはまずあり得ない。何せ日本は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はーっはっはっはっ! やっぱり人間の驚いた顔は最高だ! 諏訪国の民は最近反応が鈍いが、この平安京に住む人間は実にいい反応をする。清涼殿にいた皇子を病の身にもしてやったし気分が晴れやか。最高だ、やはり妖怪はこうでなくてはならない!!

平安京を飛び回り朱雀門近くの朱雀退路に降り立つ。

 

なんとなく空を見上げると今日は望月、満月の日か。諏訪国の望月氏は元気だろうか。

 

「やはりお前か」

 

「お前では無い、私は平安京に住む人間を脅かし全ての妖怪を総べる偉大な妖怪ぬえだ!」

 

「なんと! ならば諏訪国に住む紫や幽香、百鬼夜行までもを倒して従える気なのか。意外な所から下剋上だな」

 

「そう。私は紫や幽香を! ...あれ?」

 

あまりにも自然に話しかけられて何も疑わず私も自然に返してしまっていた。後方から話しかけられたけど私の背の方向は羅城門側、だから反対方向の朱雀門の前に飛んで距離を取る。薄暗いので顔がはっきりと見えなかったが、私に近づいて来て月夜に照らされて顔が露に。やっぱり思った通りだった。月夜に照らされながら肩をすくめる。

 

「躰仁皇子を病の身にするとは酷いじゃないか ぬえちゃん。朝廷から奴延鳥の討伐命令が出ていてな、躰仁皇子を病の身にしたせいだぞ。あんな皇子でも死ぬと俺が困るんだなこれが」

 

「ちゃん付けはやめろ鳥肌が立つ!」

 

「悪い悪い。ならば永遠の存在である俺の屍を超えて行けるものなら越えて行け! そして妖怪の王になればいい! 俺の頸にある 御頸珠 は高天原の統治者になり、神道の神を従える事も可能だぞ!」

 

舞台俳優顔負けの名演技だがにやけた顔で私に接して喋る。ニヤニヤして凄くムカついて不気味だ。しかし、今こそ妖怪の名誉挽回である好機! あの時は負けたが今回は負けない。

 

「ここで会ったが百年目! 今度は負けないぞ!」

 

「負けるも何も、あの時はぬえが勝手に自滅したから俺何もしていないんだが」

 

「うるさーい!」

 

それ以上言わせまいと地を蹴りそのまま突進したが、また石に躓き、転んでうつ伏せ状態で地面を滑って男の足元まで来て止まった。

恥ずかしい! この鵺と恐れられたこの私がなんて醜態! これじゃああの時と一緒じゃない! 何も成長していないよ!

顔から地面に行ったので擦り傷が出来てるのか顔がヒリヒリしてかなり痛い。血も出ているかもしれない。

恥ずかしくてそのままでいたら、私の頭上から頭を痛そうに抱えてそうで青息吐息が聞こえた気がした。

 

「初めて会った時から時間が進んだが、まるであの時だな」

 

多分、片足を地面に付けた。動く音がしたから。地面でうつ伏せ状態の私の頭を撫でる。

 

「ぬえよ。紫と幽香が 日本三大悪妖怪 以外の西の妖怪は平らげた。琉球王国の ザン とかもな。次は東の妖怪のリグルという名の妖蟲の王を平らげるが」

 

「だから、何なのさ」

 

うつ伏せのまま聞いてみたけど、未だにうつ伏せな私の頭を撫でるのをやめて、優しく私の体を起こさせ服に付いた土埃を払い、布で私の顔を拭い終えると昔の様に笑って言う。

 

「幽香は ガンガンいこうぜ! の考えでストッパーがいないと駄目だ。だが いのちだいじに な紫だけでは幽香を抑えきれん。面倒かもしれないが紫と幽香の手助けをしてくれないか」

 

「俺の代理で幽香のお目付け役。つまりぬえの言葉は俺の言葉となり俺と同じ発言権が発生する。だから めいれいさせろ のぬえで少しは幽香を抑えられる筈だ。それに昔は紫と幽香、たまに諏訪子も交えていつも一緒だったろ」

 

 

 

 

 

ちゃんと功を成した者には 信賞必罰 するが。西の妖怪は大した問題ではない。

諏訪国は 盤石 であり、諏訪国の中枢を担う鬼、天狗、河童。他にも紫や幽香など希少な妖怪がいるので他国や妖怪に対するデモンストレーション。 示威 は十分。問題は西の妖怪を平らげた後の東だ。

東には妖蟲の頂点に立つ リグル がいるからな。しかしリグルが強いのかと聞かれたら… 何とも言えない。

 

高周波ブレードと光学迷彩を持たせた俺の直属部隊、甲賀忍者部隊と木曽川沿いに勢力を持つ川並衆や村上氏、信濃村上氏の村上水軍である海賊衆にも色々働いて貰おう。

なあ、ぬえ。




余談ですが。神道の諏訪大明神は仏教について悩んで悩んで、仏教に帰依する話があります。だからこそ私は、弘法大師と菅原道真の別称 天神 から名を取り、神仏習合の結果生まれた弘天さんの 弘天 と名付けました。言わば弘天は、神仏習合の結果生まれた名と言う事ですね。
本当は面倒な仏教を来させない様にしようと当初は考えたのですが、弘天が弘天だったので一応伝来させました。

山本五郎左衛門と神野悪五郎の話を書こうかどうか考えましたが、西の妖怪はオリキャラばかりですので配下にした話は省きます。なので西の妖怪や山本五郎左衛門と神野悪五郎は既に紫と幽香の配下になってます。


御頸珠

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